Title
マルチングによる土壌環境の変化が梅の生育及び収量に与
える影響( 内容と審査の要旨(Summary) )
Author(s)
WUYUN
Report No.(Doctoral
Degree)
博士(農学) 甲第618号
Issue Date
2014-03-13
Type
博士論文
Version
ETD
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12099/49098
※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。[12] 氏 名(本(国)籍) WUYUN (中華人民共和国) 学 位 の 種 類 博士(農学) 学 位 記 番 号 農博甲第618号 学 位 授 与 年 月 日 平成26年3月13日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第3条第1項該当 研 究 科 及 び 専 攻 連合農学研究科 生物環境科学専攻 研究指導を受けた大学 岐阜大学 学 位 論 文 題 目 マルチングによる土壌環境の変化が梅の生育及び収 量に与える影響 審 査 委 員 会 主査 岐阜大学 准教授 伊 藤 健 吾 副査 岐阜大学 教 授 千 家 正 照 副査 静岡大学 教 授 土 屋 智
論 文 の 内 容 の 要 旨
畑作では古くから増収,高品質化,周年生産, 省力化などを目的としてマルチ栽培が 行われ,果樹栽培にも適用されている.とくに,近年では,カキ,オウトウ,ナシなど を対象としてマルチ栽培が行われ,その効果について多数の試験報告がみられる.しかし, 日本の代表的な果樹であるウメを対象としたマルチ栽培の効果については検討した事 例がない. ウメは一般に浅根性で根の分布が浅く,地表面から深さ 20~30cm に多くの 根が分布している.そのため,7 月以降の梅雨明け後に高温乾燥が続くと旱害が発生し, 葉がしおれ,落葉に至ることがある.このような状態になると葉の同化能力や根の働きが 低下し,樹勢が落ちて花芽の形成,充実が悪くなり, 翌年の結実にも影響すると言われ ている.そこで, 本研究では,マルチ栽培がウメの収量や品質に与える影響を明らかに することを目的とした. 岐阜大学柳戸農場内のウメの果樹園を対象に2010 年 7 月から 2013 年 6 月までに, 5 つの試験区を設けた.試験対象としたウメの品種は紅サシで,耐寒性,耐病性が高く, 結実が安定し,種子が小さく,果肉が多い特徴がある.樹齢は20 年,樹高約 3m,樹幹 径約30cm,樹冠径約 4m である.各試験区の大きさは 72m2で,それぞれ中央に6m 間 隔で3 本のウメの樹が栽培されている.土壌は砂質植壌土(国際土壌学会法)に分類さ れ,固相率は 30~40%の範囲にあり,表層(深さ 0~20cm)の透水係数が 10-2cm/s,下層 (深さ20~40cm)が 10-3cm/s と排水性のよい土層である.また,容易有効水分量(pF2.0 ~3.0)は各層とも約 10%前後と比較的保水性の低い土壌で,粒度組成,三相分布,透 水性・保水性ともにウメ栽培に適した土壌条件である.マルチングが土壌中の水分と温 度環境に与える影響と,ウメの生育とその後の収量に与える効果を把握するため, 蒸発 散が最盛期となる7 月 1 日から落葉が終了する 12 月 31 日までの期間に,土壌面を黒色 ビニールで被覆した「黒マルチ区」,銀色ビニールで被覆した「銀マルチ区」,直径10cmの穴が 40cm 間隔であけられた黒色ビニールで被覆した「黒穴マルチ区」,同様の穴が ある銀色ビニールで被覆した「銀穴マルチ区」,さらにその対照区としてビニールで被 覆しない「非マルチ区」を設けた. マルチ区と非マルチ区を比較した第一番目の実験結果から次のことが明らかになっ た.(1) マルチ区は土壌面蒸発が少ないので,蒸発散が最盛期となる夏季に干天が継続 しても,非マルチ区と比較して土壌水分の減少が抑制され,安定した土壌水分環境が得 られた.その一方で,マルチ区は非マルチ区より地温の上昇が確認された.(2)蒸発散 が盛んな夏季において,土壌水分が高く安定する方が,落葉が早く終了する傾向があっ た.これは,花芽の分化・形成とそれに伴う葉からの窒素転流が早く終了したことによ るものと推察された.(3)マルチ区は非マルチ区と比較して,収穫個数と生産量が増加 するとともに,個体重のバラツキが小さく商品価値の小さい個体重15g 以下の果実の発 生率が減少する傾向がみられた. 穴あきマルチによる第二番目の実験結果から次のことが明らかになった.(1)穴あき マルチは,マルチ穴を通して雨水が土壌中に直接浸透することから,マルチ区の土壌水 分増加率より約 25%程度大きく,降雨の有効化が期待できた.(2)非マルチ区と比べて 土壌面蒸発が約3 分の 1 まで抑制され,水資源の有効利用が促進されていた.(3)穴あ きマルチは通常のマルチに比べて地温は低くなる傾向があった.(4)穴あきマルチ区の 生産量は非マルチ区より大きく,マルチ区より若干小さくなる傾向が見られた.(5)果 実の個体重のばらつきは,マルチ区同様,非マルチ区より小さく,商品価値の低い個体 重が15g 未満の果実の発生割合は 10%未満であった. 以上の二つの実験結果から,蒸発散が著しく大きくなる夏季においてマルチや穴あき マルチなどで土壌水分の過乾燥を抑制すると,収穫量の増大だけでなく個体重のバラツ キが小さくなり品質の向上が確認された.一般に梅の栽培圃場には灌漑施設の整備され ていないことが多く,このような条件ではマルチ栽培が極めて有効であることを明らか にした.
審 査 結 果 の 要 旨
畑作では古くから増収,高品質化,周年生産, 省力化などを目的としてマルチ栽培が行 われ,果樹栽培にも適用されてきた.とくにウンシュウミカンなどのカンキツ類では適用 例が多く,ドリップ灌漑を組み合わせたマルドリ方式により糖度上昇など品質の向上が報 告されている.さらに近年では,カキ,オウトウ,ナシなどを対象としてマルチ栽培が行 われ,その効果について多数の試験報告がみられる.しかし, 日本の代表的な果樹の一つ であるウメを対象としたマルチ栽培については検討した事例がない.本研究の目的は,マ ルチ栽培によって,貴重な雨水資源を効率よく利用し,ウメの生育にとって適切な土壌水 分環境の実現を検証することにある.内容は以下の2つに分けられる. Ⅰ.マルチ栽培が梅の生育と収量に与える影響 :ウメの生育にとって適切な土壌水分管理 について検討することを目的として,蒸発散が最盛期となる夏季から落葉が終了するまで の期間に地表面をビニールで被覆し,土壌面蒸発による異常乾燥を抑制する試験区と,被 覆しない試験区を設定し,ビニールマルチによる土壌水分環境などの変化がウメの生育と品質に与える影響を検討した結果,以下のようなことが明らかになった. (1) マルチ区は土壌面蒸発が少ないので,蒸発散が最盛期となる夏季に干天が継続しても, 非マルチ区と比較して土壌水分の減少が抑制され,安定した土壌水分環境が得られた. その一方で,マルチ区は非マルチ区より地温の上昇が確認された. (2) 蒸発散が最盛期となる夏季に土壌水分が圃場容水量付近で高く維持されると,着花数 や着果数,ならびに平均個体重が大きくなり,相対的に総収穫量も増大した. (3) マルチ区は非マルチ区と比較して,収穫個数と生産量が増加するとともに,個体重の バラツキが小さく商品価値のない個体重15g 以下の果実の発生率が減少する傾向がみ られた. (4) 蒸発散が盛んな夏季において,土壌水分を高く安定させる方が,落葉が早く終了する 傾向があった.これは,花芽の分化・形成とそれに伴う葉からの窒素転流が早く終了 したことによるものと推察され,翌年の生産量も増大する傾向が見られた. Ⅱ.穴あきマルチ栽培が梅の生育と収量に与える影響 :降雨の有効化と土壌面蒸発の抑制 を目的として,上記Ⅰの実験と同様の期間において,穴あきマルチで地表面を被覆し,ウ メの生育と品質に与える影響を検討した結果,以下のようなことが明らかになった. (1) 穴あきマルチは,マルチ穴を通して雨水が土壌中に直接浸透することから,非マルチ区と比 較して降雨時の土壌水分増加率が 20%程度低いものの,マルチ区の土壌水分増加率より約 25%程度大きく,降雨の有効化が確認できた.その一方で,非マルチ区と比べて土壌面蒸発 が約3 分の 1 まで抑制され,水資源の有効利用が促進されていた. (2) 穴あきマルチは通常のマルチに比べて地温は低くなる傾向があり,さらに,黒穴マルチは非 マルチより1℃程度地温が上昇するが,銀穴マルチは非マルチより若干地温が低くなる傾向 があった. (3) 収量調査から,穴あきマルチ区の生産量は非マルチ区より大きく,通常のマルチ区より若干 小さくなる傾向が見られた.これは,比較的降雨の多かった当該年度の気象条件によるとこ ろが大きく,降雨が少なく土壌が乾燥するような気象条件下では穴あきマルチによる降雨の 有効化の影響によって,マルチ区より収穫量等の増大が期待できる. (4) 果実の個体重のばらつきは,マルチ区同様,非マルチ区より小さく,商品価値の低い個体重 が15g 未満の果実の発生割合は 10%未満であった. このように,梅の栽培にビニールマルチや穴あきビニールマルチを適用し,土壌面蒸発 による異常乾燥を抑制することによって,収穫量が増大するだけではなく,収穫した果実 の大きさにばらつきが小さくなり,経済効果が期待できることを明らかにした. 以上について,審査委員全員一致で本論文が岐阜大学大学院連合農学研究科の学位論文 として十分価値あるものと認めた。 学位論文の基礎となる学術論文は以下の通りである. (1) マルチ栽培が梅の生育と収量に与える影響,Wu Yun・千家正照・伊藤健吾・矢野宗治, 雨水資源化システム学会誌19(1),45-50,2013 (2) 穴あきマルチ栽培が梅の生育環境と収量に与える影響,Wu Yun・千家正照・伊藤健吾・ 矢野宗治,雨水資源化システム学会誌,印刷中