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日本人学習者がまちがいやすいドイツ語の語順 : 第二外国語としてのドイツ語教育における言語干渉 利用統計を見る

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(1)

第二外国語としてのドイツ語教育における言語干渉

著者名(日)

田中 雅敏

雑誌名

東洋法学

54

3

ページ

410-392

発行年

2011-03-29

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00000816/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止

(2)

《 論  説 》

日本人学習者がまちがいやすいドイツ語の語順:

第二外国語としてのドイツ語教育における言語

干渉

田中 雅敏

1 .はじめに( 1 )  日本で義務教育を受ける(受けてきた)日本人にとって、第一外国語は原則 的に英語である。高校や大学でドイツ語を習おうとする日本人は、その時点で 相当数の英語の知識をすでに獲得しており、頭の中で日本語と英語の「衝突」 が起こっている状態で、さらにドイツ語の知識が“参戦”を挑んでくる。この ような認知的な(mental; cognitive)言語間の衝突を、言語学的には「言語干渉 (language interference; Rattunde 1977, Corder 1981)」と呼ぶ。

 本稿の目的は、ドイツ語教員が「外国語としてのドイツ語(DaF)( 2 )」を教 えるさいに、そもそもこの言語干渉を和らげることができるのか、またできる とすればどこまで言語干渉を排除しうるのかを示すことである。具体的には、 様々な言語現象の中から「語順(word order)」の問題を取りあげ、ドイツ語の 情報構造(information structure)に基づく語順規則を見たのち(☞第 3 節、 4 節)、英語との言語干渉の実例を見る(☞第 5 節)。英語とドイツ語は、現代語 ( 1 ) 文法を丸暗記することも必要であるが、2010 年度東洋大学人間科学総合研究所シンポジウム 「大学における外国語教育の現状と未来:外国語学習―教室の中と外で」(2010 年 10 月 23 日) において、筆者は「文法再発見―ドイツ語文法丸暗記からの脱却をめざして」という題目で、人 類の言語の共通性(普遍性)に基づいた個別言語のしくみを知ったうえで、当該言語に向き合っ てみることの面白さを紹介した(http://www.X-seminar.net/topics/24jul2010c.html)。

(3)

どうしを比べる限りにおいては異なる部分が少なくないものの、同語派(same language family subdivision)であるがために、言語干渉も大きく働いているよ うに見受けられる。したがって、ドイツ語教育の現場では、教員は(学習者に 不利に働くであろう)この英語による言語干渉を理解した上で、学習者には英 語の語順を意識させないよう工夫し、ドイツ語の自然な語順を産出できるよう に指導していくことが大切であると提案できる。 2 .外国語の文法は無意識に習得できるか?  母語についての文法知識は、体系づけて学ばない限り、直感で分かっていて もそれを口に出して説明することは難しい。日本語を母語としている人であれ ば、言語学の知識がなくても、「なえ(苗)・き(木)」は連濁(Rendaku; se-quential voicing)して「なえぎ」になるが、「くさ(草)・き(木)」は連濁して 「くさぎ」になることはないということを直感的に判断できる。しかし、なぜ そのようになるのかは専門的知識がないと説明できない(「草木」のように並 列関係にあるものは連濁しない。「苗木」は「木の苗」の意味なので、並列関 係ではなく、修飾関係であり連濁する。「植木(うえき)」のように一方の項 (argument) が他方の項の目的語になっているときも連濁しない。たとえば「や ねふき(屋根を葺く)」と「かわらぶき(瓦で葺く)」を比較するとよい)。母 語についての知識は、「自覚されずに」獲得されるものなのである。ただし、 それと同じように外国語の文法知識も無意識のうちに獲得しようとしても、そ れ は 不 可 能 で あ る(Cf. ピ ン カ ー 1995)。über’setzen「~ を 翻 訳 す る」 と ’über|setzen「~を向こうへ渡す」の対比に見られるように、ドイツ語では表面 上同じ形の動詞でも、ストレス(強勢)の置かれる位置によって(記号 ‘’’ は ストレスの位置を示す)、それが分離動詞(separable verbs)か非分離動詞(in-separable verbs)かが区別される( 3 )(=( 1 )):

( 1 )a. Er über’setzt ein deutsches Buch ins Japanische.(非分離動詞)     (He translates a German book into Japanese.)

(4)

   a’. Er hat ein deutsches Buch ins Japanische über’setzt.     (He has translated a German book into Japanese.)    b. Die Fähre setzt uns ans andere Ufer ’über.(分離動詞)     (This ferry carries us to another waterside.)

   b’. Die Fähre hat uns ans andere Ufer ’übergesetzt.     (This ferry has carried us to another waterside.)

分離動詞か非分離動詞かによって、その過去分詞の形も異なってくる(= ( 1 a’),( 1 b’))。それなら、緊急 Not + 着陸する landen から成る動詞

’notland-en「緊急着陸する」の場合は、アクセントが第一音節に置かれているのだか ら、ちょうど( 1 b/b’)の ’über|setzen と同じタイプの語形変化をすることが予 測されるだろう。

( 2 )a. Der amerikanische Zirkus-Hahn Rocky *landet auf der Hühnerfarm not.     (The circus rooster Rocky makes an emergency landing on the chicken farm.)    b. Der amerikanische Zirkus-Hahn Rocky notlandet auf der Hühnerfarm.(非分

離)

    (Mannheimer Morgen, October 9 , 2000)

   c. Der amerikanische Zirkus-Hahn Rocky hat auf der Hühnerfarm notgelandet. (分離)

ところが、( 2 b-c)に示されているように(なお、記号 ‘*’ は当該表現が容認 されないことを示す)、notlanden という動詞は、定形変化では非分離、そして過 ( 3 ) ドイツ語の分離動詞とは、英語における stand up のように基礎動詞に副詞が加わって意味の拡

張がなされているものをひとつの語(動詞)として扱う見方のことで(☞ 英語の stand up はド イツ語では auf|stehen; auf (‘up’) + stehen (‘stand’); なお、記号 ‘|’ は、そこで分離することを指 すもので、実際の語彙素としては存在しない)、auf (‘up’) のように意味的に自律した副詞(本 来は前置詞)ではあれば強勢が置かれるために“分離”するが、zer- (‘dis-’) などは自律語では ないため強勢が置かれずに“非分離”となる。

(5)

去分詞としては分離動詞としての変化をすることになっており、このような混 合的な変化をする動詞はきわめて少ない(他には、missbilden「作りそこなう」、 sonnenbaden「日光浴をする」、uraufführen「初演する」など)。このような複雑 な規則は、外国人学習者が無意識のうちに獲得できるようなものではない。  したがって、「ドイツ語のコミュニケーション能力を磨くには、文法など忘 れて、具体的な“使える”用例を暗記していけば良い」(Cf. コフマン 2006) などというばかりにはいかない。その言語に関する文法知識なしに、その言語 でコミュニケーションを行うことは不可能であり、またコミュニケーションに とって不必要な文法知識というものもありえない。  以下では、文法を構成する様々な部門(components)のなかから、語彙 (lexical entries) や音声規則(phonetic rules)といった(主として)パターンを

暗記すればよい部門ではなく、実際の言語運用の場において様々な変異やパラ メターから成る統語論 (syntax) と呼ばれる部門に主眼をあて、中でも「語順」 をめぐる変異 (word order variations) と、それに対応するための言語理論を見 ていくことにする。 3 .情報構造(情報の流れ)  語順の問題に大きく関わってくるもののひとつに「情報構造 (information structure)」が挙げられる。その例を、日本語と英語のデータをもとに見てみる ことにする。  日本語と英語の語順について、顕著に異なっている点のひとつは、動詞の位 置の振る舞い(positional behavior of verbs)である。日本語の動詞は常に文末 (sentence final edge)に現れ、英語のそれは平叙文(declarative sentence)の場

合主語の直後に来る。また、日本語では、その動詞を打ち消す場合、否定辞 (「ない」)(negation affix)がさらに文末に来るため、文の終わりまで聞かなけ れば、その文が肯定文(affirmative)か否定文(negative)かは判断できないこ とが多い。( 3 )は、筆者がドイツ語科目を担当している学生が、ドイツ語技 能検定試験( 4 )の受験を 4 週間後に控えて、尋ねてきた発話である:

(6)

( 3 )来月のドイツ語検定の件ですが、一生懸命勉強し(   )、なんとかな りますかねぇ? 「一生懸命勉強」の部分まで聞いたところで、瞬間的に「一生懸命勉強した ら」というセリフが続くものと予測した。しかし実際には、本人はバイトが忙 しくて十分な試験勉強ができないことを案じているらしく、「一生懸命勉強し なくても(合格できますか?)」と聞いてきたのであった。文を最後まで聞か ないと発話者の意図がわからない例のひとつである。  機能的な面でも、日本語と英語は大きく異なっている。英語には the と a の 冠詞(いわゆる定冠詞と不定冠詞(definite and indefinite articles))があるが、 日本語には冠詞がなく、「この(本)」とか「あの(犯人)」というのは連体詞 (adnominal adjective) と呼ばれている。英語における the と a の使い分けは、多

くの場合、日本語においては格助詞(case marking affix)「~は」と「~が」を 利用することによって対応させることができる。

( 4 )a. The white ship sank with loss of all hands.

    (John Matthews and Bob Stewart (1989): “Warriors of Christendom”)    b. 白い船は沈み、すべての人命が失われた。

( 5 )a. A white ship sank with loss of all hands.(( 4 a)の the を a に直したもの)    b. 白い船が沈み、すべての人命が失われた。

しかし、日本語の「~は」は英語で the に対応し、「~が」は a で表現しなさ いと一義的に教えることはできない。

( 6 )a. あ、太陽が欠けていくよ。

   b. Look, *a sun is being eclipsed!  Cf. The sun is being eclipsed. ( 4 ) 「独検オンライン」http://www.dokken.or.jp

(7)

この、英語の a と the の(相補)分布は、聞き手にとって新しい情報 (new in-formation) を示す名詞(句)の前に a を、そしてすでに聞き手に提示済みの古 い情報 (given information) もしくは「太陽」や「月」などの唯一名詞 (unicum) には常に the を置くという原理から導かれる。一方、日本語は、新しい情報に は特段のマークをせず、その名詞の機能に応じた格助詞を使うだけで、旧情報 にだけ「~は」という助詞をつける。そうすると、自動的に、その「は」を境 に、新情報と旧情報がわかれる。 ( 7 )白い船は | 沈み、すべての人命が失われた(=( 4 b))   |―旧情報―||―――――⊖新情報⊖―――――| ( 8 )|白い船が沈み、すべての人命が失われた|(=( 5 b))    |――――――――新情報――――――――|  ただし、新情報・旧情報の区分は、なにも冠詞によるものばかりではない。 語順も情報の新旧を示す有力な方法である。次の一組の文は、同じ 4 つの語句 ({ I / had / a visitor / yesterday })で構成されているにも関わらず、語順が違う

ために異なった情報構造を示す:

( 9 )a. I had a visitor yesterday. b. Yesterday, I had a visitor.

( 9 a-b)で情報構造が異なっていることを明確にするためには、( 9 a,b) が答 えとなるような疑問文を想定してみると良い:

(10)a. When did you have a visitor? b. What happened yesterday?

(10a-b)において疑問詞で尋ねられている部分が、( 9 a-b)で新情報として右 端(most right edge)に現れている。

(8)

   旧

(11)a.  I had a visitor yesterday.    b.  Yesterday, I had a visitor.

    新

自然言語では、文中に早く登場する文成分(sentence constituents)は古い情報 を表すのが普通であり、後から発話される要素ほど新しい情報を示す(= (11); Chafe 1986, Eroms 1992, Altmann 1993, Lambrecht 1994)。日本語では、こ のような語順の組み換えもさることながら、さらに「~は」という旧情報(話 題)マーカーがあるために、 (12)a. 来客があったのは | 昨日だ    b. 昨日あったのは | 来客だ (12a-b)のように、明確にどこまでが旧情報で、どこからが新情報かを表現す ることができる。ただし、この「~は」が「A は B だ」の構文として過剰に 適用され、しばしば (12) を (13) のように英訳する学生もいるという (川村 1985)。

(13)a. *I had a visitor is yesterday.    b. *Yesterday I had is a visitor.

4 .英語とドイツ語  ドイツ語も他の自然言語と同様に、文の右端が新情報を格納する場所として 機能する。ただし、実際の言語使用では、明確なアクセントさえあれば、(14c) のように文頭の位置でも新情報を表せる(なお、以下では、「新情報」を 「フォーカス(焦点 ; focus)」、「旧情報」を「トピック(話題 ; topic)」と呼ぶ ことにする)。

(9)

(14)a. Wann hast du ein Buch gelesen?〔最近の若者は本を読まないことを嘆い て〕

    (When did you read a book?)

   b. Ein Buch habe ich gestern gelesen.(トピックが文頭、フォーカスが右)

    (*A book, I read yesterday.)

   c. GEStern habe ich ein Buch gelesen.(強勢をおかれたフォーカスが文頭)

    (Yesterday, I read a book.)

英語の場合、文頭位置を占めることのできる文成分の数に制限はないものの、 文成分のタイプに制約がある。一方、ドイツ語では、文頭位置を占めることの できる文成分は、数こそ制限されているが(たった 1 つだけ!)、そのタイプ には制限はない(文のはじめに表示する記号 ‘?’ は、当該文が容認されないほ どではないが、容認度が著しく低いことを示す)。

(15)a. So yesterday in a radio interview, he [=Dick Cheney] tried to clear things up.     (President’s Remarks at Victory 2004 Rally in St. Cloud, Minnesota)    b. ?? Gestern in einem Radio-Interview hat er [...]

日本人ドイツ語学習者に英語の言語知識の干渉が作用すると、ドイツ語を話す (または書く)さいに、まさしく(15b)のような文が頻繁に産出されてしまう ことになる。また、次の(16a-b)の各文のような文タイプは、英語ではブロッ クされてしまうために、ドイツ語でも非文 (ungrammatical sentence) なのでは ないかと思ってしまう学習者が多い。

(16)a. Gelesen habe ich gestern ein Buch.(*Read I have a book yesterday.)    a’. Was hast du gestern mit einem Buch gemacht?(What did you do with a book

yesterday?)

(10)

   b’. Was hast du gestern gemacht?(What did you do yesterday?)

(16a-b) のような文は、(17)にその具体例を示すように、ドイツ語ではごく 自然なものであり、このような語順のバリエーションもあると教えることで、 学習者がより幅の広い豊かな表現能力を養えることが期待できる。

(17)Ich habe vor drei Wochen “Harry Potter und der Gefangene von Askaban” gekauft, aber [das Buch] gelesen habe ich noch nicht.

(I bought „Harry Potter and the Prisoner of Askaban" three weeks ago, but I ha-ven’t read it yet.)

ドイツ語では、(16a-b)の語順を含め、次のように実に多様な組み合わせが可 能である。なお、フォーカス要素に下線を引いておく。

(18)a. Was hast du gestern gelesen? (What did you read yesterday?)     1 . Ich habe gestern ein Buch gelesen.

    2 . Gelesen habe ich gestern ein Buch.(トピック―フォーカス構文)     3 . Ein BUCH habe ich gestern gelesen.(文頭フォーカスアクセント)

   b. Was hast du gestern gemacht? (What did you do yesterday?)     4 . Ich habe gestern ein Buch gelesen.

    5 . Gestern habe ich ein Buch gelesen.(トピック―フォーカス構文)     6 . Ein BUCH GeLEsen habe ich gestern.(文頭フォーカスアクセント)

   c. Wann hast du ein Buch gelesen? (When did you read a book?)     7 . Ich habe ein Buch gestern gelesen.

    8 . Ein Buch habe ich gestern gelesen.(トピック―フォーカス構文)     9 . Ein Buch gelesen habe ich gestern.(トピック―フォーカス構文)     10. GEStern habe ich ein Buch gelesen.(文頭フォーカスアクセント)

(11)

    11. Ich habe gestern ein Buch gelesen.

    12. Gelesen habe ich gestern ein Buch.(トピック―フォーカス構文)     13. Gestern habe ich ein Buch gelesen.(トピック―フォーカス構文)     14. Ein BUCH habe ich gestern gelesen.(文頭フォーカスアクセント)

   e. Was hast du gestern mit einem Buch gemacht?     (What did you do with a book yesterday?)     15. Ich habe gestern ein Buch gelesen.

    16. Ein Buch habe ich gestern gelesen.(トピック―フォーカス構文)     17. Gestern habe ich ein Buch gelesen.(トピック―フォーカス構文)     18. GeLEsen habe ich gestern ein Buch.(文頭フォーカスアクセント)

    19. Ein Buch geLEsen habe ich gestern.(文頭フォーカスアクセント)

   f. Wer hat gestern ein Buch gelesen? (Who did read a book yesterday?)     20. Ein Buch gelesen habe ich gestern.(トピック―フォーカス構文)     21. ICH habe gestern ein Buch gelesen.(文頭フォーカスアクセント)

ドイツ語の文頭の位置はデフォールトとしてトピックを格納する場所だという ことを基礎として、このドイツ語の多彩な語順のパターンを図示すると、次の ようになる。 (19)トピック(旧情報)  フォーカス(新情報) 型 トピック・強勢フォーカス 左枠前域 中域 右枠 主語 添加語 補足語

1 ich habe --- gestern ein Buch gelesen 2 gestern habe ich --- ein Buch gelesen 3 ein Buch habe ich gestern --- gelesen 4 gelesen habe ich gestern ein Buch ---5 ein Buch gelesen habe ich gestern ---

(12)

---パターンとしては 5 通りしかないが、それぞれが違った状況に(つまり、複数 の違った疑問文に対する答えとして)使用できる: タイプ 1 :(18a), (18b), (18c), (18d), (18e), (18f) タイプ 2 :   (18b), (18c), (18d), (18e) タイプ 3 :(18a),    (18c), (18d), (18e), (18f) タイプ 4 :(18a),       (18d), (18e), (18f) タイプ 5 :   (18b), (18c),    (18e), (18f) Höhle (1982) の「無標文は、より多くの問いに対する答えとなれる文のことで ある」という定義に基づけば、タイプ 1 がもっとも無標の語順であるといえ る。やや有標 (marked) なタイプ 2 、 4 、 5 も (16), (17) のところで述べたよ うに決して不適格な語順ではない。しかし、 4 と 5 はとりわけドイツ語教員で も“ひどい悪文だ”と思っている人が少なくないのが現状である。  英語では、表 (20) のように、 2 通りの語順しかない。 (20)トピック(旧情報)  フォーカス(新情報) 型 トピック 主語 動詞 補足語 添加語

1 I have read a book yesterday 2 yesterday I have read a book

---英語と比べてドイツ語のほうがトピック・フォーカス構造において多彩な組み 合わせが可能な理由としては、 ①  ドイツ語の前域(文頭位置)には数の制約( 1 つだけ)さえ守れば、あ らゆる種類の句(ただし、句レベルのもの)が来ることができ、 ②  ドイツ語の文頭位置は、基本的には旧情報(トピック)を格納する位置 であるが、強いストレスを置く場合は新情報(フォーカス)も表すこと

(13)

ができる位置である という 2 つが挙げられる。 5 .まちがいやすいドイツ語の語順  情報構造に基づく比較のほか、より純粋に統語的な側面からもドイツ語と英 語の語順の違いを見ておく。  すでに(19)に示されてはいるが、それをよく観察すると、ドイツ語には 「左枠」「右枠」というものがあることがわかる。これを「枠構造 (brace con-struction)」と呼ぶ(ちょうど本のブックエンドのように両端から挟み込む形)。 なるほど(19)では、「左枠」は特徴的で、一貫して habe という完了の助動詞 (英語の have に相当)しか来ていない。この「左枠」の位置は、その文が「肯 定文」なのか「疑問文」なのかを決める役割を担っている位置である。もし、 その文が疑問文(interrogative sentence)なのであれば、疑問詞以外の文成分は いかなるものも前域に来ることができない(阻止される)。決定疑問文(yes-no-question)であれば、(21a)のようになるし、補足疑問文(wh-question)であ れば(21b)のようになる。重要なのは、いずれの場合も、[hat]の位置は不 動だということである(hat は haben の 3 人称単数の人称変化形)。 (21)a.  Ø b. Was [Hat] [hat]

er gestern ein Buch gelesen? (Has/Did he read a book yesterday?) er gestern --- gelesen? (What has/did he read yesterday?) 肯定文の場合には、前域 (prefield)(つまり、左枠の左側=文頭の位置)に必 ず何らかの要素が来なければならない。定動詞 hat の位置を固定しておいて、 その直前の位置に何かを据えるわけである。これを、ドイツ語の授業では「定 動詞第 2 位 (verb second) の原則」という用語で説明することが多い。

(14)

   b. Gestern    c. Ein Buch    d. Gelesen

   e. Ein Buch gelesen [hat] [hat] [hat] [hat] er ein Buch er gestern

er gestern ein Buch. er gestern.

gelesen. gelesen.

一方、「右枠」には、(23) に見られるように、「過去分詞」が来るか、または 文に「話法 (modal) の助動詞」(können 'can’, müssen 'must’ など)がある場合の 原形(不定形)動詞が来ることになっている。「過去分詞」も「不定形の動 詞」も、いずれも「不定詞 (infinitive)」と呼ばれる共通性のあるものである。 (23)a. Ich    b. Ich habe kann

gestern ein Buch kein Koreanisch gelesen. sprechen. この点について、英語との違いは明白である。英語では、have+ 過去分詞や、 助動詞 + 動詞は隣りあわせで登場する (adjacency) ことになっているからであ る。 (24)a. I    b. I have read can speak a book...

no Korean language. (= I cannot speak Korean.)

日本人ドイツ語学習者には第一外国語としての英語の知識が詰まっているの で、(24) のような英語の知識から、次のような誤用を生み出す:

(25)a. **Ich habe gelesen ein Buch gestern. (I have read a book yesterday.)    b. *Ich habe gelesen gestern ein Buch.

   c. *Ich kann sprechen kein Koreanisch.

(15)

大抵は (25a) のように、補足語 (complememt) と添加語 (adjunct) の順序まで 英語式に産出される。なお、英語の I に対応する 1 人称単数代名詞 ich は、文 頭におかれる場合以外は小文字ではじめるが、英語からの影響で常に大文字で 書きはじめる (☞ Ich) 学生がいたり、さらには I と自信満々で書いてある答案 もあったりするが、これらはもはや日常茶飯事である。  以上のように、英語からドイツ語への言語(文法)干渉の顕著な例として は、 (26)a. 右枠違反    b. 添加語と補足語の順序違反 の 2 つが観察できる。なお、(26b) は、ドイツ語における動詞の基底位置 (base-generated position) と関係がある。それに関連して、従属節(embedded clause; ドイツ語文法では副文 (subclause) とも呼ばれる)における定動詞の位 置違反にも触れておこう。次の (27a-b) の対比に見られるように、従属節にお ける接続詞や疑問詞と、それからそのような接続詞・疑問詞がない場合の定動 詞第 2 位の位置は相補分布 (complementary distribution) を示す:

(27)a- 1 . Ich weiß,     ( I know

   a- 2 . Ich möchte wissen,     ( I would like to know    b. Ich weiß,    er     ( I know    he dass that wann when kommt comes er morgen kommt. he tomorrow comes) er kommt. he comes) morgen kommt tomorrow) その相補分布のメカニズムを説明するため、ドイツ語の基本語順を (27a) のタ イプ(つまり定動詞は末尾)であるとし (Haider 1993; 田中2006, 2008; Tanaka 2007)、平叙文で「定動詞第 2 位のルール」に従い、定動詞を 2 番目の位置に

(16)

表したければ、文末位置から、スロットとして空いている第 2 位(すなわち 「左枠」)に移動させると考えよう。定動詞の基底位置は文末であり、かつ、 「意味的に密接なものは統語的にも隣接して置かれる」という Behaghel (1923-32) の一般化に基づくと、動詞の補部 (complement) である補足語は動詞と隣 接する位置に来る。さらに、添加語はその補足語よりも先行する位置に来る (Cf. (26b))。そうすると、もしその第 2 位位置のスロットに疑問詞や接続詞が あると、動詞は動く先がなく、文末にとどまるしかないことになる。他方、繰 り返すが、そのような疑問詞・接続詞がなければ動詞はそのスロットに移動し てきて、定動詞第 2 位構造が形成される。  しかし、英語であれば、これらの文は (28) のようになるはずであり、その 英語の影響から、ドイツ語学習者の中には (29) のような文を生成するケース (誤用)が多くなる。

(28)a. I know that he comes (will come) tomorrow.

   b. I want to know when he comes (will come) tomorrow. (29)副文における定動詞の位置違反:

   a. *Ich weiß, dass er kommt morgen. (Cf. (28a))

   b. *Ich möchte wissen, wann er kommt morgen. (Cf. (28b))

6 .語順の指導方法案(まとめ)  以上のように、英語を第一外国語として学んだ日本人学生は、次に第二外国 語としてドイツ語を学習しようとするさい、英語からの言語干渉の作用を受け てしまう。では、実際のドイツ語の授業で、どのように指導すれば、英語の言 語干渉の影響を少なくすることができるだろうか。  まちがい(語順違反)のタイプは様々である。たとえば、(26a) の右枠違反 に対しては、いかに「文の右端」を意識させるかが重要になってくる。ドイツ 語には、( 1 b) で例示したような「分離動詞」という種類の動詞がある(☞注

(17)

3 )。

(30)Die Fähre setzt uns ans andere Ufer ’über.(分離動詞)(=( 1 b))

   (This ferry carries us to another waterside.)

分離動詞は、文字通り基礎動詞の部分と分離前つづり (separable affix) と呼ば れる部分に“分離”する。この分離動詞の語順規則を早い段階でマスターでき れば、 A.基礎動詞は「第 2 位」(左枠) B.分離前つづりは「右端」(右枠) という 2 つの重要な位置((19) を参照)を意識させることが可能になる。幸 い、分離動詞は、どの教科書でも比較的早い段階で導入されるテーマである。  「右枠」が意識できれば、添加語と補足語の順序違反 (=(26b)) にも対処で きる。すでに見たように、補足語というのは、動詞にとって必須の成分 (ob-ligatory constituents) であるから、動詞と密接な関係にある。そこで、 C. ドイツ語では、動詞と密接な関係にあるものは、密接であればあるほど右 端に登場する。 ということを徹底して意識させれば良い。先の「分離動詞の前つづり」が「右 枠」に生起するのは、その最たるもの(=「枠構造」)である。副文の定動詞 の位置違反 (=(29)) の問題も同じである。 D. ドイツ語の定動詞 (finite verb) は可能な限りにおいては「第 2 位」(左枠) に来る性質があるが、もしその『動詞の定位置』を接続詞や疑問詞などが 占めてしまっていれば、動詞を文末(右枠)に置けばよい。右枠は動詞に

(18)

とって大事な場所だからである。 と説明しておけば、これで、相当の“自然なドイツ語の語順”を作り出すこと ができると思われる。もちろん、文の生成 (generation) や派生 (derivation) と いうものを考えると、そのような説明では不十分であり、構造的にいえば、こ の場合動詞は(文末に「置く」のではなく)基本位置から動かない (stay; Grimshaw 1993) と言うことができるのだが、初級ドイツ語の授業で派生だの 前置 (raising) だの移動 (movement) だのという概念を出すのはときとして危険 である。ただし、この「副文・従属節」というような単元については、ドイツ 語初級教科書では概して比較的終わりのほうで扱われるテーマである。した がって、副文が教科書に登場するころには、すっかり「右枠」の重要性が(「分 離動詞」や「話法の助動詞」の単元の学習を通じて)学習者の意識の中に備 わっているであろうと期待もできる。  もっとも、そのためには、ドイツ語の授業では、英文法や英語に関する言語 知識は、語彙的なレベルの説明にとどめるほうが良いということも言えるだろ う。たとえば、英語の find という動詞にドイツ語っぽく語尾に –en をつければ ドイツ語の finden という動詞になり、意味機能もほぼ対応していると説明する ことができる。このような語彙レベルの話であれば、日本語の「買う(モノを 買う)」とドイツ語の kaufen を引き合いに出して、黒板に “買う fen” と書いて みせることもできる。  本稿の目的は「言語干渉」を目の敵にすることではない。文法の学習を通し てその言語のしくみを知ることは、 1 (正) か 0 (誤) かという二分法ではな く、「それでも通じるが、しかし自然なドイツ語ではないので、ときとして相 手にこちらの真意が 100%通じないかもしれないのだよ」ということを意識さ ( 5 ) 英語では、be や have(助動詞)、話法の助動詞を除いて、一般動詞は主語を飛び越えて前置さ

れることができない。そのため、do を用いて疑問文や否定文を表す (=(iii); do-support)。    (i) He plays tennis / is from Paris.

(19)

せてやる必要があると主張するものである。英語のように、ほぼ常に「主語― 動詞」の順になるような「固定の語順」( 5 )は、ドイツ語では大抵の場合(ドイ ツ語の情報構造に反する場合)「ドイツ語らしくない」と判断されること、ド イツ語を学ぶさいには、ドイツ語の特徴である「柔軟な語順」をじゅうぶんに 使いこなせるようになるよう、指導していくことが必要である。 参考文献

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参照

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