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裁判別居の機能--その離婚との関連における立法的考察 利用統計を見る

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裁判別居の機能--その離婚との関連における立法的

考察

著者

三田 高三郎

雑誌名

東洋法学

4

2

ページ

23-48

発行年

1961-03

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00007793/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja

(2)

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その離婚との関連にゐける立法的考察

外国法制においては、裁判離婚と裁判別居との二本立にするものが少なくない。大陸法系で、例えばフランス、 ベ ル ギ l 、デンマーク、 ハ ン ガ リ ー 、 ルクセンプルグ、 ノ ル ウ ェ ー 、 オ ラ ン 、 ダ 、 ポ ノレ ト ガ ノレ

ス ウ ェ ー デ ン 、 ス イ ス 、 トルコ等がそれである。 ス ペ l イ ン 、 イタリーの如きは離婚を認めず、別居制一本立である。 わが法においても離婚制度に併行して、裁判別居を認める実益があるかどうか? それについて、本稿は主として フランス法を中心として、離婚との関連において若干の立法的考察を試みるものである。 第 前近代的離婚の観念および別居の起源 古代法では離婚を認めていた。 ローマ法においては、裁判官の介入の必要なく、また当事者双方の合意の必要もな く、広い態様において離婚が認められた。 一方的意思による離婚は、未側からも、また妻側からも可能とされた。ゲ ルマン慣習法においても、夫は妻に対し自由に特定の原因なくして一方的に離婚をなし得た。これらは、各その時代 裁 判 別 居 の 機 能

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東 洋 法 学 二 四 における婚姻に対する道義観の低さを示すものである。 婚姻非解消の原則が導入されたのは、キリスト教会によるものである口教会は離婚を認めたロ l マ法やゲルマン慣 習法に反抗し、漸次離婚を禁圧してきた。まことにキリスト教会は、婚姻に対し、最高のモラルを付与したものであ る。キリスト教的思想によれば、婚姻は造物主が男女を造られたとき自ら設定した本源的制度であって、それは進化 論者のいう人類の原始時代は動物と同様な雑婚が生殖の普通・正常な仕方であったとする説を否定することである。 婚姻は神的起原に基くから宗教性・聖性を帯びるものとした。それは、第一義的には子女の生育を目的とし、第二義 的には夫婦の相互扶助の性慾の合法的充足を目的とする。天主が婚姻の第一義的目的を子女の生育にありとしたの は、これにより人類の維持確保を欲するからであり、天主が女を造ったのは男に﹁適う助手﹂を与えるためであり、 このようにして天主は生理的・心理的に異なる特性を持つ男女が結合し相互に扶助することを欲したとするのであ る。すなわち婚姻は天主による男女の結合であり、人が勝手にこれを引離すべからざるものとした。 聖 書 に よ る と 、 マタイ伝第十九章第九節には﹁われ汝らに告ぐ、 おほよそ淫行の故ならで其の妻を出し、他に要る 者は姦淫を行ふなり﹂とあり、 マルコ伝第十章第十一節には﹁イエス言ひ給う。おほよそ其の妻を出して他に要る者 は、その者に対して姦淫を行ふなり﹂とあり、またルカ伝第↓六章第十八節には﹁凡てその棄を出して他に要る者は 姦淫を行ふなり﹂とある。すなわちマタイ伝によれば妻の姦通を原因として離婚を許すようでもあり、 マルコ伝およ びルカ伝によれば離婚を絶対非とする趣旨にとれる。そして、 マタイ伝の言葉に基いて姦通を原因として妻を離婚す ることが認められた時代もあったが、聖オ

1

ガスチニウスは絶対的婚姻非解消の原則を擁護し、この原則は特に第八

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世紀以後しばしば宗教会議において宣言され、第十二世紀以後においては離婚禁止については異論なきに至った c このように離婚は認められなくなったが、深刻な不和により夫婦の同居関係を維持することが不可能な場合の救済 として、教会は別居制度を設けるに至った。 別 居 は 、 カノン法によりその効果を減縮された古代の離婚に外ならなかった。それは不仲の夫婦をして別離の生活 をさせるが、各自は他の者と再婚することを禁ぜられたものである。すなわち各配偶者は、相手方の生存中は再婚は 許されず、離婚は単に居住の分離に帰するに過ぎなかった。別居と古代の離婚と異なる点は次の如きものがあった。 古代の離婚は配偶者の一方の意思のみにより生じたが、 カノン法的離婚は裁判上宣告されることを要し、従って管轄 は教会に属した。この原則は非常に早期に確立されたらしく、紀元五

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六年 k p m 仏 ぬ の宗教会議において既にその存 在が想像されるといわれている。この原則は教会により認められた離婚原因

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の存否を審理 する必要の上に基礎づけられたのである。爾来この原則は常に遵守され、民事裁判管轄の権限とされた点を除き離婚 およば別居に関する近代飛において継受されたのである。 次 に 、 フランス古法においては、別居は妻のみがこれを請求し得た。法律が夫の暴力、虐待もしくは権力の乱用か ら妻を保護せんとしたやり方は専らこの別居の方法によるものであった。そして妻に対し行使を許したところの別居 の原因については限定されなかった。どのような情況の下において、妻は別居を請求し得るかは、専ら裁判官の判定 にまかせられた。そしてそれを別居を必要とする正当な原因吉弘

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と呼んだ。その最も通常な動機は、夫 が妻の上に行う虐待から出た。 裁 判 別 居 の 機 能 二 五

(5)

東 洋 法 学 一 一 六 ポテイエはいう。妻に対し、神が合せたるその夫の住居から別離させることは易く許さるべきでない。しかし正当 な原因ある場合には裁判官は妻にそれを許さねばならない。何となれば、政治的秩序の原則によれば、人は、 しては 主 ‘ ﹁ / ﹁ ム パ : 、 手 J 戸 レ V J v γ d y v 品 μ しかしより大なる悪を避けるためには小なる悪を許容せねばならないからである。さて、もしも彼らを 一緒にして置くことにより、彼ら夫婦の聞に毎日起ってくる靴様、葛嬢は、彼らの別居よりも非常に大なる悪である ことは疑いない。従って、その悪を避けるために、そこに正当な原因あるときは妻に対しその夫の住居から別離する ことを許容しなければならない

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拘 0 ・ ロ 0 ・ u c ∞・)ポテイエは、この正当な 原因とは何か、これを決めることは容易でないとし、 一般的に妻がその夫より向けられた反感について著しく苦悩 し、かっ真心からの和解に対する期待の余地のない場合の如きは、 いわゆる正当な原因ありとして別居が許さるべき であるとしている。これに反して、夫に対しては彼が権力を有していたので同様な方法による保護の必要は考えられ なかった。それ故に、夫に対しては妻の姦通以外には別居を請求する権利は拒否された(思︾忌山 O M -吋 同 色 広 ロ 0 ・

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。 そこで、夫は妻に対し、 ユスチニウス新勅法の適用により妻を修道院に閉込めることになる刑事訴権を行使し得た。 そして二年の終りにおいて、もし夫、が妻と一緒になるため家に引取ることを承諾しなかったときは、妻は髪をおろし 生涯を尼寺に送ることを余義なくされた。 第

近代法における離婚および別居の意義

カノン法による教会的婚姻制度は、第十六世紀に至り新教徒により著しい改変がなされた。新教徒によれば、婚姻

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ザグルマン は最早秘蹟たる性質は否定され、 一民事的制度たるに過ぎなかった。まことに、彼らにとり婚姻は衣服・食糧・家屋 と同じように外面的かっ世俗的事項に過ぎなかった口宗教改革以来、婚姻に関する多くの世俗の法律が受けたところ の観念はこのようなものであった。そして、それは根底において離婚を認めることにあった。そして、新教派教会の 神学および法令によれば、離婚は実に聖書の章句に基くことになる。すなわちマタイ伝第十九章九節、またはコリン ト前書第七章十五節等の姦通もしくは悪意の遺棄による離婚が理由づけられた。また婚姻の非秘蹟的性質から世俗的 権力による離婚の宣告も当然のこととされた。その領土内において絶対的権力を有する王侯は、国家の法律の権威に より、聖書の章句に基くことのない理由についてすらも婚姻関係の解消を認めようとした。 フランス革命後においては、最早婚姻は民事契約の一つとしてのみ認められ、必然的に離婚制度の創設にまで推進 され、かくして一七九二年九月二十日法が制定されるに至った。この革命時の立法議会が離婚を創設したとき、別居 制度は廃止された。この改革につき革命時の人々は教会立法により導入された婚姻非解消の原則に対する単純な廃止 として考えたに過ぎなかった。しかし、やがて彼らは絶対離婚の単一の制度がカトリヲク教徒の宗教的信念に対し侵 害をもたらすことに気づいたのである。そこで、 カトリヲク教徒に対し、離婚と別居との間の選択を与えることを妥 当とする考え方に傾いた。いわゆるカトリヲク教徒の離婚なる考え方である。 古法原理と革命思想との調和的作物であるナポレオン法典は、離婚を認めると共に別居を再設した。前者について は一七九二年法が離婚を余りにも容易にし、准用の弊に陥ったことに鑑み、 ナポレオン法典においてはその濫用を防 ぐことに意を用いた。 裁 判 別 居 の 機 能 二 七

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東 洋 法 学 二 八 民法一編纂者は離婚については第四章七十七か条を含む多くの条文を設けたが、別居については第五章で現行六か条 の条文を設けたに過ぎなかった。このような簡潔さは、適用上いろいろな難問を生ぜしめた。こうした別居に関する 規定の簡潔さは、編纂者が別居制度をカトリヲク教徒の慣習に対し法律で離婚に代わる補助的制度とのみ考えたこと が明瞭である。そこで、別居の章を補足する必要が生じ、 かつ基本的な解釈規準が樹立された。すなわち、離婚に関 する諸規定は、明示または黙示の規定によりその適用が禁止されてない限り総ての場合において別居に拡張、適用さ れるべきものとした。 一 八 一 四 年 、 ルイ十八世の憲章によりカトリヲク教が国教となり、それにより離婚が禁ぜられた。その際離婚に関 する法典の規定は削られることなく、単に EFO 門 出

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とのみ表示された。それ故に、離婚の条文た る文字は周年になされた法典の公式編纂の中に維持されたが、それは最早存在しなくなった離婚に不適用となり、そ れら条文は一八一六年から一八八五年(離婚復活)まで単一の存在であった別居のために保有された。 一八八四年に離婚が再設されるや、自然的に別居裁判の数は著しく減少した。もっとも、そこには別居の効果を減 殺させる一つの原因があった。それは、妻は別居を得ても妻たるの身分に基く無能力の状態に置かれ、その結果妻は 法律行為をなすにつきその都度、別居する夫の授権を要請するのやむなき事情にあったからである。この重大な不便 は一八九三年二月六日法で除去されたので、爾来別居の妻は完全に法律行為能力を与えられるに至った。これ以後、 別居の数は俄かに上昇した。 参考 同 ∞ ∞ ∞ 刊

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八年二月六日法は、別居制度に対し重大な変改を加えた。それは別居が婚姻関係を維持しつつ、すなわち再婚 の機会を与えられることなく別離の生活をなさしめることを自由に反するものとした。そして同法は別居の配偶者の 請求あるときは、裁判所は離婚への転換を言渡さなければならないとするものである。ここにおいて、別居は離婚の 控室mp 氏。 F m H

σ H 1 0 に過ぎないものと化した。なお一九四八年五月二十九日法は、別居を得たところの過失なき配偶 者に対し損害賠償の請求を許与した。 第 裁判別居制度の概略 外国法制の内代表的なフランス民法における制度について概略を述べる。 一、別居訴権の要件 (1) 別居原因 別居原因は、諸外国の法制の多くが離婚原因と同一にしている。離婚を認めないイタリーの場合は、 仔) 姦通││妻についてはすべての場合、夫については、妻に対し重大な侮辱を構成する状況を伴う場合に限られ る (p) 悪意の遺棄 (1~ 酷遇││暴行・虐待・重大な侮辱を含む 裁 判 別 居 の 機 能 二 九

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東 洋 法

学 約 五年以上の懲役または禁個刑の宣告 何守 夫において妻に応わしい世帯のため確定的な住所を設けることを拒一合した場合 と し て い る 。 またスペ l イ ン で は 、 カトリ?ク婚と民事婚とがあるが、民事婚の場合の別居原因は次

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通 り で あ る 。 仔) 姦通││妻についてはすべての場合、夫については、それが公知の醜聞をなしもしくは妻に対し侮辱となる場 メh、 ト4 同 暴行または重大な侮辱 ( 内 改宗を余儀なくさせるため妻に加えられた夫の暴行 約 妻を売淫させるための夫の誘引 信守 子たる男児を墜落させ、または女児を売淫させるための夫または妻の共謀 付 重刑宣告 で あ る 。 と こ ろ が 、 スウェーデンの家族法典における別居原因は離婚原因と同一でない。同法典第九章・第一条・第二条の 規定がそれである。 、 ‘ , J p q , , ‘ 、 深刻かつ永続的な不和のため同居を継続することが不能であると認められる場合。この場合には、夫婦間に合 意が成立すれば共同で別居判決の請求をなし得る

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(ロ) 配偶者の一方が相手方配偶者または共同の子に対し扶養義務の履行について重大な僻怠ある場合、もしくはそ れらの者に対する他の義務について著しい範囲において怠った場合、または酒類・麻酔剤の濫用もしくは放持な 生活を送る場合。この場合には相手方配偶者一方の利益において別居を言渡すことができる。ただし、その者自 らの行為に基く、もしくは他の特別の事情によりその者が同居を継続すベく適法に義務づけられている場合は除 外される (1'ち 性格または意見の不一致その他の動機から夫婦聞に深刻かつ永続する反目が生じた場合。この場合には別居を 欲する一方配偶者かち別居判決を請求し得る。ただしその者自らの行為に基く、もしくは他の特別の事情により 同居を継続すベく適法に義務づけられている場合はこの限りでない 以上は離婚原因と別居原因とが異なる場合の例であるハ離婚原因についての各国の立法例に関しては、 拙著﹁婚姻事件訴 訟 の 研 究 ﹂ 一 四 一 頁 以 下 参 照 ) 。 さ て 、 フランス民法の下においては別居原因は離婚原因と同一である。すはわち離婚原因たる

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姦通、制刑の宣告 的虐待、科重大な侮辱等がそのまま別居原因とされる。立法者の意思は、請求者(原告)をして離婚を選ぶか、それ とも別居を選ぶかは請求者の意思にまかせる趣旨である。いずれの請求においても、原因として役立つところの事実 は同一である。嘗って、 一 九

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八年以前における判例の態度は、請求原因が姦通のような厳格原因によらない場合に は離婚を許与するよりも別居を許与する上においてより容易さを示した。これと同様の傾向はモナコにおける別居訴 訟の場合にも見られることが指摘されている。 裁 判 別 居 の 機 能

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東 洋 法 学 しかしフランス民法の場合は、法律改正により別居を離婚に転換し得ることが認められるに至り、別居判決と離婚 判決との聞に上述のような差別を付することは許容されなくなった。 日 ノ “ 別居は裁判上宣告されることを要する。すなわち別居は離婚と同様に裁判によらなければならない。 相互の合意の排除 フランスにお いても夫婦の合意による別居が相当数多く行われているらしいが、任意的別居は無効とされ何等法律上の効果を生ず ることはない。判例の態度は厳格であって、別居を可能ならしめるためになされた贈与はこれを無効とした。任意的 別居は夫婦問でそれを遵守する限りにおいて合意した期間続くだけで、この合意に法律的拘束力を生ずる訳ではな い。夫婦は各自その私的権能により婚姻から生ずる義務を免れることはできないとする考え方である。 相互の合意による別居を認めるのはイタリー法である。それによれば当事者は特定の原因に基くことの必要なく別 居を合意することができる(民法一五八)。 この方法は、夫婦共同の申請に対し、裁判長は別居訴訟の場合と同様に先 ず和諮を勧告する D この和諮不調となるやこれを調書に作成し、その調書には別居が夫婦共通の意思であることと、 その合意の内容を明確にする。もし夫婦が既に証書を用意して来たとすれば、それを調書に添付する。この調書につ いては裁判長の報告の後評議を経て裁判所として承認される。この承認が別居の効力を生じさせることになる。 (3) 離婚または別居の選択 一般の立法例と同様に、 フランス民法でも請求者は離婚または別居の二者について選択権を有する。すなわち、そ の選択により或いは離婚を請求し、或いは別居合-請求し得る。いずれが適切であるをを評価判断するところのものは

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当事者であって裁判所ではない。請求者がもしも、時が相手方配偶者の悔悟を導くであろうとの望みを抱いているな らば、先づ別居で満足し得るであろう。またもし、その期待が裏切られ希望が消滅するならば後に別居を離婚への転 換請求が許されるのである。時として請求者は少くとも一定期間相手方配偶者をして再婚を不可能ならしめるために 別居を選択することもあり得る。 なお一八八六年四月十八日法により離婚訴訟手続に関する民法第二三九条が改正された結果、離婚請求者は離婚訴 訟手続の全過程においてこれを別居請求に変更することが許されることになった。これは離婚に対する一のレヂスタ ンス的思想によるものであって、離婚請求をしてその主張の調子を下げて効果の弱い別居請求にかえることの手続を 容易ならしめる趣己円である。このように離婚請求を別居請求に調子を下げることに関する場合は許されることの反 面、別居請求をその訴訟中に離婚請求に変更することは許されず、その請求の変更はこれをなし得ても、離婚請求の ため総ての手続をやり直さなければならないと解せられている D 別居に関する訴訟手続は大体において離婚訴訟手続と同様である。民法第一二

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七条は離婚訴訟手続に関する第二三 六条乃至第二四四条の各規定を別居訴訟に準用した。そして離婚訴訟においては、被告から反訴として離婚請求をな し得る(二三九 E ) そこで別居請求については相手方から反訴として別居請求をなし得ることは問題はない。そして 本訴が離婚請求の場合には反訴として離婚請求もしくは別居請求をなし得るが、 本訴が別居請求である場合には相手 方の反訴は別居請求のみが許され、 離婚請求は許されないと解されている。 (4) 別居訴訟の当事者 裁 判 別 居 の 機 能

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東 洋 法 学 四 別居請求の訴をなし得るものは夫婦いずれであっても差支えないとするのが一般立法例である。原則として無責の 配偶者ということになる。しかし一方の別居請求に対し、反訴として別居請求も起り得るので、配偶者各自において 別居判決を得る場合もあり得る。 右一般の例に反して、 スウェーデン法の場合は、夫婦の合意があるとき共同で別居判決を請求し得る特殊の場合が あ る ( 家 族 法 典 第 九 章 第 一 条 に つ い て 前 述 し た ﹀ 。 フランス民法の場合は、 一般立法例のように夫も妻も平等に請求をなし得る。しかし事実上多くの場合において、 別居は妻により請求されている。 参考 呂 田 有 糊 N u o g ・ M m ω 出 。 同 ∞ ∞ 寸 布 N W ∞ 印 斗 ( 苫 品 M M M F ) 。 g o N 刊 H C C ( 苫 糊 ∞ C ﹀ 。 ハ 、 吋 吋 M H 日 H A V 色。。同O四件。同 4 回 目 仏 O M M -M H 口 問 O M H ・ HU 目 白 ・ 目 。 ・ Hmm ∞ ・ ﹀ 呂町布糊 ω・∞ ∞ 0 ・ 沖 y u ∞ N 。 妻よりの請求数の多いことについて二理由がある。すなわち、その一は宗教的信念の影響は女である故に妻におい てより深いということ、そのこは金銭的利益の点で別居は財産分離の効果を生ずる故に殆んど常に夫に属していた妻 の固有財産の収益権が夫のために消滅するということである。 次に離婚手続と異なる点として、離婚請求は当事者が禁治産者である場合には後見人を以って訴訟を追行し得ない が、別居請求者たるべき当事者が禁治産者であってもその後見人が親族会の同意を得て訴訟を追行し得るハ三 O 七 E ) ことである。けだし別居は婚姻解消という絶対的効果を伴うことなく、その配偶者のため有益な保護であるからであ る 。

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=、別居の効果 別居の効果については、各国法とも大同小異である。 フランス民法の場合の概略を述べる。 ( 甲 ) 身上の効果 (1) 共同生活の廃止 別居は爾後同居すべき義務を免れしめる。それが別居の主要な効果であるとともに、別居の存在理由である。住所 の離隔を生ぜしめる故、別居により妻は爾後自らの住所を選択することが可能となり、任意に移転することも可能で あ る ( 一 O 八 E ﹀ 。 別居において妻が子を監護すべき場合には、妻は家族の首長たる機能について夫に代わる。 円 三 “ 妻が夫の一身上の世話をする義務は消滅する。ただし、後述の如く扶養義務は残存する。 扶助義務の消滅

円 。

別居は夫婦の共同生活を終了させる故、共同生活の費用を分担すべき義務も消滅する。しかし、共同の子の教育の 家事費用負担義務の消滅 ための費用についての分担義務は残存する口 (4) 夫婦の姓 妻は別居しても夫の姓を保有するのが多数立法例に見られる。 フランス民法もその一である。別居は夫婦の姓の上 に何等影響を及ぼすことはない。けだし、夫婦は依然として婚姻において結ばれており、そして姓の共通は婚姻状態 裁 判 別 居 の 機 能 五

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東 洋 法 学 ---'- -/ ... の徴滋に外ならないからである。しかし、別居する夫婦が相手方配偶者の姓を称することによりその者の利益を害す る場合もあり得るので、裁判所は当事者の請求により姓の使用を禁止することができるハ三一一工)口 (5) 貞節義務の維持 別居しても貞節義務は残存する。妻は常に姦通について刑事訴追にさらされている。夫の姦通については、別居は 重大な軽減となる。夫が姦通として処罰されるのは夫婦の住居において姦通が行われることを要件とするからであ る。貞節義務の維持は別居した妻の生んだ子について父性否認の留保の下に嫡出子たる性格をもたしめることを意味 するものである。 (6) 相互扶養義務の維持 婚姻から生じた相互の扶養義務は存続する。そこで扶養を必要とする配偶者の一人は、別居中であっても、そして 別居が扶養を必要とする者の利益において言渡されたものであると、またその者に対し言渡されたものであるとを問 わず扶養の請求をなし得るものとした。

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財産上の効果 (1) 財産の分離 別居は別産制を招来する故、その結果として財産の分離を生ぜしめる(三一一

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夫婦聞に共有財産が存する場合 には清算をなし、資産および債務の分配を行わなければならない口 (2) 収益管理権の喪失

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夫は妻の岡有財産の上に有していたところの収益および管理権を喪失する。 (3) 相続についての失権 別居を言渡された有責配偶者は、相手方配偶者に対する相続権を失う(七六七)。 、別居の終了 ( 甲 ) 和 諮 (1) 和諮の簡易性と合意性 法律は別居をば一時的状態として認めようとした。そこで、夫婦共同生活の回復を認めるのみでなく、共同生活回 復の希求を促しかっそれを便宜ならしめようとした。法律は和諮せんと欲する夫婦に対し何等特別の条件を要求せ ず、夫婦は履践すべき何等の方式も課せられることなく、 和諸により別居を終了させることができる ( 和 諮 の 簡 易 性 ) 。 だが、この簡易さにもかかわらず、別居の夫婦の和諮は極めて少数であり、その公示によって知る限りでは僅か二 パーセントに過ぎないといわれている。 和諮には双方の合意を要する(合意の必要性)。 けだし別居判決により創設された法律関係は両当事者の意思の合致 によってのみ変更し得るに過ぎないからである。 (2) 和諮の効果 夫婦の共同生活は再び初まり、夫は家族の首長たる特権を完全に行使し得ることになる。もはや、妻は別離の住所 裁 判 別 居 の 機 能 七

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東 洋 法 学

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を有し得、ず、子は父の権力の下に置かれる。 別居の結果であったところの財産の分離は残存する(別産制)。すなわち。 一度別居により別産制に置替えられた ところの最初の夫婦財産契約は和諮という単なる事実によっては以前の効力を回復することにならない。しかし特別 の合意により、かっ一定の形式を経て最初の夫婦財産制に戻ることはできる。

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離婚への転換 フランスの立法者は別居を目して残酷な状態であると考えた。けだしそれは、婚姻による義務と負担の大部分を存 置させかっ同時に家族生活が供する全部の利益の享受を禁ぜられるからであるとする。配偶者聞の和諸についての総 ての希望が失われたとき、もしも別居が終りを持ち得ないものとすればこの状態はたえ得られないことになる。まこ とに別居は、生活の変調ないし強制された独身生活であって、それは社会的法則または人間の本性に反する状態であ るとの論に帰する。そこで離婚への転換制度が必要とされるに至った。 統計によると別居が離婚ヘ転換された数字は次の如くである。 同 ∞ ∞ ∞ 刊 色 。 帯 同 ∞ o p 刊 h B N 雫 H U H U h m 刊

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寸 同 ∞ ω H 品 川 y c F 件 、 主 ぃ ( パ 早 川 弘 件 。 a o a H 1 0 誌の守口品。︼

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回 目 。 -F H U 問 。 ・ H H 0 ・ H 。 c u ・ ﹀ (1) 転換請求権者、転換請求の拘束性 一 八

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四年ナポレオン法典の下においては、別居を言渡された相手方たる配偶者のみが転換請求をなし得るものと した。別居請求者は離婚を欲せずして特に別居を選択したものである故、この者に対しては転換請求を許すべきでな

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いとする考え方であった。しかし、 一八八四年法による改正以後転換請求をば等しく配偶者双方に認めるに至った。 転換請求がなされた場合において、裁判所は離婚を言渡すべく義務づけられるか、それとも離婚を言渡すか否かに ついて裁判所は裁量権を行使し得るかに関し、 フランス法制はしばしば動揺した。 ナポレオン法典においては裁判所は転換を拒否し得ないが、 しかしそれは別居を言渡された相手方配偶者による請 求の場合のみに制限した。 一入八四年法は転換請求に対しては、裁判所は裁量権を有するものとされ、 かつ各配偶者から転換請求をなし得る も の と し た 。 更 に 、 一 九

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八年六月六日法による改正で、転換請求に対しては、裁判所は当然に離婚を言渡すべくそれを義務的 にした。また請求はいずれの配偶者からでもなし得るものとした。この改正法の適用については可なり問題があっ た。この制度の下においては、別居請求の訴を中止するものもあった。けだし、その者は将来における離婚への転換 を避けるためであった。 その後一九四一年四月二日法は、民法第三

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一条の規定の改正において一の解決を定めた。すなわち転換の請求が、 その利益において別居判決を得た配偶者からなされた場合には転換は当然に許与さるべく、裁判所は離婚の言渡をな すべき義務を負うものとし、逆に別居判決を言渡された過失・有責の相手方配偶者からの転換請求である場合には裁 判所は裁量権を有するものとした。この規定はまことに妥当なものであったが、 一九四五年四月十二日令は何等理由 を一不すことなしにこれを廃止した。従って現行法においては転換請求者がいずれであってもこれに対する裁判所の離 裁 判 別 居 の 機 能 九

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東 洋 法 品ム 寸ー 四 0 婚言渡は再び義務的となっている。 なお転換請求権行使の要件として、別居判決確定の日を起算点とし、別居が継続した三年の終りにおいてのみ請求 が許される会二 O 工 ﹀ 。 以上がフランス民法における制度である。 フランス以外の立法例においては相当に異るものがある。 離婚を認めないイタリー法やスペ l イン法の下では、もとより別居を離婚へ転換する途はない。 離婚への転換を認める諸国については以下の如きものがある。 先 ず 、 ベルギー法では、別居判決が姦通を原因として言渡された場合に限り離婚への転換を許さない。その他の場 合には別居判決の被告は三年の終りにおいて離婚への転換請求権を与えられている。 フランス民法の最初の原則を保 持したものである。なお裁判所は転換請求に対しては裁量権を有し、子の利益もしくは配偶者の身的状態が別居を維 持することを必要とするものと認める場合には転換請求を棄却することができるものとした。 ルクセンプルグ法はベルギー法の規定に近似したものである。すなわち、妻の姦通以外の理由で言渡された別居に っきその継続した三年の後に該別居判決の被告であったところの配偶者から転換請求をなし得る。裁判所は別居訴訟 の原告であった者が別居廃止に同意しなくとも離婚を許与し得るものとされている。 ハンガリー法では、別居判決確定後二年経過すると夫婦のいずれからでも離婚転換の請求をなし得るものとした。 ノルウェー法では別居判決から二年の後その聞に共同生活が回復されない場合には夫婦のいずれからでも離婚への 転換を請求し得る口夫婦の合意ある場合には、別居判決後一年経過すると離婚への転換請求が許される。

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オランダ法では、特定原因に基く配偶者一方の単独請求により、または夫婦共同の請求で離婚への転換が許され る。それには別居判決後五年経過しかっ和譜不成立であることを要件とされた。 ポルトガル法では、別居判決後五年経過した場合に、夫婦のいずれからでも転換請求をなし得ることになってい る 。 スイス法では別居が不定期間につき言渡されかつ和諮なくして三年経過した場合に夫婦のいずれからでも離婚転換 請求が許される。 スウェーデン法では別居判決後一年経過し爾来同居が回復されない場合に夫婦のいずれからでも離婚を求め得られ ることになっている D (2) 転換の効果 転換によって離婚としての効果を生ずることはいうまでもないが、転換の請求は新しい事実に基くものでなく当初 別居請求の原因とされたところの事実が離婚言渡の理由となる。新しい事実は離婚原因となり得るとしても、それは 転換の訴訟手続において審理されるものでなく通常の方式で開始さるべき新しい離婚請求訴訟に属するものである。 転換請求に基き離婚を言渡す裁判官は、その言渡において別居原因の性質を変更することはできない。別居の原因 とされた事実は転換請求については確定された事項として扱われるのである。 夫婦いずれによる転換請求であっても、別居が離婚に転換されたことの理由で、別居原因につき過失・有責を認め られた相手方に課せられた失権の効果は消滅する訳ではない。またその利益において別居判決を得た配偶者に扶養定 裁 判 別 居 の 機 能 四

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東 洋 法 学 四 期金を許容する判決の定めもまたその効果を失うものでない(一三 OEY 第四 離 婚 制 度 と の 関 連 に お け る 立 法 的 考 察 別居制度の起原は、既述の如くキリスト教会のドグマたる婚姻非解消主義に対する緩和ないし棄に対する特別の救 済手段であったといえる。またそれが一旦フランス革命時の中間法で廃止されながらその後ナポレオン法典に規定さ れたのは絶対的離婚がカトリヲク教徒の宗教的信念に対し侵害を及ぼすおそれあることの考慮に外ならなかった。こ の 点 で は 、 カトリ γ ク教国と事情を異にするわが国にとり別居制度は全く無縁の事項のようにみえる。けだし絶対離 婚を認めるわが国で何等カトリヲク教的意味に結付けられた別居を必要とする理由はないからである。しかし別居制 度には宗教的意味を離れて純粋な法律制度として独自の機能を有することは既述のフランス法その他の立法例により 推察される。今日なお相当多くの国で採用されている所以はそこにある。 ここで別居制度を論ずるに当って、 フランス法制の変遷の過程において見られたところの二の基本的な考え方を採 り上げる必要がある。 その一は、離婚の場合と別居の場合との間各原因事実の重大性

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︿ 定 山 に差等を認めること、換言すれば別居は 離婚の場合よりも軽い事由で離婚よりもより容易に求め得られるものとする考え方である。 その二は、別居原因も離婚原因も全く同等とし、特に別居を離婚に比し容易に許与することなく、別居を選択する かそれとも離婚を選択するかは全く当事者の意思にまかせようとする考え方であって、このことは別居を離婚へ転換

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することを容認する根拠でもある。 さて既述の部分を再言することになるが、 フランス立法者の意思は請求者をして離婚か別居かの二者の内いずれか 一を選択させようとすることにあった。すなわち、 いずれが問題解決に都合がよいかは当事者の判断、選択にまかせ られた。それが妥当な解決であると考えたのである。ところが一九

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八年以前におげるフランス判例の態度は、請求 原因が姦通のような厳格原因による場合を除いては、 しばしば離婚を許与するよりもより容易に別居を許与する傾向 にあった。しかし、その後当事者の請求ある場合には別居を離婚に転換させることにつき裁判所を義務的に拘束する ことに改正したので、爾後は両者の聞に差別をつけることの合理性を失うに至った。もっとも、離婚よりも別居をよ り容易に許与せんとする傾向は、 一九四一年四月二日法においても見出される。すなわち、離婚は婚姻成立の時から 三年間はこれを許容されないが、この制限は別居には適用されないのである。 さて、別居制度はわが国の法制と如何に関連して考察できるか? わが離婚裁判の例を見るに離婚達成には訴訟手 続上、実体法上、その実現を阻む多くの困難を伴うている。けだし、婚姻関係の解消が家庭の維持、子の利益のため 重大な侵害を及ぼすことを思えば、裁判所の態度が慎重ならざるを得ないのは当然である。事実上破綻した婚姻関係 の解決・処理が離婚許与か拒否かのオ

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ル・オア・ナヲシングという窮屈さにある点にも問題がある。そこでこの窮 屈さ、厳格性の緩和の方法として、婚姻関係を解消せずに処理するために別居制度がわが国においても認められる必 要があろう。すなわち、子のため、または生活資力欠除(多く妻の場合)のため婚姻関係を継続せしめて、不和の夫 婦聞を処理するに、別居は多少とも実益をもつものと考えられる。われわれが訴訟実務に関係し、また家庭裁判所調 裁 判 別 居 の 機 、 能 四

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東 洋 法 学 四 回 停委員として夫婦閣の不和の多数のケ I スを取扱う上に常にそれを痛感する次第である。調停に当って、 しばしば合 意による別居が問題となり得る。協議離婚を認めるわが法の下では合意による別居を以って公序良俗違反とはいえな い故、調停条項に合意による別居条項を入れてもよいとは考えながらも法律上別居の規定なくその効果につき法的拘 束力のない以上敢えてこれをなすことを臨時踏せざるを得ないのである。もし、裁判別居の制度を認めるならば裁判所 側においても離婚言渡よりも別居言渡はこれを容易に許与することになろう。この意味で、別居は離嫡の代用物ない し補助的制度として十分な存在理由を持ち得ることになる。 そこで注意すべきことは、別居の言渡は婚姻関係を継続させることにおいて離婚を緩和したものマあるが、別居を 言渡された相手方に及ぼすところの効果は必しも離婚の効果よりも軽微であるとはいい得ない点である。別居はその 請求者側で婚姻関係の解消を欲しない場合もあろうし、また離婚を欲したがその達成が阻まれるので効果を減殺した 別居を得ることに甘んずる場合もあろう。だが、言渡された相手方側では必しも常に別居を以って離婚よりも望まし いと考えるとは限らない。否、別居を以って自由を拘束する残酷な制度として離婚ヘ転換により別居の拘束から救済 しようとするのが、 一 九

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八年法以来のフランス民法の制度である。破綻した婚姻関係であるならば、むしろ後腐れ のない離婚の方が望ましく、その方が負担もより軽いという考え方である。 さて、当初の考え方に立戻って、第一の考え方と第二の考え方とは両立し難い関係にあることは明かである。けだ し、前 J 者は別居を以って離婚の代用物ないし補助的制度と観ずること、離婚を許容されない場合でも別居は許容され るという差等を付する点において特別の意味がある。ところが、後者は別居と離婚とは全く同等であって、離婚を許

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容される事情があっても請求者の意思により別居が選択されるというだけの関係である。従って別居を言渡す裁判の 審理においては、事実上離婚を言渡すに十分な原因の存在が認定されることになる。それで後に離婚転換の請求があ れば改めて離婚の原因の有無の審理を経ることなしに離婚を言渡すことが許される関係にあるのである。もしも第一 の考え方の場合、離婚よりも軽度(離婚を言渡す程重大な破綻と認められない場合)の事由で別居を言渡して置きな がらこの別居を離婚に転換させるとすれば、本来離婚原因として不十分であるにかかわらず離婚を許与することの不 当を来たすことになる。 このように観察すると、第一の考え方も第二の考え方もそれぞれ独自の適用分野を有し、各独得の存在理由を有す るものというべきである。しかも、各自が一つの機能を維持しながら同時に別の機能を果すことはできない関係にあ る。この理論からして、別居を以って離婚よりも調子を落し容易に許与され得るものとすれば、この別居判決を離婚 判決に転換することは許されない。そこで別居を離婚に転換するには別個の手続を以って改めて離婚原因の有無につ いての審理をつくさなければならない。その点、これを立法的処置により別居後特定の期間内に夫婦聞に和諮が成立 しなかったときは離婚に転換し得るものとすることは手続的に可能であろう。そのような立法的処置が行われないと し で も 、 一度別居判決を得たことは、その後和諮成立の事実なき以上、わが法における離婚原因の一たる﹁婚姻を継 続し難い重大な事由﹂に該当し離婚判決許与の可能性は多分に存することになろう。 次に別居を離婚に転換されることによって受ける利益・不利益という点につき各配偶者の立場を考えてみたい。 離婚転換請求者が、さきの別居請求者であるとすれば問題はない。けだし、当初選択したところの別居を離婚に転 裁 判 別 居 の 機 能 四 五

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東 洋 法 尚 子 四 ノ 、 換請求をなす場合には、和讃成立の希望消失したことにより婚姻解消という終局に到達したという趣旨が一応首肯さ れるからである。ところが反対に離婚転換請求者がさきの別居判決を言渡された相手方たる有責配者であった場合に は問題となる。すなわち、別居請求者が婚姻関係の解消を欲しないが故に特に別居を選択したような場合は、別居に ついての有責の相手方からの転換請求により離婚が言渡されるとなると、別居請求をなした配偶者の意思に反して婚 姻が解消されるという結果を来たすことになる。 そこで、離婚への転換請求を別居判決の被告のみに限定すべきでなく、当事者のいずれからでも請求し得ることに することは、たしかに必要である。この点について、 フランス民法が最初別居判決の相手方たる有責配偶者にのみ転 換請求を許したのを配偶者いずれからでも請求し得るように改めたことは当然のことである。しかし、転換請求につ いて、無差別に離婚を言渡すべきものとして裁判所の義務を規定した点は妥当性が疑わしい D そこで、別居判決言渡 を受けた有責配偶者からの転換請求のみによる場合には裁判所に裁量権を認め、別居判決の原告の立場を考慮し調和 をはかるべきである。この裁量の内容としては、別居後一定の期間を経過したこと、別居後夫婦聞に和諮成立に至ら なかったことは当然の必要条件として、更に別居判決の原告たりし配偶者側の離婚の意思の有無、別居判決に定めら れた扶養料その他の給付につき、転換請求者側における義務履行の有無などが重要ポイントである。 結 諮 わが国における現実の問題として、夫婦聞の不和・葛藤についての救済は夫に対するよりも妻に対するそれがより

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切実である。今日家庭裁判所に持出される圧倒的多数の夫婦聞の不和調整申立事件において離婚調停が不調となった 後本訴に移る場合に思を致すと、離婚の困難を避け、別居の方法で救済する必要あることをしばしば痛感する。妻側 からの離婚請求については、特に夫婦聞に子がある場合には意識的にも無意識的にも、子の利益、家庭の維持という ことが事実上妻の離婚達成を阻む重要な事由になろう。 カノン、法における婚姻非解消主義は、婚姻を以って神の合せ たものとするドグマに基礎を置いた。現行法の下では、妻は子の利益、家庭の維持のために犠牲となることをモラル とされているようである。離婚を防庄せんとする現代法の下における婚姻非解消主義的傾向の基礎はそこに在るとも いえる。まことに、別居制度の起原はカノン法の婚姻非解消主義を緩和することにおける妻への救済に外ならなかっ た。その狙いは婚姻関係を解消せずに妻を別離させ、以って夫の暴力、虐待から解放することにあった。離婚が不幸 な婚姻からの解放の方法でありながら事実はその達成を阻む多くの困難あることを卒直に認める以上、その効果を減 殺した別居の方法を以って非運に泣く不幸な配偶者、その多くは夫の暴力、虐待に苦しむ妻に救いの手を延べる必要 が あ る 。 これを要するに、別居をして離婚よりも容易に許与されるものとする限りにおいては、別居制度は離婚の代用物な いし補助的制度としての考え方を維持すべきものであり、この考え方と-調和し得る限度において離婚転換をはかるべ き で あ る 。 附 言 本稿執筆についてフランス法制は左記参考書ハ主として 2 ﹀ に よ っ た 。 裁 判 別 居 の 機 能 四 七

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咲 持士 士自 えや 1. Pothler , Traite du contrat de rr, ariage , Bugnet , 1846. 2. Ripert et Boulanger , Traite de droit civil de Planiol , 1. 1956. 3. Morandiere , Traite de droit civil de Colin et Capitant , 1. 1953. 2会以式回剥啄糊蜘話題 E困出斑 2~-< 判事土話会'4\私自~A)_)-iJ O ト 1ト入 Tく ~~Q -lオ斑毒~~ ¥'ム

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1. Divorce et separation de corps dans le monde contemporain , 1. Europe. (Travaux et recherches de l'instituit de droit compare de l'Uuiversite de Paris) $irey 1952. 2. G. Forssius , Le code suedois du mariage , 1955.

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