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冬季日本における地上比湿の時空間的特徴と上層気象場との関連性

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─ ─57 ( ) 進行状況について示している。 水蒸気圧や相対湿度を利用する都市気候に関する研究 がある中で,比湿,即ち湿潤空気1kg当たりに含まれ る水蒸気量もまた,これまでの研究で使用されている。 石原ら(2006)は絶対湿度(比湿)を利用し,熊本市の 都市気候の解明に利用している。坂本ら(1992)は名古 屋市における気温と絶対湿度(比湿)の8 年間の傾向を 調べている。 このように局地的あるいは小さな地域の湿度を調べる 一方で湿度が全国規模の範囲においてどのように分布を し, 変 化 し て い る か に つ い て の 研 究 も あ る。 岩 崎 (2011)は暖候期(6月∼9月)においての比湿分布につ いて経年傾向や増加率の分布を求めている。この研究で は比湿の増加時間の夜間へのシフトがあり,それが夜間 の積乱雲活動強化につながっていること,また,関東か ら西では比湿が増加し,東北から北では増加傾向にある ことを明らかにした。また,糟谷・川村(2012)はGPS Ⅰ.はじめに 地球温暖化が進む現在において湿度の変化も気候変 動を知るための重要な気象要素となっている。De and Abraham(1995)は熱帯地域での湿度と温度の関係性 について,またAiguo(2005)は世界的な気温と湿度の トレンドについて研究を行っている。日本において,こ れまでの湿度の研究は都市気候に関する経年変化が多 い。榊原(1995)は水蒸気圧を利用して越谷市の市街地 と水田域の湿度の差について取り上げ,市街地が低水蒸 気圧であることを述べている。藤部(2002)は東京都に おける高温日の湿度と水蒸気圧の40年間の経年変化を 求め,周辺地域と東京の比較を行っている。山地ら (1998)は香川県の都市地域における気温と相対湿度の 経年変化について求め,都市地域の気温上昇傾向と湿度 の低下について示している。また,菊池(2001)は冬季 における名古屋市の湿度と気温の近年の傾向と都市化の

鈴木 元紀

・加藤 央之

**

We investigate spatial and temporal variation pattern of specific humidity and in relation to the upper weather pattern in winter season in Japan using hourly date from meteorological office and NCEP NCAR re-analysis data (1991 - 2010). In order to survey the variation pattern of specific humidity, we used principal component analysis. The first principal component shows north-south seesaw pattern. The second principal component has positive factor loadings centered the Kanto, and negative factor loadings over the Hokkaido and the Kyushu. In February, Z - scores of the first and the second component shows positive trend, which means that specific humidity relatively increase on the south coast of Japan (0.05 ∼0.06g/kg/yr). Temperature and precipitation also have positive trend for 19 years in these area. According to cluster analysis, specific humidity is influenced by cyclones passing along the south of Honshu south coast of Japan in February. We also investigated the variation pattern of upper air using principal component analysis. In February, geo potential height and air temperature increase in Japan south coast of Japan.

Keywords: specific humidity, principal component analysis, cluster analysis, temperature, precipitation

冬季日本における地上比湿の時空間的特徴と上層気象場との関連性

The Spatiotemporal Characteristic of Specific Humidity and its Relation to the Upper

Weather Condition in Winter in Japan

Genki SUZUKI

and Hisashi KATO

** (Accepted November 16, 2013)

日本大学文理学部自然科学研究所研究紀要 No.49 (2014) pp.57−69

13   * Department of Geosystem Sciences, College of Humanities and

Sciences, Nihon University: 3−25−40 Sakurajosui, Setagaya-ku, Tokyo, 156−8550 Japan

日本大学文理学部地球システム科学科:

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鈴木 元紀・加藤 央之 ─ ─58 ( )14 可降水量を用いて日本全国の水蒸気の季節変化を明らか にしている。 しかし,冬季における比湿の経年変動や地域分布及び 特徴についての統計的な研究はなされていない。また上 層の気象場と地上比湿との関連性について研究なされた ものも少ない。そこで,本研究では冬季の日本全国にお ける比湿の変動や地域的な特徴の時空間的特性,そして この比湿の変動が上層のどのような気象の影響を受ける のかを明らかすることを目的とする。 Ⅱ.使用データと解析手法 Ⅱ.1 使用データ 本研究では気象庁気象官署の時別の気温,現地気圧, 相対湿度,日別降水量を用いた。またNCEP・NCARの 海面気圧(以下SLP)高度,気温,比湿,風のデータを 利用した。比湿は850hPaの日平均データ,それ以外の 気象場のデータは午前9 時(00UTC)のデータを利用 した。解析対象期間は気象官署の1時間ごとの時別デー タが揃う1991年から2010年までの19年間の冬季(12∼ 2 月)とした。地上比湿の解析に用いた地点は長期欠測 がある地点を除いた130地点(図 1)である。また SLP データの対象領域は東アジア地域(北緯20∼52.5度,東 経110∼160度)とした(図 2)。 Ⅱ.2 解析手法 まず各地点の時別の相対湿度,気温,現地気圧,から 比湿を算出し(新田ほか2005),日平均比湿を求めた。 この日平均比湿に対し主成分分析を行い,19年間の比 湿の主要変動パターンとその経年変動を調べた。主成分 分析とは多変量データを幾つかの変数に集約することで 総合的なデータの指標を作る統計的手法である。気象学 では複雑な気象変動パターンを幾つかの基本的な変動パ ターン分けるために使われる。比湿の変動パターンにト レンドがある場合,その原因を他の気象要素(気温,降 水量など)を利用して調べる。 次に主成分分析によって得られた因子負荷量をクラス ター分析にかけ,比湿の変動特性による地域区分を行 い,地域的な特徴を明らかにした。クラスター分析と は,様々な性質のものが混合している集団から似た性質 のものを集めて分類する方法である。本研究ではクラス タリング手法として,群平均法を用いた。これは2 つの クラスタ(分類されたグループ)の中にある個体同士の 距離の平均をクラスターの距離と定義する手法である。 最後にSLPデータに主成分分析を行い,高層気象場の 変動パターン解析を行った。クラスター分析を用いてパ ターン分類を行い,地上比湿の変動がどのような高層の 気象パターンに影響されるか対応を調べた。 Ⅲ.結果と考察 Ⅲ. 1 地上比湿について Ⅲ.1. 1 全国の比湿分布 算出した日平均比湿から地点ごとの冬季3 か月の平均 と月平均,そしてそれらの分散値を求めた。冬季3 か月 平均でみた比湿の平均分布(図3a)によると北海道か ら東北地方,中部地方にかけては2∼3.5g/kg,関東地 方 の 沿 岸 と 北 陸 地 方 の 沿 岸 お よ び 西 日 本 で は3.5∼ 4.5g/kg,九州地方南部では4.5g/kg以上になってい る。本州においては,低緯度であるほど,または沿岸地

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図 1  本研究で利用する気象官署の位置(130地点)と地上 の対象領域 図 2  本研究で利用するNCEP・NCAR再解析の対象領域

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─ ─59 ( ) 冬季日本における地上比湿の時空間的特徴と上層気象場との関連性 15 洋南岸を中心に変動が大きい。1 月の平均分布(図 3c) では,全国的に3 か月平均より低い値を示しており, 4g/kg以下の範囲が九州地方の北部まで広がる。1 月 は冬季においての比湿の極小期を示していると考えられ る。分散の分布(図3c)をみても全国的に低い値であ り,広範囲で変動が小さくなることが分かる。2 月の比 湿平均(図3d)は,冬季 3 か月平均とほぼ同じ分布と なる。分散(図3d)をみると,太平洋南岸で大きい。 九州地方南部の分散値は12月の比湿分散値よりも大き い値を示している。2 月は九州地方南部の比湿変動が冬 域であるほど比湿は大きくなる。月平均比湿の分散(図 3a)をみると,太平洋沿岸で変動がやや大きい。本州 においては特に,房総半島や四国地方の太平洋沿岸,九 州地方の南部で分散が大きい。ここでは西高東低の冬型 の気圧配置における日本海側の降水の影響は現れていな いようである。 次に月別でみた平均値と分散値を比較すると12月の 平均分布(図3b)では中国・四国地方から関東地方及 び北陸地方の沿岸で4∼4.5g/kgと他の月より比較的高 い値となる。また,分散の分布(図3b)を見ると太平 図 3 平均比湿(g/kg)(左)と平均比湿の分散(右)の分布   (a)冬季 3 か月(b)12月(c)1月(d)2月

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3 平均比湿(g/kg)(左)と平均比湿の分散(右)の分布

a)冬季 3 か月(b)12 月(c)1 月(d)2 月

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鈴木 元紀・加藤 央之 域の比湿が低下する変動パターンである。負に卓越する ときにはこれとは逆に北日本や東日本の地域の比湿が低 下する。第2 主成分(図4b)は関東地方を中心とする 地域とそれ以外の地域の変動パターンであり,正に卓越 すると関東・東海・中部・近畿地方で比湿が上昇し,東 北地方北部・北海道及び九州地方で比湿が低下する変動 である。第3 主成分(図 4c)は中国地方を中心とした 変動パターンであり,正に卓越すると中国・北陸地方を 中心とする地域で比湿が低下する変動である。負に卓越 するとこの地域を中心に比湿が上昇する。各月の主成分 季において一番大きくなることを示している。 Ⅲ.1. 2 比湿の経年変化 Ⅲ.1. 2. 1 比湿の変動パターン 比湿の変動パターンについて調べるために地域平均偏 差に対する主成分分析を行ったところ,以下のような結 果が得られた。冬季3か月に対する結果では第 1 主成分 (図4a)は南北のシーソーパターンで正に卓越すると関 東地方から北陸・東北地方,北海道までの北日本や東日 本の地域の比湿が上昇し,九州を中心とする西日本の地

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3 平均比湿(g/kg)(左)と平均比湿の分散(右)の分布

a)冬季 3 か月(b)12 月(c)1 月(d)2 月

図 3 平均比湿(g/kg)(左)と平均比湿の分散(右)の分布   (a)冬季3か月(b)12月(c)1月(d)2月

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─ ─61 ( ) 冬季日本における地上比湿の時空間的特徴と上層気象場との関連性 17 Ⅲ.1. 2. 2 19 年間の比湿変動パターンの傾向 月別に行った主成分の卓越指数の経年変化を調べたと ころ,2 月の第 1 主成分及び第 2 主成分に正のトレンド が見られた(図4d,e)。この変動の有意性検定を行っ たところ,どちらとも有意水準95%で有意であること が分かった。そのほかの月の卓越指数の変動にはこのよ うな傾向は見られなかった。この結果により関東地方と 西日本の太平洋南岸地域及び九州では北海道・東北地方 を中心とする地域と比べて相対的に年々比湿が増加して 分析結果も冬季3 か月の比湿の変動とほぼ同じであるこ とが分かった。天気図と比較をするとそれぞれの変動パ ターンは気圧配置によって左右されていることも明らか になった。これについてはⅢ.1.5.で詳しく述べる。冬 季3 か月と各月の日平均比湿の主成分は各々第 3 主成分 までで冬季における全比湿変動の70%以上を説明する ことができる。

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(b) (d) (e) (c) (a) (b) (d) (e) (c) (a) 図 4 冬季3 か月の比湿に対する  (a)第 1 主成分の因子負荷量分布図  (b)第 2 主成分の因子負荷量分布図  (c)第 3 主成分の因子負荷量分布図   (d)2 月の第 1 主成分卓越指数の経年変化  (e)2 月の第 2 主成分卓越指数の経年変化

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鈴木 元紀・加藤 央之 比湿が増加しており,北海道と西日本を中心とする地域 では減少傾向にある。1月(図5b)は東北地方北部と 北海道の一部を除く地域では比湿は増加傾向にある。そ のほかの地域では,比湿減少傾向にある。しかし,どち らの月の比湿の減少傾向も統計的に有意ではない。 一方2 月(図5c)は東北地方南部以南から太平洋沿 岸を中心に比湿の正のトレンドが見られる。特に房総半 島,東海地方の一部は0.05∼0.06g/kg/ 年と大きく増 加している。1月,12月の比湿増減分布と異なり,増加 傾向が顕著に顕れている。また,比湿が増加している地 域は第1 主成分(図4a)と第 2 主成分(図4b)の因子 いく傾向にある, あるいは後者の地域が前者の地域に比 べて相対的に比湿が減少していることが分かる。2 月の 第1 主成分及び第 2 主成分卓越指数の正・負の地域で実 際の比湿にもトレンドがみられるかを探るため,次節で は各地点の比湿のトレンドについて再度検討する。 Ⅲ.1. 3 全国の比湿の増加トレンド 前節で明らかになった第1 主成分,第 2 主成分の増加 トレンドの実態を確認するため,全観測点での12月,1 月,2月の比湿のトレンドを調べた。 12月(図5a)は, 東北地方と房総半島そして北陸地方の日本海側の地域で

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図 5 全国19年間の冬季の比湿増加率(g/kg/ 年)   (a)12月(b)1月(c)2月(赤い点は統計的に95%水準で比湿の増加が有意な地点)

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─ ─63 ( ) 冬季日本における地上比湿の時空間的特徴と上層気象場との関連性 19 れている境界線はデンドログラムで示される分類によっ て区別し,最初に分類される(1 次区分)クラスター同 士の場合は太い実線で分け,次に分類される(2 次区 分)クラスター同士は長破線,その次に分類されたクラ 負荷量分布図において因子負荷量が正になっている地域 にあたる。なお,図5c の比湿増加が顕著な地域のうち 30地点では95%の水準で統計的に有意な比湿の増加傾 向がある。 Ⅲ.1. 4 比湿増加の原因 比湿増加には主に気温上昇と降水量増加の2 つの気象 要素の変化が原因として考えられる。そこで,比湿増加 傾向が有意な地点30地点の気温と降水量について,そ の上昇傾向があるかを調べた。Xiuzhen et al(2012)で は風による水蒸気移流も比湿増加の原因と指摘している が,ここの節では取り扱わないことにする。 Ⅲ.1. 4. 1 気温のトレンド 2月の気温のトレンド分布(図 6a)を見てみると西日 本全体に上昇傾向があることが分かる。0.1 ℃/年以上 の上昇率を持つ地点が7地点あった。しかし,気温上昇 が有意な4 地点の地理的分布には特徴が見られず,比湿 増加の原因として直接影響を与えているとは考えにく い。しかし,他の月と比べて上昇率が高いところから, 比湿増加に多少の影響を与えているのではないかと考え られる。 Ⅲ.1. 4. 2 降水量のトレンド 2月(図6b)においては,3∼4mm/年の降水量増 加が西日本の太平洋側全体にみられ,降水量のトレンド が95%の水準で統計的に有意な地点が図 6b の領域の 30 地点中12地点見られた。それは特に近畿地方,九州地 方南部,東海地方に集中している。2 月の月平均比湿と 月降水量について相関をとったところ近畿地方や九州地 方南部の地域,特に降水量増加が認められる地点を中心 に0.7∼0.8の高い相関を得た(図 6c)。従ってこれらの 地域での比湿増加は降水量の増加が主な原因だと考えら れる。紀伊半島,四国,九州の太平洋側で降水量の増加 傾向はあるにも関わらず,統計的に有意ではなく,降水 量変動と比湿変動との相関もそれほど高くないのは,降 水量の変動の分散が大きいことが一つの原因と考えられ る。 Ⅲ.1. 5 クラスター分析による地域区分 Ⅲ.1. 5. 1 各月の地域的な特徴 主成分分析で得られた第1 主成分から第 3 主成分まで の因子負荷量を用いてクラスター分析を行い,月別の地 域区分を行った。図7a に12月の結果を示す。また図 7d にデンドログラム(樹状図)を示す。図 7a 上で示さ (a) (c) (b) mm/年 図 6  (a)2 月の月平均気温のトレンド(青い星印は気温上 昇が統計的に95%水準で有意な地点)    (b)2 月の月降水量のトレンド(赤い星印は降水量 増加が統計的に95%水準で有意な地点)   (c)2 月の月降水量と月平均比湿との相関係数(星 印は降水量増加が統計的に95%水準で有意な地点)

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鈴木 元紀・加藤 央之 b1に分類され,平均比湿は 4g/kg∼5g/kgで高い。第 1 主成分の因子負荷量が負で大きい値を示しているので 南岸低気圧,また九州付近の低気圧の降水により比湿が 上昇する地域であると考えられる。南関東や東海地方の 地域のⅡb2では,平均比湿が 4g/kg程度でⅠbの地域 の値と比べると少し高い。第2 主成分の因子負荷量の値 は正に大きいことから,Ⅱb2の地域においては,低気 圧がこの地域を通ることで比湿が増加し,移動性高気圧 に覆われるとき比湿が減少すると考えられる。図7c に 2 月の比湿の変動に基づいたクラスター分析の結果を示 す。 Ⅰaに分類される地域では平均比湿が2.5∼3.5g/kg であり,分散が小さい。表3 によると第 1 主成分の因子 負荷量が負で大きくなっているので,北海道付近,また その周辺に低気圧が接近すると,比湿が増加するという 地域だと考えられる。 Ⅰbに分類される地域においては第 2 主成分の因子負 荷量が正であるため,移動性の高気圧が通過するときに 比湿が低下し,低気圧が通過する際に比湿上昇する地域 である。この地域では若干であるが,比湿の増加傾向が 認められる。 Ⅱaに分類される地域では平均比湿が 3.5∼4g/kgで あり,分散が少し大きい。この地域では第3 主成分が負 に大きく,大陸からの高気圧の張り出しがあるとき比湿 が減少する傾向にある。この地域においても比湿の増加 傾向が認められる。 Ⅱb1の 地 域 で は, 平 均 比 湿 が4.5g/kg程 度 と 大 き く,分散値も大きい。第1 主成分の因子負荷量は正で大 きく,九州周辺の低気圧が比湿の変動に影響を及ぼして いると考えられる。また,この地域においては,比湿の 高い上昇率が認められる。 Ⅱb2に分類される地域では平均比湿が 4g/kgであ り, 分 散 値 は Ⅱb1ほどではないが大きい。第 1 主成 分,第2 主成分の因子負荷量が正に大きいため,南岸低 気圧のよる比湿の変動が大きい地域だと考えられる。比 湿の明瞭なトレンドも認められ,19年間で最も比湿が 増加した地域である。 Ⅲ.1. 5. 2 地域区分の比較 各月のそれぞれのクラスター群の分布をについて因子 負荷量平均値(表1∼3)を参照して比較した。12月は 第1 主成分因子負荷量が大きいⅠaの地域は他の月に比 べ,より北に分布している。Ⅰbに分類される地域では 第2主成分の因子負荷量の絶対値が卓越し,また分布し ている範囲も大きい。関東沖または中部を通過する低気 スター同士の場合には短破線で分けている。各クラス ターの特徴については表1 に示している。表で示されて いる数字は各クラスターの平均因子負荷量であり,主成 分ごとの因子負荷量の大きさを調べ,比較することで各 クラスターの特徴づけを行っている。 Ⅰaグループに含まれる地域においては平均比湿が 2.5∼3.5g/kgと低いが一部の地域で 4g/kgとなってい る。分散値は小さい。表1 をみると第 1 主成分の因子負 荷量の値が正で大きいので,北海道付近の低気圧による 降水の影響を受けて,比湿が上昇する地域であると考え られる。 Ⅰbに分類される地域では平均比湿が中部で 3.5g/ kg,海岸近くの地域では4.5g/kgと高くなる。太平洋 側の海岸近くでは比湿の分散が大きい。この地域では第 2 主成分の因子負荷量が大きく負になっているところか ら,移動性高気圧に覆われるときに比湿が低くなり,低 気圧が通過することによって比湿が上昇する地域だと考 えられる。 Ⅱaに分類される地域においては平均比湿が4.5∼ 5g/kgと高くなるになる地域が多い。太平洋側の沿岸 地域で比湿の分散も大きい。第1 主成分の因子負荷量が 負でその絶対値が大きいことから,南岸や九州地方付近 の低気圧の影響を受け,比湿が増加する地域だと考えら れる。 Ⅱbに分類される地域では平均比湿が4.5∼5g/kgと 高いが分散は小さい。第3 主成分の因子負荷量が負で大 きくなるので,大陸からの高気圧が張り出すとき比湿が 減少する傾向にある。 図7bに 1 月の比湿の変動に基づいたクラスター分析 の結果を示す。 Ⅰaに分類される地域での平均比湿は 2 ∼3.5g/kgと 低く,分散も小さい。表2 によると第 1 主成分の因子負 荷量が正で大きいため,北海道付近に低気圧があるとき 比湿が増加する地域であることが分かる。 Ⅰbに分類される地域では平均比湿が 3 ∼3.5g/kgの 地点が多く,分散は小さい。第1 主成分と第 2 主成分の 因子負荷量が正になっているので,西から移動してきた 低気圧が通過するときに比湿が増加し,移動性高気圧に 覆われるとき比湿が減少する地域だと考えられる。 Ⅱaに分類される地域での平均比湿は 3.5g/kg程度で 分散値も低い。第3 主成分の因子負荷量が負になってい るので大陸から高気圧の張り出しにより,比湿が低下す る地域である。 Ⅱb1とⅡb2の 2 つの地域では比湿の分散が大きい。 九州地方,四国地方太平洋沿岸,紀伊半島の地域ではⅡ

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─ ─65 ( ) 冬季日本における地上比湿の時空間的特徴と上層気象場との関連性 21 圧の影響を他の月と比べて受けやすいと考えられる。1 月はⅠaの地域はより南方へ広がっており,北陸地方ま で広く分布している。 Ⅰbに分類される地域では,12月のⅠbより細長く分 布している。第1 主成分と第 2 主成分の因子負荷量がと もに比較的大きい値を示しているため,第1 主成分と第 2 主成分の変動の影響を同じ程度受ける地域であると考 えられる。特に第1 主成分の因子負荷量が大きく,北海 道や東北地方付近の低気圧の影響が他の月と比べ大きく

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図 7 比湿のクラスター分析結果   (a)12月の地域区分 (d)12月のクラスター群の樹形図   (b) 1 月の地域区分 (e) 1 月のクラスター群の樹形図   (c) 2 月の地域区分 ( f ) 2 月のクラスター群の樹形図

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鈴木 元紀・加藤 央之 均分布,標準偏差分布,因子負荷量を示す。第1 主成分 は北海道付近を中心とした変動(図8c),第 2 主成分は 東西の変動(図8d),第 3 主成分はアリューシャンおよ びオホーツク海と西日本南西諸島付近との変動を示して いる(図8e)。 12月,1月の700,850,925hPaともに ほぼ同じような変動がみられる。第1∼3 主成分までで 全体の変動の70%を説明することができる。 図9 に 2 月の500hPaの00UTCの温度場の平均分布, 標準偏差分布,因子負荷量を示す。第1 主成分の作用中 心は温度場(図8)に比べより北東に位置している(図 9c)。第 2 主成分は太平洋と大陸との変動(図9d),第 3 主成分は北海道付近と西日本との変動がみられ(図 9e),定性的には高度場と類似している。これらの変動 も他の月,他の各層でほぼ同じである。温度場の場合, 第1∼3 主成分までで全体の変動の約 60%を説明するこ とができる。 なると考えられる。 2月のⅠaは1月のⅠaと類似している。Ⅰ bは 1 月と 比べ中国地方に拡大せず西は近畿地方に留まっている。 これは東日本南岸を発達しながら通過する低気圧の影響 を受ける範囲が限定されるためと考えられる。 Ⅱb1は第 1 主成分の因子負荷量が12月のⅡa,そし て1月のⅡb1に分類される地域よりも大きい。 Ⅱb2の地域は南岸一帯に広がっており,因子負荷量 でみると1 月のⅡb2に分類される地域より第 1 主成分 の因子負荷量が大きくなっている。つまり,西日本や本 州太平洋沿岸では,他の月と比べ南岸低気圧の影響をよ り受けやすいと考えられる。 Ⅲ.2 上層気象場について Ⅲ.2. 1 上層気象場の変動パターン 地上比湿がどのような上層気象場の影響を受けて変動 しているかを調べるため,高度場・温度場の主成分分析 を行った。図8 に 2 月の500hPaの00UTCの高度場の平 表 2 1 月における比湿に基づいた各クラスター群の特徴 主成分因子負荷量 平均比湿(g/kg) 分 散 第1 主成分 第2 主成分 第3 主成分 Ⅰa 0.841 - 0.107 0.027 2.5∼3 0.1未満 Ⅰb 0.474 0.540 - 0.058 3∼3.5 0.1以下 Ⅱa - 0.237 0.353 - 0.466 3.5 0.1以下 Ⅱb1 - 0.785 - 0.214 - 0.024 4∼5 0.1(房総半島の一部で0.2) Ⅱb2 - 0.088 0.657 0.198 4 0.1(九州南部で0.2) 表 3 2 月における比湿に基づいた各クラスター群の特徴 主成分因子負荷量 平均比湿(g/kg) 分 散 第1 主成分 第2 主成分 第3 主成分 Ⅰa - 0.848 - 0.098 - 0.020 2.5∼3.5 0.1未満 Ⅰb - 0.300 0.550 - 0.155 3.5 0.1 Ⅱa 0.330 0.184 - 0.538 3.5∼4 0.1∼0.2 Ⅱb1 0.834 - 0.253 - 0.066 4.5 0.2∼0.6 Ⅱb2 0.443 0.534 0.112 4 0.1∼0.3 表 1 12月における比湿に基づいた各クラスター群の特徴 主成分因子負荷量 平均比湿(g/kg) 分 散 第1 主成分 第2 主成分 第3 主成分 Ⅰa 0.847 0.216 0.075 2.5∼4 0.1以下 Ⅰb - 0.148 - 0.700 0.190 3.5∼4.5 0.1∼0.4(房総半島は0.5以上) Ⅱa - 0.706 0.128 - 0.063 4.5∼5 0.3∼0.5 Ⅱb - 0.249 0.176 - 0.588 4.5∼5 0.1∼0.2

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─ ─67 ( ) 冬季日本における地上比湿の時空間的特徴と上層気象場との関連性 23 -40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010

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図 8  2月の500hPa温度場 の(a)平均分布(1992年∼2010年,00UTC),(b)標準偏差分布,     および主成分分析結果(c)∼(e)第 1∼第 3 主成分の因子負荷量の分布図,    (f )第 2 主成分卓越指数の時系列

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鈴木 元紀・加藤 央之 図 9  2月の500hPa高度場 の(a)平均分布(1992年∼2010年,00UTC),(b)標準偏差分布,   および主成分分析結果(c)∼(e)第 1∼第 3 主成分の因子負荷量の分布図,     (f )第 2 主成分卓越指数の時系列 -1200 -800 -400 0 400 800 1200 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010

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─ ─69 ( ) 冬季日本における地上比湿の時空間的特徴と上層気象場との関連性 25 た地域では,2月の気温上昇や降水量上昇傾向にあるこ とが分かった。クラスター分析により2 月には他の月と 比べ西日本太平洋側での低気圧の影響が大きくなる地域 が存在することが明らかとなった。また,2月は太平洋 沿岸及び西日本を通過する低気圧がこの19年間で強化 している可能性が示唆された。西高東低の冬型の気圧配 置による日本海側での降水は,比湿の増加にあまり影響 を与えていないことも結果から分かった。上層の温度場 と高度場を解析したところ2 月を中心に太平洋側で気温 や気圧が経年的に上昇している傾向が見られた。トラフ や寒冷渦などの上層の気圧配置における現象に何か変化 が起きているのか探っていく必要がある。また今後は更 に比湿と風を利用して高層気象場の解析を進め,低気圧 の19年間の傾向,そして地上比湿との関連性について 解明していく必要がある。 謝辞 本研究を行うにあたり,日本大学文理学部地球システム科 学科環境気象気候研究室の加藤央之教授には感謝いたしま す。また,日本大学文理学部非常勤講師である永野良紀氏, 並びに日本大学文理学部自然科学研究所研究員の田中誠二氏 には,本研究を進める上で重要なアドバイスをいただきまし た。そして,本研究に対して様々な意見やアドバイスをして 下さった日本大学文理学部地球システム科学科環境気象気候 研究室の皆様に深くお礼を申し上げます。本研究24年度卒 業テーマ研究の内容に加筆を行ったものである。 Ⅲ.2. 2 上層気象場の経年変化 高度場・温度場の月平均卓越指数を時系列で調べてみ る と, 主 に2 月の温度場の第 2 主成分の卓越指数が 500hPa,700hPaでは上昇トレンド,850hPaでは下降 トレンドにあることが分かった。図8f には500hPaの 2 月の卓越指数の経年変化を示している。それぞれ統計的 に95%水準で有意なトレンドがあった。高度場でも 2月 の500hPa(図9f)と700hPaが統計的に有意な上昇ト レンドを持つことが分かった。すなわち温度場において は主に太平洋側で相対的に温度が上がり,高度場におい ては太平洋側を中心に気圧が相対的に高くなる傾向があ ることを示している。 Ⅳ.まとめと今後の課題 19年間の気候データ再解析により,日本の冬季にお ける比湿の地域分布と経年変化,そして上層気象場との 関係を明らかにした。まず比湿の主成分分析を行ったと ころ,南北変動を示す第1 主成分と関東および中部地方 を中心とする変動を示す第2 主成分の卓越指数が年々増 加している傾向があることが分かった。各地点の比湿の 増加率を求めたところ,西日本太平洋側を中心に比湿が 増加していることが明らかになった。気温と降水量の2 つの気象要素を用いて比湿増加の原因をさらに解析した ところ,比湿が増加している西日本太平洋側を中心とし 参考文献 石原 修・斉藤郁雄・久保隆太郎(2006):熊本市の都市気 候に関する研究 ― その10真夏日や冬日日数の分布状況 とフェーン現象発生日の絶対湿度分布に関する考察 ―, 日本建築学会研究報告.九州支部.2, 環境系 45, 377− 380.― その 11 気温と湿度分布の変動に関する統計解 析―(45), 381−384. 岩崎博之(2011):暖候期における地上比湿の経年変化の地 理的特徴,日本気象学会大会講演予稿集 100, 241 糟谷 司・川村隆一(2012):日本における GPS可降水量の 季節変化,天気 59(10), 917−925. 菊池 信(2001):冬季における名古屋の都市気候観測 定点 における観測結果と湿度分布 ― その 1 定点における観 測結果と湿度分布(都市の熱環境実測(1),環境工学 I) 学術講演梗概集. D−1, 環境工学 I, 室内音響・音環境, 騒音・固体音, 環境振動, 光・色, 給排水・水環境, 都市 設備・環境管理, 環境心理生理, 環境設計, 電磁環境 2001, 709−710. 坂本雄三・中原信生・伊藤尚寛(1992):9 名古屋市の都市 気候に関する研究 ― その1 気温と絶対湿度に関する最 近8 年間の傾向(環境工学),東海支部研究報告集 30, 313−316. 榊原保志(1995):越谷南東部における市街地と水田域の水 蒸気圧差の特徴,天気 42(6),355−361. 新田 尚・伊藤朋之・野瀬純一・住 明正(2005):気象ハ ンドブック第3 版 藤部文昭(2002):東京都心における高温日の湿度の経年変 化(短報)天気49(6),473−476. 山地代一・米谷俊彦・森 征洋(1998):香川県の都市域に おける気象要素の経年変化と地表面状態の変化 天気 46(3),197−204.

De-Zheng Sun and Abraham H.Oor t (1995) : Humidity-Temprature Relation in Tropical Troposphere, Journal of Climate, 8, pp. 1974-1987.

Aiguo Dai (2005) : Recent Climatology, Variability,and Trends in Global Surface Humidity, Journal of Climate,

19, pp. 3589-3606.

Xiuzhen et al (2012) : Atmospheric Water Vapor Transport Associated with Two Decadal Rainfall Shifts over East China Journal of the Meteorological Society of Japan, 90 (5), pp.587-602.

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参照

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