1.Gute Nacht Fremd bin ich eingezogen, Fremd zieh ich wieder aus, Der Mai war mir gewogen Mit manchem Blumenstrauß. Das Mädchen sprach von Liebe, Die

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全文

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後久義昭テノールリサイタル

F.シューベルト/冬の旅

Franz Peter Schubert / Winterreise op.89(D911)

詩:Wilhelm Müller ヴィルヘルム・ミュラー

対訳・大意

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1.Gute Nacht

Fremd bin ich eingezogen, Fremd zieh ich wieder aus, Der Mai war mir gewogen Mit manchem Blumenstrauß. Das Mädchen sprach von Liebe, Die Mutter gar von Eh'.

Nun ist die Welt so trübe, Der Weg gehüllt in Schnee. Ich kann zu meiner Reisen Nicht wählen mit der Zeit, Muβ selbst den Weg mir weisen In dieser Dunkelheit.

Es zieht ein Mondenschatten Als mein Gefährte mit, Und auf den weiβen Matten Such ich des Wildes Tritt. Was so11 ich länger weilen, Daß man mich trieb’ hinaus, Laβ irre Hunde heulen Vor ihres Herrn Haus.

Die Liebe liebt das Wandern, Gott hat sie so gemacht. Von Einem zu dem Andern, Fein Liebchen, gute Nacht. Will dich im Traum nicht stören, Wär schad um deine Ruh, Sollst meinen Tritt nicht hören;, Sacht, Sacht die Türe zu. Schreib im Vorübergehen Ans Tor dir: gute Nacht, Damit du mögest sehen, An dich hab ich gedacht.

1.おやすみ(さようなら)

よそ者としてやって来たわたしは 再びよそ者として旅に出る。 あの時五月は沢山の花束で わたしをもてなしてくれた。 娘はわたしを愛しているといい, その母は結婚を許すとさえいった。 今あたりはこんなにうらがなしく, 道は雪ですっかり覆われている。 わたしは旅立つために 時を選ぶことはできない。 こんなに暗い中で道さえ 自分で決めなければならない。 月の光による自分の影は 道づれとして一緒に旅をする。 そして雪で真白な山の牧場で わたしはけもの道を探すのだ。 わたしは追いだされそうになるまで, これ以上ここに留まることがあろうか。 狂った犬がその飼主の家の前で 吠えるにまかせておこう 愛は移ってゆきたがる, ある人から他の人へと, 神さまがそうされたから, いとしい人よ, さようなら。 安らかな眠りの妨げになろうから, あなたの夢を破りたくはない。 わたしの足音を聞かせないように, そっと, そっと扉を閉めよう。 通りすがりにあなたの戸口に 『さようなら』という文字を書こう。 あなたを想っていたことを わかってもらえるように。 この曲は表面上の物語としては全曲のプロローグとしての位置づけで、 物語の背景や主人公が家出して旅に出るに至った経緯がのべられる。まず 主人公の若者は親方に弟子入りするために異邦からやってきた。職人とし てマイスターになるためには旅に出て何年間か修行することが義務付けら れている徒弟制度があり、主人公も他の多くの若者とともに旅に出た。「美 しき水車小屋の娘」では粉ひき職人であったが、ここでは判然としないが ワイン職人ではないかという説がある。 ときは花々が一斉に咲き出し、渡り鳥が訪れる、春の遅いドイツにおい て人々が待ち焦がれる5 月。見目も良く仕事もできたと想像できる若者は、 たちまち親方の一人娘と相思相愛の仲になり、母親が結婚を口にするほど 家族からも腕も人柄も見込まれた。異郷の若者にとっては願っても無い「逆玉の輿」となるはずであったが、状況は 一変する。娘の心変わりで金持ちの別の男と結婚するらしいことが 2 曲目で分かるが、若者は「恋が移ろいやすいの は神がきめたことだから」と悟る。 若者はいたたまれずに雪の降り積もった深夜に家出する。道連れは月明かりで出来た自分の影。犬の遠吠えが聞こ える。恋人の安らかな眠りと夢を妨げないよう、静かに扉を閉めそこにお休みと書く。娘があとで若者の気持ちが分 かるように。 この曲にGute Nacht(おやすみ)という言葉が 4 度出てくる。文脈として「扉 に“おやすみ”と書く」とあるところは本来の「おやすみ」と理解できるが、シ ューベルトは詩句の順序を変えてGute Nacht を文脈からして理解しがたい位置 に配置している。Gute Nacht には「すっかり駄目」または「破滅的」などの別 の意味があり、これらを意識していたものと思われる。 単調な伴奏は寂しい響きを持って、暗闇の遥かかなたから映像がクローズアッ プして現れてくるイメージで淡々と歌われる。Gute Nacht は若者の複雑な心情 が微妙に変化して表現される。 4 節からなる有節形式だが旋律は進むに従って次第に変化する。ニ短調から 4 節でニ長調に転ずる。2/4 拍子。

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2.Die Wetterfahne

Der Wind spielt mit der Wetterfahne Auf meines schönen Liebchens Haus: Da dacht’ ich schon in meinem Wahne, Sie pfiff' den armen Flüchtling aus. Er hätt es eher bemerken sollen Des Hauses aufgestecktes Schild, So hätt er nimmer suchen wollen Im Haus ein treues Frauenbild.

Der Wind spielt drinnen mit den Herzen, Wie auf dem Dach, nur nicht so laut. Was fragen sie nach meinen Schmerzen? Ihr Kind ist eine reiche Braut.

2.風見の旗

わたしの美しい恋人の家の屋根では 風が風見の旗とたわむれている。 するともうわたしは乱れた心の中で考えた、 旗は哀れな逃亡者を追いだそうとしていると。 この男はその家に掲げられた標に もっと早く気付かねばならなかったのだ、 そうすれば家の中に操を守る女の姿なぞ 決して求めようとはしなかっただろうに。 屋根の上の風見の旗のように, 風は家の中でも 人の心を弄ぶ, 音はそんなに立てないけれど。 家の人たちはわたしの悩みなんか気にするだろうか、こ の家の娘は富める花嫁なのだから。 若者が出て行こうとして家の屋根を見上げると、風が風見の旗をもてあそんでいて、ここを逃げ出 して行く哀れな自分を嘲笑しているような妄想にとらわれる。あの掲げられたしるしにもっと早く気 づいていれば、この家に誠実な女性など求めようとはしなかっただろうに。風は家の中でも音をたて ずに人の心を弄んでいる。私の苦しみなどここの家に人にはわからない。あの娘は裕福な花嫁なのだ。 風見(風向計)を屋根に取り付けるような家は、裕福な人の石造りの相当大きな屋敷である。ふつ うは金属製の風見鶏(Wetterhahn)が多いが、ミュラーがあえて旗(fahne)にしたのは、旗には「風 のふかれるままになる⇒都合の良い方向になびく」という慣用句があり、「無節操な人間」の比喩に なるからだと思われる。 屈折の多い旋律で声の強弱の変化に富む。翻る旗にやや狂的な心の動揺が感じ取れる。 通作形式。イ短調、6/8 拍子。

3.Gefrorne Tränen

Gefrorne Tropfen fallen Von meinen Wangen ab: Ob es mir denn entgangen, Dass ich geweinet hab? Ei Tränen, meine Tränen, Und seid ihr gar so lau, Dass ihr erstarrt zu Eise, Wie kühler Morgentau?

Und dringd doch aus der Quelle Der Brust so glühend heiss, Als wolltet ihr zerschmelzen Des ganzen Winters Eis.

3.凍った涙

凍った涙の滴が わたしの頬から落ちる: わたしは自分が泣いたことに いったい気付かなかったのか? おお涙よ、わたしの涙よ、 おまえたちはそんなに冷やかで、 ひえきった朝露のように 氷となって固まるのだろうか? しかもおまえたちは胸の泉から 燃えるように熱く迂りでている、 ちょうど熱い涙で冬じゅうの氷を 溶かしてしまおうとするように。 第 2 曲において、若者は立ち止まって風見の旗と風の戯れを眺めていたが、ここに至って歩き始める。この曲の 2 拍子は第 1 曲の歩行のリズムを継承しているが、弱拍にアクセントが置かれ、リズムが滑らかに流れないのは、おそ らく若者はよろめきながら歩いていることを描写しているのではないかと思われる。 凍った涙が頬を伝って落ちる。自分でも気づかぬうちに泣いていたのか。涙よ、冷たい朝露のように氷に変わって しまうとは、どうしてそんなに生ぬるいのか。熱く胸から湧きだしたときは冬のすべての氷を溶かしてしまうほどだ ったのに。 簡素な伴奏が効果的で印象的な悲しい旋律に満ち溢れた歌。通作形式。ヘ短調。2/2 拍子。

4. Erstarrung

Ich such im Schnee vergebens Nach ihrer Tritte Spur, Wo sie an meinem Arme Durchstrich die grüne Flur. Ich will den Boden küssen, Durchdringen Eis und Schnee Mit meinen heißen Tränen, Bis ich die Erde seh.

Wo find ich eine Blüte,

4.凍てつく野

わたしは雪の中でむなしく 娘の歩いた跡を求めている、 娘がわたしの腕にすがって 緑の野をそぞろ歩いた所で。 わたしは地面に口づけをし、 氷や雪を貫き通してしまいたい わたしの熱い涙をそそいで、 土が見えるようになるまで。 どこに咲いた花が見つかるだろうか、

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Wo find ich grünes Gras? Die Blumen sind erstorben Der Rasen sieht so blaß. Soll denn kein Angedenken Ich nehmen mit von hier?

Wenn meine Schmerzen schweigen, Wer sagt mir dann von ihr?

Mein Herz ist wie erstorben, Kalt starrt ihr Bild darin:

Schmilzt je das Herz mir wieder, Fließt auch ihr Bild dahin.

どこで緑の草が見つかるだろうか? 花々は枯れはててしまい 芝生もあんなに色あせて見える。 いったい, わたしはここを去るとき なんの想い出も懐いてはならないのか わたしの苦痛がそれを語らないとしたら、 だれが娘のことをわたしに告げようか? 息絶えたようになっているわたしの心の中に 娘の姿は冷たく凍りついている: いつかわたしの心がまた溶けるとすれば、 娘の姿も共に流れ去ってしまうだろう。 かつて彼女が僕の腕にすがってさまよい歩いた緑の草原(畑)を、彼女の足跡の手掛かりを雪の中にむなしく見つ けようとしている。 僕は口づけと熱い涙で、大地が見えるようになるまで溶かしてしまいたい。 花も緑も雪の下に死に絶えた。僕の死んだも同然の心の中には彼女の姿が凍りついている。僕の心が溶けだせば彼 女の姿も流れ去ってしまうだろう。 ピアノ伴奏が大変美しく、3 連符が絶え間なく駆け抜け落ち着かない気分を漂わせる。これは畑を吹き抜ける寒風を 描写したものか、あるいは若者の心(妄想)が奔放に駆け巡る様子を描いたものと思われる。 歌の声部とピアノを対位法的に絡ませ、若者の心を激しい衝動として表現し、緊張感を高めている。 通作形式。ハ短調。4/4 拍子。

5. Der Lindenbaum

Am Brunnen vor dem Tore, Da steht ein Lindenbaum, Ich träumt’ in seinem Schatten So manchen süßen Traum. Ich schnitt in seine Rinde So manches liebe Wort; Es zog in Freud und Leide Zu ihm mich immer fort. Ich mußt' auch heute wandern Vorbei in tiefer Nacht, Da hab ich noch im Dunkeln Die Augen zugemacht.

Und seine Zweige rauschten, Als riefen sie mir zu:

Komm her zu mir, Geselle, Hier findst du deine Ruh. Die kalten Winde bliesen Mir grad ins Angesicht; Der Hut flog mir vom Kopfe, Ich wendete mich nicht. Nun bin ich manche Stunde Entfernt von jenem Ort, Und immer hör' ich’ s rauschen: Du fändest Ruhe dort!

5.菩提樹

城郭の門外にある泉のほとりに、 菩提樹がひともと茂っている その木陰でわたしはあのように 数々のこころよい夢をみた。 その樹の肌にわたしはあのように 種々のなつかしい言葉を彫りつけた。 わたしは喜びにつけ、悲しみにつけ いつもその樹の方へひかれていった。 今日も夜更けに樹のそばを通って 旅に出なければならなかった。 そのとき暗がりの中なのに わたしは眼をつむってしまった。 するとその樹がわたしに向って こう呼びかけるようにざわめいた: 「ぼくのところへ来たまえ, 友よ ここならきみは安らぎをうるのだ」と。 冷たい風がわたしの顔に まともに吹きつけてきて 帽子は頭から飛び去ったが わたしは振り向きもしなかった。 さて, わたしは何時間もの道のりを あの場所から遠ざかってきたが、 今なお樹の枝がこう囁くのが聞える: 「あそこなら安らぎがえられように」と。 真夜中に若者は門辺の泉のほとりに立つ菩提樹のそばまで来て、楽しかった過去を思い出す。楽しいにつけ苦しい につけここへ来て、甘い夢を見たり、幹に愛の言葉を刻みこんだりした。 今夜もそのそばをさまよい目を閉じると、枝がざわめいて若者をそばで憩 うように誘った。突如、冷たい風が帽子とともに甘い思い出を吹き飛ばす。 若者は菩提樹の場所から遠くまで離れてきたが、いまなおあの枝たちの優 しく誘うささやきが聞こえてくる。 菩提樹の花言葉は「熱愛、夫婦愛、結婚」、若者はここに愛の言葉を彫りつ ければ願いが成就すると思ったのかもしれない。この菩提樹は樹勢が丸く、 春、良い香りのする白い小花をたくさんつける。また大木は枝が一杯に広が り大きな木陰を作る。 この泉は森の中に湧きでる泉ではなく人工的に作った水場である。城郭都

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4 市を形作る集落全体が城壁で囲まれ数カ所に門があって、このそばに水場が町の住人や旅人、駅馬車の人馬の飲用に あてられた。 ここでは樹の下で憩うことは死を意味している。つまり菩提樹は若者を死へ誘っている。 音楽的にも精神的にも「冬の旅」の中核を担う極めて高度で重要な曲。民謡的な調べとともに比類のない美しさで、 知らない人はいないほど世界的に有名な歌である。事実、フリードリッヒ・ジルヒャーが 1 節の民謡風の旋律を一部 書き換え、誰でも違和感なく歌える旋律にしたあげく、そこだけを切り取り、シューベルトの深遠な世界を切り捨て てしまった。 伴奏は木の葉のざわめきを感じさせて多分に描写的である。 調性や旋律が大きく変わる4 節からなる有節形式。ホ長調。3/4 拍子。

6. Wasserflut

Manche Trän’ aus meinen Augen Ist gefallen in den Schnee;

Seine kalten Flocken saugen Durstig ein das heiße Weh!

Wenn die Gräser sprossen wollen, Weht daher ein lauer Wind,

Und das Eis zerspringt in Schollen, Und der weiche Schnee zerrinnt. Schnee, du weißt von meinem Sehnen: Sag, wohin doch geht dein Lauf? Folge nach nur meinen Tränen, Nimmt dich bald das Bächlein auf. Wirst mit ihm die Stadt durchziehen, Muntre Straßen ein und aus-

Fühlst du meine Tränen glühen, Da ist meiner Liebsten Haus.

6.あふれる涙

わたしの眼から涙がとめどなく 雪のなかへふり落ちたが; 冷やかな雪片が渇したように 熱い悲しみの涙を吸いこむ。 草が萌え出ようとするとき、 温かいそよ風が吹いてくる、 すると氷は塊となって砕け 柔かい雪は解け去ってゆく。 雪よ, わたしの想いを知っていよう: おまえはどこへ流れてゆくのかね? さぁ, わたしの涙のあとを追うがいい、 やがて小川がおまえを迎えてくれる。 賑わう街々に入ったり出たりして 小川と共に町を通ってゆくだろうが わたしの涙が燃えたつのを感じたら、 そこにわたしの恋人の家があるのだ。 若者の目からとめどなく涙があふれでて雪の上に落ちる。その冷たい雪片がまるで渇っしたように若者の熱い嘆き とともに吸い込んでしまう。 青草が芽吹いて温かい風が吹いたら、柔らかい雪も溶けて流れ、涙は雪とともに小川に流れ込み、あの町へたどり つく。そこには僕の恋人の家がある。 菩提樹についで良く歌われるポピュラーな歌。ドイツ語の題名には「涙」の意はないが、「あふれる水流」、「涙川」 など他のどの訳もしっくりこないので最も一般的な「あふれる涙」とした。 「菩提樹」のやすらぎの余韻が消えて再び沈鬱なイメージを漂わせるが、旋律は極めて美しい。押さえた感情、激 しい感情の高ぶりが交錯する。 有節形式。ホ短調、4/4 拍子。

7. Auf dem Flusse

Der du so lustig rauschtest, Du heller, wilder Fluß, Wie still bist du geworden, Gibst keinen Scheidegruß! Mit harter, starrer Rinde Hast du dich überdeckt, Liegst kalt und unbeweglich Im Sande ausgestreckt. In deine Decke grab ich Mit einem spitzen Stein Den Namen meiner Liebsten Und Stund und Tag hinein: Den Tag des ersten Grußes, Den Tag, an dem ich ging; Um Nam und Zahlen windet Sich ein zerbrochner Ring. Mein Herz, in diesem Bache Erkennst du nun dein Bild?

7.流れの上で

澄みきった, 奔放な流れよ, あんなに楽しげにざわめいていたのに, 今はなんと静かになってしまったことか, 別れの挨拶さえ送ろうとしないとは。 おまえは堅く凍えた氷の皮で すっかり被われてしまって, 冷たく, 身動きもせず, 砂の中に ながながと身を横たえている。 おまえの氷の皮にわたしは 先のとがった石を用いて, わたしの恋人の名前と 日付と時刻を彫りこんだ。 初めて挨拶を交したあの日と, わたしが立ち去ったあの日を。 なお名前と数字の周りは とぎれた輪で囲まれている。 わが心よ, この小川の中に 今自分の姿を認めているのか。

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Ob’ s unter seiner Rinde

Wohl auch so reißend schwillt? わが心の想いもその被いのもとで, 激しく高まってくるのだろうか。

あれほど楽しげにざわめき、ときには明るく、ときには荒々しく流れていた川が、今は固く凍った厚い皮で被われ、 みじろぎもせずに静かに横たわっている。 僕は彼女の名前と思い出の日付を、先の尖った石で刻み込んだ。そして、それらの文字と数字のまわりを途切れ途 切れの輪で囲った。 僕の心よ, この小川の中に今自分の姿を認めているのか。そして心の想いもその被いのもとで, 激しく高まってくる のだろうか。 表題のFlusse は Bächlein(せせらぎ)、Bach(小川)より大きな川(河)である。 川の表面は凍っても下の流れまでは凍らない。若者は不安定な氷の上に立っている。いつかは水の猛烈なたぎりが 湧きあがるかもしれない。若者は自分の心の奥底を眺めている。 伴奏は不気味な葬送の歌のように始まり、表情の起伏が激しく変化に富んで劇的に転調する。 通作形式。ホ短調、2/4 拍子。

8. Rückblick

Es brennt mir unter beiden Sohlen, Tret ich auch schon auf Eis und Schnee, Ich möcht’ nicht wieder Atem holen, Bis ich nicht mehr die Türme seh, Hab mich an jedem Stein gestoßen, So eilt’ ich zu der Stadt hinaus, Die Krähen warfen Bäll und Schloßen Auf meinen Hut von jedem Haus. Wie anders hast du mich empfangen, du Stadt der Unbeständigkeit, An deinen blanken Fenstern sangen Die Lerch und Nachtigall im Streit. Die runden Lindenbäume blühten, Die klaren Rinnen rauschten hell,

Und, ach, zwei Mädchenaugen glühten, Da war’ s gescheh’ n um dich, Gesell. Kömmt mir der Tag in die Gedanken, Möcht’ ich noch einmal rückwärts sehn, Möcht’ ich zurücke wieder wanken, Vor ihrem Hause stille steh’ n.

8.回顧

わたしは雪や氷の上を歩いているのに、 両方の足の裏が燃えるように熱い。 塔がもはや見えなくなるまで、 わたしは再び息をつこうとは思わない。 わたしはどの石ころにもつまづいて、 あわてふためいて町を立去ったが、 烏どもはどの家からも帽子めがけて 雪の球や霰のつぶてを投げつけた。 移り気な町よ、おまえはわたしを 何と違った様子で迎えたことか。 おまえの町の家々の輝く窓辺では 雲雀や小夜鳥が競って歌っていた。 こんもりと茂った菩提樹には花が咲き、 澄んだ小川は明るいせせらぎの音をたて、 そして, ああ, 娘の双の瞳は燃えていた。 それで心を奪われてしまったね、きみは。 あの日のことがわたしの心に浮んでくると、 わたしはもう一度回顧してみたくなるのだ。 わたしはまたふらふらと帰っていって、 娘の家の前でじっと立っていたくなるのだが。 氷と雪の上を逃げて来たのに、両足は燃えるように熱い。石につまづきながら走る若者に烏が玉や雹を投げつけた。 若者はまた過去を思い出す。窓辺で歌を競っていた小夜啼鳥、花の咲いた菩提樹、明るく澄んだ小川、そして、あ あ、彼女の燃えるような瞳。 過ぎ去った過去を思い出すと、戻って帰って、彼女の家の前に静かに立ちたいと思う。 表面上の詩句からは、それまでの詩の言葉とは矛盾するような理解に苦しむ表現が出てくる。深夜に家出して、か つて恋人と遊んだ野原を通り、菩提樹のそばを通り過ぎてきたときも、これほどまでに激しく追いつめられて駆ける ような焦燥感は感じられなかった。また家出したのは真夜中だったが、ここでの回想は昼のようでもある。 しかし、そんな整合性にとらわれるのは意味が無い。この曲集では、1~8 曲が過去を振り返り、9 曲以降は時制が 変わる。ここでは若者の過去がまとめられ、フラッシュバックの形で「こういうこともあり得た」と始めとは違う情 景を描いたのではないだろうか? 前奏は追い立てるような和音の連打の部分と、立ち止まって後ろを振り返ることを表すオクターブのトレモロ音形 の部分とが交互に交錯する。3 部形式の始めと終わりはト短調で急き立てられるように激しく動き、中間ではト長調で やさしく幸せだった昔を偲んでいる。 終わりの部分を多少変化させた3 節からなる有節形式。ト短調、3/4 拍子。

9. Das Irrlicht

In die tiefsten Felsengründe Lockte mich ein Irrlicht hin: Wie ich einen Ausgang finde? Liegt nicht schwer mir in dem Sinn. Bin gewohnt das irre Gehen, ‘ s führt ja jeder Weg zum Ziel:

9.鬼火

岩壁の底知れぬほど深い谷底へと 鬼火がひとつわたしを誘っていったが: どうしたら出口が見つかるだろうか。 それを考えるのは難しいことではない。 わたしは迷い歩くことには慣れていたし、 どの道でも目的地に導くではないか。

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Unsre Freuden, unsre Leiden, Alles eines Irrlichts Spiel.

Durch des Bergstroms trockne Rinnen Wind ich ruhig mich hinab-

Jeder Strom wird’ s Meer gewinnen, Jedes Leiden auch sein Grab.

我々の喜びにせよ、悲しみにせよ、 すべては鬼火のたわむれなのだ。 水の涸れた沢の窪みを通って わたしはうねりながら悠々とくだる- どの流れも海には注ぐだろうし、 どんな悩みにもそれを葬る墓はあるのだ。 僕は鬼火に深い岩の谷間に誘い込まれた。出口が分からなくて構わない。僕は迷うことには慣れている。いずれの 道も目的に通じているのだ。 人生の喜びも悲しみもすべて鬼火のすることだ。山間の干上がった川床を曲がりくねって降りる。流れは皆海に注ぎ、 悲しみは墓へと続く。 現実とかけ離れたまさに冥界をさまよう主人公を描いている。この詩にシューベルトは彼にとって特別の意味を持 つと思われるロ短調を充てた。「冬の旅」第一部最後の「孤独」もロ短調、第二部最後の「辻音楽師」はシューベルト の自筆譜ではロ短調である。強い悲しみを表しているのは確かだが、悲しみと対峙して、悲しみを超越して行こうと する深い人間の心の動きが込められているような気がする。「冬の旅」の象徴のような曲。「Strom」は大河。 通作形式。ロ短調、3/8 拍子。

10. Rast

Nun merk ich erst, wie müd ich bin, Da ich zur Ruh mich lege;

Das Wandern hielt mich munter hin Auf unwirtbarem Wege.

Die Füße frugen nicht nach Rast, Es war zu kalt zum Stehen, Der Rücken fühlte keine Last, Der Sturm half fort mich wehen. In eines Köhlers engem Haus Hab Obdach ich gefunden;

Doch meine Glieder ruhn nicht aus: So brennen ihre Wunden.

Auch du, mein Herz, in Kampf und Sturm So wild und so verwegen,

Fühlst in der Still erst deinen Wurm Mit heißem Stich sich regen.

10. 休息

休もうとして身を横たえる今になって、 初めて自分がどんなに疲れているかが判る; 漂泊の旅のあいだ、人跡稀な道でも わたしは元気を失わないできた。 足は休息を求めようとはしなかった、 立ちどまるにはあまりにも寒いから。 背は荷の重さを感じなかったし、 嵐はわたしが旅を続ける助けとなった。 わたしは炭焼きの狭い小屋に 仮寝の宿を見つけたが、 わたしの手足は休まりそうにもない、 それほど手足の傷はひりひり痛む。 わたしの心よ, 戦いや嵐のさ中には あれほど奔放で、大胆だったおまえでも、 静かになって初めて鋭い針のある毒虫が 心の中でうごめくのを感じているのだ。 これまで歩き続けてきたが、休むために身を横たえたとき、自分が疲れていることに初めて気づいた。荒野を歩い ているときは元気だった。強風が後押ししてくれた。 若者は炭焼き小屋を見つけ、仮の宿とする。手足の傷が燃えるように痛み休めない。戦いや嵐のさ中には、あれほ ど奔放で、大胆だった心でも、静かになって初めて鋭い針のある毒虫が中でうごめくのを感じている。

ドイツ語では「休み」は日本語のように単純ではない。Rast は身体的、Pause は精神的、Ruhe は静かにするなどの 意味合いがある。嵐の中では身体と精神がともに戦っていた。心身が微妙にずれ、軋み始めている。心身は疲れ切っ ていて休みたいのに休めない。永遠にさまよい続けることを運命づけられた「辻音楽師」の世界につながる「冬の旅」 の本質が感じられる。 平坦な旋律に屈曲した旋律がつながる。 有節形式。ハ短調、2/4 拍子。

11. Frühlingstraum

Ich träumte von bunten Blumen, So wie sie wohl blühen im Mai, Ich träumte von grünen Wiesen, Von lustigem Vogelgeschrei. Und als die Hähne krähten, Da ward mein Auge wach, Da war es kalt und finster, Es schrien die Raben vom Dach. Doch an den Fensterscheiben, Wer malte die Blätter da?

Ihr lacht wohl über den Träumer, Der Blumen im Winter sah?

11.春の夢

わたしは五月に咲いているような、 色とりどりの花々の夢をみ、 またわたしは緑したたる草原や 楽しげに小鳥の囀る夢をみていた。 すると雄鶏がときをつくって、 わたしは目を覚ました。 その時あたりは寒くて暗く、 烏が屋根で啼いていた。 だがあそこの窓ガラスに だれが木の葉を画いたのか? おまえたちは冬に花の夢をみる者を きっと笑っているのだろう。

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Ich träumte von Lieb um Liebe, Von einer schönen Maid, Von Herzen und von Küssen, Von Wonne und Seligkeit. Und als die Hähne kräten, Da ward mein Herze wach, Nun sitz ich hier alleine Und denke dem Traume nach. Die Augen schließ ich wieder, Noch schlägt das Herz so warm. Wann grünt ihr Blätter am Fenster? Wann halt ich mein Liebchen im Arm?

わたしは数々の愛の夢をみ、 美しい娘の姿を夢み、 抱擁と口づけの夢をみ、 歓喜と悦楽の夢をみていた。 すると雄鶏がときをつくって、 わたしの心は目覚めた。 今わたしはここに独りいて、 夢の跡をたどっている。 わたしがまた眼を閉じると、 胸はまだ熱くときめいている。 窓の木の葉はいつ緑に芽吹くのか? わたしはいつ娘を抱擁できようか? 5 月に咲く色とりどりの花、鳥の楽しくさえずる緑の野を夢見た。だが鶏の鳴き声に目覚めると、そこは冷たく暗い 現実の世界、屋根では烏が叫んでいた。誰が窓ガラスに木の葉を描いたのか。おまえたちは冬に咲く花を夢みる男を あざ笑うのか。 恋と美しい娘、抱擁と口づけ、歓喜と悦楽を夢見た。だが鶏の鳴き声に心 が覚めると、ひとりで座って夢を追っていた。目を閉じると胸は温かく高鳴 っている。いつ窓ガラスの木の葉が緑になるのだろう、いつ腕に恋人を抱け るのだろう。 比類のない美しさで広がるピアノ伴奏の4 小節に導かれて繊細で可憐、春 の温かさや色とりどりの花が民謡風の音の世界に広がっていく。若者が炭焼 き小屋に宿って見た夢である。緑豊かな自然の世界と、娘との愛の交歓を夢 の中で思い出し、鶏の鳴き声で一気に厳しい冬の現実の世界に呼び戻されて しまう。そして将来決して実現すること無いことを想像してしまう。 有節形式。イ長調、6/8 拍子。

12. Einsamkeit

Wie eine trübe Wolke Durch heit’ re Lüfte geht, Wenn in der Tanne Wipfel Ein mattes Lüftchen weht: So zieh ich meine Straße Dahin mit trägem Fuß, Durch helles, frohes Leben, Einsam und ohne Gruß. Ach, daß die Luft so ruhig! Ach, daß die Welt so licht! Als noch die Stürme tobten, War ich so elend nicht.

12.孤独

うす暗い雲がひとひら 明るい空を漂ってゆくように、 樅の木の梢を掠めて 弱いそよ風が吹く時、 わたしは重い足どりで、 自分の道を進んでゆく、 明るい楽しげな生活の中を、 孤独で、挨拶も交さずに。 ああ, 大気がこんなに穏やかで、 世の中がこんなに明るいとは。 まだ嵐が哮り狂っていた頃は、 こんなに惨めではなかったのに。 樅の梢にそよ風が吹き、どんよりした雲が晴れ渡った空を行くように、僕は街道を通り、明るく楽しい生活の中を 通り過ぎて行く。重い足取りで、一人寂しく、誰とも挨拶さえ交わさずに。 ああ, 大気がこんなに穏やかで、世の中がこんなに明るいとは。まだ嵐が哮り狂っていた頃は、こんなに惨めではなか ったのに。 この街はどこであろうか?「meine Straße」は「自分の故郷の街の道路」とも読めるし、わざわざ「挨拶もせず」 と言っているからには顔見知りが居るとも受け取れる。といって家出をしてきた街に戻ったとは到底考えられない。 若者は故郷に戻ってきたのではないだろうか? シューベルトは当初この12 篇で意味を持った統一した歌曲集として構想し、12 篇の終わりに「Fine おわり」を書 き入れた。この時点で第一曲「おやすみ」と同じニ短調であったが、第二部を作曲する時点でロ短調に書き換えた。 一応は完結するものの、次への連結を強く意識したためと考えられている。 シューベルトにとってロ短調は特別な意味を持ち、死を憧れる生のように、相反するものの中で超越しようとして、 いつまでも解決できないままにいる調を表す。「安らかな大気」のなか「光に満ちた世界」を「楽しく明るく生きてい る」他者に出会うことで主人公の孤独性が極まる。そして何一つ解決せずまた果てしのない旅に出るのである。 前半は沈んだ調子で淡々と歌われ、後半に劇的な表情を見せる。伴奏も後半は異常な緊迫感を漂わせている。殆ど 救いのない狂的な暗さを持っているが、最後の高音で一縷の光を感じるのは何故だろう。 通作形式。ロ短調、2/4 拍子。

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13.Die Post

Von der Straße her ein Posthorn klingt. was hat es, daß es so hoch aufspringt, Mein Herz?

Die Post bringt keinen Brief für dich, was drängst du denn so wunderlich, Mein Herz?

Nun ja, die Post kommt aus der Stadt, wo ich ein liebes Liebchen hatt’ , Mein Herz!

Willst wohl einmal hinüber sehn und fragen, wie es dort mag gehn, Mein Herz?

13.郵便馬車

通りの方から郵便馬車の喇叭が響いてくる。 心がこんなに高く躍るのはどうしたわけか、 わたしの心よ。 郵便馬車はおまえに一通の手紙も届けない、 だのにいったい何故そう奇妙に逸る(はやる)のか、 わたしの心よ。 そうだね、郵便馬車は恋人が住んでいた、 あの町の方からやって来たんだね、 わたしの心よ。 おまえは一度その町の方を眺めて、 そこがどうなっているか尋ねるつもりか、 わたしの心よ。 シューベルトが第二部の劈頭を飾るに相応しいファンファーレのように郵便ラッパの 鳴り響く幕開けとして選んだ歌。ミュラーの詩の順序では5 番の「菩提樹」の次に配置 されているので物語としては、主人公は出てきた町からはまだそう遠くないところに居 るはずである。 「恋人の住んでいる町の方から郵便馬車がラッパの音を響かせ、街道沿いの石畳の上を勢いよく駆ける馬の蹄の音 が聞こえてくる。居所も知れない若者に手紙など届けられるはずもないのに、なぜか若者の胸は高まりときめく。若 者は自問自答する。僕の胸はなぜこんなに高まるのか?あの町は今どんな様子か、どんなにか見たい、尋ねたい。」 曲全体はABAB の形式になっており、A の部分 は変ホ長調で、力強い馬蹄のリズムに乗ったラッ パの擬音に合わせて客観的状況を叙述する。B の 部分は同主調の変ホ短調から近縁の調の間を微妙 に移り変わりながら若者の揺れ動く心理を歌って いる。 有節形式。変ホ長調、6/8 拍子。

14.Der Greise Kopf

Der Reif hatt’ einen weißen Schein Mir übers Haar gestreuet.

Da glaubt’ ich schon ein Greis zu sein, Und hab’ mich sehr gefreuet.

Doch bald ist er hinweggetaut, Hab’ wieder schwarze Haare, Daß mir’ s vor meiner Jugend graut – Wie weit noch bis zur Bahre!

Vom Abendrot zum Morgenlicht Ward mancher Kopf zum Greise.

Wer glaubt’ s? Und meiner ward es nicht Auf dieser ganzen Reise!

14.白髪の頭

霜がわたしの髪の毛いちめんに 白い輝きをまきちらしていた。 それでわたしはもう老人になった と思って、とても喜んでいた。 けれどもやがて霜が解け去って、 またもや黒い髪の毛となったので、 わたしは自分の若さがこわかった、 棺に入るまでまだ何と遠いことかと。 夕焼けから夜明けまでの間に、 白髪の頭になった人は大勢いる。 だがどうしたわけか、この旅の間中 わたしは白髪の頭にならなかったのだ。 「霜が若者の髪に白い輝きを散りばめて白髪のようになったので、老人なったと思い喜んだが、つかのま霜は溶け て髪はまた黒くなり、自分の若さが怖くなったという。棺に入るまでなんと長いことか!一夜にして白髪になった人 は沢山いるのに、自分は長い旅路でもどうして白髪にならなかったのか?」 不幸な若者は死によって救われたいと思うが、自分の若さゆえに死にいたることはできない。

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自虐的な歌詞とはうらはらに、旋律は荘重な古典舞曲サラバンド風のリズムで書かれており、旋律を聞く限り異常に 宗教的、儀式的で教会ミサのごとき重厚、荘厳な響きがする。キリストの受難を想起させる。

3 部形式。ハ短調、3/4 拍子。

15.Die Krähe

Eine Krähe war mit mir aus der Stadt gezogen, ist bis heute für und für um mein Haupt geflogen. Krähe, wunderliches Tier, Willst mich nicht verlassen? Meinst wohl bald als Beute hier meinen Leib zu fassen?

Nun es wird nicht weit mehr gehn an dem Wanderstabe,

Krähe, laß mich endlich sehn, treue bis zum Grabe.

15.からす

一羽のからすが町から わたしと-緒にやって来て、 今日までわたしの頭の周りを しょっちゅう飛び廻っていた。 からすよ, おかしなやつだ、 わたしから離れようとしないのか。 ここでもうすぐわたしの体を 餌食にしようと思っているんだな。 今となっては旅杖をたよりに、 もはや遠くへ行くことはあるまい。 からすよ, 今こそ墓のほとりまで 忠実に伴をしてみせてくれ。 「一羽のカラスが町から若者に付いて来て、頭の回りを飛び回っている。そこで彼はカラスに呼び掛け、また大声 を上げる。カラスよ、変な奴だな。僕から離れようとしないのは、僕を餌食にしようとし ているのだな。杖を頼りに僕はこれ以上遠くへは行かない。墓場まで忠実について来い。」 カラスの登場は第一部第8 曲の「回顧」に次いで 2 度目だが、「回顧」では群れで雹など を投げつけた。町からずっと一羽のカラスが付いて来たとはちょっと不思議な感じがする。 何かの比喩なのか、物語的には大変不可解である。 前奏と後奏を除いて、伴奏の右手はこの不吉な歌を通してカラスの羽ばたきのような動 きをする。右手の旋律は美しいが不気味さを含んでいる。歌は徹底してレガートで執拗に 音が繋がって行く。若者の暗く哀れな想念と叫びが交錯する。 3 部形式。ハ短調、2/4 拍子。

16. Letzte Hoffnung

Hie und da ist an den Bäumen Manches bunte Blatt zu seh’ n, Und ich bleibe vor den Bäumen Oftmals in Gedanken steh’ n. Schaue nach dem einen Blatte, Hänge meine Hoffnung dran; Spielt der Wind mit meinem Blatte, Zitt’ r’ ich, was ich zittern kann. Ach, und fällt das Blatt zu Boden, Fällt mit ihm die Hoffnung ab; Fall’ ich selber mit zu Boden, Wein’ auf meiner Hoffnung Grab.

16.最後の望み

木々にはまだここかしこに 色とりどりの木の葉が幾枚か見える。 わたしはその木々の前にたたずんで、 しばしば物思いに耽っている。 それらの木の葉の一枚をじっと見て、 わたしの望みをその葉に託すると、 風がわたしの思う木の葉を弄んで、 わたしはわなわなと身を震わせる。 ああ, だのに木の葉は地面に落ちると、 その葉と共にわたしの希望も失われて、 わたし自身もいっしょに地に伏して、 わたしの希望を葬むる墓に涙をそそぐ。 この曲は「歩行」の曲ではない。「若者は立ち止まった状態で色とりどりの葉をつけた木々を眺めながら思いを巡ら せている。それらのうちの一枚に、現在の自分と同じ状態にあると思いを重ねて望みを託すが、風がその葉を弄び、 地面に落ちてしまう。自分の希望もそれとともに地に落ち、希望を葬る墓に涙を注ぐ。」

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10 伴奏のピアノはひらひらと舞い落ちる木の葉の動きを示唆しているようで、 重さが無くぎくしゃくして気まぐれな感じがする。この曲はシューベルトの歌 曲の中でも、異彩を放つ、印象主義の趣のある作品である。 通作形式。変ホ長調、3/4 拍子。

17. Im Dorfe

Es bellen die Hunde, es rasseln die Ketten, es schlafen die Menschen in ihren Betten, träumen sich manches, was sie nicht haben, tun sich im Guten und Argen erlaben, und morgen früh ist alles zerflossen. Je nun, sie haben ihr Teil genossen, und hoffen, was sie noch übrig ließen, doch wieder zu finden auf ihren Kissen. Bellt mich nur fort, ihr wachen Hunde, laßt mich nicht ruhn in der Schlummerstunde! ich bin zu Ende mit allen Träumen,

was will ich unter den Schläfern säumen?

17. 村の中で

犬は吠え、その鎖は音を立てている。 人々はそれぞれ床の中で眠っており、 自分たちにはない, 様々の物の夢をみて、 善い夢でも, 悪い夢でも元気をだすが、 翌朝にはすべての夢が消え去ってしまう。 ともかくも, 人々はその分け前を味わい、 自分たちがまだ手に入れなかったものを その褥の上でまた見つけようと望むのだ。 目ざとい犬よ、吠えてわたしを追い払え、 人の眠る時もわたしを休ませないでくれ。 すべての夢を見果てたわたしは 寝坊たちと共に怠ける気になろうか。 「夜、若者は村を通り過ぎる。足音に目を覚ました犬が吠えて、鎖ががちゃがちゃと音を立てる。村人は床の中で 眠り、良きに付け悪しきに付け自分たちに無いものを夢みるが、朝になるとすべて消えてしまう。自分はこんな夢は 見つくした、こんな輩とこんなところでぐずぐずしてはおられないと、また旅を続ける。」 ピアノは若者の暗い周囲を表現し、歌は孤立した青年の考えを語り続ける。人々の眠りを表すゆったりとした旋律 線と、犬の唸り声と鎖の擦れ合う様を描写した音形がからみあう巧みな技巧が印象的な特色のある作品である。 通作3 部形式。ニ長調、8/12 拍子。

18.Der stürmische Morgen

Wie hat der Sturm zerrissen des Himmels graues Kleid, die Wolkenfetzen flattern umher im mattem Streit. Und rote Feuerflammen ziehn zwischen ihnen hin, das nenn’ ich einen Morgen so recht nach meinem Sinn. Mein Herz sieht an dem Himmel gemalt sein eignes Bild,

es ist nichts als der Winter, der Winter kalt und wild.

18.嵐の朝

嵐が灰色の覆いを 引き裂いてしまって、 ちぎれ雲が弱々しく逆らい、 ここかしこに舞っているな。 また、くれないの火焔が 雲間をつんざいて、 それはわたしの気持そっくりの 朝だ、とわたしはいいたい。 わたし心はあの空に描かれた 自分の姿を眺めているが、 それこそほかならぬ冬の姿、 冷たく、荒々しい冬なのだ。 「嵐が空の灰色の雲を引き裂き、ちぎれ雲が弱々しく抗いながらふわふわと飛び交う。そして、真っ赤な炎が雲間 に割り込む。これを自分の心そのままの朝と名付けよう。心はあの空に描かれた自身の姿を見る。それこそ冷たく荒々 しい冬にほかならない。」

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第一部12 曲目の「孤独」では、静かな明るい天気の下で逃亡者の憂鬱を引き起こしたが、この冷たく厳しい「嵐の 朝」は逆に彼を元気づける。

通作3 部形式。ニ短調、4/4 拍子。

19.Täuschung

Ein Licht tanzt freundlich vor mir her; Ich folg’ ihm nach die Kreuz und Quer. Ich folg’ ihm gern und seh’ s ihm an, daß es verlockt den Wandersmann. Ach, wer wie ich so elend ist, gibt gern sich hin der bunten List, die hinter Eis und Nacht und Graus ihm weist ein helles, warmes Haus und eine liebe Seele drin ――

Nur Täuschung ist für mich Gewinn.

19.幻影

光がひとつ、目の前を親しげに踊ってゆき、 わたしはあちこち光のあとを追ってゆく。 光のあとを追いたくなり、その光は 旅人の心を惑わすつもりだな、と思う。 ああ, わたしと同じように惨めな者は、 目もあやな幻影に陶酔したがるものだ。 その幻影は氷と闇と恐怖のかなたで、 旅人に一軒の明るく温かそうな家と、 中にいる愛らしい娘をみせてくれる。 わたしの得たものはこの幻影だけなのだ。 「一筋の光が若者の前を親しげに踊りながら過ぎて行く。若者は喜んで後を追うが、これは旅人を惑わすものだと 悟る。自分のように惨めなものは色とりどりの幻覚にふけりたいものだ。この幻覚は厳しさの向こう側に、愛すべき 娘のいる明るく暖かい家を見せてくれる。手に入れることが出来るのはこの幻覚だけだ。」 とてつもなく甘美なメロディーで先行するこの歌は不気味な危うさに満ちている。第一部第 9 曲の「鬼火」の冥界 を彷徨うイメージと重なる。音形が感じさせる楽天的で明るい舞曲では決してない。若者の心の闇から発した「幻影」 にすぎないからである。 通作3 部形式。イ長調、6/8 拍子。

20.Der Wegweiser

Was vermeid’ ich denn die Wege, wo die ander’ n Wandrer gehn, suche mir versteckte Stege durch verschneite Felsenhöhn? Habe ja doch nichts begangen, daß ich Menschen sollte scheun, welch ein törichtes Verlangen treibt mich in die Wüsteneien? Weiser stehen auf den Wegen, weisen auf die Städte zu, und ich wandre sonder Maßen, ohne Ruh’ , und suche Ruh’ . Einen Weiser seh’ ich stehen unverrückt vor meinem Blick, eine Straße muß ich gehen, die noch keiner ging zurück.

20.道標

ほかの旅人たちの行く道を いったい、なぜわたしは避けて、 雪に覆われた岩山についている、 隠れた峠路を選ぶのだろうか。 人を恐れねばならないことを 何もしたわけではないのに、 なんと愚かな望みがわたしを この険路へと駆りたてるのか。 道標が路上に立っていて、 町へ行く道を指していると、 わたしはどこまでも休みなく さすらいながら、憩いを求める。 わたしの目の前に道標がひとつ 小揺ぎもせずに立っている。 まだ誰も帰って来たためしのない、 一筋の道を行かねばならないのだ。 「なぜ自分は他の旅人が通る道を避けて、雪に覆われた岩山に隠された道を探すのか?人目を憚ることなどしてい ないのに。道端に立つ道標は町へ行く方向を指している。どこまでも休みなく癒しを求めて行こう。まだ誰も還って 来たことのない道を行く。」

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これも「冬の旅」独特の「歩行」の曲である。目には見えないが仮借のない圧力が旅人を還ることのない死出の旅 路へと駆り立てる。旋律の美しさが絶望を際立たせる。前後の3 曲は繋がっていると見る。

大きな変化を持つ有節とも解釈できるがほとんど通作形式。ト短調、2/4 拍子。

21.Der Wirtshaus

Auf einen Totenacker

Hat mich mein Weg gebracht, Allhier will ich einkehren, Hab’ ich bei mir gedacht. Ihr grünen Totenkränze Könnt wohl die Zeichen sein, Die müde Wandrer laden Ins kühle Wirtshaus ein. Sind denn in diesem Hause Die Kammern all’ besetzt? Bin matt zum Niedersinken, Bin tödlich schwer verletzt. O unbarmherz’ ge Schenke, Doch weisest du mich ab? Nun weiter denn, nur weiter, Mein treuer Wanderstab.

21.旅の宿

辿っていった道がわたしを ある墓地へと導いてきた。 ここで泊まりたいものだと わたしはひそかに考えた。 おまえたち, 緑の葬儀の花環は たぶん旅に疲れた旅人たちを この冷たい宿へ招いてくれる 標(しるべ)となっているのだろうね。 いったいこの宿の部屋は 全部塞がっているのだろうか。 わたしは倒れそうなほど疲れて、 死ぬほど重い痛手を負っているのに。 おお, 無慈悲な宿の亭主よ、 それでもわたしを追い払う気か。 まぁいいさ、それなら旅を続けよう、 わたしのたのもしい旅杖よ。 前曲から続く流れ。「ついに若者の歩いた道は彼を墓地へと導いた。ここに泊まりたいと考えた。緑の葬儀の花輪が 疲れた旅人を招く標になる。(実はここは旅籠、もしかしたら若者が家出をした親方の家に戻って来たのかもしれない。 花輪は今年のワインが出来た証かもしれない。)でも冷酷な宿の亭主(元の親方)は、部屋が満杯のためか疲労困憊し た若者を受け入れようとはしない。でも、構わない。忠実な旅の杖と旅を続けるだけだ。やすらぎを求めた死の場さ え拒絶された若者は、毅然として旅を続けることを宣言する。」 死を望むがやはり死ぬことは出来ずまた旅を続ける。通作形式。ヘ長調、4/4 拍子。

22.Mut

Fliegt der Schnee mir ins Gesicht, Schüttl’ ich ihn herunter.

Wenn mein Herz im Busen spricht, Sing’ ich hell und munter.

Höre nicht, was es mir sagt, Habe keine Ohren.

Fühle nicht, was es mir klagt, Klagen ist für Toren.

Lustig in die Welt hinein Gegen Wind und Wetter; Will kein Gott auf Erden sein, Sind wir selber Götter!

22.勇気

雪が顔に吹きつけたら、 わたしはそれを払い落そう。 心がひそかにこぼしても、 わたしは明るく、元気に歌おう。 心がひそかにいうことなど 聞く耳をわたしは持たないぞ。 心が何をうったえても知るものか、 繰り言は愚か者のすることさ。 雨にも負けず、風にもめげず、 朗らかに世の中に向ってゆこう。 この世に神が姿を現わされないなら、 我らは自ら神々となっているのだ。 流れが一変する。「冬が自分にどんなに辛く当ろうとも、愚痴をこぼさず、明るく元気に歌って行こう。嵐にもめげ ずほがらかに世の荒波に向かって行こう。神がいなければ自分が神になるのだ。」

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13 「嵐の朝」と同様に再び若者は勇気を鼓舞して自然の力に陽気に闘いを宣言する。「自分が神になる…」とは随分思 い切った表現で、弱い人間がときおり発する開き直り、強がりであろう。前半はきっぱりと言い切っているものの強 弱の指定が、ピアノはf だが歌は p であるのも自信の無さを表現している。 この歌はミュラーの詩では最後から 2 番目だったが、シューベルトはあえて順序を変えて良い効果をもたらした。確 かに最後の「辻音楽師」へ流れて行くには違和感がある。この位置に持ってくることで組曲としての流れにメリハリ が生まれた。 通作形式。ト短調、2/4 拍子。

23.Die Nebensonnen

Drei Sonnen sah ich am Himmel stehn, Hab’ lang’ und fest sie angesehn. Und sie auch standen da so stier, Als wollten sie nicht weg von mir. Ach, meine Sonnen seid ihr nicht, Schaut andern doch ins Angesicht ! Ach, neulich hatt’ ich auch wohl drei: Nun sind hinab die besten zwei.

Ging’ nur die dritt’ erst hinterdrein, Im Dunkeln wird mir wohler sein.

23.幻の太陽

三つの太陽が空に出ているのを見て、 長い間じっと太陽を視つめていた。 太陽もわたしから離れたくないかのように、 空にぴったり止まったままでいた。 おお、おまえたちはわたしの太陽ではない、 どうかほかの人々の顔を照らしてほしい。 ああ, 先頃わたしにも三つの太陽が出ていたが、 一番いい二つが今は沈んでしまった。 さぁ, 三番日のも続いて沈めばいいんだが、 暗がりの中ならもっとよい気分になれようから。 前曲での「偽りの勇気」は消え去り、若者はまた悲嘆にくれ、空を眺めてつぶやく。 「空に3 つの太陽が自分からじっと離れずにいた。だが、それらは自分のものではない。自分も 3 つの太陽を持って いたが、一番大切な2 つは沈んでしまった。最後の 3 つ目も沈んで暗闇になれば自分には快いのだが。」 気象現象で空に 3 つの太陽が見えることがある。大気中の氷の結晶が反射、屈折して太陽の両側に現れる暈で幻日 と呼ばれる。若者はそのうちの二つを恋人の目として捉え、それを失ってしまった今、最後のひとつはかえって辛い ものになる。 または完全に若者の幻影か、詩的表現とも解釈できる。いずれにしても二つの太陽は恋人の目であろう。 旋律が長短2 度の動きによる 2 小節の動機が基本になっており、若者の旅の行き詰まりを感じさせる。 変形3 部形式の通作形式。イ長調、3/4 拍子

24.Der Leiermann

Drüben hinterm Dorfe Steht ein Leiermann,

24.手琴ひき(辻音楽師)

あそこの村の向うに 手琴ひきが立っている。

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Und mit starren Fingern Dreht er, was er kann, Barfuß auf dem Eise Wankt er hin und her, Und sein kleiner Teller Bleibt ihm immer leer. Keiner mag ihn hören, Keiner sieht ihn an, Und die Hunde knurren Um den alten Mann, Und er läßt es gehen Alles, wie es will, Dreht, und seine Leier Steht ihm nimmer still. Wunderlicher Alter, Soll ich mit dir gehn ? Willst zu meinen Liedern Deine Leier drehn ?

そしてかじかんだ指で 根限り把手を廻している。 はだしのまま氷の上を あちこちよろめき歩くが、 手琴ひきの小さな皿は いつまでも空のままだ。 その曲を聞こうとする人も、 姿を見ようとする人もいない。 そしてその老人の周りでは 犬どもが唸っている。 それでも老人はすべてを なりゆきに任せたまま、 手琴の把手を廻し続けて、 琴の音のやむことはない。 風変りな手琴ひきの老人よ、 おまえと一緒に歩かせてくれるか。 わたしの歌の調べに合わせて その手琴を奏でて貰えようか。 「村はずれで、老いた手廻しオルガン弾きが、氷の上を裸足でふらつきながら凍えた手で把手を回し続けている。 小さな皿は空のままで、誰も気に止めようとせず、犬だけが唸り声をあげているが、老人はすべてなすがままにまか せている。風変りな老人よ、あなたに付いて行き、私の歌に合わせてオルガンを弾いてくれな いか?」 長い旅の末に、若者にとって報われるものは何もなかった。疲れ果てた若者の心には安らぎ は見出せない。若者は一体何を求めて旅を続けたのだろう?また当ての無い旅を続けるしかな いのであろう。 私(後久)は軽々しくこの最後の曲を解説することはできない。前奏を聞いているだけで胸 が締め付けられそうになるが、決して不快なものではない。手廻しオルガンの演奏のようなぎ くしゃくした流れが、なんとも言えない悲しみと癒しを感じさせる。これ以上の音楽を求める ことなど出来ず、またこれほど美しい旋律もないような気がしてくる。淡々と歌う以外に表現 の方法が見つからない。それだけで十分な気がする。 変形2 部形式の通作形式。イ短調、3/4 拍子 後久義昭

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