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第52回山梨医科大学CPC記録 根治的前立腺摘除術施行の3年7か月後に肺腫瘤性病変の出現した1例 利用統計を見る

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Academic year: 2021

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vi 症例提示 神家満学大学院生(泌尿器科) 症例:N.E. 殿,79 歳,男性(ID142-883-2,AN1399) 主訴:呼吸苦,全身倦怠感 現病歴: 1993 年 5 月尿閉。近医受診し,触診 所見および腫瘍マーカー(PSA 58.6 ng/ml) より前立腺癌の疑いのため,7 月 1 日当科紹 介受診入院。前立腺生検で前立腺癌の診断 (moderately differentiated adenocarcino-ma)。7 月 23 日根治的前立腺摘除術を施行。 <病理組織診断> moderately differentiated adenocarcinoma,ly(−),v(−),pn(+), pw(+),dw(+),cap(+),sv(+),ur (+),pN0,pathological stage C(図 1)。術 後 LH-RH anlogue 投与。1997 年 2 月 3 日 CT で肺腫瘤性病変を指摘(図 2)。1997 年 6 月 上部・下部内視鏡施行,腫瘍病変なし。1997 年 8 月 15 日骨シンチで集積像,1998 年 2 月 23 日 CT で肺腫瘤性病変増大(図 3),脳内 の腫瘤性病変(右前頭葉,右頭頂葉,右小脳 半球)指摘。1998 年 4 月 LH-RH anlogue か らリン酸エストラムスチンナトリウムに変 更。4 月下旬めまい,頭痛,嘔気出現。5 月 28 日小脳腫瘤摘除術を施行(metastatic ade-nocarcinoma)。以後,脳腫瘤に対してはγ ナイフ治療。肺腫瘤はその後も増大。2000 年 2 月 LH-RH anlogue +ビカルタミド投与 開始。2001 年 1 月呼吸苦,全身倦怠感出現, 1 月 19 日入院。 既 往 歴 : 1960 年頃両側鼠径ヘルニア手術。 1998 年 2 月網膜剥離,緑内障 家族歴:弟 白血病 患者背景:職業 設計事務所経営,喫煙歴 15 本/日(40 年以上),飲酒歴ビール 1 本/日, 輸血歴 前立腺手術時 入院時身体所見:身長 163.6 cm,体重 61.0 kg, 体温 38°C,脈拍 80/min 整,血圧 116/62 mmHg,意識清明,結膜に軽度貧血,表在 リンパ節触知せず,心音正常,下腹部正中, 第 52 回山梨医科大学 CPC 記録 日時:平成 13 年 12 月 5 日(水)午後 5 時 15 分∼ 6 時 45 分 場所:臨床講堂大講義室 司会:田邉信明助教授(泌尿器科),大井章史教授(病理学 1)

根治的前立腺摘除術施行の 3 年 7 か月後に

肺腫瘤性病変の出現した 1 例

要 旨:患者は 79 歳,男性。1993 年 5 月,尿閉のため受診した近医で前立腺癌を疑われ,1993

年 7 月当院入院となった。術前の腫瘍マーカー(PSA: Prostatic specific antigen)は 58.6 ng/ml と 上昇し,前立腺生検では中分化型腺癌の診断であった。7 月 23 日,根治的前立腺摘除術を施行さ れ,術後より LH-RH analogue を投与された。1997 年多発性肺腫瘤病変,骨転移,脳内腫瘤性病 変が認められた。1998 年,脳病変に対して小脳腫瘤摘除術およびγナイフ療法を施行された。病 理では転移性腺癌の診断であった。経過中 PSA 値の上昇は認められなかった。その後,肺腫瘤は 増大し,2001 年 1 月呼吸苦が出現し再入院となり,3 月呼吸不全にて死亡した。剖検では,両肺, 大脳,小脳,大腸,骨そしてリンパ節に低分化型腺癌が認められた。臨床経過からは前立腺癌の 全身転移が考えられたが,組織学的には原発性肺癌との鑑別が問題となった。腫瘍の組織形態の みからは両者の鑑別は困難であったが,PSA および TTF-1(thyroid transcription factor-1)の染 色態度から前立腺癌の低分化腺癌成分が転移したと考えられた。

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vii 両側鼠径部に手術瘢痕,両下肢に浮腫を認め る。 入院時検査所見 TP 7.2 g/dl,BUN 15 mg/dl,WBC 4.64 × 103/µl,Alb 2.7 g/dl,Crt 0.66 mg/dl,RBC 3.04 × 106/µl,ChE 147 IU/l,UA 2.3 mg/dl, Hb 9.9 g/dl,ZTT 20.8 KU,Na 131 mEq/l, Ht 28.5 %,TTT 23.6 KU,K 3.8 mEq/l,Plt 279 × 103/µl,T.Bil 0.8 mg/dl,Cl 98 mEq/l, D.Bil 0.3 mg/dl,Ca 8.1 mg/dl,ALP 142 図 1. 前立腺原発腫瘍の組織像。腺管構造をとる中等度分化型腺癌である(A, HE 染色)。腫瘍細胞は

prostate specific antigen 陽性である(B,免疫染色)。

図 2. 胸部 CT(1997 年 2 月 3 日)。両肺野に腫瘤が認められる。左上葉の腫瘤は空洞を伴っており,肺 の原発腫瘍も否定できない。

図 3. 胸部 CT(1998 年 4 月 23 日)。腫瘍の増大が認められる。肺癌の肺内転移も考えられるが,比較的 大きさが揃っていること,増殖速度が遅いことより,他臓器癌の肺転移と考えられる。

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IU/l,IP 2.4 mg/dl,LAP 37 IU/l,CRP 9.4 mg/dl,γ-GTP 26 IU/l,GOT 28 IU/l,GPT 21 IU/l 入院後経過: 1 / 19 食思不振のため輸液開 始。1 / 31 意識状態悪化( JCS Ⅰ− 3)。脳 浮腫,低 Na 血症に対し,グリセオール,ス テロイド,生理食塩水投与。2 / 2 意識状 態は改善傾向。2 / 7 意識状態は再び悪化。 グリセオール,ステロイドの投与継続で脳, 延髄の病変の改善傾向が MRI でみられる。 2 / 28 呼吸状態悪化のため,酸素投与開始。 3 / 12 血圧低下傾向。3 / 14 意識状態, 呼吸状態は悪化傾向。3 / 19 19 時 53 分死 亡確認。 病理解剖所見と診断 國友和善助手(病理 1) 症例: 79 歳,男性(剖検番号 A-1399) 死亡時間:平成 13 年 3 月 19 日午後 7 時 53 分 死後 37 時間 52 分で開頭開胸開腹にて剖検 主な肉眼的所見 1.体表:身長 163 cm,体重 55 kg。眼球結膜 に黄疸は認めず,軽度貧血を認めた。瞳孔は 両側 6 mm で,不同なし。下腹部正中に手術 瘢痕を認めた。両側鎖骨上リンパ節の腫脹を 認めた。 2.体腔液:左胸水 100 ml 黄色透明,右胸水 200 ml 黄色透明,心嚢液・腹水微量。 3.脳(1250 g):割面上,右側頭葉にφ0.4 cm 大の白色調結節と小脳右半球にφ1.0 cm 大の 壊死を認め,それと連続する 0.5 × 0.4 cm の 白色調の結節性病変あり。 4.肺(左 1250 g,右 1340 g):左肺上葉と胸 壁との疎な癒着を認めた。気道内には多量の 粘液あり,両肺とも全体に含気は不良。左肺 上葉には 7.0 × 6.0 cm の黄白色調の腫瘤が認 められた。右肺上葉には 5.0 × 5.0 cm の黄白 色調の腫瘤と右肺下葉には 1.0 × 0.7 cm 大の 軽度の胸膜陥入を伴う腫瘤を認めた。両側肺 門リンパ節の腫脹あり。 5.心臓(460 g):大動脈弁の一部に石灰化あ り。 6.消化器:上行結腸に 6.0 × 5.0 cm 大の全周 性壁肥厚あり。潰瘍形成や消化管出血なし。 腹部大動脈周囲のリンパ節の腫脹を認めた。 viii 図 4.PSA 値の推移

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7.副腎(左 39.0 g,右 7.6 g):左副腎は全体 に腫脹し,割面上出血,壊死を伴う腫瘍にほ ぼ置換されていた。右副腎は,1.0 × 0.5 cm と 0.6 × 0.6 cm の白色調腫瘤を認めた。 組織学的所見 1.脳:大脳および小脳の結節は,中心部に壊 死を伴う低分化型腺癌からなる。 2.肺:両側の腫瘤ともに,強い壊死傾向を伴 う腺癌からなる。癌細胞は中型から大型の楕 円ないしは細長い不均一な異型核を有し,一 部には不明瞭な腺管形成を認めるが,大部分 は胞巣状ないしは索状に浸潤する低分化型腺 癌の所見である(図 4)。右下葉のわずかに 胸膜陥入を伴った腫瘍も同様な所見である。 非腫瘍部には,うっ血および著明な気管支肺 炎像が見られる。 3.リンパ節:鎖骨上,肺門および傍大動脈リ ンパ節には壊死を伴った低分化型腺癌の浸潤 を認める。 4.消化管(上行結腸):結腸壁内に全層にわ たり胞巣形成をする低分化型腺癌を認める。 粘膜は脱落しているが,潰瘍形成は見られな い。 5.副腎:壊死・出血を伴った低分化型腺癌の 転移を認める。 6.骨(右第 2 肋骨):骨梁内に浸潤する腺癌 を認める。 7.肝(930g):中心静脈領域に軽度のうっ血 所見を認める。線維化は見られない。 8.甲状腺:コロイドを入れた濾胞からなる結 節性甲状腺腫がある。 病理診断 主病変:前立腺癌再発 1.前立腺癌術後状態: 手術材料(No. 35534; 1993/07/23) 中分化型腺癌 > 低分化型腺癌,ly(−),v (−),pn(+),pw(+),dw(+),cap (+),sv(+),ur(+),bx,rx,pN0, Gleason grade 4 ≧ 3 > 5 2.局所再発なし 3.血行性転移:大脳(右頭頂葉),小脳(右 半球:小脳腫瘤摘除術後,γ-knife 療法後), 両側肺,上行結腸,両側副腎,骨(右第 2 肋 骨) 4.リンパ行性転移:両側鎖骨上リンパ節,肺 門リンパ節,傍大動脈リンパ節 副病変 1.肺うっ血,気管支肺炎 2.胸水貯留(左 100 ml,右 200 ml) 3.うっ血肝(930 g) 4.動脈硬化(中等度) 5.腺腫様甲状腺腫 6.腎嚢胞 直接死因:呼吸不全 <考察> 本症例は,前立腺癌に対する根治的前立腺摘 除術を施行され,その約 4 年後に肺腫瘤,骨転 移,脳転移が出現した 79 歳男性である。術前, 血中 PSA 値は高値を示したが,術後経過中は 上昇はみられず,これらの病変が前立腺癌の転 移であるか否かが問題になる。前立腺転移以外 の鑑別疾患としては,病変の進行程度から原発 性肺癌が最も考えられる。本症例において,組 織学的に両者の鑑別は困難で明らかな診断がで きなかったが,以下の理由で前立腺癌の再発転 移と考えた。原発巣の前立腺癌は中分化型腺癌 部分が優位であったが,低分化腺癌部分も散見 ix 図 5. 左上葉の腫瘍の組織像。髄様増殖を示す 癌細胞がみられ,胞巣の中心には壊死巣 がみられる。低分化型腺癌である。

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x される。また,PSA の免疫染色では前者はほぼ 強陽性を示したが,低分化部分は弱陽性から陰 性を示した。一方,剖検時に認められた肺,リ ンパ節,脳,大腸の病変は低分化腺癌で,前立 腺癌組織と比して類似性に乏しいが,脳および リンパ節の腫瘍組織にわずかに PSA が陽性を 示す部分が認められ,肺原発性腺癌のマーカー として特異性が高いとされる TTF-1(thyroid transcription factor-1)1,2)は陰性であった。以 上より前立腺癌の分化度の低い細胞が転移を来 したと考えて矛盾はないと考えた。原発巣と転 移巣の組織形態に類似性が乏しいのは,術後の ホルモン療法などが影響したと考えた。 文  献

1) Reis-Filho JS, Carrilho C, Valenti C, et al : Is TTF1 a good immunohistochemical marker to distin-guish primary from metastatic lung adenocarci-noma ? Pathol Res Pract 196: 835-840, 2000. 2) Hecht JL, Pinkus JL, Weinstein LJ, et al : The

value of thyroid transcription factor-1 in cytolog-ic preparations as a marker for metastatcytolog-ic adeno-carcinoma of lung origin. Am J Clin Pathol 116: 483-488, 2001. 司会 大井章史教授(病理 1) 本日の症例は根治的前立腺摘除術施行の 3 年 7 か月後に肺腫瘤性病変の出現した例です。前 立腺腫瘍と肺転移腫瘍の組織像にやや解離があ ること,血清 PSA の上昇がわずかであったこ とより,病理側のみでは転移癌か再発癌か結論 がだせず,本日の CPC となった次第です。 まず,胸部 X 腺写真の所見からこの点につい てコメントをお願いします。 解説 1 斉藤彰俊医員(放射線科) 1997 年 2 月 3 日の CT 写真をみますと,いず れも比較的境界明瞭で,均一な充実性の腫瘤が 多発している。High-resolution CT は撮影され ておらず 10 mm 厚の像のみであるが,明らか な石灰化や,高分化型原発性肺腺癌の肺胞上皮 置換型成分を示す境界明瞭な ground-glass attenuation は認められない。98 年以降の CT ではいずれも徐々に増大してきている。肺内の 多発充実性腫瘤としては,もちろん肺転移が考 えられるが,その他 Wegener 肉芽腫症や結 核・真菌などの感染症による良性病変も鑑別に 挙げられる。また多発を考慮せず,原発性肺癌 で充実性のものとしては,低分化型腺癌・扁平 上皮癌・小細胞癌が挙げられる。良性病変もそ れらの原発性肺癌も,長い臨床経過からは否定 的である。低悪性度のものとして,カルチノイ ドや large cell neuroendocrine carcinoma など も挙げられるが,多発という点と併せ,やはり 画像と経過からは転移を最も疑わなくてはなら ないと思われる。 解説 2 石原 裕講師(内科学 2) 病変は左右に多発しており個々の病変は辺縁 が明瞭でほぼ同等の大きさを示しています。多 発する病変がほぼ同等の大きさであるというこ とはある一定の期間に病変が発生したというこ とであり,原発巣が発生してから切除されるま での比較的限られた時期に発生した,つまり, 病変が転移によって生じたことを支持する所見 です。また,原発性肺癌では辺縁の毛羽立ち, 周囲の血管などの構造の引き込み,あるいは, いわゆる八つ頭状の進展などの特徴がありま す。これに対して転移性腫瘍ではこれらの特徴 を欠き,辺縁は明瞭であり,周囲の構造にあま り影響をおよぼさないような進展をします。以 上の画像所見から本症例の肺病変は転移性肺腫 瘍と考えられます。原発臓器により特徴的な所 見を 呈することもありますが,多くの場合はそのよ うな特徴はなく,原発となる病巣,あるいはそ の既往があればそこからの転移と判断します。 また,肺癌は高分化の腺癌を除いては進展が速 く,診断時に対側肺にも転移がある,即ち,ス テージ 4 の患者は 1 年生存率は約 50 %程度で あります。この方の場合,多発性の肺病変が見 つかってから死亡まで約 3 年の経過であり,こ

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xi の点からも原発性肺癌の可能性は低いと考えら れます。 司会 大井章史教授(病理 1) 術前の PSA は 58.6ng/ml と異常高値を示し ており,免疫染色でも腫瘍細胞に強陽性反応が みられました。しかし,PSA は術後陰性となり, 肺に大きな腫瘍が出現してからもほとんど上昇 は認められませんでした。また組織の免疫染色 でも,脳転移巣でわずかに陽性でしたが,肺腫 瘍では陽性細胞が認められませんでした。血清 PSA の前立腺癌に対する特異性,治療による変 化について解説をお願いしたいとおもいます。 解説 前澤浩明講師(泌尿器科) PSA(前立腺特異抗原)は,前立腺癌の発 見・病期診断・治療効果判定に極めて有用であ る。前立腺全摘除術によって前立腺組織が完全 に除去されれば,PSA は測定限界以下に低下す るはずである(ただし,ごく少量は他の組織で も産生されているので,最近の高感度測定法で は限界以下までにはならないこともある)。十 分に低下しない場合は,残存腫瘍があると考え られ,補助的追加治療の適応とされる。また, 低下した後に再上昇を示すのは,再発の最初の 徴候と考えられ,通常画像所見や臨床症状を伴 わないことが多いので,PSA failure と呼ばれ ている。多くの症例における観察で,術後再発 の検出には PSA 測定のみで十分とされている が,例外もわずかながら報告されている。分化 が悪くなると PSA 産生はむしろ低下する傾向 があるが,詳しい機序は不明である。本症例も PSA 上昇を伴わない珍しい 1 例であった可能性 が高いと考えられる。

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