顔と声による情動認知と他の認知課題との関連
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(2) 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG TechnicalReport. 覚情報である音声感情は欧米人よりも日本人に重視さ. Vol.2016-MUS-113 No.8 2016/10/14. っ た . 喜 び (M=777.1ms, SD=88.5) と 怒 り (M=767.4ms,. れ や す い こ と が 示 さ れ て い る [2,3]. ま た , こ の 文 化 差. SD=95.7)の 発 話 刺 激 が 組 み 合 わ さ れ た , 表 情 と 音 声 感. は 5-6 歳 の 幼 少 期 で は 見 ら れ ず , 児 童 期 に お い て 日 本. 情 が 矛 盾 す る 不 一 致 刺 激 も 使 用 し た .し た が っ て 計 32. 人が徐々に音声感情を重視する傾向を強めていくとい. 個 の 発 話 刺 激( 2( 話 者 )×4( セ リ フ )×4( 表 情 と 音. う 発 達 的 変 化 も 報 告 さ れ て い る [4].. 声 の 組 み 合 わ せ:2 感 情 一 致 ×2 感 情 不 一 致 ))が あ っ. 音声を手がかりとした情動認知に ついては,表情の. た.この他,練習用として「あれどうなったの」とい. みを手がかりとした感情判断に比べ,難易度が高いこ. うセリフに,表情と音声感情がどちらも喜び,あるい. と が 明 ら か と な っ て い る [5].ま た ,発 達 的 変 化 が み ら. は怒りの感情を付与して発話した 2 個の動画を用いた.. れることも報告されており,音声からの感情識別能力. 課題 2. は 児 童 期 の 間 向 上 し 続 け る こ と が 示 さ れ て い る [6].こ. 記録された音声刺激を使用した.音声は,ポジティブ. 男女の日本語話者が発話した感情的な発話が. の音声による情動認知でも,言語情報(ことばの字義. な言語内容のセリフ(「いいよ」「上手だね」「優し. 的な意味)とパラ言語情報(言い方)という複数の情. いね」「楽しいね」)と,ネガティブな言語内容のセ. 報を手がかりとして発話者の感情を判断する場合があ. リ フ(「 が っ か り だ よ 」「 だ め だ よ 」「 下 手 だ ね 」「 つ. り,これらの情報に対する重みづけは, 言語情報から. まらないね」)が,ポジティブまたはネガティブな言. パラ言語情報に重きをおくよう年齢に伴い徐々に変化. い 方 で そ れ ぞ れ 発 話 さ れ て い た .し た が っ て 計 16 種 類. す る こ と が 示 さ れ て い る [7,8]. こ れ に 加 え , 日 本 人 は. の刺激があった.. 欧米人と比較してパラ言語情報をより重視する傾向に あ る と い う 文 化 差 の 存 在 も 明 ら か と な っ て い る [9]. 顔と声による情動認知と,言語情報とパラ言語情報. 2.3. 手 続 き 課題 1. 実験は日本科学未来館の実験工房にて実施し. による情動認知の 2 つの認知課題は,発話者の感情を. た.各実験参加者はパーティションで仕切られた個別. 判断する際に複数の情報を手がかりとするという点で. ス ペ ー ス に 設 置 さ れ た PC の 正 面 に 着 席 し , 課 題 に 取. 共通している.しかしながら,これまでにこの関連性. り 組 ん だ .各 試 行 で は ,注 視 点( + 記 号 )と 合 図 音 (440Hz. については検討されておらず,各課題における発達的. の 純 音 )が 同 時 に 呈 示 さ れ た 後 ,動 画 刺 激 が モ ニ タ お よ. 変化の過程も比較されていない.. びヘッドホンからランダムに呈示された.動画は,黒. そこで,本研究では上記の問題を検討することを目. い 背 景 の デ ィ ス プ レ イ ( 15.6 イ ン チ ) の 中 央 に 640×. 的 と し ,先 行 研 究 [2]で 用 い ら れ た 刺 激 と 手 続 き が 類 似. 480 ピ ク セ ル の 大 き さ で 呈 示 さ れ , 再 生 後 に は た だ ち. し た 実 験 ( 課 題 1) と , 言 語 情 報 と パ ラ 言 語 情 報 の 複. にブランク画面が呈示された.音声は快適レベルの音. 数の情報を手がかりとして発話者の感情を判断する 実. 圧 で ヘ ッ ド ホ ン ( SENNHEISER HDA300) か ら 呈 示 さ. 験 ( 課 題 2) を , 日 本 人 の 児 童 期 に あ る 子 ど も お よ び. れた.実験参加者には,1 試行ごとに刺激の話者の感. 大人を対象に実施した.. 情が喜びか怒りかのどちらか判断し, ブランク画面呈. 2. 実 験. 回答するよう教示した.なお,判断の際に表情と音声. 2.1. 方 法. 感情のどちらに注目するかは指定せず,実験参加者の. 示 時 に PC( DELL Latitude3540) の キ ー 押 し に よ っ て. 子 ど も の 参 加 者 と し て ,日 本 語 を 母 語 と す る 5-12 歳. 感じたままに判断するよう指示した.回答キーの配置. 児 ( 5 歳 16 名 , 6 歳 27 名 , 7 歳 42 名 , 8 歳 50 名 , 9. は実験参加者間でランダムに振り分けた.各刺激は再. 歳 49 名 , 10 歳 46 名 , 11 歳 27 名 , 12 歳 10 名 ) が 参. 生が終了するまでキー押しができないようにあらかじ. 加した.また,成人の参加者として,日本語を母語と. め設定されていたため,実験参加者は必ず各発話を最. す る 30 歳 か ら 73 歳 ま で の 173 名 が 参 加 し ,こ の う ち ,. 後 ま で 視 聴 し た .実 験 は 計 34 試 行( 練 習 試 行 2 試 行 +. 30 歳 か ら 39 歳 ま で の 62 名 ( 平 均 36.1 歳 ) を 分 析 対. 本 試 行 32 試 行 ) で , 所 要 時 間 は 4-5 分 程 度 だ っ た .. 象とした.. 課題 2. 課題 1 と同じ空間にて,必ず課題 1 の後に実. 施 さ れ た .各 試 行 で は ,注 視 点( + 記 号 )と 合 図 音 (440Hz. 2.2. 刺 激. の 純 音 )が 同 時 に 呈 示 さ れ た 後 ,音 声 刺 激 が ヘ ッ ド ホ ン. 先 行 研 究 [2]で 使 用 さ れ た 日 本 語 話 者 の 感 情 的. ( SENNHEISER HDA300) か ら 快 適 レ ベ ル の 音 圧 で 呈. な発話が記録された視聴覚刺激を,顔にノイズをかけ. 示された.実験参加者には,1 試行ごとに刺激の話者. ない状態で使用した.日本人女性 2 名によって,4 種. の感情が「楽しそう」か「嫌そう」かのどちらか判断. の 中 立 的 な 意 味 の セ リ フ(「 さ よ う な ら 」「 こ れ な に 」. し ,PC( DELL Latitude3540)の キ ー 押 し に よ っ て 回 答. 「そうなんですか」「あれどうなったの」)が発話さ. するよう教示した.判断の際に言語内容と言い方のど. れた.セリフに付与された感情は喜びまたは怒りであ. ちらに注目するかは指定せず,実験参加者の感じたま. 課題 1. ©2016 Information Processing Society of Japan.
(3) 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG TechnicalReport. Vol.2016-MUS-113 No.8 2016/10/14. まに判断するよう指示した.回答キーの配置は実験参. 法 )の 結 果 を Figure 1 に 示 す . な お , 本 研 究 で は 9-12. 加者間でランダムに振り分けた.なお,各刺激は再生. 歳群よりも大人群における声選択率が低かった.この. が終了するまでキー押しができないようにあらかじめ. た め ,先 行 研 究 [4]で 得 ら れ た 大 学 生( 平 均 21.1 歳 )の. 設定されていたため,実験参加者は必ず各発話を最後. 結 果 も 参 考 の た め に 併 せ て Figure 1 に 示 し た . 5-8 歳. ま で 聴 い て い た .実 験 は 計 32 試 行 で ,試 行 順 序 は ラ ン. 群 の 声 選 択 率 を 9-12 歳 群 と 比 較 す る と ,怒 り 顔 + 喜 び. ダ ム で あ っ た . 所 要 時 間 は 4-5 分 程 度 だ っ た .. 声では有意な差異はみられなかったが, 喜び顔+怒り 声 で は 9-12 歳 群 の 方 が 有 意 に 大 き か っ た .こ の こ と か ら,表情と音声の組み合わせによって ,発達的変化の. 3. 結 果 課題 1. 実験参加者ごとに,感情一致刺激に対する課. 時期や様相が異なることが示唆された.. 題の正答率と,感情不一致刺激に対して刺激話者の音 声感情を選択した割合を,感情の組み合わせ別に算出. 60. した.なお,感情一致刺激に対する正答率は,表情を 手がかりとした判断でも,音声を手がかりとした判断 でも回答が同一であるため,本研究では刺激への反応. 声 選 択 率 を 算 出 し た (Table.1). 感 情 一 致 刺 激 に 対 す る 正 答 率 が 5-8 歳 群 に お い て す で に 95%以 上 と な っ て い. *** 5-8歳. ***. 9-12歳. % 20. 大人. ). 年 齢 群 ( 5-8 歳 , 9-12 歳 , 大 人 ) に 分 け , 各 群 の 平 均. 声 40 選 択 30 率. (. を「声選択率」に統一した.その後,実験参加者を 3. *** *** **. 50. 大学生(Kawahara,2016). 10 0. ること,また,本研究の関心は複数の手がかりに対す. 怒り顔+喜び声. 喜び顔+怒り声. 刺激. る重みづけの発達的変化にあることから,以下の分析. Figure 1. 感 情 の 組 み 合 わ せ ご と の 声 選 択 率 の 発 達 的 変 化 .. では不一致刺激に着目する.. ( エ ラ ー バ ー は 標 準 誤 差 を 示 す .***p <.001, **p <.001) Table 1. 各 年 齢 群 に お け る 平 均 声 選 択 率 .. 課題 2. (括弧内は標準誤差を示す). 刺激 怒り表情 怒り音声(一致) 喜び音声(不一致) 喜び表情 怒り音声(不一致) 喜び音声(一致). 実験参加者ごとに言語内容とパラ言語情報が. 一致している刺激に対する課題の正答率と,矛盾して. 5-8歳. 年齢群 9-12歳. 96.2(0.8) 17.1(2.1). 98.7(0.4) 22.3(2.3). 大人. いる刺激に対して刺激話者のパラ言語情報が示す感情 を選択した割合を,感情の組み合わせ別に算出した.. 99.3(0.2) 6.7(1.2). なお,一致刺激に対する正答率は,言語内容を手がか りとした判断でも,パラ言語情報を手がかりとした判 断でも回答が同一であるため,本研究では刺激への反. 21.7(1.8) 95.8(0.8). 33.1(1.9) 94.2(0.8). 応を「パラ言語選択率」に統一した. その後,実験参. (単位:%). 言 語 選 択 率 を 算 出 し た (Table 2). 一 致 刺 激 に 対 す る 正. 42.0(2.6) 94.6(0.9). 加 者 の 年 齢 群 別 ( 5-8 歳 , 9-12 歳 , 大 人 ) に 平 均 パ ラ 答 率 は 5-8 歳 群 に お い て す で に 95%以 上 と な っ て い る. 声選択率に年齢による差異が見られるかどうか検. こと,また,本研究の関心は複数の手がかりに対する. 討 す る た め , 2( 感 情 の 組 み 合 わ せ ) ×3( 年 齢 群 ) の. 重みづけの発達的変化にあることから,以下の分析 で. 分散分析を実施したところ,感情の組み合わせの主効. は不一致刺激に着目する.. 果 が み ら れ (F(1, 442)=173.25, p<.001)), 喜 び 顔 が 怒 り 声 と と も に 呈 示 さ れ た と き (32.3%)の 方 が ,怒 り 顔 が 喜 び 声 と と も に 呈 示 さ れ た と き (15.4%) よ り も 声 選 択 率 が 高 い こ と が 示 さ れ た . 年 齢 群 の 主 効 果 (F(2, 442)=18.61, p<.001)も 有 意 で あ り ,年 齢 群 に よ る 差 異 が み ら れ た . ま た , 感 情 の 組 み 合 わ せ ×年 齢 群 の 交 互 作 用 も み ら れ た た め (F(2, 442)=25.89, p<.001), 単 純 主 効 果の検定を実施した.その結果,どちらの感情の組み 合わせにおいても年齢群による差異が有意であった (怒 り 顔 + 喜 び 声 : F(2, 442)=20.21, p<.001;喜 び 顔 + 怒 り 声 : F(2, 442)=21.43, p<.001). 多 重 比 較 (Bonferroni. ©2016 Information Processing Society of Japan. Table 2. 各 年 齢 群 に お け る パ ラ 言 語 情 報 選 択 率 (括弧内は標準誤差を示す). 5-8歳. 年齢群 9-12歳. 言い方ネガティブ 内容ネガティブ(一致) 内容ポジティブ(不一致). 96.1(0.7) 82.6(1.9). 95.9(0.9) 91.7(1.3). 98.7(0.4) 93.3(1.0). 言い方ポジティブ 内容ネガティブ(不一致) 内容ポジティブ(一致). 56.3(2.9) 95.0(1.0). 71.5(2.5) 94.9(1.0). 79.8(1.6) 97.1(0.5). 刺激. 大人. (単位:%).
(4) 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG TechnicalReport. Vol.2016-MUS-113 No.8 2016/10/14. パラ言語情報選択率に年齢による差異が見られるか. では有意な相関はみられなかった.しかし, 大人群で. ど う か 検 討 す る た め , 2( 感 情 の 組 み 合 わ せ ) ×3( 年. は,課題 1 における「喜び顔+怒り声」に対する声選. 齢群)の分散分析を実施した.その結果,感情の組み. 択率と課題 2 における「言い方ポジティブ+内容ネガ. 合 わ せ の 主 効 果 が 有 意 で あ り (F(1,442)=226.92,. ティブ」に対するパラ言語情報選択率との間に 弱い負. p<.001)), ポ ジ テ ィ ブ な 言 語 内 容 が ネ ガ テ ィ ブ な 言 い. の 相 関 が ( r= -.31, p<.05) み ら れ た .. 方 で 発 話 さ れ た と き (89.2%)の 方 が ,ネ ガ テ ィ ブ な 言 語 内 容 が ポ ジ テ ィ ブ な 言 い 方 で 発 話 さ れ た と き (69.2%). Table 3. 5-8 歳 群 に お け る 課 題 間 の 相 関. よりもパラ言語情報選択率が高いことが示された. 年. 内容ポジティブ +言い方ネガティブ. 内容ネガティブ +言い方ポジティブ. 怒り表情+喜び音声. 0.00. 0.09. 喜び表情+怒り音声. 0.03. 0.12. 齢 の 主 効 果 (F(2, 442)=33.97, p<.001)も み ら れ , 年 齢 に 伴い徐々にパラ言語情報をより重視するよう変化する ことが示された. ま た , 感 情 の 組 み 合 わ せ ×年 齢 の 交 互 作 用 も み ら れ た た め (F(2, 442)=8.28, p<.001),下 位 検 定 を 実 施 し た と ころ,どちらの感情の組み合わせにおいても年齢の単. Table 4. 9-12 歳 群 に お け る 課 題 間 の 相 関. 純 主 効 果 が み ら れ た (内 容 ポ ジ テ ィ ブ + 言 い 方 ネ ガ テ. 内容ポジティブ +言い方ネガティブ. 内容ネガティブ +言い方ポジティブ. 怒り表情+喜び音声. -0.04. -0.08. 喜び表情+怒り音声. 0.12. 0.11. ィ ブ : F(2, 442)=17.46, p<.001; 内 容 ネ ガ テ ィ ブ + 言 い 方 ポ ジ テ ィ ブ:F(2, 442)=27.16, p<.001).し か し ,ポ ジ ティブな言語内容がネガティブな言い方で発話された 刺 激 に 対 す る パ ラ 言 語 情 報 選 択 率 は 9-12 歳 群 と 大 人 群の間に有意な差異がみられなかったのに対し ,ネガ ティブな言語内容がポジティブな言い方で発話された. Table 5.大 人 群 に お け る 課 題 間 の 相 関. 刺 激 に 対 す る パ ラ 言 語 情 報 選 択 率 は 9-12 歳 群 と 大 人. 内容ポジティブ +言い方ネガティブ. 内容ネガティブ +言い方ポジティブ. 怒り表情+喜び音声. -0.05. -0.19. 喜び表情+怒り音声. 0.05. -0.31*. 群の間でも有意な差異がみられた.このことから,言 語内容と言い方の組み合わせによって発達的変化の時 期 や 様 相 が 異 な る こ と が 示 唆 さ れ た (Figure 2).. パ ラ 言 語 情 報 選 択 率 ( %. ). 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0. *P<.05. *** ***. ***. ***. *. 4. 考 察 5-8歳. 9-12歳 大人. 課題 1 では,顔と声による情動認知における情報の 重 み づ け の 発 達 的 変 化 に つ い て ,5-12 歳 の 子 ど も お よ び 大 人 を 対 象 に 検 討 し た . そ の 結 果 , 5-8 歳 か ら 9-12 歳にかけて声の表す感情を重視する割合が高くなるが, 大人では再び低くなることが示された.これに加え,. 内容ポジティブ + 言い方ネガティブ. 内容ネガティブ + 言い方ポジティブ 刺激. 表情と音声感情の組み合わせによって音声感情を重視 する程度が異なることも示され,怒り顔+喜び声の組 み合わせよりも,喜び顔+怒り声の組み合わせに対す. Figure 2. 各 感 情 の 組 み 合 わ せ に お け る パ ラ 言 語 情 報 声 選 択率の発達的変化. ( エ ラ ー バ ー は 標 準 誤 差 を 示 す . ***p < .001, *p<.05). る声選択率はより高く,児童期における変化も大きい ことが示された.児童期において,重視しやすい感情 情報を表情から音声感情へとシフトさせている点,さ らに,表情と音声感情の組み合わせによって重みづけ の 大 き さ が 異 な る 点 は 先 行 研 究 [4]の 結 果 と 一 致 す る .. 課題 1 と課題 2 の関連. 複数の情報を手がかりとした. 喜び顔とともに怒り声が表出される組み合わせは,怒. 情動認知において,どちらの情報を重視しやすいかと. りというネガティブな感情を笑顔によって隠蔽 してい. いう点で 2 つの課題間に関連があるか検討することを. る状態と捉えることができるだろう.日本人がネガテ. 目的とし,課題 1 における声選択率と課題 2 における. ィブな感情を顔に表出することを抑制する傾向にある. パラ言語情報選択率との相関係数を,年齢群ごとに算. と い う 先 行 研 究 [10]の 知 見 と も 合 致 し て い る こ と か ら ,. 出 し た (Table 3, 4, 5). そ の 結 果 , 5-8 歳 群 と 9-12 歳 群. 日本人はネガティブな感情を笑顔によって抑制する感. ©2016 Information Processing Society of Japan.
(5) 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG TechnicalReport. Vol.2016-MUS-113 No.8 2016/10/14. 情の表示規則と,笑顔で隠蔽されたネガティブな本心. って「いじめ」と受け取ってしまうことが中学生にな. を音声から読みとろうとする解読規則を持っていると. った以降も生じる可能性が示唆される.. 解釈することができる.また,この規則の習得は,他. 本研究では,複数の情報を手がかりとした情動認知. 者との関わりの中で経験的に蓄積されることによって. において,どちらの情報を重視しやすいかという点で. すすむことが推測される.. 2 つの課題間に関連があるかについても検討した.そ. し か し な が ら ,大 人 の 声 選 択 率 は 9-12 歳 よ り も 低 く. の結果,大人にのみ,課題 1 における「喜び顔+怒り. な っ て お り , こ れ は , 声 選 択 率 が 11-12 歳 よ り も 大 学. 声」に対する声選択率と課題 2 における「からかい」. 生 の 声 選 択 率 の 方 が 高 い と い う 先 行 研 究 [4] と 合 致 し. に対するパラ言語情報選択率との間に 負の相関がみら. ない結果である.このような差異が生じた要因として. れた.これは,笑顔であっても言い方に怒りが含まれ. は ,本 研 究 の 大 人 の 実 験 参 加 者 が 平 均 年 齢 36.1 歳 と 年. ていればその話者の感情を「怒り」と判断する という. 齢が高く,さらに今回の実験に参加した子どもの保護. ことと,言い方がポジティブであっても意味的な要素. 者であったという点で,先行研究の大学生の参加者と. を重視してその発話をネガティブなものとして捉える. 属性が異なっていたことが挙げられる.この点から,. ことに関連があることを示唆しており,ネガティブな. 声選択率が大人で低かったことについて 2 つの可能性. 感情を示す情報を重視するという点で共通している.. を指摘できる.第一に,成人後は一般的に,加齢に伴. 対人関係において相手のネガティブな感情を察知する. い重視する情報を音声感情から表情へと 再度変化させ. 傾向が強い者ほど,笑顔で隠しきれなかった怒りの感. る可能性が考えられる.第二に,子育て期にある大人. 情を音声から読み取り,からかいにも受け取れる発話. が一時的に情動認知様式を変化させ,児童期にある子. から言語内容のネガティブな要素を取り 出す傾向にあ. どもと合致した重みづけをするようになるという可能. るのかもしれない.しかしながら,今回みられた負の. 性も考えられる.子どもは表情を重視した感情判断を. 相関について「ネガティブな感情への敏感さ」で説明. 行いやすいため,子どもを相手とした感情コミュニケ. することができるのであれば,「怒り顔+喜び声」の. ーションを円滑なものにするためには,表情を手がか. 表現に対して表情を重視する傾向との関連もみられた. りとした感情の表出がなされることが必要であるだろ. はずである.これに加え,「内容ネガティブ+言い方. う.日常生活において子どもと頻繁に接する親がその. ポジティブ」の発話(つまり,皮肉音声)に対してネ. 必要性を無意識ながらも察知し,子どもに対する感情. ガティブな言い方を重視する傾向との関連も推測され. の表出方法を音声から表情に変化させ ,それに伴い,. るが,そのような結果は示されなかった.その要因と. 他者感情の判断様式も表情を重視したものに変化する. しては,個人差が見えにくいほど,ほとんどの大人が. のかもしれない.この可能性に関しては,今後様々な. 「怒り顔+喜び声」の表現に対しては表情を,皮肉 音. 属性の成人を対象に検討がなされることが必要である.. 声に対しては言い方を重視していたことが考えられる.. 課題 2 では,発話音声に含まれる言語情報とパラ言. 表情では怒りを示しながら声によって喜びを表出する. 語情報を手がかりとした情動認知における発達的変化. ことを自然に行うのは難しく,日本の表示規則および. を検討した.その結果,課題 1 と同様に年齢に伴った. 解読規則にも一致しにくい表現であるだろう.また,. 発達が見られ,児童期にかけてパラ言語情報を重視す. 皮 肉 音 声 に 対 し て 言 い 方 を 重 視 し た 割 合 は 97.1%と 非. る程度が増加することが示された.また,その変化の. 常に高く,このような感情価の組み合わせがなされた. 過程は言語内容とパラ言語情報の感情価の組み合わせ. 場合には言語情報のネガティブ感情が優先されると推. によって異なり,パラ言語情報選択率の増加は,ポジ. 測される.したがって,矛盾する情報が組み合わされ. ティブな言語内容がネガティブな言い方で発話された. ていても,それに対する判断に天井効果が生じた表現. 音声に対する判断よりも,ネガティブな言語内容がポ. については相関がみられなかった可能性が考えられる.. ジティブな言い方で発話された音声に対する判断 の方. 本 研 究 で は 大 人 の 参 加 者 と し て 30 代 に 限 定 し て い. が長期にわたることが示された.これらの結果は先行. たが,先にも述べたように,今回の大人群の示した結. 研 究 [8]と 一 致 し て い る .感 情 価 の 組 み 合 わ せ に つ い て. 果 は 先 行 研 究 [4]の 大 学 生 の 結 果 と は 異 な り ,顔 と 声 に. は,ネガティブな内容がポジティブな言い方で発話さ. よる情動認知課題において音声感情を重視する程度が. れた音声は「からかい」,ポジティブな内容がネガテ. 小さかった.音声感情をより重視する傾向にある大学. ィブな言い方で発話された音声は「皮肉」と捉えるこ. 生では,声選択率とパラ言語情報選択率との関連でも. と が で き る [8].「 皮 肉 」よ り も「 か ら か い 」に 対 す る. 30 代 の 大 人 と は 異 な っ た 結 果 が み ら れ る 可 能 性 も 否. 判 断 能 力 の 方 が 発 達 に 時 間 を 要 し ,12 歳 以 降 も 継 続 し. めないため,より長いスパンで発達的な変化を検討す. て発達がすすむということから,発話者にはそのつも. る必要もあるだろう.. りがなくとも,聞き手が言語内容を重視することによ. ©2016 Information Processing Society of Japan.
(6) 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG TechnicalReport. Vol.2016-MUS-113 No.8 2016/10/14. 謝. 辞. 実験実施にご協力いただきました日本科学未来館の 皆さま,実験にご参加いただきました皆さまに深く感 謝いたします.. 文. 献. [1] de Gelder, B., & Vroomen, J. (2000). The perception of emotions by ear and by eye. Cognition & Emotion, 14(3), 289-311. [2] Tanaka, A., Koizumi, A., Imai, H., Hiramatsu, S., Hiramoto, E., & de Gelder, B. (2010). I feel your voice: Cultural differences in the multisensory perception of emotion. Psychological Science, 21, 1259–1262. [3] Liu, P., Rigoulot, S., Pell, M.D. (2015) Culture modulates the brain response to human expressions of emotion: Electrophysiological evidence. Neuropsychologia, 67, 1-13. [4] Kawahara, M., Sauter, D.A., Tanaka, A. “Development of cultural differences in emotion perception from face and voice”, Poster presented at 31st International Congress of Psychology, 2016. [5] 髙 木 幸 子 , 平 松 沙 織 , 田 中 章 浩 . (2014). 表 情 と 音 声に同時に感情を込めた動画刺激に対する感情 知 覚 . 認 知 科 学 , 21(3), 344-362. [6] Sauter, D.A., Panattoni, C., & Happé, F. (2013) Children's recognition of emotions from vocal cues. British Journal of Developmental Psychology, 31 (1), 97-113. [7] Morton, J. B., & Trehub, S. E. (2001). Children's understanding of emotion in speech. Child development, 72(3), 834-843. [8] 野 口 由 貴 , 小 澤 由 嗣 , 山 崎 和 子 , 今 泉 敏 . (2004). 音声から話者の心を理解する能力の発達. 音声言 語 医 学 , 45(4), 269-275. [9] Ishii, K., Reyes, J. A., & Kitayama, S. (2003). Spontaneous attention to word content versus emotional tone differences among three cultures. Psychological Science, 14(1), 39-46. [10] Ekman, P. (1972) Universals and cultural differences in facial expressions of emotion. In J. Cole (Ed.), Nebraska symposium on motivation. Lincoln: University of Nebraska Press. pp. 207 -282.. ©2016 Information Processing Society of Japan.
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