米国大学図書館におけるオーラルヒストリー収集の
現在 -- UCLAの事例を中心に (特集 新しい研究図
書館を描く -- 海外の実践にみる知の集積・発信の
いま -- 学術情報の発信)
著者
小林 磨理恵
権利
Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア
経済研究所 / Institute of Developing
Economies, Japan External Trade Organization
(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp
雑誌名
アジ研ワールド・トレンド
巻
222
ページ
33-34
発行年
2014-03
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
URL
http://hdl.handle.net/2344/00003507
本稿では、米国におけるオーラ ルヒストリーの収集と公開の現在 を、主にカリフォルニア大学ロサ ンゼルス校(以下、UCLA)の 事例から考察したい。
●
米国の大学図書館における
オーラルヒストリーの収集
米国の大学図書館におけるオー ラ ル ヒ ス ト リ ー 収 集 の 取 り 組 み は、 一 般 市 民 の 生 き た 経 験 を 収 集・蓄積する点で歴史を記録する 任務を負い、地域研究や歴史研究 の進展に広く貢献してきた。その 歴史は古く、歴史家のH・バンク ロフトが、米国西海岸に住む様々 な人物への聞き取りを纏め、カリ フォルニア大学バークレー校に寄 贈したのは一八六〇年代に遡る。 その寄贈は、後にバンクロフト図 書館と名付けられた同大学図書館 の重要な所蔵資料となった。 米 国 に お け る オ ー ラ ル ヒ ス ト リ ー の 収 集 は、 一 九 六 〇 年 代 以 降、社会運動と連動したことによ り 飛 躍 的 に 拡 大 し た。 白 人 の エ リート男性を主体とした米国史に 異議を唱える、声なき「普通の」 人に声を与える方策として、ネイ ティブアメリカンやアフリカンア メリカン、また、女性運動や労働 運 動 の 関 係 者 に 対 す る イ ン タ ビューがさかんになされた(参考 文 献 ① )。 イ ン タ ビ ュ ー を 録 音 し たカセットテープやその書き起こ し(トランスクリプト)の保存・ 管理を担ったのは図書館やアーカ イブズであった。今日では、イン タ ビ ュ ー の 音 声 と 書 き 起 こ し を ウェブサイト上で「発信」する大 学図書館の事例も多く存在する。 例 え ば、 バ ン ク ロ フ ト 図 書 館 の リージョナルオーラルヒストリー オフィスのほか、コロンビア大学 図書館のコロンビア・オーラルヒ ストリーセンター、ミシガン州立 大学図書館のG・ロバード・ヴィ ンセント・ヴォイス図書館、ケン タッキー大学図書館のルイ・B・ ナ ン・ オ ー ラ ル ヒ ス ト リ ー セ ン ター等が挙げられる。●UCLAの事例
ここでは、図書館にオーラルヒ ストリー研究センター(以下、O HRC)を設置し、インタビュー の収集とウェブサイト上での公開 を精力的に行うUCLAの事例を 取り上げる。本節は二〇一三年一 〇月に実施したOHRCのジェー ン・コリンズ氏への聞き取りに基 づくものである。 ⑴OHRCの概要 UCLA図書館のOHRCは、 オ ー ラ ル ヒ ス ト リ ー の イ ン タ ビューを通じて南カリフォルニア やロサンゼルスの歴史を記録する ことを目的に、一九五九年より五 〇年以上活動を継続している。ア フリカンアメリカンの歴史、アジ アンアメリカンの歴史、ラテンア メリカンの歴史、社会運動等、計 一 九 の 主 題 に 分 類 さ れ た イ ン タ ビューの音声と書き起こしはウェ ブサイトで公開され、世界中から ア ク セ ス す る こ と が 可 能 で あ る ( h tt p :/ /o ra lh is to ry .li b ra ry . ucla.edu/ )。 各 イ ン タ ビ ュ ー に は、 ラ イ ブ ラ リ ア ン が、 タ イ ト ル、主題、インタビューの受け手 ( 以 下、 語 り 手 ) と 聞 き 手 の 氏 名、作成年などのメタデータを付 与する。また、語り手の経歴やイ ンタビューの状況説明を文書で掲 載し、インタビューの背景や文脈 に関する情報を提供している。 ⑵インタビューの実施 語り手には、すでにあるインタ ビューコレクションのテーマのい ずれかに精通した人物を選定する こ と が 多 い。 あ る い は、 特 定 の テーマに関係する人物を複数選定 し、インタビューをシリーズ化す ることもある。他のインタビュー と関連しない単独のインタビュー よりも、同一のテーマに集められ た複数の語り手のインタビューの小
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─ 特 集 ─
新しい
研究図書館を描く
海外の実践にみる 知の集積・発信のいま33
アジ研ワールド・トレンド No.222 (2014. 4)方が、そのテーマの背景を多角的 に捉えやすく、インタビュー間の 関連も明らかになり史料としての 価値が上がると考えられる。その ため、図書館等がインタビューを 体系的に管理することの役割は大 きい。 聞き手は、OHRCのスタッフ やUCLAの大学院生が担うが、 インタビューのテーマに詳しい人 物 を 聞 き 手 と し て 雇 う こ と も あ る。語り手の語る歴史の背景を把 握し、的確に質問することは至難 の 業 で あ る。 聞 き 手 の イ ン タ ビュースキルを養うために、OH RCはセミナーを実施している。 現在、インタビューの録音はI Cレコーダーで行われる。録音記 録は、CDなどの記憶媒体に複製 せ ず に、 カ リ フ ォ ル ニ ア 大 学 の サーバーにアップロードする。カ セットテープに録音されたかつて の 音 声 記 録 は、 デ ジ タ ル 化 し て ウェブサイトにアップロードした 一部を除き、大部分は複製せずに 保存箱に保管している。 他機関の試みとして、コロンビ ア大学図書館は重要人物のインタ ビューのビデオ撮影を、学内のス タジオで行っている。また、カリ フォルニア州立大学ロングビーチ 校 図 書 館 で は、 オ ー ラ ル ヒ ス ト リーの記録方法として、伝統的に 行われてきた書き起こしではなく タイムログを記録して公開してい る。これは、語りの内容に、それ が語られた時(何分何秒)を加え て記述する方法で、録音を再生す る際、あるトピックが語られた特 定の時点を選びやすくしたもので ある。デジタル録音だからこそ可 能な新たな方法である。 ⑶公開をめぐる問題 インタビューの際重要になるの が、インタビューの音声と書き起 こしをウェブサイト上で公開する ことへの同意書を、語り手から得 る こ と で あ る。 こ れ は、 イ ン タ ビューの著作権を含む全ての権利 をカリフォルニア大学理事に譲渡 すること、また、インタビューが 研究や教育等の目的に使用される ことを承諾することに対する語り 手 の 同 意 を 明 確 に す る 書 面 で あ る 。 同意書には、語り手が、すぐに 公 開 を 認 め る も の と、 「 自 分 の 死 後」のように一定期間を経た後に 公開を認めるものがある。後者が 示唆するように、ウェブサイトで の公開を前提としていても、イン タビュー後に語り手が公開に難色 を示し、同意書に署名を得られな いことが少なからずある。その場 合、インタビューは保存のために サーバーにアップロードするが、 ウェブサイトでは非公開にしてい る。また、書き起こしについては 秘密にしたい箇所のみ除いてウェ ブサイトで公開するか、あるいは 書き起こしの全文の公開に同意が 得 ら れ な い 場 合、 短 い イ ン タ ビューの記録を紙媒体で保存し、 利用者の求めに応じて閲覧に供す る。その際も、複写は禁止してい るという。