話題導入に用いる主題提示表現とその使用に関わる
要因
著者
朱 怡潔
雑誌名
文化
巻
84
号
3,4
ページ
46-67
発行年
2021-03-31
URL
http://hdl.handle.net/10097/00131306
令和 3 年 3 月 31 日発行
話題導入に用いる主題提示表現と
その使用に関わる要因
話題導入に用いる主題提示表現とその使用に関わる要因
朱 怡 潔
要 旨 本稿では、談話における話題導入の際に、主題提示表現がどのように使い分 けられているかを考察した。話題導入のための主題提示表現は、先行話題の終 了過程と関連があることを指摘した。具体的には、(1)先行話題が終了するこ とによって新しい話題が導入しやすくなり、終了後の話題導入では明示的な主 題提示表現の「は」が生起しやすい。(2)話題終了から開始までの沈黙の有無 も主題提示表現の使用に影響し、沈黙のない継続終了の後の話題導入では倒置 が多く、沈黙のある断絶終了では無助詞と(主題が)明言化されない例が多く 見られる。(3)終了過程のない未終了の後の話題導入では、話題の境界を明示 しないために無助詞が多く、さらに主題が明白なために明言化されない例も多 く見られる。 1.はじめに 日常会話において話題は常に変化しており、その境界付近では様々な言語表 現が見られる。話題開始表現について筆者が検討してきた結果、話題間の内容 的関連性や参加者主導権などによる使い分けが見られている。一方、同じ開始 表現として扱われるものの中に、話題同士を繋げたり開始したりする談話標識 以外に、「は」「って」などの助詞類も含まれている。談話標識とは異なり、話 題内容を取り上げる機能を果たすこれらの助詞類に着目した研究はまだ限られ ている。また、同じく話題を取り上げる機能があるものでも、それぞれの取り 上げ方が異なり、それゆえ異なる生起傾向をしている可能性があると考えられ る。本稿では話題導入に用いる助詞類を含むこれらの表現に注目し、その使用 とそれに関わる要因を明らかにしたい。2.先行研究と問題提起 会話の構造を紐解く際に、よく単位として使われるものに「話題」がある。 話題とは、会話参加者のやり取りの中で生み出されるもので、前後の内容と区 別され一まとまりを成すものである。話題が転換する際に、先行話題を終了し 後続話題を開始するためには様々な言語表現が使われる。その中で特に話題を 開始するための言語表現について多く研究されている。話題開始表現について は、話題間の内容的関連性(楊虹 2005a、花村博司 2016、朱怡潔 2020a)や、 参加者主導権の交替(朱怡潔 2020b)、直前の話題終了(嶋原耕一 2017)など の観点から研究されており、これらが要因となって開始表現が使い分けられる ということが示されている。本稿もこの一連の研究の流れに位置づけられる。 開始表現は言葉通り、話題を開始するための表現である。これにはどのよう な表現を含むとするかは諸研究で異なっている。花村博司(2016)、嶋原耕一 (2017)、朱怡潔(2020b)では「なんか」「まあ」のような談話標識のみを対 象とするが、楊虹(2005a)、田中奈緒美・崔沫舒(2014)、朱怡潔(2020a)で はさらに下記のような表現も対象としている。 (1)楊虹(2005a:330-331、一部のみ引用し、改行を改めた) ①提題表現:話題となる事柄の後に「は」「さー」を伴う場合。 ②列挙、 自己引用表現:話題となる事柄の後に「とか」「って」「ていう か」「とか言って」を伴う場合。 ③くり返 し・倒置表現:話題となる事柄をくり返したり、倒置させたり することにより、より目立たせる効果を持つ。 (2)田中奈緒美・崔沫舒(2014:53、上に同様) ①話題の 強調:とりたて助詞や倒置,繰り返し等を用いて,話題として 取り上げるものを強調する表現。(「って」「とか」) ②話題の フレームの提示1:時間や場所等,これから導入する話題の背景 的な枠組みを示す表現。(「中国に行った時に」「日本人の家で」) 1 「話題のフレームの提示」は話題が起こる状況を示す表現であり、ここで挙げて いる他の表現とは次元が異なるものと考え、本稿では対象としない。
(3)朱怡潔(2020a:218、上に同様) ①話題と なる事柄を際立たせる表現:話題となる事柄の後ろに付き、そ れを取り立てる副助詞、終助詞類。(「は」「とか」「さ」) 会話では、内容を表す部分と内容の関係を表す部分があり、話題の転換、終 了、開始などを示す役割を担うものには、接続詞、感動詞などといった談話標 識があるほかに、上記のような表現も含まれる。先行研究ではこれらを談話標 識と一括して「話題開始表現」として扱うことが多い。しかし、このような扱 い方は妥当であろうか。例 1 をもとに検討する。 例 1(〔J5J6〕の会話より) 318 J6 《沈黙 2 秒》もはや辞めたいんだけど、バイト,は < 笑い >=。 319 J5 =はは < 笑い >。 320 J6 《少し間》特に中華料理屋のほうは。 ➡ 321-1 J5 《沈黙 2 秒》え、最近さ ,, 322 J6 うん。 ➡ 321-2 J5 《沈黙 2 秒》なんかちょっと,パチンコも悪くないかなって思い 始めて。 323-1 J6 《少し間》ああ [ 語尾を 1 秒引き延ばし ],, 324 J5 全然 =【【。 323-2 J6 】】= 時給はいい [ ボリュームが高い ] って聞く < けどね >{<}。 注:J5、J6は参加者、➡は開始発話、パチンコは主題、もは主題提示表現。 例 1では、「321-1」と「321-2」の発話を境に話題内容が「パチンコ(のバ イト)」に転換した。その際、実質的内容を伝達する部分以外に、「え」「なん か」という談話標識と、「も」という助詞も使われている。「え」「なんか」は 先行話題と境界付けるために用いられ、話題を形式的に開始するのに対し、 「も」は統語位置的にも機能的にもそれらとは異なり、これから展開する話題 内容(例 1では「パチンコ」)かその一部を取り上げ、話題内容を会話に取り入
れる役割を持っている。本稿ではこのような表現を「主題提示表現」2とする。 主題提示表現は、上記(1)∼(3)のように、主題となる名詞句の後ろに付 く助詞類から、倒置、くり返しまで幅広く捉えることができる。このうち、取 り立て助詞の「は」「も」、引用標識の「って」などは文法研究でも談話研究で も対象とされてきている。「は」は書き言葉では典型的な提題表現として使わ れるが、会話に使われると対比の意味が強いということや、「も」は主題の後 ろに付き、付け加えることを示すこと、「って」は先行する言葉を引用しそれ について展開する表現であることなどが指摘されている(日本語記述文法研究 会 2009、加藤陽子 2010など)。このように、それぞれの助詞を明らかにした 研究は多く見られるが、なぜ話題導入に用いられ、さらにどのように使い分け られるかの説明には不十分だと考えられる。また、前述のように、機能の異な る談話標識と比較させ考察を行っているため、話題導入に用いる主題提示表現 の特徴と使い分けを的確に捉えているとは考えにくい。 主題提示表現には様々な種類があり、使い分けがあると考えられる。この使 い分けは当然、対比や付け加えなどのような取り上げる内容の特徴による部分 もあるが、話題導入に用いる際の特徴を考えるには内容以外の要因を考える必 要がある。話者は何かを話題として取り上げる際には、その何かを前景化して 取り上げるのであって、他の事柄は背景化される。そのため、新たな話題を導 入する際、先行話題が終了しているか否かが深く関連していると思われる。本 稿では、先行話題の終了という要因から主題提示表現を考察していきたい。 話題終了について、日常会話では、「この話はここまでだ」というような明 示的な終了はほとんどなく、話すことがないことを示す相づち的な発話によっ て決められるというのが一般的な考えである。West, C & Garcia, A(1988)で は、参加者双方による終了発話が確認される「協働的転換」とそうでない「一 方的転換」という分類が提示されている。楊虹(2005b)ではこれをさらに細 分化し、「協働的終了」と「突発的終了」(双方ともに終了発話なし)「一方的 2 ここで「話題提示表現」としないのは、話題に対する捉え方とも関係する。話 題は、例 1 の「パチンコ」のように 1 つの名詞句にまとめられる場合もあれば、 話題を表す名詞句が複数あり各所に分散する場合も多々あると考えられる。そ のため、「話題となる事柄」を一つに絞るのではなく、複数からなると考える。 本稿では、話題内容に深く関わる名詞句の中で、話題に最初に導入される名詞 句を考察するため、「話題」ではなく、「主題」という用語を用いた。
終了」(話題開始者にのみ終了発話あり)「無表示終了」(話題開始者でない話 者にのみ終了発話あり)の 4 つに分類し、中日接触場面の考察を行った。似た ような分類は楊虹(2007)と嶋原耕一(2017)にも見られる。しかし、「うん」 「そう」などのような、終了部に限らず話題展開中や開始部でも随所に見られ る終了発話を、一回のみ現れた場合の「一方的終了」「無表示終了」や一回も 現れなかった場合の「突発的終了」によって捉えようとしても、終了部以外の 部分と区別することが難しい。よって本稿では、West, C & Garcia, A(1988) の二分法を取り入れる。 このように話題終了を捉え直したうえで、前掲の「は」、「も」、「って」、倒 置などの主題提示表現の使い分けに話題終了がどのように関連していくかを明 らかにしたい。この考察をすることによって、話題導入のメカニズムを明らか にするとともに、主題提示表現を「話題」という単位で見るときの特徴を紐解 くことになるのではないかと考えられる。 3.会話データの概要と研究対象 筆者が独自に収集した 20 代の同性友人同士の雑談会話(1 会話 30 分前後で 合計 3 時間 19 分間、男性 2 会話と女性 4 会話3)を文字化し、日本語母語話者 2 名と共同で話題区分を行った(7 割一致、3 割協議)。話題区分を行う際、前 後の内容に何らかの関連性を持つ場合でも、中心的に話される内容が異なれば 「話題転換」4だと認定した。話題区分を行った後、各会話の冒頭 1 話題を除い た 169 話題の開始部分を対象に主題と主題提示表現を認定した。 主題の認定について説明する。主題は、「何について話すか」の「何」に当 たる部分である。ある発話の主題が「継続的に関心が向けられる指示対象」(砂 川有里子 2005:22)になれば話題となる。前掲の例 1 を用いて説明すると、 「パチンコも悪くないかな」の「パチンコ」はこの発話のみならず、その後の 3 男性 2 会話は〔J3J4〕〔J5J6〕、女性 4 会話は〔J7J8〕〔J9J10〕〔J13J14〕〔J15J16〕 である。女性会話の〔J15J16〕だけが 40 代同士の会話である。 4 この話題転換の捉え方について、例えば、「A のクリスマス」から「B の年末年 始」へと内容が変化するとして、「行事・イベント」としてまとめることもで きるが、このような大きな話題同士の転換のみを対象とすると、話題の細かな 流れを追究することができず、主題提示表現の使用の考察も限られることにな る。そのため、本稿では、上記のような捉え方で話題転換を認定した。
「時給はいい」、さらに例 1 に挙げきれなかった「タバコのにおいも気にしな い」「他の人たちの目の問題がある」などと続いており、省略はされつつもい ずれも「パチンコ」をめぐる内容が展開されている。この「パチンコ」のよう に、1 発話に止まらず広い範囲で言及される主題を対象とし、話題の導入を検 討していく。 (4)主題の抽出基準 基本的に話題開始の 1 発話目に現れる名詞句の中から、1 発話目以降 でも継続的に言及されるものを主題として抽出する。ただし、時間(「明 日」)、人物(「私」)、場所などの話題のフレームを示す語句は話題内容を 構成する意味での貢献度が低いと思われ、抽出する際はあくまで参考程度 にした。 会話では、一つの内容を中心に円を描くように展開する話題もあれば、異 なる内容を繋げていきチェーンのように展開する話題もある(メイナード (1993:130-139)の「相互テーマ展開構造」)ため、最初の主題と話題が必ず しも一致しない。したがって、本稿では、中心となる話題の導入を追究するよ りも、先行話題が終了した後に新たな話題にまず何かを導入し、それをもとに 話を展開していく際の最初の主題の導入形式に注目する。 主題提示表現について、例 1 の「パチンコも悪くない」を例に説明すると、 (4)の定義に従ってこの話題で継続的に言及される「パチンコ」は主題とな り、後ろに付く助詞「も」が主題提示表現となる。場合によっては、「とか」 のような表現や倒置などと兼用されることもあるため、1 話題につき 1 主題提 示表現というのは必ずしも成立しない。この手続きに基づき抽出した主題提示 表現を表 1 にまとめる。 表 1の表現については 4 節で検討するため、ここでは詳述しない。次に、主 題提示表現の使用に関わる話題終了の枠組みを提示する。
表 1 各主題提示表現5とそれぞれの生起数 分類(合計生起数) 表現形式(生起数) 助詞類(93) は(25)、が(20)、って(14)、も(14)、とか(7)、さ(6)、か(2)、ね(2)、ぐらい(1)、と(1)、なんて(1) 統語的位置(35) 倒置(19)、前触れ(6)、くり返し(5)、述部(5) 無助詞(42) 無助詞(42) 明言化されない(31) 明言化されない(31) 注:同じ表現が複数回生起しても(「…とか…とか」)1 例としてカウントする。 2 節に述べた「協働的終了」と「一方的終了」の二分法を取り入れたうえ で、村上恵・熊取谷哲夫(1995)の「継続型・断絶型・割込型」6の分類を考慮 すると、話題が終了していなければ問題とはならないが、話題が終了してから 開始するまでの沈黙の有無も話題導入に影響を与えると考え、(5)の分類を試 みた。 (5)話題終了の分類 ①未終了 :参加者の片方か双方ともに終了表現が見られない話題終了。 ②継続終了: 参加者の双方から終了表現が見られてから話題開始までの 間が短い(1 秒未満)話題終了。 ③断絶終了: 参加者の双方から終了表現が見られてから話題開始までの 間が長い(1.5 秒以上)話題終了。 注:「終了表現」とは、相づち、まとめ・評価表現などの言語表現を指す。 5 統語的位置の「前触れ」は、話題内容が明言化される前に「あれ」などの指示 詞によって現れる場合である。「述部」は、話題となる事柄が主題としてではな く、叙述の部分に現れる場合である。「明言化されない」は、最初の発話には主 題となる名詞句が見つからない、あるいは顕現されない場合である。 6 村上・熊取谷(1995:106)によると、明確な終了部と長い沈黙が生じた後に 導入されるのは「断絶型」、先行話題に割り込む形で導入されるのは「割込型」 で、終了後すぐに後続話題が導入されるのは「継続型」であるという。
4.結果と考察 3 節の表 1 に挙げたように、6 会話では合計 201 例の主題提示表現が見られ、 話題終了によって使い分けがあると考えられる。ここで、(5)の 3 種類の話題 終了を縦軸に、各主題提示表現の形式を横軸に生起数を集計し、表 2 にまとめ る。 表 2では、主題提示表現の話題終了ごとの生起数がそれぞれの合計に占める 割合をもとに、同じ主題提示表現がどの話題終了により多く生起しているかを 網掛によって示している。これに基づき、「は」、「倒置」、「無助詞」、「明言化 されない」に大きな差異が見られ、話題終了と密接な関係が認められたため、 以下ではこの 4 つを中心に検討していく。必要に応じて他の表現にも触れる。 表 2 3 種類の話題終了における主題提示表現の分布 話題終了 主題提示表現 未終了 継続終了 断絶終了 助詞類 は 1(2%) 19(20%) 5(10%) も 4(7%) 6(6%) 4(8%) が 8(15%) 9(9%) 3(6%) って 4(7%) 7(7%) 3(6%) とか 0(0%) 4(4%) 3(6%) さ 2(4%) 4(4%) 0(0%) か(終助詞) 1(2%) 0(0%) 1(2%) ね(終助詞) 0(0%) 2(2%) 0(0%) ぐらい 1(2%) 0(0%) 0(0%) と 0(0%) 0(0%) 1(2%) なんて 0(0%) 1(1%) 0(0%) 統語的 位置 倒置 2(4%) 14(15%) 3(6%) くり返し 2(4%) 1(1%) 2(4%) 前触れ 1(2%) 3(3%) 2(4%) 述部 3(5%) 2(2%) 0(0%) 無助詞 15(27%) 13(14%) 14(28%) 明言化されない 11(20%) 11(11%) 9(18%) 合計 55(100%) 96(100%) 50(100%) 注:%は四捨五入したため、合計が 100% と一致しないこともある。
4.1 助詞「は」と「も」の使用 表 1から分かるように、「は」は 25 例、「も」は 14 例と、助詞類の中では多 く生起している。日本語では主題は、助詞の「は」によって示され、後続する 叙述内容とセットとなって一つのまとまった内容を表すとされている(佐久間 まゆみ 1986:105)。「も」は「は」ほど典型的ではないが、主題提示の機能を 共通して持っているといえる。ここで「は」の用法を 3 つの点から検討する。 (Ⅰ)「は」の基本的用法―対比と提題 前述の通り、助詞「は」は主題を取り立てる機能があるが、実際の会話では どのように用いられているかを例 2 をもとに検討する。 例 2:助詞「は」の例(継続終了、〔J15J16〕の会話より) 159-2 J16 <クリスマス >{>} の時は,ちょっとまあ,‘残念だったか なー’,< と思って >{<}。 161 J15 <うーん >{>}[ 語尾を 3 秒引き延ばし ]=。 ➡ 162-1 J16 =まあでもあと,年末,年始 ??,, 163 J15 うん。 ➡ 162-2 J16 は,《少し間》えーと,温泉 ,, 164 J15 《少し間》< うん >{<}。 ➡ 162-3 J16 < に >{>},《少し間》行きました,< 二泊三日で >{<}。 165 J15 <いいなー [ 嘆くようなトーンで ]>{>},いい < なー >{<}。 例 2では、「162」の発話を境に話題は【J16 のクリスマスの過ごし方】から 【J16の年末年始の温泉旅行】へ転換し、その際に主題提示表現として「は」 が用いられている。「二泊三日で」の倒置もあるが、倒置については 4.2 節で 改めて検討する。 この例では、「年末年始の温泉旅行」はそれまでの話題には現れていない内 容であり、先行する「クリスマス」と同じく「祝日」に属するもので、話者に とっては想定しやすい情報であると同時に、「クリスマス」と対比されている ようにも見て取れる。もとより会話では助詞、特に「は」は省略される傾向が
あると言われており、敢えて「は」を用いるときは対比の意味合いが強いと考 えられる。例 2 に限らず、「は」が用いられる 25 例のうちの 20 例はいずれも 下記のように先行話題に対比すると思われる名詞が存在するものである。 例 3:で、G <人名>先生はだ,どういう人 ?。(O 先生⇔ G 先生、〔J3J4〕) 例 4: まあでも自分の,自分の単位はまあ,《沈黙 2 秒》あらかた取ったし、は < 笑い >。(K <人名>の単位⇔自分の単位、〔J5J6〕) このように、先行話題か先行話題の一部と対比関係を成す事柄を提示するた めに取り立て助詞の「は」が用いられ、「対比しながら主題を提示する」とい う用法が会話における「は」の最も多く見られる用法である。ただし、対比と 提題の用法があるというだけでは、話題導入に用いる理由の説明には不十分で ある。 (Ⅱ)話題導入と話題途中の「は」の比較 ここで話題導入時の「は」とそうでないときの「は」を比較してみる。例 5 をもとに検討する。 例 5:助詞「は」の例(継続終了、〔J3J4〕の会話より) 345 J3 《沈黙 2 秒》で、俺 [ アクセントが 1 型 ] は,もうちょっとで読み 終わるんだけど。 346-1 J3 《少し間》M <人名>さっき読み始めたから ,, 347 J4 うん。 346-2 J3 《沈黙 2 秒》彼女は多分泣いている、今頃。 348 J4 はははは < はは < 笑い >>{<}。 349 J3 <ははは < 笑い >>{>},泣いている,はは < 笑い >=。 ➡ 350 J4 =え、それは必修 ?。 351-1 J3 《沈黙 1.5 秒》必修じゃない,なんか、世界教養科目 ??,, 例 5では、「350」の発話を境に話題は【J3 の明日提出の課題】から【授業
の内容】へ転換している。ここで、話題導入の「それは」以外に、「俺は」と 「彼女は」の「は」も見られる。「それは」の「それ」は話題の「課題」を指 示しているが、「俺は」と「彼女は」の「は」は、課題の進み具合について「俺 (J3)」と「彼女(M)」が対比する形で提示されている。そのうえ、「それ」 の指示する「課題」は継続的に言及されるが、「俺」と「彼女」は一時的にし か主題として機能しないために、話題は「課題」であることに変わりはない。 さらに他の会話例を観察すると、話題途中に生起する「は」は「俺は」のよ うな、話題になりにくい人称代名詞や副詞類と共起することが多く、一時的に 主題になるものの継続的には言及されないものがほとんどである。一方、話題 導入に用いられる「は」が提示するものは話題になりやすい普通名詞がほとん どで、話題か話題の一部を提示し、継続的に言及され、話題の導入として捉え られるという特徴が見られた。 (Ⅲ)話題終了との結びつき 表 2から分かるように、「は」は未終了では全体の 2% であるのに対し、継 続終了では 20%、断絶終了では 10% と多くなっている。前掲の例を見ると、 話題を開始する前に、例 2 ではまとめ・評価表現と相づち、例 5 では笑いとま とめ・評価表現が見られたために、話題終了のやり取りが行われた後に導入さ れた例であることが分かる。以下、この話題終了の過程と「は」の用法との関 連を考える。 継続終了も断絶終了も、終了表現の使用により話題が終了を迎えるという認 識が会話参加者の間で共有され、新たな主題を提示する土台ができる。取り立 て助詞「は」(「も」も同様)は、無助詞や倒置などと比べれば比較的明示的で あり、先行話題が終了した後に新たな主題の提示を行うために「は」「も」の ような明示的な表現が用いられるということである。 上記(Ⅰ)∼(Ⅲ)のように、「は」には先行話題かその一部と対比する事 柄を話題として提示する用法があるが、すべての「は」が話題導入になるので はなく、継続的に言及される普通名詞を提示する際には話題導入になることを 明らかにした。また、「は」は主題を明示的に提示し話題を導入するため、話 題終了の後の方に生起しやすい。これは、先行話題が終了し新しい話題を導入 する土台ができることによって、明示的な主題提示表現が必要となるためであ る。
最後に、「も」について少し触れておく。「も」は同じ取り立て助詞でも、話 題終了の後に生起する傾向は「は」ほど強くない(未終了 7%、継続終了 6%、 断絶終了 8%、表 2 参照)。ここで「も」を用いた未終了の例をもとに検討す る。 例 6:助詞「も」の例(未終了、〔J13J14〕の会話より) 204 J14 《少し間》JICA も,案外,《沈黙 2 秒》アジア,アフリカ,《沈黙 2 秒》方面が多いし =。 205 J13 =うん。 ➡ 206 J13 [ 咳払いして ],[息を吸って、吐息して ] なんか,《少し間》一つ [ 語 尾を少し引き延ばし ],なんかスペイン語 ??,《少し間》スペイン 語もなんか日本語にちょっと近い,って ( えー ) 聞いたことある けど,《沈黙 1.5 秒》う、うそかな [ 全体的にスピードが遅い ]。 例 6では、直前話題は相づちのみで終わる未終了であり、「スペイン語」を 導入する前に「なんか、一つ、なんか」と引き延ばしのようなクッションを置 いた後に「も」が用いられた。表 2 の数値からは「も」と終了との強い関連は 見られなかったが、未終了の後にいきなり「も」を用いて導入するのは難しい ということがこの例 6 からも垣間見ることができる。「は」の未終了の 1 例で も、長い前置きの後の「あれは運動だと思ってます」という例であり、未終了 の後にいきなり「は」で主題提示することが難しいことへの裏付けにもなると 考えられる。 4.2 倒置の使用 4.2 節では、助詞があるか否かとは別に、主題を強調するために本来の統語 的順序を変える例を検討していく。表 1 では倒置が 19 例見られ、前触れ、く り返し、述部の例が少なく、明確な傾向性は見出せないため、倒置を中心に検 討する。7 7 主題提示表現を四角い枠で示しているが、倒置に関しては、前置される部分が 取り上げる対象であるが、複数の行に跨ったり、他の表現と重なったりするた め、見やすいように後置される部分を四角い枠で示すことにした。
例 7:倒置の例(継続終了、〔J7J8〕の会話より) 904-1 J8 《少し間》南米とかは、もう多分ね ,, 905 J7 《少し間》ああ =。 904-2 J8 =1つずつ全部回ってるぐらい勢いなんだよね[スピードが速い]。 906 J7 《沈黙 1.5 秒》ファンが多いところはやっぱりそれだけ行っても ね。 …中略… 952 J7 整ってるじゃん [ ↓ ]。 953 J8 《少し間》まあね。 954 J7 オーストラリアでさ【【。 955 J8 】】うーん。 ➡ 956-1 J8 オーストラリアもやってたよ ,, 957 J7 《沈黙 2 秒》うそ、<はは< 笑い>、本当 < 笑いながら>?>{<}。 956-2 J8 < コンサート >{>}=。7 958 J8 =うーん。 例 7では、【ワンオクの海外の人気】(904-1 ∼ 906 を含めた話題)から【ワ ンオクのボーカルの家族】(952 ∼ 955 を含めた話題)へ転換した後、「956-1」 と「956-2」の発話を境に【ワンオクの海外の人気】に復帰した。J7 が「954」 で「オーストラリアでさ」と発話したのは、そこで知り合った先生も顔が整っ ているという話題を導入しようとしたためであることがこの後の展開から分か るが、それが J8 の「956」のワンオクの海外コンサートの話の続きによって遮 られた。ここで、「オーストラリアもコンサートをやってた」という本来の統 語的順序が「オーストラリアもやってたよ、コンサート」のように逆になって おり、倒置が行われた。 会話は考えながら産出されていくため、書き言葉のような文の順序には必ず しもならない。倒置は、時間の流れに沿って産出されていく会話の実現形のバ リエーションの現れであり、「本体の前景化」(ポリー・ザトラウスキー 2005: 164)と呼ばれ、倒置され後ろに回された部分に焦点を置かず、前の部分を目
立たせるという機能が指摘されている。そのため、最も伝達したい、より重要 な情報が先に話され、例 7 の「コンサート」のような文脈から明白な情報が後 回しにされる状況が起きることも可能である。 倒置は未終了では全体の 4%、継続終了では 15%、断絶終了では 6%(表 2 参照)と、継続終了の後に生起しやすい傾向がある。これについて、日常会話 では、「〇〇の話だけど」のような明示的な話題開始はあっても、「この話はこ こまでだ」のような明示的な話題終了はなかなか見られない。終了表現が 2 回 以上交わされた後、長い沈黙があれば話題終了はより明示的に示されるが、継 続終了はその沈黙を待てずに、早くに話題を開始しようとする姿勢が窺える。 言いたいこと、重要な情報を先に言うという倒置はまさにこの状況に合う表現 である。このように継続終了では、倒置を用いて、ときに発話の重なりがあっ てもいいというほどに、話題に最も重要で注目して欲しい情報を素早く導入で きると考えられる。例 7 では、相手の「オーストラリア」を「うーん」で遮っ てまで、「オーストラリアもやってた」という話題を早く導入しようとする姿 勢が見られる。 最後に、主題提示表現における倒置の位置づけを付け加える。倒置は合計 19 例のうちの 18 例はほかの助詞類か無助詞と共起していることから、主題を 提示する助詞類と比べ、倒置を含む統語的位置はあくまで補助的な存在として 考えられる。 4.3 無助詞 主題は明言化されているが、主題提示表現は明示されないという無助詞は、 合計 42 例あり(表 1 参照)、最も多い主題提示表現である。表 2 を見ると、無 助詞は未終了では 27%、継続終了では 14%、断絶終了では 28% と、未終了と 断絶終了は継続終了の 2 倍ほど多く生起している。会話データを観察すると、 断絶終了と未終了で無助詞が用いられたのは異なる理由によってではないかと いう仮説が考えられ、それぞれについて検討していく。 (Ⅰ)断絶終了における無助詞の使用 断絶終了の無助詞について、例 8 をもとに検討する。
例 8:無助詞の例(断絶終了、〔J9J10〕の会話より) 390 J10 《沈黙 1.5 秒》なんか,あれ,映画やってたじゃん [ ↓ ]。 391 J9 うんうんうん。 392 J10 妹が < 見に行っとってたけど >{<}。 393 J9 < 映画見てない [ スピードが遅い ]>{>}。 …中略… 402 J9 =あはははは < 笑い >( はは < 笑い >),《少し間》笑える < 笑 いながら >。 403 J9 《少し間》いや、理解はできたよ。 404 J9 《沈黙 2 秒》うーん。 ➡ 405 J9 《沈黙 2 秒》妹ちゃん、いくつだっけ ?。 406 J10 《沈黙 2 秒》21=。 例 8では、【「何者」という映画】から【J10 と妹の年齢】へ話題が転換する 際に、主題である「妹ちゃん」と叙述内容である「いくつだっけ」の間にある はずの助詞「は」が付いておらず、無助詞で提示されている。 無助詞について、「話し手が聞き手に伝えたいことがらの基盤となるものを 取り出して聞き手に指し示す」、「聞き手に何について話したいのかをまず前置 き的に伝え,聞き手に働きかけるきっかけを作る」(長谷川ユリ 1993:162) という「取りだし」の機能があると指摘されている。例 8 の「妹ちゃん」は 「392」の発話で最初に会話に導入されたが、主題として確立していない。 「405」で「妹ちゃん」をピックアップし、主題として提示し叙述内容を付け 加えているというように、無助詞の「取りだし」の機能は主題提示につながる と考えられる。 次に、話題導入に限らず話題中でも多く使われる無助詞が主題を提示すると はどういうことか、あるいはなぜ提示できるかについて、下記の例をもとに検 討する。
例 9:無助詞の例(断絶終了、〔J3J4〕の会話より) 113 J3 行き、うん ??、帰りは新幹線だっけ ?=。 114 J4 =あ、新幹線 < です >{<}。 …中略… 126 J4 =で,その新幹線の中でキルフェボンのタルトを食べる < って …>{<}。 127 J3 <ははは >{>} ははは < 笑い >,リッチかよ < 笑いながら >, <はは < 笑い >>{<}。 128 J4 <はは < 笑い >>{>}。 129 J4 いや,“うまー”とか言って (< 笑いながら >)。 130 J3 はは < 笑い >。 ➡ 131 J4 《沈黙 2 秒》あ,今回俺、富士山、初めて見た。 132 J3 マジで ?。 133 J4 マジマジマジ、めっちゃきれいだね =。 例 10: そう、お土産、お土産おいしかったでしょ [ スピードが速い ]、あれ。 (〔J3J4〕の会話より) 例 11:オーストラリアもやってたよ、< コンサート >{>}=。(例 7 の再掲) 例 9では、【J4の帰りの交通手段】から【富士山】へ話題が転換する際に、「富 士山(を・∅)見た」の助詞が省略されている。無助詞は、例 9 のように主題 の後に少し間を持たせたり、くり返し(例 10)や倒置(例 11)のような統語 的位置と兼用されたりすることも多い。また、話題導入に限らず話題中でも多 く使われているため、助詞が用いられる場合と比べると主題提示の明示度が低 くなると考えられる。ところが、例 9 を見ると、先行話題では「帰りは新幹線 だっけ」「新幹線の中でタルトを食べるって、リッチかよ」のように、話題全 体の主題も明示的に示されているほか、小さい主題のようなものもあるのにも かかわらず、その後に「富士山」の話題を出すのに明示的な提示表現が使われ なかった。ここで、なぜ助詞が生起した後でも無助詞で主題を提示できるかを 考える必要がある。
書き言葉のピリオド越えと同様、会話でも継続的に言及される主題はその勢 いが何発話にも及ぶと考えられる。書き言葉の「段落」のように、「帰りは新 幹線」は終了のやり取りと長い沈黙を経て話題の終了が明確に示されたため、 そこでどのような話をしても別の話だという認識が生じやすい。例 9 のような 直前話題に明示的な主題提示がある場合ですら、話題が終了すると主題の勢い が絶たれるため、そうでない場合も当然問題とはならない。言い換えれば、断 絶終了の後ならば、無助詞が使用されても許容されるということを意味してい る。 (Ⅱ)未終了における無助詞の使用 未終了でも無助詞が多用される傾向があるが、断絶終了とは異なる解釈が考 えられる。例 12 をもとに検討する。 例 12:無助詞の例(未終了、〔J13J14〕の会話より) 75 J13 《沈黙 2 秒》え ?,《少し間》取った ?,集中,《少し間》英語の。 76 J14 取りました =。 77 J14 =あのう,《沈黙 1.5 秒》1 個だけ,《沈黙 1.5 秒》翻訳。 78-1 J14 《沈黙 2 秒》あの、M <地名>県の =,, 79 J13 =M <地名>県の < 笑いながら >,< ははは < 笑い >>{<}。 78-2 J14 <M <地名>の >{>},S <地名>の,ほうの,《少し間》先生 < 笑いながら >,《沈黙 1.5 秒》のやつ取りました、はは < 笑い >(< 笑いながら >)。 80 J13 [笑いが2秒続く]付いてる?<笑いながら>[ボリュームが低い]。 ➡ 81 J13 《沈黙 3 秒》[笑い気味で ] あの先生、すごいよね、はは < 笑い >, いろいろ、< はははは < 軽く笑い >>{<}。 82 J14 <なんか >{>}、フェイスブック…。 83 J13 《少し間》つながってるの ?< 笑いながら >=。 84 J14 = 友達になりました,ははは < 笑い >。 例 12では、【英語の集中講義】から【英語翻訳の先生】へと話題が転換する
際に、「あの先生(は・∅)すごいよね」と、無助詞が用いられている。ここ で、「英語の授業で S <地名>の先生の授業も取った」という流れの中にすで に登場した人物を取り上げ、「あの先生すごいよね」と先生その人に焦点を当 て話題を転換している。ここでもし「は」を用いれば対比の意味合いが強くな るが、この付近で「あの先生」と対比する人物は存在しないため、対比を避け るために無助詞を用いたとも考えられる。さらに、終了のやり取りがないとい う未終了の後に話題が導入されたため、4.1 節の論述から考えると、「は」は極 めて用いられにくい。つまり、未終了の例は、話題の中心内容が変わったため に話題転換としているが、ある意味では「流れるような話題転換」に近いもの と言える。話題終了の境界が曖昧であるために、明示的な主題提示をする環境 が作られていない。そこで主題を明示するとそれこそ唐突な話題導入になり、 例 13のように、「聞いて」と「なんかさ」のような談話標識を用いて強制的に 導入することになる。 例 13: で聞いて [ ボリュームが高い ]、なんかさ、明日、提出の課題があるの。 (〔J3J4〕の会話より、未終了) このように、断絶終了の場合、一回話題終了が明確に示されたため、無助詞 での主題提示が許容される。未終了の場合はその反対で、話題の終了はそもそ も示されず、敢えて話題の境界を明示的なものにしないために無助詞が使用さ れる。 4.4 明言化されない 本稿では話題開始の 1 発話目にある主題提示表現を考察するが、そこに主題 たるものが現れない、あるいは省略されるものを「明言化されない」に分類し ている。明言化されない例は合計 31 例あるが、未終了では全体の 20%、継続終 了では 11%、断絶終了では 18% と、未終了と断絶終了では少し多く見られた。 例 14:主題が明言化されない例(未終了、〔J7J8〕の会話より) 1075 J7 < 語学の >{>} 先生のやつ、講師取ったと思うけど…。 1076 J8 へー [ 語尾を 1 秒引き延ばし ]=。
➡ 1077 J7 =でも向こうで小学校と,《沈黙 2 秒》高校、中高、一緒なんだ けど =。 1078 J8 =うーん。 1079 J7 《少し間》小学校と中高で,なんかね,すごいいっぱいやってた =。 例 14では、【T <人名>先生が教師になる経緯】から【T <人名>先生の仕 事】へ話題が転換する際に、「1077」と「1079」の「でも向こうで…すごいいっ ぱいやってた」の主語である「T 先生」が明言化されていない。直前の話題は 「へー」という一回の相づちのみによる未終了である。未終了で主語が省略さ れることが多いのは、例 14 のように、同じく「T 先生」をめぐる話題群の中 の一つで、毎回「T 先生」を明言しなくても良い例が多いからである。実際に 未終了の 11 例を精査すると、うち 8 例がこの解釈に当てはまる。 一方、断絶終了については、例 15 をもとに検討する。 例 15:主題が明言化されない例(断絶終了、〔J3J4〕の会話より) 730 J4 <おー >{>} い [ 語全体を 1 秒引き延ばし ][ 笑いが込められて いる ]。 731 J3 ははは < 笑い >=。 732 J4 =おーい、ふざけんな、マジで [ ボリュームが低くなる ][ 笑いが 込められている ]( 全体にわたり < 笑いながら >[ 笑いが 2 秒続 く ])。 ➡ 733 J3 [ 笑いが止まる ] で,《沈黙 2 秒》深夜のなんか、「オープンキャ ンパス」みたいな,《少し間》< なんか、あったじゃん >{<}。 734 J4 <あー [ 語尾を 1 秒引き延ばし ],あったね >{>},うん。 735-1 J3 《少し間》で、その日に,《沈黙 2 秒》なんか,N <地名>の,ジャ スコ行っ ,, 736 J4 《沈黙 2 秒》<イオン ?>{<}。 735-2 J3 <うんイ >{>} オン行った ( うん ) 時に,《少し間》あのう, WEGOが,<《少し間》あって >{<}。 例 15では、【J4 がスヌードをなくした経緯】から【J3 が J4 のスヌードだと
気づく経緯】へと話題が転換する例である。ここで、「オープンキャンパス」「N <地名>のジャスコ」「イオン」「WEGO」のように複数の名詞句が登場してい るが、どれも主題ではなく、「J4 のスヌードだと気づく経緯」という話題を導 き出すものである。この話題では「経緯」という言葉は出ていないが「経緯」 と抽象的にまとめられるように、「〇〇について」のような主題が明確に決まっ ていてそれをめぐって展開する話題ではなく、ある目的地に向かって少しずつ 展開していく話題であるため、最初の段階で主題が明言化できない。断絶終了 では、話題開始の前に沈黙があることから、あらかじめ話題を組み立てておら ず、開始の時点では主題を把握していない可能性が高い。そのため、主題を明 言化できないまま話題を導入する例が多く見られたと考えられる。 このように、未終了では先行話題と同じ主題であり、明言化しなくても良い のに対し、断絶終了では、発話の計画がなく最初の段階では明言化できないと いうように、主題が明言化されない例が多いのは異なる理由によることを明ら かにした。ただし、継続終了の例も一定数あるため、今後さらに検討する必要 がある。 5.おわりに 本稿では、談話における話題導入の際に、主題提示表現がどのように使い分 けられているかを考察した。話題導入のための主題提示表現は、先行話題の終 了過程と関連があることを指摘した。具体的な結果を次のようにまとめる。 (1) 話題が終了するかしないかに深く関わる表現は取り立て助詞の「は」であ る。「は」には先行話題かその一部と対比する事柄を話題として提示する用 法があり、話題終了の後に多く生起するのは、話題終了によって新たな話 題を導入する環境ができて、明示的な主題提示表現が使いやすくなるため だと考えられる。同じ取り立て助詞の「も」も似たような傾向を持ってい る。 (2) 話題が終了してから開始するまでの沈黙の有無によって継続終了と断絶終 了に分けられ、両者には異なる表現の使用傾向が見られた。まず、終了した 後に沈黙を待てずに開始するという継続終了では、重要な情報をより早く発 話するために倒置が多く見られた。一方、断絶終了の場合、言いたい内容が なくなった沈黙の後の話題導入であり、すぐに話題化できる内容を持ってい ないために主題を明言化できない例が多い。さらに、明確な話題終了である
ことから、無助詞も多く見られた。 (3) 未終了は断絶終了と使用傾向が似ており、無助詞と明言化されない例が多 く見られた。話題終了の境界が曖昧なままに導入されるため、主題提示も 明示的な形にしにくく無助詞が多い。また、先行話題と同じ主題であり、 明言化しなくても明白なために主題が明言化されない例も多く見られた。 従来の研究では、「は」のピリオド越えや主題の再言及、主題の活性化(砂 川 2005)などのように、主題提示表現が後方にどのように影響するかについ て多く研究されている。本稿では話題を導入する際の主題提示表現を先行話題 の終了過程から考察することで、これらの使用は結果として後方に影響するの みでなく、前方からも制限されることがあることを明らかにした。 これらの表現以外に、比較的多く生起している「が」については、「それま でと関係のない新たな出来事の生起を述べる」(日本語記述文法研究会 2009: 210)際に用いるという内容の要因による部分がある。「って」についても、言 葉を引用する性質と関わり、会話相手の言葉や相手の名前、相手が多く知って いる情報を提示することが多いこともデータから見られた。このように、話題 終了とは関連が見られず、他の要因から影響を受ける表現もあるが、本稿では 詳しく検討しなかった。また、本稿では主題を提示する表現を考察したが、複 数の名詞が同時にある場合のどれを主題に取り立てどれを省略するかなどにつ いても未検討である。これらを今後の課題としたい。 参考文献
West, C & Garcia, A(1988)Conversational shift work: A study of topical transitions between women and men, , 35:551-573
加藤陽子(2010)『話し言葉における引用表現―引用標識に注目して―』 (Frontier series. 日本語研究叢書 25)くろしお出版 佐久間まゆみ(1986)「「文段」認定の一基準(Ⅰ)―提題表現の統括―」『文藝言語研究 . 言語篇』11:89-135 朱怡潔(2020a)「話題間関連性の観点から見る話題開始表現の使い分け」『国語学研究』 59:213-227 朱怡潔(2020b)「主導権の交替から見た話題開始の 談話標識」『言語科学論集』24:41-52 嶋原耕一(2017)「接触場面初対面会話の話題転換における話題の終了表現及び開始表
現―新出型の話題転換に焦点を絞って―」『日本語教育実践研究』5:35-50 砂川有里子(2005)『文法と談話の接点―日本語の談話における主題展開機能の研究―』 くろしお出版 泉子・K・メイナード(1993)『会話分析』くろしお出版 田中奈緒美・崔沫舒(2014)「話題転換ストラテジーの使用傾向から見る話題転換方法 の日中比較」『中国語話者のための日本語教育研究』5:47-61 長谷川ユリ(1993)「話しことばにおける「無助詞」の 機能」『日本語教育』80:158-168 日本語記述文法研究会編(2009)『現代日本語文法 5―とりたて・主題―』くろしお出版 花村博司(2016)「日本語の会話における話題転換」大阪府立大学博士論文(未公刊) ポリー・ザトラウスキー(2005)「情報処理、相互作用、談話構造からみた倒置と非言 語行動との関係」串田秀也・定延利之・伝康晴(編)『シリーズ文と発話 1 活動と しての発話』159-208ひつじ書房 村上恵・熊取谷哲夫(1995)「談話トピックの結束性と 展開構造」『表現研究』62:101-111 楊虹(2005a)「日本語母語場面の会話に見られる話題開始表現」『人間文化論叢』8: 327-336 楊虹(2005b)「中日接触場面の話題転換−中国語母語話者に注目して−」『言語文化と 日本語教育』30:31-40 楊虹(2007)「中日母語場面の話題転換の比較―話題終了のプロセスに着目して―」『世 界の日本語教育』17:37-52 〔付録〕文字化記号の一部 、 1 発話および1ライン中で、日本語表記の慣例の通り読点を付ける。 なお、短い間がある場合には、「,」を付ける。 ,, 発話文の途中に相手の発話が入り、終わっていないことを示す。 = = 発話と発話の間が平均的な間より相対的に短いか、全くないことを 示す。 <>{<}<>{>} 同時発話の重なった部分を<>{>}、重ねられた部分を<>{<}で 示す。 [] 文脈情報。その発話がなされた状況、音声上の特徴アクセント、声 の高さ、大小、速さなどのうち、特記の必要があるものなどを記し ておく。