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<安田賞>2016 年度社会学部優秀論文賞(安田賞)講評

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Academic year: 2021

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<安田賞>2016 年度社会学部優秀論文賞(安田賞)

講評

著者

野波 寛

雑誌名

関西学院大学社会学部紀要

127

ページ

63-64

発行年

2017-10-31

URL

http://hdl.handle.net/10236/00026367

(2)

2016 年度 社会学部優秀論文賞(安田賞)講評

選考委員代表

野 波

2016 年度、ゼミ担当教員より安田賞候補論文として推薦された卒業論文は、全部で 8 篇でした。これ らについて 5 名の選考委員が慎重な審査を行い、最優秀論文 1 篇、優秀論文 2 篇を選びました。 最優秀論文となった森本さんの「『余暇』から立ち上がる『味』の深み−インド・ネパール料理店での 経験から−」は、1980 年代から多くの在日ネパール人の生業がインド・ネパール料理店の経営に収れん していく過程を丹念にリサーチし、そこに自分自身の食べ歩きの体験、アルバイトの体験で見聞きした料 理の味と余暇の意義を重ね、在日ネパール人らの日常の味とイベントの味、彼らにとっての日本における 余暇と仕事の意義を考察しています。街角のインド・ネパール料理店−なにげなく見過ごしてしまいそう な日常の空間と時間をフィールドにして、お客への料理とまかない料理の連続性と非連続性、店の業務と 余暇にかかわる料理人とその家族といった、在日ネパール人たちの日本社会へのゆったりとした適応の過 程が記述されます。まかない料理ひとつとっても、単に「料理人はまかないを出してアルバイトはそれを 食べるといっただけの話ではない」、「それを巡る文脈、場所、他者との間で現れてくる『味』なのであ る」と、筆者は描きます。インタビューひとつひとつに対する考察とその記述は、卒業論文とは思えない ほど丹念なものであり、多くの委員から高く評価されました。 優秀論文に選ばれた川東さんの論文「ドイツ国際平和村にやってきた子供達はなぜ将来に対する希望を 見出すことができたのか」は、ドイツ・ウズベキスタン・キルギスという、なんと 3 カ国での児童支援団 体や養護施設でのフィールドワークを記録したもので、まずそのスケールの大きさに驚きます。筆者であ る川東さんは、ドイツ・オーバハウゼン市のドイツ国際平和村で実際にボランティアスタッフの一員とし て働き、中東・アフリカ・中央アジアなどの各国から(様々な事情で母国では完治のむずかしい)病気や けがの治療のためにそこにやってきた子供たちの世話にかかり、彼らの日常や異文化適応の過程、宗教や 価値観−ひいては「正義」というものの違いを、さまざまなエピソードから記述しています。さらに、こ こで触れた子供たちの帰国後の様子がどうなっているのか、これを知るため子供たちの母国であるウズベ キスタンとキルギスへ飛び、ドイツ国際平和村出身の子供たちにインタビューを敢行しています。半年に も満たない短期間でこれだけのアクションをやってのける筆者の行動力とバイタリティは、まさに脱帽も の。 もうひとつの優秀論文である佐藤さんの「認知症をめぐる語りとケアラー支援−患者・家族・施設の語 りに着目して−」は、自分自身の家族が認知症患者のケアに携わった体験も踏まえ−ただし、その経験を 主観的にとらえるのではなく、抑制された客観的な視点で見つめつつ−、「認知症患者をケアする人々」 つまりケアラーの語りを、静かに記述したものです。この論文が焦点としている認知症患者の増加、マク ロなレベルでそれに否応なく対応を迫られる社会、ミクロなレベルで対応する家族縁者、施設関係者の思 い、このすべてがいまの日本で重要な問題であることは言うまでもありませんが、筆者は自身の家族がそ こに関わった体験をきっかけに、この問題に対する自分なりの視点を静かに自問する過程へと入ったかの ように見えます。認知症を題材とした映画の分析、施設関係者へのインタビューなどを通して、「患者家 族」としての筆者自身の今後をなおも模索することを述べ、静かにペンを置くという論文のエンディン グ。なんとも重い問いかけを呈示されたようで、私自身は評者というワクを超えて考えこんでしまいまし た。 いずれの論文も、卒業論文ゆえの学術的な未熟さは散見されます。理論的な手堅さや緻密さという点か October 2017 ― 63 ―

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ら見れば、いずれの論文も不十分であることは否めません。しかし、「そんなことどうだっていい!」と まで思わせてしまうのは、筆者らがいたずらに先行研究や既出の理論のみに頼ることなく、自分たちのぶ つかった場面を自分なりの視点で切り取り、その場面の中で自分自身がどのように格闘したかを呈示して 見せる、それぞれの筆者たち独自の記述の面白さゆえでしょう。 今回、惜しくも受賞を逃した残りの 5 編の論文も、それぞれの視点と考察はいずれも劣らぬ面白いもの でした。受賞論文も、選外だった論文も、どれも「若さ」を存分に発揮した、まさに卒業論文のお手本と もいうべき一例と言えます。それぞれの筆者と、ご指導にあたられたゼミ担当教員の方々に賛辞を贈り、 2016 年度安田賞の講評とさせていただきます。 最優秀論文 卒 業 論 文 名 森本 光幸 (関根康正ゼミ) 「余暇」から立ち上がる「味」の深み −インド・ネパール料理店での経験から− 優秀論文 卒 業 論 文 名 川東 真歩 (立石裕二ゼミ) ドイツ国際平和村にやってきた子供達はなぜ将来に対する希望を見出すこと ができたのか 佐藤 諒一 (村田泰子ゼミ) 認知症をめぐる語りとケアラー支援 −患者・家族・施設の語りに着目して− 上記以外の推薦論文 卒 業 論 文 名 小笠原 舞香 (鈴木謙介ゼミ) 「夜の街の若者」のキャリアと暮らし 石野 太一 (島村恭則ゼミ) 加賀鳶梯子登りの芸能民俗誌 −秘伝・マニュアル・個別性− 川崎 優衣 (今井信雄ゼミ) 「おやじバンド」の社会学 加戸 可那子 (稲増一憲ゼミ) 有機野菜購入は安心でしかないのか −消費者の環境への志向− 永澤 圭祐 (倉島哲ゼミ) ドイツサッカー −地方リーグの実態と村の関わり− ― 64 ― 社 会 学 部 紀 要 第127号

参照

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