267 原
著
嗜女医蕪,卿巻平気劉言〕
小児気管支喘息の血清IgE値と35種類の
アレルゲンに対する特異的IgE抗体
一性別,年齢別,アトピー性皮膚炎合併の有無からの検討一
東京女子医科大学小児科
同愛記念病院小児科
イワ サキ エイ サク岩 崎 栄 作
(受付 平成5年6月22日)
Serum IgE Leve1 and Speci血。 IgE Antibody to 35 Allergens ip.Asthmatic Children:
The Innuence of Sex, Age and Atopic D6rmatitis on Serum
IgE and the Distribution of Specific IgE Antibody
Eisaku IWASAKI
Department of Pediatrics, Tokyo Women’s Medical College Departnlent of Pediatrics, Doai Memorial Hospital The assessment of allergen−specific IgG antibodies is of great value in the diagnosis and treatment of allergic diseases. To evaluate the prevalence of allergen−specific IgE antibodies and to assessallergenic properties, we analyzed MAST(multiple allergen simultaneous test)results of 161
asthmatic children, aged between 2 and 18 years;97 with asthma,64 with asthma and atopic dermatitis. The MAST system has the potential to detect specific IgE antibodies to 35 different allergens including 20 inhalants and 15 foods, simultaneously. Among 35 allergens, more than five allergens were detected in 51(31.7%)of 161 cases. The serum IgE level and total MAST number of positive inhalant allergens increased with age, whereas the total MAST number of positive food allergens decreased with age. There were no significant differences in serum IgE levels, total MAST number of allergens, and total MAST score(total number of positive results)between males and females. Higher serum IgE levels, total MAST number and total MAST score were found in children with both asthma and atopic dermatitis. 緒 言IgEは分子量約20万の免疫グロブリンで,肥満
細胞表面のFcレセブ.ターを介して結合する.肥
満細胞上のIgE抗体は抗原(アレルゲン)の再暴
露によって,抗原抗体反応を起こし,化学伝達物
質を産生・遊離し,種々のアレルギー症状を引き
起こす.したがって,血清IgE値とアレルゲン特
異的IgE抗体の測定は,アレルギー疾患の診断に
は不可欠の臨床検査法となっている,
IgEは,すでに胎生期から産生が認められてい
るがD,出生時には極めて低値であり,食物と吸入
性アレルゲンを含めた環境中のさまざまな物質の
暴露を受けて,血清IgE値と特異的IgE抗体の産
生が誘導されていく2).アレルギー疾患小児では各種のアレルゲンに対
する感作が認められ,また同時に複数のアレルゲ
ンに感作されていることが少なくない3)∼5).全て
のアレルゲンに感作が起こる可能性はあるもの
の,その頻度と程度はアレルゲンの種類によって
かなりめ差が存在する.そこで小児気管支喘息を
対象に,35種類のアレルゲンに対して特異的IgE
抗体が同時測定できるmultiple antigen simulta−
neoUs test(MAST)6>7)を用いて,その感作状況を
解析し,性,年齢,アトピー性皮膚炎合併の有無
の影響について検討を加えた.
対象および方法
1.対象
同愛記念病院小児科を受診した,2∼18歳の気
管支喘息患児161例(平均±SD:8.4±4.2歳)を対
象とした.気管支喘息単独例は97例(60.2%),気
管支喘息とアトピー性皮膚炎合併例は64例
(39.8%)であった,2.血清IgE値の測定
血清中の総lgE値は.2ステップサンドイッチ、
法を用いたenzyme immunoas6ay(lgEダイナ
パック,ダイナボット社)によって測定した8).r
3.特異的IgE抗体測定
特異的IgE抗体の測定はMAST法により,ア
レルゲン35種類に対する特異的lgE抗体の同時.
測定を行った.検討アレルゲンは,吸入性アレル
ゲン20種類と食物アレルゲン15種類で,その内訳.
.は表1に示した.特果的IgE抗体値はMAST法の表記に従い,
MASTクラス0(透過度電圧く0.06),1/
0(0.06∼0.67), 1(0.67∼1.90),2(1.90∼3.50),3(3,50<)で示した.MASTクラスはRASTク
ラスに対応する形式で表記され℃おり7),MAST
クラス1以上を陽性とするが,RASTスコア1に
対応するMAST Iクラス1/0においても特異的
IgE抗体を検出している可能性を考慮した.
血清1検体中に特異的IgE抗体が証明された
アレルゲン数をMAST陽性アレルゲン数,陽性
アレルゲンのMASTクラスの合計(MASTクラ
ス1/0を0.5として算定)を総MASTスコアとし
た.4.統計処理
血清IgE値の平均値は幾何平均値を用いた.2
変量間の相関係数はSpearmanの順位相関係数,
独立2群間の差の検定にはMann−Whitney検定
を用い,p<0.05を有意とした.
表1 小児気管支喘息のアレルゲン特異的lgE抗体
陽性率(n=16D
アレルグンMASTクラス
@ ≧1
MASTクラス
@ ≧1/0 吸入性 ハウスダスト 63.4 81.2 ヤケヒョウヒダニ 88.2 89.3 コナヒョウヒダニ 87.0 87.3 ブタグサ 11.8 40.0 ヨモギ 5.0 17.6 ニガヨヨモギ 3.7 12.1 オオアワガエリ 6.2 23.0 スズメノヒエ 13.0 27.9 ハルガヤ 8.1 19.4 シラケガヤ 6.8 18.8 ライ麦 8.1 23.0 ニホンスギ 13.0 26.1 カシ 5.0 14.6 ペニシリウム 2.5 12ユ クラドスポリウム 5.6 14.6 アスペルギルス 3.1 9.1 カンジダ 6.2 17.6 アルテルナリア 6.2 15.8 ネコ上皮 28.0 40.0 イヌ上皮 20.5 32.1 食 物 卵白 16.2 32ユ 卵黄 12.4 22.4 鶏肉 3.7 17.6 牛乳 8.7 27.3 カゼイン 9.3 28.5 “ `ース 9.9 29.7 牛乳 6.2 22.4 エビ .7.5 20.6 カニ 8.1 20.0 マグロ 5.6 19.4 サケ 8ユ 17.0 小麦 8.7 20.6 大麦 7.5 23.0 米 9.9 21.2 大豆 13.0 32.7結 果
1.特異的IgE抗体の陽性率
アレルゲン35種類のMASTクラス1以上とク
ラス1/0以上の陽性率を表1に示した.MASTク
ラス1以上を陽性とした場合,陽性率の高い吸入
性アレルゲンはヤケヒョウヒ.ダニ88.2%,コナ
ヒョウヒダニ87.0%,ン・ウスダスト63.4%,ネコ
上皮28.0%,イヌ上皮20.5%,ニホンスギ13.0%,
スズメノヒエ13.0%,ブタクサ11.8%であり,食
物アレルゲンは卵白16.2%,大豆13.0%,卵黄
269
12。4%であった.MASTクラス1/0以上を陽性と
した場合,陽性率の高い吸入性アレルゲンはヤヶ.
ヒョウヒダニ89.3%,コナヒョウヒダニ87.3%,
・・ウスダスト81.2%,ネコ上皮40.0%,ブタクサ
40.0%,イヌ上皮32.1%,スズメノヒエ27.9%,
ニホンスギ26.1%であり,食物アレルゲンは大豆
32.7%,卵白32.1%,チーズ29.7%,カゼイン
28.5%,牛乳27.3%であった.
次に気管支喘息単独例とアトピー性皮膚炎合併
表2 小児気管支喘息とアトピー性皮膚炎における特異的IgE抗体陽性率(MASTクラス≧1)
アレルゲン 気管支喘息in=97) 気管支喘息+ Aトピー性皮膚炎 @ (n;64) 吸入性 ハウスダスト 61.8 65.6 ヤケヒョウヒダニ 88.7 87.5 コナヒョウヒダニ 88.7 84.4 ブタクサ 7.2 18.8 ヨモギ 1.3 10.9 ニガヨヨモギ 1.3 7.8 オオアワガエリ 0.0 15.6 スズメノヒエ52
25.0 ハルガヤ 1.0 18.8 シラケガヤ 0.0 17.2 ライ麦 1.3 18.8 ニホンスギ 7.2 21.9 カシ 0.0 12.5 ペニシリウム 0.0 6.3 クラドスポリウム 1.0 12.5 アスペルギルス 0.0 7.8 カンジダ 2.1 12.5 アルテルナリア 1.3 14.6 ネコ上皮 22.7 35.9 イヌ上皮 13.4 31.2 食 物 卵白LO
39.1 卵黄 3.9 26.7 鶏肉 0.0 9.4 牛乳 1.0 20.3 カゼイン 0.0 23.4 チーズ 4ユ 18.8 牛乳 1.Q 14ユ エビ 1.0 17.2 カニ 3.1 15.6 “ }クロ 0.0 14.1 サケ 2.1 17.2 小麦 1.0 20.3 大麦 1.0 17.2 米 4.1 18.8 大豆 3.1 28.1例に分類し,それぞれMAST陽性率(クラス1以
上)を表2に示した.気管支喘息のみの例ではや
ケヒョウヒダニとコナヒョウヒダニの陽性率は
88.7%で,アトピー性皮膚炎合併例に比較して高
値であったが,その他のアレルゲンについてもア
トピー性皮膚炎合併例が高い陽性率を示してい
た.2.特異的IgE抗体陽性のアレルゲン数
1例当たりのMAST陽性アレルゲン数の度数
分布を図1に示した.5アレルゲン以上の陽性例
は51例(31.7%)に認められた.吸入性アレルゲ
ンと食物アレルゲンの陽性数の間には有意の相関
(r=0.525,p<0,001)がみられ,アトピ油性皮膚
炎合併例で顕著であった(図2).
3.血清IgE値と特異的IgE抗体の関係
アトピー性皮膚炎合併の有無と性別による血清
IgE値を表3にまとめた.アトピー性皮膚炎合併
例では,年齢構成は有意に低年齢(女児:p〈
0.05)であり,血清IgE値は有意に高値(男児:
p〈0.001,女児:p<0.01)であった.血清IgE値
の男女間の差はみられなかった.
MAST陽性アレルゲン数と,総MASTスコア
の平均を表4に示したが,いずれもアトピー性皮
膚炎合併例に高値であり,男女間の差を認めな
かった.年齢別に,2∼5歳,6∼10歳,11歳以
上に分類し,食物アレルゲンと吸入性アレルゲン
の陽性数と,総MASTスコアの平均を表5にま
とめて示した.食物アレルゲンの陽性数は年齢と
ともに減少し,吸入性アレルゲンの陽性数は:増加
Case 40 35 30 25 20 15 10 5 0 5 10 15 20 25 30 35 Number of allergons図1 1例当たりのMAST陽性アレルゲン数の分布
表3 小児気管支喘息の血清IgE値
血清lgE値(IU/m1) 疾 患 性別 no 年齢(yrs) 高?黷氏}SD 幾伺平均(range:±SD) 気管支喘息 男児 落 58 T9 9,1±3.6 X.5±4.4 . 344.3 ( 97.1∼1,220.7) S86.7 (191.7∼1,235.7) 気管支喘息+ Aトピー性皮膚炎 男児 落 31 R3 7.5±4.4 U,9±4,5串 1,183.0**串(248,8∼5,624.7) @959.6** (242.3∼3,800.1) 気管支喘母と気管支鴨母十アトピー性皮膚炎の比較:“p〈0.05,**p〈0.01,*纏p<、 0,00120
19
等817
16
15
器14
量13
石 肇2慧11
歪 .⊆ 10 も 9 査 8 彗 z 76
5
4
3
2
10
o o o o o o o o o ● o o ● oo o oo ●●● ● o ●■●■●● ●33833888
………§…§§§ 器 ● ●o● 3……§…§……憲§8 o o ●■● ●●●o●●ooo o 0123456789101112誓31415
Number of food allergehs図2 1例当たりの吸入性アレルゲンと食物アレルゲ
ソの陽性数の関係(●;気管支喘息,Ol気管支喘息十アトピー性皮
膚炎.する傾向が認められた.
血清IgE値と総MASTスコアの関係を図3’に
示したが,有意の相関(r=o.674,P<b.oo1)が
認められた.考 察
血清IgE値は新生児期から学童期にかけて年
齢とともに上昇していく.今回の検討でも,2∼5
歳に比べて年長児では上昇がみられ,アトピー性
表4 アレルギー疾患別,性別のMAST陽性アレル.
ゲン数と総MASTスコァ
MAST陽性アレルゲン数 疾 患 性別MAST≧/
MAST≧1/0総MAST
@スコア. 気管支喘息 男児 落 3.0±1.8 R.7±2.4 5.5±4.5 V.5±6.3 8.3±4.4 P0.3±5.3 気管支喘息+ Aトピー性皮膚炎 男児 落 9.1±8.8 V.0±6.8 16.2±11.9 P4.4±10.9 22。5士18.6 P7.7±13.9 陽性アレルゲンのクラスの合計を総MASTクラスとし, データは平均値±SDで示した.気管支喘息+アトピー性皮 膚炎合併例は気管支喘息に比較して有意差(pく0.05)が認 められた.皮膚炎合併例では非合併例に比較して,その程度
は顕著であった.すでに我々が報告した血清IgE
値の年齢別推移2),Wittigら9)の報告からも,気管
支喘息とアトピー性皮膚炎の合併例が最も高値
で,次いで気管支喘息単独例,アトピー性皮膚炎
例が最も低値なことが示されている.血清IgE値
の性差は認めなかったが,この結果はWittigら9)
の報告,Grundbacherら10)の報告と一致した.
特異的IgE抗体の産生は,アレルゲンの抗原性
と暴露量に依存していると考えられる.小児気管
支喘息を対象とした今回の検討では,ハウスダス
ト,ヤケヒョウヒダニ,コナヒョウヒダニの陽性
率は高かった.MAST法による35種類のアレルゲ
ンのクラスター分析5}による検討では,ハウスダ
ストとヤケヒョウヒダニ,コナヒョウヒダニの3
アレルゲンは独立した大きなクラスターを形成
し,小児あるいは成人気管支喘息においても主要
なアレルゲンであることは一致した所見であ
る11).吸入性アレルゲンに対する特異的IgE抗体の
271
表5 血清IgE値,吸入性アレルゲンと食物アレルゲンに対するMAST陽性アレルゲン数,ならびに総
MASTスコアと年齢との関係
食物アレルゲンの陽性数 吸入性アレルゲンの陽性数総MAST
@スコア 疾 患 iyrs)年齢 n 血 清 hgE値iIU/m1)
MAST≧1
MAST≧1/0MAST≧1
MAST≧1/0
気管支喘息 2−5 U−10 P1−18 19 R4 S4 358.8 R73.3 S31.9 0.37 f.44 O.14 2.05
k61
P.55 2.58 Q.88 R.20 3.63 T.09 S.98 8.00 X.07 X.64 気管支喘息+ Aトピー性皮膚炎 2−5 U−10 P1−16 31 P4 P9 938.0 @843.9 P,540.3 4.42 P.64 P.79 7.87 S.64 U.00 4.65 T.07 U.32 8.48 W.93 X.05 21.62 P7.69 P8.76 陽性アレルゲンのクラスの合計を総MASTクラスとし,データは平均値で示した. 10,000 量≧1⑳・
霊 墨100
雪 あ 10 O o ロ∵.喜8∴8.・
。.%号・・。 。書騨%.・ .
ρ鰺=。・・。8艶 .
鴫. 。 。瀞.。
;! :.。 み。 .asthma(n=97) oasthma十atoplc dermatltls(n罵64) 0 10 20 30 40 50 60 70 80Total MAST score
図3 血清IgE値と総MASTスコアの関係
陽性率は年齢とともに上昇し12)13),食物アレルゲ
ンに対する陽性率は乳幼児期に上昇した後に低下
していくB).本稿では2歳以上の小児を対象に,陽
性アレルゲン数の年齢別推移を検討したが,1例
当りの吸入性アレルゲン数は年齢とともに増加
し,食物アレルゲン数は減少がみられた.吸入性
アレルゲンでは,年齢とともに個々のアレルゲン
の陽性率が上昇して感作が強まり,また同時に陽
性アレルゲン数が増加して複数感作が進んでいく
ことを示している.一方,食物アレルゲγの陽性
率の低下と陽性アレルゲン数の減少は,食物アレ
ルギーが年齢とともに軽快(outgrow)していくこ
とを反映していると考えられた.
アトピー性皮膚炎合併例は非合併例に比較し
て,陽性アレルゲン数が多数で,総MASTスコア
は高値であり,アトピー性皮膚炎合併例が複数ア
レルゲンに対する感作の頻度が高いことを示して
いた.また,アトピー性皮膚炎合併例に食物アレ
ルゲンの陽性数が多かったことは,アトピー性皮
膚炎と食物アレルゲンの密接な関係を示唆するも
のと考えられた.
IgE産生には, polyclonalなIgE産生と抗原特
異的なIgE抗体の産生の2つの経路が考えられ
ているが,IgE産生誘導に対する共通の機序が存
在するか否かについては現在のところ明らかでは
ない14).今回の検討では,血清IgE値と特異的IgE
抗体(総MASTスコア)の問には有意の相関(p〈
0.001)があり,血清IgE値が高値を示す例では,
多数のアレルゲンに対する特異的IgE抗体が存
在する傾向が認められた.血清IgE値の高値は臨
床診断の場では複数のアレルゲン感作を検索する
指標になると考えられた.
結 論
小児気管支喘息161例を対象にMAST法を用
いて,アレルゲン35種類の特異的IgE抗体を測定
し,以下の結果を得た.
1.年齢とともに,血清IgE値と吸入性アレル
ゲンの陽性数は増加し,食物アレルゲン数は減少
がみられた.2.血清IgE値,陽性アレルゲン数,総MAST
スコアに性差を認めなかった.
3.アトピー性皮膚炎合併例では,血清IgE値,
陽性アレルゲン数,総MASTスコアは高値で
あった.文 献 1)Mi1豆er DI., Hovel CJ, Heiner C:Synthesis of IgE by the human conceptus. J A.llergy Clin Immunol 52:182−188,1973 2)岩崎栄作,関根孝哉,.馬場 実:血清IgE値とア レルゲン感作との関係についての検討一非アト ピー小児アトピー性疾患小児の血清.lgE値の比 較.IgE測定の検診への応用と意義.に関する研究 平成元年度公害健康被害補償予防.協会委託業務報 告書:7−25,1990 3)岩崎栄作,馬場 実,我妻義則ほか:小児アレル ギー性疾患児における.MASTシステムによるア ..レルゲソ特異的IgE抗体の測定.日本小児アレル ギー学会誌 4:87−95,1990