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処分性の拡大と行政庁の教示義務 利用統計を見る

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著者

?木 英行

著者別名

Hideyuki TAKAGI

雑誌名

東洋法学

61

2

ページ

1-71

発行年

2017-12

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00009273/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止

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《 論  説 》

処分性の拡大と行政庁の教示義務

髙木 英行

第一章 はじめに  「処分性」問題とは、ある行政活動が取消訴訟(厳密には抗告訴訟)の対象 適格性を有するか否かという訴訟要件問題である。行政事件訴訟法(以下「行 訴法」) 3 条 2 項によれば、処分性のある行政活動は、「行政庁の処分その他公 権力の行使に当たる行為」である。最高裁の伝統的な考え方(以下「処分性公 式」)からすれば、ここで言う「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行 為」とは、「直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法 律上認められている」行為(最判昭和39年10月29日:民集18巻 8 号1809頁)の こと、すなわち講学上の「行政行為(行政処分)」を指すものとされてき た( 1 ) 。しかしながら近年、最高裁は、処分性を柔軟に解釈し、行政行為とは必 ずしも言えないような行政活動についてまでも処分性を認める判例群( 2 ) を打ち 出してきている。  こうした「処分性拡大判例」に対しては、《実効的な権利救済》や《実効的 な紛争解決》のあるべき姿として、肯定的に受け止める向きがある一方で、処 分性の拡大に伴い「副作用」が生じる問題についても懸念されてきている。例 えば、処分性の拡大に伴い、行政処分(とみなされたその行政活動)に行訴法 上随伴している、「取消訴訟の排他的管轄」――「抗告訴訟の排他的管轄」(同 法 3 条)及び「取消訴訟の出訴期間」(同14条)――の適用――あるいは行政 法総論の表現で言い換えるならば「行政行為の公定力並びに不可争力」――に ついても拡大することになるのか否か、また拡大するとした場合の対応策いか

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んといった副作用問題がある。同じく、処分性の拡大に伴い、行政処分(とみ なされたその行政活動)に行訴法上随伴している、「仮処分の排除」――同44 条。あるいはこの裏返しとして「執行停止の排他的管轄」(同25条)――の適 用についても拡大することになるのか否か、また拡大するとした場合の対応策 いかんといった副作用問題もある。  さらに、処分性の拡大に伴い、行政処分(とみなされたその行政活動)をめ ぐり、行政庁に対し課されているはずの、行政手続法(以下「行手法」)上の 各種の手続義務、例えば「不利益処分」をするに当たって、処分の名宛人への 事前の意見聴取手続として求められている、「聴聞や弁明の機会を付与する」 義務(同法13条)等の適用についても拡大することになるのか否か、また拡大 するとした場合、行政庁がそうした手続義務を履行していなかったこと(=手 続的瑕疵)を理由に、その結果出された行政処分に関して違法なものとして取 り消されるべきか否かといった副作用問題もある。  以上挙げてきた三つの副作用問題に関しては、筆者はすでに、それぞれ別稿 において、ある程度その対応策を論じてきている( 3 ) 。したがって、本稿であら ためて考察の対象とはしない。そこで本稿では、これまでの研究で筆者が考察 を留保してきた副作用問題、すなわち、処分性の拡大に伴い、行政処分(とみ なされたその行政活動)に随伴している、不服申立てまたは取消訴訟ができる 行政処分である旨の「行政庁の教示義務」――平成26年改正前行政不服審査法 [改正前行審法]57条、平成26年改正後行政不服審査法[改正後行審法]82 条、平成16年改正前行訴法[改正前行訴法]46条、平成16年改正後行訴法[改 正後行訴法]46条――の適用についても拡大することになるのか否か、また拡 大するとした場合、行政庁がこの教示義務を履行していなかったことを理由と して、「不服申立期間」――改正前行審法では、異議申立期間(同法45条)、審 査請求期間(同14条)、再審査請求期間(同53条)。改正後行審法では、再調査 の請求期間(同法54条)、審査請求期間(同18条)、再審査請求期間(同62条) ――または「出訴期間」(改正前後行訴法14条)( 4 ) に係る例外理由(同条14条、 改正前行審法14条、改正後行審法18条等。以下「期間例外理由」)が認めら

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れ、それら不服申立期間または出訴期間が徒過した段階であっても、あらため て不服申立てまたは出訴の機会が認められるべきか否か、といった副作用問題 に関して考察することとしたい。  ひるがえって、「処分性拡大に伴う教示義務拡大」問題に関しては、こうし た問題がある旨を〈指摘〉する文献は、これまでにも少なからず見受けられる ところである( 5 ) 。しかしながら、この問題に関して正面から取り扱い、その対 応策を論じていこうとする研究は、これまでのところ(管見の限りでは)存在 しない。古くから行政法学説において「処分性拡大論」の是非が盛んに論じら れ( 6 ) 、また近年においても「処分性拡大判例」が蓄積している判例状況( 7 ) を顧 みるならば、これは望ましい状態とは言えないだろう。したがって本稿におい て、この問題を考察主題に設定し、正面から取り組んでいく意義は十分にある ものと考える( 8 ) 。  もっとも、「処分性拡大に伴う教示義務拡大」問題に関して、もっぱら解釈 論的な見地から考察していくに当たっては、その前提として、行審法ならびに 行訴法に定められている、《行政庁の教示義務》や《期間例外理由》につい て、一定程度の制度的な検討を踏まえておく必要がある。そこで第二章では、 《行政庁の教示義務》や《期間例外理由》に関する制度内容について、これら をめぐるこれまでの法改正の経緯をも踏まえながら、かつ、本稿の主題を検討 するのに必要な限度において、検討していく。それとともに、第二章では、教 示義務違反(誤教示ないし不教示)があることによって、期間例外理由の解釈 を通じて、どのような効果(サンクション)がもたらされうるのかという論点 に着目して、関連する判例を中心に検討していく。  このように第二章では、行審法ならびに行訴法の教示義務の対象となる「行 政処分」であることにつき、解釈上ほぼ問題がない〈古典的な〉場合、その限 りで行政庁の立場としても、自らに対して教示義務が課されていることを十分 に予測し、対応しえたであろう場合における、教示義務違反と期間例外理由に 関する議論を検討する。  これに対し第三章では、処分性の拡大に伴って、行政庁において行政処分

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(とみなされた行政活動)について教示義務を履行していなかったことが、裁 判所の「仕組み解釈」( 9 ) を通じてはじめて問題になってくるような場合、その 限りで、裁判所から処分性拡大を突き付けられた行政庁の立場よりすれば、 「不意打ち」的に教示義務が拡大してきたと思われる場合における、教示義務 違反(不教示)と期間例外理由に関する議論を検討する。  かくして本稿では、この種の〈今日的な〉教示義務違反問題、すなわち【処 分性拡大に伴う教示義務拡大】問題に関して考察していくことになるのである が、この考察に当たっては、これまで筆者が処分性拡大に伴う他の副作用問題 (先に挙げた三つの副作用問題)についての対応策を論じるに当たって用いて きた、「均衡解釈」論という解釈方法を用いていくこととしたい(10 ) 。そして、 以上の考察を踏まえた上で、第四章では、本稿の考察結果を整理し、残された 研究課題に関して言及する。 第二章 教示義務違反と期間例外理由  以下本章では、行審法ならびに行訴法における、不服申立期間または出訴期 間、期間例外理由、行政庁の教示義務、その義務違反(誤教示または不教示) の場合の効果(サンクション)に関して、平成16年行訴法改正や平成26年行審 法改正等を通じた「行政争訟」法制度の変遷をも意識しながら検討していくと ともに、教示義務違反の場合の期間例外理由の解釈に関して、判例学説の到達 水準を考察していく。 第一節 平成26年改正前行審法 一.不服申立期間と期間例外理由  改正前行審法14条 1 項では、審査請求は処分があったことを知った日の翌日 から起算して「60日以内」にしなければならないとの「不変期間」(11 ) が定めら れていた(12 )。ただし、この「主観的審査請求期間」には、「天災その他審査請 求をしなかったことについてやむをえない理由があるときは、この限りではな い」(同項ただし書)との期間例外理由が付されるとともに、同条 2 項では、

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この理由に該当する場合、「その理由がやんだ日の翌日から起算して 1 週間以 内」に審査請求をすることができるとの規定が定められていた。  また、改正前行審法14条 3 項によると、たとえ処分があったことを知った日 の翌日から起算して60日以内であったとしても、処分があった日の翌日から起 算して「 1 年」を経過したときは、もはや審査請求をすることができないとさ れていた。これは、処分につき公示送達をした場合など、相手方市民が処分の 存在を知っていなかったとしても、処分の法的安定性をはかる観点から認めら れた、「客観的審査請求期間」である(13 ) 。ただし、この期間についても、「正当 な理由があるときは、この限りでない。」との期間例外理由が定められていた。  審査請求期間をどの程度にするかは、「立法政策の問題」ではあるが(14 ) 、「処 分の効果をなるべく早く安定させようという行政上の要求」と「審査請求をす ることができる期間をできるだけ長くして国民の権利利益の保護を厚くする」 との要求との「調和」を考えて定められねばならない(15 ) 。また、主観的審査請 求期間の期間例外理由たる「やむをえない理由」は、改正前行審法(昭和37 年)の前身たる「訴願法」(明治23年)の反省を踏まえたものとされる。  というのも、訴願法 8 条 3 項において、訴願に係る期間例外理由として、 「行政庁ニ於テ宥恕スヘキ事由アリト認ムルトキ」との文言が定められていた ところであるが、同項の判断が行政庁の「自由裁量」に属するか否か――行政 庁がその事由の有無につき自由に認定判断できる問題であるのか否か、裏返せ ば行政訴訟を通じて裁判所から審査される筋合いのものであるのか否か――を めぐって、議論が分かれてしまっていたからである(16 ) 。そこで、改正前行審法 では、救済すべき場合を画一的・客観的に判断するため、当時の民事訴訟法 (以下「民訴法」)159条(現民訴法96条、97条も参照)の「不変期間」を守れ なかったときにならって、改正前行審法14条 1 項(主観的審査請求期間)に係 る期間例外理由として、「やむをえない理由」規定を盛り込んだのである(17 ) 。  もっとも、この「やむをえない理由」に該当するためには、「通常の業務運 営のもとにおける内部的都合」(18 ) 、「選挙を目前に控え、繁忙」(19 ) 、異議決定書 謄本を審査請求人の家族が受領していたため審査請求人本人としては正確な送

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達日を知らなかった(20 ) 、審査請求人が急性ウィルス性肝炎等の疾病に罹患して いた(ものの、期間中高熱が続き人事不省ないし意識不明状況にあったとまで は認められない)(21 ) などといった(22 ) 、不服申立人における単なる【主観的事情】 では足りず、むしろ不服申立人が不服申立てをしようともそれを不可能ならし めるような【客観的事情】が存在しなければならないとされた(23 ) 。  その限りで、「やむをえない理由」規定は、「天災その他」という例示の趣旨 に即して(24 ) 、「比較的厳格に解される傾向」にあり、実際に認められた例は 「きわめて少ない」(25 ) 、「現状では、この制度による救済の実効性は高いとはい えない」(26 ) 、「行政上の簡易な救済制度についてこのように厳しい制限を置くの は、『簡易』とは矛盾する、お上の発想である」(27 ) などと指摘されてきた。  他方で、客観的審査請求期間は、訴願法時代において、処分があってから相 当期間経過した後であっても、行政庁の自由裁量でもって訴願が認められるこ とがあり、処分の法的安定性を害する結果を生じさせていたことから、改正前 行審法で新設されたものである(28 ) 。客観的審査請求期間に対しても、期間例外 理由として、「正当な理由」が設けられていた。この「正当な理由」に関して は、概念としては「やむを得ない理由」よりは広いとされてはいたものの、そ もそも客観的審査請求期間が適用される場合が限られていることに伴って(29 ) 、 「正当な理由」の存否が裁判上争われる例が少なく、その意義も十分に明確に されていないと指摘されてきた(30 ) 。 二.平成26年改正前行審法の教示義務  改正前行審法57条 1 項によれば、行政庁は処分の相手方に対し、その処分が 不服申立てできるものであるか否か、不服申立てをすべき行政庁がどこか、さ らに不服申立てをすることができる期間を教示しなければならないとされてい た。この「行政庁の教示義務」(31 ) は、改正前行審法の「補則」に定められたと はいえ(32 )、その立法段階において、「教示の問題は、今回の法案のねらいとし ております権利の拡張という意味におきまして、最も重要な改正だと考えてお ります。」と指摘されていたように(33 ) 、また学説からも「処分の相手方たる市

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民が法律専門家でないことを考え合わすと、教示は、欠くことのできないサー ビスである。」(34 ) と指摘されていたように、非常に重要な意味合いをもって設け られた規定であった(35 ) 。  もっとも、教示は行政庁の「義務」とされてきた一方(36 )、「訓示規定」に過 ぎないとも言われてきた(37 ) 。それゆえ、教示がされなかった場合であったとし ても、不服申立期間の進行は妨げられないし、同期間が延長されるということ もない(38 ) 。さらに、教示がされなかったからといって、その結果、本体たる 「処分」が違法として裁判所により取消されないことも裁判例を通じて確立し ており(39 ) 、学説でもこの判例の態度につき異論を立てる向きはない(40 ) 。そして この点において、事前の聴聞や弁明の機会の付与(行手法13条)といった行手 法上の手続義務が履行されなかった場合、そのような手続の下で出された行政 処分が違法と評価され、その効力が否定されることもありうる、〈手続的瑕疵 ある行政処分の効力〉問題(第一章参照)(41 ) とは、議論の様相を異にしている と言えよう。  なお、教示義務の場合において、その義務違反が本体たる「処分」の効力を 左右しない(42 ) 理由として、教示が行政庁の判断過程と関わりをもたないこと、 また処分庁が教示を怠りまたは誤った教示を行った際の救済措置がすでに行審 法に設けられていること(改正前行審法58条・18条・19条・20条 1 号・46 条)(43 ) が挙げられてきた(44 ) 。 三.教示義務違反と「やむをえない理由」  とはいえ、以上の教示義務違反に対する効果(サンクション)の(欠如の) ほかにも、改正前行審法に基づく教示義務違反(誤教示または不教示)が、期 間例外理由たる「やむをえない理由」に該当し、不服申立期間徒過後であった としても、例外的に不服申立てすることが認められるか否かという問題もあっ た。この点をめぐる判例学説の到達水準は、結論を先取りしてしまえば4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4、《誤 教示》の場合に関しては「やむをえない理由」に該当すると解する一方、《不 教示》の場合に関しては「やむをえない理由」に該当しないとの、対照的な理

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解であった。  例えば、東京地判昭和45年 5 月27日(行集21巻 5 号836頁)は、「やむをえな い理由」は、「審査請求人が審査の請求をするにつき通常用いられると期待さ れる注意をもってしても避けることのできない客観的な事由を意味する」とし た上で、「行政庁の不教示は、行政庁が誤った教示をした場合と異なり、審査 請求人に対し積極的に誤信の原因を与えるものではないから、行政庁が教示義 務に違反して審査請求期間を教示しなかったところから審査請求人が審査請求 期間について誤信をしたとしても、それは、所詮、法の不知に基因するものと いうべきであるので、かかる場合を、行政庁が誤った審査請求期間を教示した ことにより審査請求人がその旨誤信した場合と同一に取り扱うことはできな い。」などとして(45 ) 、上記の「客観的な理由」を認めなかった(46 ) 。  しかし他方で、大阪地判昭和49年 7 月30日(行集25巻 7 号1023頁)は、原告 が被告税務署長側の担当係官に対して、青色申告承認取消処分について、その 理由を尋ねたところ、同係官が「後になされるべき更正処分とそれに対する不 服申立方法を教えただけで、取消処分の理由やそれに対する不服申立方法を別 個に区別して教示することまではしなかったことが、原告の理解を誤らせる一 因をなしている」とし、「教示制度が行政救済の手続の整備充実を意図して設 けられたものであることに照らすと、右係官の教示は誤教示とはいえないまで も、やや適切を欠いていたと評価されうるし、原告が取消処分についても後に なされる更正処分と一体のものとして後者の異議申立期間内に異議申立をすれ ば足りると即断したことも、右の事情のもとではあながち責めるわけにはいか ない」と判示する。  その上で、本件事案において、「異議申立期間」徒過を理由に異議申立てを 不適法とすることは、「処分者側の不手際に目を塞ぎ、納税者側に一方的に不 利益を押しつける結果を招来し、はなはだ不都合」として、「『やむをえない理 由』ないしはこれに準ずる理由があったと認め、異議申立を適法」とした。本 判決では、「不教示」のみならず、青色申告承認取消処分に際しての「理由付 記の欠如」をも併せて認定された上で、「やむをえない理由」が肯定されたと

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いう固有の事情はあったものの、【誤教示に近い不教示】の場合に「やむをえ ない理由」が肯定された事例と評価しうる。  ただし、この大阪地判昭和49年は、あくまでも “ 例外的な ” 判決という位置 付けにとどまる。全体的な判例動向からすれば、改正前行審法上すでに「教示 義務」が明示規定されていたという制度的な背景があったにもかかわらず、 《不教示》という原因事実がたとえあったとしても、「やむをえない理由」が認 められるということは、なかなか困難であったものと推察される(47 ) 。これに対 し学説では、平均的な日本人の法感覚を判断基準に、不教示の場合であったと しても誤信しやすいときは「やむをえない理由」があるものと認めるべきとの 議論があった(48 ) 。 第二節 平成16年行訴法改正前後 一.出訴期間に係る期間例外理由の趣旨  行訴法上、取消訴訟には出訴期間が設けられている(改正後行訴法14条)。 すなわち「主観的出訴期間」として、処分又は裁決があったことを知った日か ら「 6 か月」、「客観的出訴期間」として、処分又は裁決の日から「 1 年」であ る。法律行為の効力を争う民事訴訟には、一般的な出訴期間が設けられていな いことからすると、取消訴訟に出訴期間が設けられていることは、法律行為と 比較した行政処分(行政行為)(49 ) の特殊性(権力性)の表れであるとの理解が なされてきた(50 ) 。  主観的出訴期間に関しては、平成16年行訴法改正前後で大きな変動がある。 まず改正前行訴法の下では(51 ) 、主観的出訴期間は、「 3 か月」とされるととも に「不変期間」とされ、この期間が遵守できなかった場合には(52 ) 、「訴訟行為 の追完」が認められるにとどまっていた(改正前行訴法14条 1 項、 2 項)(53 ) 。 すなわち、民訴法97条(改正前行訴法 7 条も参照)では、「当事者がその責め に帰することができない事由により不変期間を遵守することができなかった場 合には、その事由が消滅した後一週間以内に限り、不変期間内にすべき訴訟行 為の追完をすることができる。」とされていた(54 ) 。

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 ここで期間例外理由として、「当事者がその責めに帰することができない事 由」が挙げられているわけであるが、この事由は改正前行審法の「やむをえな い理由」と「ほとんど同意義」と解され(55 ) 、またそうであるがゆえに、「やむ をえない理由」同様、厳格に解釈されてきた。すなわち、「責めに帰すること ができない事由」に当たるのは、「一般人に通常期待される程度の注意をもっ てしては避け難い事由」であって、「本人の出張、病気、事務の繁忙などは、 これに当たらない」とされる(56 ) 。  他方で、客観的出訴期間 1 年並びにその期間例外理由たる「正当な理由」に 関しては、平成16年行訴法改正前後で、基本的に変わりない(57 ) 。ここで言う 「正当な理由」は、「責めに帰することができない事由」や、「やむを得ない理 由」よりも「緩やかな概念」と理解されてきており(58 ) 、「出訴期間内に出訴し なかったとしても社会通念上相当と認められるような理由をいう」(59 ) 。ただ し、「本人の出張、病気、事務の繁忙などがこれに当たらない」ことは、「責め に帰することができない事由」と同じである(60 ) 。 二.出訴期間に係る期間例外理由の肯定例(教示義務違反を除く)  〈行政事件関係で〉実際に「訴訟行為の追完」が認められた事例(ただし後 に紹介する教示義務違反関係を除く)(61 ) として、例えば、東京地(中間)判昭 和31年12月21日(行集 7 巻12号3091頁)では、原告法人所有の帳簿書類が、取 引関係にあった訴外 A の所得税法違反被疑事件に関する証拠物件として、被 告国税局長によって差し押さえられてしまい、審査請求棄却決定通知書もその 一括書類の中に紛れ込んで所在が分からなくなってしまっていた。その結果、 原告法人において、その差押処分が解除されるまで、審査請求棄却決定に対し 訴訟を提起するか否かの判断について、理事会に諮るといった内部的な意思決 定をすることができないまま、同決定に係る出訴期間を過ぎてしまった。本判 決は、以上の事実を認定した上で、出訴期間不遵守が原告の責に帰すべからざ る事由によるものであったとして、訴訟行為の追完を認めた。  また神戸地判平成 9 年 2 月24日(判時1639号40頁)では、固定資産課税台帳

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の登録価格決定に係る審査申出棄却決定に対する取消訴訟が、その出訴期間を 「一日」徒過して提起された事案である。本判決は、出訴期間(不変期間)不 遵守に至った事情として、出訴期間が進行していた当時、阪神淡路大震災に よって原告の自宅が半壊していたこと、電気・ガス・水道等の公共設備が相当 期間機能しなかったこと、付近の交通機関も機能停止または回復遅延という状 況であったことといった、原告の責に帰すべきでない事由によるものであった と認めるとともに(62 ) 、期間徒過が一日のみであったという事情をも踏まえて訴 訟行為の追完を認めた。  以上のような改正前行訴法の動向を受けて、平成16年行訴法改正により、主 観的出訴期間が「 6 か月」へと延長されるとともに、同期間が不変期間である こともやめ、「正当な理由」があれば 6 か月を経過しても取消訴訟を提起する ことができることとなった(63 ) 。「提訴可能範囲が実質的に広がった」と評価さ れているところである(64 ) 。  そこで、平成16年行訴法改正後、主観的出訴期間に係る「正当な理由」が認 められた事例として(65 ) 、例えば東京地判平成22年 9 月29日(判時2108号38 頁)(66 ) がある(67 ) 。固定資産税賦課決定処分等取消訴訟(被告代表者東京都知事) を提起していた原告納税者が、行訴法19条 1 項に基づき、固定資産課税台帳の 登録価格の減額修正を求める審査申出に係る却下決定についての取消訴訟(被 告代表者東京都固定資産評価審査委員会)を、その却下決定に係る主観的出訴 期間 6 か月を過ぎた段階で、選択的追加的に併合して提起した事案である。  本判決では、地方税法434条 2 項の「裁決主義」の対象である「審査申出事 項」に当たるか否かという解釈問題(68 ) をめぐる原告被告間での一連のやり取 り(69 ) や、原告の不服の内容が両取消訴訟事件間で「同一であること」に加え て、処分の取消の訴え(処分取消訴訟)をその処分についての審査請求を棄却 した裁決の取消しの訴え(裁決取消訴訟)に併合して提起する場合には、出訴 期間の遵守については、処分取消訴訟は、裁決取消訴訟を提起した時に提起し たものとみなす旨の行訴「法20条の趣旨にもかんがみて」(70 ) 、前記却下決定の 取消訴訟がその出訴期間内に「提起されたものと同視すべきであり、少なくと

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も、出訴期間を遵守することができなかったことにつき『正当な理由』」があ ると判示した(71 ) 。 三.教示義務違反と出訴期間に係る期間例外理由  行政庁の教示義務が明記されていた改正前行審法とは異なって、それが明記 されていなかった(平成16年改正前)行訴法(72 ) の下では、あるべき立法論とし てはともかくとして(73 ) 、行政庁には出訴に係る教示義務はないものと解釈され てきた(74 ) 。 ( 1 )誤教示と期間例外理由肯定例  とはいえ、こと【期間例外理由の文脈】では、教示義務規定が創設される平 成16年行訴法改正前の時点から、すでに出訴に係る誤教示・不教示に関する判 例が蓄積してきた。このうち、「誤教示」があった場合には、期間例外理由が 認められ、出訴期間を徒過した段階での例外的な救済が認められてきた(75 ) 。  例えば、主観的出訴期間( 1 項)に係る期間例外理由、「責めに帰すること ができない事由」が認められた事例として、東京地判昭和39年 5 月28日(行集 15巻 5 号878頁)がある。本件事案では、裁決通知書に同書到達後 6 か月以内 に裁判所に出訴できる旨の付記があったところ、当時行訴法はすでに制定・公 布され、その施行期日も定まっている状況であった。そして、施行される予定 の行訴法の下では、その旧法たる「行政事件訴訟特例法」(以下「行訴特例法」) と異なって、出訴期間が 6 か月から 3 か月へと短縮されることも判明していた ところであった(76 ) 。しかしながら、被告社会保険審査会は、原告に対して、漫 然と旧法たる行訴特例法の出訴期間 6 か月を教示してしまった。本判決は、こ うした被告側の誤教示を信頼して、原告が裁決通知書記載の 6 か月以内に取消 訴訟を提起したという事実を認定した上で、「責めに帰することができない事 由」を認めたのである。  また、東京高判昭和53年 6 月21日(行集29巻 6 号1173頁)(77 ) は、国税不服審 判所長が裁決書謄本を控訴人に送達したのち、同裁決書の訂正通知をあらため

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て控訴人に送達した事案である。控訴人は、裁決に係る取消訴訟につき、訂正 通知の送達を受けた日から起算すれば出訴期間内であると主張したものの、本 判決は、控訴人が裁決書謄本の送達を受けた日から出訴期間が開始していたと して、すでに出訴期間を徒過していると判断した。とはいえ本判決は、本件事 案における出訴期間徒過の原因について、控訴人代表者が、本件裁決の調査を 担当した副審判官から、電話口で、本件裁決の取消訴訟の出訴期間につき、訂 正通知が控訴人に郵送されたときから起算すべきとの誤教示を受け、それを信 じたことに求めるとともに、そのように信じたことをもって控訴人の過失とす るのは相当でないなどとして、「責めに帰することができない事由」を認め た(78 ) 。  さらに、神戸地判昭和59年 4 月25日(シュトイエル272号14頁)では、原告 に対し法人税額に係る更正処分がなされた後に、増額再更正処分がなされた事 案である。このような場合には、前処分については「訴えの利益」を失うとい う理解が判例の立場である(79 ) 。それにもかかわらず、原告は前処分取消訴訟を 提起してしまい、その提起後になって予備的請求として後処分取消訴訟を提起 した。本判決では、後処分につき出訴期間を徒過していると判断された。  もっとも本判決は、原告が被告税務署長の補助機関である統括国税調査官に 面会し、後処分について異議申立てをしたい旨述べたところ、同調査官から、 そうすることが無意味である旨の誤った教示を受けた――同調査官においては 増額再更正処分により当初更正処分が消滅することを知らなかった――ことを 認定するとともに、税務署内での同調査官の職務上の地位からして、原告がそ れに従ったことについては――たとえ通知書では後処分につき不服申立てでき る旨の記載があったとしても――無理からぬ事情があるとの理由から、後処分 取消訴訟の出訴期間を原告が徒過したことについては、「責めに帰することが できない事由」を認めた。  つぎに、客観的出訴期間(改正前行訴法14条 3 項)に係る期間例外理由、 「正当な理由」が認められた事例である。例えば、福岡高判昭和47年11月20日 (行集23巻10・11号832頁)は、所得税額に係る更正処分(前処分)後に、減額

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再更正処分(後処分)がされた事案である。こうした場合、後処分に関して取 消しを求める「訴えの利益」はないとの理解が判例の立場である(80 ) 。しかし被 控訴人税務署長は、前処分に対する審査請求期間内に送達された、後処分に関 する通知書の中で、控訴人納税者に対し、後処分につき不服があるときは一月 以内に被控訴人に対し異議申立てができる旨の誤った教示をしてしまった。  控訴人は、後処分を争えば前処分も当然争ったことになるものと考え、教示 に従って、後処分に対し異議申立て・審査請求をする一方、前処分については 審査請求をしなかった。その結果、控訴人は、前処分取消訴訟の出訴期間を徒 過することとなった。本判決は、控訴人として、後処分に対し不服申立てをす ることにより、前処分も当然不服申立の対象となるものと考えていたこと、後 処分に係る審査請求却下の裁決書謄本の送達を受けた日から起算するなら、 3 か月以内に前処分取消訴訟が提起されていることに徴すると、法律の専門家で ない控訴人が前処分取消訴訟の出訴期間を徒過したことには、「正当な理由」 があると認めた(81 ) 。 ( 2 )不教示と期間例外理由否定例  以上述べてきた《誤教示》の場合とは異なり、《不教示》の場合に関しては 期間例外理由が認められない傾向にあった。例えば、福岡地判昭和31年11月22 日(行集 7 巻11号2906頁)は、不法入国を理由に原告に対し退去強制令書発布 処分がなされたが、客観的出訴期間(本件では行訴特例法 5 条 1 項)内に同処 分取消訴訟を提起しなかった。本判決は、一般に「正当な事由」(同条 3 項) がある場合とは、「具体的な諸事情を衡量してみて、出訴期間を徒過したこと につき、その懈怠の責を訴提起者に負わしめることが著しく酷であると判断さ れるような諸事由がある場合」と解する。  その上で本件では、行政庁側に同処分につき「誤った救済方法を教示する等 の事情があったわけでもなく、ましてや行政訴訟の出訴期間について実際と 異った期間を説明する等の事情があったものでもなく、結局原告等は法務大臣 等に対して本件処分の救済運動をするうち一年の出訴期間を徒過して」しまっ

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たということであるから、「期間徒過の事情としては通例の域以上に出」るも のではないこと、また出訴期間進行中の原告の入院も格別の支障となっていな いことから、「期間懈怠の責を原告に負わしてもさして酷とするに足りない」 として、「正当な事由」を認めなかった。  また、那覇地判昭和59年11月 6 日(判自13号30頁)は、被告那覇市長が原告 に関わって行政代執行を実施したのち、その費用を納付させるため、原告に対 し「代執行に要した費用の納付について(通知)」と題する書面を送付し、 もって代執行費用納付処分をしたところ、原告が出訴期間徒過後に同処分取消 訴訟を提起した事案である。原告は、本件通知につき改正前行審法に基づく4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 教 示の記載がないことを理由に、客観的出訴期間に係る「正当な理由」(改正前 行訴法14条 3 項)がある旨主張した。  本判決は、「本件通知において被告が教示義務を果していないことは違法で あるというほかはない」としつつも、改正前行審法の教示制度は、「行政不服 申立制度の円滑な活用を図るために設けられた制度であって、これは、本件の ような行政事件訴訟法に基づく訴えの提起とは全く別個の制度であるから、前 記の教示義務を果していない違法は、本件の出訴期間不遵守とは直接関係のな いものであり、その違法をもって出訴期間不遵守の正当な理由とはなし得な い」とした(82 ) 。  さらに、必ずしも正面から期間例外理由の適用の有無が論じられた事例では ないものの、名古屋地判昭和62年 7 月27日(税資159号298頁)もある。これ は、国税不服審判所長による、原告の審査請求に対する棄却裁決に際し、出訴 に関する教示がなかったことを理由に、出訴期間を過ぎた段階での取消訴訟を 適法と認めるべきと主張したところ、「裁決には、再審査請求をすることがで きる場合を除き、いわゆる教示制度を定めた規定はなく、出訴期間自体は、行 政事件訴訟法14条により明定されているところであるから原告が裁決に際しそ の教示を受けなかったとしても、出訴期間の懈怠を正当化することはできない のみならず、右出訴期間の制度は、行政処分が通常多くの関係者に影響を与え るところから、一定の期間経過後は、その効力を争えなくすることにより、法

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的に不安定な状態を除去し、行政の円滑な遂行を計ることを目的とするもので あって、その合理的な存在理由に照らすと、右出訴期間を懈怠した者が、法的 救済を求めるつき一定の制約を受けるのも止むを得ない」として、原告の主張 を認めなかった。  以上のように、平成16年行訴法改正前の時点では、誤教示であるか、不教示 であるかというその《原因事実》の相違によって、期間例外理由が認められる か否かの判断が《正反対》となる傾向にあった。そしてその限りでは、〈教示 義務についての明文規定の有無〉という違いがあったにもかかわらず4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4、改正前 行審法と改正前行訴法では、原因事実の相違(誤教示か不教示か)と期間例外 理由をめぐる判断につき、パラレルな展開にあったものと言えよう(83 ) 。 ( 3 )行訴法改正による教示義務の新設とその後の判例学説  先にも述べたように、平成16年行訴法改正を通じて、主観的出訴期間に係る 「正当な理由」規定が設けられることとなったとともに、行審法と同様、「行政 庁の教示義務」(84 ) が新設されることとなった(同法46条)。例えば行政庁は、行 政処分をするに際して、その処分に係る取消訴訟の被告とすべき者、その処分 に係る取消訴訟の出訴期間、審査請求前置が取られている処分である場合には その旨について、相手方市民に教示せねばならないといった規定である(同条 1 項)(85 ) 。  教示義務規定新設に当たっての国会答弁――第159回国会衆議院法務委員会 (平成16年 4 月27日)房村精一政府参考人(法務省民事局長)答弁――による と、誤教示の場合には、「他に特段の事情がない限り、正当な理由があるとし て、適法な訴訟は提起されたという扱い」になる一方で、不教示の場合には、 「具体的な事案によってまた異なってくる」との留保付きながら、「正当な理由 があると認められるかどうかという点について大きな判断要素」になると述べ られている(86 )。また、平成16年行訴法改正過程にかかわった関係者も、不教示 が「正当な理由」に当たるか否かに関して、「全く教示がされなかった場合に ついては、いろいろな事情によると思いますけれども、ひとつの重要な要素と

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して考慮されることになるのではないかと思います。その事案ごとの個別の事 情と相まって、正当な理由があると認められる場合もあるだろうと考えている ところです。」(87 ) と指摘している。  平成16年行訴法改正後の裁判例として、例えば広島地判平成20年 5 月21日 (労働判例978号66頁)がある。もっとも本件は、正確に言えば、平成16年改正 前行訴法《施行前》に行われた処分4 4 4 4 4 4 4が問題となった、その限りで「過渡期」の 事件である(前掲東京地判昭和39年と比較参照)。内容は、地方公務員法に基 づく戒告処分に際して、出訴に関する教示がなされなかったこと――厳密に言 うと、誤って教示を行い、その後、書面によりその教示を撤回する旨を告知し たということで、本判決は、全体として見れば不教示に等しい旨判示している ――が、「正当な理由」に当たるか否かが争われた事例であった。  本判決は、平成16年改正後の行訴法施行後においては、「行政処分に係る取 消訴訟の出訴期間を書面により教示することを要求し、行政庁に教示義務を課 した行政事件訴訟法46条 1 項の趣旨にかんがみ、出訴期間について行政庁が全 く教示を行わなかった場合には、出訴期間を経過したことについて正当な理由 が認められる余地がある」と判示する。しかし他方で、「同法施行以前の段階 では、特則規定が設けられていない限り、行政機関には、出訴期間に関する教 示義務がなかったのであるから、教示が全くされないことは法の想定する範囲 内の事柄であって、教示がなかったことのみにより正当な理由を認めることは できない。」とした。  その上で、本件戒告処分が同法施行前の段階で行われたものであること、そ のほか不服申立て手段を教示すべきことを定める規定もなかったこと、原告ら において訴訟代理人に不服申立手段を尋ねることで同手段を把握することが容 易であったことなどを挙げて、本件事案において「正当な理由」はないとし た。本判決は、あくまでも《傍論》として判示されたに過ぎないものの、平成 16年改正後4の行訴法の下で、不教示が「正当な理由」に当たることを認めた事 例と言える。  また、大阪高判平成23年 1 月19日(LEX/DB 25470138)は、控訴人が、懲戒

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処分につき出訴期間を過ぎた段階で取消訴訟を提起したことに関して、そもそ も教示を受けていなかったことを理由に、「正当な理由」が認められるか否か が争われた事例である。原判決では、控訴人が所属する組合に相談していれ ば、出訴期間の存在等について情報提供を受けることが可能であったと推認で きること等の理由から、控訴人は教示を受けていなくても、出訴期間を知り得 る立場にあったと評価できるとして、「正当な理由」を否定し、訴えを却下し た。広島地判同様、関係者を通じて出訴期間等の存在を知りえたことが、「正 当な理由」否定の重要な論拠となっている。  これに対し本判決は、平成16年行訴法14条・46条をめぐる改正の趣旨が、 「被処分者にとって行政事件訴訟を利用しやすくわかりやすい制度にし、ひい てはその裁判を受ける権利を実質的に保障する」ことにあるとする。その上で 本判決は、「処分の際に出訴期間等の教示がなかったため、出訴期間経過後に 取消訴訟が提起された場合には、上記改正[=平成16年行訴法改正:髙木注] の趣旨に照らし、被処分者が教示を受けなくても上記出訴期間等を知っていた か、又はそれらを容易に知り得た等の特段の事情のない限り、同法14条 1 項た だし書の『正当な理由』が認められると解すべきである。そうでないと、被処 分者の権利利益の救済を得る機会を十分に保障することにはならないからであ る。」との一般論を提示した。  そしてこの観点から本判決は、原判決が「出訴期間を『知り得た』場合には 『正当な理由』が認められない旨判示しているが、これでは、控訴人が批判す るように、『正当な理由』が認められる場合を狭めることになり、行訴法改正 の際の立法者意思を没却するだけでなく、被処分者の裁判を受ける権利をも制 約することになりかねず、相当ではない。」と判示した。  その上で本判決は、「使用者から受けた懲戒処分等について不服がある場 合、訴訟を提起して争うことができることは一般市民においても当然に知りう べき事柄であり、まして、37年以上もの長期間被控訴人の職員であった控訴人 が知らないとは通常考えられず、仮に取消訴訟を提起できることを知らなかっ た場合には、知らなかったことについて重過失があると推認できる。」と判示

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する。  しかし他方で本判決は、認定された事実関係を踏まえると、控訴人におい て、「本件処分取消訴訟を提起することについて、出訴期間の定めがあるこ と、ましてその期間が 6 箇月であることを容易に知り得る状況にはなかったと 認めるのが相当である。」こと、控訴人は、「出訴期間の存在を知った後は、弁 護士に相談するなどして、速やかに本件提訴に至っている。」こと、「控訴人 は、本件処分当時、本件組合の組合員ではあったものの、同組合から出訴期間 等について情報提供を受けることが可能な状況にあったということはでき」な いことを挙げた上で、上記「特段の事情」はないとして、「正当な理由」を認 めた。  「正当な理由」の有無をめぐる判断に関して、被処分者が出訴期間の存在等 をなんとか知りえたか否かという要素よりも、教示義務が規定されているとい う要素に重きを置いた判断であると言え、その限りで広島地判平成20年よりも 一歩進んだ判断である。ともあれ、両判決は、「不教示」そのものの問題性を 基礎として「正当な理由」を緩やかに認めた(大阪高判平成23年)、あるい は、少なくとも緩やかに認める余地を示した(広島地判平成20年)という点 で、「適正手続の保障」(憲法31条)や「裁判を受ける権利の保障」(同32条) の見地からしても、注目に値する裁判例である。  学説では、不教示の場合をも念頭に置いた「正当な理由」の判断基準とし て、「処分等の内容・性質、行政庁の教示の有無およびその内容、処分等に至 る経緯およびその後の事情(とりわけ、出訴の障害事由解消後、遅滞なく訴え が提起されたか否か)、処分当時およびその後の時期に原告が置かれていた状 況、その他出訴期間徒過の原因となった諸事情を総合勘案して判断する」(88 ) と いった説がある(89 ) 。不教示につき「正当な理由」判断に当たっての重要な一要 素として論じていた、先に挙げた立法段階での議論を反映した説であると言え よう。しかし他方で、学説では、誤教示のみならず、不教示に関しても「正当 な理由」に該当するとして、さらに踏み込んだ説も有力化しつつある(90 ) 。

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第三節 平成26年行審法改正  平成16年行訴法改正後、幾度かの挫折を経て、平成26年に行審法が大きく改 正されることとなった(91 ) 。本稿との関連での改正内容のみに言及すれば、改正 後行審法の下でも、教示義務規定(同法82条)が置かれている。またその規定 内容についても、少なくとも本稿の問題関心からすれば、従来の教示義務の内 容を基本的には踏襲したものと評価しうるものであるので(92 ) 、ここでその規定 内容につきあらためて詳しく論じることは差し控える。  他方で、改正後行審法では、不服申立てが原則として「審査請求」に一元化 されるとともに(同法 2 条。むろん再調査の請求や再審査請求もあるが)、「審 査請求人の不服申立ての機会を保障することと審査請求に対応する行政運営上 の合理的負担等とを勘案し」て(93 ) 、主観的審査請求期間が従来の「60日」から 「 3 か月」へと延長されたこと(同法18条 1 項)が注目されよう(94 ) 。またあわ せて、主観的審査請求期間は、改正後行訴法の主観的出訴期間と同様に、「不 変期間」であることをやめたことも留意せねばならない(95 ) 。  さらに、改正後行審法では、「国民の権利利益の救済の観点から、審査請求 の機会を不当に奪うことのないようにするため」(96 ) 、主観的審査請求期間の期 間例外理由が、従来の「やむをえない理由」から、「正当な理由」(同項。再調 査の請求期間、再審査請求期間も同じ。同54条 1 項、62条 1 項)へと緩和され たことにも注目すべきであろう。もっとも、同法18条 2 項において、客観的審 査請求期間 1 年とその期間例外理由たる「正当な理由」に関して、基本的には 従来の規定が維持された点にも留意が必要である(再調査の請求期間(同54条 2 項)、再審査請求期間(同62条 2 項)も同様)(97 ) 。  そこで、新たに緩和されることとなった、主観的審査請求期間に係る「正当 な理由」の含意についてである。行政不服審査制度検討会「行政不服審査制度 検討会最終報告(行政不服審査法及び行政手続法改正要綱案の骨子)」(平成19 年 7 月17日)によると、「審査請求期間について教示がされなかった場合の救 済が認められるようにするため、主観的審査請求期間の例外を認めるための要 件を、『やむをえない理由』から『正当な理由』に改正することとする。」との

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説明がなされている(98 ) 。期間例外理由を「寛大な条文」(99 ) へと変更するに当 たっての立法動機として、不教示の場合の救済を可能ならしめる点があったこ とが窺われる(100 ) 。  また「正当な理由」について、「処分の際に不服申立期間について、旧法第 57条に基づく教示がされず、又は誤って長期の申立期間が教示され、当事者が 他の方法でも申立期間を知ることができなかったような場合をいう」とし、 「行政事件訴訟法第14条に規定する『正当な理由』と同義」であるとの解説も ある(101 ) 。先にも述べたように、改正前行審法の「やむをえない理由」の解釈 の下では、同法に教示義務が定められていたにもかかわらず4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 、不教示の場合に 関してはこの「やむをえない理由」には当たらず、期間例外的な救済が認めら れていなかった。  しかし改正後行審法によって、行訴法同様、行審法に関しても、期間例外理 由が「正当な理由」へと緩和され改正されることとなったことから、不教示に 対する扱いについても一歩進むこととなりそうである(102 ) 。すなわち改正後行 訴法において、新たに創設された教示義務規定を手掛かりに、不教示の場合に おいて、緩やかに出訴期間の例外理由(正当な理由)が認められるようになっ てきたのとパラレルに、改正後行審法においても、改正前から明記されていた 「教示義務」と、改正によって緩やかになった不服申立期間の例外理由(正当 な理由)とが接合されて、不教示の場合にその期間例外理由(正当な理由)に 該当すると解される素地が生じてきたのである(103 ) 。 第四節 小括  本章これまでの議論をまとめよう。改正前行審法4 4 4と同様、「行政庁の教示義 務」が、平成16年改正を通じて、行訴法4 4 4 においても導入されることになった。 そして今度は、改正後行訴法4 4 4と同様の期間例外理由、すなわち「正当な理由」 が、平成26年改正を通じて、行審法4 4 4 においても導入されることとなった。この ような行審法と行訴法との間での、「行政争訟」法改正をめぐる〈相乗作用〉 の結果、従来から期間例外理由の原因事実に当たるとされてきた「誤教示」の

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みならず、――従来からそうとはされてこなかった――「不教示」に関して も、行訴法・行審法を通じて、期間例外理由(正当な理由)に当たるものと理 解されるようになってきた。以上のような状況は、適正手続(憲法31条)や裁 判を受ける権利(同32条)の保障からして、非常に好ましい動向であるといえ よう。  とはいえ、このように教示義務が行審法・行訴法を通じて横断的に課され、 教示義務違反(誤教示及び不教示)の場合の効果(サンクション)に関して も、両法横断的に解釈論的に整いつつある一方で、《教示義務の対象》となる 「処分」をめぐる解釈上の不明確さが問題となってきている。もっとも、この 点に関しては、何も今になってはじめて問題となっているということでもな い。むしろ、〈不服申立ての対象〉について、訴願法の「限定列挙主義」(104 ) か ら、改正前行審法の「一般概括主義」への移行に伴って、教示義務の対象であ る「処分」が不明確になりうる旨、従来から指摘されてきたところでもあ る(105 ) 。  例えば、ある論者は、行政不服「審査法は、すべての処分に対し、不服申立 をゆるすことを原則としているのであるが、いうところの、行政処分の意味 は、甚しく不明確である。行政庁の行為には、行政処分にあたるものとそうで ないものとがある。処分と私法上の行為との区別、処分と勧告的意見の陳述に 過ぎず処分でないものとの区別等、ある行政庁の行為が行政処分にあたるかど うかについては、訴訟の面では、裁判所も常に苦しめられ、幾多の判例のある ことは周知のとおりである。」(106 ) と指摘する。  また、(改正前行審法の)教示義務をめぐり「そもそも行政処分かどうか不 明な例の扱いをどうするかという問題」があるとの例として、「人事異動、昇 給延伸、営利企業従事の不許可、現業公務員の配置転換、公営住宅の入居拒否 決定、補助金の交付決定など」を挙げ、「平均的庶民にとってはいったい処分 として不服申立てできるのか、そうでなければどういう救済方法があるか見当 がつかないだけでなく、処分庁の職員にとっても同様であろう」(107 ) との指摘も あった(108 ) 。

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 こうした問題状況は、平成16年行訴法改正に伴い教示義務が導入される一 方、処分性拡大判例を通じて処分性の有無がよりいっそう不明確になりつつあ る今日的な動向のもとで、解消されるどころか、かえって、行審法のみならず 行訴法の問題にもなってしまい、問題の複雑さを倍加させてしまっている。こ の点については、処分性拡大判例が出され始めたと同時期の平成16年行訴法改 正の際に、教示義務の対象たる「処分」の不明確さへの危惧が示されていた点 からもうかがわれるし(109 ) 、また処分性拡大判例が蓄積してきた平成26年行審 法改正段階では尚更のことであろう。  このような近年の立法動向(平成16年行訴法改正・平成26年行審法改正)と 近年の判例動向(処分性拡大判例)との《交錯点》において、本稿が主題とす る《処分性拡大に伴う教示義務拡大》問題が浮上してくるのである。すなわ ち、先に述べたように、従来の判例・学説・立法の到達水準として、「行政処 分」であることが解釈上ほぼ問題ない事案に関しては、《不教示ゆえに正当な 理由が認められる》という法理(規範命題)が、行審法・行訴法横断的に成立 しつつある動向である。しかしながら、このことから直ちに、行政処分である か否かが裁判所の「仕組み解釈」によってはじめて判明する、裏返せば、行政 庁であれ市民であれ、その行政活動に処分性があることにつき、制度的な「予 測可能性」が保障されていなかった処分性拡大事案に関しても、上記法理が同 じく成立することとなるとは必ずしも断じえないのである。 第三章 処分性の拡大と行政庁の教示義務  本章では、「処分性拡大に伴う教示義務拡大」問題をめぐる判例学説の議論 動向を検討した上で、この副作用問題について、「均衡解釈」論という見地か ら、あるべき対応策を考察していく。 第一節 処分性と教示義務との関係  これまで、行訴法と同様、行審法でも、処分性が認められない行政活動に関 しては、教示義務も認められないこととされてきた。例えば山口地判昭和56年

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10月 1 日(訟月28巻 1 号14頁)は、国土利用計画法24条 1 項に基づく勧告につ いて、「これが尊重されることを前提としていることはいうまでもないが、届 出当事者を法律上拘束する意味を有するものではない一種の行政指導であっ て、直接的には何らの法的義務を伴なうものではないから、行政不服審査法57 条 1 項の教示を行なうべき対象たる処分に該当しない」として(110 ) 、教示義務 の 対 象 と 認 め な か っ た。 同 じ く、 東 京 地 判 昭 和 57 年 3 月 30 日(LEX/DB 22800105)も、公売通知が「それ自体として相手方の権利義務その他法律上の 地位に影響を及ぼすものではなく、処分とはいえないので、公売通知自体に対 する不服申立てを教示する必要はない。」(111 ) として、教示義務の対象と認めて いない。  さらに、改正後行訴法の下でも、「行政庁の公権力の行使には当たらないた め処分ではないとされる行為をする場合は、取消訴訟を提起することができな いため、取消訴訟の提起に関する事項を教示する必要はありません。」(112 ) と指 摘されている。  加えて、処分性が認められる行政活動であったとしても、改正前行審法57条 ないし改正後行審法82条の文言からして、特定の個人ないし団体を名宛人とし ない処分に関しては、教示義務が認められない(113 ) 。同じく、文言からして、 口頭でする処分に関しても教示義務が認められない(114 ) 。そしてこの扱いも、 平成26年行審法改正前後で変わらない。  一方、(継続的性質を有する)事実行為が「処分」に含まれることを明示し ていた改正前行審法(115 ) の下では、「事実行為は、教示になじまないから、対象 から除外され」(116 ) てきた。もっとも、改正後行審法の下では、「処分」の定義 を行訴法や行手法の「処分」の定義に揃えるべく、旧規定中の事実行為が含ま れる旨を明示する部分を削除した。削除された理由は、明示規定のない行訴法 や行手法の解釈においても、事実行為につき処分性が認められることにつき異 論がないので、わざわざ行審法にのみ明記する実益に乏しいことが挙げられて いる(117 ) 。この理由がどこまで妥当であるかはともかく(118 ) 、事実行為に関する 処分性の有無に関しては、行訴法の場合と同様、解釈に委ねられる結果となっ

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た(119 ) 。  とはいえ、行審法と行訴法の「処分」の関係をめぐっては、両法の処分概念 を必ずしも同じものと解さない議論もある(120 ) 。しかし現状では、「同じ行政争 訟の制度に係る規定として、『処分』の概念を特に別意に解する必要性は薄 い」(121 ) ので、「ほぼ同義」(122 ) という理解が有力なようである(123 ) 。またこの理解 の延長線上で、ある論者は、処分概念には定義がなく、行訴法や行手法と共通 に判例に任せていることから、平成26年行審法改正段階で議論をまとめること は無理であったことは認めつつも、「本来は行政法上もっとも重要な概念であ るから、いずれしっかりした定義が必要である。」ことを指摘するとともに、 近年の処分性拡大判例をも踏まえて、「行政不服審査においても、判例に倣っ て、処分性を緩和すべき」と主張する(124 ) 。  さいごに、学説における伝統的な処分性拡大論、具体的には「形式的行政処 分」論(125 ) の下で、処分性と教示義務の関係がどのように論じられてきたのか をみていこう。ある論者は、改正前行審法でいう「教示義務を伴なう『処分』 は、取消争訟の所定手続でのみ争いうる実体的行政処分であると解される。」 とした上で、「形式的行政処分は、救済を求める必要上から国民の側で行政処 分性を見たてるものだから」として、教示義務が適用されない旨示唆してい る(126 ) 。しかしこの説に対しては、「法律の明文ないし解釈によって処分性が認 められる行為(補助金交付決定、行政財産の目的外使用許可など)については 教示義務があると解すべき」との指摘もある(127 ) 。 第二節 関連判例の分析  行審法・行訴法とで「処分」を同義に解釈する通説的な方向性での議論を前 提とするならば、処分性の拡大に伴って、行審法・行訴法上の教示義務に関し てもその拡大的な適用が問題となる。また、ここで教示義務の拡大的な適用が 認められるとしても、教示義務違反(不教示)の効果(サンクション)を不服 申立期間・出訴期間徒過に係る期間例外理由、「正当な理由」との関係でどの ように評価していくべきなのかという問題が生じてくる。

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 すなわち、〈処分性拡大事案〉においても、前章までで考察してきた典型的 な「行政処分」が問題となっている場合と同様、《不教示ゆえに正当な理由該 当》として、不服申立期間・出訴期間を徒過した段階での例外的な不服申立 て・出訴を認めてしまっても良いのかという問題である(128 )。この問題に関し て正面から回答している判例は、管見の限りでは見当たらない(学説も同じ)。 そこで以下では、この問題に《近接する》判例を素材としながら、同問題に係 る対応策に関して考察を深めていく方法を採ることとする。 1 .処分性拡大判例以外 ( 1 )壁面線指定事件(最判昭和61年 6 月19日:判時1206号21頁)  本件では、横浜市長が、建築基準法46条 1 項に基づき、特定行政庁として、 壁面線の指定(以下「指定」)をした。指定対象土地の所有者や借地権者等の 土地利用者(原告)は、被告横浜市長に対しては、指定の取消しを求めるとと もに、指定の取消しを求める審査請求につき却下裁決を下した被告横浜市建築 審査会に対しては、その裁決取消しを求める訴訟を提起した。本件では、指定 の適否以前の問題として、指定の処分性の有無、主観的審査請求期間の起算 日、同期間徒過の有無が争われた。  一審判決(横浜地判昭和59年 3 月14日:判時1127号96頁)は、処分性に関し 明確に判断しないまま、指定の公告日の翌日から起算すべきとした上で、本件 事案における審査請求期間徒過を認めた。また一審判決では、同期間に係る期 間例外理由たる「やむをえない理由」が認められなかったほか、指定に関して は、改正前行審法57条 1 項が前提とする、書面でする場合に当たらないので、 教示義務の懈怠の前提を欠くなどとして、訴えを不適法却下した。  控訴審判決(東京高判昭和60年 9 月26日:判時1180号42頁)は、「指定が あった場合には、同法[建築基準法:髙木]47条により、線内に存する土地の 所有者、その利用権者、建物の所有者、その賃借人等の利害関係人は、将来建 築物を新築あるいは増改築するに際し、壁面線を越えて建築物の壁若しくはこ れに代わる柱又は高さ二メートルをこえる門若しくはへいを建築することが許

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されないことになるのであるから、右指定は、利害関係人の法的地位に直接具 体的な変動を及ぼす個別的な処分の性質を有するものといわざるをえず、抗告 訴訟の対象となる行政処分にあたる」として、指定の処分性を正面から肯定し た。その上で、一審判決同様、指定の公告日の翌日から審査請求期間を起算す べきとして、本件事案における同期間徒過を認めた。  また控訴審判決では、改正前行審法57条 1 項の解釈上、指定が書面でする場 合に該当すると解した上で、被告は公告に際し、同項に基づき不服申立てがで きる処分である旨の教示義務を負っていたこと、それにもかかわらず教示義務 を履行しなかったことを認めた。とはいえ、行政庁が教示を懈怠したとしても 指定は無効とならず、また懈怠があったからといって審査請求期間の進行が妨 げられるわけでもないとも判示している。むしろ、こういった場合の「期間の 徒過は専ら不服申立人の法の不知に起因するもの」に過ぎないとして、前掲東 京地判昭和45年の論理を用いて切り捨てている。  その上で、「行審法14条 1 項ただし書にいう『やむをえない理由』とは、本 人又はその代理人において通常用いることが期待される注意をつくしてもなお 避けることのできない事由をいうものと解すべきところ、教示の懈怠は右事由 に当らず、そのほか、控訴人らに右事由があった事実は、これを認めるに足り る証拠がない。」等の理由から、本件訴えを不適法却下した。前章で検討した ような、不教示は「やむをえない理由」に当たらずとする判断である。  本判決(最高裁判決)は、指定の処分性に関し正面から論じないまま、行審 法57条 1 項が「特定の個人または団体を名あて人とするものでない処分につい てはその適用がない」との解釈に立った上で、「壁面線の指定は、特定の街区 を対象として行ういわば対物的な処分であり、特定の個人又は団体を名あて人 として行うものではない」として、控訴審判決とは対照的に、指定につき行審 法57条 1 項に基づく教示義務がそもそも適用されないと判断した。  かくして本判決は、処分性肯定を前提としつつも、「対物処分」性を理由 に、教示義務不適用を導き出したわけである(129 ) 。もっとも、処分性拡大判例 の「判例法理」(130 ) から、本件事案を振り返って考えれば、壁面線が指定により

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設定されたにもかかわらず、それを超える建築物の壁や柱等の建築(建築基準 法47条)がなされると、これらの違反物件に対しては特定行政庁による是正措 置命令(同法 9 条)の対象となりうること(131 ) 、その限りで壁面線の指定と是 正措置命令との関係性(連続性)を手掛かりに、指定の処分性を肯定するとい う解釈もありえたと思われる(132 ) 。しかし二審判決、さらにそれを黙認した本 判決(133 ) は、同法47条に基づく制限を根拠に処分性を肯定した(134 ) 。その限りで 本判決は、処分性公式を「素直に」適用したものといえる(135 ) 。  もっとも、「本件の壁面線の指定のように、その処分性を承認するというの であれば、なおのこと、行政庁の教示義務を肯定すべきではないか」(136 ) という 指摘を踏まえるのであれば、本判決に関して、対物処分性に依拠して教示義務 不適用が認められたということだけで済ますのではなく、「処分性拡大に伴う 教示義務拡大」問題との関連でも検討していく余地があるように思われる(137 ) 。 ( 2 )公衆浴場営業許可申請書返戻事件(長野地判昭和62年 1 月22日:行集 38巻 1 号10頁)  本件では、被告保健所長が原告提出の公衆浴場営業許可申請書を「返戻」す るのみで、「不許可処分」という表示も形式もとらなかったところ、後の裁判 (不作為違法確認訴訟)の中で、被告側が本件返戻行為について「不許可処 分」に当たると予備的に主張し、最高裁まで争ってその主張が認められること となった。そこで原告は、あらためて不許可処分取消訴訟を提起したが、その 提起時点では同処分に係る出訴期間を徒過していた。原告は、一般市民である 原告が、本件返戻行為について不許可処分であると知らなかったことはやむを えず、出訴期間を徒過していたとしても期間例外理由に該当するなどと主張。  本判決は、行訴法14条の起算日が前提とする「『処分を知った』といいうる ためには、取消の訴えを提起しようとする者が、その訴えによって不存在の状 態に引戻そうとする当該法律効果の発生原因である行政庁の行為の存在を知っ たことで足り、行政庁の行為についての抽象的な処分該当性の認識をも要する とは解されないこと」等の「諸点からすれば、行訴法14条 1 項の出訴期間の起

参照

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