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地域と人とのつながりを結ぶ「ストーリー」の可能性 : ESDの観点から

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Academic year: 2021

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地域と人とのつながりを結ぶ「ストーリー」の可能

性 : ESDの観点から

著者

西井 麻美

雑誌名

ノートルダム清心女子大学紀要. 外国語・外国文学

編, 文化学編, 日本語・日本文学編

42

1

ページ

47-52

発行年

2018

URL

http://id.nii.ac.jp/1560/00000381/

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キーワード:ストーリー,持続可能な開発のための教育(ESD),地域

Key Words : Story, Education for Sustainable Development (ESD), community ※ 本学人間生活学部児童学科

はじめに

 21 世紀に入り、国際社会は、持続可能な社会に向けた教育政策に積極的に取り組んで いる。その代表的な取り組みの一つは、「国連持続可能な開発のための教育(Education for Sustainable Development : ESD) の 10 年(DESD)〈2005 年~2014 年〉」 で あ る。 2014 年には、DESD を総括する「ESD に関するユネスコ世界会議」が、岡山と愛知・名 古屋で開催されている。岡山で開催された「ESD 推進のための公民館- CLC 国際会議」 では、「岡山コミットメント(約束)2014 ~コミュニティに根ざした学びをとおして ESD を推進するために、『国連 ESD の 10 年』を超えて」を採択し、ESD を推進していくために、 今後さらに、地域と人とのつながりをふまえた学びを構築して行くことを提言した。  筆者は、DESD 開始当初から、岡山 ESD プロジェクトに関わり、勤務大学においても、 社会教育主事課程やゼミ、国際教育研究会、クラブ(東国際レオクラブ)などを通して、 学生や他の教員の方々と共に、地域と人とのつながりをふまえた ESD の在り方について 検討している。その中で、着目したいと思っているものの一つに、「ストーリー」がある。  ここで取り上げる「ストーリー」とは、コミュニティあるいは人々により紡がれる「物 語」であるが、それは、空想や単なる回想などではなく、現実の地域財(物的、人的、有 形無形の文化財などのソーシャル・キャピタル)に基づき語られる「物語」を指す。  地域財に基づき語られるストーリーの参照例としては、日本遺産を取り上げる。文化庁 により推進されている日本遺産事業では、ストーリーを核とした事業スキームをたてるこ とで、従来の個別の文化財について価値を評価し保存することを中心とした文化財事業と は、大きく異なる展開をなしている。  筆者は、ESD が目指す持続可能な社会づくりに資する教育を考える視点から、複数の 人々により形作られ、共有される「ストーリー」に注目しているが、本稿は、持続可能な 社会に向けて、地域と人とのつながりを結ぶストーリーの可能性を探究することを目的と

地域と人とのつながりを結ぶ「ストーリー」の可能性 ~ ESD の観点から

西井 麻美

A Study on the Use of ' Story ' to Connect Communities and Persons

from the Viewpoint of Education for Sustainable Development (ESD)

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するため、先行研究として、筆者の専門とする生涯学習の分野での個人のライフストーリー 研究からも参考にすべき点を得たいと考えている。

 さらに、生涯学習の分野でのストーリーを活用する学習事業として、博物館・美術館で 試みられてきている新たな鑑賞教育にも注目し、ハーバード教育学大学院が展開するプロ ジェクト・ゼロ(Project Zero)による「プロジェクト・ミューズ(Project MUSE)」を 取り上げる。それは、従来の芸術作品自体について芸術の観点から鑑賞するというもので はなく、ストーリー作りも手法の一つとして活用しながら、鑑賞者の学びに主眼をおいた 実践の展開を試行している。  これらの新しい実践において、ストーリーを活用することが転換点となっていることに 注目して、本稿の目的である人と地域とを結ぶストーリーの在り方について考えてみたい。 1.日本遺産における地域財のストーリー化  近年進められている地域財のストーリー化を積極的に取り入れた取り組みに、2015 (平成 27)年度に文化庁が創設した日本遺産事業がある。  文化庁は、日本遺産事業は、点在する文化財を地域財としてストーリー化することに基 軸を置くことで、これまでの個別に文化財の価値を重視する文化財行政の在り方を大きく 転換させるものであるとしている。1)この日本遺産事業におけるストーリーの特徴につい て、文化庁による説明を基にまとめると表の通りである。 表 日本遺産事業におけるストーリー

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 表に示した日本遺産のストーリーの特性を見ると、これまでの文化財についての取り扱 いと大きく異なる点として、文化財について、必ずしも専門的知識に依らない価値の創出 や、地域の魅力の発信としての活用といった視点があることが分かる。  それでは、このようなスタンスで文化財を活用したストーリーを作ることの目的は何だ ろうか。文化庁は、そのようなストーリーを地域が主体となって国内外に発信する体制を 整備することで、地域に所在する文化財を核に当該地域や周辺部の産業振興・観光振興や 人材育成などとも連動した地域活性化を図ること2)に日本遺産事業の第一義的目的があ るとしている。そのため、認定の審査基準の中に、さらに次の 2 点を付加している。    ① 日本遺産という資源を活かした地域づくりについての将来像(ビジョン)と、 現実に向けた具体的な方策が適切に示されていること    ② ストーリーの国内外への戦略的・効果的発信など、日本遺産を通じた地域活性 化の促進が可能となる体制が整備されていること  さらに、認定後においても、文化庁は、日本遺産を活用する地域活性化を支援する「日 本遺産魅力発信事業」を立ち上げ、以下のような事業に対し補助金を交付するなどの支援 を行う姿勢を打ち出している。3)    ① ストーリーの国内外への発信のためのホームページの作成及び多言語化やパン フレット作成などの情報発信事業     ② ボランティアなどの人材育成事業     ③ 展覧会・ワークショップ・シンポジウム・モニターツアーなどの普及啓発事業    ④ 構成文化財のうち未指定のものについての資料収集などの調査研究事業     ⑤ ガイダンス機能の強化や周辺環境等整備(トイレ・ベンチ・説明板の設置を含む) などの公開活用のための整備に係る事業  また、これまで日本遺産についての国際社会への情報発信としては、ツーリズム EXPO ジャパン 2015(2015 年 9 月 24 日~ 27 日於東京ビッグサイト)での講演「日本遺産 (Japan Heritage)について」や、パリ日本文化会館における「日本遺産展」(2015 年 11 月 10 日~ 13 日パリ)の開催などが行われている。  以上見てきたことから、日本遺産におけるストーリーは、地域の文化財に基軸を置きな がらも、必ずしも専門家でなくとも地域の価値ある財が持つ歴史的経緯や、地域の風土に 根ざし、世代を超えて受け継がれている伝承、風習などに対して、地域の人々が関心を寄 せ、意味づけすることができるという地域財活用の新たな手法であると言えるだろう。  さらに、ストーリー作成後の展開としては、地域の文化財を人材育成をも含めた地域活 性化と望ましい将来像(ビジョン)に至る地域づくりの一助とすることが見込まれており、 地域学4)としての展開の可能性もあり得る。  このような日本遺産のスキームは、地域と人とをむすびつけて、地域から望ましい将来像で ある持続可能な社会づくりを目指すESDの在り方としても展開できる可能性が高いと考える。

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50 2.ストーリーを活用する学習 (1)ライフストーリーを活用した学習  生涯学習の分野では、ストーリーを活用する学習実践が多様に展開されている。その一 つが、ライフヒストリー・ライフストーリーの活用である。これについては、個々人の成 長や認識の展開に重点を置く検討が多く進められている。その中で、地域と人とのつなが りを視野に入れた生涯学習としてライフストリー研究を行っているものに、辻喜代司によ るライフストーリーを活用した地域生涯学習研究をあげることができる。  辻は、生涯教育学、臨床教育学、教育社会学を専門とする研究チームをつくり、京都府 祖楽郡南山城村童仙房区住民への聞き取り調査を行った。その調査過程では、明治期の開 拓記念碑の建立や 1969 年の記念式典の開催などの地域における想い出が、地域住民によ り語られる中で、現在の地域への思いにまでつながっていく様子が見られ、ライフストー リーが地域の価値を見つめ直すものとしても展開されうるとしている。5)  また、中川恵里子は、若者が高齢者といった異なる世代にライフストーリーを聞く実践 「ライフストーリーズ・インタビュー」に注目している。そこでは、蓄積された経験から 語られる高齢者のライフストーリーが、若者の知の未熟さ(同時に若者の可能性とも言え る)を補い、若者が将来的な指針を得るのにつながる様子が見られ、世代による「違い」 を学びあいながら、互いに新たな見方を創造する「多世代型コミュニティ」が形成されう ることを指摘している。6)  これらのことから、ライフストーリーは、一見、個人的な回顧に思えるストーリーであっ ても、地域の想い出や他の住民との関わりがあることで、地域と人とをつなぐ手法ともな りうる可能性が伺える。 (2)文化財を活用したストーリーの学習  博物館は、多くの文化財を所蔵しているが、博物館の文化財を人々の教育・学習に活用 する新たな実践が試みられてきている。その中に、人々が自ら博物館の文化財からストー リーを読み取ることを奨励する教育・学習の実践がある。その一つとして、ハーバード教 育学大学院が展開している「プロジェクト・ゼロ(Project Zero)」7)による芸術教育「プ ロジェクト・ミューズ(Project MUSE(Museums Uniting with Schools in Education)」 をあげることができる。  プロジェクト・ミューズは、芸術教育としての博物館・美術館の可能性を研究開発する ために、博物館・美術館の専門職員と学校教員との共同研究として 1994 年に開始された。 プロジェクト・ミューズは、プロジェクトとしては、1996 年に集約したが、その成果は、 プロジェクト・ゼロの芸術教育の基盤をなしており、さらに博物館・美術館を活用する芸 術教育の開発がプロジェクト・ゼロにおいて今日に至るまで継続されている。  プロジェクト・ミューズの特質は、池内慈朗の研究8)をもとにまとめると次のようである。  まず、このプロジェクトが、美術作品を美術としてとらえる従来の鑑賞教育と大きく異 なる点は、、人の様々な学びの入り口として美術作品を活用するというスタンスである。 このプロジェクトでは、人の学びの入り口として、5つ(①説明[Narrative]、②理論・ 数量的、③ 基礎的[Foudational]、④ 美的、⑤ 実践的・ハンズオン)を想定しており、

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それぞれに最適な美術作品を活用する手法が検討されている。  次に、教育・学習の手法として、鑑賞者が主体となって学習を進めていくという特徴が ある。例えば、学びの入り口の一つである「説明」の学習では、鑑賞者が、美術品にどん なストーリーが込められていると思うか探る形態をとる。この学習過程では、鑑賞者は、 作品について専門的な説明を受けることはないが、質問されることで、思考の展開が促さ れる。また、作品について探るストーリーの内容も、作品自体に表現されている内容だけ でなく、作者の人生や、その作品が生まれた時代などへも思いをはせることが奨励される。  このようなストーリーの学習は、美術作品というものを、人々が自ら地域の文化財とし てとらえ直し、社会やコミュニティを理解する教材にもなっていると考えられ、地域と人 とをつなぐ博物館・美術館の新たな教育・学習実践の可能性が見えてくると考える。 おわりに  地域財(地域の人・もの・こと)を題材にして学習者や参加者が自分たちの見方で「ス トーリー」を構成することに注目する実践について取り上げることにより、このような「ス トーリー」が、地域と人とを結ぶ学習手法としての可能性を有することが見えてきた。  さらに、紡がれた「ストーリー」から、これまで気づかなかった地域の特性を顕在化し たり、将来像を描いたりするなどして、新たな地域づくりに生かそうとする動きもあるこ とが分かった。  本稿で注目した「ストーリー」は、地域財についての客観的で科学的な論述というより、 学際的でありながらも学習者自身にも関わる意味づけがある内容展開となっているのが大 きな特徴である。そのため、学習者にとっても意味ある社会づくりに通じる地域学的アプ ローチとしても注目できるとともに、このような「ストーリー」の活用は、地域から持続 可能な社会づくりを目指す ESD の手法としても生かすことができると考える。  今後は、さらに、学習者や様々なステークホルダーの視点から、社会課題の解決を示唆 するような「ストーリー」の在り方についても検討していきたい。

 例えば、「Living Well with Dementia」の取り組みは、人と地域とのつながりにおいて、 人の「認知」の原点にも切り込みながら、認知症の人々を支援する地域づくりを試行して おり、これからの持続可能な社会づくりについての重要な観点を内包していると、筆者は、 考えている。その支援の一端に、本稿で注目している「ストーリー」と類似したものの活 用も、取り入れられて始めている。  今後、さらに、様々な理論や実践から、地域と人とのつながりを結ぶストーリーについ て探求していく所存である。 1)文化庁 2016 年 『日本遺産 JAPAN HERITAGE』 p.4 2)文化庁 2015(平成 27)年 「日本遺産(Japan Heritage)事業について」(通知) 3)文化庁 2016 年「特集 1 日本遺産について」『文化遺産の世界』Vol.26 国際文化財 4)筆者が注目している地域学は、生涯学習として展開される地域学であるが、このこと については、次のものを参照願いたい。西井麻美 2017 年「持続可能な開発のため

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52 の教育(ESD)としての地域学の検討」 『ノートルダム清心女子大学紀要 文化学編』 第 41 巻第 1 号(通巻 52 号) pp.40-50. ノートルダム清心女子大学  5)辻喜代司 2012 年  「ライフストーリーを活用した地域生涯学習の実証的研究 ―野 殿・童仙房におけるエコミュージアム活動をフィールドとして」 『子どもの生命性と 有能性を育てる教育・研究』2007―2011 年度 p.104. 京都大学大学院教育学研究科 教育実践コラボレーション・センター 6)中川恵里子 2016 年 「HY マクラスキーの[多世代型コミュニティ論]の現代的意義 ― 若者によるライフストーリーズ・インタビューに基づいて」 日本教育学会第 68 回大会発表要旨集 pp.84-85. 7)プロジェクト・ゼロは、ハーバード教育学大学院において、新たな芸術教育の発展を 目指して、1967 年より開始された。プロジェクト開始時のコンセプトは、ネルソン・ グッドマン(Nelson Goodman)による芸術教育の概念(芸術についての学習は、認 知行動であり、芸術教育の出発点[ゼロ]は、芸術作品に対する一般的なコミュニケー ションからであるとする)を基軸にしている。 8)池内慈朗 2014 年 『ハーバード・プロジェクト・ゼロの芸術認知論とその実践 ― 内なる知性とクリエティビティを育むハワード・ガードナーの教育戦略』 東信堂   

参照

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