• 検索結果がありません。

各都道府県の資産格差指数の妥当性の検証 利用統計を見る

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "各都道府県の資産格差指数の妥当性の検証 利用統計を見る"

Copied!
9
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

各都道府県の資産格差指数の妥当性の検証

著者

鈴木 孝弘, 田辺 和俊

著者別名

SUZUKI Takahiro, TANABE Kazutoshi

雑誌名

現代社会研究

15

ページ

25-32

発行年

2017

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00009601/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja

(2)

― 25 ―  わが国では高齢者,女性,子供などの経済的弱者の貧困問題に国民の関心が高まっているが,世 界的には富裕層への資産集中の問題が深刻化している。しかし,資産格差に関する研究は国内外と もこれまで十分に行われていない。本稿では47都道府県について政府統計の資産分布データを用い て,特に富裕層と貧困層の資産格差を表す幾つかの指標を計算し,それらの妥当性を検証した。そ の結果,先行研究で多く用いられているジニ係数は資産格差の指数としては適切でなく,資産の上 位10%の富裕層と下位10%の貧困層の資産額の比率を示す貧富比率が国内の都道府県の資産格差を 最も適切に表す指数であることを見出した。 keywords:資産格差,都道府県格差,貧富格差,ジニ係数,貧富比率 がある。そのため,貧困問題の場合には低所得層 の比率を強調できる「貧困率」が多く用いられ, 同様に,資産格差の場合は富裕層の資産保有率を 表す指標が望ましいとされる。富裕層の実態を強 調できる指標として,Piketty2)は資産の上位1%あ るいは10%の富裕層が保有する資産の比率を,ま た,Fabrice Murtinら3)は資産分布の平均値と中 央値の比を用いている。しかし,これら富裕度指 標が富裕層の実態をどの程度正確に表しているか についての実証的研究は十分ではない。  わが国の資産格差については全世帯におけるジ ニ係数を用いた研究がほとんどであり4-24),富裕 層と貧困層の資産格差を表す指標を用いて実態を 検証した先行研究は見当たらない。本稿では47都 道府県について政府統計の資産分布データを用い て,資産格差を表す幾つかの指標を計算し,それ らの妥当性を検証した。 2 検証した資産格差指数 2.1 ジニ係数  所得格差の指標として最も一般的なジニ係数の 計算法を資産額階級別世帯数のデータに適用し て,資産格差のジニ係数を計算した。 目   次 1.はじめに 2.検証した資産格差指数 3.結果と考察 4.結論 1 はじめに  現在,わが国では高齢者,女性,子供や低所得 者などの経済的弱者(社会的弱者)の貧困問題に 国民の関心が高まっている。しかし,世界的には むしろ富裕層への資産集中が深刻化している。 2015年1月,世界の人口のわずか1%の最富裕層が 世界中の資産の48%を占めているという報告書1) が発表された。また,近年,出版されたThomas Pikettyの著書2)は所得の格差以上に富,資産の格 差が重大であり,その是正には累進的な富裕税を 世界規模で導入する必要があると警鐘した。  しかし,所得格差と比較して資産格差に関する 研究は国内外ともこれまで十分に行われていな い。その理由の1つは,所得格差や貧困率に比べ て資産格差の実態を表すデータが不足しているこ とである。所得格差の指標としても最も多く利用 される「ジニ係数」は,中間層の格差が重視され, 貧困層や富裕層の実態を把握しにくいという難点

各都道府県の資産格差指数の妥当性の検証

鈴 木 孝 弘

田 辺 和 俊

(3)

『現代社会研究』15号 ― 26 ― 2.2 Piketty指数  Piketty2)が用いた資産の上位10%の富裕層が保 有する資産の比率を計算した。 2.3 Murtin指数  Murtinら3)が用いた資産分布の平均値と中央値 の比を計算した。 2.4 貧富比率  資産の上位10%の富裕層が保有する資産と下位 10%の貧困層が保有する資産の比率を計算した。  これらの指標の計算には,平成26年全国消費実 態調査の資産額階級・地域別世帯分布のデータを 用いた。この政府統計では資産の種類として総資 産と純資産の2種類(図1)について,世帯分布の データが公表されているが,本稿では総資産から 負債を差し引いた純資産について各指標を計算し た。その際,指標の計算はすべて世帯単位で行っ た。 3 結果と考察 3.1 全国および都道府県の資産格差指数  平成26年全国消費実態調査のデータを用いて47 都道府県の以上の4指標,ジニ係数,Pikettty指数, Murtin指数,貧富比率を計算した結果を図2に示 す。わが国の資産格差の地域傾向について分析し た先行研究はある25-29)が,本稿のように各種の資 産格差指数に基づいて都道府県の格差を検証した 研究はない。  まず,ジニ係数について都道府県別のランキン グを見ると,上位は1位沖縄県,2位東京都,3位 滋賀県,4位神奈川県,5位大阪府であり,下位は 43位茨城県,44位群馬県,45位福井県,46位奈良 県,47位富山県である。  Piketty指数の順位は,上位は1位沖縄県,2位 滋賀県,3位香川県,4位埼玉県,5位神奈川県で あり,下位は43位山口県,44位茨城県,45位福井 県,46位群馬県,47位奈良県である。この指数は 資産の上位10%の富裕層が保有する資産の比率で あり,一方,ジニ係数は中間層の格差が重視され, 貧困層や富裕層の実態を把握しにくいとされてい るにもかかわらず,両者間の相関はかなり高い(表 1)。  Murtin指数の順位は,上位は1位の沖縄県がと びぬけて高く,2位東京都,3位高知県,4位岡山県, 5位滋賀県であり,下位は43位愛媛県,44位宮城県, 45位奈良県,46位山口県,47位群馬県である。  一方,貧富比率の順位は,上位は1位東京都,2 位滋賀県,3位大阪府,4位京都府,5位埼玉県で あり,下位は43位奈良県,44位青森県,45位長崎 県,46位富山県,47位沖縄県である。このうち, 沖縄県の貧富比率の値が飛びぬけて低く,これま での指数とは順位がかなり異なることが分った。  表1に示すように他の3指数との相関指数もきわ めて低く、この指数は独立性が高いことが明らか である。

2

Murtin ら

3)

が用いた資産分布の平均値と中央値の

比を計算した。

2.4 貧富比率

資産の上位

10%の富裕層が保有する資産と下位

10%の貧困層が保有する資産の比率を計算した。

これらの指標の計算には,平成

26 年全国消費実態

調査の資産額階級・地域別世帯分布のデータを用い

た。この政府統計では資産の種類として総資産と純

資産の

2 種類(図 1)について,世帯分布のデータ

が公表されているが,本稿では総資産から負債を差

し引いた純資産について各指標を計算した。その際,

指標の計算はすべて世帯単位で行った。

総資産

土地

実物資産

純資産

住宅

耐久消費財(自動車,家具,等)

金融資産(現金,預貯金,有価証券,

保険・年金準備金,ゴルフ会員権,等)

純金融資産

負債(住宅ローン,分割払い金,

カードローン,等)

1 総資産,純資産の内訳図

3 結果と考察

3.1 全国および都道府県の資産格差指数

平成

26 年全国消費実態調査のデータを用いて

47 都道府県の以上の各指標を計算した結果を図 2

に示す。わが国の資産格差の地域傾向について分

析した先行研究はある

25-29)

が,本稿のように各種

の資産格差指数に基づいて都道府県の格差を検証

した研究はない。

まず,ジニ係数について都道府県別のランキン

グを見ると,上位は

1 位沖縄県,2 位東京都,3 位

滋賀県,

4 位神奈川県,5 位大阪府であり,下位は

43 位茨城県,44 位群馬県,45 位福井県,46 位奈

良県,

47 位富山県である。

Piketty 指数の順位は,1 位沖縄県,2 位滋賀県,

3 位香川県,4 位埼玉県,5 位神奈川県であり,43

位山口県,

44 位茨城県,45 位福井県,46 位群馬

県,

47位奈良県である。この指数は資産の上位10%

の富裕層が保有する資産の比率であり,一方,ジ

ニ係数は中間層の格差が重視され,貧困層や富裕

層の実態を把握しにくいとされているにもかかわ

らず,両者間の相関はかなり高い(表

1)。

Murtin 指数の順位は,1 位の沖縄県がとびぬけ

て高く,

2 位東京都,3 位高知県,4 位岡山県,5

位滋賀県であり,

43 位愛媛県,44 位宮城県,45

位奈良県,

46 位山口県,47 位群馬県である。

一方,貧富比率の順位は,

1 位東京都,2 位滋賀

県,

3 位大阪府,4 位京都府,5 位埼玉県であり,

43 位奈良県,44 位青森県,45 位長崎県,46 位富

山県,

47 位沖縄県であり,沖縄県が飛びぬけて低

く,これまでの指数とは順位がかなり異なる。

1 各種指数間の相関係数

Piketty指数 Murtin指数 貧富比率

ジニ係数

0.925 0.754 0.380

Piketty指数

0.658 0.475

Murtin指数

-0.106

2

Murtin ら

3)

が用いた資産分布の平均値と中央値の

比を計算した。

2.4 貧富比率

資産の上位

10%の富裕層が保有する資産と下位

10%の貧困層が保有する資産の比率を計算した。

これらの指標の計算には,平成

26 年全国消費実態

調査の資産額階級・地域別世帯分布のデータを用い

た。この政府統計では資産の種類として総資産と純

資産の

2 種類(図 1)について,世帯分布のデータ

が公表されているが,本稿では総資産から負債を差

し引いた純資産について各指標を計算した。その際,

指標の計算はすべて世帯単位で行った。

総資産

土地

実物資産

純資産

住宅

耐久消費財(自動車,家具,等)

金融資産(現金,預貯金,有価証券,

保険・年金準備金,ゴルフ会員権,等)

純金融資産

負債(住宅ローン,分割払い金,

カードローン,等)

1 総資産,純資産の内訳図

3 結果と考察

3.1 全国および都道府県の資産格差指数

平成

26 年全国消費実態調査のデータを用いて

47 都道府県の以上の各指標を計算した結果を図 2

に示す。わが国の資産格差の地域傾向について分

析した先行研究はある

25-29)

が,本稿のように各種

の資産格差指数に基づいて都道府県の格差を検証

した研究はない。

まず,ジニ係数について都道府県別のランキン

グを見ると,上位は

1 位沖縄県,2 位東京都,3 位

滋賀県,

4 位神奈川県,5 位大阪府であり,下位は

43 位茨城県,44 位群馬県,45 位福井県,46 位奈

良県,

47 位富山県である。

Piketty 指数の順位は,1 位沖縄県,2 位滋賀県,

3 位香川県,4 位埼玉県,5 位神奈川県であり,43

位山口県,

44 位茨城県,45 位福井県,46 位群馬

県,

47位奈良県である。この指数は資産の上位10%

の富裕層が保有する資産の比率であり,一方,ジ

ニ係数は中間層の格差が重視され,貧困層や富裕

層の実態を把握しにくいとされているにもかかわ

らず,両者間の相関はかなり高い(表

1)。

Murtin 指数の順位は,1 位の沖縄県がとびぬけ

て高く,

2 位東京都,3 位高知県,4 位岡山県,5

位滋賀県であり,

43 位愛媛県,44 位宮城県,45

位奈良県,

46 位山口県,47 位群馬県である。

一方,貧富比率の順位は,

1 位東京都,2 位滋賀

県,

3 位大阪府,4 位京都府,5 位埼玉県であり,

43 位奈良県,44 位青森県,45 位長崎県,46 位富

山県,

47 位沖縄県であり,沖縄県が飛びぬけて低

く,これまでの指数とは順位がかなり異なる。

1 各種指数間の相関係数

Piketty指数 Murtin指数 貧富比率

ジニ係数

0.925 0.754 0.380

Piketty指数

0.658 0.475

Murtin指数

-0.106

図 1 総資産,純資産の内訳図 表 1 各種指数間の相関係数 ジニ係数

(4)

各都道府県の資産格差指数の妥当性の検証 ― 27 ―

3

ジニ係数

0.4 0.5 0.6 0.7

Piketty指数

0.3 0.4 0.5 0.6

Murtin指数

1 2 3 4 5

貧富比率

0 50 100 150 200 北海 道 青森 県 岩手 県 宮城 県 秋田 県 山形 県 福島 県 茨城 県 栃木 県 群馬 県 埼玉 県 千葉 県 東京 都 神奈 川 新潟 県 富山 県 石川 県 福井 県 山梨 県 長野 県 岐阜 県 静岡 県 愛知 県 三重 県 滋賀 県 京都 府 大阪 府 兵庫 県 奈良 県 和歌 山 鳥取 県 島根 県 岡山 県 広島 県 山口 県 徳島 県 香川 県 愛媛 県 高知 県 福岡 県 佐賀 県 長崎 県 熊本 県 大分 県 宮崎 県 鹿児 島 沖縄 県

2 47 都道府県の各種資産格差指数の計算結果(2014 年)

図 2 47 都道府県の各種資産格差指数の計算結果(2014 年)

(5)

『現代社会研究』15号 ― 28 ― 3.2 各種指数の違いの原因  以上の都道府県別の各種資産格差指数の順位の 考察から目立つのは,4種の資産格差指数の中で ジニ係数,Piketty指数,Murtin指数の3指数と貧 富比率との間に明確な違いが認められ,特に沖縄 県の数値の違いが大きいことである。すなわち, 沖縄県は3指数が他県より飛びぬけて高く,貧富 比率は飛びぬけて低い。  そこで,4種の資産格差指数の中で資産格差を より適切に表す指数を選定するために,東京都と 沖縄県について指数間の違いの原因解明を試み た。両都県の資産額階級別世帯数の分布を図3に 示す。これより,沖縄県は東京都と比べて低資産 階級の世帯が非常に多く,不平等度が高い。東京 都は資産5千万円以上の世帯が多いが,全体的に 平等度が高い。  図3の東京都と沖縄県の資産額階級別世帯数の 分布から算出した世帯数階級別の資産額率の分布 を図4に示す。沖縄県は図3の資産額階級別世帯数 の分布では500万円未満の貧困層の比率が48%と 非常に高く,1億円以上の富裕層は2%しかない。 しかし,同県は,図4の世帯数階級別の資産額率 の分布では資産額上位10%の富裕層の保有率は 51%ときわめて高い。その結果,図2のように沖 縄県のPiketty指数は0.519と全国一,高くなって いる。また,沖縄県は全体的な不平等度の高さの ために,ジニ係数も0.667と他県より突出して高 い。さらに,沖縄県の資産額の中央値は496万円, 平均値は2,022万円と違いが大きく,Murtin指数 は4.08と異常な高さになっている(図2)。  一方,東京都は図3の資産額階級別世帯数の分 布では1億円以上の富裕層の比率が14%もあるが, 500万円未満の貧困層の比率は17%である。その 結果,図4の世帯数階級別の資産額率の分布は沖 縄県と比べて中間層の比率が高くなり,資産額上 位10%の 富 裕 層 の 保 有 率 を 示 すPiketty指 数 は 0.443と沖縄県よりかなり低くなっている。また, 全体的な平等度の高さのために,ジニ係数も0.592 と沖縄県よりかなり低い。さらに,資産額の中央 値 は2,992万 円, 平 均 値 は6,058万 円 で あ り, Murtin指数は2.03と沖縄県よりかなり低い。  これらの3指数に対して,資産の上位10%の富 裕層が保有する資産と下位10%の貧困層が保有す る資産の比率を示す貧富比率は,沖縄県では資産 額上位10%の富裕層の保有率は51%ときわめて高 いが,下位10%の貧困層の保有率が2.5%である(図 4)ため,貧富比率は21.4となり,全国一の低さ となる(図2)。

4

3.2 各種指数の違いの原因

以上の都道府県別の各種資産格差指数の順位の

考察から目立つのは,

4 種の資産格差指数の中で

ジニ係数,

Piketty 指数,Murtin 指数の 3 指数と貧

富比率との間に明確な違いが認められ,特に沖縄

県の数値の違いが大きいことである。すなわち,

沖縄県は

3 指数が他県より飛びぬけて高く,貧富

比率は飛びぬけて低い。

そこで,

4 種の資産格差指数の中で資産格差を

より適切に表す指数を選定するために,東京都と

沖縄県について指数間の違いの原因解明を試みた。

両都県の資産額階級別世帯数の分布を図

3 に示す。

沖縄県は東京都と比べて低資産階級の世帯が非常

に多く,不平等度が高い。東京都は資産

5 千万円

以上の世帯が多いが,全体的に平等度が高い。

0.0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

500 未満 500 ~ 1000 1000 ~1500 1500 ~2000 2000 ~3000 3000 4000~ 4000 ~5000 5000 ~0000 億円1 以上

資産額(万円)

世帯数率

東京

沖縄

3 東京都と沖縄県の資産額階級別世帯数の分布(2014 年)

3 の東京都と沖縄県の資産額階級別世帯数の

分布から算出した世帯数階級別の資産額率の分布

を図

4 に示す。沖縄県は図 3 の資産額階級別世帯

数の分布では

500 万円未満の貧困層の比率が 48%

と非常に高く,

1億円以上の富裕層は2%しかない。

しかし,図

4 の世帯数階級別の資産額率の分布で

は資産額上位

10%の富裕層の保有率は51%ときわ

めて高い。その結果,図

2 のように沖縄県の Piketty

指数は

0.519 と全国一,高い。また,全体的な不

平等度の高さのために,ジニ係数も

0.667 と他県

より突出して高い。さらに,中央値は

496 万円,

平均値は

2,022 万円と違いが大きく,Murtin 指数

4.08 と異常な高さになっている(図 2)。

一方,東京都は図

3 の資産額階級別世帯数の分

布では

1 億円以上の富裕層の比率が 14%もあるが,

500 万円未満の貧困層の比率は 17%である。その

結果,図

4 の世帯数階級別の資産額率の分布は沖

縄県と比べて中間層の比率が高くなり,資産額上

10%の富裕層の保有率を示す Piketty 指数は

0.443 と沖縄県よりかなり低い。また,全体的な平

等度の高さのために,ジニ係数も

0.592 と沖縄県

よりかなり低い。さらに,中央値は

2,992 万円,

平均値は

6,058 万円であり,Murtin 指数は 2.03 と

沖縄県よりかなり低い。

図 3 東京都と沖縄県の資産額階級別世帯数の分布(2014 年)

(6)

各都道府県の資産格差指数の妥当性の検証 ― 29 ―  一方,東京都は上位10%の富裕層の資産保有率 は44%と高いが,全体的な平等度の高さのために 下位10%の貧困層の資産保有率は0.3%しかない。 その結果,貧富比率は167.1となり,全国一の高 さとなっている(図2)。 3.3 最適な資産格差指数の選定  以上ではジニ係数,Piketty指数,Murtin指数, 貧富比率の4種を用いて各都道府県の資産格差を 検証してきたが,その中で資産格差を最適に示す 指数を選定してみる。4種の指数の内ではジニ係 数,Piketty指数,Murtin指数の3指数と貧富比率 では都道府県別の傾向が明確に異なることが判明 した。  特に,図2のように,沖縄県では3指数の数値が 際立って高く,資産格差が最大であることを示し ているが,貧富比率は沖縄県が逆に最小で,格差 が最小と,正反対の結論が得られた。では,これ らの指数の中で資産格差を示す最適の指数はどれ であろうか。  本稿では,ジニ係数,Piketty指数,Murtin指 数の3指数が沖縄県において最大値を示すのは資 産格差を適正に示しているわけではなく,またそ の中でも,先行研究で多く用いられているジニ係 数は都道府県間の差が全体的に小さく,格差を捉 えにくい指標であると判断した。それに対し,貧 富比率は東京都で最大値を,沖縄県において最小 値を示し,さらに,埼玉,神奈川,大阪,京都な どの大都市府県で大きな数値を示していることは 我々の常識に合致していると判断した。そこで, 都道府県別の資産格差を示す最適の指数として貧 富比率を選定した。 3.4 貧富比率に基づく資産格差の推移  1994年~2014年の全国消費実態調査の資産額階 級別世帯数のデータを用い,全国平均,東京都, および沖縄県について算出した貧富比率を図5に 示す。その際,純資産だけでなく,貯蓄額,純貯 蓄額(貯蓄から負債を差引いたもの),および宅 地額についてもデータが公開されているので,そ れらの項目別についてもそれぞれ貧富比率を算出 し,図中にプロットして比較した。  まず,図5から目に付くのは,全国平均,東京都, 沖縄県とも純資産格差が1994年以降,急落してい ることであり,これは1990年代のバブル崩壊現象 を示していると考えられる。特に,沖縄県は1994 年の118.8から2014年の20.8まで落ち込みが激しい が,東京都は純資産の格差がそれほどの大きな低 下を示していない。  次に,資産項目別では,宅地資産の格差が全国,

5

0.0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0~0.1 0.1~0.2 0.2~0.3 0.3~0.4 0.4~0.5 0.5~0.6 0.6~0.7 0.7~0.8 0.8~0.9 0.9~1.0

世帯数率

資産額率

東京

沖縄

4 東京都と沖縄県の世帯数階級別の資産額率の分布(2014 年)

これらの

3 指数に対して,資産の上位 10%の富

裕層が保有する資産と下位

10%の貧困層が保有す

る資産の比率を示す貧富比率は,沖縄県では資産

額上位

10%の富裕層の保有率は51%ときわめて高

いが,下位

10%の貧困層の保有率が 2.5%である

(図

4)ため,貧富比率は 21.4 となり,全国一の

低さとなる(図

2)。一方,東京都は上位 10%の富

裕層の保有率は

44%と高いが,全体的な平等度の

高さのために下位

10%の貧困層の保有率は 0.3%

しかない。その結果,貧富比率は

167.1 となり,

全国一の高さとなる(図

2)。

3.3 最適な資産格差指数の選定

以上ではジニ係数,

Piketty 指数,Murtin 指数,

貧富比率の

4 種を用いて各都道府県の資産格差を

検証してきたが,その中で資産格差を最適に示す

指数を選定してみる。

4 種の指数の内ではジニ係

数,

Piketty 指数,Murtin 指数の 3 指数と貧富比率

では都道府県別の傾向が明確に異なることが判明

した。

特に,図

2 のように,沖縄県では 3 指数の数値

が際立って高く,資産格差が最大であることを示

しているが,貧富比率は沖縄県が最小で,格差が

最小と,正反対の結論が得られた。では,これら

の指数の中で資産格差を示す最適の指数はどれで

あろうか。

本稿では,ジニ係数,

Piketty 指数,Murtin 指数

3 指数が沖縄県において最大値を示すのは資産

格差を適正に示してなく,またその中でも,先行

研究で多く用いられているジニ係数は都道府県間

の差が小さく,格差を捉えにくいと判断した。そ

れに対し,貧富比率は東京都で最大値を,沖縄県

において最小値を示し,さらに,埼玉,神奈川,

大阪,京都などの大都市府県で大きな数値を示し

ていることは我々の常識に合致していると判断し

た。そこで,都道府県別の資産格差を示す最適の

指数として貧富比率を選定した。

3.4 貧富比率に基づく資産格差の推移

1994 年~2014 年の全国消費実態調査の資産額

階級別世帯数のデータを用い,全国平均,東京都,

および沖縄県について算出した貧富比率を図

5 に

示す。その際,純資産だけでなく,貯蓄額,純貯

蓄額(貯蓄から負債を差引いたもの),および宅地

額についてもデータが公開されているので,それ

らの項目別についても貧富比率を算出した。

図 4 東京都と沖縄県の世帯数階級別の資産額率の分布(2014 年)

(7)

『現代社会研究』15号 ― 30 ―

6

0 50 100 150 200 1990 1995 2000 2005 2010 2015 貧富比率

純資産

貯蓄

純貯蓄

宅地

0 50 100 150 200 250 1990 1995 2000 2005 2010 2015 貧富 比率 0 50 100 150 1990 1995 2000 2005 2010 2015 貧富 比率

5 全国平均,東京都,および沖縄県の資産項目別貧富比率の推移

(純貯蓄:貯蓄から負債を差引いたもの)

全国平均

沖縄県

東京都

図 5 全国平均,東京都,および沖縄県の資産項目別貧富比率の推移 (純貯蓄:貯蓄から負債を差引いたもの)

(8)

各都道府県の資産格差指数の妥当性の検証 ― 31 ― 東京都,沖縄県とも小さいことであり,特に,東 京都の宅地資産格差が沖縄県より低いことが目に 付く。さらに,年次推移を見ると,宅地資産の格 差は全国,東京都,沖縄県とも大きな変化は見ら れず,バブル全盛時代の地価高騰とその後の急落 を反映していないように思われる。この点につい ては1994年以前の都道府県別・資産項目別・資産 額階級別の世帯数データを用いた検証が必要であ るが,現時点では全国消費実態調査を含め,この 種のデータは公開されていないので,今後の検証 を待ちたい。 4 結 論  本稿では47都道府県について政府統計の資産分 布データを用いて,特に富裕層と貧困層の資産格 差を表す幾つかの指標を計算し,それらの妥当性 を検証した。その結果,先行研究で多く用いられ てきたジニ係数は資産格差の指数としては適切で なく,資産の上位10%の富裕層と下位10%の貧困 層の資産額の比率を示す貧富比率の方が国内資産 の地域格差を最も適切に表す指数であることを見 出した。  今後の課題としては,バブル全盛時代の地価高 騰と崩壊後の急落を実証するために,1994年以前 の都道府県別・資産項目別・資産額階級別の世帯 数データを用いた検証が必要である。また,本稿 では,資産の地域格差に関する実証研究の第一弾 として,都道府県別の集計データを用いた解析を 行ったが,今後は,資産格差の実態をより精密に 検証するために,オーダーメード集計や匿名化ミ クロデータ提供等の制度を利用し,個票データを 活用する実証研究が必要である。 引用文献:

1)OXFAM, “Wealth Having it All and Wanting More,” https:// www.oxfam.org/sites/www.oxfam.org/files/file_attach-ments/ib-wealth-having-all-wanting-more-190115-en.pdf, (2015).

2)Piketty, T. “Le Capital au XXIe siècle,” Seuil (2013); Piketty, T. “Capital in the Twenty-first Century,” Belknap Press (2014); トマ ピケティ(著)・山形浩生(訳)・守岡桜(訳)・

森本正史(訳)『21世紀の資本』みすず書房(2014). 3)Murtin, F. and d’Ercole, M. M. “Household wealth

inequali-ty across OECD countries: new OECD evidence,” OECD Statistics Brief, http://www. oecd.org/std/household-wealth-inequality-across-OECD-countries-OECDSB21.pdf (2015). 4)高山憲之,舟岡史雄,大竹文雄,関口昌彦,澁谷時幸「日 本の家計資産と貯蓄率」『経済分析』,116号,1-93頁 (1989). 5)高山憲之,舟岡史雄,大竹文雄,関口昌彦,澁谷時幸, 上野大,久保克行「家計資産保有額の年次推移と家計 貯蓄率の2時点間比較」『経済分析』,118号,75-121頁 (1990). 6)下野恵子『資産格差の経済分析-ライフ・サイクル貯蓄 と遺産・贈与』名古屋大学出版会 (1991). 7)高山憲之『ストック・エコノミー―資産形成と貯蓄・年 金の経済分析』東洋経済新報社 (1992). 8)松浦克己「日本の職業別,年齢階層別にみた所得,資産 の分布-80年代後半の不平等度の動き」『日本経済研 究』,24号,97-115頁 (1993). 9)大竹文雄「1980年代の所得・資産分配」“The Economic Studies Quarterly” 45巻,5号,385-402頁 (1994). 10)高山憲之,有田富美子「第2章 家計資産の分配とその 変遷」石川経夫編『日本の所得と富の分配』東大出版 会 (1994). 11)高山憲之,有田富美子「第1章 家計資産の分配とその 変遷」『貯蓄と資産形成:家計資産のマイクロデータ 分析』岩波書店 (1996). 12)浜田浩児「SNA家計勘定の分布統計の推計」“ESRI Dis-cussion Paper Series” 20号,1-136頁 (2002).

13)太田清「第2章 日本における資産格差」樋口美雄,財 務省財務総合政策研究所編著『日本の所得格差と社会 階層』日本評論社 (2003). 14)浜田宏,石田淳「不平等社会と機会の均等-機会格差 調整後の不平等度測定法」『社会学評論』,54巻,3号, 232-249頁 (2003). 15)大竹文雄『日本の不平等 第1章 所得格差は拡大したの か』日本経済新聞社 (2005). 16)浜田浩児「1990年代におけるSNAベースの所得・資産 分 布 」“ESRI discussion paper series” 129 号,1-71 頁 (2005).

17)小原美紀,大竹文雄「失業の増加と不平等の拡大」『日 本経済研究』,55号,22-42頁 (2006).

(9)

『現代社会研究』15号

― 32 ― 18)小池拓自「家計資産の現状とその格差」『レファレンス』

57巻,11号,67-84頁 (2007).

19)山田知明「動学的一般均衡モデルと資産格差」“Hi-Stat Discussion Paper Series” 249号,1-39頁 (2008).

20)稲葉由之「家計資産格差の推移」『統計』,60巻9号, 14-19頁 (2009). 21)小池拓自「家計の保有するリスク資産-「貯蓄から投 資へ」再考-」『レファレンス』,59巻,9号,59-78頁 (2009). 22)四方理人「第8章 日本の資産格差-JHPSとルクセンブ ルク資産調査による国際比較」樋口美雄,宮内環,コ リン・マッケンジー編『教育・健康と貧困のダイナミ ズム:所得格差に与える税社会保障制度の効果』,慶 應義塾大学出版会 (2011). 23)浜田浩児「2009年SNA分布統計の推計-2000年代後半 における国民経済計算ベースの所得・資産分布-」『季 刊国民経済計算』,14号,1-60頁 (2012). 24)岩本光一郎,新関剛史,濱秋純哉,堀雅博,前田佐恵子, 村田啓子「『家計調査』個票をベースとした世帯保有 資産額の推計—推計手順と例示的図表によるデータ紹 介—」『経済分析』189号,63-95頁 (2015). 25)後藤元之「高齢化と地域間資産格差」『経済セミナー』, 481号,112-117頁 (1995). 26)安藤浩一「地域別の所得格差・資産格差」『RPレビュー』, 2号,87-89頁 (2007). 27)宮本佐知子「富裕層の実像を探る」『資本市場クォータ リー』,11巻,2号,218-229頁 (2007). 28)竹澤康子「データ分析:地域間格差と地域金融」『東洋 大学経済論集』,35巻,2号,209-220頁 (2010). 29)稲葉陽二「なぜ社会関係資本なのか」『新情報』,99号, 1-9頁 (2011).

参照

関連したドキュメント

文献資料リポジトリとの連携および横断検索の 実現である.複数の機関に分散している多様な

◼ 自社で営む事業が複数ある場合は、経済的指標 (※1) や区分計測 (※2)

CIとDIは共通の指標を採用しており、採用系列数は先行指数 11、一致指数 10、遅行指数9 の 30 系列である(2017

繰延税金資産は、「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第26

収益認識会計基準等を適用したため、前連結会計年度の連結貸借対照表において、「流動資産」に表示してい

LF/HF の変化である。本研究で はキャンプの日数が経過するほど 快眠度指数が上昇し、1日目と4 日目を比較すると 9.3 点の差があ った。

2 号機の RCIC の直流電源喪失時の挙動に関する課題、 2 号機-1 及び 2 号機-2 について検討を実施した。 (添付資料 2-4 参照). その結果、

企業会計審議会による「固定資産の減損に係る会計基準」の対象となる。減損の兆 候が認められる場合は、