緩み母音と中央化
著者
近藤 清兄
雑誌名
東北大学言語学論集
号
22
ページ
29-52
発行年
2013-09-30
URL
http://hdl.handle.net/10097/00130083
緩み母音と中央化
近 藤 清 兄
キ ー ワ ー ド :lax 母 音 体 系 調 音 音 声 学 カクチケノレ語 mid-centralized はじめに 『東北大学言語学論集』の前号(第21
号 ) に 掲 載 さ れ た 、 グ ア テ マ ラ の マ ヤ 系 言 語 「カクチケノレ語」の母音体系についての記述は筆者の興味を強く惹いた。その「標準 語Jの モ デ ル と な る 変 種 は そ の 母 音 体 系 に お い て 「 張 母 音J(
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と「緩 母 音J (<針。>
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を5個ずつ持つ、という。[※1][※2][※3] 「緩み母音J と 聞 い て わ れ わ れ が ま ず 思 い 浮 か べ る の は ゲ ル マ ン 語 の 母 音 の 目 録 の 中に (Checked vowelsの一部として)見られるそれらであろう。 だが、そもそも、「緩み」母音とは何なのであろうか。それはどのように記述され、説 明されているだろうか。 こころみに手近な一般向け英語辞書で laxの項を引いてみよう。 1邸 …2(
p
honetics) (01 a speech sound)produced with the muscles of the speech organs relaxed とある(
0
ゆrdAdvanced Leamer缶Dictionary,7th edition, 2005)。では i邸(緩み)とは、音色や、 あるいは suprasegmentalなものの違いでしかないのであろうかつ 実はそうではない。以下本稿においてわれわれが見るように、「緩み」は、「母音三角 形J の上に投影されうるものなのである。 すなわち、調音点(高低つまり狭広、及び前後)の違い、舌の位置の違いとして現れるの である。 思うに、「母音三角形J の「辺」ぎりぎりにあるものは、「高し、 J (=狭い)とか「前寄 りj といった特徴において、口腔の限度一杯という意味において「緊張している」と見な されるのではないか。「緩んでいるJ というのは、「三角形」の図で言えば、典型的な母 音(基幹母音がそれにあたる。後に述べるようにシュヴァは[よく見かけるありふれた母音 ではあるが]ここにいう「典型」の内に入らなし、)よりも「内側j に入り込んでいる位置に あるということであろう。つまりは、たとえば前寄り高母音なのに上がりきっていなかっ たり、前に寄り切っていなかったりするものなのであろう。 音声教育の観点からいっても、「筋肉を弛緩させろjなどといって教えるのは困難であ るが、(まさにその結果として表れる)r
母音三角形の辺の内側に引っ込んだ位置(中央に 寄った位置)J として投影されたものを示すことは容易であり、その意味で教育上もこの 視点は有益であるといえる。 「緩み」については音声学教育の現場では、誤解を恐れずに言えば深入りが避けられていると言ってよいと筆者は思う。本稿を草する目的はまさにその「深入りJ を調音音声学 的観点からしてみることにある。
u
鑑 み 母 音J
に闘する障脱 (1)問中春美『現代言語学辞典』 lax ((弛緩性》…緊張性 (TENSE)の 音 に 比 べ る と 、 舌 の 緊 張 度 が 弱 く 、 短 か く 、 不 明瞭度が強い音を指す。調音点が近くて似た音がある場合、二つの別の音に分ける のに役立つ。…母音の中で中央に近い母音がこの特徴をもっ。 ここでは「中央寄りj ということが注意されている。 (2)Wラ/レース言語学用語辞典』 ゆるみ 仏 laxitel英 l砿ity …発声器官が休息の位置に対してわずかなずれしか示さ ないという形で現れる。 これだけでは一見意味がわからないのであるが、言わんとしていることは「緊張した音 ならばデフォルトの位置[シュヴァの位置がそれだと、仮にしてみる]から[母音三角形の 枠いっぱいに]大きく舌の位置がずれるものであるはずだ」ということであろう。[※ 4] (3)日本音襲撃舎編 (1976)W音襲撃大辞典』三修社 「張り母音(刷sevowel)Jの項 (p.664) …定義 舌筋が緊張する母音のことをいう。…例示 [i:,
a:,
0:,
U:,
a:]等は、その長短 にかかわらず、その調音の構えの個性が、例えば他の[1,
e,
a,
A,
0,
u]と根本的に違っ ていて、舌筋に弛張の差があり、舌幅の広狭を異にするというのである。 Palmerの呼 気法からすると、前者は声門の自由流出で、後者は意識的開聞というのである。 ここでも「緩み母音jは checkedvowelsと同一視されている。 また、呼気の流出様式に 実際に違いがあったとして、それは調音点の問題として扱うことのできないようなことな のであろうか。 (4)W言語学大辞典』第 6巻 術 語 編 「はり tenseJの項 (p.1074)…筋肉の緊張などこの区別のもととなる生理的現象に関し ては、それを支持する確実な実験結果は得られないという批判もなされている… 日この問題はいまだに未解決であるというほかはない。…音声学上は伝統的な記述方 法(すなわち舌の位置)によっても一応記述できるのであり、「はりJ と「ゆるみ」が それ以上に音声学的に本質的なものであるかは、より確実な実験的証拠が得られるか どうかにかかっている。 f音声学上は伝統的な記述方法(すなわち舌の位置)によっても一応記述できる」一これ をもって「張り/緩みj を 説 明 し う る と す る 立 場 を 「 舌 の 位 置 説J とでも仮に呼ぶとすれば、本稿の読者は、筆者もまたこれに与することになるのを見ることになるであろう。 (5)城生信太郎ら『音声学基本事典』 … 典 型 的 に は 、 舌 や 筋 肉 の 緊 張 度 に よ り 区 別 さ れ 、 緊 張 を 伴 う 母 音 は 緊 張 母 音
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と呼ばれる。一方、舌や唇が緩んだ状態で発音される母音は、弛緩母音(la
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と 呼 ば れ る 。 両 母 音 は 、 相 対 的 な 舌 の 位 置 の 違 い に 基 づ い て 区 別 す る こ と が で き る 。 す な わ ち 、 舌 の 高 さ に 関 し て 、 同 じ 領 域 内 に あ る 母 音 の 内 、 よ り 高 く 、 よ り 周 辺 の 位 置 で 発 せ ら れ る も の が 緊 張 母 音 、 よ り 低 く 、 よ り 中 央 寄 り の 位 置 で 発 せ ら れ る ものが弛緩母音に相当する。 (p.429r
緊張母音/弛緩母音Jの項) 「同じ領域内にある」の文言は問題となる。[i]と [1]を 見 比 べ た 場 合 、 な る ほ ど[i]は fより高くJ
r
よ り 周 辺 の 位 置 でj発せられ、 [1]は「より低くJ
r
よ り 中 央 寄 り の 位 置 でj発せられる。しかし、 [e]と[1 、] [e]と[e]な ら ば ど う か ?[i]と [1]が f同 じ 領 域 内j にあるとして、[
e
]
と[1]は ど う な の か ?[
e
]
と[1]では「中央寄り」でない[
e
]
は[1 ]よりも 低いのは珍しくないのではないか。 [i]と[1 ]は高さも前後の位置も異なりながら「同じ領 域J にあり、 [e]と [1]はそうでないとするなら、その根拠は何であるのか。 [e]と[e]の 場 合も、[邑]は「中央寄りJではあるが高さは変わらない。 [6]と[邑]では、 [6]の 方 が む し ろ 低 い 。 こ れ が 「 同 じ 領 域 内Jに な い と い う の で あ る な ら、 [6]と[邑]の高さの差は、[i]と [1]の 聞 の そ れ に 比 べ て ど れ ほ ど 大 き い と 言 い 得 る の で あろうか。「同じ領域内」というのは、「高さj を 問 題 に し た と き に 「 緊 張Jと f弛緩」 の([i]と [1]、[u]と[u]にみられる)関係が、たとえば [6]と[1 ]では崩れてしまうために 言 及 し た の で あ る と 思 わ れ る が 、 筆 者 に は こ の 条 件 が 「 緊 張 と 弛 緩J を記述するのに必須 だ と は 思 わ れ な い 。 参 照 さ れ て い る 「 母 音 三 角 形 の 枠 い っ ぱ い の 」 母 音 に 対 し て 「 中 央 寄 り で あ る 」 も の が 「 弛 緩 母 音J であるとすれば十分であるように思う。だとすれば、「緊 張母音jが 「 緊 張 し て い る 母 音 」 で あ る こ と を い う 必 要 さ え な い で あ ろ う 。 「 弛 緩 母 音j と は 「 中 央 に 寄 っ た 母 音Jであるとすればよいのである。「舌や筋肉の緊張Jと い う 生 理 的 現 象 と 対 応 さ せ る 意 図 か ら 、 「 緊 張 母 音 」 に ( デ フ ォ ル ト の 、 無 標 の 母 音 で あ れ ば よ い ところ)r
緊 張Jという積極的特徴を担わせているのであろうと思われる。 結 局 、 「 高 さ 」 は 本 質 的 で あ る と は 思 わ れ な い 。 「 中 央 寄 り 」 で あ る こ と こ そ が 「 弛 緩 母音」の本質であるように筆者には恩われる。 実は、 [i]と[1 ]が「同じ領域内にあるJ という表現は、[i]から出発して[1 ]を構成す る 、 と い う 構 成 の 手 順 か ら こ れ を み る と き 大 い に 意 味 を な す 。 第 9節 「 緩 み 母 音 の 構 成 ド リルについて」参照。 (6)Gims
o
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. A.C.Gim
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n/竹林滋訳(
1
9
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)
:
W ギムスン英語音声学入門~ (金星堂).
RP
の短母音/r/が発音される際には、前舌よりも中舌に近い部分が半狭よりわず かに高い位置まで持ち上げられる。唇は弱い張唇で、舌は(li:/の場合の緊張に比べ)-31-弛緩しており、舌の側縁は上の臼歯に軽く接触している。音質は中舌寄りの C[e]、 すなわち[邑]の音質である。 /1/は語のどのような位置にも現われる。
(
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1
1
6
)
「半狭よりわずかに高い位置」、つまり狭めの [e]よりもわずかに狭い位置という意味。 「中舌寄りの C[e]、すなわち[邑]の音質J、これはr
[e] (よりもわずかに狭い)ぐらいの高 さで中舌寄り(少し後ろに引かれている)J という意味である。 … RPの短母音/0/が発音される際には、後舌面よりも中央に近い部分が半狭の位置 よりほんのわずか上まで持ち上げられる。従ってこの音は前舌母音の/r/とちょう ど前後の対照をなしていることになる。舌は(より緊張した /u:/に比べ)弛緩してお り、上の臼歯との強い接触は生じない。唇の円めは狭いが弛緩している。音質は中 舌寄りの C[o]すなわち [o]である。この母音はアクセントのある音節にもない音節 にも現われる。…(
p
.
1
3
6
)
ここでも/r/のことを[邑]と表現したのと同様に、狭めの[0]よ り も 「 ほ ん の わ ず か 上J つまり、狭い、と記述されている。そして中舌寄り(少し前方へ出ている)であることが加 わり、 [o]と表現されている。もちろんこの [o]という記号は [o]のことではなく、狭い [0] が前進した[足という意味である。 (7) Ladefoged .ピーター・ラディフォギッド/竹林滋・牧野武彦訳 (1999):W音声学概説I
J
(大修館書庖) ・・これらの音 [b曲t.,bitの [i,1、 b] ai,tbetの [e1,6]、boo,tfootの [u,o]]のそれぞれで、 弛緩母音の方が対応する緊張母音よりも短く、低く、わずかに中舌寄りである。 (pp.106・107) f低く Jr
わずかに中舌寄りJと指摘されている。 -・緊張 (tense)・弛緩(lax)と い う 用 語 … は 音 韻 的 に 決 定 さ れ た 母 音 の 組 を 決 定 す る のにとっておくのがよい。[舌根前進 (Adv.如 何dTongue Roo,tATR+)という(緊張母音[i:][u:]に強くあって[1][0]に弱い一同書 pp.274・275一)舌の構えの違いと結びつけ るのがうまくいかないことがあるからの意一引用者]こうすれば、開音節に現れ得 る英語の母音は緊張母音、英語の母音の中で [0]の前に現れ得るものを弛緩母音と 呼ぶことができる。 (p.275) 要するにラディフォギッドは「弛緩母音J を closed(checked) vowelsと同一視している。 …これらの用語[緊張 (tense)・弛緩(lax)という用語]は、実際は英語において異な る振る舞いをする 2つのグループの母音を区別するための分類名称にすぎない。グ ループ聞には音声的な違いがあるのだが、それは単なる「緊張度Jというものでは
ない。 2つの組の聞の違いはそれが起こりうる音節の種類という観点から論じるこ とができる。 (pp.l05・106) ラディフォギッドは(生理的な)
r
緩 みJ というものは「ない J と考えているといってよ い。(r
そ れ は 単 な る 「 緊 張 度J というものではない J と い う が 、 で は ど ん な 緊 張 な の か というと、結局よくわからない)そして[1][uJを [EJ[aJ [AJ [1)Jと同じ仲間とみるので、[E] や[aJまでも「弛緩母音」に含めようとする(p.I06の表では実際にそうなっている)。それ がために ATR+/・で説明できなくなっている。 (8) Roach .ピーター・ローチ/島岡 E、 三 浦 弘 訳 (1996):W 英語音声学・音韻論~ (大修館書庖) …研究者(特にアメリカの研究者)の中には、長母音と二重母音を張り母音 (tense) と、短母音を弛緩母音 (lax)と呼ぶ者もいる。… (p.21) ここでも open と checkedのことを tense、laxと呼ぶ人がある(にすぎなし、)、と言ってい る。 (9)竹 林 滋 ・ 斎 藤 弘 子 『 新 装 版 英語音声学入門』 3.3.2.2 日 本 語 の/i/が 基 本 母 音 の[i]に 近 い の に 対 し て 、 英 語 の/1/つまり [eJは む しろ基本母音の [eJに 近 く 更 に そ れ よ り 後 寄 り で あ る こ と に 注 意 す べ き で あ る 。 日 本人には英語の[1J
が「イJ と「エ」の中間に聞こえることが多く、 SlXを sex、 pit を petと聞き間違えることがある。また英語の/1/の舌の位置は後寄りのため完全な 前舌母音である日本語の /i/ほど明るい音色を持たず、あいまいな響きを伴う。 (p.21) 「英語の/1/つまり[邑JJと言っているのは、上でみたギムスンの説明と同じ意味で、r
[eJ ぐらいの高さ(つまり [iJよりも少し低い)で、中舌寄り(つまり少し後ろに引かれている)J ということである。 (10)今 井 邦 彦 『 フ ア ン ダ メ ン タ ル 音 声 学 』 [ [ 1 Jについて]この音の舌の位置は [i:Jや 日 本 語 の 「 イ 」 よ り も 低 く 、 か っ 少 し 内 寄りである (p.5)。 % との文献も「低く J (口)かっ「少し内寄り J (口)と指摘している。細かくいうと「低く .7 >< (口)かつ少し中舌寄り(口)、すなわち内寄り(口)Jということであろう。 T 以上を整理すると、 (イ)r
発声器官 (speech organs)Jが何らかの形で実際に「緊張/弛緩jするような生理的 現象があると考えており、それがこの問題の本質であるとみる説。「器官説jあるいは「生 理 説j と呼ぶことにしよう。しかし、具体的にどこにある何が「緊張/弛緩jするという-33-のであるか、実は必ずしも判然としない。 (ロ)Tense/lax とは、実際に何かが緊張/弛緩するというより、音節の構造の中での母音 音 素 の 役 割 と 挙 動 に よ っ て 便 宜 的 に そ う 呼 ば れ る に 過 ぎ な い と 、 す な わ ち 、 open/checked の別名であると割り切り見なす立場。米国の英語学者に多く見られるという。この説の問 題 点 は 二 つ 。 一 つ は 、 英 語 な ど の ゲ ル マ ン 語 以 外 に は 適 用 で き な い こ と 。 二 つ 、 ATR+な どの特徴のある母音 ([!][yJ[oJ)とそうでないもの ([aJ[6 J [reJ [oJなど)を checked として まとめてしまうために、母音三角形の「縁」に位置するものまでも「緩み母音」と呼んで しまうことによって、「緩み」という言葉に実体が宿らなくなり、意味不明になっている こと。「緩みJ(という生理的・調音音声学的実体)は「ない」と見なす説であるとも言え る。 (ハ)
r
張り/緩み」とは、「舌の位置jによって、すなわち、母音三角形上に投影される 母音の座標(前後、高低)によって、十全に説明しうるものであると見なす立場。「発声器 官」の「緊張/弛緩J は 、 そ れ が あ る と し て も 、 母 音 の し か る べ き 「 位 置j を 決 め る 過 程 で自然に起こることであると考え、特段変わった現象だとは見なさない。後に見るように 筆者はこの立場をとる。 多くの音声学書が指摘しているのは、 [1J [oJが そ れ ぞ れ [iJ[uJよりもやや低く、中舌寄 り([ 1 Jの場合は少し後寄り、 [oJの場合は少し前寄りになること)であるという点、すな わち、「母音三角形J 上 で は 三 角 形 の 外 縁 か ら 内 部 に 入 り 込 ん だ 位 置 に あ る と い う こ と で あ る 。 こ れ は 次 節 で み る こ と に な る 「 中 央 化J(Mid-centralizing)に合致する特徴である。 一方、 checked vowelに属するその他の母音、 [6J[aJ [AJ [i)Jはそうした特徴を持たない(英 語の [AJは、しかし、第 2次基幹母音のそれ一広めの o[oJから唇の丸めを除いたものーと は少し違ったものかもしれない。注 20参照)。 2. 中舌化(Centralizing)と『中央化J(Mid-centralizing) Mid-centralizingに つ い て は ジ ャ ン = ル イ ・ デ ュ シ ェ 『 音 韻 論 』 の 日 本 語 訳 で は 「 中 段 中 舌 化J と訳しており (p.47)、ラディフォギッド/竹林・牧野訳『音声学概説』では「中 中舌寄りJ[※5
J
と し て い る 。 こ こ で は 本 文 タ イ ト ル に お い て す で に そ う し た よ う に 、 「中央化」と呼ぶことにする。 2-1.MidVS.Cen仕al(中舌) まず用語のおさらいをしておくことにする。音声学用語で midとは open(広=低)と close (狭=高)の中間のことであり、 cen甘alとは front(前舌)と back(後舌)の中間のことをいう。 通常の英語の語義では、 midは何かを半分に分ける辺りを言い、 centerは 円 や 球 の 中 心 部 付 近 を 指 す も の の ご と く で あ る が 、 こ こ で は specialize された用語であるのでそうした 意義はひとまず忘れておいていただきたい。 2・2.IPA表の例示について 1996年 (1993年改訂版、 1996年最新版)までの IPAの表では、 Mid-centralizingの例として[むが挙げられていた。しかしこれは[邑]と、すなわち Centralizeされた[e](事 実 上[a]と閉 じことである)と区別がつくのであろうか、と筆者は年来疑問に感じてきた。 Cen位aliz担g とMid-cen回lizingに意味のある違いがあるとすれば、それは何であ(るべきなのであ)ろう か? 実はIPAは2005年までのいつかに[※ 6]、Mid・cen回lizingの例を[むから[;]に替えて現 在に至っている。これは何を意味するのであろうか。 考えてみれば Centralizing口というのは、前寄り母音は後ろに引き(日)、後寄り母音は 前進させる(早)、つまり「中舌化」、ということでしかない。だが Mi泌d-ce叙 削z のは、中心(そこには f前でなく後でない、高くなく低くないJ[a]がーその定義により、 「漠然とJー鎮座している)に向かつて寄せられていくことのように思える。単に中舌化 するだけでなく、高い母音は下げ(口)、低い母音は挙げる(口)ことをも、それは当然同時 -r .1... に含むことになる。
、
J J '¥ このように中央に寄せることを、 Mid-centralizingを意味する diacriticの(母音記号の上に 載せる)r
xJは表現しているのではないかと筆者には思える。 そして、現在 IPA の表で例示されている[~]は、 [u] から唇の丸めを除いたものに相当 することがわかる。考えてみればこれには決まった一つの記号は特に割り当てられていな かった[※ 7]。 例を[~]から[益]に替えることで、 IPA の例示はその意図するところが明瞭になったとい える。 「中央化J の記号[自が中舌化[むと区別しがたく思われたのは、 [e]にそれを適用した からであった。中舌化[る]と中央化[き]は同じようなことである。いま、 [a]の高さが [e]の それと閉じと仮定すると、中舌化[引(:=[e] 、後ろに引かれた [e]) は中央化[~]と選ぶとこ
ろがないことになる。これが[杓(後ろへ引き、かっ高さを下げる)、[泊(前へ押し、かっ高さを下げる)、[~](高さを上げる)ならば事情は異なることになる。言い換えれば、中央
化首という「操作jは、出発点の音が何であるかによってその意味するところが変わるこ とになる(この点は中舌化口も同じ)。3
.
r
中央化』とシュヴァ IPAは半狭[e]の高さにある「暖昧母音jを改めて [9]と書き、その円唇のパートナーを [a]と書くことにし、それとは別に [a]を(半狭と半広の間に)置こうとする。筆者に言わ せればこれは IPAのかなり神経質な定義の仕方であって、要するに[a]には「積極的な特 徴Jを何一つ持たせたくなかったということであろう。 [e]の高さ(半狭)でも [6]の高さ(半 広)でもなく、唇の丸めという特徴さえも(それのない相方、という形で逆に描き出され ることさえも)けだし、嫌ったのである。しかしながら、 [a]を厳密に半狭 [e]の高さにあ るものに限って考えることはかえってpaperphoneticsに陥ることにもなりかねない。 [a]と は [a]に唇の丸めを加えたもの、とみておくことで十分誤解がなく、かっ有益で、あろう。 「半狭 [e]の高さの中舌母音」を厳密に考えるとき [9]、半広 [6]の高さの中舌母音J を厳 nぺ U密に考えるとき[3]と書くこととし、 [9]、 [3]は(そして、円唇の変種[e]なども])すべて [a]の 変 種 と 考 え て お く の が 穏 や か で あ ろ う と 思 う 。 い ま こ れ ら シ ュ ヴ ァ の 諸 変 種 を ま と めてシュヴァ類、
'
s
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w
o
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'
と で も 呼 ん で お く こ と に し よ う 。 シ ュ ヴ ァ 類 は 、 緩 ん で い な い 「張り」のカウンターパートを持たず、本来的に f緩 ん だJ位 置 に あ る 。 と い う よ り 、 シ ュ ヴ ァ 類 は 、 「 緩 み 」 が そ れ を い わ ば 参 照 し 目 指 す と こ ろ の 「 方 角J にあり、「目的地」 であるともいえる。4
.
緩 み 母 音 の 目 録 ここではデフォルトの「張り母音J としての基幹母音それぞれについて、そこから出発 した「緩み」のカウンターパートをみておくことにしよう。 [低(広〉母音】ならば、前寄り [a]、中舌[A](この記号は正規の IPAにはないが、中国 語学者たちがしばしば用いる)、後寄り [α]に対して→ [g]。挙上である。[
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i
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ならば、[
e
]
に対して→[
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すなわち[3L
[:>]に対して→[
5
]
すなわち [6]ぐ らいであろう。いずれも中舌化をもってこれに充てることができる。[
m
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-
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1
なら、[
e
]
に 対 し て →[
a
]
、[0]に対して→[
e
]
を 充 て る こ と が で き る 。 こ れ らも中舌化(前後への動き)である。 [高(狭)母音】については、 《前寄り》 [i]に対して→ [r](中舌化[後へ引く]+下げ) [y]に対して→[y](中舌化[後へ引く]+下げ) 《中舌》 [i]に対して→[a](下げ) [日]に対して→ [e](下げ) 《後寄り》 [u]に対して→ [u](中舌化[前へ押す]+下げ) [田]に対して→ [u](中舌化[前へ押す]+下げ)c
これらの「操作」のセットについて考えておくことは、第9節 に お い て 緩 み 母 音 の 構 成 のためのドリル(練習方法)を設計する上で必要となる。5
.
r
緩み母音』のある体系 ここで f緩 み 母 音 が あ るj というのは、「緩み母音音素J (r
緩 みJが そ の 弁 別 的 特 徴 の一つであるような母音音素)があるという意味では必ずしもない。「緩み」を関与的(音 芯 論 的 ) 特 徴 と し て 持 つ 母 音 音 素 が あ る 、 と い う こ と で す ら な い 場 合 も あ る 。 し か し 、 レ ベ ル は 様 々 で あ る に せ よ 「 緩 み 」 あ る い は そ れ に 似 た 何 か を 特 徴 と し て 持 つ 音 声 が 繰 り 返 し社会的な型として現れるのは事実であるような諸言語について概観しておくことは有意 義であると考えるので、あえてここで一緒に扱ってみる。 5・1.英語O
p
e
n
[
i
:
]
[
e
I][a:][
u
:
]
[
a
:
]
[0 U] [:>:]Checked[1] [6] [a] [0] [A] [0] 英 語 (RP)の 母 音 体 系 は 一 見 非 常 に 奇 妙 な 形 を し て い る が 、 実 は 《 強 勢 の あ る 音 節 と な い音節に分ける)) ((openと checkedに分ける》などの場合分けを施すと、「アイウエオ+シ ュヴァJの 6母音体系に整理されうることがわかる[※針。 英語における「緩み母音Jは、 ch邸kedvowelsのうちの [1]および [0]に現れる。さらに、 重母音の副母音において自由変異として [1] と[0]は現れ(話者により単に非成節的で短 い よ と 又 つ ま り
[
j
]
[
w
]
のように現れることも多いようだ)、また強勢のない弱化した開音 節においてシュヴァの変種として [1]が現れることがある。 5・2.ドイツ語<a> 〈晶> <e> <o> <i> <u> <0> <u>
Open [a:] [6:] [e:] [o:] [i:] [y:] [0:] [u:] +[a] (<e>) Checked[a] [6] [6] [a] [1] [y][0] [0] ドイツ語における f緩み母音J は、 checked vowelsのうちの [1]、 [0]および [y]に現れ る。さらに、重母音の副母音において [1](危 1/) と[0](危0/)および [y](I:>y/)は現れる(英 語の重母音におけるそれよりも緩み母音としての現れ方ははっきりしている)。 5・3.スウェーデン語
<a> 〈邑〉 くe> <o> <i> <y> <0> <u> 〈品〉 Open [α・] [s:] [e:] [o:] [i:] [y:] [U:][ll:] [0:] Checked[a] [6] [ι] [a] [1 ] [y] [0] [e] [0] 〈晶〉と <e>は Checkedの位置で中和するように思える。 張り 緩 み <i> [i: ] [1] <0> [U:] [0] <y> [y:] [y] <U> [ll: ] [e](=[ll]) τ
-くU>で書かれる open vowelが[日:]で現れるのがスウェーデン語の大きな特色であると思 うが、その checkedvowelのカウンターパートは [e]に近いと記述されることがある[※ 9]。 Open [ll :] VS. Checked [e]一このことは面白い示唆を与えてくれる。 これは、もしも中舌母音 [i]に「緩み」の相方があるとしたら、それは ([i]を「下げた」 [i]、すなわち)[a]だ、ということなのである。[日]とは円唇化した[i]のことなのであっ 可・ て、かつ、 [e]とは円唇化した [a]のことだからである。 5・4.アフリカーンス 多 く の ゲ ル マ ン 語 で 閉 音 節 に お け る 「 短 い iJは[1 ]で現れるが、アフリカーンスでは それが[白]で現れる(強勢のあるところでも)。これはアフリカーンスの「ひびき」に大き
-37-な特色を与えている。
例) lig[lax]光 mis[mas]霧 sin[sa n] sing[s ao]歌う skip [sk a p]船
sprink銅n[sprao k D・n]パ ッ 夕 、 イ ナ ゴ drink [dr ao k]飲 む [i (:) ]はくie>で書かれる。 drie[耐(:)] 考えてみれば、 [i]を中央化した[旬が[1 ] な の だ と す れ ば 、 中 央 化 を さ ら に 推 し 進 め れ ば そ れ は ま さ に[a]に 行 き 着 く こ と に な る わ け で あ る 。 [a]と は 「 緩 み 」 の 究 極 の 姿 で あ る。 「緩むJ と い う こ と が 「 中 央 化 」 の 一 種 だ と す る な ら 、 「 緩 ん だ 」 母 音 は 一 つ の 中 央 を 目 指 し て 集 ま ろ う と す る わ け な の で 、 突 き 詰 め る と 互 い の 聴 覚 的 距 離 を 縮 小 す る 方 向 に 進 ん で し ま い 、 聴 き わ け が 困 難 に な っ て ゆ く こ と に な る 。 「 緊 張 し た 」 母 音 と は 、 互 い の 聞 の聴覚的距離を保とうとする母音であるともいえるだろう。 5・5ロシア語 ロ シ ア 語 に お け る [1 ]は、主に軟子音の後のく e>やくH >の 、 強 勢 の な い と こ ろ で 実 現 す る 。 ロ シ ア 語 の 場 合 、 強 勢 の 前 と 後 で 母 音 の 「 弱 化jの 様 相 が 異 な る こ と が あ る の で 、 両 方のケースをみておく。 強 勢 の 前 の 例 :JIe i K o[五1xko:]
r
やさししリ 強 勢 の 後 の 例 :JIe i可 e[五 e:xtf
1]r
よりやさしく J (いずれの例も城田俊 (1993)W現 代 ロ シ ア 語 文 法 』 東 洋 書 店 刊 、 p.39に よ る 。 記 号 は 引 用 者 に お い て 少 し 変 更 し た ) 5・6ベ ト ナ ム 語 ベ ト ナ ム 語 の 母 音 体 系 は 、 方 言 に よ り 音 価 に 違 い が あ る か も し れ な い が 、 お お む ね 次 の ようにまとめられるだろう。 t! U e aJσ。
e 0 邑 a 音 価 は そ れ ぞ れ 、 大 略 i[i]u[i] u[u]e[e]a[a]σ[a :]δ[0]e[6]0[コ]呂[13]a[a]の よ う に 考 えてよかろう。 ベトナム語の正書法ではアクサンシノレコンフレックスは f挙 上J を 表 す も の の 如 く で あ って、 6は狭い(高い )eを、 δは狭い(高い )0をそれぞれ表す[※ 10]。それからすると、五 とはr
a
を高く挙げた(狭くした)ものj という意味にとれるが、 [13]の音価を持つものはく 心の方で、a
は[a]ぐらいの高さのものである。なお、<
u
>
の 音 価 が [i ]であるということ は 、 こ の 補 助 記 号 は 「 中 舌 に 寄 せ るJ のか、(後寄り母音を)前進させるのか、どちらかで あ ろ う ( 実 際 、 書 く と き に 右 上 か ら 左 下 に 向 か つ て 釧 ね る よ う だ が 、 こ れ が 「 左 向 き 、 つ ま り 前 寄 り 向 きj を 意 識 し た も の な の か ど う か は わ か ら な い )0σ
<
〉はつまりr
o
の 高 さ の 中 舌 母 音J の意味であることになろう。 緩 み 母 音 と 呼 べ る も の は a[a]、σ[a:]、及び呂[官]である。何かが弱化したものというわけではなく、また、音節の主母音として声調も担う。 ふ7.ムラブリ(ピ一トンノレアン)語 Pook司om et a. (l1992)によれば、ムラブリ (Mlabri)語はモンクメール語族に属する極小言 語である。 Mlabri(mla ? bri?)は自称で「森の人」、タイ語ではピ一トンルアン (Phi Tong Luang)と呼び、「黄色い葉の精霊」の意である。 『言語学大辞典』世界言語編「ムラブリ語」の項によれば話者は数十人程度であるとい う[※
1
1
J
。
ストレスのある音節に現れる母音 田 u e 1r 0 E^
::> a ストレスのないところに限り現れる母音があり、それらは高[I][
i
J
[
u
J
及び非高[
d
J
で あって、筆者の考えではおそらくストレスのある音節における[
i
]
[
皿]
[
u
J
及び[1rJ
に対応す るもので、ストレスのない音節では lとe
が[1J
に、u
とo
が[
u
J
に、合流するということ ではないかと思う。a
やAは[
d
J
に合流するのであろう[※1
2
J
。 すなわちストレスのない音節では、 前 中 後 高 非高 a。
という部分体系になる。部分体系といったのは、ストレスのある音節での 国 U す に相当する部分だからである。 5・8.タイ語 前 中 後 高 国 u 中 e a。
低 E a 3 それぞれに長短の別がある。 クメール語も基本的に似た体系を持っているように思う。この体系において「緩み母音 J1d
l
は、中舌(非前非後)でナカ(半高)の位置を埋めるものとなっている。これにより均整の とれた体系となっている。緊張しているか緩んでいるかが問題になる体系ではない。 5・9.ビルマ語 u e a。
-39一1 > :> a /a/と い う 音 素 が あ る と い っ て い い の か ど う か よ く わ か ら な い 。 い ず れ [a]は主たるアク セント(声調)を担わない、弱化した「軽声」の音節にしか現れない。「アクセント核のな いところに現れる弱化した/a/Jだと言ってもよいのかもしれない。 5・10インドネシア語(ムラユ語) u e a
。
a かつての正書法では/eIをe
と書き、 /a/を単に eと書き、区別していたが、現在では書き 分けないもののようだ[※ 13]。 機 能 負 担 量 が 小 さ い か ら な の か 、 ど う か 。 マ レ ー シ ア 側 の国語としてのマライ語では/eIを単にeと書き、 /a/は eに breveを載せた邑を書くようだ。このシュヴァの起源はおそらくかなり古く、「何かが弱化したJ も の で は な い よ う に 思 われる。なお、同じアウストロネシア語でもタガログ語では/eIと/a/の 弁 別 は あ い ま い で あ り 、 は っ き り 別 の も の と し て 立 て う る の か ど う か も 怪 し い (uと o の機能負担量もおそ らくは非常に小さく、元々は aiuaの 4母音体系であったのではないかと筆者は思う)。ポ リネシアの言語にはシュヴァはないようで、ハワイ語はaiueoの 5母音体系になっている。 5・11.ルーマニア語 a u e 0 邑 a iのドットの代わりにアクサンシルコンプレックスを載せた文字
t
があるが、a
と同じも の で あ る の で こ こ で は 統 ー す る 。 ル ー マ ニ ア 語 に お い て 「 緩 みj母音と呼べるのは句〉で あ ろ う 。 こ れ は 強 勢 の な い と こ ろ に あ っ た<
a
>
に さ か の ぼ る も の が ほ と ん ど で あ ろ う と 恩 われる。音価は['B]ないし[a]であろう。 5・12.北 京 語 北京語の「主母音Jとなりうるものは次の3個とされている。 雨 中 a 低 a ti/というのは「引き延ばし音素Jと呼ばれ、多くの場合それ自体の音価を持たないが、 s、 sh、z、油、 c、chの後で単独で(介母 iuuを持たずに)主母音として現れ、実際の音価は成 節的な摩擦音だが、「中舌高母音Jとして振る舞う。 つまり「主母音J はすべて中舌母音からなっていることになる。これは極めて異様な外 見を持つ体系(解釈)であるが、北京官話の音節構造をよく説明しうる便利なモデルである。ここではシュヴァは何かが弱化したものではなく、相当に古い起源を持つ「主母音」であ る。なお、主母音/ai a/、介母/iuul以外に /e0/を別に立てるべきであるのか否かは筆者に は未だよくわからない[※
1
4
]
。 ところで、「緩み」の要素をまったく持たない母音体系もある。その例も挙げておこう。 (1)フィン語 前 後 高 u u。
半高。 低 aa
i
、eの二つが中立。 (2)トルコ語 後 a 1 0 前ei o 中立母音はない。 u u 「緩み母音があるJ
体 系 で も っ と も あ り ふ れ た も の は 、 Iaiueo+シュヴァ」、 laiu + シ ュ ヴ アj な ど 、 シ ュ ヴ ァ を 持 つ 体 系 で あ ろ う 。 そ れ も 、 「 強 勢 の な い と こ ろ で 弱 化 し た 母 音 と し て 現 れ るJ の で は な く 、 通 常 の 母 音 と し て 、 他 の 母 音 音 素 と か わ り な く 出 現 す る よ う な も の は 典 型 的 と 言 っ て よ い で あ ろ う 。 ブ ル ガ リ ア 語 は 「 硬 音 記 号J 〈も〉が [a]の音価を持っており、強勢が乗ることもある。 6.緩み母音の起盟 母音体系の中での「緩み母音jは、それが「緩み母音音素J と呼べるものであるか否か は別として、どのような現れ方をし、どのような「起源j が想定されるであろうか。前節 で見たところを承けて分類してみよう。(
1
)
C
h
e
c
k
e
d
v
o
w
e
l
s
の目録の中に生ずる。 現代のゲ、ルマン語の多くにこれがみられる。 (2)強勢のないところ、重母音の副母音などの"弱い"ところに、 生ずる。 弱 化 し た 母 音 と し て ドイツ語においては重母音の副母音にこれがみられる。英語においては一部の強勢のな い音節で現れ、多くの場合シュヴァに置き換えることができる。ロシア語では軟母音<e>
が強勢のないところで弱化してこれが現れる。ムラブリ語における例も「弱化Jであろう。 (3)初めから「張りJv
s
.
r
緩 みJ の対立として現れるもの。 カクチケノレ語はこの例なのであろうか。いずれにせよ、あってもおかしくないことであ る。 (4)何か別の対立のパラダイムがシフトしてきた。 これもありうるであろうが、筆者はいまその具体例を知らない。-41-7
.
鰻み母音と母音体系に関する二、三の問題 7・l.中期朝鮮語 中期朝鮮語の母音体系を例にとってみる[※ 15]。 前 中 後高 イ -
i 低 ト ・ ム (中性1
)
こう割り切って整理することにより、中期朝鮮語の母音調和の体系はよく説明される。調 和の軸、男性(陽)母音 vs.女性(陰)母音の対立は、低(広 )vs.高(狭)だったと考える。この モデルでは、4
はその音価一 [a]であったと考える人が多数派であろうと思うーはともか く、その音韻的位置づけは「前寄り高め母音音素J/eIであった、と考えることになる(近 藤 (1990)(1998))。
/; /の音価をホ[a]、/・/の音価を *[R]と推定するのはよいのであるが、問題なのはこれ らが「緩み母音Jであるという「音声学的J事実と音韻論上の意味との関係である。「緩 みJ がこれらの母音音素にとって弁別的(
d
i
s
t
i
n
c
t
i
v
e
)
なものであったとは思われない。関与 的(
r
e
l
e
v
a
n
t
、 服 部 四 郎 の 用 語 。 城 生 伯 太 郎 の 用 語 で い う 「 音 芯 論 的J)ではあるかもしれ ないが。 「緩み」が、これらの母音音素にとって、またこれらが構成し属する母音体系にとって 真 に 「 何Jであるのかは、音素の位置づけに、また逆に音価の推定にも、影響を与える可 能性がある。 何が言いたいのかというと、4
が実際に[a]であり、・が実際に [R]であったとしても、 それらは f母音三角形(または、そこから中性母音l
を除外することでつくられる母音四 角形)の辺をいっぱいに使ったJ((前寄り高め(陰)母音音素》であり《非前非後[=中舌] 低め(腸)母音音素》であるとすべきなのだ、ということである。「緩み」をこれら母音音 素の特徴として盛り込むことに音韻論的意義は見出せない。 カクチケル語の場合はおそらくそうではないであろう。「緩みj ないしそれに似た特徴 は、母音音素の弁別的な特徴とみることができるし、(音価がどうであれ)そうしなければ ならないであろう。 ところで上で述べたように寸の音価が[a]であったとみる研究者は多く、またそれが(現 代語の音価から考えても)ありそうでかつ自然なことだとも思うが、そうすると: 前 中 後陰 →
[a]ー[リ
i[U] vs. vs. vs.陽 ト
[a] ・[2] ム [0] [2]は[傍]と同じぐらいの高さの母音なので [a]よりは広い。だから [a]と[a]、[2]と[i]は、 低対高の関係にはなっているが、 [a]は [2]を飛び越えて [a]と、 [2]は [a]を飛び越えて[i] と、調和のカウンターパ}トになっていることになる。つまり、あたかも「遠交近攻J の ように入り組んでいることになる。高低の対立の体系であるなら、なぜ素直に[a]vs.[2]、[
a
]
v
s
.
[
i
]
といった、直近の母音との関係を結ばないのか? かような「・ J の位置づけの問題は[官]という音価の推定にも再考を求めるかもしれな い。すなわち、 f緩みJの要素の別にない(r
張母音Jの)[A]を代わりに考えるとき、上 で見た「遠交近攻 J は解消される可能性がある。つまりこの「問題j は、そもそも見かけ 上のものに過ぎなかったのかもしれないのである。そして・について音価[
A
]
を措定する ことは済州方言における「・Jの反映から十分有り得ることであり、実際、そういう立場 をとる研究者はかつても今もある。 7・2.母音体系の理論的構造 カクチケノレ語の場合は「緩み」はーその実体が実はどうなのであれー母音音素の弁別的 特徴としてみることができょうし、音価がどうであれそうみなければならないであろう。 張 母 音<
a
>
<
i
>
<
u
>
<
e
>
<
0
>
緩 母 音 〈邑><
i
>
<
u
>
<邑〉 くが もしかすると、 f緩 みJのかわりに何らかの非デフォルト化(有標化)をもって替えるよ うなバリアントがありうるのかもしれない。 iに対してy、uに対して皿、 oに対してす、な ど(つまり第 1次に対する第 2次基幹母音と同じこと)。 「張りj がデフォノレトの母音の特徴であるとするなら(基幹母音はそもそもすべてそう である)、「緩み J母音は有標である。いずれ弁別できればそれでよいのならば、<
a
>
v
s
.
<晶 〉が[
a
]v
s
.
[四]、<i>v
s
.
<i>が[
i
]v
s
.
[y]であってもよいわけなのだ。あるいは[
a
]v
s
.
[a]とかで あってもよいであろう。ナパホ語[※ 16]の鼻母音音素が、かりに、かつて鼻子音が近く にあったことから同化されて生じたというわけのものではなくて、もともとそういうもの であるのだと、かりに、したなら、それは母音体系全体の、系列同士の、対立のありかた をめぐるパラダイムの選択とかシフトとかいったものによるものなのかもしれないのであ る。 そう考えるならば、ヨルパ語[※ 17]の鼻母音系列にしても、かつて母音(口母音)の前 後に nや m が存在したのだと考える必要がないのかもしれないわけである。ヨルパ語は もともと開音節のみをもち(つまり札n、*-m といった末位子音を持つ音節をもっていたわ けではなく)、かっ鼻母音系列をもっ、ような言語であったかもしれないのだ。 われわれのよく知っている言語(フランス語、ポルトガ/レ語など)において、鼻母音が口 母音+鼻子音から生じ、その生じた経緯が明らかになっていることをもって、鼻母音の来 歴 はv
+n,m
, 0などであると一つまり「あとから生じたJものであると一決めでかかるこ とはできない。 実際、ある言語について、その母音体系が、 口母音<
a
>
<i>くu
><
e
>
<
0
>
鼻母音〈轟><
r
>
<包> <あくδ〉 咽頭化<
a
>
<
i
>
<古> <己><
o
>(綴りは便宜上のもの) の1
5
母 音 体 系 の よ う な も の で あ っ て 、 し か も そ れ が も と も と そ う で あ る よ う な も の で あって、何かいけない理由があるであろうか。 しかし実際にはこのような体系は比較的希であろうし、だとすれば、もしかしたら、-43-な に ゆ え に 希 で あ る の か 説 明 さ れ -43-な け れ ば -43-な ら -43-な い よ う -43-な 事 柄 -43-な の か も し れ -43-な い [ ※
1
8
J
。
8
.
カクチケル語再考 カクチケル語の母音体系について改めて考え直してみよう。 張 母 音<a><i><u><e><o>と 緩 母 音 色><i><u><e><o>、この 10母音(5x 2)体系は、もし 「張りj と「緩み」の対立を額面通り考えると、たとえば、 <a> [a]vs. <a> [13J(:=[~J <i> [i]vs. <i>[!] (:=[む) <u> [uJvs.<凸>[oJ(:=[百J) くe>[eJvs.<ë>[ëJ=[~J 王子 [aJ <o>[oJvs.<ö>[öJ=[~J 今 [eJ のようになりうるのであろうが、実際にはそのようではなく、 Brown,Maxwe,1l Little (2006) によれば句>[aJ、くe>[sJ、<o>[oJであるごとくである[※ 19J。 しかしく齢、 <o>が「緩み」母音の仲間であると話者自身によって意識されているのだと すれば、これは説明を要する事由というべきである。 実のところ、[邑]と [oJ(ゲルマン語のo、つまり [oJ"-'[aJのことだと思ってはいけない。 [oJとは[oJのことである)とは、額面通り受け取って突き詰めると [aJと[eJとなってしま ~ い、聴覚的距離を保つのが難しくなる。〈邑〉が「緩みの eJであると意識されているとい うことは、 ・張りの<e>と ベ ア を な す も の で あ る こ と ( す な わ ち 「 張 り のeに 対 し て 何 か が 異 な るJ のでなければならなし、)。それは<a>に 対 し て<a>の、くi>に対してくi>の、何が異な るのか、ということと平行していることが期待される。 ・張りのeが他の張母音とそれによって弁別されているところの特徴は、「緩みのeJくt 〉と他の緩み母音がそれによって弁別されているところの特徴と平行していることが期待 される。 はずであろう。少なくともこれをありそうなことと考えるのは合理的な類推であろう。 そうであるとすると、〈晶〉が[aJに 近 い と こ ろ ま で 「 上 が っ てJ来 て い る の が 事 実 で あ るとすると、〈邑〉が[邑]、くo>が[凸]であったなら(前寄りから順に)<e><a>くo>の三者はEい に近すぎて不便なのだ。 <a>と〈邑〉が互いのカウンターパートであり、 <e>とくe>の 関 係 が ま た そ う で あ る べ き で あるなら、 <e>とくe>が ま ず は 「 張 り 対 緩 み 」 に 似 た 対 照 を な し て い る べ き で あ り 、 ま た それであれば十分であるはずである。かくて〈邑〉は実際の音価において「やや下がったJ(だ けの?)[s Jで実現されている、ということではないか[※20J。[eJ の緩んだ [~J のかわりに[8]があり、 [oJ の緩んだ[吉]のかわりに [oJ がある、ことにな
っているというこのこと、これを、しかし、
r
[aJ
のあるところ(中央)に向かつて緩む」 ことを目指していると考えるとどうなるだろう。[8][oJを「張り jのくe>く0>に 対 す る 「 緩 み 」 の カ ウ ン タ ー パ ー ト と し て 用 い て い る 、
となのかもしれない。 9.緩み母音の構成ドリルについて 緩 み 母 音 を 構 成 す る 手 順 を 考 え て み よ う 。 「 構 成Jす る と は 、 音 の 「 出 し 方 J を考え、 設 計 す る こ と で あ る 。 あ る 言 語 音 に つ い て 、 い か に そ の 音 を 作 り 出 す か を 考 え 、 そ の 観 点 か ら 音 声 学 の 体 系 を 改 め て 書 い て ゆ く 立 場 を 筆 者 は 調 音 音 声 学 の f構 成 的 立 場J (constructivist approach)と呼び、提唱した(近藤(1992))。 こ の 立 場 に お い て は 音 の 「 作 り 方J を 示 し 、 練 習 す る 方 法 を 与 え る こ と が 重 要 で あ る 。 こ の 練 習 手 順 を 構 成 ド リ ル と 呼 ぶ [ ※ 21]
。
第 1節 で み た よ う に 、 ギ ム ス ン や 竹 林 は 英 語 の/1/について [e]と同じことであると言っ て い る 。 こ れ はr
[e] (よりもわずかに狭い)ぐらいの高さで中舌寄り(少し後ろに引かれて いる)J という意味である。 "[e]"によって言いたいことはr
[i]よ り も 少 し 低 し リ と い う こ と で あ り 、 中 舌 化 し た[i]= [i]と は 「 少 し 後 ろ に 引 か れ た[i]J =[i]である。 [i]を 少 し 下 げ ([i]王寺 [e])、かっ少し後ろに引く ([e])、というのが、 f[I]=[邑]Jの 意 味 -r である。 同 様 に [0]についても [o]と書くことができる。 [u]を 少 し 下 げ ([u]今 [0])、 か つ 少 し 前 T に 出 す(
[
0
]
)
、というのがその意味である。 + そ こ で 「 緩 み 母 音j のドリルを作る方法がわかる。 (イ)水平(前後)ドリル(Horizontaldrill) [i]=[i] (前寄り母音の後退) [i]=[1](中舌母音の前進) [u]=
[u] (後寄り母音の前進) 斗 [日]=
[u](中舌母音の後退) (ロ)垂直(高低)ドリル(Verticaldrill) [,
.
i.
]=
[e] (高母音を下げる) [.
.
.
.
e]=[i](半狭母音を上げる) [u]=[o] (高母音を下げる) T [0] =[U] (半狭母音を上げる) ..l... そして、以上を十分に訓練した上で、 [i]=[e] (高母音を下げる) -γ [e]与 [1](半狭母音の後退) [U]=[o] (高母音を下げる) .γ [0]今 [υ](半狭母音の前進) 今 このように作られる。 すなわち、 [けから出発して[1]を [U]か ら 出 発 し て [0]を 作るのに、「下げJ+
f中 舌 化 」 を 行 っ て い る こ と に な る 。 な お 、 「 下 げJの 操 作 と 「 中-45-舌化Jの操作の順番を入れ替えても結果に変わりはない。 結論ー『緩み』とは『中央化』であるー 以上みてきたところによれば、「緩みjは「ある」。 それは f母音三角形の辺をいっぱいに使ってJ調音されておらず、「中央に寄っているj という形で投影され、現れる。その意味で[a]のたぐいは本来的に (by n蜘 re) r緩 ん だJ 母音であると言える。 筋肉あるいは調音器官の…とか音波の…「弛緩jについて述べるのではなく、母音三角 形への投影という直観的なガジェットを用いたところ、「緩みJ (lax)という用語が(図形 的な意味からも)そのまま使えたことになる。 《緩みとは中央化の一種である》といえよう。 この定義は: (イ)
r
緩み母音J とされる [r][y][u]のすべてにあてはまり、かつ、 (ロ)いわゆる油田:ked vowelsのうち、誤ってそこに入れられることのある[
8
]
[
斗[
a
]
[
A
]
を正しく排除する。そして、 (ハ)シュヴァを新たに「本来的緩み母音」と位置づける。 これはすなわち「緩み」の構成的再定義である。注 ※1 :以下では書記素 (grapheme)を<>を用いて表記することにする。 ※2 : ロ ル マ イ ・ ベ ド ロ ・ ガ ル シ ア 、 大 森 裕 巳 、 八 杉 佳 穂 、 小 泉 政 利 (2012)p.74 ; Brown, R. McKennal Maxwe J,1l udith M.I Little, Walter E. (2006)が依拠しているのも 10母音ノ〈リアント である。同書では San Jose Poaquil以外の多くのカクチケルコミュニティではく訟が見られ ないと言っている (p.l0)。 ※ 3 :本稿執筆時点で音声資料が入手できなかったため、筆者はカクチケノレ語の音声を実 際には耳で聴いて観察することを得なかった。従って本稿においてカクチケル語の音韻に ついて述べることは McKenna et a1.などによって知り得たことをもとにした推測であるこ とをお断りする。 ※
4
:
r
休 息 の 位 置J が そ の 話 者 の 発 声 器 官 の 「 デ フ ォ ル ト の 位 置 J の こ と な の だ と す れ ば、筆者はそれを「ホームポジション J と呼んだことがある(近藤 (2008)p.133)0 r発話の とき、いつもそこから始まり、気がつくとまたそこに帰る、無意識の「構え」、定位置の ようなものJ(同)。ここではシュヴァのような「高くも低くもなく、前でも後ろでもないj 位置とは限らず、個々人の癖によって様々な位置を取っていると考えたので、同辞典に言 う 「 休 息 の 位 置 」 と は ま っ た く 同 じ も の で は な い の か も し れ な い 。 筆 者 は 近 藤 (2008)の た め に 様 々 な (r
モ ノ マ ネ 」 の 対 象 と な る 有 名 人 た ち の )r
ホ ー ム ポ ジ シ ョ ンj の 分 析 例 を 用 意 し た が 、 最 終 的 に 本 文 で は 使 わ れ ず 、 ま た 同 書 以 降 筆 者 は こ の 問 題 を 続 け て 扱 わ な か っ た た め 、 「 ホ ー ム ポ ジ シ ョ ンJ ( す な わ ち 、 個 人 の 音 声 的 特 徴 の 調 音 音 声 学 的 記 述 の 指 標 の ー っ と し て の ) の 考 察 は そ の 後 そ れ 以 上 の 発 展 を 見 る こ と が な か っ た が 、 法 言 語 学 (forensiclinguistics)の問題としても扱われうるのではなし、かと、裁判員制 度 の 施 行 を 控 え て い た 当 時 は 考 え も し た も の で あ る 。 ※5:
読 み 方 は 「 ナ カ ・ チ ュ ウ ゼ ツ ヨ リjであろう。 ※6: IPAは 1993年の改訂 (revision)の後、 1996年に小さな訂正 (correction)を経て、 2005年 の最新版(現在)に至っているということなので (IntemationalPhonetic Aljヮhabet-前kipedia,the free encyclopedia、 及 び 「 国 際 音 声 記 号 -WikipediaJ による)、 r2005年に」修正されたと考 えてもよさそうである。この時までに IPAの「中の人」はこの問題に気付いたのである。 ※ 7 :緩みの後舌高母音[o)をスモールキャピタルの U を用いて書くこともあるところ、 後舌高母音 [u}から唇の丸めを取り除いた母音に対応する記号が[田]なのであってみれば、 町の文字が turnedmなのだとすれば「スモールキャピタルの M を上下転倒したもの J をも ってこれに充当することも考えられる。もっとも、その記号はr
wJ と紛らわしい外見を 呈するであろう。キリル文字皿を転用すると外見上はよりましなものになるかもしれない (回すなわち Sとは音の上で何の関わりもないので、抵抗がある人も多いであろうと思わ-47-れるが)。 ※ 8 :英語の母音が「アイウエオ+シュヴアJなのだとすると、 5母 音 体 系 を 持 つ 日 本 語 を母語とする者がこれを近似しようと(たとえば、「カナに置き換えようとJ)するとき問 題 と な る の が シ ュ グ ァ の 処 遇 、 そ の 位 置 づ け 、 で あ る と い う こ と に な る 。 強 勢 の な い と こ ろでの
[
a
]
は 、 も と の 綴 り が<
e
>
ならばエで、く0
>
な ら ば オ で 、 写 し て お き 、 後 は お お む ね ア を も っ て 写 す 、 な ど と し て 大 き な 差 し 支 え も あ る ま い 。 強 勢 の あ る 閉 音 節 の [A]の扱い は 、 し か し 、 問 題 と な る 。 こ れ は 何 を 意 味 す る の か と い う と 、 日 本 の 生 徒 に 英 語 を 教 え よ うとするとき、 !AIこ そ が も っ と も 注 意 を 要 す る ポ イ ン ト だ と い う こ と で あ る 。 日 本 語 の 側に代替すべきものがないのだからだ。極端に言えば、a
-
i
-
u
-
e
・0
-
{A}a
・I-O-e・6・{a} (反り舌なし)、このような近似であっても(区別すべきものが区別できているとすれば)十 分了解可能なものになるであろう(欠点は、[
0u
]
<
o
a
>
l
<
o
C
e
>
と[::>:]<
a
w
>
の区別がこれだけ ではつけがたいことである)。 ※9:
尾 崎 義 編(
1
9
8
2
)
W
ス ウ ェ ー デ ン 語 基 礎1
5
0
0
語J] (大学書林)[以下f
旧版1
5
0
0
語J] で はc
h
e
c
k
e
d
のくu
>
を [u
]
、o
p
e
n
の そ れ を[
w
:
]
と し て い る ; 菅 原 邦 城 ・C
l
a
e
s
Garl
白 編(
1
9
8
7
;
2
0
0
7
年4
版)W
ス ウ ェ ー デ ン 語 基 礎1
5
0
0
語J] (大学書林)[以下「新版1
5
0
0
語J]ではc
h
e
c
k
e
d
の<
u
>
を[
a
]
、o
p
e
n
のそれを[也:]とする;速水望(
2
0
0
7
)
Wニ ュ ー エ ク ス プ レ ス ス ウ ェーデン語J] (白水社)では、c
h
e
c
k
e
d
の<
u
>
を[
a
]
、o
p
e
n
のそれを[田:]とする。菅原・Garl
e
n
に よ る 「 新 版1
5
0
0
語j の記述を本文では採用した。o
p
e
n
のくu
>
を中舌母音[¥1]の記号を正 し く 用 い て 表 記 す る 点 ([w]の 記 号 を も っ て ー 非 円 唇 後 高 母 音 で は な く 一 中 舌 高 母 音[i]の 代 わ り と す る 習 慣 が 一 部 に あ る こ と に つ い て は 前 号 の 拙 稿 「 サ ン ス ク リ ッ ト 第 7母 音 の 本 質 に つ い てj注1
7(
p
1
3
-
1
4
)
に述べた)、またそのc
h
e
c
k
e
d
のカウンターパートを[
a
]
と観察 す る 点 ([日:]が中舌高母音であるので、その「緩み」の相方は当然、シュヴァに向かつて 下がる。[也:]は円唇母音であるので、シュグァの辺りまで下がればそれは当然円唇のシュ ヴ ァ 、 す な わ ち[a]となる)が理にかなっており優れていると思うからである。;ところで スウェーデン語の今ひとつの特色は、<
0
>
をもってl
u
:
/
(
o
p
e
n
)
とl
u
/
(
c
h
e
c
k
e
d
)
を代表させるこ とである。「旧版1
5
0
0
語jで は 油 田k
e
d
のく0
>
を[
u
]
、o
p
e
n
のそれを[
u
:
]
としている。「新版1
5
0
0
語jで は 油 田k
e
d
のく0
>
を[
u
]
、o
p
e
n
のそれを[
u
:
]
とする。『ニューエクスプレススウ ェーデン語』では、c
h
e
c
k
e
d
の<
0
>
を[
u
]
、o
戸n
の そ れ を[
u
:
]
と す る 。 本 稿 で は や は り 「 新 版1
5
0
0
語」の記述を採った。c
h
e
c
k
e
d
が緩み、o
p
e
n
が 張 り で あ る の は 体 系 の 均 整 の 上 で 理 に適っているように思われる。しかし、!日版f
1
5
0
0
語 」 の 著 者 で あ る 尾 崎 義 お よ び 田 中 三 千 夫 ・ 下 村 誠 二 ・ 武 田 龍 夫 編(
1
9
9
0
)
W
スウェーデン語辞典J] (大学書林)ではく0
>
のo
p
e
n
を[
u
:
]
としているが、わざわざ記号の方便である旨断っている。o
p
e
n
のく0
>
に も 緩 み[
u
:
]
の音色があると尾崎は観察したのであろうか。 ※ 10:ア ク サ ン シ ル コ ン プ レ ッ ク ス で 「 狭 い 方 の 母 音j を 表 す 方 式 は 、 上 に 向 け て 尖 っ た 記 号 を 「 上 向 き 矢 印Jの つ も り で 用 い て い る と い う こ と で は な い か と 思 う 。 と こ ろ が アフ リ カ ー ン ス 正 書 法 で は こ れ が 逆 で あ り 、 品 の 方 が 「 広 い eJ[6]を 表 す 。 ツ ワ ナ 語 正 書 法 はこれをさらに拡張したもので、 6が 「 広 い oJ [0]を表すのに用いられている。 ※ 11 : W言 語 学 大 辞 典 』 第 4巻世界言語編下・2(1992、三省堂) rム ラ ブ リ 語jの項(p.363、 坂本恭章)。 ※ 12 :ムラブリ語にはクメーノレ語にはない生産的な接辞がある(接頭辞だけでなく接中辞 もある)。そこにはアクセントがなく
c
r
軽 声Jということであろう)、主たるアクセント(ア クセント核)は後ろの音節にある。 [1][汀 [u][e]は そ の よ う な ア ク セ ン ト の な い 従 属 的 な 音節にのみ現れる。例)[IJ動 調 化 接 頭 辞(Pookajomet al. (1992) p.51) k u- n 0 m乳 房 ・ 胸 → k u n 0 m(乳を)吸うよ完了接頭辞(同 p.51)?e- w A 1戻 る → ?eW A 1すでに戻っているよ名詞化 接中辞(同 p.51)・er・ kwac掃 く → ke附 ac答 。 こ う し た も の は ク メ ー ル 語 で は 分 析 的 に 表 され、たとえば動詞(次の例ではaoir与えるJ)を助動詞的に用いる。 baw吸う aoi ko:n baw d 0 h子ども (ko:n)に乳を (d0 h)飲ませる(ベン・セタリン『クメール語入門』連合出版、 p.128)。 ち な み に ク メ ー ル 語 は 孤 立 語 で あ り な が ら 弁 別 的 な 声 調 を 持 っ て い な い 。 ※ 13:インドネシア語の正書法の新!日の違いはあらまし次のようである。 旧 新 e e c dj y (旧)Djepang r日本」→(新)Jepang ※ 14 :r
注 音 符 号J(注音字母)は/e/と/0/の 存 在 を 想 定 し て 造 ら れ て い る よ う に 思 う 。 い わ ゆ る 「 ピ ン イ ンJ (pinyin、 漢 語 排 音 方 案 ) に つ い て は 、 文 字 上 の 相 補 分 布 な ど を 利 用 し た 複雑なものであり、 eや oの 文 字 を 用 い て 書 か れ て い る か ら と い っ て 、 そ れ が 音 韻 論 的 に どう解釈されているかについては衝単にはいえない。 ※ 15 :近藤 (1990)に お い て 筆 者 は rYale式改」と称し、次のような転写法を用いていた。ト
a1
e ム 0,
u - wI
i . B 現 在 は こ の 方 法 を 採 ら ず 、 単 に 「 大 韓 民 国 文 教 部59年 式J によってト
a1
eo ム o,
u -euい
とし、 ・については類推によって reaJ (なお、ムは zで 写 す ) と 書 く こ と に し て い る 。 補 助 記 号 を 用 い ず に 転 写 す る こ と が で き る 点 で r59年 式 」 は 優 れ て い る と 考 え る からである。4
をeoと表記す るのはおそらく roに 似 た も の 、 も う ひ と つ の oJ の 意 味 であって、4
の 現 在 の 音 価 [oJか ら 来 る も の で あ る が 、 転 写 の 目 的 が 達 せ ら れ る の で あ れ ば 筆 者 の 考 え る 中 期 語 の 体 系 で の 位 置 づ け と 食 い 違 っ て い た と し て も 別 に 構 わ な い と 今 で は思っている。なお、 2000年 の 「 新 文 教 部 式 」 は 同 じ 文 字 を 頭 位 で g-、パッチム(末位) で-kと写し分けるなど、 l音 1字から逸脱しており、改悪と考える。 59年 式 は 頭 位 と 中 位-49
のリウノレ(ri-'eul)を r-、末位のそれを・1で 写 す 以 外 、 厳 密 に 同 じ 字 母 を 同 じ ロ ー マ 字 で 写 す 原則を守っている。 ※16 : IrvyW. Goossen ( 1995):Dine Bizaad:争'ea, Rk