〈原著〉搾出法を用いたタナゴ類7種の人工繁殖
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(2) 2. 北川 哲郎. 魚類が必要となるなど,繁殖様式は多くの生 物種が関わる非常に複雑なものとなっている 3)。 2.繁殖特性調査. タナゴ亜科の人為環境下における完全な人工 繁殖は困難とされ,生息域外保存に際しては, 大規模な繁殖池を用いた粗放的手法によって 行なわれる例が多い. 4,5,6). 。屋外における保存. 2–1).ヤリタナゴ Tanakia lanceolata ヤリタナゴは,北海道と九州南部を除く日本. は,産卵床となる二枚貝の健康維持や飼育個. 各地と朝鮮半島西部に見られる広域分布種で,. 体数の許容量に優れているが,飼育環境の劣. 河川の中・下流域および河川と接続する用水. 化や外来種の侵入など多くの不確定要素を抱. 路に生息する. えている。さらに,二枚貝類もまた生息環境の. などにより近年個体数を減じ,最新の環境省. 悪化により近年個体数を減少させ,危急度を. 版レッドリストにおいて準絶滅危惧に位置づけ. 高めている. 7,8). 。しかし,二枚貝類の人工繁殖. 手法は未だ確立されておらず. 9,10,11). られている. 2). 17,18). 。本種は,河川改修の影響. 。さらに,分布域が広範にわたる. ,タナゴ亜. ために危急度の高い地方個体群が多数含ま. 科の安定した系統保存には,二枚貝類の資源. れ,地方版 RDB においては 1 都 1 県で絶滅. 保護の観点からも施設内における生物材料に. 種,11 県で絶滅危惧 I 類以上にカテゴライズさ. 依存しない人工繁殖技術が求められる。生物. れている. 材料を用いない繁殖技術として提案されてい. 野・澤田(2002)が二枚貝を用いた繁殖実験を. る搾出法(シャーレ法)は,イタセンパラ. 20 ). Acheilognathus longipinnis や ミ ヤ コ タ ナ ゴ. (2000)がシャーレ法による飼育を 12,13,21),それ. Tanakia tanago,ゼニタナゴ A. types など,希. ぞれ試みているが,手順の煩雑さから再現性. 少種をはじめとした複数種を対象として試みら. に欠けるうえ得られた情報は断片的である。. 19). 。本種の繁殖特性については,上. , 和 田 ・ 小 林 ( 1983 , 1984 ) と 松 岡 ・ 佐 藤. れ,有効な技術であることが示されている. 材料・方法 . 6,12,13,14,15 ). 。しかし,先行例の多くは主として繁. 親魚 親魚には,2014 年 5 月に採集された. 殖の能否に焦点が当てられており,人為環境. 佐賀県産の自然成熟個体を用いた。実験で. 下における生残率や成長率の向上に目を向. は,雄 5 個体(SL,58.0 – 68.7 mm,BW,5.4 –. けた研究は不足し,とりわけ好適初期飼育条. 7.9 g)と雌 4 個体(SL,62.3 – 69.7 mm,BW,. 件に関する情報は少ない。本調査では,シャ. 6.0 – 8.1 g)を人工授精に供した。採集した個. ーレ法を用いたタナゴ亜科の効率的人工繁殖. 体は 67 l ガラス水槽(60 × 30 × 45 cm,以下,. 技術系の確立を目的とし,北川・細谷(2012). 67 l 水槽)に収容し,自然水温,長日環境(20. 16). ,現在までシャ. W 白色蛍光灯,14 h L-10 h D)下で飼育を. ーレ法の能否が明らかとされていない希少種. 開始した。水槽内には,最終成熟を促すため. および実験動物として活用し得る種の繁殖特. に 1 個の富雄川産ドブガイ類 Anodonta sp.を. 性ならびに初期成長について調査した。. 投入した。飼育期間中は,毎日 10 時と 17 時に. に従って繁殖実験を行ない. なお,本報は著者の学位論文第 3 章 1 節に 加筆修正を施したものである。. 水温を測定し,クランブル飼料を飽食量給餌し た。なお,本報で用いた親魚は,アブラボテ T. limbata,カネヒラ A. rhombeus,イチモンジタナ.
(3) 搾出法を用いたタナゴ類 7 種の人工繁殖. 3. ゴ A. cyanostigma を除き本種と同条件で飼育. 回(5 月 11,26,27 日,6 月 7,11 日)試みた。. した。. 受精卵は 20 粒あるいは 30 粒ずつガラス製シ. 人工授精および初期飼育 搾出採卵およ び人工授精は,2014 年 5 – 6 月の期間中に 5. ャーレに収容し,全個体が浮上あるいは斃死 するまで飼育した。. Fig.1.The water temperature in the breeding season of Tanakia lanceolata.Diamond: 10:00, box: 17:00, circle: mean value.Black circles and black arrows represent the days when eggs were collected.. Rearing period (Days after hatching). Fig.2.Larval growth of Tanakia lanceolata.Circle represents mean value,and bar,standard deviation.Black arrow indicates that the larvae have reached the black-eye stage.. Fig.3.Survival rates of Tanakia lanceolata larvae from the hatching to eyed stages and emergence.Open and ashy bars represent the black-eyed and the swimming out larvae, respectively..
(4) 4. 北川 哲郎. Rearing period (Days after hatching). Fig.4.The frequency distributions of deaths of larval Tanakia lanceolata. 結 果. 上率は 25.2 %(n=53)であった(Fig.3)。斃死. 採卵条件 搾出採卵の結果,産卵管が伸. 個体は成長率に変化が見られた 8 日目と浮上. 長し完熟卵を排出する雌親魚は,日中水温が. 前後に多く出現し(Fig.4),さらに腹腔部が膨. おおむね 20 °C を上回った 5 月中旬から 6 月. 潤する畸形体が 7 個体生じた。. 中旬に観察された(Fig.1)。完熟卵は延べ 5 2–2).アブラボテ Tanakia limbata. 個体の雌親魚から得られ,卵数は 30 – 211 粒 (109.6 ± 71.1,平均 ± 標準偏差)であった。. アブラボテは,濃尾平野以西から九州北部. 雄親魚からは,例外なく十分量の精液が搾出. までの西日本と朝鮮半島西部に見られる種で,. された。採卵成功時の産卵管長は OI 0.13 –. 水草の繁茂した細流や湧水を水源とする小水. 0.21 であった。. 路など,河川本流からやや隔離された流水域. 初期成長特性 卵はレモン Citrus limon の. に多く生息する. 17,18). 。本種は,圃場整備事業. 果実に似た楕円型を呈し(長径:3.4 ± 0.14. の影響などにより近年個体数を減じ,最新の. mm,短径:1.3 ± 0.14 mm;n=21),弱い粘着. 環境省版レッドリストにおいて準絶滅危惧に. 性を示した。シャーレ内の受精卵は,互いに粘. 地方版 RDB においては 4 県で絶滅危惧 I 類. 着し卵塊をなした。受精卵は採卵 3 日後に孵. に. 化し,仔魚は孵化から 2 日後に発眼を(6.6 ±. 繁殖特性については,和田・小林(1983,1984). 0.52 mm TL),17 日後に浮上を(9.4 ± 0.65. がシャーレ法による飼育実験を試みているが. mm TL),それぞれ開始した(Fig.2)。孵化後. 12,13 ). の卵膜はやや白濁し,複数個がひとつの塊と. る。. 19 ). 2). ,. ,それぞれ位置づけられている。本種の. ,現在までに得られた情報は断片的であ. なってシャーレ底面に粘着していた。孵化直. 材料・方法 . 後の仔魚は換水などの飼育操作に応じてわず. 親魚 親魚には,2011 年 6 – 11 月に,福井. かに蠕動し,孵化後 6 日目頃からは正の走流. 県敦賀市,兵庫県加古川市,奈良県奈良市,. 性を現した。さらに,発眼後には光刺激に反応. 滋賀県守山市でそれぞれ採集された自然成. してシャーレ内を壁面沿いに泳ぎ回るようにな. 熟個体を用いた。実験では,雌雄各 17 個体. った。また,浮上前の仔魚には正の走流性が. (♂:SL,36.5 – 54.1 mm,BW,1.5 – 3.4 g;♀:. 認められた。発眼率は 96.2 %(n=202)で,浮. SL,32.1 – 53.0 mm,BW,1.0 – 3.7 g)を人工.
(5) 搾出法を用いたタナゴ類 7 種の人工繁殖. 5. 授精に供した。採集した個体は屋外に設置し た 210 l FRP 水槽(100 × 65 × 550 cm)に収容 した。飼育期間中は,毎日 10 時と 17 時に水温 を測定し,クランブル飼料を飽食量給餌した。. 結 果 採卵条件 搾出採卵の結果,産卵管が伸 長し完熟卵を排出する雌親魚は,日中水温が. 人工授精および初期飼育 搾出採卵およ. おおむね 15°C を上回った 4 月下旬から 7 月. び人工授精は,2012 年 4 – 7 月の期間中に 15. 中旬に観察された(Fig.5)。完熟卵は延べ 12. 回(4 月 21,22,23 日,5 月 21,22,24,30 日,. 個体の雌親魚から得られ,卵数は 5 – 35 粒. 6 月 10,11,18,19,23,26,27 日,7 月 16 日). (17.3 ± 10.1)であった。雄親魚からは,例外な. 試みた。受精卵は採卵数に応じて 8 – 18 粒ず. く十分量の精液が搾出された。採卵成功時の. つガラス製シャーレに収容し,全個体が浮上. 産卵管長は OI 0.27 – 0.46 であった。. あるいは斃死するまで飼育した。. Fig.5.The water temperature in the breeding season of Tanakia limbata.Diamond: 10:00, box: 17:00, circle: mean value.Black circles and black arrows represent the days when eggs were collected.. Rearing period (Days after hatching). Fig.6.Larval growth of Tanakia limbata.Circle represents mean value,and bar, standard deviation.Black arrow indicates that the larvae have reached the black-eye stage..
(6) 6. 北川 哲郎. Fig.7.Survival rates of Tanakia limbata larvae from the hatching to eyed stagea and emergence.Open and ashy bars represent the black-eyed and the swimming out larvae, respectively. F: Fukui, H: Hyogo, N: Nara, S: Shiga.. Rearing period (Days after hatching). Fig.8.The frequency distributions of deaths of larval Tanakia limbata. 初期成長特性 卵は動物極側がややすぼ まった巾着型を呈した(長径:2.9 ± 0.12 mm, 短径:2.0 ± 0.12 mm;n=14)。受精卵は採卵 3. 2–3).カネヒラ Acheilognathus rhombeus. 日後に孵化し,仔魚は孵化から 4 日後に発眼. タナゴ亜科には,特異的に秋季に産卵する. を(6.5 ± 0.51 mm TL),16 日後に浮上を(8.9. 種があり,日本産ではカネヒラ,イタセンパラ,. ± 0.73 mm TL),それぞれ開始した(Fig.6)。. ゼニタナゴの 3 種が知られている. 孵化後の卵膜は,ほぼ原形をとどめた状態で. のカネヒラを除く 2 種は,いずれも環境省版レ. シャーレ底面上に分散していた。孵化仔魚は,. ッドリストにおいて絶滅危惧 IA 類に位置づけら. ヤリタナゴと同じく換水などの飼育操作に応じ. れているほか,イタセンパラは天然記念物にも. てわずかに蠕動し,孵化後 6 日目頃からは正. 登録される希少種である. の走流性を現した。さらに,発眼後には光刺激. 類は,淡水二枚貝の中で前期仔魚のまま越冬. に反応してシャーレ内を壁面沿いに泳ぎ回る. するというタナゴ亜科の中でも極めて特異な繁. ようになった。発眼率は 81.7 %(n=152)で,浮. 殖生態を有し. 上率は 74.7 %(n=139)であった(Fig.7)。斃. 知られる。絶滅危惧に指定される 2 種の人工. 死個体は浮上直前である孵化後 13 – 16 日目. 繁殖技術は上原(2011)や勝呂(2013)で報告. に多く出現した(Fig.8)。. されているが 6,15),いずれも繁殖の能否に着目. 17 ). 17,18 ). 22). 。普通種. 。秋産卵タナゴ. ,人工繁殖が難しい類として.
(7) 搾出法を用いたタナゴ類 7 種の人工繁殖. 7. したもので,繁殖技術の確立には更なる技術 開発が求められる。飼育技術の検証には多数 の種苗を犠牲とすることが不可避であるが,危 機的状況におかれる 2 種を材料とした実験を 行なうことは,希少種保護の観点から問題があ る。そこで,秋産卵タナゴ類に含まれる唯一の 普通種であるカネヒラの繁殖特性を精査し,人 工繁殖技術の開発に供する実験動物として活 用することが望まれる。 材料・方法 親魚 親魚には,2012 年 10 月に採集され た琵琶湖産の自然成熟個体を用いた。実験で は,延べ雌雄各 9 個体(♂:SL,58.0 – 68.7 mm,BW,5.4 – 7.9 g;♀:SL,62.3 – 69.7 mm, BW,6.0 – 8.1 g)人工授精に供した。採集した 個体は 67 l ガラス水槽(60 × 30 × 45 cm,以下, 67 l 水槽)に収容し,自然水温,短日環境(20 W 白色蛍光灯,10 h L – 14 h D)下で飼育を 開始した。水槽内には,最終成熟を促すため に 1 個の富雄川産ドブガイ類を投入した。飼育 期間中は,毎日 10 時と 17 時に水温を測定し, クランブル飼料を飽食量給餌した。 人工授精および初期飼育 搾出採卵およ び人工授精は,2012 年 10 – 11 月の期間中に 6 回(10 月 15,20,22,23,29 日,11 月 2 日) 試みた。初期飼育に際して,受精卵は,約 20 粒ずつガラス製シャーレに収容し,Ⅰ:恒温区. Rearing period (Days after hatching). Fig.9.Water temperature adjustment process during the initial breeding of Acheilognathus rhombeus from October,2012 to March, 2013.. (20 °C),Ⅱ:低温区(最低 5 °C),Ⅲ:低温 +1ppm メチレンブルー添加区,の 3 条件下 (Fig.9)において 180 日の飼育に供した。低 温処理に際しては,上原(2011)を参考とし. 15). 孵化後 10 日目から飼育水温を 5 °C になるま で冷却し,孵化後 120 日目以降に 20 °C にな るまで加温した。操作は,水温の変化が 1°C/ 日となるように調整した。 結 果 採卵条件 搾出採卵の結果,産卵管が伸 長し完熟卵を排出する雌親魚は,日中水温が おおむね 20 °C を下回った 10 月中旬から 11 月初旬に観察された(Fig.10)。完熟卵は採卵 に供した全ての雌親魚から得られ,卵数は 46 – 72 粒(59.8 ± 7.4)であった。雄親魚からは, 例外なく十分量の精液が搾出された。採卵成 功時の産卵管長は OI 0.25 – 0.38 であった。. Fig.10.The water temperature in the breeding season of Acheilognathus rhombeus.Diamond: 10:00, box: 17:00, circle: mean value.Black circles and arrows represent the days when eggs were collected.. ,.
(8) 8. 北川 哲郎. Rearing period (Days after hatching) Fig.11.Larval growth of Acheilognathus rhombeus.Circle represents mean value, and bar, standard deviation.Black arrow indicates that the larvae have reached the black-eye stage.Black and ashy diamond represent the section I and the section II,respectively (See Fig.9).. Fig.12.Survival rates of Acheilognathus rhombeus larvae from the hatching to eyed stages and emergence.Open and ashy bars represent the black-eyed and the swimming out larvae, respectively.I: stable temperature section,II: cooling section III: cooling and treatment section (1ppm methylene blue solution).. Rearing period (Days after hatching). Fig.13.The frequency distributions of deaths of larval Acheilognathus rhombeus.Ashy:stable temperature section,black:cooling section. 初期成長特性 卵は鶏卵型を呈し(長径:. 139 日後に発眼を,145 日後に浮上を,それぞ. 2.6 ± 0.16 mm,短径:1.6 ± 0.13 mm;n=26),. れ開始した(Fig.11)。孵化後の卵膜は,皺を. やや白濁した粘着性の物質を少量伴った。受. 生じ原形をとどめない状態でシャーレ底面に. 精卵はシャーレ内で互いに粘着し,卵塊をな. 軽く粘着していた。仔魚は孵化後ただちに蠕. した。受精卵は採卵 3 日後に孵化し,仔魚は. 動を開始し,換水などの飼育操作時に正の走.
(9) 搾出法を用いたタナゴ類 7 種の人工繁殖. 9. 流性を示したほか,発眼後には光刺激に反応. 版レッドリストでは危急度のもっとも高い絶滅危. して運動強度を高めた。なお,蠕動は低温飼. 惧 IA 類に位置づけられている 2)。本種は,環. 育中においても観察されたが,水温 20 °C の. 境省生息域外保全モデル事業の対象種に選. 時に比べて運動強度は大幅に低下した。浮上. 定され,琵琶湖個体群を中心に系統維持の試. 仔魚は低温処理を施したⅡ,Ⅲ区のみから得. みが続けられている 23)。しかし,現行事例は粗. られた(Fig.12)。斃死個体は,一定環境下で. 放的繁殖法によるもので,飼育下における本. 飼育した I 区では孵化後 35 – 75 日目に,低温. 種の生態情報は集積されていない。. 処理を施したⅡ区では孵化後 45 – 48 日目と. 材料・方法 . 浮上前後に,それぞれ多く生じた(Fig.13)。. 親魚 親魚には,2011 年 10 月に採集され,. Ⅱ区の発眼率は 20.0 %(n=24)で,浮上率は. 近畿大学農学部キャンパス内の 3t 水槽で継. 11.7 %(n=14),Ⅲ区の発眼率は 15.0 %(n=18). 代飼育される,京都市平安神宮系統の継代第. で,浮上率は 6.7 %(n=8)であった。メチレンブ. 1 世代の 1 歳魚を用いた。3t 水槽には,クワイ. ル ー を 添 加 し た Ⅲ 区 ( 52.5 % ) で は , Ⅱ 区. Sagittaria trifolia var. edulis と ネ ジ レ モ. (2.5 %)に比べて腹腔部が膨潤する畸形体が. Vallisneria asiatica var. biwae を植栽し,最終. 多く出現した(Fisher’s exact test,p < 0.01)。仔. 成熟を促すために富雄川産のドブガイ類をそ. 魚はいずれの区においても孵化後約 18 日目,. れぞれ数個ずつ投入した。飼育期間中は,毎. 脊椎屈曲前期で成長を中断し,約 125 日目以. 日 10 時と 17 時に水温を測定し,クランブル飼. 降に再開した(Fig.11)。体表の黒色素胞は発. 料を飽食量給餌した。. 眼以降に発達した。. 人工授精および初期飼育 搾出採卵およ び人工授精は,2013 年 4 – 6 月の期間中に 8. 2–4).イチモンジタナゴ Acheilognathus. 回(4 月 14,15,27 日,5 月 5,14 日,6 月 1,9, 17 日)試みた。親魚には,2 基のモンドリ網を. cyanostigma イチモンジタナゴは,濃尾地方と近畿地方 18). 用いて飼育水槽から取り上げた自然成熟個体. ,自然分布するすべて. 延べ 243 個体(雄:n=24,41.1 – 69.3 mm SL,. の水系で急激に個体数を減じ,最新の環境省. 1.5 – 7.2 g;雌:n=219,25.9 – 50.9 mm SL,0.3. の一部に局在するが. Fig.14.The water temperature in the breeding season of Acheilognathus cyanostigma.Diamond: 10:00, box: 17:00, circle: mean value.Black circles and arrows represent the days when eggs were collected..
(10) 10. 北川 哲郎. – 2.8 g)を用いた。受精卵は採卵数に応じて 9. は 1 – 25 粒(10 ± 7.5)であった。搾出時には,. – 25 粒ずつガラス製シャーレに収容し,全個. 完熟卵の中に卵黄が充填されず不定型な未. 体が浮上あるいは斃死するまで飼育した。. 熟卵が混じった。未熟卵は不規則に出現し,. 結 果. 未熟卵が排出された後に再び完熟卵が得ら. 採卵条件 搾出採卵の結果,産卵管が伸. れる例が複数あった。雄親魚からは,例外なく. 長し完熟卵を排出する雌親魚は 4 月初頭から. 十分量の精液が搾出された。採卵時の産卵管. 出現し,水温が連続して 26 °C を超えた 6 月. はバラタナゴと同じくほぼ採卵の可否に応じた. 中旬には観察されなくなった(Fig.14)。完熟. 2 峰形を呈し,完熟卵の多くは OI 0.8 以上の. 卵は,延べ 30 個体の雌親魚から得られ,卵数. 個体から得られた(Fig.15)。. Fig.15.The frequency distributions of ovipositor index of Acheilognathus cyanostigma.The bars show the success or failure of the collection of eggs.Gray: success,Open: failure.. Rearing period (Days after hatching). Fig.16.Larval growth of Acheilognathus cyanostigma.Circle represents mean value, and bar represents standard deviation.Black arrow indicates that the larvae have reached the black-eye stage..
(11) 搾出法を用いたタナゴ類 7 種の人工繁殖. 11. Fig.17.Survival rates of Acheilognathus cyanostigma larvae from the hatching to eyed stages and emergence.Open and ashy bars represent the black-eyed and the swimming out larvae, respectively.. Rearing period (Days after hatching). Fig.18.The frequency distributions of deaths of larval Acheilognathus cyanostigma. 初期成長特性 卵は細長い俵型を呈した. た,仔魚の中には,体が大きく湾曲する個体. (長径:3.1 ± 0.18 mm,短径:1.0 ± 0.14 mm;. (n=16)と腹腔部が膨潤する個体(n=14)との 2. n=23)。受精卵は人工授精から 2 日後に孵化. 種の畸形体が生じた。. した。孵化仔魚は孵化後 3 日目に発眼し(5.3 ± 0.41 mm TL,Fig.16),14 – 20 日目までの. 2–5).タナゴ Acheilognathus melanogaster. 期間中に浮上して遊泳を開始した(8.5 ± 0.57. タナゴは,関東地方以北に広く分布するが. mm TL,Fig.16)。発眼率は 49.3 %(n=102). 17). で,浮上率は 30.0 %(n=62)であった(Fig.17)。. 種の影響を受けて個体数を減じ,最新の環境. 仔魚の体長には,14 日目まで直線的に成長し. 省版レッドリストでは絶滅危惧 IB 類に位置づ. た後に成長率が鈍化する傾向が見られた(Fig.. けられている 2)。本種の保護に向けた取り組み. 16)。仔魚は孵化直後から蠕動を開始し,換水. としては,自然下における生息実態調査が進. などの飼育操作時に正の走流性を示したほか,. められているほか. 発眼後には光刺激に反応してシャーレ内を壁. 田・小林(1985)によって飼育下における初期. 面沿いに泳ぎ回った。斃死個体は孵化直後と. 発育特性が報告されているが. 発眼前後に多く生じた(Fig.18)。斃死個体の. 条件など人工繁殖技術の確立に求められる情. 多くは卵黄を漏出させ,飼育水を濁らせた。ま. 報は不足している。. ,圃場整備をはじめとした環境開発や外来. 24,25,26,27 ). ,中村(1969)や和 14,17). ,好適採卵.
(12) 12. 北川 哲郎. 材料・方法 . つガラス製シャーレに収容し,全個体が浮上. 親魚 親魚には,2014 年 9 月に採集された. あるいは斃死するまで飼育した。. 秋田県産の自然成熟個体を用いた。実験で. 結 果. は,雄 6 個体(SL,60.6 – 76.1 mm,BW,5.7 –. 採卵条件 搾出採卵の結果,産卵管が伸. 8.7 g)と雌 3 個体(SL,61.8 – 65.3 mm,BW,. 長し完熟卵を排出する雌親魚は 5 月中のみに. 4.5 – 5.6 g)を人工授精に供した。採集した個. 出現した(Fig.19)。完熟卵は 3 個体の雌親魚. 体は 67 l 水槽に収容した。. から得られ,卵数はそれぞれ 12 – 53 粒(29 ±. 人工授精および初期飼育 搾出採卵およ. 17.2)であった。雄親魚からは,例外なく十分. び人工授精は,2015 年 5 月中に 4 回(5 月 4,. 量の精液が搾出された。採卵時の産卵管長は. 6,13,20 日)試みた。受精卵は 12 – 18 粒ず. OI 0.31 – 0.42 であった。. Fig.19.The water temperature in the breeding season of Acheilognathus melanogaster.Diamond: 10:00, box: 17:00, circle: mean value.Black circles and arrows represent the days when eggs were collected.. Rearing period (Days after hatching) Fig. 20.Larval growth of Acheilognathus melanogaster.Circle represents mean value, and bar represents standard deviation.Black arrow indicates that the larvae have reached the black-eye stage..
(13) 搾出法を用いたタナゴ類 7 種の人工繁殖. 13. Fig.21.Survival rates of Acheilognathus melanogaster larvae from the hatching to eyed stages and emergence.Open and ashy bars represent the black-eyed and the swimming out larvae, respectively.. Rearing period (Days after hatching). Fig.22.The frequency distributions of deaths of larval Acheilognathus melanogaster. 初期成長特性 卵は薄い黄色で細長い俵. せ,飼育水を濁らせた。また,仔魚の中には,. 型を呈した(長径:3.8 ± 0.23 mm,短径:1.1 ±. 体が大きく湾曲する個体および短躯個体. 0.07 mm;n=19)。受精卵の粘着性は極めにし. (n=4),腹腔部が膨潤する個体(n=3)の,3 種. たような状態で底面に落着していた。受精卵. の畸形体が生じた。. は人工授精から 2 日後に孵化した。孵化仔魚 は孵化後 3 日目に発眼を開始し(6.2 ± 0.58. 2–6).ミナミアカヒレタビラ Acheilonathus. mm TL,Fig.20),15 – 23 日目までの期間中. tabira jordani. に浮上して遊泳を開始した(10.1 ± 0.64 mm. ミナミアカヒレタビラは,富山県から島根県ま. TL,Fig.20)。発眼率は 83.6 %(n=97)で,浮. での日本海側に分布し,河川下流の緩流域や. 上率は 53.4 %(n=62)であった(Fig.21)。仔. 平野部の湖沼,ため池およびそれらに連なる. 魚の体長には,孵化から浮上まで直線的に成. 用水路に生息する. 長する傾向が見られた(Fig.19)。仔魚は孵化. の影響や侵略的外来魚の食害を受けて激減. 直後から蠕動を開始し,換水などの飼育操作. し,最新の環境省版レッドリストにおいては最も. 時に強い正の走流性を示したほか,発眼後に. 危急度の高い絶滅危惧 IA 類に位置づけられ. は光刺激に反応してシャーレ内を壁面沿いに. ている. 泳ぎ回った。斃死個体は孵化直後に多く生じ. ては,清水・羽生(1981)が生殖年周期を. た(Fig.22)。斃死個体の多くは卵黄を漏出さ. 和田・小林(1983,1984,1985)が人工繁殖法. 2). 18,28). 。本亜種は,河川改修. 。アカヒレタビラ類の繁殖特性につい 29). ,.
(14) 14. 北川 哲郎. 12,13,14 ). ,棟方ほか. 56.6 – 75.3 mm,BW,4.9 – 9.2 g)と雌 8 個体. (2006)が小型プラスチックチューブを用いた. (SL,47.0 – 63.5 mm,BW,2.2 – 5.6 g)を人工. ならびに初期発育特性を 30 ). ,それぞれ報告している。し. 授精に供した。購入した個体は 157 l ガラス水. かし,いずれの先行研究も繁殖特性の一部を. 槽(90 × 45 × 45 cm,以下,157 l 水槽)に収容. 記載しているにすぎず,さらに近縁のアカヒレ. した。. 人工繁殖法を. タビラ A.t.erythropters を材料としたものであ. 人工授精および初期飼育 搾出採卵およ. るため本亜種へ即座に適用できるものではな. び人工授精は,2013 年 4 – 6 月の期間中に 17. い。また,Oshiumi and Kitamura(2009)は野生. 回(4 月 10,11,27 日,5 月 3,4,8,9,10,12,. 下における本亜種の繁殖特性を調査している. 16,24,29 日,6 月 3,12,17,18,23 日)試み. が. 31). ,安定した人為環境下における情報集積. た。受精卵は,採卵数に応じて 12 – 21 粒ずつ ガラス製シャーレに収容し,全個体が浮上ある. は進められていない。 材料・方法 . いは斃死するまで飼育した。. 親魚 親魚には,2012 年 12 月に大阪府内. 結 果. の観賞魚店で購入した富山県産個体を自然. 採卵条件 搾出採卵の結果,産卵管が伸. 成熟させて用いた。実験では,雄 7 個体 SL,. 長し完熟卵を排出する雌親魚は,日中水温が. Fig.23.The water temperature in the breeding season of Acheiognathus tabira jordani. Diamond: 10:00, box: 17:00, circle: mean value.Black circles and arrows represent the days when eggs were collected.. Rearing period (Days after hatching). Fig.24.Larval growth of Acheiognathus tabira jordani.Circle represents mean value, and bar, standard deviation.Black arrow indicates that the larvae have reached the black-eye stage..
(15) 搾出法を用いたタナゴ類 7 種の人工繁殖. 15. Fig.25.Survival rates of Acheilognathus tabira jordani larvae from the hatching to eyed stages and emergence.Open and ashy bars represent the black-eyed and the swimming out larvae, respectively.. Rearing period (Days after hatching). Fig.26. The frequency distributions of deaths of larval Acheilognathus tabira jordani. おおむね 15 °C を上回った 4 月初旬から 6 月. 眼後には光刺激に反応してシャーレ内を壁面. 下旬に観察された(Fig.23)。完熟卵は延べ. 沿いに泳ぎ回った。発眼率は 48.5 %(n=246). 26 個体の雌親魚から得られ,卵数は 2 – 67 粒. で,浮上率は 30.6 %(n=155)であった(Fig.. (24.2 ± 16.6)であった。雄親魚からは,例外な. 25)。斃死個体は孵化から発眼までの期間に. く十分量の精液が搾出された。採卵成功時の. 多く出現した(Fig.26)。斃死個体の多くは卵. 産卵管長は OI 0.26 – 0.48 であった。. 黄を漏出させ,飼育水を濁らせた。また,仔魚. 初期成長特性 卵は楕円型を呈した(長径:. の中には,体が大きく湾曲する個体(n=21)と. 3.0 ± 0.25 mm,短径:1.3 ± 0.15 mm;n=26)。. 腹腔部が膨潤する個体(n=18)との 2 種の畸形. 受精卵は採卵 2 日後に孵化し,仔魚は孵化か. 体が生じた。. ら 4 日後に発眼を(5.7 ± 0.46 mm TL;Fig.24), 14 日後に浮上を(7.9 ± 0.58 mm TL;Fig.24),. 2–7).シロヒレタビラ Acheilognathus ta-. それぞれ開始した。孵化後の卵膜は原形を保. bira tabira. った状態でシャーレ底面上に分散していた。. シロヒレタビラは,濃尾平野,琵琶湖・淀川. 仔魚は孵化直後から蠕動を開始し,換水など. 水系,山陽地方ならびに四国北部に分布し,. の飼育操作時に正の走流性を示したほか,発. 河川下流の緩流域,ワンド帯,湖沼やため池.
(16) 16. 北川 哲郎. およびそれらに連なる用水路に生息する. 16,17). 。. 親魚 親魚には,2012 年 6 月に採集した岐. 本亜種は,河川改修の影響や侵略的外来魚. 阜県産の自然成熟個体を用いた。実験では,. の食害を受けて激減し,最新の環境省版レッ. 雄 5 個体(SL,56.7 – 69.8 mm,BW, 4.3 –. ドリストにおいては絶滅危惧 IB 類に位置づけ. 6.3 g)と雌 6 個体(SL,47.0 – 62.9 mm,BW,. 2). られている 。本亜種の繁殖特性については,. 3.8 – 5.8 g)を人工授精に供した。採集した個. 中村(1969)が野生個体の繁殖特性ならびに. 体は 157 l 水槽に収容した。. 初期発育特性を. 17). ,和田・小林(1985)が飼育. 下における初期発育特性を. 14). ,それぞれ報告. 人工授精および初期飼育 搾出採卵およ び人工授精は,2012 年 6 月に 5 回(6 月 3,11,. している。しかし,先行研究の内容は初期発育. 14,17,20 日)試みた。受精卵は,採卵数に応. に偏り,好適採卵条件など人工繁殖技術の確. じて 15 – 19 粒ずつガラス製シャーレに収容し,. 立に求められる情報は不足している。. 全個体が浮上あるいは斃死するまで飼育し. 材料・方法 . た。. Fig.27.The water temperature in the breeding season of Acheiognathus tabira tabira.Diamond: 10:00, box: 17:00, circle: mean value.Black circles and arrows represent the days when eggs were collected.. Rearing period (Days after hatching). Fig.28.Larval growth of Acheiognathus tabira tabira.Circle represents mean value, and bar, standard deviation.Black arrow indicates that the larvae have reached the black-eye stage..
(17) 搾出法を用いたタナゴ類 7 種の人工繁殖. 17. Fig.29.Survival rates of Acheilognathus tabira tabira larvae from the hatching to eyed stages and emergence.Open and ashy bars represent the black-eyed and the swimming out larvae, respectively.. Rearing period (Days after hatching). Fig.30.The frequency distributions of deaths of larval Acheilognathus tabira tabira. 結 果. 仔魚は孵化直後から蠕動を開始し,換水など. 採卵条件 搾出採卵の結果,産卵管が伸. の飼育操作時に正の走流性を示したほか,発. 長し完熟卵を排出する雌親魚は,日中水温が. 眼後には光刺激に反応してシャーレ内を壁面. おおむね 20 – 25 °C になる期間に観察された. 沿いに泳ぎ回った。発眼率は 81.9 %(n=245). (Fig.27)。完熟卵は延べ 6 個体の雌親魚から. で,浮上率は 80.9 %(n=242)であった(Fig.. 得られ,卵数は 37 – 104 粒(62.8 ± 28.0)であ. 29)。斃死個体は孵化から発眼までの期間に. った。雄親魚からは,例外なく十分量の精液が. 多く生じた(Fig.30)。. 搾出された。採卵成功時の産卵管長は OI 0.33 – 0.48 であった。. 3.畸形魚の観察. 初期成長特性 卵は楕円型を呈した(長径: 2.0 ± 0.16 mm,短径:1.1 ± 0.11 mm;n=24)。. 本報においては,タナゴ亜科に共通する畸. 受精卵は採卵 2 日後に孵化し,仔魚は孵化か. 形体として,体が大きく湾曲する個体と腹腔部. ら 3 日後に発眼を(4.9 ± 0.47 mm TL;Fig.28),. が膨潤する個体との 2 種が出現した(Fig.31)。. 15 日後に浮上を(8.2 ± 0.44 mm TL;Fig.28),. 畸形の出現時期としては,運動開始直後にそ. それぞれ開始した。孵化後の卵膜は原形を保. の場で旋回するような行動をとる個体が生じ,. った状態でシャーレ底面上に分散していた。. さらに発眼前後から卵嚢部分が肥大する個体.
(18) 18. 北川 哲郎. が生じたことから,前者は孵化前後,後者は孵. 結 果. 化から数日後であると推定される。人工繁殖種. 体に湾曲が見られた個体の脊椎骨を観察し. 苗における主要な畸形体の例としては,脊椎. たところ,体表の黒色素胞が発達しない小型. 骨の癒合や湾曲,骨組織の過形成による形態. 個体に Alizarin red を用いた硬骨染色が不可. 32,33,34). 。タナゴ. 能な例が複数生じ,体の湾曲は脊柱の硬骨化. 亜科の人工繁殖時における畸形体は,和田・. よりも早い時期に発生していることが確かめら. 小林(1984)によって複数属・種からの形態異. れた。また,骨化が進行した個体において,椎. 異常,体色異常が知られている. 常魚の出現が. 13 ). ,勝呂(1994)によってミヤコ 35). 体に変形や癒合が生じる例は見られなかった. ,松岡・佐藤(2000). (Fig.31B,C)。腹腔部が膨潤した個体の卵. によってヤリタナゴの形態異常よび鰓蓋形成. 黄嚢は,卵黄ではない透明な液体が充満し極. タナゴの脊椎湾曲症が 21). ,それぞれ報告されている。しかし,. 端に肥大していた(Fig.31D,G,H)。膨潤個. 畸形体の骨格構造まで詳述したのは勝呂. 体の組織切片を観察した結果,ほぼ全ての臓. 異常が. (1994)のみで. 35). ,内部形態や異常の発生要. 因に関する検証は不足している。本報では,タ. 器が判別できない状態にあり,さらに鰓の発育 に異常が生じていた。. ナゴ亜科の人工繁殖に際する畸形体の発生 4.まとめ. 要因の解明を目的とし,畸形体の透明骨格標 本および組織切片標本を作製して内部形態 の観察を試みた。. 4–1).好適採卵条件. 材料・方法. 春産卵タナゴ類において,採卵可能な親魚. 供試体には,繁殖特性調査中に得られたヤ. は日中水温がおおむね 15 – 28 °C になる時期. リタナゴ,イチモンジタナゴ,ミナミアカヒレタビ. に観察された。春産卵タナゴの生殖周期につ. ラの仔魚計 25 個体を用いた。畸形が生じた仔. いては,春季の水温上昇に伴って成熟した後,. 魚は,状態が良いもののみ死亡後すみやかに. バラタナゴでは秋季の水温低下によって生殖. 5%ホルマリン溶液に浸漬し,固定・標本化した。. 腺が退行するのに対し. また,形態を比較するために畸形体とほぼ同. 夏季の高水温によって退行を生じることが報. 日齢の健常個体も同様に標本化した。標本化. 告されている. された畸形体のうち,体が湾曲した個体は硬. は複数パターンが挙げられるが,本調査の対. 骨染色後に透明化し(n=15),体が膨潤した個. 象とした 6 種のうち盛夏以降に産卵管の伸長. 体は常法に従いヘマトキシリン-エオシン染. が 認 め ら れ た 個 体 は な く , Tanakia な い し. 色を施してパラフィン包埋による 6 µm 厚の組. Acheilognathus に属する春産卵種の多くは夏. 織切片標本化した(n=6)。染色ならびに透明. 季の水温上昇に伴い繁殖期を終了すると示唆. 化には河村・細谷(1991)を一部簡略化して用. された。また,秋産卵種の生殖周期として,カ. いた. 36). 。作製した標本は,いずれも双眼顕微. 鏡下での形態観察に供した。. 29,38 ). 37). ,アカヒレタビラでは. 。タナゴ亜科の繁殖周期に. ネヒラは短日環境に応じて成熟し,水温約 13 °C を下回ると生殖腺が退行するとされてい る. 39,40). 。本調査で完熟卵が得られた期間は先. 行研究で示された期間によく合致し,カネヒラ.
(19) 搾出法を用いたタナゴ類 7 種の人工繁殖. 19. Fig.31.Comparison of the normal with the abnormal larvae of striped bitterling Acheilognathus cyanostigma.A: normal individual (7.7 mm TL),B: deformity at the vertebrae (7.5 mm TL),C: deformity at the vertebrae that became transparent (6.4 mm TL),D: overgrowth at the yolk sac (6.4 mm TL).E: Tissue section of normal individual (6.8 mm TL),F: normal individual with the yolk sac (6.1 mm TL),G: overgrowth at the yolk sac after the black-eye stage (6.3 mm TL),H: overgrowth at the yolk sac before the black-eye stage (5.1 mm TL).e: Eye,gi: gill,yc: yolk sac.Bars indicate 1 mm.. の採卵は水温約 15 – 20 °C までの期間に行な. 明瞭な因果関係は認められなかった。仔魚の. うことが望ましいと判断された。. 生残率にはシャーレごとに大きな幅が生じた. 本調査では,採卵時期と飼育成績との間に. が,斃死体の出現頻度は各種とも特定の期間.
(20) 20. 北川 哲郎. に集中する傾向にあり,各種の初期減耗およ. イチモンジタナゴには孵化後 7 – 10 日目に. び斃死体の出現に伴う水質悪化によって誘発. 成長が一時停滞する傾向が見られた。イチモ. された結果と考えられる。また,採卵時に生じ. ンジタナゴの初期成長について,中村(1969). た特異な事例として,イチモンジタナゴの採卵. は孵化直後とみられる全長 8 mm の後期仔魚. 時にのみ完熟卵と未熟卵が入り乱れて搾出さ. を観察し. れる現象が生じた。イチモンジタナゴの産卵数. よりも黒色素胞の発達が弱いことを指摘してい. に関し,中村(1969)は. 17). ,受精卵が産み付け. 17). ,尾鰭の叉入が浅く他のタナゴ類. る。同時期のシロヒレタビラとアカヒレタビラで 14). られた二枚貝の鰓葉を調査し,1 カ所につき 1. は浮上までに尾鰭が深く叉入することから. – 4 粒の卵ないし仔魚が抱蔵されると報告して. 本種は他の春産卵タナゴ類に比べて発育が. いる。鰓葉内の卵数は本種の 1 回あたりの産. 進んでいない状態で浮上に至ると考えられる。. 卵数を示していると考えられ,本調査では搾出. 以上の発育特性により,本種は浮上が可能と. 採卵によって強制的に卵を排出させたため未. なる段階まで成長した後に内部器官を発達さ. 熟卵が混入したと推断された。. せ,内部器官の発達から浮上までの余剰期間. ,. に再び成長率を上昇させている可能性が示さ 4–2).初期成長特性. れた。. イチモンジタナゴを除く春産卵種の孵化仔魚. 本調査で対象とした唯一の秋産卵種である. には,孵化後約 10 日目までの期間中に 7 – 8. カネヒラは,冷却処理を施した個体のみが浮. mm 程度まで成長し,その後成長率をやや落. 上に達した。和田・小林(1984)は 13),‘室温下’,. として浮上期を迎える傾向が認められた。また,. 18 ± 1 °C,24 ± 1 °C,の 3 条件で本種を飼育. 本調査では,繁殖特性調査に供した全ての種. し,約 5 %程度の浮上仔魚を得たと報告してい. で発眼後に光刺激に対する反応ならびに正の. るが,‘室温下’の水温変動が明記されておら. 走流性が観察された。タナゴ亜科の初期成長. ず,一定の低温期間を経た個体のみが浮上し. について,和田・小林(1985)はシロヒレタビラ,. た可能性を否定できない。さらに,常温下で浮. アカヒレタビラとタナゴを. 14 ). , 鈴 木 ・日 比 谷 41). 上に至るとしても生残率は極めて低く,本種の. ,それぞ. 成長には低温での飼育期間が不可欠であると. れ観察し,当該時期の仔魚に①背鰭,臀鰭,. 示された。他方で,本調査では冷却処理の有. 尾鰭の鰭条の発達,②下顎の発達,③鰾の形. 無にかかわらず成長の停滞が認められ,本事. 成,④卵黄嚢の微細突起の消失,などを認め. 象は遺伝的に決定づけられた発育特性の一. ている。さらに,成長率が低下する孵化後 10. 環であり,環境要因によるものでないと示唆さ. 日から浮上までの期間には肛門の開孔や腸. れた。カネヒラは,本種と同様に初期成長が一. (1985)はヤリタナゴとアブラボテを. 14). 。以上. 時停滞するイチモンジタナゴと同じような場所. により,同様の成長パターンが認められた 5 種. に出現する傾向にあると報告されている 42)。両. の春産卵タナゴ類は,二枚貝から排出されな. 種は産卵特性が大きく異なるため単純な比較. いための運動能力を孵化後 10 日目までに獲. 対象とはなりえないが,イタセンパラならびに. 得した後,浮上までの期間中に内部器官を発. ゼニタナゴが両種と同じく氾濫原ないし半止水. 達させると考えられた。. 環境を好むことから. 管の蠕動開始などが確認されている. 15,17 ). ,生息環境の選択が.
(21) 搾出法を用いたタナゴ類 7 種の人工繁殖. 21. 成長の停滞を生じさた一因であると推察され. のと考えられた。また,観察に供した畸形体は. た。. 多数の臓器が不全状態にあり,組織の観察か. 冷却処理を施したカネヒラの仔魚は,水温. ら膨潤を招いた主要因は解明できなかった。. 20 °C で飼育した個体に比べて孵化後 18 日目. ただし,本例に似た症例として,鈴木(1955)は. 以降の全長がわずかに劣り,20 °C 下で斃死. 44). 体が多く生じたのは孵化後 35 日目以降であっ. Carassius carassius ないしキンギョ Carassius. たことから,本種の初期飼育に際する冷却処. auratus との交雑仔魚中に卵黄嚢が膨潤する. 理は孵化後約 20–30 日目に開始すべきと判断. 個体を認め,解剖学的検証から前腎の異常に. された。さらに,仔魚の成長が再開したのは水. よって生じた畸形と推定している。本調査にお. 温が 10 °C 前後まで上昇した孵化後約 125 日. いて腹腔部の膨潤は長期飼育に供したカネヒ. 目で,水温の上昇をきっかけとしたと考えられ. ラ仔魚のメチレンブルー添加区に多く生じ,薬. たが,冷却期間中には断続的に斃死体が生じ,. 液添加が畸形をまねいた可能性が強く示唆さ. 適当な加温開始時期を示す傾向は現れなか. れた。メチレンブルーは動物の体内において. った。. 筋肉組織,肺,肝臓,腎臓などに蓄積し,脾臓. ,ドジョウ Misgurnus anguillicaudatus とフナ. や脊髄の異常や腎臓の肥大を引き起こし得る 45). 4–3).畸形魚の発生要因. と指摘されている. タナゴ亜科における畸形魚の発生要因とし. 器官において,とりわけ腎臓は魚類の浸透圧. て,和田・小林(1984)ならびに棟方ほか(2006). 調整に重要な役割を果たすことで知られてい. は蠕動の抑制による畸形率の低減を試みてい. ることから. るが. 13,30). ,両者の相関を示す実証的なデータ. 46). 。本化合物が蓄積する諸. ,体の膨潤が腎機能の異常により. 生じている可能性が疑われた。. は得られていない。他方で,堀江ほか(2008) は. 43). ,ニホンウナギ Anguilla japonica の種苗. 4–4).保護に向けた展開. 生産において,人為的な採卵方法が骨格異. 本調査において,多くの種は浮上までの生. 常や体腔の肥大を誘引すると報告している。. 残率が低く,即座に繁殖技術として活用し得る. 本調査の結果は本亜科の畸形体が発生初期. 水準には至らなかった。今後は,今回明らかと. に生じることを示し,蠕動よりも孵化前後に加. なった各種の減耗要因や人為ストレスと健苗. えられる人為操作が畸形をまねく要因となって. 性の相関,メチレンブルーの催畸性などを精. いると推察された。. 査し,生残率の改善に努める必要がある。他. タナゴ亜科の脊椎に生ずる形態異常につい 35). 方で,本調査によりタナゴ亜科の中でも繁殖. ,人工繁殖で得られたミ. 特性に関する情報が集積していない複数の種. ヤコタナゴ成魚における椎体の屈曲ないし癒. において搾出法を用いた再現性の高い人工. 合を報告している。対して,本調査では体が湾. 繁殖手法が示され,手法の定式化に向けた技. 曲する個体の脊柱および椎体に明瞭な異常. 術的基盤が築かれた。本成果は,生息域外保. は確認されず,中軸骨格状に生じる畸形は,. 存に際する基礎情報のみならず,生息域内保. 孵化仔魚の神経系ないし筋肉系における異. 全や社会啓発へ向けたフィードバックに資す. 常に由来し成長に伴って骨格系へ波及するも. る情報であると考えられる。. て,勝呂(1994)は.
(22) 22. 北川 哲郎. 7.引用文献. 5.要 約 搾出法を用いたタナゴ亜科の人工繁殖に関. 1.. 保全.魚類学雑誌,55,139–144.. する基礎情報を集積するため,ヤリタナゴ Tanakia lanceolata,アブラボテ T. limbata,. 2.. 環境省(2013)レッドリスト 汽水・淡水魚 類,環境省,7 pp.. カネヒラ Acheilognathus rhombeus,イチモン ジタナゴ A. cyanostigma,マタナゴ A. mel-. 北村淳一(2008)タナゴ亜科魚類:現状と. 3.. 長田芳和(2002)ニッポンバラタナゴ.日. anogaster,ミナミアカヒレタビラ A. tabira. 本の淡水魚(川那部浩哉・水野信彦・細. jordani,シロヒレタビラ A. t. tabira の,飼. 谷和海 編・監修),第 3 版,山と渓谷社,. 育下における繁殖特性を調査した。本調査. 東京,p.364.. では,とりわけ産卵特性や浮上期までの生. 4.. 勝呂尚之・戸田久仁雄(1998)生態試験. 残率に著しい種間差が確認されたほか,近. 池を使用したミヤコタナゴ自然繁殖試験.. 縁の春産卵型 Acheilognathus の初期成長パ. 水産増殖,46,37–46.. ターンにも差異が生じることが確かめられ. 5.. 加納義彦・原田泰志・河村功一(2005)–. た。また,孵化仔魚には,各種に共通して. ニッポンバラタナゴ 外来種と隔離がもた. 卵黄の膨潤と体の屈曲という 2 種の畸形体. らしたもの–.希少淡水魚の現在と未来. が出現した。. (森 誠一・片野 修 編),信山社,東京, pp.129–132.. 6.謝 辞 6.. 護増殖に関する研究.近畿大学農学部. 本研究の遂行にあたり,本学環境管理学科. 紀要,46,138–248.. の細谷和海教授,池上甲一教授,久保喜計 准教授,北川忠生准教授,水産学科の太田. 勝呂尚之(2013)日本産希少淡水魚の保. 7.. 根岸淳二郎・萱場祐一・塚原幸治・三輪. 博巳教授からは多くの助言と適切な指導を賜. 芳明(2008)イシガイ目二枚貝の生態学. った。さらに,小田優花氏,中尾遼平氏,森下. 的研究:現状と今後の課題.日本生態学. 匠氏,畑田賢吾氏,中村あづ紗氏,宮西 萌. 会誌,58,37–50.. 氏をはじめとする本学水圏生態学研究室の院. 8.. 28 pp.. 生・卒業生・在校生諸氏からは実験補助や飼 育管理に際して多大な助力をいただいた。ま. 環境省(2012)レッドリスト 貝類,環境省,. 9.. 宮部多寿・高橋克夫・井上雅之(2007)マ. た,神奈川県の武内啓明博士,京都水族館の. ツカサガイ Inversidens japanensis の人工. 山野ひとみ博士,本学水圏生態学研究室に. 増殖に関する基礎研究.千葉県水産総. 所属していた川瀬成吾博士,小西雅樹氏から. 合研究センター研究報告,2,53–60.. は,研究材料とする希少淡水魚類の採集に協. 10. 根岸淳二郎・萱場祐一・塚原幸治・三輪. 力いただいた。ここに記して深謝の意を表す。. 芳明(2008)指標・危急生物としてのイシ. なお,本研究には日本学術振興会から特別研. ガイ目二枚貝:生物環境の劣化プロセス. 究員奨励費 26・1690 を受けた。. と再生へのアプローチ.応用生態工学,.
(23) 搾出法を用いたタナゴ類 7 種の人工繁殖. 11,195–211. 11. 高橋一孝(2012)小型水槽によるイシガイ. 23. 53. 21. 松岡栄一・佐藤敦彦(2000)ふるさとの魚. の飼育試験.山梨県水産技術センター事. 保護増殖試験(ヤリタナゴの増殖試験–1).. 業報告書,39,55–59.. 群馬県水産試験場報告,6,7–10.. 12. 和田照美・小林 弘(1983)タナゴ亜科魚. 22. 中村守純(1941)秋季に産卵する 3 種のタ. 類数種の発生(Ⅰ).日本女子大学紀要. ナゴに就て.日本生物地理学会会報,11,. 家政学部,30,101–111.. 98–100.. 13. 和田照美・小林 弘(1984)タナゴ亜科魚. 23. 自然環境研究センター(2012)イチモンジ. 類数種の発生(Ⅱ)–その人工飼育法に. タナゴ.平成 23 年度環境省生息域外保. ついて–.日本女子大学紀要家政学部,. 全モデル事業実施報告(絶滅のおそれの. 31,113–119.. ある野生動植物の生息域外保全方策検. 14. 和田照美・小林 弘(1985)タナゴ亜科魚 類数種の発生(Ⅲ).日本女子大学紀要 家政学部,32,125–133. 15. 上原一彦(2011)秋産卵と二枚貝の中の 進化適応.絶体絶命の淡水魚イタセンパ. 討業務報告書),環境省自然環境局野生 生物課,東京,62–75. 24. 北村淳一・諸澤崇裕(2010)霞ヶ浦流入 河川におけるタナゴ亜科魚類の産卵母貝 利用.魚類学雑誌,57,149–153.. ラ:希少種と川の再生に向けて(日本魚類. 25. 音喜多美保子・菊池尚子・鈴木千尋・斉. 学会自然保護委員会 編),東海大学出. 藤 千 映 美 ( 2011 ) 淡 水 性 タ ナ ゴ. 版会,神奈川,pp.48–66.. (Acheilognathus melanogaster)の分布調. 16. 北川哲郎・細谷和海(2012)バラタナゴの シャーレ式人工繁殖法における水カビ病 の抑制技術.水産増殖,60,139–141.. 査の概要と環境保全活動.宮城県教育 大学環境教育研究紀要,13,23–29. 26. 寺下里香・蘇武絵里香・大波 茜・小野恭. 17. 中村守純(1969)日本のコイ科魚類 資源. 史・斉藤千映美(2012)希少種生息域に. 科学シリーズ 4,緑書房,東京,455 pp.. おける淡水魚の分布・生態状況調査.宮. 18. 細 谷 和 海 ( 2013 ) タ ナ ゴ 亜 科. 城県教育大学環境教育研究紀要,14,. Acheilognathinae.日 本 産 魚 類 検 索 全 種の同定 第三版(中坊徹次 編),東海 大学出版会,神奈川,pp.310–316. 19. 野生生物調査協会・Envision 環境保全事. 35–39. 27. 太 田 勇 太 ・ 秋 山 順 彦 ( 2014 ) タ ナ ゴ , Acheilognathus melanogaster の産卵期の 終了誘導要因.水産増殖,62,483.. 務所(2014)日本のレッドデータ検索シス. 28. Arai, R . , H . Fujikawa and Y . Nagata. テ ム . URL : http://www.jpnrdb.Com/. ( 2007 ) Four new species of Acheilog-. search.php?mode=kind.(2014 年 9 月 20. nathus. 日 更新・取得).. Acheilognathinae)from Japan.Bull.Natl.. 20. 上野世司・澤田宣雄(2002)ヤリタナゴの. bitterlings. (. Cyprinidae. :. Sci.Ser.A,Suppl.1,1–28.. 種苗生産と産卵貝類選択性.平成 14 年. 29. 清水昭男・羽生 巧(1981)春産卵魚アカ. 度 滋 賀 県 水 産 試 験 場 事 業 報 告 , 52–. ヒレタビラの 生 殖 年 周 期 .日 水 誌 ,47,.
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