第14号
2014
個別論文
個別論文
スマートフォンの
トラフィックオフロード計測と分析
永見 健一
概要
スマートフォンは、携帯端末として利用者の増加しており、今後も利用者の増加が見込まれる。これにより、携帯
網(3G/LTE)へのトラフィック量も増加しており、携帯網の無線部分が混雑する。携帯網のトラフィックを削減する
ため、Wi-Fi (Wireless Fidelity)へのトラフィックオフロード(トラフィック分散)を携帯事業者等が提供している。
本論文では、スマートフォンの通信環境の現状調査のため開発した計測用スマートフォンアプリケーションを利用
し、2013年3月に1500人のモニタが2週間利用したときの計測結果を報告する。スマートフォンのトラフィック量オ
フロード率は、夕方から深夜は、50%〜70%程度であり、昼間のオフロード率は、30%〜50%程度である。ユー
ザ1人の1日あたりのダウンロードトラフィック量は、90MBであり、トラフィックオフロード量は、50MBである。ス
マートフォンの通信品質を計測し、ユーザに使いやすいサービスの提供のために活用する。
1. 背景
近年、日本のブロードバンドサービスの契約者数 [1] は、 約6000万契約となり、国内の多くのユーザが利用している。 また、高速に利用できる FTTH (Fiber To The Home) のユー ザはこの40% 近くで、国内では、より高速なブロードバンド 環境が普及している。 総務 省のトラフィック調査[2][3]によると、図1のように 2012年11月の日本の固定網のブロードバンドユーザの総トラ フィック量は、約2Tbpsである。また、1年間の伸び率も図2の ように1.2倍であり、ここ数年、日本の総トラフィック量は増加 している。 また、スマートフォンをはじめとする携帯端末が利用する携 帯網のトラフィック量も増加している。2012年12月の総トラ フィック量は、0.3Tbpsを超えており、1年間の伸び率は約2倍 である。 総務省の「平成24年通信利用動向調査」[4]によれば、図3 で示すように、スマートフォンの保有率は、2010年末は9.7%、 2011年末は29.3%、2012年は49.5%になり急速に普及してい る。今後もこの傾向は続くと予想され、スマートフォンの保有 率は増加し、スマートフォンのトラフィック量も増加すると予想 される。個別論文
スマートフォンが利用する携帯網(3G/LTE)の受信速度は、 最大75Mbpsであり、今後も増加していくと考えられる。最大 速度が増加し、スマートフォンユーザも固定網のブロードバン ドユーザと同様にコンテンツを閲覧できる環境が整ってきた。 しかしながら、この最大速度は、理論上の最大値を示してお り、実質上の速度ではない。また、総トラフィック量による速 度制限があるため、トラフィック量が多いユーザは、利用速度 が遅くなる可能性がある。 スマートフォンは、図4のように3GやLTEなどの携帯網への 接続だけではなく、Wi-Fiへも接続することができ、Wi-Fiへト ラフィックをオフロードすることにより、通信環境の品質向上 を目指している。 我々は、スマートフォントラフィックの現状を把握するため、 複数のスマートフォンに計測用アプリケーションを導入し、携 帯網へのトラフィック量とWi-Fiへのトラフィック量等の調査 を行った。 初期調査は2012年5月に実施した。Androidスマートフォンを 利用して、休日と平日の2日間、トラフィック動向調査を実施し た。この結果は、インターネット計測の代表的な国際学会であ るPAM(Passive and Active Measurement Conference) において「A Measurement of Mobile Traffic Offloading」 [5]として報告した。本論文では、2013年3月の調査結果の一 部を報告する。サンプル数を増やして精度を上げるため、2012 年の調査に比較して、調査期間を延長し、端末数を増加して調 査した。 2000 1500 1000 500 0 総トラフィック量[ G b ps ] 2008 年12 月 2009 年6月 2009 年12 月 2010 年6月 2010 年12 月 2011 年6月 2011 年12 月 2012 年6月 2012 年12 月 固定網 携帯網 2.5 2 1.5 1 0.5 0 トラフィック伸び率[前年比] 2008 年12 月 2009 年6月 2009 年12 月 2010 年6月 2010 年12 月 2011 年6月 2011 年12 月 2012 年6月 2012 年12 月 固定網 携帯網 保有率[%] 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 100 80 60 40 20 0 固定電話 パソコン 携帯電話 スマートフォン タブレット LTE Wi-Fi スマホ プロバイダ インターネット 携帯網 図2 日本のトラフィック伸び率 図1 日本の総トラフィック量 図3 スマートフォンの保有率 図4 携帯網と Wi-Fi 網第14号
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2. 計測システム概要
本章では、計測システムの概要と計測データの概要を説明 する。2.1. 計測システム
計測用のスマートフォンアプリケーションとしてAndroid用 及びiPhone用を開発した。本アプリケーションは、携帯網及び Internet サーバ 3G/LTE Wi-Fi スマホ アプリ データの アップロード 図6 トラフィック量(3G/LTE と Wi-Fi) 図5 計測システム Wi-Fiのネットワークインターフェイスの転送パケット数及びバ イト数、バッテリ状態等を10分毎にサーバにアップロードする。 なお、個人情報は取得しない。このシステムの全体図を図 5に 示す。 ユーザが計測用のアプリケーションを気にすることなく、普段 通りにスマートフォンを利用できるようにアプリケーションは、 バックグランドで起動するように作成した。これによって、一般 的なユーザの通常のネットワーク利用状況を把握することがで きる。2.2. 計測データ
2013年3月の2週間、インターネットアンケートモニタとし て登録している首都圏の800名のAndroidユーザ、700名の iPhoneユーザに参加いただいた。モニタには、本アプリケー ションの目的とデータがサーバにアップロードされることを説 明して、承諾を得て利用していただいた。モニタは、本アプリ ケーションをインストールし、通常と同じようにスマートフォン を利用する。本アプリケーションがネットワークの利用状況を 10分毎に自動的に取得し、サーバにアップロードした。個別論文
3. 分析結果
本章では、計測データの分析結果を説明する。3.1. Wi-Fiオフロードトラフィック
図6は、スマートフォンへの受信トラフィック量を示している。送 信トラフィックも似たような傾向を示しているが、分かりやすくす るために省略している。このデータは、計測データを1時間毎に 通信回線毎(3G/LTE, Wi-Fi)に分離して集計した。横軸は、日付 を表しており、日付が書かれている補助線は、夜中0時を示して いる。縦軸は、1時間の携帯網及び W i - F i 別の総トラフィック量 を示している。 Wi-Fiのトラフィックは、夕方から深夜及び朝が多い。昼間はト ラフィック量が少なく、Wi-Fiは、あまり使われていない。これは、 家にいるときにWi-Fiを利用し、外出先では、Wi-Fiをあまり利用し ていないと考えられる。 携帯網のトラフィックは、朝、昼、夕方にピークがあり、早朝を除 き、トラフィック量が多い。これは、通勤時間、昼休み時間、帰宅時 間から帰宅後に多くのユーザが利用していると考えられる。 図8 Wi-Fi 利用のアンケート結果 わからない 3.7% 利用しない 25.9% 利用する 70.4% わからない 6.1% 利用しない 48.9% 利用する 44.9% [Q]あなたは自宅で 無線 LAN を利用しますか。 [Q]あなたは外出先で 無線 LAN を利用しますか。 図7は、Wi-Fiのトラフィック量を総トラフィック量で割ったオフ ロード率を示している。夕方から深夜のオフロード率は、50%~ 70%程度であり、昼間のオフロード率は、30%~50%程度で あった。 図8は、今回の調査に協力いただいたモニタの方のアンケート 結果である。自宅でWi-Fiを利用する人は、70.4%であり、外出先 でWi-Fiを利用する人は、44.9%である。アンケート結果とアプリ ケーションで自動取得したデータの傾向が一致していることが分 かる。 図7 オフロード率第14号
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4. 今後の展開
本論文では、スマートフォンアプリケーションを利用して、ス マートフォンのトラフィック利用状況を取得し、その分析結果を 紹介した。今後、スマートフォンやタブレットを利用するユーザ3.2. バッテリの利用状況
図9は、スマートフォンのバッテリの利用状況を示すグラフで ある。横軸は、日付であり、縦軸は、バッテリの利用状況の割合 を示している。バッテリの利用状況は、充電中(Charging)、充 電済(Full)、放電中(Discharging)の3種類である。 バッテリの利用状況は、3月11日(月)~15日(金)の平日と、 16日(土)・17日(日)の休日であまり変わりはない。 早朝までに充電済になるスマートフォンが約40%、昼間は、 80%のスマートフォンがバッテリでの利用である。このパターン が平日・休日の違いはなく、毎日繰り返されている。 図9 バッテリ利用状況 が増加し、利用場所によって、LTEやWi-Fi などの様々な通信回 線を利用することになると考える。 また、通信回線の高速化により、固定網のブロードバンドユー ザと同じようにリッチなコンテンツを利用することができるよう になると予想される。 スマートフォンユーザが快適にコンテンツを利用するために は、そのときの通信環境によって送信コンテンツを変化させて いく必要がある。これを実現するために、スマートフォンの通信 環境を把握する必要がある。 本論文では、スマートフォンからのトラフィック量に関して紹 介した。同様の仕組みで、実効速度や遅延や接続性等の利用者 の通信環境を把握することができる[6]。 この技術によって、今後、ますます利用されるスマートフォン の通信環境を把握し、利用者に使いやすい新サービスを提供す るために活用する。個別論文
参考文献 [1] 総務省:ブロードバンドサービス等の契約数の推移【平成25年3 月末現在】,総務省,(2013) http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/new/ [2] 総務省:我が国のインターネットにおけるトラヒックの集計・試算 (2012年11月時点の集計結果の公表),総務省,(2013) http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban04_ 02000049.html [3] 総務省:我が国の移動通信トラヒックの現状(平成25年6月分), 総務省,(2013) http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/field/tsuushin06. html [4] 総務省:平成24年通信利用動向調査の結果,総務省,(2013) http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/ data/130614_1.pdf[5] K.Fukuda, K.Nagami:"A Measurement of Mobile Traffic Offloading",Lecture Notes in Computer Science, Vol.7799,pp.73-82,Passive and Active Measurement,(2013) [6] K.Nagami, S.Kamei, K.Koita, T.Jitsuzumi, I.Mizukoshi: "Use Case from a measurement provider perspective for LMAP",IETF,(2013) http://www.ietf.org/proceedings/87/slides/slides-87- lmap-5.pdf