TGV ネットワーク展開期における
フランス主要都市間の移動時間の特徴分析
波床 正敏
1 1正会員 大阪産業大学教授 工学部都市創造工学科(〒574-8530 大阪府大東市中垣内 3-1-1) E-mail: [email protected] フランスでは 1981 年に TGV が運行開始され,現在までに多くの主要都市に対して TGV サービスが提供 されている.本研究では,フランスの幹線鉄道政策を振り返るとともに,近年の高速鉄道整備に伴う影響 などについて分析するため,TGV 導入前の 1963 年,導入直後の 1985 年,全国展開期の 2005 年の 3 年次に ついて,主要都市間の各種所要時間指標を計測し,その特徴を考察した. その結果,最初の TGV が開通した直後の 1985 年以前では速度向上と乗り継ぎ利便の改善が図られるこ とで総合的な利便性が大きく向上したが,1985 年以後の TGV ネットワークの全国展開期においては速度 は向上したものの乗り継ぎ利便が悪化することが多く,総合的な利便性の改善は小さいことがわかった.Key Words: France, trunk railway, stayable time, expected value of travelling time, major cities
1. はじめに (1) 研究の背景 フランスでは 1981 年に TGV が導入されたが,これは 1964 年に開業した東海道新幹線に遅れること 17 年であ る.以後,日本では2014 年に高速鉄道導入50 年を迎えた が,1990 年代以降,建設予算の目処が付く度に整備新幹 線が実際に着工されてはいるものの,その進捗は必ずし も迅速とは言えない.世界的に高速鉄道の役割が注目さ れる昨今の状況下においても,日本における整備は必ず しも活発ではない.このため,主要都市であっても高速 鉄道の恩恵を受けていない都市がたくさん残されている. 一方,フランスの TGV は市街地部では在来の鉄道線を 走行し,郊外部で高速新線(LGV = Ligne à Grande Vitesse)を走行する形態になっており,日本のミニ新幹 線に近いシステムである.在来線との直通運転が可能で あることから,高速新線の部分開業であっても都市間の 所要時間短縮に役立つだけではなく,新線の終点以遠に ついても利便性が向上する.これにより,フランスでは 現在までに主要都市のほとんどに対してTGV のサービス が何らかの形で提供されている状況になっている. このような近年における鉄道整備状況の日仏逆転状況 には鉄道整備政策の長期的影響が考えられ,フランスの 鉄道網の発達状況とその背景政策との関係について分析 を行うことは重要な意義があると考えられる. (2) 本研究の目的と構成 前述のような背景のもと,本研究では TGV ネットワー クの展開期におけるフランス主要都市間の鉄道利用によ る移動時間の特徴を定量的な面から明らかにし,鉄道政 策の課題を明らかにすることを目的とする. フランスの幹線鉄道網整備は路線網自体が Paris から放 射状に整備され,輸送改善も Paris からの路線が重視され ている.第二次世界大戦後のTGV 導入以前については在 来線改良と高性能の車両の導入が主体であったが,TGV 導入時期以降はそのような手法に加えてインフラである LGV も新規整備されるようになり,改善方法が大きく変 わった.そこで本研究では,戦後の政策の概観,その直接 的影響の特徴の把握,ネットワークへの影響の観点から の各種所要時間指標の計測,指標計測結果の整理による TGV 導入の前後比較という分析段階を踏むこととする. 具体的には,まず第 2 章で本研究の視点を説明し,第 3 章では第 6 章以降で使用する各種指標の計測方法や特徴, 分析対象鉄道網(OD となる都市),分析対象年次などの説 明をする.第 4 章以降は上述の分析の各段階である.第 4 章では戦後のフランスの幹線鉄道政策を概観し,第 5 章で はフランスの幹線鉄道網において重視され続けている Paris を中心とする路線について,基本的指標である表定 速度を計測し,戦後の政策が与えてきた影響について把 握する(戦後の政策の影響を把握するためには戦前の状態 も必要であるので,この章では戦前の状態も計測した).
第 6 章と第 7 章が本研究の主たる分析部分であり,第 6 章では都市間交通の利便性を表現する各種所要時間指標 (滞在可能時間,仮想最速所要時間,期待所要時間)を戦後 以降近年まで 10 年程度間隔で計測した.このような計測 により,第 5 章で把握した政策の基本的影響の傾向がネッ トワーク全体に及ぼした影響について明らかにできる. 第7章では第6章での計測結果を加工し,TGV 導入前後の 変化を詳しく分析する.TGV 導入前の1963 年,一部導入 直後の 1985 年,TGV が広範囲に展開されつつある 2005 年の概ね 20 年間隔の 3 年次について,都市間移動の総合 的な移動利便性(期待所要時間)の変化,速度向上等に起 因する乗車時間(仮想最速所要時間)そのものの変化,運 行頻度や乗り継ぎ等のロス(実運行時損失時間)の変化を 計算し,TGV 導入政策が都市間移動の利便性変化の特徴 に与えた影響について考察するとともに,どのような政 策課題を生じているかについて定量的な面から分析する. 最後に第 8 章で全体の結果をまとめるとともに,わが国 の政策に関する考察や,今後の研究課題について述べる. 2. 本研究の視点と位置づけ (1) 幹線鉄道整備に関する既存の研究 日本国内の幹線鉄道整備政策に関する研究としては, 古くは東海道新幹線の整備効果をモデル分析により評価 した天野と藤田の研究1)や東北新幹線の整備についての上 田と中村の研究2),また東海道新幹線の長期不通の影響を 分析した浅見の研究3)および代替ルート構築時の損失緩和 に関する研究4)などがある.長期的な鉄道網整備について 分析した研究としては明治期以降の鉄道による全国的な 利便性変化を計測した中川・波床らの研究5),都市間交通 サービス水準の計測を行った荒谷・轟らの研究6),7)などが ある. 海外の幹線鉄道整備に関しては,例えばフランス政府 によりTGV 導入直後に乗客数増加分の推計が行われてお り,1982 年の全輸送量(TGV と在来線)の実績は 1,564.2 万人であったが,これは TGV が無い場合の予想量 1,380 万人に比べて 13%増であったという報告がある8).また, 乗り継ぎ改善を主体としたスイスの幹線鉄道政策の事後 評価を行った波床・中川の研究9)も行われている. しかし,幹線鉄道整備政策の長期的な変遷を明らかに した上で政策評価することはあまり行われておらず,例 えばフランスの鉄道については都市圏内の交通に関する ものが多い10)-12)など.このような状況のため,わが国が海 外の鉄道政策を参考にする場合にはTGV やICE といった 高速列車の速度やそれらが走行する高速新線の整備状況 が参考にされはするものの,高速新線整備以外の在来線 改良等を含めての幹線鉄道網全体に関してどう評価し, どのように参考にすべきかは明らかではない. (2) 本研究の視点と位置づけ 本研究では,早期に独自の高速鉄道を導入したフラン スの幹線鉄道網に着目する.分析は定量的分析を基本と し,都市間交通を評価するため,適した指標を採用して計 測する.具体的な指標とその内容は第 4 章で説明する. 本研究は TGV 導入に関する分析を行うものであり, TGV 自体は 1980 年代に導入されたが,TGV 導入政策と 比較することになる在来線改良等は 1950 年代以降行われ ており,定量的指標は 1950 年代以降について計測する. このように,本研究では比較的長期にわたる分析年次を 設定し,戦後の幹線鉄道の整備・改良の影響を把握しなが ら TGV 導入に関する分析を行う. 定量的分析の方法については,フランスとは異なる方 針で整備が進められているスイスに関する研究9)の結果を 参考に考察できるように,基本的な評価方法は同一とす る.具体的には期待所要時間,仮想最速所要時間,実運行 時損失時間といった指標を用い,これら指標値の変化の 特徴を分析する. 3. フランスの幹線鉄道整備 (1) TGV 登場までの幹線鉄道整備 フランスでは第二次大戦の復興期の後,1954 年〜1965 年において 200km/h 運転対応の電気機関車を使って国内 5 区間で高速度試験が実施され,1955 年には Bordeaux 南 西の La Mothe - Morcenx 間で 331km/h の試験走行が実 現している13).営業運転としては,1950 年代半ばには Paris - Bordeaux 間などで 150km/h 以上の運転が実現し ており14),1967 年には前述の試験結果を反映して Paris - Toulouse 間で最高速度 200km/h での営業運転が開始され ている15).ただし,200km/h で走行するのは Les Aubrais - Vierzon 間の約 77km だけであった12). Paris-Bordeaux 線では将来的な 200km/h 以上での運転 の可能性があったが,後に TGV が初めて営業運転するこ とになる Paris から Lyon を経て地中海を結ぶ幹線(PLM 線)はいくつかの課題を抱えていた.同線沿いには数多く の主要都市が位置し,フランスの全人口の約 40%が集積 していた.さらにその先にはスイスやイタリア,スペイ ンなどへとつながる戦略的に重要な路線であり,1970 年 代初頭まで輸送量は年間約 4%ずつ成長していた.Paris-Dijon 間の大部分は複々線化されていたが一部区間に複線 区間が残り,輸送の隘路となっていた.また,160km/h 運 転の旅客列車と遅い貨物列車が同じ線路上で運転されて いた15)16). (2) TGV の導入 後に TGV 化されることとなる PLM 線は,列車回数が 多かったために路線改良工事を実施することが困難であ
り,別線整備による改善が図られることとなった16),17). TGV そのものは 1966 年に SNCF(フランス国鉄)によ る「新しい線路における鉄道の可能性についてのプロジェ クト」に端を発し,1969 年に SNCF から政府に対して高 速新線建設が提案された.1975 年には PLM 線に並行す ることとなる Paris - Lyon 間の高速新線 LGV のルートが 決定され,1976 年に着工された.図-1および表-1のよう に,1981 年には LGV Paris Sud Est(パリ南東線)の南部 区間が部分開業し,1983 年に Paris - Lyon 間が全通して いる.日本の新幹線とは異なり,在来線との直通運転が 可能であることから,部分開業であっても都市間の所要 時間短縮に役立つだけではなく,LGV 終点のLyon 以遠に ついても利便性が向上する.その後,1989 年には LGV Atlantique(大西洋線)が Paris - Le Mans 間で部分開業 し,1990 年には Tours まで開業している16). (3) TGV の全国展開 TGV を全国の主要都市間に運行させるための最初のマ スタープランは 1989 年に策定着手され,1992 年に TGV 網総合計画として政府で認可された.この総合計画策定 時には既設線700km と工事線560km があったが,さらに 8 つの主要プロジェクトが追加され16),17),2010 年までに 高速新線を 3,442km 建設し,既設線を含めて 4,700km の 高速鉄道網を構築するものであった20).その後の SNCF の財政難を経て 1997 年には上下分離政策が実施された. インフラの整備と保有はフランス鉄道線路事業公社 (RFF),輸送事業が SNCF という役割分担となった. 具体的な整備結果18),19)としては,1992 年には,Lyon 市 の北方から東側へと迂回する Contournement Est de Lyon (リヨンバイパス線)および Lyon の南方に延びる LGV
Rhône-Alpes(ローヌ・アルプ線)の北部区間が開業し, 1994 年までに Valence まで達している.Valence のさら に南側の区間は LGV Méditerranée(地中海線)と呼ばれ, 2001 年に Nime および Marseille まで達している. Paris の北側へは,Channel Tunnel(ドーバー海峡トン ネル)の開業に合わせて整備され,1993 年に Paris - Lille 間が LGV Nord(北線)として開業,翌年に海峡トンネル 方面が開業して Eurostar が営業開始,1996 年にはベル ギー方面への分岐線が完成している.1994 年には北線と シャルルドゴール国際空港(L’aéroport de Paris-Charles-de-Gaulle)を経てパリ南東線とをパリ市を迂回しながら 結ぶ LGV Interconnexion IDF(イル・ド・フランス連絡線) が整備された. 2007 年にはLGV Est Européenne(東ヨーロッパ線)が Nancy と Metz の中間付近まで整備され,2016 年には Strasbourg まで達する見込である.2011 年には LGV Rhin Rhône(ライン・ローヌ線)が Dijon 南東側から Mulhouse の手前まで整備されている.さらに地中海沿い のスペイン国境付近にも高速新線が整備されているほか, Le Mans から Rennes 方面や Tours から Bordeaux 方面, Nime - Montpellier 間などが工事中である. TGV は日本の新幹線とは異なり,LGV 上だけでサービ スが提供されるものではなく,改良された在来線でも高 速運行されるようなシステムになっている.このような ことから,LGV のほかに図-1 に橙色の線で示されるよう な路線において路線改良が進められており,在来線では あるが 200〜250km/h の運転が目指されている. 4. 分析の方法 (1) 分析指標について 本研究では,都市間の所要時間指標として,滞在可能時 間,期待所要時間,仮想最速所要時間の 3 つを使って分析 を行うこととする.これら指標および後述の実運転時損 表-1 2014 年現在の営業中の LGV19) 番号 路線名 (km/h)速度 年次 距離(km)
[*1] Paris Sud Est 300 1981/1983 419 [*2] Atlantique 300 1989/1990 291 [*1]-[*4] Contournement LyonRhône-Alpes 300 1992/1994 121
[*3] Nord 300 1994/1996 346 [*3]-[*1] Interconnexion IDF 300 1994/1996 104 [*5] Méditerranée 320 2001 259 [*6] Est Européenne 320 2007 332 [*7] Rhin-Rhône 320 2011 140 図-1 2010 年現在の LGV(文献18)を加工)
失時間の 4 つが表現しうる項目について,表-2 に示す. 滞在可能時間21)とは,ある都市を一定時刻(例えば午前 6 時)以後に出発し,一定時刻(例えば深夜 12 時)以前に帰 着する場合における目的地での滞在できる時間数のこと で,実際の乗り継ぎ経路に沿って計測する.実際のダイ ヤに沿って算出することで,乗継ぎの良否や乗車時間な どについても考慮でき,都市間の空間的抵抗を表す指標 の1 つとして用いることができる.ただし,朝夕の往復に 用いられた便のみが考慮対象である.計算が簡易である ものの,所要時間指標としては後述の期待所要時間に近 い表現力がある.本研究では,上記の時間帯設定を用い て計算した. 期待所要時間21)は,都市間交通で運行されている便ごと の所要時間や乗り継ぎ等を考慮でき,各便の所要時間が 小さく,運行頻度が高いほど指標値が小くなり,また各便 の所要時間や運行本数が同じ場合でも,団子運転のよう な実質的な利便性が低くて実質的に利用できる便が限ら れる場合などには指標値が大きくなる.実際のダイヤに 沿って算出することで,乗継ぎの良否についても考慮で きる.すなわち,移動時間の総合指標である.本研究で は,朝6 時から夜21 時までの15 時間の間に出発する場合 についてこの指標を計算した. 一方,実際には乗り継ぎできないにもかかわらず,区間 ごとの最速便が乗り継げることを仮定して地点間の所要 時間が計算されることもあり,行政等においてインフラ 整備のための検討の際などにおいてしばしば用いられて いる.この指標を本研究では仮想最速所要時間9)と定義す る.仮想最速所要時間は列車の乗車時間そのものの合計 と考えて差し支えない.この仮想最速所要時間と期待所 要時間との差(以下,実運転時損失時間と呼ぶ)は,次の 各要素により構成される. a) 先行列車や単線運転の対向列車,駅ホームの制約等に より,列車の走行時間を延ばさざるを得なくなる損 失(経路変更に伴う迂回等含む) b) 出発時利用路線の運行頻度の大小に伴う,列車の平均 的な待ち時間に関する損失 c) 乗継ぎ時の接続待ちに伴う時間的損失 (2) 分析対象都市について 本研究ではフランスの国内主要都市間の各種指標を計 測するが,対象とした都市はフランスの地域圏の圏府と なっている都市(表-3)とした.ただし,海外地域圏および コルシカ島は除外した.各都市の位置は図-1 に示した. 計測対象とした起終点駅は,Paris については市役所最 寄りの地下鉄駅を起終点に設定した上でターミナル間を 地下鉄による移動を可能とした.その他については表-4 に示すように各都市の中心駅となるように設定した.参 考のため,図-2 に主要都市までの Paris からの距離(鉄道 の路線距離)を示す. (3) 分析対象年次と整備概要について 分析に使用した資料は表-5に示した鉄道時刻表(一部は 復刻版)である.1931 年と 1939 年は第二次世界大戦前の 状況を知るためのものであり,1951 年は第二次世界大戦 表-3 フランスの地域圏と圏府(欧州大陸のみ)22) 地域圏名 圏府 Alsace Strasbourg Aquitaine Bordeaux Auvergne Clermont-Ferrand Basse-Normandie Caen Bourgogne Dijon Bretagne Rennes Centre Orléans Champagne-Ardenne Châlons-en-Champagne Corse Ajaccio *[分析対象外] Franche-Comté Besançon Haute-Normandie Rouen Île-de-France Paris Languedoc-Roussillon Montpellier Limousin Limoges Lorraine Metz Midi-Pyrénées Toulouse Nord-Pas-de-Calais Lille Pays-de-la-Loire Nantes Picardie Amiens Poitou-Charentes Poitiers Provence-Alpes-Côte d'Azur Marseille
Rhône-Alpes Lyon
表-4 起終点とした駅
地域圏名 圏府都市 1931〜75 年 '85 年 2005 年〜
Île-de-France Paris Hôtel de Ville (Metro) → →
Nord-Pas-de-Calais Lille Lille → FlandresLille
Champagne-Ardenne Châlons-en-Champagne Châlons-sur-Marne → Châlons-en-Champagne
Rhône-Alpes Lyon Lyon Perrache Lyon Part Dieu →
その他 各都市 中心駅 → → 表-2 各所要時間指標の特徴 (a) (b) (c) (d) 考慮事項 滞在可能時間 期待所要時間 仮想最速所要時間 実運転時損失時間 乗車 時間 列車速度に起因 朝夕便のみ 全便考慮 最速便のみ -経路変更や運転 速度変化による 増減 朝夕便 のみ 全便考慮 - 全便考慮 待ち 時間 運行頻度に 起因 朝夕便のみ 全便考慮 - 全便考慮 乗り継ぎ時の 接続待ち 朝夕便のみ 全便考慮 - 全便考慮 備考 モードMixed 対応 (b)と(c) の差
後で,高速運転がまだ始まっていない時期のものである. 1963 年は TGV 登場(1981 年)前であり,今後,日本との 比較研究を行う際に便利なように東海道新幹線開業(1964 年)に近い年次とした.1975 年も TGV 導入前だが,既設 線における高速化が実施された時期である.日本では東 海道山陽新幹線が開通している.1985 年は TGV が導入 された初期の段階であり,2005 年は比較的近年の状況で あり,TGV ネットワークの全国的展開が進行している段 階である.これらを用い,表定速度の推移の分析では全 資料を,各種所要時間指標の分析では 1951 年以降の資料 を用いた.いずれも平日に運転されている列車を分析対 象とし,週末運転の列車は対象外とした. フランスの高速新線 LGV は図-1 および表-1 のように 整備されており,分析対象年次の 1985 年では,パリ南東 線([*1] LGV Paris Sud Est)が全通している.また,2005
年までには,図-1 および表 -1 における[*6][*7]以外の LGV が完成している. 5. 表定速度の推移 (1) 表定速度の計算方法 各種の所要時間指標の分析の前に,フランスの幹線鉄 道網の整備の基本的な特徴を知るため,まず Paris から各 都市までを結んでいる幹線鉄道の表定速度を計算して分 析する. 朝 6 時以降 Paris の各ターミナル駅を出発して目的地に 先着する列車と,深夜 12 時までに帰着する目的地を最も 遅く出発する列車のうち,表定速度の大きかった方につ いてその推移を図示したものが図-3〜図-8 である(計測 条件は次章の各種所要時間指標計測のものと異なり,発 着地が Paris の各ターミナル駅である).図示した表定速 度を Vijsc,路線長を Lijとすると,次式のようになる. VijSC = MAX Lij/ Tj arr − Ti dep
(
)
, Lij/ Tiarr − Tj dep(
)
{
}
(1) Tidep: 往路における i からの出発時刻 Tjarr: 往路における j への到着時刻 Tjdep: 復路における j からの出発時刻 Tiarr: 復路における i への到着時刻 Paris の旅客ターミナルは方面別に分散されており,概ね 主に走行する路線別になっていることから,図-3〜図 -8 は各都市に向かう際の始発ターミナル駅ごとに分類して 図示したものになっている. (2) Austerlitz 駅発着と St.Lazare 駅発着 図-3のAusterlitz 駅はParis から真南に向かう路線の発 着駅であり,図-4のSt.Lazare 駅はほぼ真西に向かう路線 の発着駅である.ともに LGV の整備はなく,各都市とも 表定速度は 110〜120km/h 台となっている.この速度は, TGV の整備された昨今では遅い方であるが,新幹線こだ ま号(東京-新大阪間の表定速度は約127km/h)と同程度と なっており,日本の在来線特急(例えば,大阪 → 金沢の最 速便で約 105km/h)などよりは速い.年次推移としては, 1930 年代は 100km/h 程度以下であったが,1963 年には 表-5 使用した資料 年次 資料名 出版社等1931 Cook's Continental Time-Table Steamship and Air Service Gide, November 1931 Thomas Cook & Son Limited 1939 Cook's Continental Time-Table Steamship and Air Service Gide, August 1939 復刻版, David & Charles, 1987 1951 Cook's Continental Time-Table, April 1-May 19 1951 Thomas Cook & Son Limited 1963 Thomas Cook Continental Timetable, May 26-June 30 1963 Thomas Cook & Son Limited 1975 Thomas Cook Continental Timetable, May 1-31 1975 Thomas Cook Limited 1985 Thomas Cook Continental Timetable, June 1985 日本語版,ダイヤモンド社 1995 Thomas Cook European Rail Timetable, Summer 1995 日本語版,ダイヤモンド社 2005 Thomas Cook European Rail Timetable, Summer 2005 日本語版,ダイヤモンド社
2014 European Rail Timetable, Summer 2014 日本語版,ダイヤモンド社
0" 200" 400" 600" 800" 1000" Orléans"Amiens" Rouen" Châlons9en9C." Lille" Caen" Dijon"Metz" PoiBers" Besançon" Rennes" Nantes" Limoges" Clermont9F."Lyon" Strasbourg"Bordeaux" Montpellier"Marseille" Toulouse" Bordeaux 経由 LGV 経由 図-2 パリから各都市までの鉄道距離
Caen を除き既に現在と同水準に達しており,1975 年に は Caen も追いついている. (3) Lyon 駅発着 図-5のLyon 駅は主としてParis から南東に向かう路線 の発着駅である.1981 年以降,2001 年まで段階的に LGV が整備されている.ただし,Clermont-Ferrand(以 下,Clermont-F.)への路線は他と異なり LGV の整備はな く,分析年次の2005 年まではLyon 駅発着だったが,2014 年現在は Lyon 駅構内にある Bercy 駅発着である. 1930 年代に 100km/h 程度以下であったという点では Austerlitz 駅や St.Lazare 駅発着都市と同じであり,1975 年に表定速度が 110〜120km/h 台に達している点も同じ 傾向である.しかし,Clermont-F.以外の都市へ向かう際 に共通して使用される区間として,1985 年までにLGV が Lyon まで整備されることで,Clermont-F.以外の都市への 表定速度が向上し,まず Lyon と Dijon が概ね表定速度 200km/h に達するとともに,他都市も初期の新幹線ひか り号と同程度の水準に達する(東京 → 新大阪間 190 分で, 約 163km/h).次いで Valence まで LGV が延長されると Montpellier や Marseille への表定速度が 200km/h に近づ き,2005 年までに地中海線が整備されることで 200km/h を超えている.ライン・ローヌ線の開通で Besançon も 2014 年には速度向上している.一方,LGV 整備のない Clermont-F.ではAusterlitz 駅やSt.Lazare 駅発着路線と同 じく,1975 年以降の変化はほとんどない. (4) Montparnass 駅発着 図-6のMontparnass 駅は主としてParis から南西の大西 洋岸方面に向かう路線の駅である.1990 年前後に Le 0.0 50.0 100.0 150.0 200.0 250.0 1931 1939 1951 1963 1975 1985 1995 2005 2014 Bordeaux Rennes Toulouse Nantes Poi>ers km/h 年次 図-6 表定速度(Montparnass 駅発着路線) 0.0 50.0 100.0 150.0 200.0 250.0 1931 1939 1951 1963 1975 1985 1995 2005 2014 Lille Amiens km/h 年次 図-7 表定速度(Nord 駅発着路線) 0.0 50.0 100.0 150.0 200.0 250.0 1931 1939 1951 1963 1975 1985 1995 2005 2014 Strasbourg Châlons-en-Champagne Metz km/h 年次 図-8 表定速度(Est 駅発着路線) 図-5 表定速度(Lyon 駅発着路線) 0.0 50.0 100.0 150.0 200.0 250.0 1931 1939 1951 1963 1975 1985 1995 2005 2014 Dijon Besançon Montpellier Marseille Lyon Clermont-F km/h 年次 0.0 50.0 100.0 150.0 200.0 250.0 1931 1939 1951 1963 1975 1985 1995 2005 2014 Caen Rouen km/h 年次 図-4 表定速度(St. Lazare 駅発着路線) 0.0 50.0 100.0 150.0 200.0 250.0 1931 1939 1951 1963 1975 1985 1995 2005 2014 Orléans Limoges km/h 年次 図-3 表定速度(Austerlitz 駅発着路線)
Mans や Tours まで LGV が整備されている.また,図- 1 にも示されているように,LGV ではないが,2010 年まで に 200km/h 運転対応の路線改良が行われている. 1975 年までの傾向は既に説明した他都市の場合と同じ であり,LGV の開業に伴い 1985 年〜1995 年の間で表定 速度が大きく向上しており,1995 年時点でLGV が達して いない都市を含めて,全都市が初期の新幹線ひかり号と 同程度以上の水準に達している. なお,Toulouse については,1985 年以前は Limoge 経 由,LGV 整備後の1995 年以降はBordeaux 経由が時間的 最短経路である.また,2005 年から2014 年にかけて目的 都市によっては表定速度が低下しているが,この間のダ イヤの変更を反映してのものである. (5) Nord 駅発着 図-7のNord 駅はParis からほぼ真北に向かう路線の駅 であり,海峡トンネルを超えて英国に向かう列車も同駅 発着である(ただし,本研究では分析対象外).1994 年の Eurostar の営業開始とともに Lille まで LGV が使用でき るようになった.ドイツ北部やベルギーからの高速列車 Thalys も同じく Nord 駅発着である.ただし,同じ北部方 面である Amiens は LGV からは逸れている. 初期の傾向は既に説明した他都市の場合と同じであり, 1963 年までに 100km/h を超えている.LGV の開業に伴 い 1985 年〜1995 年の間で Lille のみ表定速度が大きく向 上しており,Amiens は 1975 年以降横ばい(ないし微減) である. (6) Est 駅発着 図-8のEst 駅はParis からほぼ真東に向かう路線の発着 駅である.2007 年に LGV が開業した. 2005 年までの傾向は図-3 の Austerlitz 駅や図-4 の St. Lazare 駅発着の都市と同傾向であり,1963 年までに新幹 線こだま号と同程度の水準となって以降,2005 年までは 基本的に横ばいである.LGV が開業することで,2005 年 以降に大きく表定速度が向上している.ただし,実際に は Châlons-en-Champagne への LGV 経由の列車は少な く,多くの列車は在来線経由であり,その表定速度は約 110km/h である. 6. 各所要時間指標の推移 (1) 滞在可能時間の推移について 図-9は滞在可能時間の推移について示したものであり, 計測条件は第 4 章(1)で示した(以下,本章での他の指標計 測方法も同様).図では初めて滞在可能時間が 8 時間以上 となった年次を示している(図の下側の記号参照).記号 が複数示されているものは,一旦滞在可能時間が8 時間以 上となった後,滞在可能時間が 8 時間未満となり,再び 8 時間以上となったことを示している.図は OD 表形式に O D P ari s Roue n Ca en Re nne s N ant es P oi ti ers Borde aux T oul ous e O rl ea ns L im oge s Cl erm ont -F . M ont pe ll ie r M ars ei ll e L yon D ij on Be sa ns on Metz Cha m pa gne S tra sbour g Lille A m ie ns Paris Rouen Caen Rennes Nantes Poitiers Bordeaux Toulouse Orleans Limoges Clermont-F. Montpellier Marseille Lyon Dijon Besanson Metz Champagne Strasbourg Lille Amiens 図-9 フランス主要都市間の滞在可能時間の推移
なっており,右側の都市は出発側,上部に示された都市が 訪問先の都市である.計測条件は朝 6 時発,深夜 12 時帰 着というものである.朝6 時から深夜12 時までは18 時間 あるので,滞在可能時間が 8 時間とは,片道あたり移動時 間が 5 時間に相当する. 第二次大戦後すぐの 1951 年において滞在可能時間が 8 時間を越えているのは Paris-Rouen 間などの短距離区間 のみであり,1963 年になると若干増えるもののまだ多く の組合せでは滞在可能時間は小さく,図では表現できて いないが,大半の都市の組合せにおいて日帰りすら不能 である.だが,Paris を発着地とする場合は全体の 1/3 程 度の都市との往復において滞在可能時間が 8 時間を越え ている.このように,フランスの幹線鉄道網では Paris を 中心とする路線整備が重視されていることがわかる. 日本の新幹線開業の影響を受け,1975 年には既設幹線 の高速化が進んだ.この時期には滞在可能時間 8 時間以 上となる区間が増え始めているが,Paris 発着区間が多い. 1985 年には LGV パリ南東線が開業し,TGV のサービ スが提供され始めている.Paris 発着の場合において日帰 り不能な都市は消滅し,LGV の沿線および付近(Lyon, Dijon, Besançon)などを発着する場合の滞在可能時間が 大きく改善されている.それ以外の都市間でも改善され ており,LGV 沿線以外でも路線改良が進んでいる. 2005 年になると日帰り不能な都市の組合せは少数にな り,この時点で LGV が未開業であったStrasbourg や南部 の Toulouse を発着する場合などに見られるだけとなっ た.しかし,全般的に滞在可能時間が8 時間を越える都市 の組合せは比較的近距離の場合や Paris の近傍都市発着の 場合を除き,あまり多くはない. (2) 仮想最速所要時間の推移について 図-10 は仮想最速所要時間(区間ごとの最速便が乗り継 ぎ可能であった場合の仮想的な所要時間)の推移であり, 片道 5 時間以下に初めて到達した年次を示している(図の 下側の記号参照).記号が複数示されているものは,一旦 5 時間以下となった後,5 時間超になり,再び 5 時間以下 となったことを示している.図はOD 表形式であり,図-9 と同じ形式である. 1951 年時点で既にかなりの都市の組合せにおいて計算 上ではあるが片道あたり 5 時間を切っており,1975 年ま でにはその組合せ数がさらに増加する.すなわち,TGV 導入前でも列車の速度そのものの改善は進んでいる. LGV パリ南東線が開業した 1985 年ではさらに改善が 進み,近距離でない場合でも,LGV 沿線相互間では片道 5 時間以下の都市間が多くなってきている.2005 年ではさ らに改善が進み,LGV が未開業であった Strasbourg や南 部の Toulouse を発着する場合において仮想最速所要時間 が大きいものの,全般的には計算上片道5 時間以下となる 都市間が非常に多くなっている. O D P ari s Roue n Ca en Re nne s N ant es P oi ti ers Borde aux T oul ous e O rl ea ns L im oge s Cl erm ont -F . M ont pe ll ie r M ars ei ll e L yon D ij on Be sa ns on Metz Cha m pa gne S tra sbour g Lille A m ie ns Paris Rouen Caen Rennes Nantes Poitiers Bordeaux Toulouse Orleans Limoges Clermont-F. Montpellier Marseille Lyon Dijon Besanson Metz Champagne Strasbourg Lille Amiens 図-10 フランス主要都市間の仮想最速所要時間の推移
(3) 期待所要時間の推移について 図-11 は移動時間の総合指標である期待所要時間の推 移であり,前節の仮想最速所要時間と同じく片道5 時間以 下に初めて到達した年次を示している.作図形式は図-10 と同じである. 期待所要時間は乗車時間だけでなく,運行頻度や乗り 継ぎ時のダイヤ設定などを反映した指標となっているが, 仮想最速所要時間を示した図-10 では 1963 年時点ですで に計算上の所要時間が 5 時間を切っている区間が多かっ たのに対し,期待所要時間を示した図-11 では片道あたり 5 時間以下の区間が少なく,乗車時間は短くなったものの 実際に利用できる便数が少なかったり途中での乗り継ぎ 利便性が低かったりしていることを反映している. LGV パリ南東線が開業している 1985 年では状況はか なり改善されているが,LGV の直接の沿線である Pari - Dijon 間やPari - Lyon 間,あるいはその延長としてのPari - Marseille 間などのLGV を経由する区間では指標値の相 当な改善が行われており,Paris の近傍都市発着の場合な どで期待所要時間が 5 時間以下になっている.同時に, LGV を利用をしない区間でも大きな改善が見られてお り,同時期に実施された在来線改良や車両の性能向上な どの効果がかなり大きいと思われる. 2005 年には Strasbourg 方面への LGV などを除き,多 数の LGV が整備されるに至っているが,これにあわせて 期待所要時間の改善も進んでいる.しかし,図-10 では仮 想最速所要時間が 5 時間を切るような区間が多いにもか かわらず,図-11 では期待所要時間が大きな区間が少なく なく,5 時間以下の区間は少ない.これは運行頻度が低 かったり,乗り継ぎの利便が悪いことが多いことを反映 している. 7. 路線網整備の特徴分析 (1) 本章での分析方法 前章の分析によって,フランスの主要都市間の幹線鉄 道の発達において,主に速度面での利便性改善を表現で きると考えられる仮想最速所要時間(VFTT=Virtual Fastest Travelling Time)を用いた分析と,乗り継ぎ等を含 めた総合的な利便性を表現できると考えられる期待所要 時間(EVTT=Expected Value of Travelling Time)を用い た分析とでは改善の傾向が異なることがわかった.そこ で,本章では詳しく分析するために,期待所要時間の改善 を速度面の改善とそれ以外の乗り継ぎ等の利便性の改善 とに分離して分析する.実運転時損失時間(ROLTime = Real Operation Loss Time)という主として乗り継ぎ等の 利便性を表現する指標を以下のように定義する. ROLTime ≡ EVTT −VFTT (2) 以下,これら指標を用いて分析する. O D P ari s Roue n Ca en Re nne s N ant es P oi ti ers Borde aux T oul ous e O rl ea ns L im oge s Cl erm ont -F . M ont pe ll ie r M ars ei ll e L yon D ij on Be sa ns on Metz Cha m pa gne S tra sbour g Lille A m ie ns Paris Rouen Caen Rennes Nantes Poitiers Bordeaux Toulouse Orleans Limoges Clermont-F. Montpellier Marseille Lyon Dijon Besanson Metz Champagne Strasbourg Lille Amiens 図-11 フランス主要都市間の期待所要時間の推移
本章では,日本において東海道新幹線が出現した時期 とほぼ同じ 1963 年と最初の LGV であるパリ南東線全通 (1983 年)後である 1985 年とを比較分析する.また,そ の後のLGV 網の展開状況について考察するため,1985 年 と比較的近年の 2005 年とを比較分析する. (2) 1963 年から 1985 年にかけての変化 図-12 は横軸に実運転時損失時間(ROLTime)の1963 年 から 1985 年にかけての改善量(減少量)をとり,縦軸に 仮想最速所要時間(VFTT)の改善量をとって全 OD につい てプロットしたものである.定義上,両者を加算したも のが期待所要時間(EVTT)(の改善量)になるので,図の右 上にプロットされた OD ほど総合的な利便性が改善され たと言える.また,上方ほど速度が向上しており,下方ほ ど速度が低下している(LGV が整備されると旧線に比べ て線形が直線に近くなるため,距離自体が多少短くなる こともあるが,広義の速度向上と解釈し,以下,単に速度 向上などと表現する).さらに右方ほど乗り継ぎや運行頻 度等の速度以外の面での改善が大きく,左方ほど速度以 外の面での利便性が悪化している. さて,この期間には LGV パリ南東線(約 420km)が開業 してこれを経由するTGV サービスの提供が始まっている が,それだけにとどまらず,この期間においては全 OD ペ アのうち約 96%の区間において期待所要時間が改善され ている.また,全 OD ペアのうちの約 78%において仮想 最速所要時間よりも実運転時損失時間の方が改善量の方 が大きいという特徴がある.すなわち,この期間におけ る改善の特徴はTGV による高速度運転の開始の影響もあ るが,全体としては在来線改良や車両の高性能化などに よる速度向上に加えて運行頻度の向上と乗り継ぎ改善が 大きな役割を果たしたと言える. (3) 1985 年から 2005 年にかけての変化 図-13 は図-12 と同様の作図方法であるが,1985 年か ら 2005 年にかけての変化を示したものである. この期間には約 1,120km の LGV が新たに供用される とともに関連する在来線改良も進み,本格的な TGV サー ビスが全国展開されている.仮想最速所要時間の改善量 が実運転時損失時間の改善量よりも大きい OD ペアは全 体の約 65%である.すなわち,この期間における改善は 運行頻度の向上と乗り継ぎ改善よりは,TGV サービスの 全土的展開による高速度運転による改善が主体であった といえる.しかし,この 20 年間で期待所要時間が改善し たのは全 OD ペアのうち約 75%の区間にとどまり,逆に 利便性が低下した区間も少なくない. OD 交通量で重み付けをせずに期待所要時間の改善量 を単純合計した場合,1963 年から1985 年にかけての総改 善量が約 6.2×103分であったのに対し,1985 年から 2005 年にかけての総改善量は約 2.0×103分であり,約 1/3 程度 に過ぎず,総合的な効果は小さめであった. なお,速度向上を図りながらも期待所要時間が低下し た区間が少なく無かった原因としては,この期間に幹線 鉄道の運営主体である SNCF の財政状況が悪化しており (第 3 章(3)参照),調査資料の時刻表(表-5)を確認すると, パリからの直行便は残しながらも,運行本数の削減や運 転曜日や期間の細かな設定がなされるなど,ネットワー ク全体の運行が合理化されているようである. !250% !200% !150% !100% !50% 0% 50% 100% 150% 200% 250% 300% 350% !250% !200% !150% !100% !50% 0% 50% 100% 150% 200% 250% 300% 350% 期待所要時間の改善 0分 改善 100 分 改善 200 分 改善 -100 分 速度向上 速度低下 乗継改善 乗継悪化 利便向上 利便悪化 実運行時損失時間の改善量(分) 仮想最速所要時間の改善量(分) 図-12 期待所要時間変化の構成('63→'85) !250% !200% !150% !100% !50% 0% 50% 100% 150% 200% 250% 300% 350% !250% !200% !150% !100% !50% 0% 50% 100% 150% 200% 250% 300% 350% 改善 -100 分 期待所要時間の改善 0分 改善 100 分 改善 200 分 速度向上 速度低下 乗継改善 乗継悪化 利便向上 利便悪化 実運行時損失時間の改善量(分) 仮想最速所要時間の改善量(分) 図-13 期待所要時間変化の構成('85→'05)
(4) 既存の研究における結果との比較考察 本章の分析結果として,最初の TGV が開通した直後の 1985 年以前では仮想最速所要時間で表現される速度向上 と実運行時損失時間で表現される乗り継ぎ利便や運行頻 度の改善が図られることで期待所要時間で表現される総 合的な利便性が大きく向上したが,1985 年以後の TGV ネットワークの全国展開期においては仮想最速所要時間 は改善したものの実運行時損失時間が悪化することが多 く,期待所要時間の改善は小さいことがわかった. 一方,本研究と同様の分析手法でスイスの鉄道政策 Rail 2000 について分析した研究9)では,期待所要時間で表現さ れる都市間の総合的な利便性の改善には実運行時損失時 間で表現される乗継ぎ改善が有効であった.乗り継ぎ利 便性が改善できるような設備投資を行い,結果として高 速新線整備は最小限であった Rail 2000 政策は,実際の都 市間の利便性向上に役立っていることが示されている. この両者を対比することで明らかとなるのは,幹線鉄 道政策を実施する際には,単に仮想最速所要時間で表現 されるような列車の速度向上を目指すだけでなく,運行 頻度の改善を含む乗り継ぎ利便性向上を図らなければ, 期待所要時間で表現されるようなネットワーク全体の総 合的な利便性向上が難しいということである. 8. おわりに (1) 本研究の分析のまとめ 第 3 章では,戦後のフランスの幹線鉄道整備について述 べた.TGV 導入以前は在来線の改良が行われ,TGV 導入 以後は LGV の建設と在来線改良が行われることで,全国 的に TGV サービスが提供されるに至った.第 5 章では, Paris を中心とする路線について表定速度の変化を計測し た.その結果,在来線改良によって東海道新幹線こだま 号程度のサービス水準を提供できるようになり,LGV の 整備の進行に合わせてサービス水準が向上し,最終的に は東海道新幹線のぞみ号程度の水準に達していることが わかった. 第 6 章では各種の所要時間指標を計測したが,滞在可能 時間の推移の計測結果では Paris(および近隣地域)を 発着する区間で指標改善が明確であり,Paris を中心とす る路線整備が顕著に重視されていることが定量的な面で も確認できた.仮想最速所要時間の推移の分析では, TGV 導入前の 1975 年までに既に列車の速度向上に起因 するような改善が進んでいることがわかった.期待所要 時間の推移の分析では,1985 年においてLGV を利用をし ない区間であっても 1963 年に比べて大きな改善が見られ た.しかし,2005 年までに多数の LGV が整備されたが, 期待所要時間が大きく,総合的な利便性の低い区間が少 なくないことがわかった. 第 7 章では,期待所要時間の改善を速度面の改善(仮想 最速所要時間の改善)とそれ以外の乗り継ぎ等の利便性 等の改善(実運行時損失時間の改善)とに分離して分析し た.その結果,1963 年から 1985 年にかけてほぼ全ての OD ペアで改善が見られ,速度面の改善(仮想最速所要時 間の改善)だけでなく,運行頻度の向上と乗り継ぎ改善 (実運行時損失時間の改善)が期待所要時間で表現される ようなネットワーク全体の総合的な利便性の改善に大き な役割を果たしていることがわかった.1985 年から2005 年にかけて LGV が多数供用され,高速度運転による速度 面の改善(仮想最速所要時間の改善)が主に実施されたが, 期待所要時間の改善が見られたのは約 75%にとどまった. 以上より,フランスの幹線鉄道網の改善については LGV 整備に伴う高速列車 TGV の導入は乗車時間そのも のを短くするという点で一定の役割を果たしてはいるも のの,運行頻度や乗り継ぎといった速度面以外の改善が 必ずしも充分ではなく,ネットワーク全体の総合的な利 便性については改善の余地があることがわかった. (2) わが国の幹線鉄道政策への示唆 繰り返しになるが,スイスでは乗り継ぎ改善を目的と して主に在来線改良を行う幹線鉄道政策を実施した結果, 乗り継ぎ改善が実現した区間では乗り継ぎ・運行頻度・乗 車時間等を総合的に反映できる期待所要時間が改善して いた9).これに対し,フランスでは Paris を中心とする高 速新線整備を多数行い,主に速度向上によって乗車時間 短縮が行われたが,そのような区間では少なからず期待 所要時間が悪化する結果となった.この原因は運行頻度 が十分ではないことと乗り継ぎが不便であることが考え られる. 一方,わが国の幹線鉄道整備政策は長年,全国新幹線鉄 道整備法に沿った高速新線整備が基本となっており,新 幹線網構想である基本計画自体は全国に渡るものの,実 際の整備は東京を中心として進められている.また,乗 り継ぎ改善といった目標は設定されておらず,状況はフ ランスに似ている. このことから,日本においても高速新線の建設だけで は十分に幹線鉄道網の性能を引き出すことはできない可 能性がある.このため,新線建設だけでなく,十分な運行 頻度の確保と乗り継ぎ利便性の改善も幹線鉄道整備の政 策目標に取り入れるべきであると考えられる. (3) 本研究の限界と今後の課題 本研究では所要時間の観点でフランスの幹線鉄道の利 便性の変化について分析を行い,以下の研究課題等を克 服するのを待たずしても,フランスの幹線鉄道には,多く の問題点を抱えているものと考えられる. 本研究の研究上の課題としては,都市間交通という広
い観点では航空等の他の交通モードを考慮した分析も重 要であるが,本研究では考慮されていないことが課題で ある.また,所要時間以外にも移動費用やその他の使い 勝手,輸送の信頼性(遅延やストなど)についても分析の 重要な観点であり,今後の研究課題である.さらに,本研 究の分析は暗黙の前提として,フランスの各都市間の利 便性が総合的に向上することが適切であるとの考え方に 基づいている.だが,フランスの国策として Paris を中心 として利便性を向上させさえすれば十分である(分散型の 国土は目指さず,一極集中を是とする)と考えているのな らば,実際の幹線鉄道網の利便性が Paris を中心に改善さ れているという事実は,その当初の目的を達したことを 示している.今後,国土政策との関連性などについて詳 しく分析を行って行くことも考えられる. 参考文献 1) 天野光三,藤田昌久:交通施設整備による地域構造の変動 分析モデルに関する研究,日本経済研究センター,1968. 2) 上田孝行,中村英夫:新幹線整備が地域発展に及ぼす影 響,土木計画学研究・講演集,No.12,pp.597-604,1989. 3) 浅見均:東海道新幹線の長期不通時における利用者損失 の評価,土木計画学研究・論文集,Vol.18,No.4,pp.729- 735,2001. 4) 浅見均:代替ルート構築によるリンク途絶時の社会的損 失緩和,運輸政策研究,Vol.7,No.2,pp.30- 36,2004. 5) 中川大,波床正敏,加藤義彦:交通網整備による都市間 の交流可能性の変遷に関する研究,土木学会論文集, No.482/IV-2,pp.47-56,1994. 6) 荒谷太郎,轟朝幸,金子雄一郎:公共交通サービスによ る都市間移動の地域格差分析,土木計画学研究・論文 集,Vol.26,No.4,pp.807-816,2009. 7) 荒谷太郎,轟朝幸:わが国の都市間公共交通モビリティ に関する時系列分析,土木計画学研究・論文集,Vol.27, No.4,pp.643-652,2010. 8) 図師雅脩:フランス国鉄と TGV のイメージ調査,運輸と 経済,44 巻 4 号,pp.87-93,1984. 9) 波床正敏,中川大: 幹線鉄道におけるハブシステム構築 の効果と意義に関する研究 − スイスの鉄道政策 Rail 2000 の効果分析を踏まえて −,都市計画論文集,No. 41-3,pp.839-844,2006. 10)北川大次郎:近代パリ都市鉄道網の計画と整備,土木計 画学研究・論文集,No.17,pp.1-13,2000. 11)板谷和也,原田昇:フランスにおける都市圏交通計画 (PDU)の策定・運用実態に関する研究 - オルレアン都市 圏を例に -,土木計画学研究・論文集,Vol.21,No.1,pp. 41-50,2004. 12)板谷和也,原田昇:フランス PDU における合意形成過程, 土木計画学研究・論文集,Vol.22,No.1,pp.183-188,2005. 13)町田富士夫,堀内義朗,片瀬貴文,西村昭三:新幹線の 計画と設計,p.266,山海堂,1968. 14)谷脇康生:鉄道高速化への努力,運輸と経済,43 巻 3 号, pp.68-81,1983. 15)本田修一:新幹線と TGV と HST,運輸と経済,42 巻 2 号,pp.38-44,1982.
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AN ANALYSIS OF TRAVELLING TIME BETWEEN FRENCH CHIEF CITIES
BEFORE AND AFTER INSTALLATION OF TGV SERVICE
Masatoshi HATOKO
TGV operation began in 1981 and many major cities have received the full benefit of high-speed train service. In this study, historical trunk railway policy of France is reviewed and indicators of inter-city travelling time are analyzed for the purpose of making effects of high-speed rail network clear. The indicators are measured in 1963 that is before TGV introduction, in 1985 that is just after opening of TGV and in 2005 that is in spreading stage of TGV network.
As a result of this study, it was found that total user convenience have been greatly increased by upgrading train speed and improvement of wasteful time until 1985 and also found that it have been barely increased by expanding TGV network and worsening of transfer time until 2005.