奈良教育大学学術リポジトリNEAR
へき地における幼児の認知および運動能力
著者 杉村 健
雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要
巻 14
ページ 119‑125
発行年 1978‑03‑25
その他のタイトル Cognitive and Motor Abilities of Nursery
School Children in Remote Mountain Areas
URL http://hdl.handle.net/10105/6403
へき地における幼児の認知および運動能力*
,事
杉 村 健
(心理学教室〕
へき地における児童・生徒の知能の実態を明らかにするために、中島(1954)は宮城、青森、
福島、岩手の4県のへき地に住む小学4,5,6年生と中学1,2,3年生に、新制田中A式第 一形式(言語性)と新制田中B式第一形式(非言語性)の知能検査を実施した。その結果、へき 地の児童・生徒は知能偏差値の全国平均(50)および仙台市の児童・生徒に比べてかなり低く、
非言語性検査の成績が言語性検査よりも優れる傾向があった。また、農村と漁村の間にはほとん ど差がなかった。江川(1957)は山形県のへき地(農村)と仙台市に住む小学5年生と中学1年 生に、上記の2種類の知能検査を実施し、へき地の児童・生徒は全体に劣っているが、特に言語 性検査で劣っており、都市との差は5年生よりも中学1年生で大きいことを示した。これに関連
して、大平(1962)は金沢市内と平野地帯の農村に住む中学1年生に、上記2種類の知能検査を 実施し、非言語性検査の成績では差がないが、言語性検査では都市が農村よりもよい成績を示す という結果を得た。同時に実施した田所式国語標準学力検査の結果でも、都市が農村より良い成 績を示したことから、農村の生徒で言語性知能が低いのは、国語の学力の低さによるものと考え た。さらに東江と大西(1964)は、関西と沖縄の小学校5年生に多種の知能検査を実施し、両地 域ともに農村では非言語性の成績が、都市では言語性の成績が良いことを見いだしてい糺以上 の諸結果から、へき地および農村における児童・生徒の知能検査の成績は、全国標準や都市に比 べて低く、そして、非言語性知能が言語性知能よりも優れていることが明らかであ糺
従来の研究では、小学校4年生以上の児童・生徒が対象であり、また、集団知能検査が用いら れてきた。本研究の目的は、幼児を対象にして個人検査を用いたときにも、同様な結果が得られ るかどうかを検討することである。従来の集団検査において言語性、非言語性といっても、その 内容は必ずしも明確ではなかったが、本研究では、査定される能力の内容が明確に規定されてい るマッカーシー認知能力診断検査(小田ほか、1977)が用いられた。この検査では、言語能力、
知覚一遂行能力、数量能力、一般認知能力、言己憶能力、および連動能力という6つの能力が査定 できるので、へき地における幼児の認知および運動能力の実態がより詳細にとらえられる。
方 法
読査対象 調査対象は、吉野郡大塔村立保育所および上北山村立保育所の男児39名、女児36
* Cognitive and Motor Abilities of Norsery S曲。oI Children in Remote Mo㎜mt8im Are8s
** T8koshl S凹gIm㎜m(Dep81・t㎜ent of Psycholo8y,N8m U皿werslty o{Ed凹。汕1011,NaI・8)
一119一
名であった。年令は3才6か月から6才7か月に分布し、平均5才2か月であった。
実施と採点 大塔保育所では1974年12月、上北山保育所では1977年9月に実施した。奈良教 育大学の心理学専攻生により、手引に従ってテストと採点が行われた。
検査の内容 マッカーシー認知能力診断検査は、2才6か月から8才6か月の子どもに適用 できる個人検査で、図1に示すように、18の成分テストからなり、次の6つの尺度を構成してい
る。
言語知覚一遂行数量一般認知記憶 連動 1、積木
P G C 2.パズル解き
P C C 3.絵の言己憶
V G C Me㎜
4.ことばの知識 V 5一数の問題 Q
6.連続タッピング P Me㎜
7.ことばの記憶I,II V Mem 8.左右の方向 P
9.脚の整合 Mot 10.腕の整合 Mot 11.動作の模倣 Mof 12.図形の模写 P Mot 13.子ども画 P Mot 14.数の記憶I,II Mom 15.ことばの流暢さ V
16.数え方・分け方 Q V
17.反対類推 P 18.概念のグルーピング
図1 マッカーシー認知能力診断検査の構成
(1)言語尺度(V) 言語による自己表現の能力と言語的概念の成熱度を査定する。短期記 憶、長期記憶、拡散的思考、演繹的思考などの心的過程を打診する多種の項目に対して、一語の 返事や句、文などによる返答を求める。
(2)知覚一遂行尺度(P)一言語不要でゲームのような作業からなり、用具の操作を通して 推理能力を査定する。多種の空間的、視覚的、概念的作業において、模倣、論理的分類および視 覚的体制化の技能をみることができる。この尺度に属するテストでは、検査者が話す教示を理解 できる言語能力があればよい。
(3)数量尺度(Q)一数を扱う能力と数量に関することばの知識を査定する。テストの内容 は子ともの興味と密接に関係していて、との項目も単一の計算で解決でき、違算不要て1ある。ま た、計算技能の上限を調べるのではなく、数への興味と関係した数への適合性を査定する。
(4)一般認知尺度(G C)一V,P,Qの3つの尺度に含まれる15の成分テストから構成さ
れている。一般認知指数(G C I)は、認知能力の相対的な水準を示すもので、大ざっぱに言え
ばI Qに相当する。 I Qという術語を用いないのは、I Qという概念がまちがって解釈されたり、
見当ちがいの内容を連想しがちだからである。GC Iは不変のものではなく、また遺伝的要因あ るいは環境的要因だけを反映しているものでもない。それは、これまでに学習したものを統合し たり、適用する能力である。
(5)記憶尺度(M e m)一視覚的、聴覚的な刺激を呈示して、その短期記憶を査定す糺絵、
楽音、ことば、数などを呈示して、言語反応と非言語反応を求めることにより、記憶能力を広範 囲に評価することができる。ことばの記憶は全般的な言語技能に、数の記憶は数を処理する能力 に関係するというように、記憶作業の成績は記憶すべき内容を処理する能力を反映している。
(6)運動尺度(M ot) 脚の整合、腕の整合、動作の模倣では大まかな運動能力を測定し、
図形の模写と子ども画は、手の協応と指の器用さのような細かい運動の協応を査定する。後者の 2つのテストには認知的成分が含まれているので、P尺度とGC尺度にも属している。運動能力 の発達は低年令の場合により重要であり、子どもの発達を理解するのに不可欠である。一
緒 果
本検査の結果は6つの尺度指数で示される。すなわち、各尺度について成分テストの素点を合 計し、それに基づいて生活年齢に応じた尺度指数を求めることができる。GC Iは平均100、標 準偏差16とし、残りの5つの尺度指数は平均50、標準偏差10とするように換算される(図2参照)。
前者はW㏄hslerの知能検査で用いられている偏差I Qと似たものであり、後者は学力検査や知 能検査でよく用いられている偏差値である。但し、偏差I Qの標準偏差は15である。
全体および年令別の分析 表1は、調査対象全体および年長児と年少児について、尺度指数 の平均と標準偏差を示したものである。ここでは、生活年令が高い方から20名(6:7−5:11、
平均6:2)を年長児とし、低い方から20名(3:6〜4:6、平均4:1)を年少児とした。
全員の結果をプロフィールに描いたものが図2である。
表1 全員および年長児、年少児の結果
言語 知覚一遂行 数量 一般認知 記憶 運動 X 45.1**
全 員(75名)
S D 7.O X 44,9**
年長児(20名)
S D 6.8 X 45.9**
年少児(20名)
S D 5.2
48,3 43,8ホ* 91.3箏* 42.5ホ* 49.9 9.4 8,4 13.3 8.5 9.2
49,5 42.3讐ホ 90.O*ホ 44,0ホ* 52.0 9.5 9,3 15.4 9,2 10.0
48,4 45.5** 93.9ホ 42.4** 46.l 10.2 7,8 11.1 6.0 8.5
(注) 50または100(一般認知のみ)との有意差 **P〈.01、ホP〈.05
一121一
全員の結果について、尺度指数の平均値であ る50あるい100(G C Iのみ)との差が有意で あるかどうかを竈検定を用いて調べたところ、
言語(!=6.02)、数量(一=6.35)、一般認 知(参=5.63)、および記憶(!=7.59)の4 つの尺度において、いずれも1%水準で有意差 があり、知覚一遂行(t=1.56)と運動(一=
O.09)の2つの尺度では有意差がなかった。す なわち、言語を必要としない知覚一運動能力と 運動能力の成績は標準化標本とほぼ同じである が、その他の能力では有意に劣っている。年長 児と年少児に分けた場合も全く同じ結果であっ た。なお、年長児と年少児で最も差が大きい運 動尺度について有意差検定をしたところ、5%
の有意水準に僅かに達しなかった(!=1.96,
d∫=38)。
一般認知尺度を除いた5つの尺度の間に有意
ミ吾 知覚一遂行数 o
一 一 一
一0一一一一一70一一一一一70一一一I
60一一…60一一 ..60一.一
50一一一一一50一一一一一50一一__
40一・
30一一
22一
一般認知 記 憶
150= ={十1SD〕
= 一8 − 140一≡ 一
= 十1So〕70一一一 130≒ =
120… :
一__≡≡{十1so〕60一一一
110…
100… ・・n〕50一 一
90
−40=一■一140=1一一一 一…{一1s0〕40一 一 二 = ●0こ :
二 = 一0j =
・30=一…30=………1一,sD〕30=一一一
= = 60≒ =
22− 22一 22一
…HS0〕
50j
図2 へき地幼児のプロフィール
連 動
78_
・一〇一
一60一
40−
30−
22一
差があるかどうかを調べるために、尺度×被験者の分散分析を行った。全員についてはF(4,296)
=16.95,P〈.01であったので、誤差項(42.19)を用いて各尺度間の有意差検定を行った。その 結果、運動尺度は言語尺度(一=4.53)、数量尺度( =5.75)および記憶尺度(一=6.98)より
も1%水準で良い成績を示し、知覚一遂行尺度も同様に、言語尺度(一=3.02)、数量尺度(一
=4.25)および記憶尺度(1=5.47)よりも1%水準で良かった。また、言語尺度は記憶尺度よ りも5%水準で良い成績を示した(f=2.45)。年長児ではF(4,76〕=8.22,P<.01で有意で あり、誤差項(40.02)を用いた検定の結果、運動尺度は言語尺度( =3,55)、数量尺度(一=
4.85〕および記憶尺度(一=4.00)よりも1%水準で良い成績を示し、知覚一遂行尺度は言語尺 度(,=2・30〕と記憶尺度(!=2.75)より5%水準で、数量尺度(一=3.60)よりも1%水準 で良かった。年少児についてはF(4,76)=2.17で全体の尺度問の差は有意にならなかったが、
一番差が大きい知覚一遂行尺度と記憶尺度の差は1%水準で有意であった(t=2.92、誤差項42
.76)。
知能水準別の分析 5つの尺度に関する分析で得られた結果は、へき地の幼児の一般認知能 力が低いことによるのかもしれない。そこで、G C Iが110以上の者(上位群)、95から104の者
(中位群〕および89以下の者(下位群)に分けて分析してみた。各群に属する人数は上位群から 順に6名、23名、32名であった。表2は、G C I別に6つの尺度指数についての平均と標準偏差 を示し、平均を図示したものが図3である。G C Iの平均でみると、上位群と中位群の差は18.7、
中位群と下位群の差は19,8であり、各群の幼児が一般認知能力において全く異なっていることが
わかる。
表2 GCI別の結果
G C I 言語 知覚一遂行 数量 一般認知 記憶 運動
上 位(6名)
x
S D
56,8 62,7 57.0 117,5 56,0 57.0 4.2 6.0 4.7 4.4 7.7 7,9
中 位(23名) X49,450,846,798,844,650,4
SD 5.2 5.7 6.1 3.2 5.1 6.9
下 位(32名) X40,041,738.1
SD 4.4 8.3 6.5
79,0 37,1 46.2 7.3 6,7 10,5
知能水準によって能力の型が異なるかどうか を調べるために、一般認知尺度を除く5つの尺 度について、尺度×被験者の分散分析を各群ご とについて行った。上位群はF(4,20)=O.88 で有意差がなく、中位群はF(4,88)=4.34、
下位群はF(4,124)=8,85でともに1%水準で 有意差があった。中位群で誤差項(36.90)を用 いた検定の結果、記憶尺度は言語尺度(!:2.
68)よりも5%水準で、知覚一遂行尺度(一≡
3.46)と運動尺度(一=3.24)よりも1%水準 で有意に悪い成績を示し、数量尺度は知覚一遂 行尺度(一=2.29)と運動尺度(一=2.07)よ
りも5%水準で悪かった。また、50との差は数 量尺度(!=2.54)は5%水準で、記憶尺度
(一=4.97)では1%水準で有意であった。下 位群で誤差項(46.73)を用いた検定の結果、
運動尺度が言語尺度(一=3.63)、数量尺度
言 語 知覚一遂行 数 場 一般認知 記 憶 運 動
_ _
70一一一一一一0一一
60 c/0…一
50{一5=
40 一一40一一一
30一一一一・30一一一
22− 22■
図3
一
・一一
V0一・
0一一一
一一
T0=一一
0一一一
一一
R0一一一
22一
= 150= 十3SO〕
・一… 一 一 140= _ _
・II
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