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合成開口レーダ画像からの情報抽出技術と研究動向

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(1)

解説論文

合成開口レーダ画像からの情報抽出技術と研究動向

大内

和夫

a)

Recent Trend and Information Extraction from Synthetic Aperture Radar Images

Kazuo OUCHI

†a)

あらまし 近年における合成開口レーダ(SAR:Synthetic Aperture Radar)技術の発展には目覚ましいも のがあり,従来の単波長・単偏波の振幅画像の生成はもちろん,陸域での地表高度と地殻変動量の計測及び海 域での海流流速を計測する干渉 SAR(InSAR:Interferometric SAR)や,偏波 SAR(PolSAR:Polarimetric SAR)による高精度な画像分類手法などが考案されている.SAR リモートセンシングは,高度の情報処理を駆 使した最先端技術として地球科学分野で必要不可欠な計測技術となっている.本論文では,SAR の振幅画像と InSAR,PolSAR のデータからの情報抽出技術と地球科学への応用,そして現在の研究動向について解説する.

キーワード 合成開口レーダ,画像振幅,位相,偏波

1.

ま え が き

合成開口レーダ(SAR:Synthetic Aperture Radar)

[1]∼[4]は,雲や霧の有無にかかわらず昼夜を通して高 分解能のレーダ画像を生成することができることから, 森林や植生,海洋,砂漠,極地などにおける環境計測 をはじめ,考古学や軍事偵察などの幅広い分野で利用 されている(表1参照).現在のSAR技術の出発点は, 1978年にNASAによって打ち上げられた海洋観測衛 星としては初のSARを搭載したSEASATにあると 言っても過言ではない.3カ月間という短期間の運用 にもかかわらず,SEASAT-SARは地球表面の鮮明な レーダ画像を提供し,データに含まれる潜在情報の有 効な活用法の研究に導いた.SEASAT-SARの示唆し た潜在情報とは,コヒーレントに処理・生成された複 素振幅画像の位相情報と偏波情報である.従来の振幅 (あるいは強度)のみのデータからの情報抽出に加え て,位相情報は干渉SAR(InSAR:Interferometric

SAR)という新たな技術の開発と確立へと,そして偏

波情報は偏波SAR(PolSAR:Polarimetric SAR)の 研究開発へと導いた.更に,偏波と位相情報を組み合 わせた偏波干渉SAR(Pol-InSAR)の研究も進めら

高知工科大学大学院工学研究科,高知県

Graduate School of Engineering, Kochi University of Tech-nology, Kochi-ken, 782–8502 Japan

a) E-mail: [email protected]

表 1 SARの応用分野

Table 1 Fields of application by SAR.

応用分野 代表的な観測対象と応用例  海洋 波浪,内部波,海流,海底構造,汚染,船舶 雪氷 海・湖氷,氷年齢・変動,氷河,積雪,氷山 水文 土壌水分量,湿原,水系パターン,積雪相当水量 地学 地形,地質構造,地下資源,標高情報,地殻変動 農学 農作物分類,作付け面積,生育状態.災害把握 森林 バイオマス,樹種,植林,伐採,火災 都市 市街地,工場,都市構造,線路・橋,道路等 考古学 遺跡踏査・探査,管理 れている.先導的なSEASAT-SARはレーダリモート センシングの新しいパラダイムを築き,そこで開発さ れた最先端技術は地球科学の多岐にわたる研究分野で 中心的な役割を担っている.

本論文では,InSARとPolSARを含めたSARデー タからの情報抽出技術と地球科学への応用,そして現

在の研究動向について解説する.まず,SARの複素

画像の生成プロセスの概略を述べ,マイクロ波散乱及

び画像振幅の変調と計測対象との関係と応用[5]∼[14]

を要約する.次に,InSARの基礎とDEM(Digital Elevation Model)作成及び地殻変動の計測技術と応 用[15]∼[22],海流流速の計測[23], [24]について述べ,

PolSARの基礎と画像分類等への利用[25]∼[32]を要 約する.

(2)

2. SAR

の現状と応用分野

SEASAT衛星後の1980年代では,航空機搭載SAR とシャトル搭載SARを中心に実験と研究が進められ ていた.データからの情報抽出も従来の振幅画像を 利用したものであった.その後,1980年代後半から 干渉SARの研究が発表され始め,偏波SARの研 究も行われ始めた.更に1990年代に入ってからは, 前年代の基礎研究成果が実を結び,ESA(European

Space Agency)によるESR-1/2とENVISAT,日本 のJERS-1,カナダのRADARSAT-1等の衛星搭載

SARが打ち上げられ,航空機搭載SARも高分解能

となり複数のアンテナを搭載した干渉機能をもち,多

波長・多偏波の時代に入っていった.現在では,

C-バンドENVISAT-ASAR,RADARSAT-1が運用中 で,JERS-1 SARの後継であるALOS-PALSARと

RADARSAT-2の打上げが計画されている.これらの SARでは観測モードとして,高分解モードをはじめ, 分解能は劣化するが数百mの観測幅をもつスキャン モード,更に偏波モードを備えている.BMBF(ドイ ツ文部科学省)とDLR(ドイツ宇宙航空センター)で は,低高度(500∼530 km)で分解能幅が数mの全偏 波データを収集するX-bandとL-bandのTerraSAR

をそれぞれ2006年と2007年に打ち上げる計画であ

る.表1にInSARやPolSARを含めたSARの主な 応用分野(軍事分野を除く)の例を示す.非常に広範 囲な分野でSAR技術が利用されているが,これらの 計測技術は必ずしも確立されているわけではなく研究 途上のものが多い. 使用するマイクロ波に関しては,多バンド・多偏波 のSARデータがより多くの観測対象の情報を含んで いるのは当然なのだが,技術的な制約から従来の衛星 搭載SARでは単波長で単偏波レーダであった. SIR-C/X-SARから多バンド・多波長SARの開発が進み, 現在運用中のENVISAT-ASARや計画中の ALOS-PALSAR,TerraSARなどはポラリメトリックモード をもっている.しかし,単一衛星搭載による多バンド SARは実現していない.現在運用中の衛星搭載SAR では比較的波長の短いC-bandのマイクロ波が使われ ている.波長が長ければ長いほど観測対象内部への侵 入深度が増加し,森林や砂漠,氷などの観測に適して おり,InSARの干渉度も上昇することから,L-バン ドのALOS-PALSARとTerraSAR-Lの運用が期待 されている.

3.

振 幅 情 報

3. 1 画像生成過程と散乱問題 生 成 さ れ た 一 つ の 複 素 画 像 の 位相 は ラ ン ダ ム で (0, 2π]の間で一様分布しているため,位相情報はその ままでは散乱媒体の情報を含んでいない.複素画像の 振幅は後方散乱の強弱を示すもので散乱体の特性に依 存する.この依存性から散乱体の物理的特性を逆問題 として抽出する方法が画像振幅からの情報抽出技術で あり,従来の衛星搭載SARがそうであったように,一 般的には単一波長で単一偏波のSAR画像の振幅情報 を対象としている.現在,InSARやPolSARの研究 が盛んに行われているが,画像振幅はSARデータの もっている最も基礎的で重要なパラメータであり,振 幅と散乱体の物理的特性の定量関係の研究は今後も続 けられていくものと考えられる. 図1はJERS-1 L-バンドSARによって生成された 富士山域の振幅画像である.この振幅画像には地表面 にある散乱体の特性に依存する様々な情報が含まれて いる.例えば,湖面からの後方散乱は非常に弱く,自 衛隊の演習場は裸地状態で湖面よりも強い後方散乱が 見られるが,周囲に比べると弱い.次に大きな後方散 乱は森林からで,都市域からは非常に強い後方散乱が ある.富士山のレーダ方向の山腹の傾斜により局所的 な入射角が小さくなり,強い後方散乱が生じている. 更に富士山画像のレーダ方向への倒れ込み現象(フォ 図 1 富士山と周辺の JERS-1 L-バンド SAR 画像.アジ マス(飛行)方向は上から下,レンジ(照射)方向 は右から左(データ提供:宇宙航空研究開発機構) Fig. 1 JERS-1 L-band SAR image of Mt. Fuji and a surrounding area. The azimuth (fight) di-rection is from top to bottom, and the range (illumination) direction is from right to left. (copyright: JAXA)

(3)

アショートニングとレイオーバ)が幾何学的な画像強 調を与え,強い後方散乱との相乗効果により大きな画 像振幅となっている.影の部分からの信号は受信され ず暗い画像となっている. このような画像振幅あるいは強度(パワー)からの 散乱体の定量的な情報抽出には,二つの重要な解決 すべき問題がある.その一つは入射マイクロ波が散 乱体によって後方散乱される過程を定量的に記述する 「散乱モデル」の理解で,次に後方散乱されたマイク ロ波が画像化される過程を記述する「結像モデル」の 理解である.この二つの問題は,画像振幅のみならず InSARとPolSARに共通した問題である. 3. 2 画像生成プロセス SARの画像生成プロセスを簡単に説明する.図2に あるように,SARアンテナを搭載したプラットフォー ムは,パルス信号の送信と受信を繰り返しアジマス 方向に進行する.各々の送信パルスには周波数が線 形(位相は時刻の2乗)に変化する周波数変調(FM: Frequency Modulation)がかけられており,点散乱 体からの受信信号も同じ波形となる.したがって,受 信信号を参照信号(送信信号)と相関処理することに より点画像,つまり点応答関数が生成される.処理の 高速化のため相関処理は周波数領域で行われ,この処 理法はマッチトフィルタリングと呼ばれる.比較的低 電圧で長い持続時間のFMパルスを使うことにより高 分解能画像が生成される本手法はパルス圧縮技術と呼 ばれ,電力を太陽電池に頼っている衛星搭載SARで は必要不可欠な技術で,航空機搭載SARでもほとん どがパルス圧縮技術を利用している. 合成開口技術はアジマス方向の高分解能を得るため に開発された.パルスを送信した時刻と点散乱体から の信号の受信時刻との差はアンテナのアジマス位置に 図 2 SAR画像生成プロセスとジオメトリ

Fig. 2 SAR image forming process and geometry.

依存する.アンテナが,ある点散乱体の真横にきたと きの時間差が最短で,遠ざかるに従いアジマス時刻の (一次の近似で)2乗に比例して増加する.つまり,ア ジマス方向の受信信号もFMパルスと同じように,変 調率は異なるが,周波数変調がかけられている.アジ マス方向の高分解能は,点散乱体の位置を想定して得 られる「期待信号」を参照信号として,受信信号との 相関処理を行うことにより達成される.小さなアンテ ナを使って大きな仮想のアンテナを合成しアジマス方 向の高分解を達成する技術が合成開口技術である. 現在ではSAR画像生成過程はほとんど理解されて おり,画像の複素振幅はSARシステムの複素点応答 関数と後方散乱場の畳込み積分であるというコンボ ルーションモデルが適用される(図3参照).図2に あるようにアジマス方向の画像生成には大きな開口を 合成しなければならず,衛星搭載SARの場合0.5∼2 秒(航空機搭載SARでは数秒から数十秒)の開口合 成時間が必要となる.静止している陸域のSAR画像 ではこの合成時間は問題とはならない.しかし走って いる車や電車,海面などの動いている散乱体の場合, アジマス方向の受信信号の位相が静止点散乱体を想定 している参照信号の位相と異なるため,散乱体の運動 効果が画像に反映される.主にレンジ方向の散乱体の 速度と加速度が大きな影響を与え,それぞれ画像のア ジマス方向のシフトと画像の焦点ぼけの効果を与え る.このような効果は鮮明な画像を生成するためには プラスとはならないが,散乱体の運動情報を抽出する ことができるというプラス面をもっている.よく知ら れている例では,レンジ方向に速度成分をもって航行 している船舶や車両,車などの画像は本来の画像位置 からアジマス方向にずれた位置に生成されるので,位 置ずれから移動体の速度が算出できる.また,アジマ ス画像変位はアジマス方向に進行している波浪画像に 非線形の変調を与えるといわれている.理論的には正 しいのだが実際のデータを使った検証はまだなされて 図 3 SAR画像生成プロセスを記述するコンボルーショ ンモデル.⊗ は畳込み積分を意味する.

Fig. 3 Convolution model to describe the SAR im-age forming process. ⊗ indicates a convolu-tion operaconvolu-tion.

(4)

いない. 3. 3 SAR生データ処理法の応用 SAR画像は生データと呼ばれる信号をマッチトフィ ルタリング処理して生成されるため,フィルタリング を適正に行うことにより散乱体の運動情報を抽出する ことができる.一例としてマルチルック処理の利用を 紹介する.マルチルック処理とはアジマス方向の開口 を二つ以上に分割して独立的に各々の画像を生成する 技術で,2ルック処理の例では図2の左半分のサブ開 口を使ってルック1の複素画像を生成し,次に右半分 のサブ開口を使ってルック2の画像を生成する.中心 周波数の異なる重複していない開口で生成された二つ の画像ではスペックルノイズが相関していないため, 二つの強度画像を加算平均することでノイズ軽減がで きる.Nルックでは,ノイズの標準偏差が1/√Nだ け減少する.全開口を分割してサブ画像を生成するた め画像の分解能が1/Nだけ劣化する.一般的なSAR の場合アジマス方向の分解能がレンジ方向のそれより 高いため,マルチルック処理をすることによって両方 向の分解能を同等にすることも目的の一つである[4]. 動いている散乱体にマルチルック処理を施して複数 のサブ画像を生成すると散乱体の画像がルックごとに 異なる位置に生成される.例えば,図2で2ルック 処理をした場合のルック間の中心時間差がδtとする と,速度vで動いている波浪のルック間の画像位置は v δtだけずれる.この画像位置の違いから波浪の進行 方向や速度などが算出できる.マルチルック画像を利 用した波浪方向スペクトルの算出アルゴリズムは現在 ENVISAT-ASARで実利用されている. マルチルック処理法は,SARプラットフォームの 動揺によるアジマス方向の画像劣化を補正するオート フォーカスにも利用されている.例えば図2で右半分 の軌道でプラットフォームの速度が想定速度と変わっ たとすると,一定のプラットフォーム速度を想定して いる参照関数の右半分での相関が劣化しぼけた画像に なる.そこで,2ルック処理を施し各々の参照関数の 速度変数値を変えて最大コントラストが得られる速度 変数を求めシングルルック(全合成開口長を使った処 理法)の参照関数を補正し,鮮明な画像を生成する. オートフォーカスにはこのほかにもいくつかの手法が 提案されているが,大部分はこの原理をベースとして いる. 3. 4 マイクロ波散乱モデル マイクロ波が散乱面に入射すると散乱体内部に電流 が誘起され,誘起された電流が同じ波長の二次マイク ロ波を再放射する.このプロセスが「散乱」と呼ばれ る現象で,散乱の強さは散乱体の形状と誘電率及び入 射マイクロ波の波長と入射角,偏波状態に依存する. マイクロ波の散乱過程を記述する方法は,表面散乱と 体積(あるいは多重)散乱の二つに大別される.表面 散乱とは入射波が異なる誘電率をもつ媒質(主に高導 電体)の境界面で散乱される場合で,体積散乱は媒質 内部にマイクロ波が侵入し不均等な誘電率をもつ内部 構造によって散乱される場合である.後者は媒質内部 でマイクロ波が複数回反射された結果であるとも考え られるので,散乱モデルによっては多重散乱と呼ばれ る場合もある.表面散乱は金属や海水面などの表皮深 度の小さい伝導体で支配的である.体積散乱が生じる ためにはマイクロ波が媒質内部に侵入しなければなら ないので,表皮深度の大きい乾いた雪や砂,低密度の 植生などの媒質が体積散乱の対象となる.また,海面 と橋や地表面と建物の側壁などの間で複数回の反射が 生じる現象は多重反射として区別する. 3. 5 表面散乱と応用 表面散乱による後方散乱断面積(RCS:Radar Cross Section)の値は境界面の粗さに強く依存する.ある角 度をもって鏡面にマイクロ波が入射する場合,ほとん どの入射波は入射と反対方向に反射されるため信号は 受信されず画像振幅も非常に小さな値となる.この鏡 面反射に相当する画像が図1の湖面になる.散乱面が 少し粗いと鏡面成分が減少し入射波の一部が鏡面反射 方向以外の方向に散乱され,後方散乱されたマイクロ 波が図1の自衛隊演習場の裸地のような少し大きな画 像振幅値をもつ.後者の現象は拡散散乱と呼ばれ,更 に表面が粗くなると鏡面成分がなくなり,拡散成分の みになる.このような粗い散乱面はランベルト面と呼 ばれる. 散乱面の粗さはマイクロ波の波長と入射角によって 異なるため,実効的粗さは実際の表面の凹凸とは違っ てくる.一般的に使われている実効的粗さは,マイク ロ波の波長λと入射角θiを変数としたレイリー基準 で定義される.レイリー基準によると,σH(高さの平 均を0とした参照面からの凹凸の標準偏差値)が基準 値λ/(8 cos θi)と比べて非常に小さい場合は滑らかな 表面で,両者が同等の値をもつ表面は中間的な粗さ, そしてσHが基準値と比べて非常に大きい表面は粗い 表面と定義される.このように,X-バンドのマイクロ 波にとっては粗い表面であっても,L-バンドには滑ら

(5)

かな表面になる. RCSに校正された画像強度(あるいは振幅)から 散乱面の情報を抽出するには,後方散乱場と散乱面 との関係を記述するモデルが必要となる.入射した マイクロ波が粗面によって散乱される過程は,マック スウェル方程式から導出されたヘルムホルツ波動方程 式を散乱面での境界条件のもとで解けばよい.しか し鏡面などの単純な表面を除いてランダムな境界面 での解の導出は非常に困難であることから,何らか の条件を与え近似解を得るのが一般的なアプローチ である.代表的な表面散乱モデルには,物理光学モデ ル(Physical Optics Model)[5]∼[7],複合表面モデ ル(Composite Surface Model)[8], [9],積分式モデ ル(Integral Equation Model)[10], [11]がある.ほか にもFull Wave Modelや複合モデルを更に三つに分 解したモデルなどがあるが,いずれも複雑で実用性に 欠ける. 海面からの後方散乱の場合はそのほとんどが表面散 乱であるため,上記のモデルは海面情報を抽出するの によく使われる.図4はERS-1 C-バンドSARの英 国海峡の画像である.波浪や凪状態の滑らかな海面, 浅瀬の波立った海面,潮目,数々の船舶や船舶からの 流出油などが見られる.波浪画像の利用法としては, 前述した波浪方向スペクトルを使ったリアルタイムで の波浪情報の提供と波浪予測数値モデルの改良がある. また,カナダのRADARSAT-1搭載C-バンドSAR の主目的は冬期の氷に覆われた高緯度海域での船舶航 行支援である.図4にある流出油の画像強度が非常に 小さいのは,油の表面張力が海水と比べて大きいため さざ波の発達が抑制され海面が滑らかなスリック状に なるためである.常時オイルスリックが観測される海 面では海底油田の存在が考えられるため,SARデー タは海底油田の探査にも利用されている. 陸域での表面散乱の例では裸地からの後方散乱があ る.土壌水分推定は農業や砂漠などの直接的な応用分 野からグローバルな水循環・気候システムにとっても 貴重な課題である.SARを使った従来の土壌水分測 定は土壌の比誘電率とRCSの関係を利用する.ある 程度乾燥した土壌ではマイクロ波が土壌内部にまで侵 入するので,表面散乱のみでなく体積散乱も考慮に入 れなければならない.更に,表面の粗さもRCSに大 きな影響を与えるため,少なくとも表面の粗度の影響 を除去しない限り単一のSAR振幅データからの水分 量推定は困難である. 図 4 英国海峡の ERS-1 C-バンド SAR 画像.海洋現象 に関連した様々な画像振幅変調が見られる.ここで, (A)海洋波浪(左上部は拡大画像),(B) 風のない滑 らかな海面,(C) 浅瀬の粗い海面,(D) 潮目,(E) 船舶,(F) タンカーによるオイルスリック Fig. 4 ERS-1 C-band SAR image of the English

Channel. Various amplitude modulations as-sociated with oceanic phenomena are seen, in-cluding (A) ocean waves (enlarged image at the top-left), (B) calm waters of smooth sur-face, (C) shallow waters of rough sursur-face, (D) frontal system, (E) ships and (F) oil slick caused by a tanker. 3. 6 体積散乱と応用 体積散乱[12]は,入射マイクロ波が媒質内部に侵入 し内部の不均等な誘電率の違いによって散乱される現 象である.マイクロ波が媒質内部に侵入しなければな らないので,長波長のマイクロ波が滑らかな表面をも つ導電率の低い誘電体(表面散乱の少ない媒質)に入 射する場合,体積散乱による貢献度が大きくなる.体 積散乱を定量的に記述する理論的アプローチは,電磁 波理論と放射伝達理論に大別される.マイクロ波が異 なる電磁気特性をもつ媒質の層に入射したとする.コ ヒーレントな電磁波理論では,マクスウェルの方程式 から導出された波動方程式を各々の層の境界条件のも とでマイクロ波の振幅と位相の両方の変化を考慮して 解法を求める.一方,放射伝達理論はコヒーレントで ないアプローチで,それぞれの境界面におけるマイク ロ波特性の変化は位相を無視した強度または振幅のみ とする. 表面散乱と異なり体積散乱は,連続的あるいは不連 続的に変化する複数の境界面での散乱を考えなければ ならないので,その理論的な記述は非常に複雑になっ

(6)

てくる.異なる電気的性質をもつ層にマイクロ波が入 射した場合,最初の層(媒質1)での入射波と反射波 は媒質1での反射波のみではなく,次の層(媒質2) あるいは3番目の層へ透過したマイクロ波が反射され 媒質1に再度透過するマイクロ波も考慮に入れなけ ればならない.これは電磁波理論と放射伝達理論の共 通の問題で,その複雑性から一般的に適用される層は 1∼2層までである. 体積散乱の典型的な例としては森林によるマイクロ 波の散乱がある.K-バンドやX-バンドのような短波長 のマイクロ波が広葉樹からなる森林に入射すると,樹 冠での主散乱体である葉が波長と比べて短いか同等な ので,ほとんどの入射波は樹冠で散乱される.L-バン ドやP-バンドのマイクロ波は樹冠を透過し森林内部に 侵入し,その一部は枝などによって散乱される.地表 面に到達したマイクロ波は地表面で散乱,または地表 面と幹との多重反射を経て後方に散乱される.このよ うな複雑な散乱過程を通して後方散乱されたRCSを算 出するモデルとしては放射伝達理論を使ったMIMICS

(Michigan Microwave Canopy Scattering)[13]がよ

く知られている.SARデータから森林情報を抽出す る研究は1990年代頃から活発に行われており,RCS と地域的な森林バイオマスとの関係を示すいくつかの データが報告されている.例として北海道苫小牧の針 葉樹林のバイオマスと航空機搭載Pi-SARによって収 集されたL-バンドRCSとの関係を図5に示す. バイオマスの増加とともに三つの偏波状態のRCS が増加するが,ある一定の値(飽和バイオマス)にな るとRCSの上昇が止まる.その理由は,バイオマス が上昇するにつれて森林が密になりL-バンドマイクロ 波さえも森林内部に侵入できなくなり,樹冠からのみ の散乱となるためである.長波長のマイクロ波になる につれて飽和バイオマスが大きくなるのはマイクロ波 の侵入深度が増加し森林内部からの散乱が増加するか らである.図5の苫小牧森林のL-バンドデータでは飽 和バイオマスは約40 ton/haであるが,ハワイ島での 針葉樹ではL-バンドRCSの飽和値は約100 ton/ha, P-バンドでは200 ton/haといった結果が報告されて いる.これは,地域によって主散乱体である枝の数や 幹の直径,樹高,温度,樹木の水含有量,地表面の状 態などが異なるためと考えられている[14].また,広 葉樹では樹冠からの散乱が増加するため飽和バイオマ ス値が針葉樹と比べて小さくなることが分かっている. 図 5 L-バンド後方散乱断面積と苫小牧針葉樹林の地上バイ オマスとの関係.SAR データは 2002 年に Pi-SAR で収集された.

Fig. 5 L-band RCS as a function of the above ground biomass at the Tomakomai coniferous forests. The SAR data were acquired by the Pi-SAR in 2002. 3. 7 その他の情報抽出 SARデータから散乱媒体の情報を得るためにはマイ クロ波の散乱問題を解決することが重要な課題となっ ている.だからといってSARデータが利用できない かというとそうでもない.例えばマイクロ波散乱計に よる海上風の計測では,過去に収集した膨大なRCS データから実験式を当てはめ,観測したRCS値を実 験式に参照して海上風の風向と風速を計測している. この実験式を使ってSARの画像振幅から海上風の風 速を計測する研究も成果を上げつつある.また,農業 分野では水田の作付け前の水を張った状態と成長した 水稲の状態とのC-バンド(比較的短波長のSARが低 植生の計測に効果的である)SAR画像振幅の単純な 比較から作付け面積を計測することができる.特に, 海洋からの偏波依存性は陸域のそれと比べて少ないの で,表1にある海洋現象の計測には振幅データが多用 される.

4.

位 相 情 報

SARでは位相と振幅を保持したコヒーレントな処理 から複素画像が生成される.その位相情報を最大限に 利用したのが干渉SARである[15].干渉SARには, クロストラックInSARとアロングトラックInSARが ある.前者には,アジマス方向と直交する位置に設 置した複数のアンテナによって生成された複素画像 を干渉させ地表高度を計測する方法(シングルパス InSAR)と,単一アンテナで異なる軌道で受信した複

(7)

数の複素画像から地表高度と地殻変動を計測する方法 (リピートパスInSAR)がある[15]∼[21].航空機搭載 SARを使えばシングルパスとリピートパスInSARの 両方が可能であるが,技術上の制約から衛星搭載シン グルパスInSARは実現していない.衛星ではないが スペースシャトルに2台のアンテナを搭載したSRTM

(Shuttle Radar Topography Mission)が2000年に

実施され,全球陸域の約85%の地形図を作成したこ とはよく知られている.アロングトラックInSARは, 複数のアンテナをアジマス方向に設置しレーダ視野方 向の海流速度を計測するシステムである[23]. 4. 1 地表高度情報の抽出 InSARの解説には数式を使った方が簡潔なので以 下に説明する.図6にあるようにアンテナ1と2で受 信した信号を処理して2セットの複素画像を生成し, インタフェログラムと呼ばれる画像1の複素振幅A1 と画像2の複素共役A∗2の積

A1A∗2=|A0|2exp(iφ) =|A0|2(cos(φ)+i sin(φ))

(1)

をとる.ここで,φ = φ1−φ2= 2k(R1−R2)は位相差,

k = 2π/λは波数,A0はRCSなどを含む定数で両画

像を通じて一定とした.インタフェログラムの位相は ψ = arctan (imag(A1A∗2)/real(A1A∗2))

= φ+j2π : j = 0, ±1, ±2, ±3, · · · (2) 抽出した位相ψごとに(0, 2π]の間に折り返され ており,包み込まれた位相(wrapped phase)から のあいまいさを除き絶対位相(absolute or unwrapped phase)を算出する.この処理技術は位相アンラッピ 図 6 クロストラック InSAR のジオメトリとパラメータ

Fig. 6 Geometry and parameters of cross-track InSAR. ング(phase unwrapping)または位相回復と呼ばれ 多くの手法が提案されている[19]. イ ン タ フェロ グ ラ ム の 位 相 と 地 表 面 高 度 の 関 係 φ = (4π/λ)BCTsin(θi− γCT)から地表高度を求め るのだが,現状ではプラットフォーム情報から高精度 での軌道情報を得ることは困難であるため,画像上の 2点間の差分から地表高度の変化 ∆H = λR1sin θi 4πBCTcos(θi−γCT) ∆φ (3) を抽出する.ここで,∆H∆φはそれぞれ2点にお ける地表高度変化とインタフェログラム位相の変化で ある.実際の処理では,スペックルというコヒーレン ト結像系特有のノイズがあるため何らかのノイズ軽減 を施した集合平均のインタフェログラム位相として演 算処理を行う. 複素画像の相関を示すコヒーレンス画像は Γ12=|A1A∗2|/



I1I2 (4) で定義される.ここで,Ij ; j =1, 2は強度Ijの集合 平均を表す.干渉SARと後述する差分干渉SARで生 成されたインタフェログラムのコヒーレンスは後方散 乱場の相関度に依存する.リピートパスInSARでパ スとパスの間に散乱体に変化があると,後方散乱場の 相関度が低下し,インタフェログラムのコヒーレンス も低下する.体積散乱が主となる森林などでは,わず かの入射角の違いで反射経路が変化しコヒーレンスが 低下することがある.この現象を利用して,コヒーレ ンスから散乱体の特性や時空間的変化を計測する研究 も行われている.例えば,λ = 23.5 cmR1= 750 km, γCT= 0,θi= 40BCT = 1 kmとすると,干渉じ まの1サイクルは約74 mの高度差に相当する.軌道 間隔が長くなればなるほど干渉じまの間隔が短くな り計測精度が向上するが,同時に2画像のコヒーレ ンス(相関度)が低下し干渉じまのコントラストが 低下する.良質のインタフェログラムを生成するには 両者のトレードオフが必要で,ENVISAT-ASARや RADARSAT-1などの衛星搭載C-バンドSARでは, 利用できる軌道間隔は最長0.5km前後で,JERS-1 L-バンドSARの場合では約1 kmである. InSAR-DEMの精度に関しては,航空機搭載 In-SARによるDEMは光学ステレオ視から得られた DEMと比べて約2∼5 mの誤差があるが,多波長・多 偏波InSARを使うことで誤差が30%程度低減できる という結果が報告されている.地表面の傾斜が大きく

(8)

なるにつれてレイオーバやフォアショートニング,陰 影効果が増加しコヒーレンスが低下するため,計測誤 差も増加するのが一般的な傾向である. 衛星搭載InSARでは,軌道情報の不確かさや地表 面の曲面などにより軌道間隔による干渉じまを完全に 消去することが難しく,地表面の傾斜によるコヒーレ ンス低下と大気中の水蒸気による信号の遅延に起因す る誤差もあって,単一のインタフェログラムからの計 測誤差は数メートルから数十メートルとなる場合が多 い.しかし衛星の軌道情報は高精度になりつつあり, 異なる軌道間隔と気象条件でのデータから生成した複 数のコヒーレンスの高いインタフェログラムを使うこ とで計測精度を分解能幅以下に低減することが可能で ある.GPSデータを参照点として誤差を低減する方法 なども提案されている.図7にJERS-1 InSARで生 成された富士山の等高線とInSAR-DEMを示す.情 報の欠落した部分はコヒーレンスが十分に高くなく干 渉しなかった領域である. 4. 2 地殻変動情報の抽出

差分干渉SAR(DInSAR:Differential InSAR)は

図 7 JERS-1 InSARで生成された富士山の等高線と

InSAR-DEM

Fig. 7 Contourlines and InSAR-DEM of Mt. Fuji produced by JERS-1 InSAR.

干渉SARの一種で,地殻変動による地表高度の時間 的変化や氷河の流れなどを計測する技術である.リ ピートパスInSARで,2セットのデータが収集され る間に地殻変動があり観測地域の高度が変化したとす る.この場合のインタフェログラムの位相は φ =4π λ ((R1−R2)−δH) (5) となる.ここで,δHは地殻変動によるスラントレンジ 方向の高度変化である.式(5)の右辺第1項(R1−R2) は軌道間隔と空間的高度変化で,軌道が全く同じであ れば(BCT = 0)この項は0となるが,実際には軌道 に違いがあるので空間情報は位相に残っている.しか し,この項は地殻変動前のDEMかインタフェログラ ムがあれば除くことができ,残りの位相変化は時間的 高度変化のみとなる.これが差分干渉SARの原理で ある.差分干渉SARで得られた干渉じまの1サイク ルはδH = λ/2のスラントレンジ方向の高度変化に相 当する.この精度を達成するには単一のインタフェロ グラムでは困難で,複数のインタフェログラムによる 軌道・地形干渉じまの除去と低コヒーレンスと大気の 影響を低減することが必要である.JERS-1差分干渉 SARで生成されたロシアのサハリン州北部大地震の 地殻変動を示す画像を図8に示す. 高精度の地殻変化を抽出するPSInSAR(

Perma-nent Scatterer InSAR)[20]は,参照となる画像と多

くの(約30以上)パス画像とを干渉させ,恒常的に高

いコヒーレンスをもっている(主に非常に明るい点状

図 8 JERS-1 InSARで計測された 1995 年サハリン地

震による地殻変動の等高線

Fig. 8 Contouring of the crust movement caused by the Sakhalin earthquake in 1995 by JERS-1 SAR interferometry.

(9)

の)画像を多く見つけ位相を抽出し散乱体の長期(数 年から10数年)にわたる変位を計測する手法である. 多くの時系列データを使うことで大気等による位相誤 差を除去して精密な変位を計測することが可能である. PSInSARではコヒーレンスの高い(一般的には離散 的な点状)画像のみの長期にわたる位相変化を計測す るため,1年間で数ミリ単位での変動の計測が可能で ある.新横浜やロンドン地下鉄のトンネル工事に伴う 地盤沈下や御前崎の地盤沈下の報告例がある[21]. 4. 3 アロングトラックInSAR アロングトラック(along-track)InSARは,プラッ トフォーム(アジマス)方向に2台(またはそれ以上) のアンテナを配置して,各々のアンテナを使って得ら れた複素画像からインタフェログラムを生成し,海流 などの移動散乱体のレンジ方向の速度成分を数cm/s の精度で計測する技術である[18], [23].航空機に搭載 した2台のアンテナを使うのが一般的な方法だが,ア ジマス方向にずれている2台目のSRTMアンテナを 使ったシャトル搭載SARによる海流計測の報告があ り,更にTerraSAR-Xでは衛星搭載によるアロング トラックInSAR実験を試みる予定である.従来のア ロングトラックInSARではレーダ視野方向の海流速 度成分しか計測できないが,4台のアンテナで異なる スクイント方向の海流成分を計測し海流ベクトルを合 成する実験も行われている[24].一般的な海流速度は インタフェログラムの位相を以上変化させるほど ではないので,位相アンラップの必要はない. インタフェログラムの位相は海流の速度成分と海洋 波の固有位相速度からなっているため,マイクロ波後 方散乱はブラッグ条件を満たすさざ波のみからとして, 計測された速度からブラッグ波の位相速度を差し引い ている.ほとんどの報告ではこの方法で算出した流速 が実際の海流速度とよく一致するとしている.しかし 海洋からの後方散乱はブラッグ波のみでなく広い範囲 の波長をもつ海洋波からの貢献があるわけだから,ブ ラッグ波以外の波浪の位相速度の考慮が必要であると 考えられる.また,コヒーレンス画像は海面の相関時 間(海面波の形状維持時間で長波の波になるに従って 長くなる)の計測にも使われている. 4. 4 干渉SARの現状 クロストラックInSARは手法論的には確立された 技術であり今後の研究動向としては,DInSARによる 火山噴火や地震,地滑りの予兆現象の検知,災害と復 旧状況の把握などの防災分野への応用と,氷河の流速 分布や地盤沈下などの環境モニタリングへの実利用が 中心となるであろう.DInSARによる実験的な試みと しては,マイクロ波の遅延を引き起こす大気中の水蒸 気の計測,マイクロ波の侵入深度を利用した土壌水分 量の計測などがある[22].また,位相回復アルゴリズ ムの分野[19]では現在でも成果が発表されており,偏 波と組み合わせたPol-InSAR技術は研究途上である. アロングトラックInSARでは,航空機搭載InSARに よる海流のレンジ方向のみの一次元流速計測から流速 ベクトルの計測[24]に発展しつつあり,従来の航空機 搭載から衛星を利用した海流計測の試みが実行に移さ れつつある.

5.

偏 波 情 報

5. 1 散 乱 行 列 偏波情報を利用したポラリメトリは,従来の単偏 波SARデータからの情報抽出技術を大きく発展さ せる手法として活発な研究が行われている[25]∼[32]. PolSARでは,単一アンテナあるいは水平と垂直偏波方 向が直行する二つのアンテナから水平偏波(

Horizon-tal polarization)と垂直偏波(Vertical polarization) のマイクロ波パルスを交互に送信し,後方散乱された 各々の偏波信号を受信する.散乱媒質に入射するマイ クロ波と媒質によって散乱されたマイクロ波の偏波組 合せには,HH(水平偏波送信,受信),HV(水平偏波 送信,垂直偏波受信),VH(垂直偏波送信,水平偏波受 信),VV(垂直偏波送信,受信)の四つがあり,送信波 に対する各々の偏波の受信信号を処理して4セットの 複素画像を生成する.画像の1ピクセル(本論文では, 画像の1ピクセルのサイズは分解能幅とする)には4 セットの実数成分と虚数成分からなる画素値がある. これらの画素値を複素要素,SHH, SHV, SV H, SV V, からなる行列で表示すると [E] =



SHH SHV SV H SV V



(6) となる.ここで,Smn=|Smn| exp (iφmn) (m, n = H, V )である.SARのような1台のアンテナで送信 と受信を行うモノスタティックレーダでは,アンテナ と散乱媒体の間にファラデー効果あるいはファラデー 回転のような磁場の影響がない場合,EHV= EV Hと なる.衛星搭載SARアンテナから放射されたマイク ロ波が強い磁場のある電離層を通過すると,直線偏波 の振動面が回転する.回転角は磁場の強さにもよるが

(10)

波長の長いL-バンドのマイクロ波はファラデー効果 の影響を受けやすい.逆にPolSARデータが電離層 の影響を受ければその情報を抽出することも可能であ る.比較的影響を受けやすいL-バンドSARを搭載し たALOS衛星からのデータが期待されている. 複素画像の位相に関しては,式(6)に含まれる複素 振幅の各位相は絶対値ではないため,ある一つの偏波 の複素振幅の位相を参照位相として他の偏波データの 位相を相対的に表示する.通常HH偏波の複素振幅の 位相を0(ラジアン)として他の相対位相を表示して いる.したがって,式(6)に含まれる成分は,各偏波 成分の振幅|SHH||SHV||SV V|と位相φHVφV V であり,PolSARの解析はこれらの五つの変数からい かに効果的に散乱体に関する情報を抽出するかという 点に尽きる. 5. 2 偏波シグネチャ 偏波シグネチャ(polarization signature)とは,画 像強度を縦軸にして二つの横軸にtilt angleと ellip-ticity angleの変数を割り当てて三次元表示した図で

ある.図9の上図と下図はそれぞれ平板(1回反射)

と2面コーナリフレクタ(2回反射)に相当する偏波

シグネチャで,このような特徴から散乱体の状態が理 解できる.図9にあるtilt angle ϕとellipticity angle

χは図10にあるように一般的な楕円偏波を記述する

角度である.ここでは直交座標(x, y)にある電場の成

Ex,yをtilt angle分だけ回転した座標(x, y)で楕

円偏波を表示している. 5. 3 観 測 対 象 散乱行列の成分,SHH, SHV, SV V,を使って,1回 反射,2回反射,体積散乱に相当するパワーを算出 することができる.3成分分解法(3-component de-composition analysis)[27]と呼ばれるこの方法では, SHHSHV∗   SV VS∗HV  0が成り立つ場合,散 乱行列の3成分を使って以下の三つの方程式が導出さ れる. |SHH|2=fs|b|2+fd|a|2+fv |SV V|2=fs+fd+fv SHHS∗V V=fsb+fda+fv/3 (7) ここで,fsfdはそれぞれ1回反射(表面散乱)と 2回反射からの寄与成分で,abは未知の定数であ る.体積散乱の寄与成分はfv= 3|SHV|2で与えら れる.式(7)の3方程式にはabfsfdの四つ の未知数があるため,それらの一つが分からなければ 図 9 平板(上)と 2 面コーナリフレクタ(下)の三次元 偏波シグネチャ

Fig. 9 3-D polarization signature of a flat plate (top) and a dihedral corner reflector (bottom).

図 10 楕円偏波状態とパラメータを説明する図

Fig. 10 Illustrating the elliptical polarization states and corresponding parameters.

解くことができない.しかし,表面散乱が主となる場 合,SHHSV V∗ の実数成分が正でa = −1とおくことが でき,実数成分が負のときは2回反射が主であるとし てb = 1とおくことができる.このようにして四つの 未知数が分かれば,1回反射と2回反射,体積散乱の パワーは次式から算出することができる. Ps= fs(1+|b|2) Pd= fd(1+|a|2) Pv= 8fv/3 (8) ここで,PsPdPvはそれぞれ1回反射と2回反

(11)

図 11 アルファ角とエントロピーによる分類手法 Fig. 11 Classification scheme by the alpha angle and

entropy. 射,体積散乱のパワーである.これらの3成分の値か ら,地表面や植生表面からの散乱(1回反射),地表面 と建築物や樹幹による散乱(2回反射),森林の枝な どによる体積散乱といった散乱過程の違いに基づいた 観測対象の分類ができる.一方,SHHSHV∗  = 0SV VSHV∗  = 0の場合に,4成分分解法が提案されて いる[28].らせん(helix)散乱では直線偏波の入射マ イクロ波が円偏波の反射波となるので,このらせん成 分を第4番目の成分として加えたものである. 散乱行列をPauli行列を使って直交展開し,その成 分を使ってコヒーレンシー行列の固有値と固有ベクト ルから散乱のランダム性を記述するエントロピーが 定義できる.このエントロピーと偏波依存性を示す alpha角を軸にとった図 11のような分類手法図が開 発されている[29].alpha角の0◦, 45◦, 90◦はそれぞ れ,平板,直線状のワイヤ,コーナリフレクタに相当 する.エントロピーの値は0から1の範囲にあり,0 は表面散乱,1は森林の枝からのような完全にランダ ムな散乱に相当する.図11の曲線はアルファ角に対 するエントロピーの上限を示し計測値はこの曲線の左 側に必ず入る.図内の破線によって分割された領域は 画像分類にしばしば使われる. 5. 4 ポラリメトリの現状 ポラリメトリは従来の単偏波振幅データからは得ら れない分類手法を提供する.しかし,偏波情報はまだ 十分に活用されてはいなくて,その潜在情報の効果的 な抽出と利用には大きな期待が集まっている.ポラリ メトリの研究が盛んに行われているのはその期待感か らであろう.現在のポラリメトリ分野では,PolSAR データと,InSARのパス1の偏波画像とパス2の偏波 画像を干渉させたPol-InSARデータからの情報抽出 や分類精度の向上に関する研究,散乱過程の違いを利 用した樹高計測などの論文が発表されている[30], [31]. 更に,森林下にあるターゲット検出や移動体検出,あ るいは土壌水分の計測[32]に関する研究等が行われて いる.

6.

む す び

自然界の物質はランダム性をもち非常に複雑な形状 や電磁気的特性をもっている.そのような物質に入射 したマイクロ波が散乱されるプロセスを厳密に記述す るのは困難で,散乱モデルの発展も応用分野と比べて 後塵を拝している.しかし各分野でどの程度での計測 精度が求められているかということを明確にすれば, 散乱問題にもある程度の貢献ができるであろう.SAR 画像振幅からの散乱体の情報抽出には単偏波で単波 長のデータが利用されてきた.それは発展過程にある SARは単波長で単偏波であり,多波長で偏波特性を もったデータは提供されなかったためである.しかし, 現在では航空機搭載SARは多波長で全偏波をもち複 数のアンテナを備えている.更に衛星搭載SARも単 波長ながら多偏波の機能を備え始めている.情報量は その分だけ増加し計測内容も精度も上昇することは明 らかである.InSARによる地形図作成と地殻変化の 計測は確立された手法とはいえ,Pol-InSARによる分 類精度向上と樹高の計測,そして実利用への課題研究 がある.PolSARはSARによる分類手法に新しい研 究分野を築いたが,利用される潜在情報は多く残って いる.今後の研究成果に期待したい. 文 献

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(12)

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Society準フェロー,日本リモートセンシング学会,日本海洋

表 1 SAR の応用分野 Table 1 Fields of application by SAR.
Fig. 1 JERS-1 L-band SAR image of Mt. Fuji and a surrounding area. The azimuth (fight)  di-rection is from top to bottom, and the range (illumination) direction is from right to left.
Fig. 3 Convolution model to describe the SAR im- im-age forming process. ⊗ indicates a  convolu-tion operaconvolu-tion.
Fig. 5 L-band RCS as a function of the above ground biomass at the Tomakomai coniferous forests.
+4

参照

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