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韓国語の「kata(行く)」と「e kata(ていく)」のつながり

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Academic year: 2021

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(1)学苑. 総合教育センター国際学科特集. No.895 27~37(20155). 韓国語の「kat a(行く)」と 「ekat a(ていく)」のつながり 徐. 珉. 廷. 1.はじめに 日本語の「行く/来る」は直示動詞で,話者の今いる場所から遠ざかるか,近づくかの移動を表す が,補助動詞「ていく/くる」に使われる場合にもその意味は平行している。日本語と同じように, 韓国語でも日本語の「行く」に対応する「kat a1」,「来る」に対応する「ot a」という動詞があり, 「ekat a/ot a」の形で補助動詞として用いられるのも類似している。そのうち,本稿で中心的に扱 うのは「kat a」と「ekat a」である。本動詞の「kat a」は,文法的な意味を表すものに抽象化され, 文法化の過程を経て「ekat a」の形で様々な用法を持つようになったと考えられる。 本稿では認知言語学の立場から韓国語の本動詞「kat a」と「ekat a」は意味的な関連性が深いと 考え,そのつながりを意味ネットワークで提示することを目的とする。 次節では,韓国国内の国語学における「kat a」と「ekat a」に関する先行研究を概観し,それら 2 ot ype ) の問題点を指摘する。第 3節では,プロトタイプ(prot 的用法である空間移動を中心に本動. 詞としての「kat a」の基本的性質と拡張された用法について検討する。そして,第 4節では,韓国 語において 3種類の「ekat a」が存在することを述べた後,各用法について考察する。. 2.先行研究 チェ ヒョン ベ. 韓国の国語文法では,置 薄 壕 (1937) が「ekat a」を「eot a(てくる)」「koi s s t a(ている)」と キム ソン ファ. ソン セ. モ ドル. パク ソン オク. 共に進行助動詞として扱って以来,多くの研究がなされてきた (沿失鉢 1993,謝室乞宜 1996,酵識秦 クォン スン グ. ペ. ス ジャ. 2002,映 授姥 2005,壕呪切 2007など)。これらの先行研究は補助動詞「eka t a」のアスペクト的意味. とモダリティ的意味の両面で分析した研究が多く,本動詞「kat a」と補助動詞「ekat a」の用法が 平行していることについては述べられていない。 イ. ギ ドン. そのなかで,戚 奄 疑 (1977) は「kat a」の基本的意味を「空間的移動」とし,「動作の継続」と イ. ギ ドン. 「状態変化」を拡張した意味と分類している。戚奄疑(1977)では,「空間用法」では話者の位置を基 準に遠ざかると「kat a」が用いられるのと同様に,「動作の継続」では発話時を基準に現在から未来 へは「kat a」が用いられると分析している。そして,状態変化を表す場合は正常状態が基準点にな り,悪い方への変化は「kat a」が用いられると述べている。 イ. ギ ドン. 筆者の見解は戚奄疑(1977)の分析と類似している。つまり,筆者は補助動詞「ekat a」の各用法 は寄せ集められているのではなく,本動詞「kat a」の中に見られるプロトタイプ的用法と拡張され た用法から発展されたと見なす立場である。また,並列的な連結の「ekat a」と合成動詞の「ekat a」 をも分析対象に入れて,先行研究で明らかにされていなかった,本動詞「kat a」と「ekat a」との 関連性,そして各用法間の関係について意味ネットワークを通して提示する。 ― 27―.

(2) 3.本動詞「kat a」の意味と用法 本節では,「kat a」の本動詞としてのプロトタイプ的用法を中心に,「kat a」の拡張された用法に ついて考察する。「空間移動」を表す「kat a」はメタファーを通して,動く 主体は典型的な人間 から時間など話者が動くと見なすものへと拡張され,空間移動は典型的な場所から時間,身体などに 拡張され,さまざまな拡張用法が現れる。本稿では「空間移動」を「kat a」のプロトタイプ的用法 と見なし,派生された意味を「拡張された用法(以下,拡張用法)」と呼ぶことにする。 3.1 プロトタイプ的用法 「kat a」の本動詞としての用法は,空間移動を表す意味がプロトタイプと言える。(1)は「kat a」 を用いることによって,話者は今いる位置から目的地(学校)へ向かうことを表す直示的な用法であ る。 ( 1) 蟹澗 俳嘘拭 穐陥. nanun hakkyoekas s t a. 私 は. 学校に 行く過去終結語尾. 「私は学校に行った。」. 一般的に「kat a」は直示動詞と言われているが,徐(2009)では日本語の「行く」との対照を通し て,「kat a」は直示的と非直示的 (中立的) の二用法があると述べている。一つは,(2)のように話 者の 視座 3が日本にある場合で,たとえば日本人が発話する場合であり,日本から総理が中国に 出ていくという直示的な解釈ができる。もう一つは,(3)のように移動そのものに話者の関心が置か れていて,非直示的な解釈ができる場合である 4。 ( 2) 析沙税 恥軒亜 掻厩拭 穐陥. i l opone yc hol l i kac wungkwukekas s t a. 日本の. 総理が. 中国に. 行く過去終結語尾. 「日本の総理が中国に行った。」 ( 3). 戟原亜 娃陥. Lyomakakant a. 竜馬が. 行く現在終結語尾. 「竜馬が行く。」. すなわち,話者は固定され,話者以外の物や人が動く場合における「kat a」は,(2)(3)のように, 直示的(図 1)あるいは非直示的(中立的)(図 2)の二用法があると考えられる。顔( )は話者の位 置を表し,「起点  経路  着点スキーマ 5」のどの部分がプロファイルされるかは,太線の矢印(→) と丸(○)で示した。 図 1は,例(1)と(2)のように話者のいる位置(起点)から遠ざかる場合を表す直示的な場合で, 「起点+経路」がプロファイルされる。図 2は,話者が中立的な場所から事柄を眺めている非直示的 な場合である。. ― 28―.

(3) 図 1: 「kat a」のスキーマ①(直示的). 図 2: 「kat a」のスキーマ②(非直示的). 3.2 拡張された用法 空間移動の「kat a」の意味は,時間的な移動を表す用法と正常ではない状態を表す用法まで拡張 される。以下の(4)と(5)で動く対象は時間である。 ( 4) 亜澗 背 神澗 背. kanun. hay, onun. 行く連体. 年. hay.. 来る連体. 年. 「行く年,来る年」 ( 5) 獣娃戚 娃陥. s i kani kant a. 時間が. 行く現在終結語尾. 「時間が行く(時間がすぎる)」(吉本 2002:27). (4)において基準時は現在(今)であるが,基準時の現在から過去へ遠ざかる時は「kat a」,未来か ら基準時へと近づく時は「ot a」で表している。そして(5)の「kat a」は中立的視点から時間の動 きを表す場合であり,単なる移動そのものを表す空間用法が拡張されたと考えられる。 また,韓国語の「kat a」は,以下の(6 )~(8)のように正常ではない状態を表す用法が見られる。 ( 6) a.牌焼軒拭 榎戚 穐陥. hanaal i e kumi つぼに. ひびが. kas s t a. いく過去終結語尾. 直訳:つぼにひびがいった。 意訳:つぼにひびが入った。 ( 7) a.戚 持識噺澗 言戚 穐陥. is ayngs e nhoynun mas i kas s t a. この. さしみは. 味が. いく過去終結語尾. 直訳:このさしみは味がいった。 意訳:このさしみは腐ってしまった。 ( 8) a.益 紫寓 詞側 穐姥蟹. am s al c c ak ku s al あの人. ごくわずか. kas s kuna. いく過去感嘆. 直訳:あの人ごくわずかいったね。 意訳:あの人,頭が狂ったんじゃない?(裵 1985:3 3). (6)の「榎/kum/(ひび)」,(7)の「言/mas /(味)」というのは,ある状態的なことを表していて 「kat a」と共に用いられて状態が変化する意味を持ち,本来の機能を失うマイナス的状態に変わるこ とを表している。(8)は人が正常な状態から異常な状態に変わったことを意味している。ちなみに英 ― 29―.

(4) at e )から離れる悪い方への変化を表し,・ 語の ・ go・が正常状態(normalst c ome ・が正常状態に戻る, ar k,1974)のはよく知られているが,韓国語の「ka あるいは良い方への変化を表す(Cl t a」にも似た. ような用法が見られる。すなわち,韓国語の「kat a」と英語の ・ go・は正常状態から離れ,主に悪い 方への変化を表す傾向があると言える。 以上,韓国語の「kat a」の本動詞としての用法について考察した。韓国語の「kat a」は「空間移 動」をプロトタイプとし,そこからメタファーを通して派生された「時間移動,正常ではない状態へ の変化」の拡張用法がある。以上の「kat a」の本動詞としての用法を表すのが図 3である 6。. 図 3:本動詞「kat a」の用法. 4.「ekat a」の意味と用法 4.1 分析の対象:3種類の「ekat a」 韓国語の「ekat a」はその形は同じであっても,①補助動詞以外に VP1と VP2が独立した節に 属す場合(②並列的な連結),一つの動詞句合成語の場合(③合成動詞)の 3種類がある (南基心他 ソン セ. モ ドル. チョ ソク ホ. 1999,謝室乞宜 1996,繕汐硲 1997)。次の(9 )が並列的な連結の例であり,(10)は合成動詞の例,. (11)が補助動詞「ekat a」の例である 7。 ( 9) 蟹袴走 娃淡級精 陥 宋壱 移酔 1 name c i kanc he pt ul un 他の. スパイ達は. t a. 誤幻戚 詞焼(辞)穐陥.. c wukkokye wu hanmye ngmanis al a (s -e )kas s t a.. すべて 死ぬて やっと. 1. 人. だけが生きるて 行く過去終結語尾. 「他のスパイ達は全員死んで,やっと 1人だけが生きて行 8った。」 (10). 号拭辞 蟹穐嬢推. pange s e nakas s e yo. 部屋から. 出る(いく)過去ます. 「部屋から出ていきました。」 (11) 益亀 鎧 源聖 肱嬢 娃陥. kut o nay mal ul mi t ekant a. 彼も. 私の. 言葉を. 信じるていく現在終結語尾. 直訳:彼も私の言葉を信じていく。 意訳:彼も私の言葉を信じるようになってくる。 (e )s (~て,~てから)」 (9)は「詞焼辞 亜陥/s al as ekat a/(生きて(から)行く)」の連結語尾「e. が省略された形であり,本動詞「生きる」の後に,「行く」という動作が続いたことを表す。(10)は 「nakat a(出ていく)」が一つの動詞句合成語の例であり,「ekat a」の前の「nat a(出る)」は「生じ る」という全く別の意味の動詞になるため,単独では用いられない。このような動詞は,「nakat a (出ていく)」以外に, 「t ol akat a/(帰っていく)」,「ol akat a(上がっていく)」,「t ul e kat a/(入ってい ― 30―.

(5) く)」などがある。つまり, (11)のように 持続あるいは 進行を表す「ekat a」のみを補助動. 詞と見なしている。 以上のように韓国語の「ekat a」はその形は同じであっても,「並列的な連結」「合成動詞」「補助 動詞」の 3種類があるが,韓国の国語学における「ekat a」の研究は補助動詞としての意味用法 キムソンファ. ソン セ. モ ドル. パクソンオク. クォンスン グ. ペ. ス ジャ. に偏っている場合が多い(沿失鉢 1990,謝室乞宜 1996,酵識秦 2002,映 授姥 2005,壕呪切 2007など)。 本研究では,本動詞「kat a」と「ekat a」との関係を明らかにするために補助動詞としての用法だ けでなく,「並列的な連結」や「合成動詞」も含め,考察する。その理由は,「ekat a」の各用法は, 寄せ集められているのではなく,本動詞「kat a」のプロトタイプ的用法と拡張された用法と有機的 なつながりがあると考えるからである。 4.2 空間用法の「ekat a」から拡張用法の「ekat a」へ a」と 合成動詞の「ekat a」は,空間用法を表し,補助動詞として 並列的な連結の「ekat の「ekat a」は拡張用法を表す場合が多い。以下,順に考察する。 4.2.1 並列的な連結における「ekat a」 (e )s (~て,~てから)」や副詞句の挿入が可能な  以下の(12)と(13)は,連結語尾「e 並列的. な連結の例である。 . . . (12) 舘紗 爽娃戚 焼観汽亀 取姥十聖 晒嬢 亜壱. [酔軒級:1 19] t ans ok c wukaniani nt e yt o 取り締まり週間ではないのに. s oykwus ul ul ppays ekako…… ベアリング玉を. 奪うて行って. 「取り締まり週間ではないのにベアリング玉を奪って行って……」 (13) 十軒遁研 霜霜 怪悟 伝搾叔猿走 杏嬢逢艦陥.[疏精:42] s ul l i phe l ul スリッパを. c i l c i l ずるずる. kkul mye 引きずるながら. hangpi s i l kkac ike l ekapni t a. t 湯沸室まで. 歩くて行くます. 「スリッパをずるずる引きずりながら湯沸室まで歩いて行きます。」. (12)の「ekat a」は,ある人物が話者のいる場所から他の場所へ遠ざかる「空間移動」を表す。 (1 3) は本動詞の動作「歩く」と「行く」の動作が同時に行われている 移動の様態を表す例であるが, この場合もある人物が話者のいる場所から他の場所へ遠ざかる意味を表す。 4.2.2 合成動詞における「ekat a」 「出る,帰る,戻る,入る,近づく」など移動を表し,方向性を持つ動詞が本動詞として用いられ る場合に,韓国語では「ekat a」あるいは「eot a」の付加を義務化する。仮にこれらの本動詞を単 独で使うと, 「nakat a(出ていく)」は「nat a(生じる)」 , 「t ol akat a(帰っていく)」は「t ol t a(回る)」 , 「t ul e kat a(入っていく)」は「t ul t a(持つ,かかる)」のように全く別の意味になってしまう。 (14) 疑害穿奄爽縦噺紫稽 壕舛吉 什弘護 誤税 汎恵持級精 戚薦 因舘脊姥拭辞 因舘 照生稽 級嬢娃陥. [須享号:46] Tongnamc e nki c wus i khoys al opayc e ngt oyn 東南. 電気. 株式. s umwul mye c h mye nguy. 会社へ 割り当てるされる連体 ― 31―. 二十数名の.

(6) hwunl ye ns ayngt ul un i c e y 訓練生たちは. kongt ani pkwue ys ekongt an anul o. もうすぐ. 公団入り口から. 公団. 中へ. t ul ekant a. 入るていく現在終結語尾 「東南電気株式会社へ割り当てられた二十数名の訓練生たちはもうすぐ公団入り口から公団の中へ入っ ていく。」 (15) 嬢汗 析推析 煽梶 馬寿増生稽 宜焼亜醤 馬澗汽 焼獄走亜 益 識持還引 旭戚 西鎧稽 蟹亜虞壱 馬写陥. [疏精:2 1] e nu. lc e nye k has wuc i pul o i l yoi. ある. 日曜日 夕方. 下宿へ. t ol akayahanunt e y. ape c i ka. 帰るていくなければならないのに. 父が. ku s e ns aynni mkwakat hi upnayl o その. 先生と. 一緒に. 市内に. nakal akohas ye s s t a. 過去終結語尾 出かけなさいと言う. 「ある日曜日の夕方,下宿へ帰っていかなければならないのに父がその先生と一緒に市内に出かけなさ いと言った。」. ところで,以下の例文は上記の例(14)~(15)と同じく,合成動詞「t ul e kat a(入っていく)」「t ol akat a(戻っていく)」が用いられている場合であるが,空間移動を表していない場合がある。 (16) ……蟹研 及楕 朔 切軒拭 症惟 馬壱 郊稽 呪穣拭 級嬢穐陥.[酔軒級:12] …… nal ult wi c c ok pi nc al i e y anc ke y hako pal os wue pe yt ul ekas s t a. 私を. 後側. 空席に. 座る使役て. すぐ. 授業に. 入るいく過去終結語尾. 「(省略)私を後ろの空席に座らせた後,すぐ授業に入っていった。(授業が始まった)」 (17) ……陣走 嬢鍵 獣箭稽 宜焼娃 依 旭焼 原製戚 畷馬陥壱 源廃陥.[疏精:6 5] wayl c i e l i ns i c e l l o 何となく. 幼い時に. t ol akan kat ha. 戻るていく過去ようで,. maumiphye nht akomal hant a. 心が. 落ち着くと言う現在終結語尾. 「……何となく幼い時に戻っていったようで,心が落ち着くと言う。」. (16)は,「授業を行っていない状態から授業へ」を意味しており,動きの概念が曖昧である。また, (17)は,移動対象が「感覚」で,具体的な空間的移動とは言いにくい。抽象的な意味での「あると ころ」から「あるところ」への移動と見なすことができるかも知れないが,この場合の「あるところ」 とは,具体的な場所というイメージは希薄である。一般的に言って,移動対象が 人間のような典 型的に 有界的(bounded) な存在の場合に,空間移動が最も具体的に読み取れる。それに対し, 有界から 無界的(unbounded)な性格がだんだん強くなっていくと具体的な意味での空間的イ メージが薄れていって,抽象的移動を表すのではないかと考えられる。 4.2.3 補助動詞における「ekat a」 行為の反復 次に挙げる(18)と(19)は,行為が反復される例であるが,「行為の反復」とは,ある行為が断 続的に継続することを意味する。 (18) 酔軒 社澗 析鰍拭 廃 原軒梢 歯晦研 該焼 穐陥. ul is onun i l nynehan mal i s s i ks aykki l ulnahakas s t a. わが牛は. 一年に. 一匹ずつ. 仔を. 生むていく過去終結語尾. ― 32―.

(7) 「わが牛は一年に一匹ずつ仔を生んでいった。」 (19) 鴻戚 燕嬢走切 穿去戚 馬蟹 却梢 襖閃 穐陥. pami ki phe c i c a 夜が. 深くなると. c e nt ungihanat wul s s i k kke c ekaaat a. 電灯が. 一つ二つずつ. 消えるていく過去終結語尾. パクソンオク. 「夜が深くなると電灯が一つずつ消えていった。」(酵識秦 2002:102). (18)は,「生む」という行為が毎年行われるが,ずっと続くわけではない。つまり,断続的な反復を 表す場合である。(19)は,行為の反復ではなく,ある状態が反復されたことを表しているが,この 場合も同様に「ekat a」が用いられる。またいずれの場合も話者が第三者の目線で語っているよう な意味合いを持つ非直示的な用法である。 状態持続 本稿では徐(2013)を参考に 状態持続を以下の 2つの場合にする。 状態持続. ⅰ.当該する状態が質的な変化なしに継続すること。 ⅱ.当該する状態が時間推移と共に漸次的に移行していくこと。. 「状態持続」のⅰとⅱを併せて考察する。第 3節で本動詞「kat a」のプロトタイプ的な用法で「遠 ざかる移動」と「移動,そのもの」を表すと述べた。この区別は直示的か否か,すなわち話者の 視 座が起点となるか中立的な位置を占めるかにあるが,状態持続にも当てはまる。次の例は,も はや空間移動を表していない。 (20) 走榎億 伸宿備,益軒壱 帖伸馬惟 詞焼尽生悟 詞焼亜壱 赤陥.[疏精:19] c i kumkke s ye l s i mhi kul i koc hi ye l hake y s al awas s umye 今まで. 懸命に. そして. 熾烈に. s al akakoi s s t a.. 生きてくる過去し,生きるていくている. 「今まで懸命に,そして熾烈に生きてきたし,生きていっている。」 (21) 眺眺廃 紗拭辞 繕榎梢 繕榎梢 宋嬢 亜澗 暗醤.[重税:72] e ys ec okums s i kc okums s i kc wukekanun ke ya. khamkhamhan s ok真っ暗な. 中で. 少しずつ. 少しずつ. 死ぬていくのだ. 「真っ暗な中で少しずつ少しずつ死んでいくの。」. (20)は,状態持続ⅰの「当該する状態が質的な変化なしに継続すること」を表す。(20)は,話 者が現在を基準に,過去から今まで「生きた状態」は「eot a」で表し,未来への「生きる状態」が 続くことは「ekat a」で表している。この場合の「ekat a」は話者が遠ざかるのを表しているのは 空間用法と変わりがない。したがって,(20)は直示的な場合であると言える。(21)は,話者が自分 の「死」について語っている場面で,状態持続ⅱの「当該する状態が時間推移と共に漸次的に移 行していくこと」を表す場合である 9。この場合の「ekat a」は「話し手との関与性が減少するとい う意味合い」(池上 2006:174)で捉えられ,直示的と言える。 ところで,「状態持続」を表す「ekat a」にも以下のように非直示的にもなる場合がある。すなわ ち,第三者的に中立的な視点から当該の状態持続を眺めるときは,非直示的な解釈が得られる。. ― 33―.

(8) (22) 獣娃精 碑君亜壱,紫寓亀 碑君娃陥.[鋼側:153] s i kanun. hul l ekako,. 時間は. 流れるていく並列. s al amt ohul l ekant a. 人も. 流れるていく現在終結語尾. 「時間が流れていくし,人も流れていく。」. (22)は,「時間」と「人」が流れていくのを客観的に見て語っているようで,話者とのかかわりは感 じられない。すなわち,(22)の「ekat a」は,単なる状態の持続あるいは進行を表している場合で, 話者の視座が中立的な位置にある非直示的な用法だと考えられる。 悪い状態への変化 第 3節で本動詞「kat a」に 正常状態から離れ,悪い方への変化を表す用法があると述べたが, 補助動詞「ekat a」にもこの用法が見られる。 (23) 益 紫寓税 袴軒亜 繊繊 宜焼亜壱 赤陥. ku s al amuy me l i ka c e mc e m その. 人の. 頭が. だんだん. t ol akakoi s s t a. 回るて. いく進行終結語尾. 直訳:その人の頭がだんだん回っていっている。 イ. ギ ドン. 意訳:その人がだんだん狂っていく。(戚奄疑 1977:151) (24) 朕杷亜 繊繊 縦嬢 娃陥. khe phi ka. c e mc e m. s i ke. コーヒーが. だんだん. 冷めるて. kant a. いく現在終結語尾. パクソンオク. 「コーヒーがだんだん冷めていく。」(酵識秦 2002:104). (23)は補助動詞「ekat a」が狂った状態への変化を表す例で,正常状態から正常状態ではない方へ の変化を表している。補助動詞「ekat a」の 悪い状態への変化 を表す用法は,本動詞「kat a」 の持つ意味に関係があると考えられる。一方(24)の「ekat a」は二つの解釈ができる。一つは, コーヒーが冷める状態へだんだん変わることを表す場合であり,もう一つはコーヒーが冷めるのを話 者が望ましくないと思う場合である。前者は単なる「継続」で非直示的,後者は直示的と言える 10。. 5.「kat a」と「ekat a」の意味ネットワーク 本動詞「kat a」の「空間移動」は,並列的な連結の「ekat a」と合成動詞の「ekat a」の「空間 移動」につながる。そのうち,合成動詞の「ekat a」は空間移動から抽象的な移動まで表す用法を 持つ。 時間推移 を表す本動詞「kat a」は,補助動詞「ekat a」の 行為の反復状態持続 の 用法と関係がある。そして,正常ではない状態への変化を表す本動詞「kat a」は,補助動詞とし ての「ekat a」の 悪い状態への変化/マイナス評価の用法とつながっているのであろう。 このことを図示すると,以下の図 4のようになる。. ― 34―.

(9) 図 4: 「kat a」と「ekat a」の意味ネットワーク 11. 6.おわりに 日本語の「行く/来る」の研究は英語の「go/c ome 」と比較対照し,多くの研究がなされてき た。韓国語にも日本語の「行く/来る」に対応する「kat a/ot a」という動詞があるが,両方を対照 研究したのは日英と比べるとそれほど多くない。日本語の「行く/来る」が「ていく/くる」の形で 補助動詞的に使われるのと同様に韓国語の「kat a/ot a」も「ekat a/ot a」の形で補助動詞的に用い られる。しかし,「ekat a(ていく)」は形が同じであっても,補助動詞の「ekat a」以外に並列的な 関係の「ekat a」,合成動詞の「ekat a」の 3種類が存在する。韓国国内の多くの先行研究では,そ の分析対象を補助動詞としての「ekat a」に限定している研究が多く見られる。本稿では, 「ekat a」 の多義性は,本動詞「kat a」の用法と密接な関係があること述べ,本動詞「kat a」と並列的な関係 の「ekat a」,合成動詞の「ekat a」,補助動詞の「ekat a」は文法化の過程を通して,有機的につ ながっていることを意味ネットワークで提示した。 本稿で考察した「kat a」と「ekat a」と同じようなつながりが「ot a(来る)」と「eot a(てくる)」 にも見られると考えられるが,これについては今後の課題とする。 注 1 韓国語の表記には,ハングル表記と Yal e式(Mar t i n,Samue lE.e tal .1976)のローマ字表記を用いる。 例文の韓国語表記はハングル表記とローマ字表記を併記するが,本文中の韓国語表記は文やフレーズの場合 はハングル表記とローマ字表記にし, 単語など短い場合にはローマ字表記にする。 なお, 「ekat a」は前に来る語の音により,「a kat a」「yekat a」にもなるが,本稿ではこれらの代表形として 「ekat a」と示すことにする。 2 プロトタイプ(pr ot ot ype )とは,カテゴリーにおける代表例のことを指す。例えば,鳥(カテゴリー)と 言えば,スズメ,カラス,ハトになり,家具と言えば,タンス,テーブル,椅子,などの代表例が浮かぶ ( 2002:224)。本稿で言う「プロトタイプ的用法」とは, 「kat a」 「ekat a」の最も代表的な用法を意味する。 3 視座とは,松木(1992)の用語であり,「見る場所,どこ(何)を見ているか」を意味する。本稿では, 言語学で一般的に用いる 視点 という曖昧な用語を避けるために, 視座 と 注視点(見られる客体 (対象),どこ(何)を見ているか)を厳格に分けるという松木の視点の捉え方に従う。 4(2)は作例,(3)は池上(2006:174)からの例文であるが,池上は「単なる移動を表す場合」と述べてい ― 35―.

(10) る。また英語の ・ go・にも ・Thee ar t h goe sr oundt hes un. ・のように, 移動動詞 としての方向性に ついて限定のない用法があるようである(同,175)。英語の ・ go/c ome ・の直示性について,山添(2004) も ・ c ome ・には直示的な用法しかないのに対し,・ go・には直示的非直示的の二用法があると指摘してい る。また池上嘉彦氏との個人談話(2008年)で「ドイツ語の ・ ge he n(いく) ・と ・ komme n(くる) ・におい ても同じような現象が見られる」とのご教示を頂いた。こうして考えてみると,日韓英独語において 「くる/ot a/c ome /komme n」は直示的な用法しかないのに対し,「いく/kat a/go/ge he n」には直示的 と非直示的(中立的)な二用法があると考えられる。この点は,言語類型論的に見て非常に興味深いが,詳 細な議論は今後の課題とする。 5 スキーマ(s c he ma)とは,「カテゴリーの全成員に共通して想定される抽象的な理想像」(吉村 2004:47) のことである。 6 慣用的表現は本稿の主旨ではないので,詳細な考察は行わないが,話し手が「行く」か「来る」かを選ぶの ではなく,慣用的表現となっているものがある。例えば,『厩嬢企紫穿(国語大辞典(ハングル大辞典))』に 載っている「kat a」と「ot a」の意味の中で「kat a」のみが使用される例には,以下のようなものがある。 ①ある時期まで保存する 「戚 増精 旋嬢亀 20鰍精 娃陥/ic i punc e ke t o20ne ynunkant a. /(直訳:この家は少なくとも 20 年はいく,意訳:この家は少なくとも 20年は保つ)」 ②あることに力が注がれる 「謝戚 弦戚 亜澗 析/s onimanhikanun i l /(直訳:手がたくさんいくこと,意訳:手間がたくさん かかること)」 ③心(気持ち)がある状態になる 「戚背亜 亜陥/i haykakant a. /(直訳:理解が行く,意訳:理解できる)」 ④全盛期あるいは華麗な時代が過ぎる 「廃弘 娃 進/hanmwulkan os /(直訳:盛りがいく服,意訳:流行が過ぎた服)」 ①~④のように,韓国語の「kat a」は抽象的事態を先へ進める意識として,捉えられていると言える。 言い換えれば,本動詞としての「行く」の拡張用法においてそれぞれ下位分類はあるとしても,その根底に は話題の地点からの遠ざかりとして捉えることが窺える。 チョソク ホ. パクソンオク. 7(9)は繕汐硲(1997:199)からの例文,(10)は作例,(11)は酵識秦(2002:103)の例文である。 8 韓国語の「kat a」や「ekat a」の日本語訳は,空間的な移動を表す場合は「行く」「て行く」,時間推移や 状態変化など拡張された意味で用いられる場合は「いく」「ていく」で示す。 9 この例文では,主語が明示されていないので,分かりづらいかも知れないが,続く文には「焼巷亀 鎧亜 益 員拭 阿粕 赤陥澗 闇 乞牽澗 暗醤/amut onaykakukos e ykat hyei s s t anunke nmol ununke ya/ (だれも私がそこに閉じ込められたというのは分からないだろう)」とあり,話者自身のことであることが分 かる。 10 このことについて徐(2009/2013)は,「ekat a」のこの用法について 直示性,そして 正常状態直示 (nor mal s t at ede i xi s )と 評価直示(e val uat i vede i xi s )が重要な手がかりになると述べている。正常 状態直示 と 評価直示 は,Cl ar k(1974)からの用語であるが,Cl ar kは,これらの ・ de i c t i cc e nt e r ・ (以下,DC)を「正常状態直示では,自己(e go)の拡張は正常状態であり,評価直示では,自己(e go) の拡張は一般的に認められる状態や観点である」(p.331)と述べている。正常状態直示と 評価直示 のそれぞれの DCから離れる場合は,(「eot a」に較べ)必然的に「悪い方への変化」あるいは「話者の望 まない方への変化」を表す場合が多く,この場合の「ekat a」は直示的である。一方,非直示的な「ekat a」 は,そのような用法がなく,状態が徐々に変化する過程のみを表し,それゆえ客観的表現と言える。詳細な 議論は徐(2009:82~89/2013:88~94)を参照されたい。 11 図 4は徐(2009:155/2013:165)で提示した「kat a」と「ekat a」の意味ネットワークを修正補完した ― 36―.

(11) ものである。 参考文献 池上嘉彦(20 06)『英語の感覚日本語の感覚  ことばの意味のしくみ』日本放送出版協会,NHKブックス. 徐. 珉廷(2009)『日本語話者と韓国語話者における主観的な 事態把握  の対照研究 「ていく/くる」と 「ekat a/ot a」の補助動詞用法を中心に 』昭和女子大学大学院文学研究科言語教育コミュニケーシ ョン専攻博士論文.. 徐. 珉廷(2013)『事態把握における日韓話者の認知スタンス  認知言語学の立場から見た補助動詞的な用 法の「ていく/くる」と「ekat a/ot a」の主観性 』ココ出版.. . 幸夫(2002)『認知言語学キーワード事典』研究社.. 裵. 德 (1985)「韓日移動動詞に関する研究  亜陥神陥 行く来る を中心に」『日本学報』15輯, pp.13

(12) 40,韓国日本学会.. 松木正恵(1992)「 見ること と文法研究」『日本語学』11 (9),pp.57

(13) 71,明治書院. 山添秀剛(2004)『移動動詞 c ome /goの意味ネットワークならびに状態変化用法に関する認知言語学的考察』 大阪市立大学大学院文学研究科言語文化学専攻博士論文. 吉村公宏(2004)『はじめての認知言語学』研究社. 吉本. 一(2002)「 行く来る と視点」『東アジア日本語教育日本文化研究』第 4輯,pp.19

(14) 33,東アジア. クォンスン グ. 日本語教育日本文化研究学会.. 5)『厩嬢左繕遂情税 尻姥(国語補助用言の研究)』忠南大学校大学院国語国文学科博士論文. 映 授姥(200. キムソンファ. 沿失鉢(1993 )『厩嬢税 雌尻姥(国語の相研究)』(改訂版 2003),廃重庚鉢紫( 信文化社). 南基心,李相億,洪在星他共著(1999)『須厩昔聖 是廃 廃厩嬢嘘整税 号骨引 叔薦(外国人のための韓国語教 育の方法と実際)』韓国放送大学出版部.. パクソンオク. )『廃厩左繕疑紫尻姥(国語補助動詞研究)』中央大学校大学院国語学専攻博士論文. 酵識秦(2002 ペ. ス ジャ. 壕呪切(2007 )『薄企 厩嬢 左繕遂情 尻姥(現代国語補助用言研究)』 昌原大学校大学院国語国文学科博士論文. ソン セ. モ ドル. 謝室乞宜(19 96)『厩嬢 左繕遂情 尻姥(国語補助用言の研究)』廃厩庚鉢紫(韓国文化社). イ. ギ ドン. 戚奄疑(1977) 「疑紫 神陥 亜陥 税 税耕 歳汐(動詞 ot a kat a の意味分析)」 『源(言葉)』第 2集,pp. 139

(15) 160,延世大学校韓国語学堂. 谿熙昇編著(1986)『厩嬢企紫穿(国語大辞典(ハングル大辞典))』民衆書林. チョソク ホ. 繕汐硲(1997)「廃析 丞厩嬢 左繕遂情税 搾嘘 尻姥  ・神陥/亜陥・貢 ・くる/いく・研 掻宿生稽

(16) (韓日 両国語における補助用言の比較研究  ・ot a/kat a・および ・くる/いく・を中心に)」 『国語国文学』vol . チェヒョン ベ. 16,東亜大学校国語国文学科.. 7/1976)「酔軒源沙(我々の文法)」『歴代韓国文法体系』第 1部第 18冊,転窒毒紫(塔出版社). 置 薄 壕(193. Cl ar k,E.V.1974.・Nor malSt at e sandEval uat i veVi e wpoi nt s . ・Language ,Vol .50.No.2.316

(17) 332. Mar t i n,Samue lE.e tal .1976.A Ko r e anEngl i s h Di c t i onar y.Ne w Have n:Yal eUni ve r s i t y Pr e s s . 言語資料. キム ユ ゴン. 巷虞朝耕 馬欠徹(村上春樹)/沿政逸訳(2000)『重税 焼戚級精 乞砧 茶秩陥(神の子どもたちはみな踊る)』 シンギョンスク. 庚俳紫雌亜.. 5/2006)『須享号(離れ部屋)』(爽)庚俳疑革. 重 井 寿(199 イ ムンヨル. 戚庚伸(1998 )『酔軒級税 析益君遭 慎酔(我々の歪んだ英雄)』亀辞窒毒 陥顕. キムナンジュ. 拭庭艦 亜神軒(江國香織)/沿貝爽訳(2001 )『鋼側鋼側 笹蟹澗(きらきらひかる)』社眼窒毒紫. 疏精 持唖 紫寓級(良い考えの人々)(2008)『疏精 持唖(良い考え)』2008年 1月号,疏精 持唖 紫寓級(良 い考えの人々). (ソ ― 37―. ミンジョン. 国際学科).

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参照

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