ドイツにおける若年失業防止施策と課題
岩 井 清 治
目 次 1.はじめに 2.若年失業発生防止施策の段階的導入とその内容 3.若年失業防止救済施策の実施基盤と成果 4.結び1. はじめに
ドイツにおける若年失業対策の動向については、2006 年度に諸施策の導入(1)とその一定の効 果が報告されているが、なおそれらの課題解決には、世界各国の状況とほぼ同様に中・長期にわ たる一層周到な対応施策が求められることが明らかである。伝統的な職業訓練教育制度のもとで 実務教育の比重の高さを十分に機能させながら若年者の多様な進路選択の可能性を実現させてき たドイツが、若年失業者の救済と発生を防止するためにこの伝統的職業訓練制度を徹底的に利用 していることは容易に理解できるが、特にどのような姿勢で失業防止に取り組んでいるか、伝統 的職業訓練制度のどの課程でどのような救済策、改善策に取り組んでいるのかを追っていきたい。 わが国の若年失業問題、特に近年の雇用形態の多様化に伴う重要課題、非正規社員の増加やいわ ゆるフリーターやニート層の増加趨勢等々の課題を前にして、模索が続くドイツの現状から何らか の示唆が得られるのではないか、が本稿の目的である。2. 若年失業発生防止施策の段階的導入とその内容
2 - 1 普通教育学校修了から二元制職業訓練制度への移行段階における施策 ドイツにおける若年失業者とその予備軍を発生させる最大の関門、職業人への移行の道にふさ がるバリアーの最大のものが、普通教育学校修了から二元制職業訓練制度(デュアルシステム) への進路選択の実現を妨げるものの存在である。普通教育学校の修了とは、ギムナジウム(9 年 制高等学校)、レアールシューレ(実科学校)、ハウプトシューレ(基幹学校)の 3 種の学校にお けるそれぞれの修了資格取得を意味する。通常、ギムナジウムでもこのところ増加しているこの 職業訓練教育志望者のほかにレアールシューレやハウプトシューレの第 10 学年度の教育課程修了 をもって多くの生徒がこの二元制職業訓練制度に移行するわけである。その比率は同世代人口の およそ 6 - 7 割にもあたる。この二元制職業訓練制度の修了者はしたがって取得する専門職種資 格をもって専門労働者か専門職員として国家的に認定され、職場の第一線で業務に従事する職業人として専門キャリア人生を開始することになる。つまり職業人としての重要な社会的評価を受け ると同時に職業現場での専門職業人としてのキャリアをこの段階から認定されるものである。ドイ ツの職業資格としてよく知られたマイスターあるいはその地位に類似する職種はこの二元制職種資 格取得後数年にわたる実務経験を積み重ねた者だけが到達できるキャリア形成上中間的上層段階 にある職種である。したがってこの二元制職業訓練教育の開始は、職業コースの最初の段階とし てのスタートを意味するため、普通教育修了段階からの移行がスムースに進むかどうかはそのまま 失業予備軍を発生させるかどうか、に直接結びつく重要課題なのである。このため、普通教育学 校修了からこの職業訓練制度への進路選択のためのキャリアガイダンス・キャリア準備教育カリ キュラムが学校修了を控えた生徒を対象に修了数年前から準備されている。まず、レアールシュー レやハウプトシューレの高学年段階で、1 週間前後にわたる企業実習授業を必修化して、職業一般、 職業訓練、さらに職業そのものに対する意識の高揚を図る施策が導入されている。これらの企業 実習は学校側が企業との連携を得て実施するものであるが、これらの学校生徒のほかにも、一般 的にマネジメント職種人材を養成する大学教育・高等教育段階への進学組みが集まるギムナジウ ム高学年(11 - 13 年)生徒に対しても、大学進学前に二元制職業訓練課程に進む希望者に対す る選択資料の提供の意味で、企業実習が導入され実施される事例もある(2)。さらに企業実習授業 の導入と並行して、キャリアに関する一般知識、一般スキルの学習等も後述する各市町村に設置 されている「労働局」において実施され、進路選択への準備教育が入念に行なわれる仕組みとなっ ている。 普通教育学校の修了から次の二元制職業訓練教育への移行に際しての課題は、修了できる生徒 の移行問題つまり修了 1 年前から開始されるというキャリアガイダンス課程において行なわれる課 題は、まず選択すべき職種についての知識の習得と内容の研修である。このための学校単位ある いはクラス別に職業を学ぶ、職種を学ぶ、等々の課外活動が上にのべた労働局(Arbeitamt)で 頻繁に行われており、選択上のミスマッチを防止する仕組みとなっている(3)。さらには、二元制 職業訓練契約の締結を企業との間で行うこと、そのための電話等でのアポイントメントの取り方、 面接のあり方等々、現在のわが国でおこなわれているいわゆる就活に関わるような授業指導がす でに高等学校卒業程度の生徒にたいして行われ、しかもそれはあくまでも学校の指導ではなく生 徒個人対企業との契約で行われる仕組みなのである。さらにこうした修了可能の生徒とは別の問 題として、中途退学者、あるいは修了試験不合格者への救済の施策、防止上の施策があるのである。 これらはそのまま未修了者として放置されればそのまま失業に結びつく失業予備軍となるとの意識 が高いためである。 こうした普通学校における企業実習授業の実施を含めて、ドイツにおける企業での職業実習訓 練課程の導入には、当然ながらそうした訓練生・実習生を受け入れる企業側の対応がなければな らないことは明らかである。つまり、企業実習訓練ポスト・訓練口の提供企業数の拡大・増加のた めに、企業への募集や企業開拓作業が、修了者だけでなく未修了者の救済、捕捉措置等々にとって、 つまり若年失業防止施策として重要な前提条件となるのである。後述する諸施策の多くがこの訓
練生・実習生受け入れ企業の募集・新規開拓に向けられていることはその重要性、効果の大きさ をそのまま示すものである。 2 - 2 普通教育学校修了資格未取得者への対応 ドイツにおける若年失業対策は、すでに失業者となっている若年人材の就業斡旋業務を意味す るのは当然であるが、それ以上に将来必然的に失業者化することが予測できる者つまり失業予備 軍となる人材、若者の救済、防止、予防策の方に力が注がれていることにその特徴を見ることが できる。それでは上に述べた普通教育学校修了から二元制職業訓練課程への移行以前に関わる段 階で失業予備軍となる可能性を有する若者、学生生徒とは、どのような課程での段階において見 い出されるものであろうか。ここではまず、正式な学校教育課程を修了できない生徒、つまり学校 教育課程における中途退学者の防止・救済施策をあげたいと思う。 ドイツの学校教育課程における段階的な修了課程を年代の早い段階から見れば、まず基礎学校 修了であるが、この段階での課題は未修了者の救済よりも次に続く普通教育段階への進路選択上 の課題として対応されている。わが国の場合で言えば、小学 4 学年度修了で終える課程であるが、 第 5 学年を開始する際の選択進路 3 コースのうちのどの学校制度に進学させるか、の問題である。 1960 年代に多くの議論が交わされた中等教育開始段階における進路選択制度をどのように改革す るか、そのまま従来の伝統を守るかの多くの議論のあと、結局現在実施されている形態は、基本 的に州政府支配政権党毎の意向による制度化の維持という形態に至っているものである。そこで は、社民党政権州が導入したオリエンテーション期間の導入、つまり第 5・6 年次学年を仮の進路 選択決定として父母の意見を認めるものの第 7 次学年には学校側の意見を含む最終進路決定を行 う、というものとなっている。その一方で、従来どおりの第 5 年次より最終決定として従来のまま の教育課程を進める保守党政権州も存在しており、いずれも基本的には従来の 3 進路選択制が維 持されているものである。また、綜合学校(Gesamtschule)のように同じ建物内に従来の 3 選択 制度を導入しないままで同一の課程を学ばせて後、結局最終試験の成績をもとにそれぞれの修了 生の最終修了学校資格、つまり実科学校修了かあるいは基幹学校修了か等々を取得決定させるも のも存在した。しかしいずれも個人個人が最終的に 3 種類の普通教育学校のうちのどの学校の修 了資格取得者であるかを証明して、次の段階に移行する仕組みは従来の制度がそのまま維持され つづけているといえるのである。 この普通教育学校 3 選択制のうちで、従来から中退者や修了資格未取得者等に対する救済に 関して多くの課題を提供するものがハウプトシュ―レの修了資格を得られない生徒に対する救済 対策である。もともとこの学校に関しては、ギムナジウムやレアールシューレと比較した場合の 社会的評価の低さが一般的なものとなっており、職業訓練契約つまり職業訓練ポストの取得や 上級学校への進学等々にかなりのマイナス評価を背負って進むことが指摘されているのである が(4)、その修了資格の取得さえもできない者の救済という課題はそれに倍する手厚い対応が求め られるものである。特に異文化圏において初等教育を受けながらさまざまな理由でドイツへの移
住が行われた外国人生徒の場合等、ドイツ語理解力が不足しがちな生徒等々を受け入れる教育環 境によって様々な事情を抱えている事例がこれらの社会的評価の低さにつながっている。これら の生徒をいかに救済するか、いかに企業等の職場現場に移行させるか、等の課題が生じるのであ るが、これらの生徒にとっては、上記職業訓練口を企業において見出すことがかなり厳しいもの となるために、救済施策としての機能を期待されて運用されているものが、「職業基礎学年制度 (Berufgrundbildungsjahr)」と「職業準備学年(Berufsvorbereitungsjahr)」の 2 つの施策である (5)。これらの制度は従来から導入されてきたものであるが、特に一般企業において職業訓練口つま り二元制職業訓練課程に進路選択できない者を救済する機能を期待されているものである。この 職業訓練口を見出せない者つまり企業との二元制職業訓練契約を締結できない者は、訓練職種に 適応する職業学校での職業教育を受けることができないため、そうした職業訓練口を職業学校に おいて作り出し、したがって職業学校として受け入れると同時に職業学校での 1 年間の実習授業 の履修をもってそれぞれ規定されている職種訓練期間の一部として補充し換算する制度が前者の 職業基礎学年制度である。この制度によって 1 年間の職業基礎学年を修了した生徒は、その期間 中に企業訓練契約を締結できる新たな企業訓練口を探し出さなければならいないが、それを実現 した場合は、職業訓練の継続期間は通常の 3 年間ではなく、基礎学年の 1 年間分を認定され残り 2 年間の訓練期間の修了をもって最終資格試験に臨むことができるという仕組みなのである。また、 上に述べた基幹学校等を中退した者、つまり最終修了試験に合格しなかった修了資格未取得者等々 の救済のためにそれらの未修了者を集めて継続的に教育を実施する制度が、後者に掲げた職業準 備学年である。ただし、脚注(5)で述べたようにこの職業準備学年制度に通学する生徒すべてが 基幹学校未修了者ではなく、その他の事情で通学しているものもいる。未修了者の率は一般的に は過半数を超えているのであるが、70%に近い比率を有するものもあるという。 この制度は上の職業基礎学年制度とは異なり基幹学校未修了者、つまり中退者等を中心にこの 制度の 1 年間の期間中に修了資格取得の機会を与えて復活させようとする制度で、同時にこの期 間中に企業での職業訓練口を見出させようとするものでもある。ただし前者職業基礎学年制度の 1 年間がほぼ 3 年間の職種資格取得期間に必要な訓練期間として数えられるものであるに対して後 者の職業準備学年制度はこの期間中に職業訓練口を探したとしても継続して行う正規の訓練期間 には充当させない、つまり正規の訓練期間を短縮することはできないものとして構築されている。 ここに学校修了者とそうでない者との受け入れ上の区別がなされているのである。しかしいずれ も企業での職業訓練契約を締結できなかった者をいかにして職業訓練口にまで到達させられるか、 という意味ではより一層大きな機能が求められる施策なのである。そのことによって、一度は中退 者、未修了者として失業予備軍に加えられてしまう不安定な存在から従来からの職業人養成制度 への道に復帰させる、その後の職業経験の蓄積、キャリア開発を継続させ得る段階、労働環境に 戻そうとすることが明らかな施策なのである。 職業基礎学年制度が有する職業学校での訓練実習 1 年間をその後に継続する企業訓練期間の 1 年分に充当させる、つまり職業学校での 1 学年分の実習を企業の職業訓練期間にプラスさせる方
式は、企業として 3 年間の職業訓練費用の 1 部を職業学校が担うことを意味し、その分企業での 訓練コストを軽減させる効果を持つものでもあるが、職業訓練口を募集し、開拓する施策の効果 的な影響の結果として、最近の数字では後段に見るようにこの制度に在籍する生徒数の減少が報 告されている。その分職業訓練口・訓練契約への継続的移行が改善されたことを示すものとなっ ている。つまり職業訓練実習生を受け入れる企業数の増加が見られたということであり、その分失 業予備軍発生の恐れも軽減されているのである。 さらに基幹学校に関わる中退者や未修了者の救済施策に加えて、社会的評価の面でマイナス的 色彩を強くするおおもとである「基幹学校修了資格(Hauptschuleabschluss)」に代えてそれより もはるかに社会的な評価の高い「実科学校修了資格(Realschuleabschluss」に変更させる施策を 採用している事例も存在する。この「基幹学校修了資格」を「実科学校修了資格」に変更させる ための施策には基幹学校での学習成績等の条件つまり特定の科目群の成績が一定期間しかも一定 段階以上であり、しかも就学年数を十分満たしていること等の条件が課せられているものである が、この修了資格変更施策によって学校生徒が企業での職業訓練口を探し易くすること、さらに 種々の上級職業学校への進学や高等教育段階、つまり専門大学への進学の可能性が高められるこ と、等々が目的とされて導入されているものである(6)。 こうした救済・防止施策の導入は高等教育段階での中退者や修了資格未取得者に対しても行わ れている。たとえば大学生の大学修了資格未取得の問題もそのままその状態を放置すれば即失業 予備軍の発生となる恐れからそのための防止施策が求められているのである。一般的にいわれて いるドイツの大学卒業条件の厳しさを反映してか、最近でも一般的にはおよそ 30%の学生が大学 就学後最終的に修了すべき資格取得に至っていないということであるが、そうした事実に配慮し て採用されている施策が、大学修了資格レベルよりも一段低いレベルでの職種資格を取得させよ うとする方策である。つまり、大学修了資格と職業現場資格である二元制職種資格との中間層に 位置する職種群のうち、専門学校修了段階での履修生が取得する資格をこの大学修了資格未取得 者に取得させて、その資格によって企業就職の可能性を確保させようとするものである(7)。この ことは大学中退という条件によって被る就職活動上の不利益を多少低いレベルの職種資格でも取 得させたほうが就職の機会が与えられやすい、という判断が働いたはずである。大学の定められ た履修期間を終えても結果として修了資格試験に合格しないまま修了資格未取得となった者は企 業その他の職場での就職の機会が与えられにくくなり、そのことは即失業予備軍になる可能性が 高いという判断からの施策であると考えられる。わが国の場合と比較しても幾分かの考え方の違い を認めることができる資格社会ドイツの特徴をよく示すものである。 2 - 3 二元制職業訓練課程中の中退者・最終資格未取得者の救済措置 普通教育学校を修了し順調に二元制職業訓練口を企業との折衝により獲得して「職業訓練契約 Lehrvertrag」を締結して職業訓練課程を開始した者でも、職種によって異なるものの通常は 3 年 間継続する訓練期間での訓練課程を修了できないまま中途で放棄する者やあるいは期間は満了す
るものの最終資格取得試験に合格しない者、つまり二元制職種資格未取得者に対しての対応も、 将来の失業予備軍の発生を防止する重要な施策として位置付けられている。 まず企業(Betrieb)での職業訓練と職業学校(Berufsschule)での職業教育を並行するこの二 元制・デユアル制度での中退者つまり企業訓練・職業学校のいずれにも出席しない、あるいは企 業での職業訓練を休みがちとなるような訓練生に対してのケアは、職業学校側が多く対応してい る。職業学校における担当教員がまず職業学校への出席だけでも促して復学あるいは継続のきっ かけをアドバイスする方法が実施され、出席した場合には少しずつでも継続できる環境を用意し ての対応が行われる。ただ、それ以上に対応が求められる事例つまりもはやこの制度での職業訓 練生としての継続が不可能と判断された場合には、そうした生徒に焦点をあてて集中的に教育す るために設置された特別の職業学校が用意され、そこでの職業教育に引き継がれていく対応がな されている。北ドイツ・ブレーメン市での事例であるが(8)、継続することが困難な生徒への施策 を特別に設置された職業学校において実施されていることを見学することができた。中退者に対 する職業学校への出席呼びかけなどは職業学校担当教員の業務として電話その他の方法で、訓練 生家庭への直接の呼びかけなどによって行われている。企業訓練課程での挫折者に対しては、ま ず職業学校での実習授業に出席させること等を通して訓練課程からの離脱を防ぎ、さらに企業訓 練への復活を意図した救済業務が行われているのである。これらの中退者および最終修了資格未 取得者数についての報告によればかなりそうした生徒が増加していることが伺われるが、そこでの 対応は、あくまで二元制職業訓練施設を中心に行われており、これらの職業教育施設が救済や復 活の場として重要な機能を果たしているといえるのである。しかも受け入れ対象の生徒毎に異な る救済あるいは防止施策業務のそれぞれの内容に応じて、職業学校側では同一の救済業務として 対応するというよりは棲み分けあるいはその特性にあわせた業務の分担がなされているということ ができる。いずれにしても、いわゆるニート(NEET)層に類する若年者の対応にも及ぶきめの細 かな施策が職業学校と訓練企業との連携のもとに実施されているのである。 2 - 4 二元制職種資格取得者の職場への移行施策 二元制職種資格取得後から資格にマッチした職場への移行問題は、本来の失業者救済の中心的 施策となるはずであるが、このマッチングは、ドイツのほぼあらゆる市町村に設置されている「労 働局 Arbeitamt」が担当する重要な役割である。ここでは、基本的に職場を求める職種資格保持 者と企業から求められる職種資格所有者のマッチングが行われるのであるが、それ以外にも何ら かの職種資格保持者に対しての職種内容の質的向上を図る継続教育的研修や別の職種資格を取得 させるための研修案内、研修アドバイス等々のほかに個別の企業における継続教育の案内、諸資 格取得を実現するためのアドバイス、等々の PR 業務がなされている。その外にも普通教育学校 生徒であるレアールシューレやハウプトシューレの低学年生徒を対象としたキャリアガイダンス、 職種研究等から高学年生徒までを対象とした職業研究、教育制度と職種資格取得の結び付き等々、 学校への進路選択や上にみた二元制職種選択、職業選択等々の指導を学校の外の機関として行っ
ている職業教育機関ならびに雇用促進機関として社会的な認知がなされているのである。つまり 通常の社会人に対する対応と同時に普通教育学校生徒へのキャリア教育一般の窓口としても重要 な機能を果たしているのである(9)。 本来、二元制職業訓練制度は企業での実地訓練を主要なものとするため、最終職種取得後の職 場への移行施策はそれほどの困難なく行われるはずと思われるが、ドイツの場合は、実習生・訓 練生を受け入れた企業であっても訓練期間の修了、資格取得の実現後にその訓練を受けた企業に そのまま就職すること、つまり訓練生から専門労働者、専門職員に移行する率はそれほど高いもの ではない。この移行がどの程度行われているかについても、若年失業防止にとっては重要な課題 なのである。この点、わが国の場合でもインターンシップ受け入れ企業と就職の実現がどの程度 行われているかの課題と関連して興味あるところであるが、ドイツの場合では一般的に職業訓練 は訓練そのものだけ、就職とは別、との考えが強いように思われる。確かに人材を新たに要する経 営活動を活発化させている企業の場合、求める人材を数年の訓練期間を経ている訓練生に求める ことは大いにありうることである。実際、その可能性が高いことは個々の企業による報告等々で示 されているところであるが、しかし一般的には特に引き受け数が多いといわれる大規模企業にお いても最終資格取得後の就職口は別に探す、探させるという方法が通例のように報告されている (10)。この点も、わが国企業とは異なるものとなるのであるが、しかし若年失業防止の意味からい えば、訓練生をそのまま雇用させる方法がより効果的であることは間違いないところである。しか し、この移行過程上の施策が好転しているという報告はなされていないように思われる。その理由 は、実習生・訓練生の雇用促進を施策としていわば訓練企業をターゲットに促進させてしまうこと が、むしろ企業訓練ポスト数の提供を躊躇させてしまうという恐れがあるからである。
3.若年失業防止救済施策の実施基盤と成果
3 - 1 職業訓練ポスト提供企業の存在と企業開拓の成果 上述した若年失業対策は失業している者に就職先を斡旋すること以上に、失業予備軍の発生を 事前に防止することに重点を置いた施策としてとられ、そこでの重点策が企業等において恒常的 に行われている制度としての職業訓練課程への道筋をつけ、あるいは復帰、再挑戦させる、とい うことであったと理解することができる。その考え方には、職業訓練を受けた者には失業者が少な い、という思想が根底に存在しているように思われるが、とくに二元制職業訓練制度は職業訓練 の基盤的土台を形成し、そこでの職業学校と企業内職業訓練の場を 2 大訓練機関として、この失 業防止・救済施策の実施・運営の要となっているのである。現在わが国でも社会的に大きな課題 となっているいわゆるニート(NEET)支援施策の実施についてもドイツでは上にみた学校中退者 救済策や学校修了資格や職種資格等の諸資格未取得者を対象とした救済策等と同様に、いずれも 実習・研修等々の職業訓練課程と結びつかせながら、職業実習を全面に出して、実習生受け入れ 企業と職業学校がその中心的機能を果たしていることを確認することができるのである。 それでは、こうした防止・救済施策に重要な役割をはたす実習生受け入れ企業、つまり職業訓練ポスト・訓練口提供企業の受け入れ状況はどのように推移しているのであろうか。若年失業に 関わるこれらの課題を解決するためにどのような施策でこの実習生受け入れ企業を開拓している か、その開拓状況はどのような成果を持って推移しているのか、特に失業防止施策を底辺で支え る重要な仕組みの現状を見てみたいと思う。 まず職業訓練実習生の受け入れ企業数の推移である。統計に明らかのように(11)、1999 年の段 階では、二元制訓練実習生受け入れ企業数が、総数で 50 万 1,326 社、受け入れられている見習生 の総数は 175 万 9,931 人にのぼっている。この数字は職業訓練期間のすべての年次にそれぞれ在 籍受講している訓練生の総数であり、新年度職業訓練開始者数はほぼその 3 分の 1 であるがそれ でもおよそ 60 万人近い訓練生・見習生が個々の企業等を中心に毎年受け入れられ職業訓練を受け ていることになる。また、受け入れ企業数およそ 50 万社のうち大規模企業(ここでの規定は従業 員 500 人以上の企業)の割合は大企業に共有されているといわれる社会的責任意識の高さも反映 してか、およそその 90%以上の大企業が受け入れ企業となっており(12)、大規模企業で訓練を受け る見習生の数は 1999 年の段階で 32 万 1,150 人である。これらの数字を 2006 年の状況と比較する と、受け入れ企業数は総数で 48 万 5,054 社に、つまり 1 万 5,000 社以上の減少を示していること、 さらに受け入れ見習生数も上に見たとおり減少、さらに大規模企業での見習生数も 31 万 2,869 人 で 8,000 人ほど減少していることが明らかである。1999 年段階で見習生の受け入れを最も多く行っ ている企業を規模別にみるとその最大のものは従業員 50-499 人までの中規模企業で、1999 年の受 講数は 57 万 5,317 人であったがこれが 2006 年には 59 万 9,583 人となり、この企業規模での見習 生の受講数が 2 万 5,000 人ほど増加していることが示されている(13)。 それではこの二元制職業訓練教育制度への志願者数の趨勢はどうであろうか。上述したように 若年失業防止施策にとって実習生受け入れ企業そのものの重要性はゆるぎないが、その比重は志 願者数の状態との兼ね合いでより明らかとなる。2007 年ドイツ連邦全体での普通教育学校卒業生 (離校者数・修了資格未取得者を含む)は 94 万 6,186 人、そのうちアビトウア等高等教育段階へ の入学資格取得者数はおよそ 29%の 27 万 0,428 人であり、それ以外の職業コース選択希望者は 67 万 5,758 人となっている(14)。さらに報告されている新規訓練契約締結件数は同じ 2007 年に 62 万 5,914 件となっており(15)、その結果総志願者数からみればおよそ 5 万人が訓練ポストを得られ ないでいることになる。上述したように二元制職業訓練生総数のおよそ 3 分の一が新規契約の締 結に成功していることになる。 このように見ると、普通教育学校卒業生(修了資格未取得者を含む)については 2004 年以後の 減少趨勢があり、職業訓練口を提供する見習生受け入れ企業数も長期減少趨勢となっている。さ らに見習生自体も同じく減少傾向にあるが、職業訓練契約の新規締結数は減少趨勢のあとの増加 傾向(2000 年 62 万 1,693 件、2005 年 55 万 180 件、2006 年 57 万 6,153 件、2007 年上述の 62 万 5,914 件)を認めることができる(16)。 それではこうした趨勢と統計数字を見ながら、どのような若年者失業防止施策の成果に注目す ることができるであろうか。まず上に述べた失業予備軍発生の防止施策である二元制職業訓練口
を見出せない生徒への救済策の「職業基礎学年制度」と、同時に基幹学校未修了者救済と職業訓 練実習とを同時に行う「職業準備学年制度」での動向では、2005 年から 2006 年までの数字でみ ると前者の職業基礎学年履修生徒数は 5 万 137 人から 4 万 7,937 人に 2,200 人減少している。同時 に職業準備学年履修生徒数も、7 万 7,667 人が 6 万 8,066 人に、およそ 9,600 人減少している(17)。 この減少趨勢の意味することは、履修者が直接二元制職業訓練口を見出したためこの制度での履 修の必要性が薄れたためであると解釈できる。また後者の場合には基幹学校未修了者数の減少と しかもこの制度に進路を選択した生徒が減少したことを意味するわけで、それはそのまま職業訓 練契約を締結した生徒数の増加を意味するものと受け止められるものである。そのことは他の施 策上の成果を示す数字でも確認され、以下のように見ることができる。つまりこの期間の新規職業 訓練開始数が 55 万 181 人から 57 万 6,153 人とおよそ 2 万 6,000 人という絶対数の増加を記録して おりこの間の事情を物語るものとなっているからである(18)。しかも、これらは個々の企業におけ る職業訓練ポスト・訓練口を実質的に増加させる効果を持つものとして実施された企業外訓練施 設での職業訓練ポスト数の増加も含むものとなっている。したがってこれらの数字によって、この 期間にはかなり効果的に若年失業予備軍の発生を防止する成果があげられていたことを理解する ことができるのである。 ところでこの 2005 年から 06 年にかけての期間は若年失業者問題に関して重要な防止或いは救 済のための施策が導入された時期である。「ジョブスターター」よばれる施策はその典型であるが、 この施策は 2005 年 /06 年の第 1 段階から開始され現在の時点では 2009 - 13 年の第 4 段階の実施 にまで至っているものである。この施策の重点は、年々の職業訓練ポスト・訓練口提供企業の新 規開発分を 6 万ポストとしてそれまでの 3 万ポストを 2 倍に拡大させたものであった。こうした職 業訓練ポスト提供企業の新規開発と増加を求めての募集・開拓業務の推進の一方、職業訓練生に 対する支援業務として職業斡旋専門家によるアドバイス指導と斡旋活動を同時並行して実施させ ているのである(19)。 つまりここには、就職口そのものの斡旋よりも職業訓練口の開拓と提供企業の募集に主眼が置 かれていること、二元制職種資格をなんとしてでも取得させようとする意図が強く働いていること を指摘することができる。こうした施策の導入の結果、上に見たような数字に一応の成果を確認す ることができるのであるが、その後の趨勢をみても施策の進行とともにそこにおける増加趨勢とプ ラスの影響も明らかにすることができる。たとえば 2006 年の新規契約数は、4.7%の増加、2007 年 は 8.6%の増加趨勢が示されこの 2 年間で合計 7 万 5,734 件の職業訓練ポスト提供企業の増加となっ ているからである。さらに 2008 年には訓練ポスト提供企業数の増加が 8 万 8,900 件となりしかも そのうち 5 万 3,600 企業はこの期間から初めて職業訓練生を受け入れたという開拓施策プロジェク トに直接応じた貴重な企業であることが報告されている。それらの数字はそのまま様々な施策によ る重要な成果を示すものである(20)。
3 - 2 職業訓練指導資格保持者の企業内配置義務と訓練指導者の養成 個別企業による職業訓練ポストの提供がドイツの全社会的な規模で進められていることは、企 業における訓練生の受入準備がそれだけ社会的な条件のもとで整備され、準備されていることを 意味している。それでは、この職業訓練生を受け入れる社会的な条件とはどのような内容を意味 するのであろうか。この点にドイツの職業教育・職業人養成制度の伝統的継続性をみることがで きるのであるが、その条件とは、企業内においても企業外においても職業訓練教育を行う場合に は必ず職種専門にそった訓練指導者の配置が求められるということである。つまり企業では訓練 指導者の配置措置がなされなければ訓練生の受け入れはできない、という配置義務がなされてい るのである。もともとドイツの二元制職業訓練教育制度が中世の手工業以来の徒弟養成教育の仕 組みを伝統的に受け継いでいることはよく知られているが、手工業組合(Zunft)における徒弟指 導にはマイスター資格取得者のみがこの徒弟指導を担当できるという特権が認められていたこと を受け継いで、現在でも原則的に手工業職種においてはマイスターだけにこの指導権があたえら れている(21)。この事例とほぼ同じように二元制職種のうち手工業職種に属さない商工業職種等々 の訓練指導にあたってもこの手工業のマイスターに匹敵する指導資格を付与された職種資格が存 在する。その資格とは一般的に Ausbilder(アウスビルダー・養成者)と呼ばれる資格で、手工業 のマイスターや工業職種での工業マイスター資格所有者等はその資格をもって自動的に認定され、 それ以外の職種においての訓練指導資格は AEVO(訓練指導者資格認定試験規則:Ausbilder-Eignungsverordnung)と呼ばれる資格試験に合格することによって、訓練生指導・訓練生養成資 格が与えられることになっているのである。そのために資格取得統一試験が実施されており、最 近実施された年々の合格者数の趨勢は、以下の通りである(22)。たとえば 1999 年の数字ではドイ ツ全域での上記訓練指導者資格認定試験の合格者数は 5 万 423 人であったものが 2003 年には 5 万 5,984 人と幾分増加したものの 2005 年には 4 万 4,066 人と減少している。この減少趨勢には後 段で述べるような理由が存在するのであるが、訓練指導者の養成を意味するもう一方の手工業マ イスター資格試験合格者数の方は、1999 年の段階で 4 万 6,272 人、これが 2003 年には 3 万 7,541 人とおよそ 9,000 人の減少を示しさらに 2005 年にも 3 万 3,473 人とさらに 4,000 人近い減少を示し ている。ここでもほぼ恒常的な減少趨勢が示されるものとなっている(23)。 これら 2 通りの訓練指導者資格養成方法に見られる減少趨勢をどのように理解するかについて は、別に述べる政府施策の影響を除いては、意見が分かれるところであろうが、大まかにみれば 減少趨勢にあるものではあっても職業訓練教育制度にとって、少なくとも見習訓練生や企業外訓 練施設での受け入れ条件である指導者人材の養成を恒常的に行っている点について高く評価でき るはずである。一般的に、若年失業予備軍の発生防止、つまりできるだけ多くの訓練生・見習生 に企業あるいは企業以外の施設においてであっても適切な職業訓練教育を受講させる、そのため に必要な条件を社会制度として整えるということ、結局それらいくつかの社会的な整備が結果とし て失業率低下に結びつくという考え方が強く示されているように思われるのである。 ところで、ドイツ政府の若年失業対策・救済策の多くがこの二元制職業訓練生の受講数の増加、
つまり訓練生受け入れポスト・受け入れ口の開拓と拡大におかれていることはすでに述べたとお りであるが、この訓練指導者資格保持者を訓練受け入れ企業が雇用し配置しなければならないと いう規制が企業にとっては訓練生の受け入れにかなりの消極的要因となっていることは明らかであ る。それは、特に訓練生を新規に受け入れる企業にとっては通常は必然的にこれまでにない新た な人件費支出増を伴うはずであるからである。こうした要因に考慮して、政府は、この伝統的な指 導者資格保持者による訓練指導方法を「期限を限定して一時廃止する」という以下に述べる措置 の導入に踏み切ったのである(24)。その限定措置によって訓練生受け入れ企業数を 1 社でも多く増 加させたいという政府の切なる要望の反映と容易に理解できるものではあるが、そこには政府の検 討において、この配置規定を 5 年間の期限付において外すという措置が、一方で 19 世紀の営業自 由の運動のもとで一時的とはいえ伝統的手工業マイスター制度の撤廃に踏み切ったため、そこに 必然的に「作業・業務技術水準の劣悪化」を招来させ、まもなく従来の方式・制度を復活させた という歴史の経験を念頭に置いていることを物語っている。それでもやはり政府は若年者の職業訓 練開始の重要性をより高く評価しているということをこの施策に端的にじませている、苦悩の施策 として理解できる、ということができる。 この施策は、2003 年から 5 年間は訓練指導者資格保持者による受け入れ指導でなくても、職業 訓練生の受講、受け入れを認めてもよいとする措置で、それはそのまま訓練生受け入れ企業開拓 の成果を優先させる施策として捉えられたものである。この措置は最初から、2003 年から 5 年間 の期限付きで導入されたものである。その措置がその後どのような経過に至っているか、残念な がら今日まで詳細な情報をえて検討することはできないままであるが、その点からも上にみた新規 受け入れ企業数の増加はほぼ確実にこの施策と強く結びついていることは間違いないものと理解 することができる。 このようにみれば、比較的失業者数の少ないドイツの若年者雇用問題も、その予備軍発生を防 止する上での多方面からの施策の結果であることが理解される。しかし、わが国でも懸念されて いる若年者の進路先ミスマッチの問題、離職率の問題等はドイツにおいても決して課題がないわ けではなく、そのための新たな施策、つまり職種の変更・追加的訓練教育や補習教育などの課題 にむけた対応が求められるところである。いずれにしても従来の職種資格制度を維持するためだ けでも、技術進歩に合わせた新たな職種の構築と導入、社会から教育界・職業教育界にむけた要 請に基づく職種内容の変更・改善等々が恒常的な職業訓練制度の効率的で適正な改善のための努 力として日々求められているのである。そこには、上に見た職業訓練ポスト提供企業の常に変わら ない協力と指導人材の養成・供給という 2 大要因が今後のドイツにとって大きな前提条件となって いることが明らかなのである。
4.結び
以上、ドイツの若年失業対策の主要部分が、その発生防止、失業予備軍の発生予防・発生防止 の方にそそがれ、特に二元制職業訓練制度への移行準備施策と一旦移行しながらも途中で挫折・中途退学した者等に対する復活・継続施策によって一定の成果が挙げられてきたことにその特徴 を理解することができると思う。それでは、わが国の失業救済政策においてはどのような特徴をみ ることができるであろうか。最近特にわが国に採用されている若年者対象の雇用関連施策の典型 的形態である「若者自立・挑戦プラン」とその後 2007 年 5 月に委員会が設置され 2008 年 4 月に 導入された「ジョブ・カード制度」によってその大まかな特徴を探ると、上述のドイツとは対照的 に職業訓練に移行させる施策というよりもむしろ直接就職口斡旋の方により大きな力が注がれてい るよう思われる。ごく大まかな検討にすぎないものであるから結論を急ぐつもりはないが、「ジョ ブカード制度」にしても全国に設置されているハローワークを中心に 47 か所のジョブカードセン ターと 87 か所のサポートセンターとを設置して、キャリアコンサルテイング業務と若年者の職業 意識開発、企業実習と理論学習・座学学習の並行的職業訓練制度さらにはキャリア学習経歴をカー ド化して就職口への移行をよりスムースに促進しようとするものであるといえる。最近特に増加趨 勢を示す非正規社員の不安定な雇用条件を解消するための施策として正規社員への移行を進める サポート活動や職業訓練が含まれており、重要な施策であることを高く評価できるものである。し かしその一方で、その多くは 3 - 6 か月の短期間にとどまるものが多いといわれている。ただ、職 業訓練開始者数に関する報告では、およそ 3 万 1000 人という成果が報告されている。職業訓練実 績として高く評価され今後が期待されるものである。残念ながら筆者の勉強不足で、訓練ポスト・ 訓練口の提供企業や訓練指導者、訓練職種の内容等々についての検討には至っていないのである が、わが国にとっての新しいプロジェクトとして期待できる注目すべき施策である。また前者の「若 者自立・挑戦プラン」は経済産業省と厚生労働省、文部科学省、総務省内閣府の連携で開始され たものであるが、1999 年にイギリスから問題の重要性が指摘され、同時にわが国でも多くの専門 家による指摘がなされてきたことを受けて急速にそのための施策が模索されたものである。2004 年より実施され、普通教育課程の修了から職場への移行過程での支援、就業能力養成上の支援、 就業機会の創出、ジョブカフェーの設置等々、多くの施策が導入され実現されてきている。いず れも、わが国の場合は、これまでの「就業能力・業務能力の習得は企業に就職してから開始する」 との従来の方式の影響をうけており、企業に就職する以前に職業訓練を行うという上述したドイツ の方式とは、2、3 の事例を除いてかなり異なるものとなっている。しかしその一方、わが国固有 の企業内 OJT や企業内外の OFF・JT の長い経験を重ねた方式を積み上げることによって、これ らの若年失業救済施策の成果が待たれるものといえる。また特にこれまで大きな影響力をもつ特 に厚生労働省が関わる職業訓練制度をより活性化させて普通教育学校制度との連携を強化するこ とでの成果も待たれるところである。昨年暮れ以来大きく社会問題化した非正規従業員の扱いと 労働環境上の課題、つまりしごと能力を学ぶ場の創出の必要性は、失業者救済そのもの以上に今 後重要な雇用問題対策となることは間違いないはずである。非正規社員の恒常的増加趨勢を前に して、従来は正規社員によるしごと能力習得を実現した企業内人材養成制度の制度的な補充、制 度的見直しが求められるはずである。つまり正社員が企業での就業によって得ているしごと能力の 習得機会を非正規社員に対しても就職先・就業先以外の場での、いわゆる企業外での OJT あるい
は OFF・JT による理論及び実習訓練を含む研修機会を提供することが求められているはずである。 そうした機会を提供できる企業の開拓・創出、つまり従来の就職した者を対象とする企業人材養 成教育とは異なるしごと能力・キャリア能力の養成の場を積極的に提供する企業の開拓、つまりド イツにおける職業訓練生受け入れ企業的機能を有する企業等との連携が求められるのである。そ こには従来の大学教育を含めた教育界におけるキャリア教育システムの大きな改革も同時に求め られるはずである。 注 (1) ドイツにおける若年者失業対策として 1999 年から 2003 年まで採用された「ジャンプ JUMP: プログラム」、「中 高年就業促進 JUMP プラス」、「展望 50 プラス」、さらには 2005 年以後第 1 段階が開始され、現在 2009 年か ら 2014 年にむけた第 4 段階にまで延長を重ねている「ジョブスターター制度」、さらにはデュアル制度見習 生受け入れ企業訓練指導者配置免除期限限定施策等がある。いずれも従来の職業訓練教育であるデュアル制 度と深く関連する施策である。基本的な文献はドイツ連邦政府(Bundesministerium fuer Bildung und Forschung)発行の職業教育報告書 Berufsbildungsbericht の各年次年報に詳しい。Berufsbildungsbericht 2008 S.34-35 等参照。 (2) この点に関しては拙稿「ドイツにおける学校教育-就業移行過程とキャリア教育」桜美林大学『産業研究所年 報』第 25 号、2007 年 3 月、162-163 ページを参照されたい。 (3) 90 年代末の数字であるが、普通教育学校修了資格未取得者の割合は、一般的に 10%前後で、この比重はその 後もほぼ変化ないものと説明されている。『ドイッチラント』2005 年 6・7 月号、Societas - Verlag,40-47 ページ。 (4) この 2 つの施策については、すでに 1970 年代後半から導入されたものであるが、いずれも普通教育学校から 二元制職業訓練制度への移行をよりスムースにするために導入されたものである。http://de.wikipedia.org/ wiki/Berufsgrundbildungsjahr/2009/08/25, / http://de.wikipedia.org/wiki/Berufsvorbereitungsjahr,2009/0 9/08。特に職業準備学年制度においては、1995 年段階で在籍生徒の 69%が上の基幹学校修了資格をえていな いものであり、この数字は絶対数の増加 4 万 6,464 人(93/94 年)から 6 万 077 人(07/08 年)に増加、またそ こにおける基幹学校未修了者数が過半数を超える比率もそのまま継続されている。BMBF/Datenreport/ A6.1 Berufsvorbereitungsjahr, Berufsgrundbildungsjahr, http://datenreport.bibb.de/html/132.htm 2009/09/08 (5) この施策についてはドイツの各州政府の意向によって多少異なるようであるが、残念ながら規定あるいはそ れに類するルール等の説明書で確認できたものではなく、2008 年ブレーメン市の職業教育専門家へのインタ ビューにより得た情報であるが、バーデン・ヴュルテンベルク州でも類する施策のあることを確認している。 (6) 本施策についても、書かれたものによって確認できているものではない。上述した職業教育専門家の説明によっ て 2008 年 5 月に得た内容である。 (7) すでに別稿において紹介した事例であるが、ブレーメン市に設置されている Allgemeine Berufsschule は特別 に基幹学校の中退者や職業訓練課程中退者のみを教育する学校としての使命を負って設立されている。上述 した職業準備学年制度とはまた別の施策として注目することができる。この件も職業教育専門家の助言により 2007 年に現地調査が実現したものである。桜美林大学産業研究所『産研通信』NO.68 号、8 ページも参照さ れたい。また、これらの施策に関して上述のように職業学校準備学年に籍を置く生徒の過半数が基幹学校未修 了であること、また 2006/2007 年の数字では 1 万 2,600 人(17.6%)が外国人であること等も背景としてある。 Berufsbidlungsbericht 2008、S.188. (8) この労働局は、わが国では通常、学校が行っている業務まで行う点が特徴で、さまざまな資料を小冊子、パン フレット、セミナー紹介等々の印刷物を配布して、職業一般の情報とさらにメイン業務である失業者のための 企業斡旋、情報提供活動を行っているのである。二元制職業に関する現在 340 種ほどの職種紹介などと同時に 専門家によるアドバイス業務を担当する。ドイツ連邦労働局(Bundesagentuer fuer Arbeit)あるいはドイツ 連邦職業教育研究所(Bundesinstitut fuer Berufsbildung)あるいはドイツ教育・研究省(Bundesministerium fuer Bildung und Forschung)等々からの出版物を提供する職業教育・雇用/労働関連の情報基地である。 (9) 二元制職業訓練教育を受けた企業にそのまま就職する事例は、Uebernehmen(引き受け)という表現で示さ
れているが、決して大きな割合となっているものではない。企業規模によって異なるものの、統計によれば 2006 年度の数字で、旧西ドイツ州全体では 57%(2005 年は 55%)の資格取得修了者がそのまま訓練企業に就 職を果しているが、従業員 10 名未満の零細企業では 44.4%(2005 年は 47%)、従業員 500 人以上の大規模企 業では 72.5%(2005 年は 68%)の就職率となっている。これが旧東ドイツ州では全体的に低く、大規模企業 でも 45.8%(2005 年 30%)、零細企業では 43.5%(2005 年 31.9%)しか訓練企業での就職を果たしていないと いう報告である。Berufsbildungsbericht 2008、S.241.及び産業分野別での数字でみると訓練企業に最も多く 就職できた訓練生は旧西ドイツ州では 2006 年、信用金庫・保険分野で 80.7%、投資財・中古財分野で 76.4%、 旧東ドイツ州でも同じく信用金庫・保険分野で 79.4%、投資財・中古財分野で 71.2%、である。a.a.O.,.S.242. (10) Berufsbildungsbericht, 2008,S.174-175. (11) a.a.O.,S.184. (12) a.a.O.,S.174-175. (13) a.a.O.,S.94. (14) a.a.O.,S.45. (15) a.a.O.,S.45. (16) a.a.O., S.107、S.110. (17) a.a.O.,S.45. (18) この特別の研修をうけたアドバイザー(Berater)による若年失業救済業務は、akquirierung(企業での追加 的或いは新規訓練生受け入れ斡旋業務)という表現とともに使われるのであるが、職業訓練口提供企業の開拓 業務とその訓練口への若年失業予備軍あるいはすでに失業している若者を斡旋する連邦政府の助成施策業務 である、との説明を職業教育専門家からうけている。いずれにしても、企業での実習という職業生活の開始あ るいは復帰をねらったもので、学校教育と職場との移行を少しでもスムースに実現させるための施策である。 (19) Berufsbildungsbericht 2008,S.45. (20) 中世以来の伝統があるドイツ手工業の職人養成は、マイスターによるものであったが、手工業マイスターの第 1 の権限(Grosser Brief)は当該職種分野における開業権・営業権であり、第 2 の権限(Kleiner Brief)が徒弟・ 見習生養成権限である。この従来型の権限が保障される職種数が規制緩和策の一環で大幅に削減されたことが 最近の動きである。 (21) 手工業マイスターと工業マイスターに代表されるマイスター資格試験はその他にも農業経済や家庭経済分野、 公共サービス分野でもおこなわれており、それらの合計者数は、1999 年の 4 万 6,272 人が 2006 年には 3 万 2125 人となっている。手工業マイスターの場合は、1999 年の 3 万 3,618 人が 2006 年には 2 万 111 名に減少し ている。この減少趨勢の是正のための方策も導入されている。Meister-Bafoeg と呼ばれる助成制度である。 Bundsbildungsbericht 2008、S.257 及び [Das“Meister-Bafoeg“- Foerderung nach dem Ausstiegsfort - bildungsfoerderungsgesetz] von Hans-Juergen Weber in, Statistische Monatshefte, Rheinland-Pfalz,2004,11, S.438-443. (22) Berufsbildungsbericht,2008,S.34. (23) たとえば、アウスビルダー認定資格取得試験合格者数は資格者配置免除規定の影響をうけて2002 年の5 万 9,913 人が 2005 年には 4 万 4,066 人と減少している。しかしこの数字は 2006 人には 4 万 5,214 人となり再び上昇に 転じている。したがってこの免除規定にも関わらず受験者数及び合格者数の継続があったことに示されるよう に資格重視の姿勢はそれほど変化ないようにも考えられる。Bundesbildungsbericht,2008,S.255. (24) この職業訓練指導者認定資格規則(Ausbilder-Eignungsordnung(AEVO))例外措置の導入については Beru fsbildungsbericht,2008,S.,255 参照。 主要参考文献 小杉礼子他『キャリア教育と就業支援』勁草書房、2006 年 本田由紀 『若者と仕事』東京大学出版会、2006 年 玄田有史 『仕事の中の曖昧な不安』中央公論社、2001 年 谷内篤博 『大学生の職業意識とキャリア教育』勁草書房、2006 年
独立法人労働政策研究・研修機構編『海外労働情報』、『海外労働基礎情報』、『諸外国による報告書』 等、http://www.gil./go.jp/laborsystem/2008,7 germen o1.htm
Bundesministerium fuer Bildung und Forschung, Berufsbildungsbericht, 2008
Bundesagentur fuer Arbeti, Beruf Aktuell,Ausgabe2006/2007wdv Gesellschaft fuer Medien und Kommunikation mbH&co.OHG,Bad Homburgv,April,2006
Bundesagentur fuer Arbeit,Beruf Bildung Zukunft, Der 2.Bildungsweg in den einzelnen Bundeslaendern Nachholen schulischer Abschluesse und Studieren ohne Abitur, Ausgabe 2006/2007, Verlag BWbildung und Wissen Verlag und Software
GmbH,Nuernberg Juni,2006
Bundesagentur fuer Arbeit, Berrufliche Umschulung, Verlag BW Bildung und Wissen Verlag und Software GmbH,Nuernberg,Juni 2006