Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College, Available from http://ir.tdc.ac.jp/
Title
“CHANGE” We Can Believe in 口腔インプラント学研究
室がめざす “CHANGE”
Author(s)
矢島, 安朝
Journal
歯科学報, 109(1): 6-7
URL
http://hdl.handle.net/10130/1921
1.CHANGE?
ご存じのとおり“CHANGE”We Can Believe in は,バラク・オバマ米国新大統領の選挙期間中,彼 の演台に表示され続けたキーワードである。「変 革:私たちは信じ切ることができる」と和訳すれば よいであろう。 ところで,現在の歯科界の閉塞感は,年を増すご とに強いものとなり,歯科大学志望者数の減少が, 現代の社会情勢を色濃く反映している。さらに,昨 今の世界的経済不況も歯科界に重大な影響を及ぼす ことが予測されており,暗い話題ばかりが先行して いる。しかし,逆にこのような状況は,「変革」の ための大きなドライビングフォースにもなり得ると 考えられる。閉塞感の強い歯科界あるいは歯科大学 においても,今までの既成の構造やシステムでは動 きが取れなくなりつつあるこの時を機に,大きく 「変革」することが重要であろう。今まで懸命にほ ころびを繕ってきた古い革袋は,すでに修理不可能 なのである。いくら修繕してもワインは漏れてしま う。かなり前から気付いていたがチャンスを逸して いた。この際,思いきって古い革袋を捨て,新しい 構造やシステムに変えなくてはならないことを,す でに多くの関係者は感じているはずである。 私たちは,東京歯科大学口腔インプラント学研究 室の誕生が,今後大きな変革期に入らざるを得ない であろう歯科大学の中で,小さな一歩となることが できればと考えている。 2.継承すべき最重要事項は? 東京歯科大学口腔インプラント学研究室は,2005 年5月に東京歯科大学千葉病院に,診療科である口 腔インプラント科としてスタートした。それまで, 各科がばらばらに行っていたインプラント治療を, 口腔インプラント科一箇所に集約し,「エビデンス に基づいた高いレベルのインプラント治療を行い, 地域のインプラントセンターとしての役割を担う」 ことを目的として新設された。当初は,口腔外科か ら矢島安朝,古谷義隆の2名,補綴科から荒瀧友 彦,保存科から伊藤太一の合計4名が専属の医局員 となった。また添島義和,飯島俊一,椎貝達夫,武 田孝之の各臨床教授(それぞれ月に2回の診療)に は,それまでの大学病院内では意識の薄かった「患 者中心の歯科医療の実践」という新しい学外の風を 吹き込んでいただいた。診療システムとしては,各 科の医局員も登録さえしておけばインプラント科で 治療を行うことができるオープン方式を取りいれ た。これはそれまでの大学病院の診療科にはない新 しい試みとなった。各科からインプラント治療を希 望する医局員を募集してみると,約120名が希望を 提出したため,「インプラント治療に関する医療安 全と医療の質に関する規約」を制定し,それぞれの 医局員を4つのステップ(見学から執刀医)に分類 し,ステップアップのためのタスクを課すこととし た。さらに,すべての症例はインプラント科カン ファランスを通し,承認を得てから治療する方針を 決定し実行している。患者数は順調に増加し,現 在,チェアの稼働率は千葉病院各科の中で最も高い 値を示す診療科となっている。インプラント治療を 各科でばらばらに行うよりも,一箇所に集約するこ とで患者は医療の安全と質を担保でき,もう一方 で,病院は効率良く経済効果の高い診療科の確保が 可能となった。 2007年4月には,東京歯科大学口腔インプラント 学研究室に昇格し,大学院生を募集することができ るようになり医局員の数も増加した。現在の常勤医 局員は,教授1,講師1,助教1,レジデント2, 臨床専門専修科生4,大学院生4名の合計13名の研 究室に発展している。 口腔インプラント学研究室は,本学120年の歴史 の中で最も新しい,誕生してわずか1年数か月の研 究室である。診療科の時代から合算しても3年半で ある。したがって,私たちが継承する研究室の歴史 は皆無である。道はなかった。道は築くものであっ た。時代の黎明にあってフロンティアであることほ ど困難なことはない。しかし,そこには束縛されな
“CHANGE”We Can Believe in
口腔インプラント学研究室がめざす“CHANGE”
矢 島 安 朝
口腔インプラント学研究室 6
い自由な発想と協力を惜しまない心温かな先輩や後 輩がいた。学内外の多くの同窓の先生方のご支援, ご協力により現在の口腔インプラント学研究室がで きあがっていることは自明の理である。言い換えれ ば,これが私たちの研究室における過去から継承す べき最重要事項である。個人や講座の利害を捨て, 東京歯科大学に必要なものであると決断されれば, 自己犠牲を覚悟で協力を惜しまない先生方の姿は, 東京歯科大学の120年の歴史がなせる技であろう。 口腔インプラント学研究室のために,多くの方々か ら見せていただいた懐の深さや,ご厚情に感謝する と共に,この精神を目に見えない財産として次の世 代に継承して行きたいと誓っている。 3.現在:インプラント医療を“CHANGE” インプラント学は,他の歯科医学と比べ歴史が浅 いことから,まだまだ未成熟な学問であるといわざ るを得ない。また,臨床的には急速な発展を続けて いる最中であるため,臨床現場だけが先に走りす ぎ,明確なエビデンスに乏しく,コンセンサスが取 られていない治療法が存在し,これらが盛んに行わ れていることも現実である。特にインプラント関連 の情報は,雑誌やインターネット上にあふれてお り,確信度の高い有益な情報が,その他の雑多な情 報の中に埋もれてしまっている。この情報過多の現 状で,多くの歯科医師は何を信じてよいのか,大き な混乱を生じてしまっている。これが,現在問題と なっているインプラント治療のトラブルの急激な増 加につながっているものと考えられる。私たちの研 究室の目標は,「インプラントに関連するクリニカ ルエビデンスを世界に向けて継続して発信できる情 報源となる」ことである。明確なエビデンスを発信 し続け,「患者・歯科医師双方にとって安心・安全 なインプラント医療の確立」をめざしたいと考えて いる。そのために以下の5項目を定め,これに沿っ て研究が進められている。 ⑴ リスクファクターの明確化 「骨代謝マーカー」「唾液による歯周病細菌の 定量」「インプラント治療と発癌」 ⑵ トップダウントリートメントのための骨造成法 「吸収性プレートによる骨延長術の開発」「超 音波治療による骨造成法」 ⑶ 治癒期間の短縮化・患者負担の軽減 「上部構造設計から考える即時荷重プロトコ ル」 ⑷ 審美性の追求 「抜歯後即時修復」「ジルコニアイ ン プ ラ ン ト・アバットメント」 ⑸ インプラント医療の安全性 「新しいガイドシステムの開発」「事故症例の 実態調査」 4.将来:次世代の人材育成のための “CHANGE” インプラント医療は多領域連携型の包括的歯科医 療であり,歯科統合学であることは広く知られてい る。インプラント医療には,すべての歯科医療(学) のベースが必要であり,安定した臨床基礎力の上に 成り立つ歯科医療(学)であると考えられる。した がって,優れたインプラントロジストとなるために は,すべての歯科医療に精通したスーパーデンティ ストであることが求められる。しかし,各科の専門 性を重視した大学病院で育成された私たちのような 歯科医師では,この要求に応えることは難しい。そ こで,スーパーデンティスト不在の大学では,各専 門性をもった医局員のチームアプローチで対応する ことになる。各医局員は,それぞれが不足している 部分を補い合い,チームで優れたインプラントロジ ストとなることができる。しかし,口腔インプラン ト学研究室から育って行く次の世代の歯科医師は, ひとりの独立したスーパーデンティストあるいはイ ンプラントロジストでなければならない。また大学 のインプラント科には,開業医となって指導的立場 に就くことができる歯科医師を社会に送り出す義務 もあるものと考えている。 ところで,大学病院の使命として,スペシャリス トの育成は当然のことである。しかし,大学病院の 医局員の多くは将来開業医をめざしている。つま り,彼らは歯科医療すべてに精通したスーパーデン ティストになることを望んでいるわけである。その ためには,学問体系とは別に,臨床における人材育 成のための効率のよいシステムが必要なのではない かと考えられる。 大学全体のスーパーデンティスト育成システムを 模索するために,口腔インプラント学研究室の中 で,すべての臨床基礎力を養成するプログラムを完 成させ,トライアルを行いたいと考えている。その シミュレーションが良好に稼働可能であれば,大学 の構造やシステムの「変革」に,少しだけでも応用 できるのではないかと思われる。 誕生したばかりの口腔インプラント学研究室がめ ざす“CHANGE”に対して,私たちは Yes,I Can ではなく,Yes,We Can と応え,力を合わせて目 標達成のために努力して行こうと決意している。 歯科学報 Vol.109,No.1(2009) 7