54:1069 「一日も早く」は,今年 51 年目を迎えた日本筋ジストロ フィー協会誌のタイトルであり,一日も早く難治性疾患で苦 しむ患者・家族に根治的な治療法を届けることは,難病医療 に携わる者すべての願いである.筋ジストロフィーの治療研 究は,近年の基礎医学研究の進歩により病態の解明とモデル 動物をもちいた治療研究がめざましく進展し,開発中のエク ソンスキッピング薬,リードスルー薬等の遺伝子標的治療薬 といった病態の根本に対する治療法には大きな期待が集まっ ている.しかしながら,創薬のスキームに沿った開発をおこ なうためには,その過程で円滑に実施されるべき臨床試験に 多くの困難が想定されてきた.疾患の罹患患者数やその実態 把握,臨床試験の対象となる患者数,試験参加者のリクルー トなどの臨床試験の実行可能性の問題,臨床試験デザインや エンドポイント設定の問題など,多くの課題が挙げられている. 2007年から,欧州連合からの研究資金を受けた TREAT-NMD
(Translational Research in Europe-Assessment and Treatment of Neuromuscular Diseases, network of excellence for neuro-muscular diseases)を中心に,神経筋疾患の診断や患者ケア の均てん化と新たな治療法開発のための研究開発基盤として 疾患レジストリーが推進されている.2009 年 7 月,本邦にお いても,世界で統一された登録項目をもちい臨床試験実施を 進めるための新たなナショナルレジストリーとして Remudy が ス タ ー ト し た1). 対 象 を 遺 伝 子 変 異 が 判 明 し て い る dystrophinopathy(DMD/BMD)患者とし,希望する患者自身 によって登録をおこなうシステムである.患者登録の目的や 意義についての説明や登録に必要な手順などの資料は,すべ てウェブサイト(www.remudy.jp)で公開され,誰でもその情 報にアクセスすることができる.情報は,臨床情報と遺伝情 報キュレーター(それぞれ臨床医学に精通した専門家,遺伝子 解析に精通した専門家を意味し,TREAT-NMD Global Registry が求める役割)によって確認されて正確性が担保される. 2014年 7 月末現在,全国 203 施設 379 名の医師の協力のもと 1,307人の dystrophinopathy 患者の登録依頼を受けている.登 録情報は年に一回更新され,それぞれの疾患の疫学・自然歴 が明らかになりつつある.診断別の運動機能,ステロイド使 用,歩行可能な患者のステロイド使用状況,心機能および使 用薬剤,呼吸機能,遺伝子変異の内訳についての詳細なデー タはウェブサイトで公開され,登録者をふくむ患者・家族や 医療従事者,国民(一般の閲覧者)に,療養や診療の情報と して,また臨床研究の計画の参考になる情報として利用され ている.また,2012 年 6 月より,GNE ミオパチー(縁取り 空胞をともなう遠位型ミオパチー)登録も始まった(2014 年 7月現在,155 人).登録患者・家族,協力の医療従事者への 情報発信として,Remudy ウェブサイトを通じて最新の医療・ 臨床研究の情報発信(お知らせ:週に 1~2 回の更新),e-mail 「Remudy ニュースレター」による情報提供(月に 2~3 回), 紙媒体「Remudy 通信」を定期的な発行(年に 3~4 回)を実 施し,市民公開講座や日本筋ジストロフィー協会等の患者支 援団体他の講演会でも,情報発信と患者情報登録の周知に力 を入れている.
2012年より,TREAT-NMD alliance や米国の Cooperative International Neuromuscular Research Group(CINRG)の取り
< Symposium 14-1 > 今開かれる筋ジストロフィー治療の扉
筋ジストロフィーの臨床開発を推進する研究基盤:Remudy と MDCTN
木村 円
1)中村 治雅
1)三橋 里美
1)竹内 芙実
1)森 まどか
1)清水 玲子
1)2)小牧 宏文
1)林 由起子
3)西野 一三
1)川井 充
4)武田 伸一
1) 要旨: 国際協調に基づく遺伝性神経・筋疾患の臨床研究の推進を目的とし,国立精神・神経医療研究センター に,神経筋疾患患者情報登録 Remudy を構築し,現在,ジストロフィノパチーおよび GNE ミオパチーのレジスト リーを運営している.設立当初の目的である臨床研究の計画および実施の際に対象となる疾患の疫学データを提 供し,登録者へ正確な情報提供と迅速かつ効率的な試験参加者のリクルートフローを筋ジストロフィー臨床試験 ネットワーク MDCTN と共に構築した.さらに,疫学・自然歴情報を提供する臨床研究も実施している.これら の取り組みは,希少な難治性疾患の臨床研究基盤整備のモデルケースを提示している. (臨床神経 2014;54:1069-1070)Key words: Remudy,筋ジストロフィー,希少疾患,国際協調,TREAT-NMD
1)国立精神・神経医療研究センター〔〒 187-8551 東京都小平市小川東町 4-1-1〕 2)東京女子医科大学小児科
3)東京医科大学神経生理学講座
4)国立病院機構東埼玉病院
臨床神経学 54 巻 12 号(2014:12) 54:1070 組みを参考にして,筋ジストロフィーの医療の向上と臨床試 験 / 治験の実施を促進するため,医師,理学療法士,治験コー ディネーターなど多職種が参加する筋ジストロフィー臨床研 究ネットワーク MDCTN が稼動し,臨床試験 / 治験の実施に かかわる施設調査,多施設共同治験および臨床研究の窓口機 能,治験業務の効率化,施設間の情報交換・教育的活動,臨 床評価の標準化を目指した活動がはじまった(http://www. mdctn.jp/).これら研究基盤を通じて,登録者への医療や臨床 研究の情報提供をおこない,研究者・開発企業の依頼に応じ て臨床試験の計画(フィージビリティ)に必要な情報開示 (11 件),さらに臨床試験の参加者リクルートに関する情報提 供(2 件)をおこない臨床研究の実施促進に役立っている.ま た 2013 年に,公知申請により承認されたプレドニゾロンによ る DMD 治療の根拠を示すデータとして,Remudy に登録さ れた 791 人の臨床情報(2009 年 7 月~2012 年 6 月)を解析 し,DMD のとくに歩行機能に関する自然歴とステロイド治 療の効果を検討した.その結果,ステロイド使用群(245 人) は,ステロイド未使用群(315 人)と比較して,歩行可能期 間が 11 ヵ月延長していた2).これは公表されている DMD を 対象とした臨床研究の中では世界最大規模の横断的観察研究 であり,疾患レジストリーによって難治性疾患に対する治療 薬の有用性を示し高く評価された.レジストリー研究という 新しい臨床研究手法の具体的な例であり,この研究手法を希 少疾患全体に展開することが重要だと考えている.また同年, TREAT-NMD Global registryに集約された世界 31 ヵ国から
13,500人を超える匿名化されたジストロフィノパチーの情報 をまとめ,世界の研究者と共同で報告した3). 希少な難治性疾患の克服には,病態の解明とこれに基づく 根本治療法の実現がその第一歩となる.創薬のスキームに 沿った臨床開発には,近年の医薬品開発のグローバリゼー ションの背景からも,国際共同臨床試験を実施し足並みをそ ろえて治療薬の承認申請をおこなう体制が重要である.希少 であるがゆえに世界各地から臨床試験への参加者をリクルー トすることが必要となり,これはそのまま地域格差の解消に つながっていくことが期待される.このために臨床開発研究 基盤の整備が求められ,国際協調に基づく疾患レジストリー はその重要なパートである.これらの体制の構築と円滑な運 用のためには,ステークホルダーである患者・支援団体,医 療者,研究者・開発企業,学会,規制当局などの理解と協力 体制が必要である. 筋ジストロフィーにおけるわれわれの取り組みをひとつの プロトタイプし,神経筋領域から希少な難治性疾患全般の克服 を目指し臨床研究基盤整備を進めていくことが重要である. ※本論文に関連し,開示すべき COI 状態にある企業,組織,団体 はいずれも有りません. 文 献
1) Nakamura H, Kimura E, Mori-Yoshimura M, et al. Characteristics of Japanese Duchenne and Becker muscular dystrophy patients in a novel Japanese national registry of muscular dystrophy (Remudy). Orphanet J Rare Dis 2013;8:60.
2) Takeuchi F, Yonemoto N, Nakamura H, et al. Prednisolone improves walking in Japanese Duchenne muscular dystrophy patients. J Neurol 2013;260:3023-3029.
3) Bladen CL, Rafferty K, Straub V, et al. The TREAT-NMD Duchenne muscular dystrophy registries: conception, design, and utilization by industry and academia. Hum Mutat 2013;34: 1449-1457.
Abstract
The infrastructure for the clinical research of muscular dystrophies: Remudy and MDCTN
En Kimura, M.D., Ph.D.
1), Harumasa Nakamura, M.D.
1), Satomi Mitsuhashi, M.D., Ph.D.
1),
Fumi Takeuchi, M.D.
1), Madoka Mori-Yoshimura, M.D., Ph.D.
1), Reiko Shimizu, M.D., Ph.D.
1)2),
Hirofumi Komaki, M.D., Ph.D.
1), Yukiko K Hayashi, M.D., Ph.D.
3), Ichizo Nishino, M.D., Ph.D.
1),
Mitsuru Kawai, M.D.
4), and Shin‘ichi Takeda, M.D., Ph.D.
1)1)National Center of Neurology and Psychiatry, Japan 2)Department of Pediatrics, Tokyo Women’s Medical University
3)Department of Neurophysiology, Tokyo Medical University 4)NHO Higashi-Saitama Hospital