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糖尿病腎症 重症化予防プログラム開発のための研究 総括報告書

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(1)

厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業) 

糖尿病腎症  重症化予防プログラム開発のための研究   

総括報告書 

 

研究代表者  津下一代  (あいち健康の森健康科学総合センター  センター長)

 

研究要旨 

  国の重要課題である「国保等による糖尿病性腎症重症化予防事業」推進に向けて、本研究班は全 国での実現可能性と効果を考慮したプログラムの開発、評価方法の検討を行うことを目的としてい る。具体的には、地域のプログラム推進に資するよう、実施計画書のひな型、運用マニュアル、教 材の提供、研修、評価指標の検討をおこなった。全国 96 自治体(国保、広域連合)の協力を得て運 営上の課題を整理するとともに、保健事業対象者のデータを収集し、事業評価を試みた。 

ストラクチャー、プロセス評価では、研究班参加自治体において、対象者抽出基準、プログラム 内容、地域の連携体制において自治体による取組格差がみられたが、他自治体の取り組みをヒント に改善しており、横展開の可能性を示唆している。進捗管理シートの分析から、庁内チーム形成や 医師会への相談、事業計画は進む一方、かかりつけ医との具体的な連携方策、マニュアル作成は達 成率が低かった。専門医、都道府県、国保連合会による市町村支援の状況も地域差が明らかであっ たことから、自治体の状況に合わせた段階的なプログラムが必要と考えられた。保健指導者のスキ ルアップも重要な課題であり、全国で計画的に研修や事例検討が進むことが必要である。 

アウトプット、アウトカム評価では、91 自治体 7,290 例の対象者登録データを分析した。今回の 評価対象者は 2 年間連続して健診を受診しデータを比較が可能な者である。平成 30 年 2 月現在で

追跡率37.8%であった。BMI、血圧、HbA1cなどにおいて有意な改善を認めたが改善幅は小さく、腎

機能悪化防止につながるかの評価はさらなる追跡が必要である。今後、国保データベース(KDB)を活 用し、医療機関受診状況、総医療費、薬剤の使用状況を把握、抽出された対象者全員に対する医療保険 者としての評価を検討していく必要がある。

これまでに得られた知見を踏まえ、「プログラム改訂に向けた提言」としてまとめた。研究班とし ては全市町村が実施可能な段階的プログラム案の作成と評価、研修や普及方法についてさらなる検 討が必要と考えている。 

 

【分担研究者】 

岡村  智教(慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学) 

三浦  克之(滋賀医科大学医学部公衆衛生学) 

福田  敬  (国立保健医療科学院) 

植木浩二郎(国立国際医療研究センター) 

和田  隆志(金沢大学大学院医薬保健学総合研究科) 

矢部  大介(京都大学大学院医学部研究科) 

後藤  資実(名古屋大学医学部糖尿病・内分泌内科) 

安田  宜成(名古屋大学大学院医学系研究科) 

森山美知子(広島大学医歯薬保健学慢性疾患看護学) 

佐野  喜子(神奈川県立保健福祉大学栄養領域) 

樺山  舞  (大阪大学大学院医学系研究科保健学) 

村本あき子(あいち健康の森健康科学総合センター) 

【研究協力者】 

平田  匠(慶應義塾大学医学部百寿総合研究センター) 

鎌形喜代実(国民健康保険中央会) 

(2)

栄口由香里(あいち健康の森健康科学総合センター) 

野村  恵里(あいち健康の森健康科学総合センター) 

岩竹  麻希(あいち健康の森健康科学総合センター) 

A.研究目的 

糖尿病性腎症による新規透析導入は、年間 1.6 万人を超え、患者の QOLのみならず医療経済的 にも負担が大きい。糖尿病性腎症重症化予防は、

健康寿命の延伸および医療費適正化の観点から 国の重要課題とされている。From-J、J-DOIT3等 の研究により、血糖・血圧・脂質管理、生活習慣 改善による腎機能悪化抑制効果が示され、重症化 予防の取組みの重要性が示唆された。一方で、国 民健康・栄養調査やデータヘルス計画において、

自治体が保有する健診等のデータ分析より、糖尿 病未治療者、治療中断者、コントロール不良者が 存在することが明らかとなっている。新規透析導 入を抑制するためには、これらのハイリスク者に 対する対策を講じることが重要であり、国保等の 保険者が担う役割は大きい。

日本健康会議では「健康なまち・職場づくり宣

言2020」において、この取組みの推進を掲げ、国

をあげての対策の強化が図られている。

本研究は、地域における実現可能性を考慮した 糖尿病性腎症重症化予防プログラムを開発、実際 の自治体保健事業として実走する中で課題を抽 出し、実施体制や事業評価の仕組みをつくること を目的としている。対象者の健康データを継続的 に取得する体制を整備することで、プログラム介 入が腎機能悪化防止、透析導入の減少に与える影 響について検討する。

平成27年度の先行研究班(代表:津下)は科学 的エビデンスに基づき、実現可能性を考慮した糖 尿病性腎症重症化予防プログラム(暫定版)を開 発した。自治体・医療保険者を中心として、医療 機関と連携しながら進めるものであり、医療機関 からのアプローチが困難であった未受診者・治療 中断者を医療へつなげること、さらには自治体と 医療機関との連携により通院中患者が食事療法 等日常生活における実践的指導(保健指導)を受 け、腎機能の悪化を防止する仕組みの構築を目的 とした。 

  図表1:研究の流れ 

(3)

平成28年度からの本研究班は、全国90自治体 の協力により実証研究を開始した。研修会等を通 じ、プログラムの基本的考え方を確認、情報交換を 行いつつ、実現可能性の高い方法を模索した。進捗 管理・データ登録シート、運営マニュアルや保健指 導教材等の具体的ツールの提供、個別相談による支 援等を行った。 

今年度の研究班では、参加自治体を 96(91市 町村、5 広域連合)に増やして実証支援を継続す る。対象者の健診・レセプトデータを収集し、デ ータベースを作成、評価を試みた。市町村がデー タ収集しやすいよう、国保データベース(KDB)

の活用法についても検討した。ストラクチャー・

プロセス・アウトプット・アウトカムの各視点の 評価結果から見えてきた、保健事業の運営・評価 の課題や対象者の変化について分析する。2 年間 の研究のまとめとして、プログラム改訂に向けた 提言、普及のための方策を検討する(図表1)。   

B.研究方法 

1.糖尿病性腎症重症化予防プログラム運用のあ り方の検討 

  研究参加協力の得られた 96 自治体の実証支援 を行い、ストラクチャー、プロセス評価の視点か らプログラム実施上の課題を抽出、横展開をする 際に必要な運用のあり方について検討する。また、

保健指導者の資質向上や外部保健指導機関との 連携、地域資源の活用等の側面から運用のあり方 を検討する。 

 

2.糖尿病性腎症重症化予防プログラムの評価と その結果の考察 

研究参加協力の得られた 96 自治体より対象者 データを収集し、アウトプット、アウトカム評価 の視点から対象者ベースラインや1年後の変化 についての分析を行う。この 2 年間は参加自治体 の多くが新規事業として体制づくりや企画、実施 に取り組んだため、「各自治体が実施しやすいと ころから始める」という進め方をした。その結果

分析した対象者には偏りがあることには留意し つつ、今後全国へ横展開していく際に改善すべき 点を明らかにする。重症化予防というハイリスク アプローチであるが、「短期的に効果を出すため の対象者選定と方法」と「中長期的に効果を出す ための対象者選定と方法」を明確化していく必要 がある。自治体が達成したい目標とその時期を考 え、実現可能な計画や方法となっているかを検討 する。 

さらに、自治体が保有する健康情報(検査値・

問診・医療費・疾患名・薬剤名・介護・透析・保 健指導記録等)を活用して、各地域で事業評価で きるデータベース構築、PDCA を回した保健事業が 実現されるための事業評価システムのあり方に ついても検討する。 

 

3.プログラム改訂と普及のための方策の検討  平成28年3月に作成した現在の糖尿病性腎症 重症化予防プログラム(暫定版)は、自治体の実 情に合った方法でスタートを切れるよう、基本的 な考え方や事業の進め方、参考例等を表記し、概 括的な表現にとどめている。研究班の実証事業に より得られた知見を踏まえ、様式を修正する。さ らに、今後のプログラム普及のための円滑かつ効 果的なプログラム展開のための地域基盤体制に ついて検討した。

C.研究結果 

1.糖尿病性腎症重症化予防プログラム運用のあ り方の検討 

(1)96 自治体の実証支援と評価方法の検討    現行のプログラム「国保・広域連合における重 症化予防事業の進め方(例)」を具体的に項目建て し、チェックリスト化した進捗管理シートを作成 した。この進捗管理シートでは、地域における重 症化予防対象者の実態把握→庁内・医師会との連 携→計画書・マニュアル作成→事業実施→事業評 価→次年度に向けた修正という各段階について、

「未着手」「着手」「達成済」の進捗を管理するも

(4)

のである(栄口、津下)。 

研究班として 96 自治体の進捗を把握するため、

定期的に計 4 回回収した。進捗管理シートの分析 から、事業計画や事業実施は順調に進む一方で、

「医師会への相談・連携方策の決定」、「運営・保 健指導マニュアルの作成」、「事業評価」について は達成状況が低く、自治体による格差がみられた。 

担当者の人事異動により次年度への引き継ぎ が不十分で、事業が継続できないというケースも 少なくなかった。自治体において保健事業が個人 の力量任せになり、組織的なルール作りや人材育 成がなされない状況がみられた。逆に地域連携の 成果を上げている自治体は、核になる人材を中心 にチームが形成され、継続的に取り組みを進めて いた。人事異動が前提となっている行政が実施す る事業であるからこそ、組織的な体制やマニュア ル整備、人材育成が重要であることが浮き彫りと なった。 

進捗管理シートからみえた課題の解決法を検 討するため、ワークショップを開催した。参加自 治体に偏りはあったが、「他の自治体の取組みや 課題が共有できた」、「研究班員からの具体的アド バイスが得られた」、「短期・中長期的な評価につ いて理解が深まった」、「自信をもって進めていき たい」などの前向きな感想があがった。参加自治 体に行った「更なる展開に向けた体制づくりアン ケート」では、体制、連携については 6 割以上、

計画については8割以上ができていると回答した 一方、広域連合との連携や都道府県による支援に ついての達成率が低く、課題に残った。

(2)保健指導者のスキルアップや外部保健指導 機関との連携、地域資源の活用等 

  糖尿病未治療、中断者やコントロール不良患者 に対して、糖尿病性腎症の知識、継続受診の必要 性、生活習慣改善について説明し、対象者のアド ヒアランスを高めるためには、重症化予防事業を 担当する専門職の人材育成が重要である。佐野は、

「糖尿病療養指導の支援」をテーマとした研修会

において、指導項目への自信度と習得度(自記式)

を調査した結果、糖尿病療養指導の経験が少なく ても、保健指導基本技能の高い専門職は、職種に 限らず単回受講で、指導項目全般の習得度を高め る可能性を示唆した。森山は、県と大学が連携し た県全体の取組、外部の疾病管理事業者との連携 について先行 2 事例を検討した。それぞれの機関 の特徴を活かし役割を明確化して取組むことで、

ポピュレーションアプローチから腎症ステージ に応じたハイリスクアプローチまでの全体構造 を明らかにしていく重要性を示唆した。樺山は、

地域住民の糖尿病管理と社会参加の関係性につ いて分析し、地縁組織やボランティアなどの社会 参加がある高齢者の方が糖尿病管理状況が良く、

社会的側面を考慮した介入の必要性を示唆した。 

 

2.糖尿病性腎症重症化予防プログラムの評価と その結果の考察 

(1)96 自治体の実証支援と評価方法の検討 

(アウトプット・アウトカム評価の視点から) 

  国保等保険者が保有する健康情報を活用して、

プログラム対象者の抽出や事業評価を行うため、

研究班では事業評価シートとデータ登録シート を作成した。事業評価シートは、全体像を把握す るためのシートであり、病期や治療有無別の人数 を把握し、予算やマンパワーに応じて対象者の絞 り込みを行う際に活用される。データ登録シート は、プログラム参加者個人を登録し、抽出時から 介入、介入6か月間、1年後〜5年後まで追跡で きるように構成した。研修会等で活用の仕方を説 明し各自治体に配布、96自治体全体の事業評価を 行うために、各様式を定期的に収集した。

参加自治体によって登録人数に偏りがあるこ と、1年後(29年度)までのデータを収集したが、

追跡率が低い(平成30年1月末現在37.5%)こ とが課題にあがった。ベースラインの登録者数の 偏りについては、各自治体における本事業の位置 づけや予算、マンパワーが影響するが、本来の目 的である糖尿病性腎症による新規透析導入者の

(5)

抑制のために、介入すべき対象者を抽出できてい るかが、課題となった。追跡率の低さについては、

年度末にかけて健診受診者が増えることが予想 されるが、毎年健診を受けていない人がいるなど の問題も考えられ、プログラム介入後の対象者情 報をどう追跡するかが課題となった。また、今回 登録されたプログラム対象者は、健診から抽出さ れた糖尿病性腎症対象者がほとんどであるため、

マクロ的な視点から捉えると、健診を受けていな い人の中に潜在する糖尿病性腎症対象者を自治 体事業としてどのようにカバーするかも課題に 残った。

平成30年2月現在、91自治体より7,290人の ベースライン登録を得た。このうち、糖尿病性腎 症分析対象5,422例について、ベースラインや1 年後の変化を分析した(村本、津下)。ベースライ ン時の腎症病期の割合は、2 期以下 4,204 例

(77.54%)、3期1,168例(21.54%)、4期50例

(0.92%)であり、新規透析導入抑制に短期的に 影響する3・4期の対象者が少なく、2期以下の対 象者が多かった。後期高齢者への介入のあり方を 検討するため、75歳未満と75歳以上に分けた分 析も行った。75 歳以上では、75 歳未満と比べ、

ベースライン時の収縮期血圧が高く、eGFRが低 値、腎症3期以上の割合が高かった。

保健指導介入前後の変化を分析するため、ベー スラインと 29 年度健診の前後データの揃う 1,901 例(追跡率:37.82%)で分析を行った。全体では、

体重、BMI、収縮期血圧、拡張期血圧、HbA1c、TG、

LDL-Cが有意に低下、Cr、HDL-Cは有意に上昇 した。腎症2期以下から3期に移行した例は124 例、3期から2期以下に移行したのは157例であ った。75歳未満の方が、75歳以上に比べ有意な 変動がみられた。eGFR値を90以上、60以上90 未満、45以上60未満、30以上45未満、30未満 に5分類し、1年後の分類の移動をみたところ、

eGFRが上昇した例は18.89%、不変例は55.43%、

低下例は 25.68%であった。1 年という短期間に

よる腎機能評価は不適切である可能性があり、治

療薬の開始による低下や一時的にeGFRが上昇す るハイパーフィルトレーション等の影響も考慮 しつつ、経年変化を観察した上での解釈が重要で あることが示唆された。

これらの分析から、自治体が行う糖尿病性腎症 重症化予防プログラムにおいて、どのような対象 者を抽出し、保健指導介入することが望ましいか という検討をさらに深める必要がある。現在の糖 尿 病 性 腎 症 病 期 分 類 に お い て 、eGFR30 ml/min/1.73m2未満が第4期と判定されるが、日 本糖尿病学会や日本腎臓学会は、eGFR低下速度 の重要性を示し、かかりつけ医から専門医へ早い 段階で紹介することが望ましいと新たな紹介基 準を発表した。その中でeGFR45 ml/min/1.73m2 未満での早期紹介も示されている。今回研究班で の分析対象者の中にも、ベースライン時eGFR45 ml/min/1.73m2未満者は、260人(4.80%)、1年 でeGFRが5 ml/min/1.73m2以上低下している人 は556人(36.2%)抽出された。

(2)プログラム評価指標からの検討 

  糖尿病性腎症の重症化予防を図る上で、血糖コ ントロールの改善は重要であるが、糖尿病性腎症 の発症・進展の基盤として動脈硬化の存在が示唆 されることから、血圧、脂質、尿酸値等の管理も 重要である。岡村は、慢性腎臓病を有さない健康 人を対象に、血清尿酸値と腎機能の関連について 疫学的検討を行った結果、男女ともに尿酸値が高 いほど多変量調整eGFR値は有意に低いことを示 した。三浦は、NIPPON DATA2010に参加した 男 女 2,838 名 の う ち 、 腎 機 能 低 下 (eGFR60 ml/min/1.73m2未満)者は339名(11.9%)であ り、血圧、血糖、脂質管理の達成率は 20.7%、

93.2%、62.8%と、特に血圧管理達成率の低さを 示した。植木は、J-DOIT3において腎症1期ある いは2期の患者に対し、現行ガイドライン治療は 腎症発症・進展を強力に抑制し、現行ガイドライ ンより厳格な血糖・血圧・脂質コントロールによ りさらに有意に抑制することを示した。

(6)

これらから、本プログラムの保健指導介入効果 においても、各学会治療ガイドラインを参考に、

血糖以外にも血圧、脂質、尿酸値等の評価指標を 丁寧に追跡していく必要がある。健診だけでなく 医療機関データも含め、これらの指標を継続的に 取得できる仕組みづくりが課題となる。

3.プログラム改訂と普及のための方策の検討 

(1)プログラム改訂に向けた検討 

  1.の自治体における運用、2.のプログラム 評価方法の検討を通じて、この 2 年間で自治体に おける糖尿病性腎症重症化予防プログラムが進 んだこと、そして進んだことによって見えた課題 が多くあった。 

①順調に進む自治体がある一方で、縦割り組織や 人事異動等の行政ならではの実情から進捗が滞 る自治体も一部あった、 

②KDB 等の活用を推奨したが、自治体によっては 活用できないところもあった。評価を行うための データベース作成に手間と複雑さが生じ、対象者 追跡や事業評価体制が整っていない課題がある。 

③本プログラムにおいて優先すべき対象者(病期、

治療有無、検査値等の視点から)を明確化する必 要がある 

④糖尿病性腎症新規透析導入の抑制を目指すた めの短期、中長期の評価指標を明確に示すことが 必要である。 

⑤対象者の行動変容や医療機関連携を強化する ための研修会や人材育成の在り方、地域での体制 づくり支援の在り方の検討が課題として残され た。 

これらの課題を解決するための方策として、研 究班で行ってきたワークショップや自治体支援 の手法、各種ツール、分析結果は十分活用できる ものと思われる。プログラム改訂については、国 や重症化 WG、各学会、関係機関との連携により、

慎重に検討を進める必要があるが、本研究班とし て「プログラム改訂に向けた提言」をするにとど めた(考察参照:糖尿病性腎症重症化予防プログ

ラム改訂、標準化に向けた提言)。 

(2)プログラム普及のための方策の検討    プログラム普及のためには、各地域の行政と専 門家、かかりつけ医が連携した取り組みの推進が 不可欠である。都道府県単位での支援や糖尿病対 策推進会議との連携強化が欠かせない。各研究分 担者は、地域の腎臓病・糖尿病専門医等の立場か ら都道府県とともに、県版プログラムの策定や遂 行の支援、医師会や糖尿病対策推進会議等との連 携がとれる環境構築に携わった。日本糖尿病学会 では、市町村医師会すべてに本プログラムの担当 責任者を配置するため、登録を進めている。地域 の特性を踏まえたプログラム推進のために、都道 府県や保健所が各地域での連携体制を整えてい くことが重要である。

今年度は、糖尿病性腎症重症化予防をテーマに 各学会において、シンポジウムや演題発表が多く みられた。研究班においても各研究班員が学会や 研修会等で普及活動に努めた。研究参加自治体の 担当者に普及活動・発表について調査したところ

(平成29年12月時点)、全国あるいは地方学会 等での発表や研修会講師など多くの活動状況を 把握した。今年度の学会誌・雑誌等における論文、

学会等における発表について、Ⅳ.研究成果に関 連する資料一覧表にまとめた。今後は、都道府県 版糖尿病性腎症重症化予防プログラムの策定に 伴い、各都道府県単位の研修会がさらに増加する ことが予想される。地域の研修会講師より研究班 にスライド提供の要望が多く、コアスライドの提 供などの役割を果たしていくことが必要と考え ている。

D.考察 

  3(1)に記載した①〜⑤の課題に対して、今後 のプログラム普及に向けて考察した。 

① 取組みの格差 

重症化予防事業に初めて取り組む自治体向け の基本的なプログラムと、さらに自治体の目標に

(7)

合致した効果的なプログラムを目指すステップ アッププログラムに分けた提案をする。 

② 事業評価を行うためのシステム環境 

国保や広域連合、衛生、高齢部門等の担当者が 情報を共有できる環境整備が必要であり、KDB 等 の活用により対象者を切れ目なく追跡できるシ ステム環境が重要である。KDB の使用になれない 保健師も多いことから、都道府県連合会の支援や 自治体の情報管理担当者の協力が不可欠である。 

③ プログラム対象者の抽出基準と方法 

はじめて取組む自治体では、取り掛かりやすい 健診データを中心に対象者抽出を行うところが 多かった。国保の健診受診率 36.3%(平成 27 年 度)を考慮すると、健診未受診者にも糖尿病性腎 症対象者が潜在することが予想される。レセプト や過去の健診データ等も活用して包括的な事業 を考えることが重要である。 

腎症第 3 期、第 4 期の人に対してはまずは状況 確認と医療機関と連携した保健指導が重要であ る。これらの対象者では心血管イベント等の発症 も多いことから、保健指導におけるリスクマネジ メントも重要である。第 2 期では eGFR の低下速 度が速い人や 45 ml/min/1.73m2未満の人、網膜 症を発症している人等を優先すべきであると考 えられた。限られた予算やマンパワーの中で、ど の対象者に介入すべきか、戦略を練ることが重要 である。 

④ プログラム評価指標 

参加自治体から「重要な事業とは分かっている が、事業継続の必要性を伝えるための評価が十分 できていない」、「費用対効果を求められたとき、

どのような資料と説明をすべきか」という声を聞 く。糖尿病性腎症による新規透析導入の抑制を最 終目的とはするが、短期的に評価できる指標と中 長期的な評価指標を区別して示す必要がある。 

⑤ 研修会や人材育成 

未治療、中断、コントロール不良に至る原因は 様々であり、対象者の健康状態や生活背景を踏ま えたハイリスクアプローチを実施するには、保健

指導者のスキル向上も重要である。対象者の行動 変容を促すための関わり、かかりつけ医との連携 のもとで継続的に支援する能力を身につけるた めの研修会や支援体制の構築が望まれる。座学だ けでなく、実際の事例や事業を進める中で地域で の学習が進むことを期待したい。全国的な普及の ために、地域ごとの研修、情報共有、連携がとれ る体制づくりが重要である。 

  2 年間の研究活動より得られた知見を踏まえて、

標準的な糖尿病性腎症重症化予防プログラム(改 訂版)に向けた提言としてまとめを作成した。 

 

E.結論 

  糖尿病性腎症重症化予防事業において、事業目 的、対象者抽出法、指導内容と方法、評価(短期 的、長期的)の構造を各市町村で見直すことが必 要である。事業が根付かない理由として、行政の 人事異動や連携の難しさなどがあるが、これを解 決していくための組織的な対応の在り方や地域 資源としての人材活用など、多様な方策を検討し ていく必要がある。 

  2 年間の研究で得た知見をもとに、重症化予防 プログラム改訂のための提言をまとめた。 

 

F.健康危険情報    該当なし   

G.研究発表  1.論文発表 

1)津下一代:全国で進める糖尿病性腎症重症化予 防プログラム.Diabetes  Frontier.  2017. 

1(28).17‑29. 

2)津下一代、村本あき子:糖尿病性腎症重症化予 防プログラムの活用へ向けて〜研究班の立場から

〜.保健師ジャーナル.2017.73(1).17‑23. 

3)津下一代、松下まどか:糖尿病性腎症重症化予 防プログラム:全国の自治体で実施可能なプログ ラムの開発と効果検証の仕組み.カレントテラピ ー.2017.35(1)13‑18. 

(8)

4)津下一代:糖尿病腎症重症化予防プログラム.糖 尿病学.2017.121‑131. 

5)津下一代:地域連携で進める糖尿病腎症重症化 予防プログラム.Diabetes Journal.2017.45

(3).105‑110. 

6)津下一代:地域が連携して取り組む 糖尿病性 腎症重症化予防プログラム の概要.医学のあゆ み.2017.263(7).578‑584. 

7)津下一代.地域で進める重症化予防プログラム. 

腎と透析.84(2)310‑318. 2018.  

8)村本あき子、津下一代.糖尿病性腎症重症化予防

‐今後の展望.糖尿病診療マスター.2017, 15(12)

1012‑1018. 

9)栄口由香里、野村恵里、津下一代. 第Ⅳ部  保健 指導の実際  27. 保健指導の新たな取り組み.糖 尿病性腎症重症化予防プログラム.特定健診・特 定保健指導ガイド(仮)(印刷中)南山堂  10)Ueki K et al.: Effect of an intensified multifactorial

intervention on cardiovascular outcomes and mortality in type 2 diabetes (J-DOIT3): an open-label, randomised controlled trial. Lancet Diabetes Endocrinol 5:951-964, 2017. 

11) Kawaguchi H, Moriyama M, Hashimoto H. Does disease management for diabetes reduce medical expenditures? Evidence using a three-period difference-in-difference analysis. SSRN, posted 24 Feb 2018

https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_i d=3129202

12) 森山美知子,  加澤佳奈,  要田弥生.  糖尿病の 重症化予防施策とは何か:呉市における糖尿病 性腎症等重症化予防プラクティス.  34(5): 

471‑476: 2017. 

 

2.学会発表 

1)津下一代. 糖尿病性腎症重症化予防プログラム  研究班の進捗.  第 60 回日本糖尿病学会年次学術 集会シンポジウム. 2017 年 5 月(名古屋) 

2)植木浩二郎.J‑DOIT3.第 60 回日本糖尿病学会年

次学術集会シンポジウム  2017 5. 20 名古屋  3)近藤慶子, 門田 文, 平田 匠, 筒井秀代,高嶋直

敬, 喜多義邦, 大久保孝義, 岡村智教, 清原 裕,  上 島 弘 嗣 ,  岡 山   明 ,  三 浦 克 之 :  NIPPON DATA2010 Research Group, 国民代表集団における 腎機能低下者のリスク因子および生活習慣の状 況: NIPPON DATA2010: 第 52 回日本循環器病予防 学会学術集会, 2016 年 6 月 17‑18 日, 埼玉  4)栄口由香里、津下一代.  地域で進める糖尿病性

腎症重症化予防プログラム〜ねらい・現況と推進 のポイント〜. 地域で進める糖尿病性腎症重症化 予防プログラム〜ねらい・現況と推進のポイント

〜. 2017 年 9 月(佐賀) 

5)栄口由香里、杉浦洋介、新美満代、笹俣  有水子、

野村恵里、中村誉、松下まどか、村本あき子、津 下  一代. 糖尿病性腎症重症化予防プログラムの 開発と愛知県東浦町での実証事業.  第  31  回 東 海糖尿病治療研究会 糖尿病患者教育担当者セミ ナー. 2017 年 9 月(名古屋) 

6)津下一代.糖尿病性腎症重症化予防プログラムの 推進.第 55 回日本糖尿病学会九州地方会.シンポ ジウム3「糖尿病と社会の関わり」2017 年  (宮 崎) 

7)栄口由香里、野村  恵里、村本あき子、津下  一 代.  糖尿病性腎症重症化予防プログラム  96 実 証自治体の進捗管理.  第 76 回日本公衆衛生学会 総会. 2017 年 10 月(鹿児島) 

8)栄口由香里、野村恵里、村本あき子、津下一代. 

国保データベース(KDB)システムの活用.糖尿病 性腎症重症化予防プログラム開発のための研究事 業から. 第 76 回日本公衆衛生学会総会自由集会. 

2017 年 10 月(鹿児島) 

9)津下一代.糖尿病腎症研究会.地域で進める 「糖 尿病性腎症重症化予防プログラム」 〜プログラム のポイント・全国での進捗状況と評価.  2017 年 12 月(東京) 

10)久保佐智美、東山  綾、西田陽子、平田  匠、

岡村智教ほか. 非 CKD 集団における血清尿酸値と 腎機能との関連:神戸研究.  第 28 回日本疫学会

(9)

学術集会(福島、2018 年 2 月 3 日). 

11)津下一代.重症化予防ワーキングならびに 研究 班の取り組み.日本糖尿病学会主催第 52 回糖尿病 学の進歩.シンポジウム4.糖尿病性腎症重症化 予防の地域の取り組み.国際会議場.2018 年 3 月

(福岡) 

12)栄口由香里、津下一代. 糖尿病性腎症重症化予 防プログラムについて. 慢性腎臓病(CKD)シンポ ジウム. 2018 年 3 月(東京) 

13)  Sekiguchi T,Kamide K,Ikebe K,Kabayama M,

Arai Y,Ishizaki T,Gondo Y,Rakugi H  Association between Protein Intake and Change in Renal Function Among Japanese General Old Subjects.The 21ST IAGG World Congress of Gerontology & Geriatrics. 2017 723−27日 San Francisco, California, USA

14)関口敏彰,神出  計,池邉一典,龍野洋慶,樺 山  舞,杉本  研,新井康通,石崎達郎,権藤恭 之,樂木宏実  地域一般高齢者における腎機能維 持とたんぱく質摂取量との関連について―SONIC  study を用いた縦断研究―  第 59 回日本老年医学 会学術集会  2017 年 6 月 14〜16 日  名古屋   

H.知的財産権の出願・登録状況  1.特許取得 

該当なし  2.実用新案登録 

該当なし  3.その他 

該当なし   

                           

                         

   

               

参照

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