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(最終講義)核磁気共鳴 : 発見からMRIまで

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最終講義

核磁気共鳴

一発見からMRIまで一

ヨネ 米 化学 モト 本 タダシ

(受付 平成4年8月14日)

〔書吝驕64襟、鞘〕

         はじめに  核磁気共鳴が発見されてからMRIが着想され るまでの経過を概説する.  核磁気共鳴は1945年に発見され,その後化学の 研究対象と分析手段になり,さらに,MRIとして 医学にも応用されているが,現在も有機化合物の 化学のためには欠くことのできない分析法であ る.化学の分析では一般にin vitroのスペクトル をとるが,最近は生きている検体の特定の箇所の スペクトルをとることなどもできるようになって きているので,医学・生物学の分野でも将来性の ある分光法であろうと思われる.またMRIの基 礎として医学・医療の中でも関心をもたれている であろうと考えてこの題を選んだわけである.  本稿の内実はMRIの入口までで,核磁気共鳴 の歴史の前半にあたる.この間に測定技術が進歩 し,核磁気共鳴の物理と化学の基本的な理解が確 立された.核磁気共鳴が高度の医療機器に発展す るまでにどんな経過を経て知識と技術が積み重ね られてきたか,概略を述べたい.核磁気共鳴につ いては多くの成書があるので,核磁気共鳴自体の 解説と引用文献はここでは最少限にとどめる.         発  見  核磁気共鳴は量子論の初期における原子スペク トルの研究に始まると言えよう.原子スペクトル に超微細構造が見出され,これは原子核が磁気 モーメントをもっているために起こるという認識 が確立されていた.核の磁気モーメントの値は原 子核構造の研究のために重要な知見であるので, 精密な:測定が望まれた.これを測定するには,核 を強い磁場の中に置いて高周波磁場を加えると, 核磁気モーメントの値によって定まる周波数で共 鳴現象が起こるからこれを検出すれぽよい,この

方法で1936年にRabiが分子線を使って核磁気

モーメントを測定し,1945年にStanford大学の Blochが普通の状態の物質について核磁気共鳴の 観測に成功した1a)1b).  現在では精細なスペクトルが得られる核磁気共 鳴も,最:初に捉えられたのはほんの僅かな電気信 号であった.図1はBlochが初めてブラウン返上 に捉えた水素の核磁気共鳴信号である.この僅か な信号が今日MRIの精密な画像にまで発達した ことを思えば誰しも技術の発達に感概深いものが あろう.この小さい電圧を検出するために細かく 測定上の注意が払われている.核磁気共鳴の測定 技術の大部分はエレクトロニクス技術で,当時電 子技術がアメリカで最も進んでいたことと,アメ リカで最初に見出されたこととは無縁ではないと 思われる.現在も核磁気共鳴の装置は,短波領域 の高周波,高周波パルス,オージオ周波,直流制 御,更にコンピュータ等,エレクトロニクス技術 の集積である.  Blochと同時に,独立にPurcellも核磁気共鳴 を観測した.この発見によってこの2人は1953年 のノーベル物理学賞を受けている. Tadashl YONEMOTO〔Department of Chemistry, Tokyo Women’s Medicall College〕:Nuclear magnetic reso. nance

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a b C d e f 9 図1 Blochが最初に観測した核磁気共鳴信号Lb)     核磁気共鳴の基本理論の確立  核磁気共鳴を測定するには,試料を磁場の中に 置いて,この磁場に垂直な方向に一定周波数の振 動磁場を与えておきながら磁場を変化させて,共 鳴が起きたときに現れる電気信号を探すのが普通 である.共鳴周波数は核種によって異なるが,一 般に使用できる磁石を用いると数MHzから数百 MHzになる.共鳴の起こる磁場の値は振動磁場 の周波数に比例する.  ところがBlochが観測した現象にはいろいろ 変わった点があった.例えば水を試料として共鳴 を観測する場合,磁場を共鳴点より少し高く設定 しておき,その磁場に60Hzで変化する小さい磁 場を重ねて磁場を変調掃引して,設定した磁場よ り低いところで共鳴が起こるようにすると図1a の信号を得る.しかし磁場を共鳴点に合わせると 信号が出なくなる(b).更に磁場を下げて掃引磁 場の高いところで共鳴させると信号は逆向きに現 れる(c).試料の水に鉄イオン(Fe(NO3)3)を 加えると,共鳴信号は図1dの形になる.またパラ フィンを試料にすると,掃引の方向によって,磁 場を上げながら観測するときと下げながら観測す るときとで信号が逆向きになる(図1e, f, g).  このような現象が起こるのは,高周波磁場の大 きさや掃引の速さ,共鳴が起こる前に磁場が共鳴 点より高かったか低かったか等の測定条件と,試 料の磁気緩和時間との関係が共鳴信号の現れ方に 関わっているためである.Blochは磁気共鳴を観 測すると同時に,核による磁化の運動方程式に緩 和の項を加えて解き,上に述べた現象を理論的に 解明した1c).この理論は核磁気共鳴の基礎をなす もので,後に発達したパルス法やスピンエコーな どもこれから生まれたものといえる.  磁気共鳴の発見後数年の間に,以下に述べる化 学シフト(磁気遮蔽),および磁気緩和の理論的基 礎が確立された.         化学への発展  1949年目,Li, Na, Alなどの核の共鳴周波数が 金属を試料としたときと塩化物のときとで差があ ることが見出された.差は僅かで,共鳴周波数の 1万分の4から千分の4程度である.ついで1951 年までの間に,窒素,フヅ素,そしてついに水素 についても,化合物によって,また一つの化合物 でもその中での結合の違いによって,共鳴磁場が ずれることが分かった.この現象を化学シフトと 呼んでいる.  化学シフトを観測するためには磁場を非常に均 一にする必要がある.上に,ついに水素について もと書いたのは,水素の化学シフトは他の核より

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OH CH2 CH3 a b 年・85ワz C d 旦186H・  図2 分解能の向上(エタノールのスペクトル) cはメチレン部分を更に高分解で広げてとったスペク トル,各線の細かい分裂の様子は試料中の極微量の水 などの量によって異なる(文献2より).dは分裂のな い4本線で,分解能の到達限度を示す例である.dの横 軸のスケールは他と異なる(日本電子社の目口Pグよ り). も小さく,相対差が十万分の一の範囲内なので, 磁場を10の一7乗から一8乗程度以内に均一にしな ければならず技術的に最も難しいからである.し かしこの困難が次第に克服されて水素のスペクト ルがとれるようになってきた.例えば図2aは初 期に得られたエタノールの共鳴で,エタノールの メチル基水素,メチレン水素,水酸基水素による 3本に分かれ,共鳴の強さは水素原子数に比例し ている2).  ここで,核磁気共鳴は化学の研究や定量等に有 用だろうという期待が生まれた.特に水素は有機 化合物に必ず含まれ,また核の中で最も感度が高 いので水素のスペクトルをとることが中心にな り,そのために更に分解能を高める努力が続けら れた.間もなくVarian社が分析機器として核磁 気共鳴装置を市販するようになり,日本でも日本 電子が1960年頃に第一号機を作っている.rこの頃 から核磁気共鳴が化学の時代に入ったわけであ る.  分解能が上がって行く過程でもう一つの発見が あった.例えば3本に分かれたエタノールの共鳴 線は,実は更に細かく分裂していて,図2bのよう な多重線であることが分かった.これは,メチル 基の水素核と隣のメチレンの水素の核との間の磁 気的な相互作用(スピンースピン結合と言う)の ために起こる現象である.  水酸基の水素核もメチレン水素核と結合するか ら3本になるはずであるが,ここにはまた別のメ カニズムがあり,水酸基の水素は別の分子の水酸 基水素と頻繁に入れ替わっているために,3本が 平均化されて1本として観測されている.このよ うに交換速度によってスペクトルの形が変化する ので,これから水素の交換速度を知ることができ る.たとえぽアルコールに極く微量の水や酸が 入っていると水素交換が非常に早くなることが分 かる.このように分子の動的性質が分かるのも核 磁気共鳴の著しい特徴である.  分解能は更に高くなり,化学のための核磁気共 鳴スペクトルとして必要な分解能に到達した(図 2d参照).再現性のあるスペクトルを得るには磁 場が均一である上に磁場と周波数をともに時間的 にも安定に,時間変化をなくす必要がある.周波 数の安定は比較的容易であるが,強い磁場を均 一・ タ定にするために,新しいアイディアと技術 が次々に開発され,1965年頃には一つの中間完成 期に到達した.既にこの時期までに,磁気共鳴は NMRと呼ばれて化学の手段として広く使われる ようになっていたが,その大部分は水素の共鳴で あった.        核磁気共鳴の化学  核磁気共鳴を分析手段として利用するのは,磁 気共鳴により得られる情報,すなわち化学シフト, スピソースピン結合,共鳴線の高さなどを利用し て化学の研究をする立場である.したがってこの 研究領域は化学の領域に殆ど一致すると言っても よいほど広い.これに対して,核磁気共鳴に特有 な化学現象を研究対象とする分野が生まれた.対 象は大別してシフト,スピン結合,分子の動的面

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象である.動的現象とは,例えば前述のアルコー ル水酸基のスペクトル線の変化や,化学変化中に スペクトルが特異な変化を見せる現象(CIDNP と略称される)など,および磁気緩和時間である. シフトとスピンースピン結合は核磁気共鳴と分子 のstaticな性質との,他はdynamicな性質との関 係により生ずる現象である.  これらの現象の基礎的理論は比較的短期間のう ちに,物理学として大体確立されていたが,これ を化学の問題として,より複雑な対象に適用でき るように肉付けすることが主としてこの時期を中 心に行われ,NMRの化学への応用のための知識 を豊富にした..      第==段階の発展への努力  核磁気共鳴が化学の手段として一般化してゆく 一方で,・別の研究も着実に進んでいた.雪ぎな流 れが二つあり,一つは水素以外の核,特に炭素の スペクトルをとること,もう一つはパルス共鳴の 実験である.既にスピンエコーも見出されていて, この方法で緩和時間Tl, T2が測定されていた.こ れについては後に記すが,両方とも核磁気共鳴の 次の大きな発展を準備するものであった.  まず炭素の核磁気共鳴であるが,普通の,質量 数12の炭素には磁気モーメントがないので共鳴を 起こさない.しかし炭素には質量数13の同位体が 約1%あり,これが磁気モーメントをもっている ので核磁気共鳴の対象になる.炭素は有機化合物 の骨格であるカ・ら,これについて直接の情報がえ られれぽ水素のスペクトルよりも更に有効であろ うと期待される.  しかしこの共鳴は水素の約1万分の1の感度し かないので観測が難かしい.炭素が曲がりなりに とれるようになったのは1960年頃であるが,初期 にはスペクトルのとれる対象も限られ,得られる 結果の精度も低いものであった.  炭素に限らず,核磁気共鳴は他の分光に比べて 感度が低く,微量の試料ではスペクトルが得られ ない.これは分析機器としての核磁気共鳴の弱点 である.そのため感度を高める努力が続けられて いた.感度を上げる一つの方法として次第に大き い電磁石が使われるようになったが(核磁気共鳴 の信号強度は磁場の大体3/2乗に比例する),鉄を 使った磁石では限界があるので超伝導マグネット が開発されて,1966年に4.7T(水素共鳴周波数200 MHz)の製品が作られた.その後磁場はこの3倍 にまで上がったが,その進歩の背景には,1955年 頃から極低温の物性研究が盛んになって,実用材 料の開発研究も行われていたことと,液体ヘリウ ムを扱う経験が蓄えられていたことが挙げられよ う.超伝導マグネヅトの技術は現在MRIにも用 いられている.  炭素の核磁気共鳴の感度を上げる別の方法とし て,二重共鳴が広く応用されている.例えばベン ゼンの炭素共鳴線は,炭素に結合している水素と のスピンースピン結合のために2本になる.この とき水素も同時に共鳴させると分裂が消失して1

本になるのであるが,この場合には核Over−

hauser効果が働いて遙かに大きい共鳴信号が得 られる.  横道に入るが,例えばベンゼンの二重共鳴で水 素の共鳴をある条件に合わせると,2本の共鳴線 の一方の線が逆向きに現れる.これは,スピン系 がいわゆる負の温度になったためである.核磁気 共鳴では一般に負温度の状態を容易に作り出せる が,このことはメーザと呼ばれる分子増幅器が作 られる契機になったと思われる.  核磁気共鳴の感度を上げるためにこの頃一つの 新しい方法が使われ始めた.スペクトルの横軸を 数千の点に分け,その各々の点の縦軸の値をコン ピュータに記憶しておき,スペクトルを繰り返し てとって横軸の同一の点に対する縦の値を加算す る方法である.共鳴による信号は足した回数に比 例して増加するが,ノイズはランダムでプラスも マイナスもあるから信号と同様には増えず,加算 した回数の平方根に比例して増える.したがって 信号対ノイズの比,S/N比は》贋に比例して増加 する.図3はその例で,始めは殆ど形の分からな: いスペクトルが積算とともに次第にその姿を見せ てくる.最後は1,600回の積算でS/N比が40倍に なったスペクトルである3).  この方法には小型で容量の大きいコンピュータ が必要であるが,丁度その頃,分析機器の一部と

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r

       l60G回掃引 t’ 》一w一

図3 積算による感度(S/N比)の向上3) して使える程度の大きさと値段のコンピュータが できたためにこれが可能になった.最近はどんな 分析機器にもコンピュータのついていないものは ないほど普及しているが,コンピュータが分析機 器に組み込まれたのはこれが最:初であったと思お れる.このためのコンピュータはcomputor of average transient,略してCAT,この方法は CAT法と呼ばれた.  CAT法では何百回もスペクトルをとらなけれ ぽならないので非常に時間がかかる.その間磁場 と周波数を精密に一定しておかなけれぽならな い.どちらかが変わると,共鳴線の位置がそれだ けずれるので,鋭い線が次第に太くなってしまう. 長時間高い精度で磁場を安定に保つのは非常に難 しいことであるが,同時に,もしそれができるの ならぽ,CATを使わなくても簡単な方法で同じ 結果が得られる.すなわち測定系の増幅率を上げ 時定数を非常に長くして,恥くゆっくり掃引して CAT法と同じ時間をかけて測定すれぽ同質の結 果が得られることが理論づけられるからである (ただし飽和など他の要素が入るとこの通りには ならない).このような事情でCATは長生きでき なかったが,後にフーリエ変換法が実用になると その中で生き返った.        フーリエ変換分光  核磁気共鳴の感度はフーリエ変換(FT)分光法 によって格段に向上し,核磁気共鳴は次の世代に 入ることになる.  一般論としてフーリエ変換によってスペクトル が得られることは,既に1950年頃から赤外線吸収 スペクトルについて論じられ実験されているが, 当等はフーリエ変換に必要な膨大な量の計算を処 理できるコンピュータが簡単には使えなかったた め(と思われる),一般に使われる分光技術にはな らなかった.その後1957年に,パルス核磁気共鳴 の研究の中でフリーインダクションディケイの信 号がスペクトルのフーリエ変換であることが実証 されたのが,FT−NMRが発展する契機になった.  試料を磁場に置いたとき核の磁気モーメントに よってできる磁化(核磁化)は,磁場と同じ方向 に向いていてこれが安定な状態である.ここへ共 鳴周波数の,強い高周波振動磁場を加えると,沢 山の核の磁気モーメントが向きを揃えて運動する ために核磁化の向きが回転し始める.ある時間の のちに高周波磁場を消滅させると,核磁化がその 時点の向きに向け直された状態になる.その向き は高周波磁場の強さと与える時間によってきまる ので,例えば磁化を90.回転させることができる. これを90.パルスというが,パルスが終って振動磁 場がゼロになっても,核磁化は歳差運動を続ける ためこれによる電気信号が観測される.これを free induction decay,略してFIDという.この ときは振動磁場がないので核の磁化の向きは次第 にランダムな状態に戻り,FID信号はしたがって

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a

。 癖酬輔帥へ輌軸。繍

b      1sec 図4 セリンのFID信号4) 小さくなってゆく.この減衰の時定数がスピンス ピン緩和時間(あるいは横緩和時間),T2である。  図4はセリンのFID信号の例で, aはカルボキ シル炭素の信号,bはαとβ炭素のFIDで,αと

βの化学シフトの差をもつ2つのFID信号の重

なりになるのでそのビートが重なっている4).  FIDの信号の大きさを時間の関数f(t)として,こ の関数をフーリエ変換すると周波数の関数F(ω) になる(ω=2πレ,レは共鳴振動数).これが核磁気 共鳴のスペクトルに他ならない,というのがフー リエ変換の理論である.f(t)は時間領域の関数で あるが,対応するスペクトルの情報をすべて,等 価にもっている関数である.  FIDはスペクトルのFTであるから,核磁気共 鳴スペクトルを得るためにFIDを測定してフー リエ変換してもよいわけである.1965年頃にその 研究が進められていたが,その重要な部分は当時 Varian社にいたErnstによってなされた. Emst は,核磁気共鳴の感度,分解能,測定条件,フー リエ変換の数値計算の方法などの関係を徹底的に 検討して,FT法が液体試料の核磁気共鳴スペク トルの感度を高めるのに有利であることを示し b C 図5 Progesteronの水素核磁気共鳴スペクトル4) cはFIDを500回積算した結果の記録で,横軸の範囲 は1秒.これをフーリエ変換したのがbである. た4).その基礎はBlochが最初に立てた核磁気共 鳴理論であり,これに計測の理論を加えたもので ある.  フーリエ変換分光は核磁気共鳴の感度を飛躍的 に高めた.それまでのスドクトル測定では測定範 囲を端から端まで,共鳴線の一本一本毎に(共鳴 線がないところも),丹念に掃引するので非常に時 間がかかった.FT法ではパルスによってスペク トルの全部の線を一度に共鳴させることができ, その後の数秒程度の時間内に観測されるFIDに よってスペクトルの全ての情報が得られるわけで

ある.このFID信号を前述のCATで積算すれぽ

多数の測定をはるかに短い時間でできるから,S/ N比を何桁も上げられるわけである.図5はこれ を示すprogesteron(0.01molar)のスペクトルで, aは従来の方法で500秒かけてとったもの,bは同 じ装置で同じ時間をかけてFTでとったものであ る4),  FT法によって,それまでよりはるかに微量な 試料で核磁気共鳴スペクトル測定が可能になり, 核磁気共鳴の対象が微量な生体試料にも広がっ た,これらの業績によってErnstは1991年のノー ベル化学賞を受けている.  FT法の発展にしたがってパルス核磁気共鳴の 範囲と技術もさらに進み,磁気緩和時間の測定が

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容易になった.FTによって感度の向上とともに 緩和時間の情報が得られることもMRIに役立っ ている.

        MRIの着想

 緩和時間の測定は核磁気共鳴の重要な応用への きっかけになった.以下に述べるMRIである.  1965年から70年頃にかけて,細胞内の水のT、を 測定していた人達があり,細胞の水は蒸留水より も緩和時間が短いことを報告している.・その理由 は,細胞内の水は巨大な分子の表面に吸着されて いるものが多く,これらの水分子は:普通の水より も強く束縛されているためであろうと言われてい る.  1971年にDamadianは,ラットに移植した癌性 の組織の中の水は正常な組織中の水よりも緩和時 が有意に長いことを見出した.他にも多くの人が 同様の測定を行っているが,Damadianはこのと き既にイメージングの考えを持っていたようで, 翌年FONARと名付けた丘eld focusingの特許を とっている.  これらの測定は試料を取り出してin vitroで 行ったものであるが,72年に動物を使ったin vivo の実験結果が報告された。普通の核磁気共鳴の装 置では,試料を磁石の極の間の狭い場所に入れな ければならない.特に信号を検出する空間は普通 径1cm以下に限られるので,動物を使う場合大き い制約を受ける.そのためにマウスの尻尾が使わ れた.これならNMRの試科管に丁度の大きさと 形である.この尻尾に悪性の腫瘍を移植して,こ の部分から得られる核磁気共鳴信号のT1を測定 し,0.7秒という結果を得ている.正常なマウスの 値は約0.3秒である.  この実験では腫瘍以外の部分も検出コイルの中 に入るので,正常組織からの共鳴信号も同時に 入ってくる.この2つの信号を分けて腫瘍の緩和 時間を出す工夫をしているが,体全体の中の腫瘍 の部分だけに焦点をあてて,そこだけを共鳴条件 にして信号を取り出せたらという考えがいろいろ な人に生まれていたのではないかと思われる.こ の翌年,Lauterburは磁場に勾配をつけることに よって試料物体の小部分毎の共鳴信号を得,これ をコンピュータで処理して試料の断面内のプロト ンシグナル強度図に作りなおして,物体の断面の イメージを核磁気共鳴で画きだした.Lauterbur

はこの技術にzeugmatographyという名前を付

けている.  その後色々なイメージングの方法が試みられ, 特にFT法が応用され,また超伝導マグネットも 用いられるようになったが,その詳細をここに述 べる余裕はない.1976年にDamadianはマウスの 胸壁に腫瘍を移植して,その部分の断面をMRI のイメージにすることに成功した.この画像では 共鳴信号の強いところが赤門の色に,弱いところ は青に表わされている.正常なコントロールマウ スでは青く,水分の少ない肺の空間を表している 部分に,腫瘍のイメージを赤く写し出した画像は, この報告が掲載されているサイエンス誌の表紙に なっている5).  これでMRIの入口にまで来たわけである.  以上,核磁気共鳴の発展の経過と,発展を助け た他の分野の技術,また核磁気共鳴が他の分野に 影響を与えあるいは発展のきっかけになったもの について略述した.      (1992年3,月7日,於弥生記念講堂)          文  献  1a)Bloch F, Hansen WW, Packard M:   Nuclear induction. Phys Rev 69:127,1946  1b)Bloch F, Hansen WW, Packard M:   Nuclear inductlon experiment. Phys Rev 70:   474−485, 1946  1c)Bloc卜F: Nuclear induction. Phys Rev 70:   460−474, 1946  2)Jackman工M著,清水 博訳:核磁気共鳴(現   代化学シリーズ12).東京化学同人,東京(1971)  3)Bovey FA著,伊東 椒他訳:核出気共鳴スペク   トル.広川書店,東京(1975)  4)Ernst RR:Advances in Magnetic Reso−   nance, Vol 1. Academlc Press, San Diego(1966)  5)Damadian R, Minko蛋L, Goldsm圭th M et aL   Field focusing nuclear magnetic resonance   (FONAR):Visua1董zation of a tu狙or量n a live   anima1. Science 194:1430,1976

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