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RIETI - 原子力発電の効率化と産業政策―国産化と改良標準化―

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RIETI Discussion Paper Series 14-J-026

原子力発電の効率化と産業政策

―国産化と改良標準化―

石井 晋

学習院大学

独立行政法人経済産業研究所 http://www.rieti.go.jp/jp/

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原子力発電の効率化と産業政策

*

―国産化と改良標準化―

石井 晋(学習院大学) 要 旨 1960 年代の原発に対する産業政策においては、海外技術の早急な導入とともに、機器の国産化が強く推奨 された。国産化に向けた政策支援を受けながらも、電力会社と電機メーカーは自立的に動き、海外技術導 入と国産技術開発に向けて共同研究を積み重ねた。これにより、PWR グループと BWR グループを形成し、 着々と原発建設を推進した。建設の過程では、単なる技術導入にとどまらず、独自の改良や新たな技術の 改良もなされた。1970 年代の石油危機を経て、エネルギー政策が「国策」上の地位を高め、石油代替エネ ルギーの中でも、原子力開発推進政策が強化された。この時期、安全性と効率性の観点から原発の改良標 準化が進められた。改良は進んだものの、同時期に原発開発を積極的に推進したフランスに比し、プラン トレベルの標準化は不十分に終わった。1970 年代後半以降の原発に対する産業政策は、必ずしも国主導で はなく、電力会社と電機メーカーの固定的関係の追認・強化として政策が実行され、多様な原子炉の型が 乱立し続けた。 キーワード:原子力発電 産業政策史 標準化 国産化 JEL classification: L52, N45, N65 RIETI ディスカッション・ペーパーは、専門論文の形式でまとめられた研究成果を公開し、活発 な議論を喚起することを目的としています。論文に述べられている見解は執筆者個人の責任で発表 するものであり、所属する組織及び(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。 * 本稿は、独立行政法人経済産業研究所におけるプロジェクト「通商産業政策・経済産業政策の主要 課題の史的研究」の成果の一部である。経済産業省関連の資料の収集にあたっては、経済産業研究所 の横山繁氏に多大なご助力を頂いた。

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1 . は じ め に 日 本 で は 1950 年 代 に 原 子 力 発 電 (原 発 )の 導 入 が 始 ま っ た 。当 初 は 、天 然 ウ ラ ン を 原 料 と す る イ ギ リ ス の コ ー ル ダ ー ホ ー ル 型 改 良 炉 が 試 験 的 に 導 入 さ れ た 。1960 年 代 に 入 る と 、原 発 の 商 用 化 が 本 格 的 に 検 討 さ れ 、 ア メ リ カ で 開 発 さ れ た 、 濃 縮 ウ ラ ン を 原 料 と す る 軽 水 炉 の 優 位 性 が 認 め ら れ た 。こ の 結 果 、ジ ェ ネ ラ ル・エ レ ク ト リ ッ ク(GE)社 の 沸 騰 水 型 炉 (BWR) と ウ ェ ス テ ィ ン グ ハ ウ ス(WH)社 の 加 圧 水 型 炉 (PWR)の 導 入 が 進 め ら れ た 。 1970 年 に 、 日 本 原 子 力 発 電(株 )(以 下 、 原 電 )の 敦 賀 発 電 所 の BWR が 運 転 開 始 し 、 関 西 電 力 (株 )美 浜 発 電 所 の PWR が こ れ に 続 い た 。 翌 1971 年 に は 、 東 京 電 力 (株 )の 福 島 発 電 所 の BWR が 運 転 開 始 に 至 る 。 以 後 、 日 本 の 原 発 は 急 速 に 増 え 、1970 年 代 後 半 に 10 基 を 超 え 、 1980 年 代 に 30 基 を 数 え る 。 吉 岡 斉 は 、『 原 子 力 の 社 会 史 』 に お い て 、1970-80 年 代 の 日 本 の 原 発 建 設 に つ い て 、「 社 会 主 義 計 画 経 済 を 彷 彿 さ せ る 原 子 力 発 電 事 業 の 拡 大 」と 述 べ て い る1「 欧 米 の 原 発 大 国(米 、 仏 、 独 、 英)の い ず れ を み て も 、 原 発 建 設 ペ ー ス の 時 間 変 化 は 激 し い 」 が 、 日 本 で は 、「 完 璧 な 計 画 経 済 が 貫 徹 さ れ て い る か の ご と く 」、ほ と ん ど「 直 線 的 」な「 安 定 し た ペ ー ス で 拡 大 を つ づ け 」 た と い う 。 し か し 、 一 方 で 、「 何 の 困 難 も な し に 進 め ら れ た の で は な か っ た 」 こ と も 強 調 さ れ て い る 。 主 要 な 困 難 は 、 故 障 や ト ラ ブ ル の 頻 発 な ど 技 術 的 未 熟 さ に よ る も の で あ り 、 設 備 稼 働 率 が 低 迷 し た 。 こ の こ と は 、 安 全 性 へ の 懸 念 と と も に 、 経 済 性 へ の 疑 念 も 生 ん だ 。1970 年 代 に は 石 油 価 格 上 昇 に 伴 い 、石 油 代 替 エ ネ ル ギ ー の 主 力 と し て 原 子 力 が 注 目 さ れ て い た が 、1980 年 代 に 入 り 、石 油 価 格 が 下 落 に 転 じ た た め 、経 済 性 の 実 証 は よ り 差 し 迫 っ た 課 題 と な っ た 。こ う し た 状 況 を 背 景 に 、1970 年 代 後 半 か ら 、原 発 の「 改 良 標 準 化 」 が 進 め ら れ る こ と に な る 。 「 改 良 標 準 化 」 は 、 官 民 協 力 の も と に 推 進 さ れ た 。 具 体 的 に は 、 ア メ リ カ か ら の 導 入 技 術 を 吸 収 消 化 し て 改 善 す る と と も に 、 原 発 機 器 の 国 産 化 を 推 進 す る と い う 目 標 を 持 っ て い た 。 そ う し た 意 味 で は 、 保 護 ・ 育 成 を 伴 う 産 業 政 策 の 一 つ で あ る 。 本 稿 は 、1960 年 代 以 来 の 国 産 化 政 策 と 1970-80 年 代 の 改 良 標 準 化 政 策 を 中 心 と し て 、 原 発 に 関 わ る 産 業 政 策 に つ い て 、 そ の 特 徴 を 歴 史 的 に 分 析 す る こ と を 目 的 と す る2 1 吉 岡 斉 [2011]『 新 版 原 子 力 の 社 会 史 』 朝 日 新 聞 出 版 、 2011 年 10 月 、 p143-146。 2 特 に 改 良 標 準 化 が 不 十 分 に し か 進 ま ず 、 多 様 な 炉 型 の 乱 立 し た こ と で 、 原 発 の 経 済 性 を 損 ね 、 安 全 管 理 の コ ス ト を 高 め る 要 因 と も な っ た 可 能 性 を 想 定 し て い る 。 そ う し た 政 策 の 合 理 性 に 対 す る 疑 義 が 、 本 稿 に お い て 、 原 発 に 関 わ る 産 業 政 策 の 歴 史 的 経 緯 を 改 め て 検 討

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産 業 政 策 の 対 象 と な っ た の は 、 電 力 会 社 お よ び 電 力 機 器 を 生 産 ・ 開 発 す る 電 機 メ ー カ ー で あ る 。一 般 に 、産 業 政 策 が 実 施 さ れ る 際 に は 、政 策 当 局 と 対 象 企 業 と の 間 に 、一 種 の「 結 託 」 が 成 立 し 、 閉 鎖 的 な サ ー ク ル の 中 で 独 占 的 利 益 が 追 求 さ れ 、 効 率 化 が 損 な わ れ る 可 能 性 が 常 に 存 在 す る 。 実 際 に は 、 閉 鎖 性 の 度 合 い は さ ま ざ ま で あ り 、 産 業 政 策 に よ っ て 、 効 率 化 の 契 機 が 必 ず 失 わ れ る わ け で は な い 。日 本 の 高 度 成 長 期 に お け る 産 業 政 策 史 研 究 で は 、 「 結 託 」 の 形 成 が 指 摘 さ れ つ つ も 、 何 ら か の 効 率 化 要 因 が 作 用 し 、 多 く の 産 業 が 発 展 し 、 国 際 競 争 力 を 獲 得 す る に 至 っ た と 主 張 さ れ る こ と が 少 な く な い 。 高 度 成 長 期 の 電 力 業 に つ い て い え ば 、発 電 機 器 に 関 し て 、「 一 号 機 輸 入 、二 号 機 国 産 」と い う 大 ま か な 方 針 が 示 さ れ 、 国 産 電 機 メ ー カ ー 保 護 政 策 が 実 施 さ れ た 。 し か し 、 幾 度 か に わ た っ て 火 力 発 電 の 大 容 量 化 が 求 め ら れ 、 そ の た び に 日 本 の 電 機 メ ー カ ー は 即 座 に 対 応 で き ず 、GE や WH な ど か ら の 輸 入 発 電 機 器 が 使 用 さ れ た 。 こ の た め 、 二 号 機 と し て 無 条 件 に 国 産 機 器 が 導 入 さ れ た わ け で は な か っ た 。 電 機 メ ー カ ー も 、 外 国 メ ー カ ー か ら の 技 術 導 入 や 設 備 投 資 を 必 死 に 進 め て キ ャ ッ チ ア ッ プ を 図 ら ざ る を 得 ず 、 ま た こ の た め に か な り の 長 期 に わ た っ て 赤 字 を 余 儀 な く さ れ る こ と も あ っ た 。 国 産 メ ー カ ー 間 お よ び 輸 入 メ ー カ ー と の 競 争 は 激 し く 、 ま た 、 電 力 会 社 の 間 で も 「 低 廉 で 安 定 的 な 電 気 供 給 」 を 目 ざ し 、 激 し い 設 備 投 資 競 争 を 展 開 し た の で あ る 。 こ の 結 果 、 効 率 化 を 促 す よ う な 企 業 間 競 争 を 大 き く 損 な う こ と な し に 、産 業 政 策 が 展 開 し た も の と い え る 。し か し 、1970 年 代 以 降 、産 業 政 策 の あ り 方 が 変 化 し 、 原 発 に 関 す る 産 業 政 策 に つ い て は 、 効 率 化 の 契 機 が 弱 ま っ て い っ た も の と 考 え ら れ る 。た だ し 、そ の プ ロ セ ス は か な り 複 雑 で あ り 、1960 年 代 の 国 産 化 政 策 の 成 果 、 お よ び 1970 年 代 の 石 油 危 機 以 後 、 エ ネ ル ギ ー 政 策 の 国 策 と し て の 重 要 性 が 増 し 、 な か で も 原 発 が 重 視 さ れ た こ と が 、 原 発 に 関 す る 産 業 政 策 の あ り 方 に 大 き く 影 響 し た 。 こ の 歴 史 を 明 ら か に す る こ と が 、 本 稿 の 主 要 な 問 題 意 識 で あ る 。 な お 、1950-60 年 代 の 高 度 成 長 期 に お い て 、 産 業 政 策 の 主 な 手 段 と な っ た の は 、 資 金 供 給 、 外 貨 割 当 、 輸 入 規 制 な ど で あ る 。 電 力 会 社 に と っ て は 、 膨 大 な 設 備 投 資 資 金 の 調 達 に あ た っ て 、 日 本 開 発 銀 行 の 融 資 、 電 力 債 の 発 行 の た め に 通 産 省 お よ び 大 蔵 省 の 協 力 を あ お ぐ 必 要 が あ っ た3。し か し 、1960-70 年 代 に 貿 易・資 本 自 由 化 が 進 み 、石 油 危 機 後 の 成 長 率 低 下 と と も に 貯 蓄 ・ 投 資 バ ラ ン ス が 変 化 し て 資 金 市 場 の 需 給 が 緩 和 し た こ と で 、 従 来 の 産 す る 大 き な 理 由 で あ る 。 3 石 井 晋 [2002]「 電 力 業 の 資 金 ・ 投 資 調 整 」 岡 崎 哲 二 ・ 奥 野 正 寛 ・ 植 田 和 男 ・ 石 井 晋 ・ 堀 宣 昭 『 戦 後 日 本 の 資 金 配 分 』 東 京 大 学 出 版 会 、2002 年 3 月 、 p195-246。

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業 政 策 の 手 段 は 次 第 に 失 わ れ て い っ た 。 政 府 に よ る 民 間 企 業 の 誘 導 が 困 難 に な り 、 産 業 政 策 に お け る 政 府 の 主 導 性 は 弱 ま っ て い っ た も の と 考 え ら れ る 。 資 金 に 関 し て は 本 稿 で は ほ と ん ど 触 れ な い が 、 政 府 に よ る 誘 導 の 影 響 力 低 下 を 念 頭 に 置 い て 記 述 す る 。 原 発 に 関 す る 産 業 政 策 の 本 格 的 な 歴 史 分 析 を 行 っ た 先 行 研 究 は 見 当 た ら な い が 、 あ る 程 度 の こ と に 触 れ て い る 竹 森 俊 平[2011]で は 、 1970 年 代 以 降 の 電 力 会 社 は 、「 政 府 ・ 通 産 省 と の 距 離 が 縮 ま り 、国 策 会 社 的 な 性 質 を 持 つ よ う に な っ て い く 」と 記 述 さ れ て い る4。前 掲 の 、 吉 岡 斉[2011]の 「 計 画 経 済 的 」 と の 評 価 に 近 い も の で あ る 。 そ う し た 見 方 に は か な り 普 及 し て い る も の と 思 わ れ 、 一 理 あ る 。 し か し 、 政 府 や 政 策 が 主 で あ り 、 民 間 企 業 が 従 で あ っ た と の 構 図 で 理 解 さ れ る と す れ ば 、お そ ら く 正 し く な い 。こ の 構 図 は む し ろ 逆 で あ り 、 本 稿 で は 、 電 力 会 社 と 電 機 メ ー カ ー と の 固 定 的 関 係 に 支 え ら れ た 原 発 の 開 発 推 進 へ の 動 き が 主 で あ り 、産 業 政 策 が 従 で あ っ た も の と 考 え る 。結 論 を 先 取 り し て い え ば 、1970 年 代 後 半 以 降 、 政 府 主 導 で 産 業 政 策 を 進 め る こ と は 難 し く 、 電 力 会 社 と 電 機 メ ー カ ー の 強 固 な 固 定 的 関 係 に よ る 原 発 開 発 推 進 体 制 が 追 認 さ れ 、 そ れ を 強 化 す る よ う に 産 業 政 策 が 展 開 し 、 こ の 結 果 、 個 々 の 機 器 レ ベ ル で の 改 良 を 進 め ら れ た も の の 、 原 発 の プ ラ ン ト 全 体 の レ ベ ル で の 標 準 化 が 十 分 に 進 め ら れ な か っ た こ と5を 指 摘 す る 。 以 下 、2 節 で 、 原 子 力 機 器 の 国 産 化 政 策 を 取 り 上 げ る 。 3 節 で は 、 電 力 会 社 と 電 機 メ ー カ ー の 間 の 原 発 開 発 を め ぐ る 共 同 研 究 を 通 じ た 密 接 な 関 係 の 形 成 を 取 り 上 げ る 。4 節 で は 、 「 改 良 標 準 化 」 政 策 の 推 移 と 展 開 を 取 り 上 げ 、 最 後 に 結 論 を ま と め る 。 な お 、 現 時 点 で は 、 十 分 な 政 策 資 料 を 入 手 で き な っ た の で 、 主 に 、 す で に 公 開 さ れ た 、 い く つ か の 資 料 を 用 い て 、 可 能 な 推 論 を 試 み る こ と と す る 。 4 竹 森 俊 平 [2011]『 国 策 民 営 の 罠 - 原 子 力 政 策 に 秘 め ら れ た 戦 い - 』日 本 経 済 新 聞 出 版 社 、 2011 年 10 月 、 p120。 5 1980 年 代 前 半 の「 改 良 標 準 化 」で は 、原 子 炉 内 蔵 型 再 循 環 ポ ン プ 、新 型 制 御 棒 駆 動 装 置 の 開 発 な ど(以 上 、 BWR)、 水 排 除 用 制 御 棒 ・ 負 荷 追 従 用 制 御 棒 採 用 に よ る 大 型 炉 心 開 発 な ど(以 上 、 PWR)が 進 め ら れ た 。 し か し 、 新 た に 建 設 さ れ る 原 子 炉 を 標 準 的 な サ イ ズ や シ ス テ ム の 炉 に 集 約 さ せ る 政 策 は 、 十 分 に 追 求 さ れ な い ま ま に 終 わ っ た 。 こ の こ と に 関 し て 、 立 地 条 件 が そ れ ぞ れ に 異 な る た め 、標 準 化 が 容 易 で な い と 指 摘 さ れ る こ と が あ る 。し か し 、 後 述 す る よ う に 、PWR 一 本 に 絞 り 、 炉 の サ イ ズ ・ シ ス テ ム の 標 準 化 を 徹 底 追 求 し た フ ラ ン ス に 比 す れ ば 、 日 本 で は 標 準 化 に 向 け た 動 き は 弱 く 、 そ の 検 討 さ え も 十 分 に な さ れ な か っ た 。 な お 、BWR と PWR の 併 存 に 関 し て は 、日 本 の 電 機 メ ー カ ー の 提 携 先 米 国 企 業 と の 関 係 、 さ ら に は 濃 縮 ウ ラ ン 提 供 を め ぐ る 日 米 協 定 の 存 在 の 大 き さ が 指 摘 さ れ る こ と も あ る 。 こ れ に 関 し て は 、 産 業 政 策 の 一 般 的 な 制 約 条 件 と な っ た 可 能 性 は あ る が 、 現 在 の と こ ろ 、 十 分 な 資 料 的 裏 付 け が 得 ら れ な い の で 、 今 後 の 検 討 課 題 と し た い 。

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2 . 原 子 力 機 器 の 国 産 化 政 策 原 子 力 発 電 に 関 し て は 、 商 業 発 電 と し て 実 用 化 さ れ る 初 期 の 頃 か ら 、 発 電 機 器 の 国 産 化 に 向 け た 産 業 政 策 が か な り 明 確 に 推 進 さ れ た 。 こ れ は 水 力 ・ 火 力 発 電 時 代 の 電 力 政 策 に 比 べ て 顕 著 で あ る 。 1950 年 代 後 半 か ら 1960 年 代 に か け て 、9 電 力 会 社 に よ る 大 容 量 火 力 発 電 所 の 建 設 が 進 ん だ が 、 そ の 初 期 に お い て は 、 輸 入 技 術 ・ 設 備 に 大 き く 依 存 し た 。 政 府 は 、 そ の た め に 必 要 な 外 貨 の 獲 得 を 強 力 に 支 援 し た 。 具 体 的 に は 、 世 界 銀 行 か ら の 借 款 を い っ た ん 日 本 開 発 銀 行(開 銀 )が 受 け た 9 電 力 会 社 へ の 転 貸 、 そ の ほ か ワ シ ン ト ン 輸 出 入 銀 行 や メ ー カ ー ズ ク レ ジ ッ ト に 対 す る 開 銀 保 証 な ど で あ る 。1956-65 年 の 開 銀 の 電 力 業 に 対 す る 融 資 と 保 証 の 合 計 の う ち 、 世 銀 転 貸 が 9.8%、 外 貨 保 証 が 34.4%を 占 め た6。 当 時 の 技 術 水 準 に お い て 先 端 的 で 効 率 的 と 考 え ら れ た 大 容 量 火 力 発 電 へ の 投 資 が 積 極 的 に 推 進 さ れ 、 発 電 機 器 の 輸 入 が 促 進 さ れ た こ と を 意 味 す る 。 一 方 で 、 発 電 機 器 の 国 産 化 政 策 も 見 ら れ る 。1962 年 か ら 、 発 電 機 器 の 自 由 化 に 備 え て 、 国 内 重 電 機 メ ー カ ー 育 成 の 観 点 か ら 、 開 銀 に 重 電 機 延 払 融 資 制 度 が 設 け ら れ た 。 も っ と も 、 こ の 制 度 で は 、 水 力 機 器 は 除 外 さ れ 、「20 万 kw 以 下 の 火 力 発 電 設 備 の う ち ボ イ ラ ー ・ タ ー ビ ン 発 電 機 お よ び 開 銀 の 指 定 す る 主 要 付 属 機 器 に 限 定 し て 」 適 用 さ れ た 。 す な わ ち 、 産 業 政 策 は 、 発 電 能 力 の 拡 大 と い う 最 優 先 目 標 に 基 本 的 に し た が っ て も の で あ り 、 発 電 機 器 の 国 産 化 政 策 は 副 次 的 な 目 標 と し て 考 慮 さ れ た に 過 ぎ な か っ た の で あ る 。 こ う し た 状 況 は 、 長 谷 川 信 の 研 究 で も 、 次 の よ う に 表 現 さ れ て い る 。「「1 号 機 輸 入 、 2 号 機 国 産 」 方 式 は 、 政 府 の 産 業 政 策 の 一 環 で も あ っ た が 、 け っ し て 安 定 的 、 固 定 的 な も の で は な か っ た 。 こ の 方 式 は 、 電 力 会 社 、 重 電 機 企 業(国 内 各 社 お よ び GE 社 、 WH 社 )、 通 産 省(重 工 業 局 お よ び 公 益 事 業 局 )の あ い だ の 利 害 対 立 を は ら ん で お り 、 発 電 設 備 の 大 容 量 化 が 進 む た び に そ の 利 害 対 立 は 繰 り 返 し 表 面 化 し た の で あ る 」7 こ れ に 対 し て 、1960 年 代 後 半 以 降 の 原 子 力 発 電 に 対 す る 産 業 政 策 は 、早 期 か ら 、国 産 化 の 推 進 を 強 く 念 頭 に 置 い て い た 。1970 年 以 降 に 稼 働 す る 原 子 力 発 電 所 の 建 設 は 、 1960 年 代 に 続 々 と 始 ま る 。そ の 際 に は 、主 契 約 社 が GE や WH と な り 、主 要 機 器 が 輸 入 さ れ 、三 菱 重 工 、 東 芝 、 日 立 製 作 所 な ど が 下 請 け で 各 種 機 器 を 製 作 す る こ と が 多 か っ た 。 技 術 的 に 6 日 本 政 策 投 資 銀 行 [2002]『 日 本 開 発 銀 行 史 』 2002 年 3 月 、 p151-152。 7 長 谷 川 信 [2006]「 重 電 機 工 業 の 発 展 と 発 電 設 備 供 給 能 力 の 形 成 - 戦 後 復 興 か ら 1980 年 代 ま で を 中 心 に - 」『 青 山 経 営 論 集 』 第 41 巻 第 1 号 、 2006 年 7 月 、 p28

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も 国 産 化 の 見 込 み が 十 分 で な い 中 、1966 年 に 早 く も 、開 銀 は「 原 子 力 発 電 機 器 国 産 化 」融 資 制 度 を 創 設 し て い る8。 創 設 の 理 由 は 、「 ① 準 国 産 エ ネ ル ギ ー と 目 さ れ る 原 子 力 の 発 電 機 器 の 供 給 を 他 国 に 依 存 す る こ と は 、 エ ネ ル ギ ー 供 給 の 安 定 性 確 保 の 見 地 か ら 種 々 の 弊 害 を 生 ず る お そ れ が 強 い こ と 、 ② 外 貨 節 約 の 見 地 か ら も 国 産 化 の 必 要 性 が 高 い こ と 、 ③ 原 子 力 発 電 は 将 来 重 油 火 力 に 代 わ り 重 電 機 需 要 の 主 力 と な る と 予 想 さ れ る 最 先 端 技 術 で あ り 、 産 業 政 策 上 、 そ の 技 術 開 発 、 製 造 の 早 急 な 体 制 確 立 を 要 す る 」 と さ れ た 。 ② は 一 般 的 な 理 由 で あ り 、 の ち に 貿 易 摩 擦 の も と で む し ろ 海 外 か ら 批 判 の 的 と な っ て く る 。 産 業 政 策 を 正 当 化 す る 理 由 と し て 、 の ち の 時 代 ま で 重 要 と さ れ た の は 、 エ ネ ル ギ ー 安 全 保 障 お よ び 最 先 端 技 術 育 成 と い う 観 点 で あ る 。 機 器 の 国 産 化 が 従 属 的 に し か 考 慮 さ れ な か っ た 、 そ れ ま で の 電 力 向 け 産 業 政 策 か ら の 大 き な 変 化 で あ っ た 。 な お 、 開 銀 の 電 力 業 へ の 融 資 額 は 増 加 し 続 け る が 、1960-70 年 代 に か け て 電 力 業 側 の 調 達 資 金 に 占 め る 割 合 は 低 下 し て い っ た 。 た だ し 、 そ の 中 で も 、 原 子 力 関 連 融 資 が 主 要 部 分 を 占 め る に 至 る 。開 銀 の 電 力 融 資 に 占 め る 原 子 力 関 連 融 資 の 割 合 は 、1966 年 に 17.8%で あ っ た の が 、71 年 に は 88.5%と な っ た9。融 資 額 は 、1980 年 代 半 ば ま で 急 速 に 増 加 し て い っ た(表 1 )。 以 上 の よ う な 産 業 政 策 を 背 景 に 、 原 子 力 発 電 の 建 設 と 同 時 に 、 発 電 機 器 の 国 産 化 政 策 が 強 力 に 進 め ら れ た の で あ る 。 電 力 会 社 に と っ て み れ ば 、 実 用 化 さ れ た ば か り の 原 発 技 術 の リ ス ク は 高 く 、 電 機 メ ー カ ー と の 協 力 や 政 府 に よ る 支 援 は 不 可 欠 で あ っ た も の と 考 え ら れ る 。 ま た 、 原 子 力 利 用 が 国 際 政 治 情 勢 に 左 右 さ れ る 度 合 い は 大 き く 、 発 電 機 器 や 技 術 の 国 産 化 を 進 め る こ と は 、 電 気 供 給 の 安 定 と い う 経 営 上 の 観 点 か ら も 、 一 定 の 合 理 性 を 有 し て い た も の と 思 わ れ る10。1960 年 代 に お い て は 、原 発 開 発 を め ぐ る 、政 府 、電 力 会 社 、電 機 メ ー カ ー の 協 力 関 係 は き わ め て 強 固 で あ り 、 大 容 量 火 力 発 電 の 時 代 と は 異 な る 様 相 を 呈 し た11 8 日 本 政 策 投 資 銀 行 [2002]p274-277。 9 日 本 政 策 投 資 銀 行 [2002]p275 の 表 3-4-1 よ り 算 出 。 10 こ れ に 加 え て 、唯 一 の 被 爆 国 で あ る と い う 事 情 か ら 、電 力 会 社 が 国 家 的 サ ポ ー ト を 全 く 受 け ず に 、 原 発 開 発 を 推 進 す る こ と は 社 会 的 な 困 難 が 大 き か っ た 。 11 長 谷 川 信 は 次 の よ う に 述 べ て い る 。「 火 力 発 電 よ り も 、 原 子 力 発 電 設 備 の ほ う が ス ム ー ス な 国 産 化 が 達 成 さ れ た 。 そ れ は 原 子 力 発 電 設 備 の 場 合 に は 、 政 府 、 電 力 会 社 、 重 電 機 企 業 の あ い だ の 協 力 関 係 が 緊 密 で あ り 、 電 力 会 社 が 主 導 す る 共 同 開 発 に よ っ て 国 産 化 が 促 進 さ れ た か ら で あ る 。 こ の こ と は 一 方 で 、 火 力 発 電 設 備 の 場 合 と は 異 な り 、 原 子 力 発 電 設 備 の 場 合 に 、 電 力 会 社 と 特 定 の 国 内 重 電 機 企 業 と の 関 係 が 固 定 化 さ れ る 結 果 を も た ら し た の で あ る 」。 前 掲 、 長 谷 川 信[2006]p28-29。

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3 . 電 力 会 社 と 電 機 メ ー カ ー 電 力 会 社 や 電 機 メ ー カ ー が 原 子 力 発 電 に 取 り 組 み 始 め た の は 、1950 年 代 後 半 か ら で あ る 。 軽 水 炉 に よ る 発 電 の 経 済 性 の め ど が 立 っ た 1960 年 代 以 降 、 三 菱 重 工 と WH、 東 芝 ・ 日 立 と GE が 技 術 提 携 し 、 そ れ ぞ れ PWR、 BWR の 技 術 導 入 を 進 め た 。 当 初 、 日 本 の 電 機 メ ー カ ー は 、 前 述 の よ う に 下 請 け と し て 、 初 期 の 原 発 建 設 に 参 加 し た 。 一 例 と し て 、日 立 製 作 所(以 下 、日 立 )を 取 り 上 げ よ う12。日 立 は 、GE 社 の 従 契 約 会 社 と し て 、 茨 城 県 東 海 村 に 建 設 さ れ た 原 子 力 研 究 所 の 沸 騰 水 形 動 力 試 験 炉 JPDR の 圧 力 容 器 、 炉 心 構 造 臥 主 復 水 器 、給 水 加 熱 器 な ど の 据 付 け を 行 っ た 。こ れ は 、1963 年 に 完 成 し 、日 本 初 の 発 電 用 原 子 炉 と な っ た 。 さ ら に 、1966 年 に は 、 日 本 原 子 力 発 電 (株 )敦 賀 発 電 所 (33 万 kW)、 東 京 電 力 (株 )福 島 第 一 発 電 所(46 万 kW)、関 西 電 力 (株 )美 浜 第 一 発 電 所 (34 万 kW)の 建 設 計 画 が 確 定 し た 。沸 騰 水 型(BWR)の 敦 賀 、福 島 は GE 社 に 、加 圧 水 型 (PWR)の 美 浜 は WH 社 に 主 発 注 さ れ た 。敦 賀 原 発 は 、日 本 で 初 め て の 本 格 的 な 商 用 の 軽 水 炉 原 発 で あ り 、1970 年 3 月 、大 阪 万 博 の 開 幕 と と も に 営 業 運 転 を 開 始 し 、 万 博 会 場 に 送 電 し た こ と が よ く 知 ら れ て い る 。 日 立 は 、 東 芝 と と も に 主 契 約 社 の GE か ら 下 請 け 受 注 し 、 圧 力 容 器 、 炉 心 構 造 物 、 熱 交 換 機 な ど の 炉 補 助 機 器 、 配 管 系 統 の 製 作 と 設 置 を 担 当 し た 。 ま た 、 こ の 製 作 の た め 、66 年 6 月 、GE と BWR に 関 す る シ ス テ ム ラ イ セ ン ス 契 約 を 結 ん だ 。 建 設 工 事 に あ た っ て は 、 建 設 工 程 管 理 手 法 、 現 地 建 設 体 制 、 建 設 技 術 な ど の ほ と ん ど GE か ら の 導 入 技 術 に よ り 、 こ れ ら 技 術 内 容 の 消 化 吸 収 を 行 い 、 国 内 向 け 技 術 と し て の 基 盤 を 確 立 し た 。 水 力 発 電 を 得 意 と し 、 大 容 量 火 力 発 電 事 業 が よ う や く 軌 道 に 乗 り 始 め た 日 立 に と っ て 、 原 発 は 全 く 未 経 験 の 分 野 で あ り 、 人 材 も そ ろ っ て い な か っ た 。GE の 下 請 け で 技 術 を 吸 収 し な が ら 、 原 発 の ノ ウ ハ ウ と 人 材 の 育 成 が 進 め ら れ た の で あ る 。 原 発 技 術 の 吸 収 、 発 展 に あ た っ て 、 日 立 は 火 力 発 電 に 関 す る GE と の 技 術 提 携 や 製 作 経 験 が 重 要 な 役 割 を 果 た し て い た 。提 携 関 係 に よ っ て 構 築 し た 信 頼 と 技 術 蓄 積 に よ り 、1967 年 に は 、 日 立 は GE と 原 子 力 用 タ ー ビ ン 発 電 機 に 関 す る 受 入 れ 技 術 契 約 を 締 結 し た 。 こ れ 12 以 下 、日 立 の 原 発 事 業 に 関 し て は 、魚 住 弘 人 [2008]「 原 子 力 新 時 代 へ - 日 立 原 子 力 に 生 き 続 け る「 自 主 技 術 へ の こ だ わ り 」- 」『 日 立 評 論 』Vol.90, No.7、2008 年 7 月 、p10-15。 日 立 原 子 力 20 周 年 記 念 会 実 行 委 員 会 [1978]『 日 立 原 子 力 の 歩 み 』 1978 年 11 月 。 日 立 製 作 所[2010]『 日 立 製 作 所 史 5』 2010 年 12 月 、 日 立 製 作 所 [2011]『 日 立 事 業 発 達 史 - 100 年 の 歩 み 』2011 年 12 月 (著 者 は 、 宇 田 川 勝 ・ 石 井 晋 ・ 金 容 度 )。

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に よ り 、GE が 海 外 か ら 受 注 し た 原 発 の 関 連 設 備 の 下 請 け で 、原 子 力 発 電 用 低 圧 タ ー ビ ン ・ 低 圧 ロ ー タ を 製 作 し た 。 さ ら に 1970 年 に は 、 海 外 か ら 1,100MW の 大 容 量 原 子 力 発 電 設 備 用 の 原 子 炉 圧 力 容 器 一 式 を 受 注 し た 。 敦 賀 、 福 島 第 一 原 発 の 設 備 に お け る 国 産 機 器 使 用 率 は 、 ど れ も 55%程 度 で あ っ た13。 前 述 の 国 産 化 奨 励 政 策 を 受 け て 、国 産 化 へ の 動 き は 高 ま っ て い た が 、そ の 画 期 と な っ た の が 、 中 国 電 力 に よ る 島 根 原 子 力 発 電 所 建 設 計 画 の 発 表 で あ っ た 。 原 発 建 設 に お い て は 、 原 発 専 業 の た め に 創 設 さ れ た 日 本 原 子 力 発 電(株 )の ほ か 、 大 規 模 な 東 京 電 力 、 関 西 電 力 が 先 行 し た 。 他 の 電 力 会 社 も や が て こ れ に 追 随 し て い く が 、 中 国 電 力 は 、 被 爆 地 ・ 広 島 を 営 業 エ リ ア に 抱 え る と い う 事 情 に 配 慮 し な が ら も 、 比 較 的 早 く か ら 原 発 に 関 心 を 抱 い て い た14。国 内 で 原 子 力 ブ ー ム が 生 じ た 1956 年 に 最 初 の 構 想 が 立 て ら れ 、 調 査 が 進 め ら れ た と い う 。そ の 後 、1965 年 か ら 三 菱 原 子 力 グ ル ー プ と の 間 で PWR の 共 同 設 計 を 開 始 、翌 66 年 か ら 日 立 製 作 所 と の 間 で BWR の 設 計 を 進 め 、各 形 式 の 原 子 炉 の デ ー タ を 蓄 積 し た 。こ れ ら の 準 備 の 上 で 、中 国 電 力 は 、1967 年 に 島 根 県 八 束 郡 鹿 島 町 に お い て 島 根 原 発 の 建 設 を 決 定 、 日 立 を プ ラ ン ト の 発 注 先 と し て 「 協 同 研 究 」 を 開 始 し た 。 国 内 電 機 メ ー カ ー が 単 独 で 原 発 の 主 契 約 社 と な る の は 、 初 め て の こ と で あ っ た 。 中 国 電 力 が な ぜ 、BWR を 選 び 、 日 立 を 主 契 約 先 と し た の か 、 詳 細 は 不 明 で あ る 。 吉 岡 斉 は 、「 通 産 省 が 産 業 政 策 的 見 地 か ら 電 力 業 界 に 要 請 し て 、二 つ の 企 業 系 列 に ほ ぼ 平 等 に 仕 事 が 割 り 当 て ら れ る よ う に 、 九 電 力 会 社 を PWR 採 用 会 社 グ ル ー プ と BWR 採 用 会 社 グ ル ー プ に 分 割 さ せ た と い う 事 情 が あ っ た と 推 定 」 し て い る15が 、 確 た る 証 拠 は 示 さ れ て い な い 。中 国 電 力 も 、PWR と BWR の ど ち ら を 選 ぶ か 独 自 に 検 討 し て い る か ら 、何 ら か の 行 政 指 導 の 影 響 が あ っ た と し て も 、 経 営 判 断 は 自 立 的 に な さ れ た も の と 思 わ れ る 。 日 立 関 係 者 は 、「 当 時 の 中 国 電 力・櫻 内 社 長 と 日 立・駒 井 社 長 と の 交 流 」が 背 景 に あ っ た と 指 摘 し て い る16 ビ ジ ネ ス の 論 理 と 産 業 政 策 に よ る 誘 導 が 、 そ れ ぞ れ ど の よ う に 作 用 し た の か は 定 か で は な い が 、 発 注 側 の 中 国 電 力 も 、 ま だ 原 発 建 設 の 実 績 に 乏 し い 日 立 に 発 注 す る な ど 、 可 能 な 限 り 国 産 化 を め ざ し た こ と は 確 認 で き る17。 日 立 側 か ら す れ ば 、 特 に 炉 心 設 計 、 安 全 設 計 13 通 商 産 業 省 公 益 事 業 局 [1969]『 昭 和 44 年 電 気 事 業 の 現 状 』 1969 年 、 p127-128。 14 中 国 電 力 [1974]『 中 国 地 方 電 気 事 業 史 』 1974 年 12 月 、 p905-918。 15 前 掲 、 吉 岡 斉 [2011]p123。 16 前 掲 、 魚 住 弘 人 [2008]。 17 「 中 国 電 力 は 、原 子 力 発 電 所 の 建 設 に あ た っ て 、ま ず 、国 産 技 術 の 採 用 を 基 本 方 針 と し 、

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な ど 、 そ れ ま で の GE か ら の 下 請 け で は 、 独 自 の 研 究 開 発 の 成 果 を 十 分 に 発 揮 で き な か っ た た め 、 島 根 原 発 受 注 は 、 大 き な チ ャ ン ス で あ っ た 。 中 国 電 力 と 日 立 と の 「 協 同 研 究 」18と 原 発 建 設 は 、 次 の よ う に 展 開 し 、 実 際 、 導 入 技 術 の 模 倣 に と ど ま ら ず 、 か な り の 程 度 、 国 産 技 術 が 開 発 さ れ 、 取 り 入 れ ら れ た 。 先 行 機 の モ デ ル と な っ た の は 、GE の BWR-3 型 炉 (福 島 1 号 機 、 46 万 kW)で あ る19。 日 立 は GE と 技 術 提 携 し て い た も の の 、 そ れ だ け で は 全 く 不 十 分 で あ っ た 。 ま ず 、 GE が 研 究 開 発 中 の 技 術 は 入 手 で き な か っ た 。 ま た 、 技 術 提 携 の 内 容 に は 発 電 補 助 機 器 類 に 関 す る 技 術 も 含 ま れ て い な か っ た 。 こ の た め 、 日 立 は そ れ ら の 技 術 を 自 主 研 究 開 発 や 製 作 経 験 で 補 完 し た の で あ る 。そ の 際 に は 、敦 賀 1 号 機 や 福 島 1 号 機 で の 下 請 け や 運 転 経 験 が 応 用 さ れ た20 日 立 に と っ て 商 用 BWR の 炉 心 設 計 は 初 め て の 経 験 で あ り 、 す で に 経 験 の あ る 研 究 炉 に 比 べ て は る か に 複 雑 で あ っ た21。 し か し 、 そ こ で も 自 主 技 術 開 発 を 推 進 し た 。 原 子 炉 一 次 系 シ ス テ ム お よ び 補 助 系 シ ス テ ム の 設 計 の 際 に は 、 信 頼 性 ・ 安 全 性 を 徹 底 追 求 し た 結 果 、 シ ス テ ム の 構 成 や 機 器 の 仕 様 な ど 、 か な り の 部 分 が モ デ ル ・ プ ラ ン ト と 異 な る も の と な っ た22。 ま た 、 発 電 所 の 計 装 ・ 制 御 シ ス テ ム に つ い て も 、 高 信 頼 性 、 高 稼 働 率 を 目 ざ し 、 新 日 立 製 作 所 と 共 同 し て 研 究 開 発 を す す め た 」 前 掲 、 中 国 電 力[1974]p910。 18 日 立 関 係 者 に よ れ ば 、 中 国 電 力 側 は 、「 日 立 と 設 計 、 製 作 、 施 工 す る う え で 、 外 国 メ ー カ ー の 意 見 に と ら わ れ る こ と な く 自 分 達 の 考 え で 判 断 を し て い こ う と い う 強 い 意 向 を 示 さ れ 、「 共 同 研 究 」で は な く 、両 社 が 対 等 な 立 場 で 忌 憚 な く 意 見 を 述 べ 合 う と い う 趣 旨 か ら「 協 同 研 究 」 と い う 文 字 が 当 て ら れ た 」 と い う 。 前 掲 、 魚 住 弘 人[2008]。 19 当 時 、 GE は よ り 経 済 的 で 出 力 の 高 い BWR-4(54 万 kW)の 新 型 炉 の 開 発 を 進 め て お り 、 日 立 側 は 当 初 こ れ を 推 奨 し た 。 し か し 、 中 国 電 力 側 は リ ス ク を 避 け 、 日 立 が GE の 下 請 け と し て 参 加 し た 経 験 の あ る 福 島 1 号 機 モ デ ル で あ る BWR-3 を 選 好 し た 。 20 敦 賀 1 号 機 に お け る 原 子 炉 圧 力 容 器 、 炉 内 構 造 物 、 全 プ ラ ン ト 配 管 、 電 気 工 事 の 製 作 、 据 付 経 験 、 モ デ ル と さ れ た 福 島 1 号 機 の 建 設 ・ 運 転 経 験 が 応 用 さ れ た 。こ れ に 加 え 、配 管 設 計 技 術 に 関 し て は 、敦 賀 1 号 機 の エ ン ジ ニ ア リ ン グ 会 社 で あ る 米 エ バ ス コ 社 に 設 計 者 を 派 遣 し て 技 術 を 吸 収 し 、 改 良 し た 設 計 を 行 っ た 。 21 BWR の 炉 心 は 、 運 転 時 に は 炉 心 冷 却 材 が 沸 騰 す る の で 蒸 気 泡 が 炉 心 内 に 三 次 元 的 に 分 布 し 、 運 転 が 進 む と 燃 料 が 燃 焼 し て 同 位 元 素 組 成 が 複 雑 に 変 化 す る 。 こ う し た 複 雑 な 炉 心 に つ い て 設 計 計 算 を 行 い 、 反 応 度 、 熱 的 余 裕 、 燃 焼 特 性 な ど を は じ め と す る 炉 心 特 性 を 高 い 精 度 で 求 め る 必 要 が あ り 、大 規 模 な 計 算 プ ロ グ ラ ム を 多 数 作 成 し な け れ ば な ら な か っ た 。 日 立 は 炉 心 設 計 に 関 す る 技 術 資 料 と 大 規 模 な 計 算 プ ロ グ ラ ム を GE か ら 入 手 し 、 自 社 コ ン ピ ュ ー タ 用 に 変 換 し た 。 こ れ に よ っ て 、 炉 心 設 計 計 算 、 炉 心 性 能 計 算 を 行 い 、 福 島 1 号 機 の 運 転 デ ー タ を 照 合 、 プ ロ グ ラ ム 妥 当 性 を 検 証 し た 。 22 原 子 炉 浄 化 系 統 流 量 を 給 水 流 量 の 1%か ら 7%へ 大 幅 に 増 加 、安 全 装 置 の 一 つ で あ る 非 常 用 炉 心 冷 却 シ ス テ ム に 当 時 最 新 の BWR-4 型 を 採 用 、 配 管 ・ 弁 類 の 構 成 部 品 の 設 置 理 由 の 明 確 化 と 自 主 作 成 の 計 算 コ ー ド に よ る 仕 様 決 定 、 先 行 機 で は 輸 入 品 で あ っ た 主 蒸 気 隔 離 弁 ・ 主 蒸 気 逃 し 安 全 弁 ・ 原 子 炉 再 循 環 ポ ン プ 用 MG セ ッ ト の 国 産 化 な ど 。ま た 、給 水 の 水 質 を 良 好 に 維 持 す る た め 世 界 に 先 が け て 沪 過 式 脱 塩 装 置 を 採 用 し た 。 さ ら に 、 実 験 結 果 を

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た に 開 発 し た23。 さ ら に 、 放 射 性 廃 棄 物 処 理 設 備 に 関 し て も 効 率 化 を 目 ざ し 、 自 主 技 術 を 導 入 、 新 た な 耐 震 設 計 法 も 確 立 し た 。 原 子 炉 圧 力 容 器 に 関 し て は 、 日 立 は す で に JPDR、 敦 賀 1 号 機 で の 製 作 経 験 が あ っ た 。 島 根 1 号 機 で は GE の 基 本 仕 様 に 従 っ た が 、 単 に 模 倣 す る だ け で は 不 十 分 で あ っ た 。 GE 仕 様 の 技 術 根 拠 を 明 確 に し て 、 顧 客 や 官 庁 に 対 し て 説 明 す る 必 要 が あ っ た た め 、 さ ま ざ ま な 点 に つ い て 再 検 討 が な さ れ た の で あ る 。 ま た 、 格 納 容 器 に 関 し て は 、 日 立 は GE 下 請 け の 福 島 1 号 機 で の 経 験 が あ り 、 従 来 の 手 法 を 改 良 し て 設 計 を 行 っ た 。 原 子 炉 内 の 構 造 物 、 炉 内 機 器 に つ い て も 、 日 立 は GE 下 請 け で 製 作 経 験 が あ っ た 。 島 根 1 号 機 で も 可 能 な 限 り 国 産 化 を め ざ し た 。 日 立 は 、 制 御 棒 、 制 御 棒 駆 動 機 構 、 ジ ェ ッ ト ポ ン プ 、 気 水 分 離 器 お よ び す べ て の 炉 内 機 器 の 試 作 を 行 っ た 。 こ の う ち 、 原 発 運 転 に あ た っ て 極 め て 重 要 な 制 御 棒 と 制 御 棒 駆 動 機 構 に つ い て は 、 技 術 的 不 安 が あ り 、 中 国 電 力 側 の 意 向 で 、 当 初 は 予 備 機 の 8 基 の み の 国 産 化 が 認 め ら れ た 。そ れ 以 外 の 機 器 に つ い て は 、ほ と ん ど 国 産 化 が 認 め ら れ た 。 こ の よ う な 「 協 同 研 究 」 を 経 な が ら 、 島 根 原 発 1 号 機 は 、 1970 年 2 月 に 着 工 開 始 し 、 74 年 3 月 、営 業 運 転 開 始 と な っ た 。機 器 の 国 産 化 率 は 94%を 達 成 し た24。電 力 会 社 と 電 機 メ ー カ ー の 共 同 研 究 に よ り 、 原 発 の 国 産 化 は め ざ ま し い 成 果 を 挙 げ た の で あ る 。 実 際 、 島 根 発 電 所 1 号 機 に 続 き 、1970 年 代 後 半 以 降 に 営 業 運 転 を 開 始 し た 原 発 の 多 く で 、国 産 化 率 90%を 超 え て い る (表 2 )。 以 上 の プ ロ セ ス に 示 さ れ る よ う に 、 電 力 会 社 、 電 機 メ ー カ ー の 双 方 が 原 子 力 発 電 機 器 の 国 産 化 を 重 視 し 、 密 接 な 共 同 研 究 に よ っ て 原 発 の 建 設 を 推 進 し た こ と が 、 そ れ ま で の 水 力 発 電 や 火 力 発 電 と 異 な る 大 き な 特 徴 で あ る 。 こ の 結 果 、PWR グ ル ー プ (電 機 メ ー カ ー と し て 三 菱 重 工 。 電 力 会 社 と し て 九 州 、 四 国 、 関 西 、 北 海 道)と BWR グ ル ー プ (電 機 メ ー カ ー と し て 日 立 、東 芝 。電 力 会 社 と し て 中 国 、北 陸 、中 部 、東 京 、東 北)そ れ ぞ れ の 中 で 、前 述 の 長 谷 川 信 の 指 摘 す る よ う な 、 電 力 会 社 と 電 機 メ ー カ ー の 関 係 の 固 定 化 が 進 ん だ も の と 考 え ら れ る 。 踏 ま え て 、 給 水 系 に 酸 素 を 注 入 す る こ と で 炭 素 鋼 の 腐 食 と 給 水 鉄 濃 度 の 上 昇 を 抑 え る 技 術 を 新 た に 開 発 、 導 入 し た 。 23 系 統 の 多 重 化 に と も な う 系 統 分 離 の 徹 底 、ト リ ッ プ・運 転 継 続 の 両 者 に 高 い 信 頼 性 を 持 つ(1/2)×2 論 理 回 路 の 採 用 、制 御 用 の 接 点 は 接 点 増 幅 せ ず 可 能 な 限 り 計 器 の 生 接 点 を 使 用 、 ヒ ュ ー マ ン イ ン タ ー フ ェ イ ス の 抜 本 的 改 善 な ど 。 24 日 立 は 、こ れ に よ っ て 中 国 電 力 か ら 信 頼 を 獲 得 し 、の ち に 島 根 原 発 の 2 号 機 お よ び 3 号 機 も 受 注 し て い る 。

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そ う し た 固 定 化 の 進 展 に 対 す る 産 業 政 策 の 影 響 は 、 定 か で は な い 。 た と え ば 、 中 国 電 力 の 有 価 証 券 報 告 書 に よ れ ば 、 原 発 建 設 時 に お い て 、 開 銀 か ら の 長 期 借 入 金 は か な り の 金 額 で 継 続 し て い る が 、 必 ず し も ウ ェ イ ト を 増 し て い る わ け で は な い 。 開 銀 融 資 が 一 定 の 「 呼 び 水 」 効 果 を 発 揮 し た 可 能 性 は 否 定 で き な い が 、 産 業 政 策 に よ る 誘 導 が 決 定 的 な 影 響 を 及 ぼ し た と は 考 え に く い 。 も っ と も 、電 機 メ ー カ ー の 原 発 建 設 技 術 の 蓄 積 は 、1950 年 代 か ら 官 民 協 力 に よ り 政 策 的 に 進 め ら れ た 原 子 力 利 用 の 成 果 に も 負 っ て い る 。 し た が っ て 、 原 発 の 国 産 化 が 比 較 的 は や く 進 ん だ こ と に 関 し て 、 産 業 政 策 は 一 定 の 効 果 を 果 た し た の で あ ろ う 。 し か し 、 電 力 会 社 と 電 機 メ ー カ ー 間 の 固 定 化 は 、国 産 化 を 目 指 す 産 業 政 策 を バ ッ ク グ ラ ウ ン ド と し な が ら も 、 そ れ ぞ れ の 企 業 間 で 独 自 に 進 め ら れ た と 考 え る べ き で あ ろ う 。 島 根 原 発 の 事 例 で 見 ら れ た よ う に 、 海 外 か ら の 技 術 導 入 に 多 く を 頼 っ た と は い え 、 原 発 建 設 に あ た っ て は 、 電 機 メ ー カ ー は 電 力 会 社 と 共 同 し 、 技 術 吸 収 だ け に と ど ま ら ず 、 独 自 技 術 の 開 発 を 進 め る 必 要 に 迫 ら れ た 。 ア メ リ カ 企 業 が 原 発 技 術 開 発 で 大 き く 先 行 し て い た と は い え 、 技 術 提 携 で 獲 得 で き た の は い ま だ 発 展 途 上 の 不 完 全 な 技 術 だ っ た の で あ る 。 し た が っ て 、 日 本 の 電 機 メ ー カ ー に と っ て も 技 術 フ ロ ン テ ィ ア が 開 か れ て い た 。 国 産 化 の 推 進 に よ っ て キ ャ ッ チ ア ッ プ し 、 さ ら な る 効 率 性 、 安 全 性 を 追 求 す る 余 地 は 大 き か っ た 。 そ う し た 意 味 で も 、 国 産 化 推 進 政 策 に 経 済 的 合 理 性 を 認 め る こ と が で き る 。 た だ し 、一 方 で 1960-70 年 代 の 日 本 の 電 機 メ ー カ ー に お け る 原 発 技 術 に 詳 し い 人 材 は 各 メ ー カ ー と も 十 分 な も の で は な か っ た 。 原 発 に 関 す る 技 術 力 や 資 金 力 に 関 し て 、 日 立 、 東 芝 、 三 菱 重 工 の 間 に 大 差 は な か っ た 。 そ れ ぞ れ の 企 業 グ ル ー プ の 動 員 能 力25に 応 じ て 受 注 し た 結 果 、原 発 建 設 を め ぐ る 電 力 会 社 と の 関 係 は 、「 棲 み 分 け 」的 状 況 と な り 、結 果 的 に 受 注 が ほ ぼ 三 分 さ れ 、共 同 研 究 を 通 じ て 固 定 的 な 関 係 が 形 成 さ れ て い っ た も の と 考 え ら れ る 。 各 社 の 人 材 や ノ ウ ハ ウ は 、 受 注 後 の 電 力 会 社 と の 共 同 研 究 過 程 で 次 第 に 拡 充 し て い っ た 。 前 掲 、 吉 岡 斉[2011]が 指 摘 す る よ う な 、 産 業 政 策 に 基 づ く 行 政 指 導 の 機 能 は 、 か な り 控 え め に 評 価 す べ き で あ ろ う 。 早 期 に 原 発 の 国 産 化 を 進 め る た め に は 、 日 立 、 東 芝 、 三 菱 重 25 日 立 の 島 根 1 号 機 建 設 の 際 に も 、グ ル ー プ 各 社 と の 連 携 が 必 須 で あ っ た 。圧 力 容 器 の 材 料 で は バ ブ コ ッ ク 日 立 の ボ イ ラ ・ 化 学 装 置 経 験 が 生 か さ れ 、 ま た 内 面 肉 盛 用 の ス テ ン レ ス 帯 状 電 極 の 生 産 を 日 立 金 属 安 来 工 場 が 担 当 し た 。 原 子 炉 格 納 容 器 の 製 作 、 据 え 付 け は 、 系 列 会 社 の バ ブ コ ッ ク 日 立 が 担 当 し た 。 据 え 付 け に あ た っ て 、 現 地 溶 接 率 を 少 な く し 、 据 え 付 け 工 期 を 短 縮 、 当 時 世 界 最 短 の 5.5 ヶ 月 で 据 え 付 け を 完 了 し た 。

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工 が 受 注 を 三 分 し26、 各 社 で 漸 進 的 に 技 術 を 吸 収 ・ 向 上 ・ 改 善 さ せ て い く こ と が 、 電 力 会 社 及 び 電 機 メ ー カ ー に と っ て も 、 合 理 的 な 選 択 肢 で あ っ た と い う 解 釈 が 事 実 に 近 い よ う に 思 わ れ る 。 4 . 原 発 の 「 改 良 ・ 標 準 化 」 政 策 (1)稼 働 率 低 下 問 題 1970 年 代 初 頭 か ら 、原 発 の 運 転 が 続 々 と 始 ま っ た が 、運 転 ト ラ ブ ル や 故 障 に 伴 い 、設 備 利 用 率 が 低 迷 し た(図 1)。特 に 問 題 と な っ た の が 、BWR に お け る 配 管 の 応 力 腐 食 割 れ 、PWR の 蒸 気 発 生 器 に お け る 放 射 能 漏 れ で あ り 、 従 業 員 の 被 曝 問 題 も 懸 念 さ れ た 。 具 体 的 に は 次 の よ う な 問 題 で あ っ た 。 1974 年 9 月 か ら 実 施 さ れ た 福 島 第 一 原 発 1 号 機 の 定 期 点 検 に お い て 、 ス テ ン レ ス 製 配 管 の ひ び 割 れ が 発 見 さ れ た 。 こ れ は 、 当 時 、 原 発 の よ う な 「 厳 密 な 水 質 管 理 下 で は 生 ず る こ と が 考 え ら れ な い と さ れ て い た 」。原 因 は 、ス テ ン レ ス 小 口 径 配 管 の 溶 接 時 に お け る 熱 影 響 部 に 粒 界 割 れ が 生 じ や す い 感 受 性 の 高 い 部 分 が あ っ て 、 そ こ に 長 時 間 に わ た っ て 応 力 が か か っ た 結 果 と 判 断 さ れ た 。 こ の ほ か 、 ノ ズ ル 部 の ひ び も 見 つ か っ た が 、 こ れ は 高 温 の 原 子 炉 水 と 低 温 の 制 御 棒 駆 動 水 戻 り 水 の 混 合 に よ っ て 生 ず る 繰 り 返 し 熱 応 力 が 原 因 と 考 え ら れ た27。 応 力 解 析 に つ い て は 、GE や WH か ら 下 請 け 受 注 し た 電 機 メ ー カ ー に お い て も か な り 詳 細 に な さ れ て い た 。 し か し 、 経 験 の 乏 し さ も あ っ て 未 解 明 の 部 分 が 多 数 残 さ れ て い た よ う で あ る 。 PWR に つ い て は 、1972 年 6 月 、関 西 電 力 美 浜 原 発 1 号 機 の 蒸 気 発 生 器 の 放 射 能 漏 れ が 発 見 さ れ た 。 細 管 の 減 肉 現 象 に 伴 う も の で あ り 、 水 処 理 方 法 が 原 因 で あ る と 判 断 さ れ た 。 こ れ ら の 事 故 に つ い て の 対 応 が 進 ん だ が 、 原 発 の 安 全 性 に 対 す る 周 辺 地 域 住 民 等 の 信 頼 を 大 き く 損 な う こ と と な っ た 。こ れ を 受 け て 、通 産 省 で は 、信 頼 性 確 保 の た め 、1975 年 か ら 、 蒸 気 発 生 器 、 バ ル ブ 、 燃 料 集 合 体 、 溶 接 部 熱 影 響 部 、 ポ ン プ な ど の 重 要 部 分 に つ い て 、 信 頼 性 実 証 実 験 を 進 め る こ と と し た 。 以 上 の よ う な ト ラ ブ ル が 発 生 し 、 稼 働 率 が 大 き く 低 下 し た こ と か ら 、 原 子 力 機 器 国 産 化 26 日 立 、 東 芝 は GE と 、 三 菱 重 工 は WH と 古 く か ら 密 接 な 提 携 関 係 を 結 ん で い た 。 ま た 、 大 規 模 な プ ラ ン ト で 、 設 備 建 設 に あ た っ た 高 い 精 度 を 要 す る 原 発 の 主 契 約 者 と な る の は 、 密 接 な 関 係 を 持 つ 系 列 企 業 を 多 く 抱 え る こ の 3 社 以 外 に 想 定 し に く か っ た 。 27 資 源 エ ネ ル ギ ー 庁 公 益 事 業 部 (監 修 )・ 電 力 年 報 委 員 会 (編 集 )[1979]『 電 気 事 業 の 現 状 - 石 油 危 機 以 降 を 中 心 と す る 電 気 事 業 の 歩 み -(昭 和 48 年 度 ~ 昭 和 53 年 度 )』 p168-170。

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政 策 の 質 を よ り 高 め る こ と が 必 須 の 課 題 と な っ た 。 ま た 、 原 発 の 国 産 化 率 は 次 第 に 高 ま っ て き て い た が 、 特 に 重 要 な 再 循 環 ポ ン プ 、 バ ル ブ な ど の 国 産 化 は 一 部 に と ど ま っ て い た 。 さ ら に は 、 軽 水 炉 技 術 に つ い て は 、 西 ド イ ツ や フ ラ ン ス の よ う な 独 自 の シ ス テ ム の 開 発 に は 至 っ て い な い と 認 識 さ れ た の で あ る28 (2)軽 水 炉 の 改 良 ・ 標 準 化 こ れ ら を 受 け て 、1975 年 、通 産 省 機 械 情 報 産 業 局 に 、原 子 力 発 電 機 器 標 準 化 調 査 委 員 会 及 び 原 子 力 発 電 設 備 改 良 標 準 化 調 査 委 員 会 が 設 置 さ れ た29。 同 委 員 会 は 、 学 識 経 験 者 、 電 力 会 社 、 電 機 メ ー カ ー な ど の 代 表 を 構 成 メ ン バ ー と す る 。 目 的 は 自 主 技 術 に よ る 軽 水 炉 の 信 頼 性 ・ 稼 働 率 の 向 上 と 、 従 業 員 の 被 曝 軽 減 の た め の 軽 水 炉 標 準 化 計 画 の 推 進 で あ っ た 。 そ の 後 、 上 記 の 2 つ の 委 員 会 で は 検 討 が 進 め ら れ 、 逐 次 、 報 告 が な さ れ て い る 。 以 下 で は 、 こ れ ら を た ど っ て み よ う30 1976 年 4 月 、上 記 2 委 員 会 に よ る 中 間 報 告 が ま と め ら れ 、さ ら に 1977 年 4 月 に は「 昭 和 51 年 度 軽 水 炉 改 良・標 準 化 調 査 」を 踏 ま え た 報 告 が ま と め ら れ た31。こ れ に よ れ ば 、改 良・標 準 化 の 主 な 目 標 は 、プ ラ ン ト 稼 働 率 の 向 上 と 被 曝 低 減 の 二 つ で あ る 。こ の 時 期 に は 、 標 準 化 の 前 提 と し て 、被 曝 軽 減 の た め の 改 良 が 重 視 さ れ て い た よ う で あ る 。調 査 報 告 で は 、 「 格 納 容 器 内 部 で の 作 業 に 伴 う 被 ば く の 占 め る 割 合 が 大 き い 。 こ の た め 格 納 容 器 の 形 状 の 改 良 、 容 器 内 機 器 配 置 の 改 良 、 点 検 保 守 の 自 動 化 ・ 遠 隔 化 を 図 る こ と が 必 要 で あ る 」 と す る 。こ れ ら に よ り 、従 来 プ ラ ン ト に 比 し 、BWR で 約 35%、PWR で 約 25%、従 業 員 の 被 曝 が 低 減 さ れ 、 さ ら に 作 業 性 の 向 上 な ど に よ り 、 定 期 検 査 期 間 の 短 縮 な ど も 期 待 さ れ る と す る 。こ れ ら の 改 良 を 踏 ま え た 上 で 、1980 年 頃 に 日 本 型 軽 水 炉 標 準 化 プ ラ ン ト の 仕 様 を 策 定 す る こ と が 目 標 と さ れ た 。標 準 化 プ ラ ン ト の 電 機 出 力 は 、80 万 kW、110 万 kW 級 の 2 つ 、 標 準 化 の 範 囲 は ま ず 立 地 条 件 に 比 較 的 左 右 さ れ な い 原 子 炉 蒸 気 発 生 設 備 を 先 行 し て 標 準 化 28 原 子 力 委 員 会 [1976]『 原 子 力 白 書 』 第 9 章 、 1976 年 12 月 、 WEB 版 、 (http://www.aec.go.jp/jicst/NC/about/hakusho/wp1976/sb20901.htm) 29 通 商 産 業 省 ・ 通 商 産 業 政 策 史 編 纂 委 員 会 [1993]『 通 商 産 業 政 策 史 』 第 14 巻 、 1993 年 6 月 、p397、 筆 者 は 塚 原 修 一 。 30 全 体 の 流 れ の 概 要 に つ い て は 、通 商 産 業 政 策 史 編 纂 委 員 会 編・長 谷 川 信 編 著 [2013]『 通 商 産 業 政 策 史 7 機 械 情 報 産 業 政 策 1980-2000』2013 年 3 月 、p451-480、筆 者 は 武 田 晴 人 。 31 原 子 力 発 電 機 器 標 準 化 調 査 委 員 会・原 子 力 発 電 設 備 改 良 標 準 化 調 査 委 員 会「 軽 水 炉 改 良 標 準 化 調 査 中 間 報 告(概 要 )」1976 年 4 月 9 日 、お よ び「 51 年 度 軽 水 炉 改 良 ・標 準 化 調 査 」 『 通 産 省 公 報 』1977 年 5 月 27 日 p2-4。

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し 、 機 器 配 置 、 建 屋 設 計 な ど 立 地 条 件 に よ り 大 き く 影 響 さ れ る 部 分 の 標 準 化 は そ の 後 の 課 題 と さ れ た 。 翌 1978 年 5 月 、「 軽 水 炉 改 良 標 準 化 調 査 の 中 間 報 告 」 が 発 表 さ れ た32。 こ れ に よ れ ば 、 格 納 容 器 の 容 積 を 1.5-2 倍 と す る こ と で 点 検 保 守 作 業 ス ペ ー ス を 拡 大 、 さ ら に 大 型 階 段 、 モ ノ レ ー ル 等 の 設 置 に よ り 作 業 効 率 の 大 幅 向 上 が 図 ら れ た 。 さ ら に 、BWR で の 制 御 棒 駆 動 機 構 及 び 燃 料 交 換 機 の 自 動 化 、PWR で の 蒸 気 発 生 器 自 動 検 査 機 器 の 採 用 な ど の 改 良 が 取 り 入 れ ら れ る こ と と な っ た 。 以 上 が 、第 一 次 改 良 標 準 化 の 成 果 と さ れ 、こ れ に よ り 従 来 に 比 し 、従 業 員 の 被 曝 が25-35% 低 減 、時 間 稼 働 率 が 世 界 ト ッ プ レ ベ ル の 75%と な る こ と が 期 待 さ れ た 。こ の 第 一 次 改 良 標 準 化 に 続 い て 、 第 二 次 改 良 標 準 化 が 進 め ら れ る こ と に な っ た 。 そ の 概 要 は 、 検 査 機 器 の 自 動 化 高 速 化 に よ る 点 検 作 業 の 効 率 化 と 被 曝 低 減 、 ま た 各 種 機 器 の 信 頼 性 向 上 、 耐 震 設 計 の 標 準 化 、付 加 追 従 運 転 機 能 な ど 運 転 性 能 の 向 上 を 図 る こ と で あ っ た 。第 二 次 標 準 化 に よ り 、 従 業 員 の 被 曝 が 従 来 の 30-50%に 低 減 さ れ 、 時 間 稼 働 率 が 80%に な る こ と が 期 待 さ れ た 。 (3)「 日 本 型 軽 水 炉 」 と 標 準 化 の 推 進 1981 年 ま で に 、第 二 次 改 良 標 準 化 計 画 は 実 施 さ れ 、一 定 の 成 果 を 収 め た33。設 備 利 用 率 も 、1978 年 頃 か ら 顕 著 に 回 復 し て い る( 図 1 )。1981 年 か ら は 、さ ら な る 向 上 を 図 り 、日 本 型 軽 水 炉 を 確 立 す る と の 目 標 を 持 っ て 、 第 三 次 改 良 標 準 化 計 画 が 始 ま っ た34。 特 に 強 調 さ れ た の が 、「 こ れ ま で の 成 果 を ベ ー ス に 機 器・シ ス テ ム は も ち ろ ん 、炉 心 を 含 む 原 子 炉 本 体 に 至 る ま で 自 主 技 術 を 基 本 に 国 際 協 調 を 図 り つ つ 、 日 本 型 軽 水 炉 の 確 立 を 目 指 す 」 と さ れ た 点 で あ る 。 こ の 「 日 本 型 軽 水 炉 」 が 何 を さ す の か 、 明 確 な 定 義 は 見 当 た ら な い 。 残 さ れ て い る 資 料 が 不 十 分 で あ り 、 曖 昧 だ が 、 通 産 省 で は 1979 年 頃 か ら こ の 言 葉 が 使 わ れ 出 し て い る よ う で あ る35 32 「 点 検 作 業 能 率 、 大 幅 に 向 上 - 軽 水 炉 改 良 標 準 化 調 査 の 中 間 報 告 」『 通 産 省 公 報 』 1978 年 6 月 10 日 、 p3-4。 33 前 掲 、 通 商 産 業 政 策 史 編 纂 委 員 会 編 ・ 長 谷 川 信 編 著 [2013]『 通 商 産 業 政 策 史 7 機 械 情 報 産 業 政 策 1980-2000』 2013 年 3 月 、 p467-468。 34 「 自 主 技 術 を 基 本 に 日 本 型 軽 水 炉 の 確 立 を - 軽 水 炉 改 良 標 準 化 計 画 」『 通 産 省 公 報 』 1981 年 8 月 24 日 、 p1-2。 35 「 軽 水 炉 は 、今 後 と も 相 当 の 期 間 に わ た り わ が 国 の 原 子 力 発 電 の 中 心 と な る も の で あ り 、 そ の 安 全 性 に つ い て は 既 に 十 分 確 保 さ れ て い る と 考 え ら れ る が 、 一 層 の 信 頼 性 の 向 上 、 従 業 員 の 被 ば く 低 減 等 の た め 、 軽 水 炉 の 改 良 標 準 化 を 推 進 し 、 日 本 型 軽 水 炉 の 確 立 を 図 る こ

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吉 岡 斉[2011]は こ れ に つ い て 次 の よ う に 述 べ て い る36。石 油 危 機 後 、1980 年 代 に か け て 、 通 産 省 の 担 当 す る 総 合 エ ネ ル ギ ー 政 策 が 国 策 と し て の 重 要 性 を 増 し 、 中 で も 原 発 が そ の 地 位 を 大 き く 向 上 さ せ た 。 同 時 に 原 子 力 に お い て も 対 米 自 立 政 策 を 図 る 動 き が 見 ら れ た と い う 。 そ う し た 流 れ の 一 環 と し て 第 三 次 改 良 標 準 化 計 画 に お い て 「 日 本 型 軽 水 炉 」 の 確 立 が 目 標 と さ れ た 。も っ と も 、「 日 本 型 軽 水 炉 」と い う ス ロ ー ガ ン は 看 板 倒 れ に 終 わ っ た と い う 。 理 由 と し て 、「 お そ ら く 通 産 省 の テ ク ノ ナ シ ョ ナ リ ズ ム が 、国 内 的 に は 技 術 的 独 立 を 達 成 す る こ と の 経 営 上 の メ リ ッ ト を 認 め な い 電 力 業 界 の 協 力 を 得 ら れ ず 、 国 際 的 に も ア メ リ カ の 強 い 抵 抗 に 直 面 し た 結 果 、 妥 協 を 余 儀 な く さ れ た 」 も の と 推 測 さ れ て い る 。 ま た 、1980 年 代 に な っ て ア メ リ カ の 原 子 力 産 業 が 解 体 の 危 機 に 瀕 し た こ と も あ り 、 対 米 自 立 は 不 要 と な っ た と の 条 件 変 化 も 指 摘 さ れ て い る 。 以 上 の 吉 岡 斉 の 見 解 に つ い て 、 通 産 省 の 産 業 政 策 の 目 標 と 電 力 業 界 の 意 向 と の 乖 離 を 指 摘 し て い る 点 は 注 目 す べ き で あ る 。 た だ し 、 通 産 省 = テ ク ノ ナ シ ョ ナ リ ズ ム と の 図 式 は 必 ず し も 適 切 で は な い で あ ろ う 。 こ の 時 期 、 国 際 的 に 微 妙 な 問 題 を は ら む 濃 縮 ウ ラ ン の 確 保 な ど 、 資 源 ナ シ ョ ナ リ ズ ム 的 な 動 き が 生 じ て い た こ と は 確 か で あ る 。 し か し 、 通 産 省 の 産 業 政 策 に お い て は 、 経 済 性 や 効 率 化 を 重 視 す る 観 点 の 方 が よ り 強 く 作 用 し て い た よ う に 思 わ れ る 。 ま ず は 、原 子 力 機 器 産 業 振 興 政 策 に つ い て の 通 産 省 の 見 解 を た ど っ て み よ う 。1980 年 代 初 め に は 、産 業 政 策 上 の 観 点 と し て 次 の よ う な 論 理 が 示 さ れ て い る 。「 電 子 力 発 電 プ ラ ン ト の 特 質 の た め そ れ を 製 造 す る 原 子 力 機 器 産 業 は 高 付 加 価 値 産 業 で あ る と 同 時 に 高 度 な 技 術 開 発 を 要 し か つ 他 産 業 へ の 波 及 効 果 も 大 き い 技 術 先 端 産 業 で あ る 。 し た が っ て 、 今 後 産 業 構 造 の 高 度 化 を 目 指 す わ が 国 に と っ て 原 子 力 機 器 産 業 は 極 め て 重 要 な 産 業 と い え る 」。こ れ に 加 え 、「 エ ネ ル ギ ー の 自 立 性 」を 図 る と と も に 、放 射 線 被 曝 に 厳 し く 、地 震 多 発 国 で あ る 日 本 の 国 情 に 対 応 し た 原 子 力 発 電 プ ラ ン ト 建 設 の た め に も 、「 導 入 技 術 か ら の 脱 却 」が 必 要 で あ る と さ れ た37 以 上 の よ う な 、 産 業 政 策 を 正 当 化 す る 論 理 は 、81-82 年 頃 、 さ ら に 補 強 さ れ る 。 原 子 力 産 業 は 核 不 拡 散 と 密 接 な 関 係 に あ る た め 、 機 器 供 給 を 海 外 に あ お ぐ こ と に は 発 電 所 の 運 営 と と し て い る 」沖 田 誠 司(機 械 情 報 産 業 局 電 子 機 器 電 機 課 )「 原 子 力 機 器 産 業 の 振 興 」『 通 産 省 公 報 』1979 年 12 月 17 日 、 p9-11。 36 前 掲 、 吉 岡 斉 [2011]p182-191。 37 山 口 佳 和 (機 械 情 報 産 業 局 電 子 機 器 電 機 課 )「 原 子 力 機 器 産 業 の 振 興 」『 通 産 省 公 報 』1980 年 10 月 17 日 、 p9-11。

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に 不 安 を 残 す 。機 器 の 供 給 の 世 界 市 場 は GW と WH に よ っ て 支 配 さ れ る 独 占 的 構 造 に あ り 、 こ れ に 対 抗 す る た め に 国 産 化 を 進 め る 必 要 が あ る 等 で あ る 。さ ら に 、1979 年 の 米 ス リ ー マ イ ル 島(TWI)で の PWR 事 故 を 受 け 、原 子 力 機 器 産 業 が 赤 字 に 陥 っ た こ と も 指 摘 さ れ て い る 38。 そ う し た 状 況 を 改 善 し 、 ま た 今 後 、 軽 水 炉 か ら 高 速 増 殖 炉 へ 展 開 し て い く た め に 膨 大 な 資 金 が 必 要 で あ る が 、 機 器 産 業 が そ の 負 担 に 耐 え る た め に も 産 業 基 盤 を 確 立 す る こ と が 必 要 で あ る 、 と さ れ た39 以 上 の よ う な 産 業 政 策 の 必 要 性 を 根 拠 に 、 通 産 省 は 、 開 銀 の 低 利 融 資 や 技 術 開 発 へ の 助 成 装 置 を 求 め て い る 。 少 な く と も 、 通 産 省 の 原 局 の レ ベ ル で は 、 技 術 的 な 外 部 性 や 外 国 企 業 の 独 占 に よ り 利 益 機 会 を 奪 わ れ な い よ う に す る 経 済 的 な 側 面 が 重 視 さ れ て い る 。 当 時 の 時 代 状 況 に 即 し た 「 資 源 ナ シ ョ ナ リ ズ ム 」 は 、 産 業 政 策 実 現 の 手 段 で あ り 、 大 蔵 省 は じ め 政 府 を 説 得 す る た め の ス ロ ー ガ ン と 解 釈 で き そ う で あ る 。 通 産 省 の 方 針 は ナ シ ョ ナ リ ズ ム 一 辺 倒 だ っ た わ け で は な く 、 こ の 点 で は む し ろ 、 電 力 会 社 や 電 機 メ ー カ ー の 利 害 に 沿 っ て い た こ と に な る 。 し か し 、 お そ ら く 、 通 産 省 と 電 力 会 社 ・ 電 機 メ ー カ ー と の 間 で 、 目 標 の ズ レ も 生 じ て い た40。 こ れ に つ い て 見 て い こ う 。 1970 年 代 半 ば の 原 発 の 稼 働 率 の 低 迷 か ら 改 良 標 準 化 計 画 が 進 め ら れ る 過 程 で は 、安 全 性 の 強 化 と と も に 経 済 性 の 向 上 も 重 視 さ れ た 。 産 業 政 策 的 に は 経 済 性 の 向 上 が 大 き な 課 題 で あ る が 、 そ れ に つ い て は ど の よ う に 考 え ら れ て い た か 。 1978 年 に 、 通 産 省 ・ 資 源 エ ネ ル ギ ー 庁 原 子 力 課 長 に よ る 、「 原 子 力 の 経 済 性 」 を 取 り 扱 っ た 次 の よ う な 内 容 の 論 文 が あ る41。 ま ず 、 当 時 の 現 状 と し て 、 原 発 の 稼 働 率 が 低 迷 し て い る 状 況 が 指 摘 さ れ て い る 。そ の 原 因 と な っ た 故 障 に つ い て は 、「 周 辺 シ ス テ ム の 熱 工 学 的 な い し 材 料 工 学 的 な 原 因 に 由 来 す る も の で あ る か ら 致 命 的 な も の で は な く 、 修 理 と 改 良 に よ り 満 足 の い く も の に 近 づ け る こ と が で き る 」と い う 。改 良 標 準 化 計 画 の う ち 、「 改 良 」が 進 め ら れ て い る こ と の 指 摘 で あ る 。 38 TWI 事 故 後 、 ア メ リ カ の 原 発 開 発 が 停 滞 し た こ と も 、 日 本 が 独 自 技 術 の 開 発 を よ り 強 力 に 進 め な け れ ば な ら な い と い う 意 識 を 強 め る 要 因 と な っ た 。 39 小 川 高 志 (機 械 情 報 産 業 局 電 気 機 器 課 )「 原 子 力 機 器 産 業 の 振 興 」『 通 産 省 公 報 』 1981 年 11 月 10 日 、p19-23。大 西 昭 郎 (機 械 情 報 産 業 局 電 気 機 器 課 )「 原 子 力 機 器 産 業 の 振 興 」、『 通 産 省 公 報 』1982 年 11 月 26 日 、 p12-16。 40 た だ し 、本 稿 執 筆 の 段 階 で は 、こ れ に つ い て は 乏 し い 資 料 の 行 間 を 読 み 取 る 以 外 に な か っ た 。 41 山 本 幸 助 [1978]「 原 子 力 論 議 総 ざ ら い 原 子 力 批 判 の 分 析 と 考 え 方 (下 )」『 通 産 ジ ャ ー ナ ル 』1978 年 2 月 、 p92-103。

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さ ら に 、こ れ に 加 え 、次 の よ う に 指 摘 し て い る 。「 現 在 の よ う に 次 々 と 新 し い 発 電 所 ご と に 出 力 や 設 計 を 変 え て い く 方 式 か ら 、 望 ま し い 一 定 の 標 準 型 を 設 計 し 、 こ れ を 反 復 し て 製 造 す る 方 式 を 採 用 す る(改 良 標 準 化 )こ と を 検 討 し て い る 」。 改 良 標 準 化 計 画 の う ち 、「 標 準 化 」を 強 調 し た 見 解 で あ る 。こ の「 標 準 化 」重 視 の 方 針 は 、1980 年 代 前 半 に お け る 通 産 省 の 原 発 に 関 す る 産 業 政 策 の 底 流 と な っ て い た よ う に 思 わ れ る 。 1982 年 7 月 に 、資 源 エ ネ ル ギ ー 庁 の 私 的 懇 談 会 と し て 、業 界 関 係 者 、有 識 者 を 集 め た 原 子 力 発 電 高 度 化 懇 談 会 が 発 足 す る 。 ほ ぼ 一 年 後 の 6 月 21 日 に 報 告 書 が ま と め ら れ 、 の ち の 通 産 省 の 政 策 に 影 響 を 与 え る が 、 そ の 報 告 書 に は 「 標 準 化 」 を 重 視 す る 認 識 が 濃 厚 に 現 れ て い る42。 こ れ を 見 て み よ う 。 報 告 書 で 強 調 さ れ て い る こ と は ま ず 、 次 の 点 で あ る 。 資 料 1 原 子 力 発 電 が 電 力 供 給 に 占 め る 割 合 が 増 大 す る に 従 い 、原 子 力 発 電 の 経 済 性 に つ い て も 大 き な 関 心 が 注 が れ つ つ あ る 。原 子 力 発 電 に よ る 発 電 コ ス ト は 、1kWh 当 た り 57 年 度 運 開 ベ ー ス で 12 円 程 度 で あ り 、 石 油 火 力 20 円 程 度 、 LNG 火 力 19 円 程 度 、 石 炭 火 力 15 円 程 度 に 比 し 、 経 済 的 に 優 位 に あ る と い え る 。 し か し な が ら 、原 子 力 発 電 の 場 合 、発 電 コ ス ト に 占 め る 建 設 費 の 割 合 が 極 め て 大 き く 、か つ 、そ れ が 比 較 的 高 い 比 率 で 上 昇 し て き た た め 、も し 、こ の 傾 向 が 今 後 も 続 い た り 、現 在 の 極 め て 良 好 な 稼 働 率 が 大 き く 低 下 す る こ と な ど が あ れ ば 、そ の 経 済 的 優 位 性 が 損 な わ れ る 恐 れ も あ る 。こ の た め 、原 子 力 発 電 の 安 全 性 の 確 保 を 前 提 と し て 、信 頼 性 の よ り 一 層 の 向 上 に よ る 高 稼 働 率 の 追 求 に 努 め る と と も に 、建 設 費 の 低 減 を 図 っ て い く こ と が 強 く 求 め ら れ る 。 (「 原 子 力 発 電 高 度 化 懇 談 会 報 告 書 」 よ り 抜 粋 ) 報 告 書 に よ れ ば 、原 発 の 発 電 コ ス ト を 国 際 比 較 す る と 、日 本 に 比 し て 西 ド イ ツ が 同 程 度 、 フ ラ ン ス が 2 割 強 安 く な っ て い た と い う 。フ ラ ン ス と 日 本 の 発 電 コ ス ト の 差 は 主 に 建 設 費 で あ り フ ラ ン ス が 約 25%安 い 。 そ の 差 は 機 械 装 置 費 の 違 い に 起 因 し 、「 フ ラ ン ス が 、 発 電 容 量 を 90 万 kW 級 、 130 万 kW 級 の 2 ク ラ ス に 限 っ て 徹 底 し た 標 準 化 を 実 施 し て い る こ と 、 計 画 的 開 発 、 量 産 化 の メ リ ッ ト を 享 受 で き る 体 制 に あ る こ と 、 耐 震 条 件 が 日 本 よ り 厳 し く な い こ と 等 の 要 因 に よ る も の と 考 え ら れ る 」 と 指 摘 さ れ て い る 。 42 「 原 子 力 発 電 高 度 化 懇 談 会 報 告 書 - 原 子 力 発 電 の 高 度 化 に 向 け て - 」1983 年 6 月 21 日 、 日 本 原 子 力 産 業 会 議 『 原 子 力 資 料 』No.150、 1983 年 、 p1-22。

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そ の 上 で 、第 二 次 改 良 標 準 化 を 経 た 日 本 の 原 発 の 1983 年 当 時 の 現 状 に つ い て 、「 改 良 が 主 に な っ て お り 、 標 準 化 の 達 成 と い う 観 点 か ら み る と 、 そ の 成 果 は 十 分 と は 言 い 難 い 」 と し 、「 経 済 性 向 上 の た め の 基 本 的 方 策 」と し て は 、稼 働 率 の 向 上 に よ る 運 転 費 の 軽 減 も 考 え ら れ る が 、 発 電 コ ス ト に 占 め る 割 合 の 高 い 建 設 費 の 削 減 が 必 須 で あ る 。 こ の た め 、 標 準 化 の 徹 底 推 進 に 最 優 先 で 取 り 組 む こ と を 求 め て い る 。そ の う ち 、「 具 体 的 方 策 」と し て 、以 下 の 内 容 が 記 述 さ れ て い る 。 資 料 2 1)こ れ ま で の 標 準 化 は 、炉 心 ま わ り を 中 心 に 進 め ら れ て き た が 、今 後 は 標 準 化 を プ ラ ン ト 全 体 に 拡 大 し 、「 標 準 プ ラ ン ト 」を 策 定 す る 。標 準 プ ラ ン ト に は 、現 在 、実 績 の あ る 、80 万 ト ン kW 級 、110 万 kW 級 及 び 現 在 確 証 試 験 を 進 め て い る A-PWR、 A-BWR の 130 万 ト ン kW 級 の 3 つ の 容 量 を 採 用 し 、 機 器 シ ス テ ム は も ち ろ ん 、機 器 配 置 及 び 主 要 建 屋 の 配 置 に つ い て も 標 準 化 を 図 る こ と が 重 要 で あ る 。こ の 際 、 特 に よ く 使 わ れ る 機 器 に つ い て は 、見 込 み 生 産 が で き る 程 度 ま で 標 準 化 を 徹 底 す る 必 要 が あ る 。標 準 化 の 徹 底 は 、一 面 で 技 術 進 歩 を 遅 ら せ る こ と も あ り う る が 、標 準 プ ラ ン ト の 設 計 を そ の 都 度 変 え る こ と は 経 済 的 に 大 き な 損 失 に な る こ と を 考 慮 し 、安 全 確 保 上 緊 急 を 要 す る 場 合 以 外 は 、当 分 の 間 、標 準 プ ラ ン ト の 仕 様 を 根 本 か ら 変 え る よ う な 設 計 変 更 は 行 わ な い よ う に す る 必 要 が あ る 。 2)今 後 、建 設 計 画 を 進 め る も の に つ い て は 、自 然 条 件 等 に よ り 総 合 的 に 不 利 と な る 場 合 を 除 き 、標 準 プ ラ ン ト を 採 用 す る こ と と す る 。 立 地 点 の 地 形 、地 盤 等 の 条 件 に よ っ て は 、標 準 プ ラ ン ト を 採 用 す る よ り も 個 別 設 計 に よ る プ ラ ン ト の ほ う が 土 木 ・ 建 築 工 事 費 が 安 く な る 場 合 も あ る が 、標 準 プ ラ ン ト を 用 い る こ と に よ っ て 、原 子 力 発 電 所 全 体 の コ ス ト と し て は 、総 合 的 に み て 安 く な る こ と も あ る の で 、こ の よ う な 場 合 に は 標 準 プ ラ ン ト を 採 用 す る 。 ま た 、地 形 、地 盤 等 の 条 件 か ら 標 準 プ ラ ン ト を 変 更 す る 場 合 に お い て も 、標 準 プ ラ ン ト を 基 本 と し た 極 少 の 変 更 に 止 め 、 配 管 、 機 器 等 に 大 幅 な 変 更 が 生 じ な い よ う 留 意 す る 必 要 が あ る 。 3)標 準 化 の 徹 底 の た め 「 原 子 力 発 電 設 備 改 良 標 準 化 調 査 委 員 会 」 の 場 で 、 今 後 、 改 良 標 準 化 の 拡 大 ・ 徹 底 の 具 体 的 方 策 を 早 急 に 検 討 す る 。 そ の 際 、電 気 事 業 者 は 、同 委 員 会 に お け る 検 討 に 資 す る よ う 電 気 事 業 者 各 社 間 の 設 計 ・ 仕 様 の 共 通 化 を 図 り 、 メ ー カ ー は 電 気 事 業 者 と 調 整 の 上 、 標 準 プ ラ ン ト の 技 術 仕 様 設 計 を 確 立 す る こ と と す る 。 な お 、 国 は 、 標 準 プ ラ ン ト に つ い て 審 査 の 効 率 化 に 努 め る こ と が 重 要 で あ る 。 4)電 気 事 業 者 及 び メ ー カ ー は 、原 子 力 発 電 プ ラ ン ト の 標 準 化 の 推 進 を 経 営 の 重 要 課 題 と し て 取 り 上 げ 、

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