Japan Advanced Institute of Science and Technology
JAIST Repository
https://dspace.jaist.ac.jp/Title
音響再生装置の伝達周波数特性補正による音質改善 :
再生音における高度感性情報の再現とjitterが音質に
及ぼす妨害
Author(s)
石川, 智治; 小林, 幸夫; 宮原, 誠
Citation
映像情報メディア学会誌, 55(3): 469-473
Issue Date
2001-03-20
Type
Journal Article
Text version
publisher
URL
http://hdl.handle.net/10119/4929
Rights
Copyright (C) 2001 映像情報メディア学会. 石川智治
, 小林幸夫, 宮原誠 , 映像情報メディア学会誌,
55(3), 2001, 469-473.
Description
音響再生装置の伝達周波数矧 隼補E'
とよる音質改善 :再生音
における高度感性情報の再現 と
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i
t
t
er
が音質に及ぼす妨害
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石 川 智 治十
小 林 幸 夫II, 正会員 宮 原 誠 ITomoharu Ishikawat,YukioKobayashiH andMakotoMiyaharaT
あらまし 音響再生装置の伝達周波数特性 (振幅 ・群遅延周波数特性)の平坦化を行い,その再生音を評価 した.特に 高度感性情報再現に重点をおいた.その結果,従来オーデ ィオ評価語に関する音質は改善されたが,高度感性情報に関す る音質は劣化 した.その原因追求の実験の結果,特性補正のために用いたDSP装置に起因する物理要因が高度感性情報再 現を劣化 させているに違いないことが明らかになった すなわち,高度感性情報再現のためには,音響再生装置の伝達周 波数特性平坦化以前に考慮すべき重要な物理要因が存在 していることが明らかになった.そのひとつは再生されたアナロ グ信号の中に観測される時間方向の伸び縮みひずみ (jitter)であることを確認 した.これまでの研究 もふまえて検討する と,想像 をはるかに越える小量のjitterでさえも高度感性情報再現を損ねると考えられる. キーワード :音質評凪 高度感性情軌 伝達周波数特性の平坦化 無 ひずみ伝送,DSP,jitter 1. ま え が き 線形 の通信理論 に基づけば,音響再生装置 に第一に要求 される性能 は無 ひず み伝送条件 (振幅周波数特性が平坦 , 群遅延周波数特性が平坦 :位相周波数特性が線形 )を満足 す ることである. これまでに,上記の性能向上 を目指 した 様 々な音響再生装置の開発が行 われて きた1)2). また近年 , デ ィジタル技術の急速 な進歩 により,DSP(DigitalSignal Processor)な どが開発 され,それ らを用いた音響再生装置 の伝達周波数特性補正 に関す る研究3)∼ 6)が行 われて きた. 本論文 は,DSPを用いて伝達周波数特性 を平坦 (振幅周 波数特性 ,かつ群遅延周波数特性 を平坦 :直線位相 )に補 正 ,すなわち,無 ひずみ伝送条件 をほぼ満足 させた音響再 生装置 の再生音の音質を評価す る.次 に,高度感性情報再 現の立場か ら,音楽再生 における音響再生装置のDSPを 用いた伝達周波数特性の平坦化 について議論 を行 う. 2000年10月10El受付, 2000年12月13E]再受付, 2000年1月9日採録 I北陸先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 (〒 923-1292石 川県能美郡辰 口mr旭台Ll,でEL o761-51-1234) II小 山工 業高等専 門学校 (千 32310806栃 木県′ト山市大字 中久喜771.TEIJ0285-21-0321)
tSchoolofhformation Science.Japan Ad.lanCedh stituteofSc
i-enceandTechnology
(1-1Asahidai,Tatsunokuchi,Nomi-811m,エShikawa92311292.JaP8m) IIOyamaNationalCollegeofTechnology
(771Nakakuki.Oyam8-5hi,ToChigi32310806,Japan)
映像情報 メデ ィア学会誌Vol.55.No 3,pp.469-473(2001) 2.音響再 生装置 の伝 達 周波数特性 の平 坦 化 2.1 伝達周波数特性補正の考 え方 DSPを用いて音響再生装置の伝達周波数特性 (振幅 ・群 遅延周波数特性 )を平坦 に補正す るとい う考 え方 は,線形 システム理論 に基づいてお り,音響再生 システム全体 を電 気通信的に等価 回路 に置 き換 えて議論 している.
2
.
2
節の 理論が成立す るためには,等価 回路 は最小位相推移 回路7) である必要がある.そのための必要条件 は,機械振動的に はほぼ ピス トン運動領域 と推測 され,非線形 な動作や最小 位相推移の範囲外 と考 え られる寄生振動や分割振動 は振動 板上の定在波や共振であ り,電気信号での補正,す なわち, ボイス コイルの動 きでは制御が困難であるため,補正か ら 除去 されるべ きである.また,最小位相推移系であること はシステムの安定性 を保証するための必要条件 と考 えられ る. したがって,伝達周波数特性 (振幅 ・群遅延周波数特 悼 )の補正 は最小位相推移の範 囲内で行 う (付録 ). 2.2 伝達周波数樽 性の補正理論 測定 される音響再生 システムの伝達関数 をH(jw)とする と入力X(
3
'
W)
,出力Y(
j
w)
に対 して以下の ようになる・Y
(jw)- H(,ju)X(ju)(
1
)
H
(
j
w)
- 諾岩
(
2
)
伝送系 を有限個の素子 によるもの と限定すると,H(
j
L
J
)
は jwの実係数有理分数式であ り,分母のX(jw)の零点 は左 (143)469半面にある (Hurwitz形)・ラプラス平面では
,H(
S
)
の分 母の根 はすべて左平面に限 られることと同じである.ただ し,Y
(ju)とX
(jLU)は互いに素である・この時,Y
(jLJ) の零点は一般に左右両平面に存在するが,Y(
j
L
J
)
の零点の 内,虚数軸 を除いて左平面,右平面に存在するものを集め た因子 をそれぞれ Yl(
j
L
J)
,Y2(
j
u)
とすると Y(jLJ)- Yl(ju)Y2(jw) (3) と分解 され,この分解はY(
j
L
J
)
が決 まれば一意的に定 ま る. したがって H(
j
L
J
)
-Y(jLJ)_ Yl(jLJ)Y2
(
-j
LJ) Y2(jw) X(jLJ) X(jLJ)Y
2
(
-
j
LJ) - Hl(
j
L
J
)
・H2(
j
L
J
)
GiSid
45
・t.t
となる. ここで・Hl(
j
u
)
-Y
l
(
j
u
x
)
(
?
U
(
)
1
3
'
U
)
・H2(
j
u)
- 叢 望 Tで あ り,Hl(
j
w)
はH(
j
L
J
)
よりも位相回転の少ない特性であ るため,同一の振幅周波数特性 を有 し,最小移相部分であ る8).したがって,Hl(
j
L
J
)
を補正フィルタに用いる.すな わち,求めたい補正フィルタ特性F
(
j
u)
は,次式の逆フィ ルタHILl(ju)によって得 られる.F
(jLJ)- Hlll(jw) - lHll1(jLJ)lexp(i/Hlll(jLJ)) (6) 2.3 補正フイ)〆レク設計方法(
6
)
式で得 られたデータにハ ミング窓を掛けて逆フー リ エ変換 した ものか らFIR フィルタ係数 を求め,これ らを DSPに転送 し,補正フィルタを実現 させる. 実際の補正フィルタ係数は,次の手順で得 る. (1)振幅 ・群遅延 ・位相周波数特性 を周波数分解能 1Hz で測定する.(
2
)
測定 した特性から寄生振動や分割振動が生 じていると 考えられる周波数 とクロスオーバ周波数,バスレフの 九を 確認する.(
3
)
その後,特性上で激 しい位相回転が生 じていない,す なわち,DSPで制御が困難な寄生振動や分割振動が特性 上に含 まれていない (排除された)と判断できる範囲まで, 周波数分解能 を粗 くして測定する.(
4
)
取 り除けない位相回転は近傍の値から外挿 し,その測 定結果 を,DSPで補正が有効 な最小位相推移の範囲内 と する. 測定はBr正el良 Kj;er社のBIく2012を使用 し,1.周波数 範囲,2.周波数分解能,3.正弦波スイープ時間,4.平均化 回数 を測定対象に合わせて設定する.また,補正フ ィルタ 係数を求める時 と音楽聴取時 とのハードウェア性能の違い による影響 を除 くために,DSPの伝達周波数特性F
(jw) は,F
(
j
u)
-1
となるフイ)i,夕係数 を設定 し,測定する (以 級,DSPの伝達周波数特性はF
(jLU)と記述). 470 (144) 2.4 音響再生システムの構成 と使用機器 音響再生システムの構成 を図1に,実験装置,お よび測 定器等を表 1に示す.これらの機器は,特殊なものではな く,・.市販 されていた一般的 (平均的)なものである. speaker l . ・ l周 1 2 IllL∃二
二 :壬_ 図1 音響再生システムの構成 (片チ ャネルのみ示す) Blockdiagram ofthesoundsystem・表1 使用 した音響再生 システム,測定器 とその周辺機器 Sound and measurementsystem,and peripheraleqlll P-ment. (音響再生システム) cD transport装置 DSP装置 D/A converter装置 PremainAmplifier Speaker (フ ィルタ係数転送時 に使用) DSP ControlSoftware Computer (特性測定時に使用) AudioAnaly2;er A/D convefter装置 NEC CD-10 SONY SR-DXIOOO AccuphaseDC-91 NEC A_lox YAMAYA NS-1000M
SONY 丈oyerSR_DXIOOO AppleMacintoshQuadra80O
Brael&Kja≧rBK2012 W adiaW A4000 以上の音響再生装置の伝達周波数特性 (振幅 ・群遅延周 波数特性)の測定を補正前後で行った. 2.5 音響再生装置の伝達周波数特性補正前後測定結果 無響室でない場合の Br正el良 K.匝rBIく2012測定指示 (TSR mode)に従い,スピーカ (ミッドレンジユニット) の正面軸上 50cmにおいて測定 した補正前の振幅周波数特 性,群遅延周波数特性 を図2,図3に,平坦化 を目的 とし て補正を行った振幅周波数特性,群遅延周波数特性 を図4, 図 5に示す.なお,測定は周波数範囲 :20Hz∼22.05kHz, 周波数分解能 :27.56Hz,正弦波スイープ時間 :16S,平均 化回数 :16回で行 った.なお,foは 40Hz,クロスオーバ 周波数は 500Hzと6kHzである. 図2-図5より,伝達周波数特性 (振幅 ・群遅延周波数 特性)はかな り平坦に補正 されている (振幅周波数特性 : ± 2dB以内,群遅延周波数特性 :± 1ms以内
)
9
)
ことがわ かる.3.
評 価 実 験 3.1 評価実験場所 評価場所はJAISTの AV評価室 (H:3.4m,W :5.3m,D:
8m,残響時間は 125,250Hzで 0.4S,500-2kHzで 0.3S,4kHzで 0.4S)で行った. 映像情報 メデ ィア学会誌 Vol.55,No,3 (2001)図2 補正前の振幅周波数特性 Originalmagnituderesponse.
10A SJQ I O l{A -10巾 200 11= 2Jt 図3 補正前の群遅延周波数特性 Originalgroupdelayresponse.
∼J.I
之○:/ 、、2〇〇 、. H事 、2I 表示k
図4 補正後の振幅周波数特性 Compensatedmagnituderesponse・
3.2 評価用音源
今回実験 に用いた評価用音源 を表 2に示す.選択 した評
価用音源は,高度感性情報 を含む音源 として複数のCDの
中か ら探 し出 した もの10)である.
表2 評価用音源 Resources. 音源 No. タイ トル .曲名 .演奏者 .cD番号
音源 1 IJeSIJarmeSdu Jacqueline(○fFenbach): (Violoncello)W ernerThomas,ORFEO, C131851A,No.1
音源 2 REQUⅠEM ,PieJesu(Faure): (conductor)CarloMariaGiumini, (soprano)KathleenBattle,
DeutscheGrammaophon,F35G 20085,No.4
音源 3 EAGI,ESHEI,I,FREEZERS OVER: "hotelcalifornia",GREFFEN GEFD-24725,
3.3 評価実験方法
評価項 目は既発表の評価語群11)12)(収集 した音質評価語
(1322語,192種類)か ら,EJ法 によりまとめた 35語の
表 3 35個の代表評価語 35representativeassessmentwords.
代表評価語 (35語) 高度感性情報評価語1⊥ Hol細ーかい表情の再現,解像度,深 々 さ,気品ographic音場感,空気感,実在感 静寂感,まとまり,自然 さ,滑 らかさ,安定感 抜け,雌動感 .生命感,繊細憾 ,柔 らかい 厚み .こ く,温か さ,響 き,透明度 従来用いていた評価語 再生帯域,4ch音場感,線の細 さス ピー ド感,力感,量感,歪感 ,S/N感 圧迫感 .威圧感, くっきりさ,軟 らか さ,艶 被験者 は,評価の信頼性13)を考慮 し,多 くの人々の中か ら,事前 に評価教育 :代表評価語の意味 を深 く理解するた めの説明 とデ ィスカ ッションを行 った成人9名 とした.そ の結果,被験者 自身の評価 の安定性 と評価 の信頼性 は向 El, 上 した・評価 は,DSPにF
(
j
u)
-1のフ ィルタ係数 を設定 した時の再生音 を規準 とし,DSPにF
(
j
u)
-H
1
(
j
u)
の補正 フィル タ係数 を設定 した時 の再生音 について行い, 聴取位置 は左右2つのス ピーカ間隔 (1.4m)の中心か ら 垂直の方向に約3.5m で行 った.なお,聴取位置は補正前 と後で変 えていない.また,評価尺度 は,ITtT-Rの7段 階評価【+3:非常に良い,+2:良い,+1:やや良い,0:同 じ,-1:やや悪い,-2:悪い,-3:非常 に悪い]14)を用いた. なお,評価用音源の提示順序 はランダムに行 い,再生は基 本的に始めか ら終 りまで行 った.提示回数お よび提示時間 は被験者が評価完了するまで何度 も繰 り返 した.4.
評価 実験結果及 び考 察 音響再生装置の伝達周波数特性は平坦 に補正 されたにも 関わらず,総合評価 は7段階評価の "0"であった.この理 由を詳細 に考察するために,各評価語の評価結果について 有意差検定 も行 った. 4.1 評価結果の有意差検定 各評価語の評価結果の有意差検定 は,1群 七一検定 (両側 : 有意水準5
%
以下)を用いた.その結果,評価の有意差が 認め られた評価語及びその評価値 (平均 )を表4に示す. 表4 1群 t一検定の結果 Resultofi-test.表4より,有意差が認 め られた評価語の内,"量感 ","力 感 ","再生帯域 ","くっきりさ"等の評価値 は良い.表3
代表評価語)を用いた.それ らを表3に示す. より,これ らは従来のオーデ ィオ再生の評価 によく使用 さ
れてきた評価語である. また逆に評価値が悪い "自然さ","繊細感 ","静寂感 " は,表3より高度感性情報に関連する評価語である.した がって,DSPを用いた音響再生装置の伝達周波数特性 (振 幅 ・群遅延周波数特性)の平坦化は,従来オーデ ィオ評価 語に関連する音質を改善 させるが,高度感性情報評価語に 関連する音質をあまり改善 させないばか りか,逆に劣化 さ せる場合がある. 以上より,DSPを用いた音響再生装置の伝達周波数特性 (振幅 ・群遅延周波数特性)の平坦化は高度感性情報再現 度の改善 とは独立であ り,伝達周波数特性 を平坦に補正す る以外に考慮すべ き重要な物理要因 ・特性が存在 している と考えられる.また,評価が逆に悪 くなる場合は,その重 要な物理要因 ・特性がDSP装置 を用いたために劣化 して いる可能性があると考え られる.この音質劣化の原因とな る物理要因 ・特性を追求するために,次の追実験 を行った.
5. DSP
装置 の有無 に よる高度感性情報再現 ゐ違 いの評価 実験 と高度感性情報再現 に重要 な物理 要 因の考察 図1において音響再生システムにDSP装置を挿入せず, CD transportのデ ィジタル信号出力 をそのままD/A変 換 した時の再生音 を規準 として,図 1の構成のままの音響 再生システムを用いてDSPに F(
j
w)
-1
のフィルタ係数 を設定 した時の再生音を評価 した.評価実験場所,音源や 方法,音源等は3章 と同様の条件で行 った.従来音響理論 では,DSP装置は理想伝達関数を実現 しているため,音質 の変化はない と考えられる.それにも関わらず,得 られた 評価結果は,仝評価語 (35語)における 7段階評価で,良 くても"o"であ り,総合評価は "-1"であった.この結果 を更に詳細に考察するために,1群t一検定 も行ったところ, "自然 さ","実在感 ","細かい表情の再現 "∴`躍動感 ・ 生命感 "等の高度感性情報評価語 (表3)の評価が,DSP 装置をハードウェア上のシステムとして挿入することによ り,悪 くなることが明 らかになった.一方,従来オーデ ィ オ評価語 (表 3)については,殆 どの評価が劣化 していな いことが明 らかになった. 以上より,高度感性情報再現のためには,DSP装置を用 いて音響再生装置の伝達周波数特性 (振幅 ・群遅延周波数 特性)の平坦化を行 う以前に,考慮すべ き重要なDSP装置 に起因する物理要因が存在 していることが明らかになった. ここで,高度感性情報再現に重要な物理要因を探求する ために,更に追実験を行った.具体的には,図 1の音響再生 装置を用い,インパルスを入力 し,アンプ出力波形 を測定 した.測定はアドバ ンテス ト社製FFT Analyzer:R9211 を用い,サ ンプ リング周波数 :256kHz,量子化 レベル : 16bitで行った."波形の時間的位置 をできるだけ正確に 掴むため,波形が鋭 く変化するピークデ ィップ部分に注目 し,13個 を選出 し,そのピークデ ィップが 1サンプル (約 472(146) 4FLS)以上ずれない "とい う条件を与えて観測 した.その結 莱,50回の試行のうち,条件 を満足 した回数はDSPがあ る場合が5回,DSPがない場合が30回であった.一般的 に.誤差は正規分布であると仮定 されるが,最悪の場合 も 考慮 して,誤差が一様分布であると仮定すると,DSP装置 が時間伸び縮みひずみ (jitter)を6倍にしていると観測さ れたことになる.すなわち,このことが高度感性情報再現 を劣化 させている原因のひとつであると考察 される. 上記結果は,高度感性情報再現における我々の一連の研 究15)∼20)の中で,jitterが高度感性情報再現 を劣化 させて いることのひとつの実証例であるとも考 えられる.この 実証以外 にも,我々は数 nsオーダの僅かなjitterでさえ ち,高度感性情報再現 を大 きく劣化 させていることを多 く の実験 を通 して明 らかに してきている19)20).具体的には, 与UDIO PRECISION社のAudioAnalyzer‥SYSTEM TWOCASCADEを用いて,デ ィジタル ・オーデ ィオ ・イ ンタフェース上で数 nsオーダのjitterを故意に発生 させる ことにより,高度感性情報再現が大 きく劣化する (7段階 評価で非常に悪い :"13")こと19)辛,デ ィジタル入出力装 置の違いによりjitter量が大 きく異 な り(7段階評価でや や悪い :"-1"-悪い :"-2"の違いがある),そのjitter量 が高度感性情報再現の劣化度合 と比例関係にあること20)を 明らかにしている. すなわち,音響再生システムにDSP装置 をハードウェ ア上のシステムとして挿入することに起因 して,時間伸び 縮みひずみ (jitter量)が増加 し,高度感性情報再現 を損 ねていると考察 している. 6.検 討 と ま と め 我々は,高度感性情報再現に注 目して,高忠実な音楽再 生 とい う非常に難 しい問題に取 り組んできた結果,2つの 仮説を立てるに至っている21).仮説 1は精密な波面再生で あ り,仮説 2は再生 された音像へのエネルギー集中である. ここで,我々の数多 くの実験的研究15)-20)か ら,現段階の 「精密な波面再生の実現」 という意味は,例 えば,2wayス ピーカシステムのWooferとTweeterユニ ットの前後位置 関係 を,各ユニ ットの直接昔 を聴 きなが ら0.1mm以内の 精度で調整 した場合 に,多 くの評価者が音楽再生時に身体 を前後 ・左右に大 きく動か しても音像,そ して高度感性情 報再現が殆んど変わらない と評価 しているという実験的事 実によるものである.よって,2wayスピーカシステムの woofer・Tweeterの前後位置関係の調整は,静的な波面再 生を実現 していると推測 してお り,その時間精度 は,従来 の常識を遥かに越 える程 に精密 であるとい うことである. したがって,仮説 1で言及 している精密な波面の再生を損 ねる原因のひとつ としては,デ ィジタル機器で生 じるjitter が関係 していると考えられ,それが高度感性情報再現 (特 に"空気感"ll)) を損ねること19)20)を明 らかにしつつある. したがって,本論文で得た結論,すなわち,音響再生 シ 映像 情報 メデ ィア学会誌 VoJ.55,No3 (2001)ステムにI)SP装置 をハー ドウェア上のシステム として挿 入することに起 因 して,高度感性情報再現が劣化する原 因 がjitterであることは,我 々の研究で至 った仮説1に対す るひとつの実証例 である と考 えられる. しか しなが ら,こ の発見 は,従 来オーデ ィオ評価語 に注 目して研究開発 を進 めてい く上では,現 われて来ず,高度感性情報再現 に注 目 した結果,得 られた事実である. また,昔か ら巷 では
(
1
)
クリック音 を聴けば,音響再生装 置の音質が わかる・(2)良い音の再生のためには「Speaker の伝達周波数特性 にこだわるな」な どといわれて来た.本 論文で得 た結論 は, この ことの正当性 を,ある一面で示 し ている.すなわち,音響再生装置の無 ひずみ (高忠芙)伝 送は,まず,周波数領域上で振幅 ・群遅延周波数特性の平坦 化 を検討すべ きであるが,それ以上 に,音楽再生 における 音の重要な情報 は TiIJランジェン ト部分に存在することか ら,EJ′ 詳細 に過渡音 の再現性 を時間領域上で検討すべ きである. また, ミキシング,マス タリング等の録音現場では,例 え音響再生装置の伝達周波数特性 (振幅 ・群遅延周波数特 悼 )が同一であって も,DSP装置の違いか ら音質が異 なっ て しまうとい う事実が存在 し,それ は経験的 に常識である と聞いている.本論文はこの事実 を実証 した ともいえよう. 今後 は,仮説1の精密な波面再生 に関する定量的測定や 実験的に明 らかにな りつつある仮説2のエネルギー集中に 関連する物理要因の定量的測定 を行 い,高度感性情報再現 を可能 にする音響再生装置の開発 を目指す.これ らに関す ることは次の機会 に報告 したい. 本研 究 は, 日本 学 術振 興 会 ・未 来 開拓 推 進事 業 "未 来映像 音 響制 作 と双 方 向臨場 感 通信 を 目的 と した高 品 位 Audio-VisualSystemの研 究 "プ ロ ジェク ト JSPA-RflTF97POO601の援 助 に よ り行 った.また ,本研 究 を 進めるにあた り,多大な御教示 を頂 きましたソニー株式会 社顧問,スター ト ラボ社長 中島平太郎様,DSP装置の使 用 に際 し,御指導頂 きましたソニーサウンドコミュニケー シ ョン株式会社 高 田寛太郎様,cAVカンパニー 米 田道 昭様,評価実験 に御協力頂いた皆様 に深 く感謝致 します. <付 銀 > 寄生振動 とは,ス ピーカが主 として高音域 において,ボ イス コイルの動 きに1:1に対応 しないで振動する もの と解 釈 で きる. また,分割振動 は,ボ イスコイルか ら離れた周 辺部 に行 くほ ど位相が遅れることと,エ ッジ付近での イン ピーダ ンスの不整合のために反射 されて戻 って くることに よって生 じる定在波である. 我 々が ここで示 したいことは,DSPによる信号の制御 , す なわ ち,ボ イス コイルの動 きでは制御 で きない振動 は, 制御対象 としない とい うことである.寄生振動 は全 く制御 で きないが,分割振動 はある程度制御で きる可能性はある. しか し, この ような非線形現象 は正弦波ス イープ による周 波数特性 と実際の音楽信号が入力 された場合では,異なっ た動作 をす ると考 え られる. したが って,寄生振軌 分割 振動の制御 は しない ように信号処理 した. 〔文 献〕 1)中島平太郎 :"ハイファイスビーか',日本放送出版協会(1972) 2)石井伸一郎,中尾寛次,高橋賢一,上野孝文:"スピーカの位相特性につ いて",信学技報,EA75-16,pp,17-25(1975)3)R・J・W ilson,G.I.Adamsand I.ち.Scott:"Application ofdigital f
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