三室小学校いじめ事件判例における「在るべき指導」
学校内児童・生徒間事故判例における生徒指導に関する考察 1 加 藤 一 佳
目 次 はじめに
三室小学校いじめ事件判例における「在るべき指導」
1 原告の主張
(1)いじめ受傷事故の発生に至る経緯 (2)学校側の教育的配慮の怠り 2 学校側の反論
(1)安全保証義務の範囲,程度,限界 (2)児童の安全管理・指導の方針 (3)学級担任の安全管理・指導 (4)事故発生を予見できる事情の不在 3 裁判官の判断理由
(1)安全保証義務の内容
(2)教育的配慮の欠如一安全保証義務の解怠 (3)事故防止の具体的な「在るべき指導」
(4)小学四年生男子の性格
はじめに
(1)前回の概要
いじめ自殺事件判例に示された生徒指導を通して,教師の在るべき指導の方法や態度に ついて考察するにあたり,前回においても,「いわき市立中学校いじめ自殺事件」判例を考 察対象の資料としたのは,問題行動に対する教師の指導様態を現場における教師の視点に 合わせて分析整理することによって,問題点が浮き彫りになるだろうことを考察方法とし て試みたものである。
前回論文の中の「学校が認識した問題行動と対応措置の概要」に示したように,事件被 害生徒の行動について,問題行動として指導する教員の視点に合わせて,学年別,時系列 に整理作業を行い,これに基づいて被害生徒の問題行動に対する学校および教師の具体的 な指導方法および実態といじめ認識についての考察上の方法論的試みをした。
さらに,この実態を一般論としての生徒指導指針に照合した結果,判例は教師の指導の 方法や態度の実際について,問題行動に対する対処を不作為の過失と判断し,指導技術の 未熟や態度の不徹底さへの疑念だけでなく,教師個々に対する教師資質の問い直しや学校
という組織的教育態度への不信が表明されてもいるとした。
(2)本論文のねらい
これまで,「いわき市立中学校いじめ自殺事件」判例における生徒指導を通して裁判官が 示す教師の在り方を考察してきたが,この事件が起きる1少し前の昭和60年4月22日に,浦 和市立三室小学校いじめ事件の判決があった。いじめ事件に関する指導方法や態度につい て教師の義務解怠として過失を認めた「いわき市立中学校いじめ自殺事件」直近の判例で あり,教師の安全保持義務の内容を示したことも特徴的であるとともに,児童問の事故の 背景にあった「いじめ」にも着目して,教師の注意義務を論じている点にも意義があると
される。2本論文は,三室小学校いじめ事件判例における児童生徒間の学校事故に関する「在 るべき指導」について考察する。
(3)本論文の範囲
学校設置市及び加害児童の両親に対する損害賠償請求事件であるが,本論文は教師の在 るべき指導について考察すことを目的としたので,加害児童の両親については省略する。3 判例中に校長及び教諭とあるとき,ほとんどの場合,学校側と言い換えた。
三室小学校いじめ事件判例における「在るべき指導」
判例時報1159号および学校事故・学生処分判例集(ぎょうせい)記載判例文を資料とし て考察を進める。
概 要
原告の女子児童は,浦和市の設置する三室小学校四年生に在学していた,昭和54年11月 1日の放課後,帰宅しようと教室から廊下に出たところ,一人の男子児童から足元に滑り 込みをかけられ転倒させられたが立ち上がったところを,また別の男子児童から同じよう な悪戯をされて廊下に転倒し,前歯を折るという傷害を負った。
原告は,昭和54年1月,同校に転校して来て以来,学校でたびたび蹴る,殴る,つねる などの悪戯を受けたため,何度も担任教諭に訴えたが,教諭は事態を放置し,何らの教育 的措置も採らなかったとし,また,二人の男子児童の両親に対しては,子に対する監督義 務を怠ったとして,被告市および二人の男子児童の両親に対し損害賠償を請求した。
判決は,担任教諭は,原告が同組の男子児童より集中的に悪戯を受けていた状況を認識 しており,また,母親から善処を求められていたにもかかわらず,担任教師は,かかる事 態を解消するため,いじめの真因を解明し,抜本的,かつ徹底した対策をとらず,この対 策を講ずべき義務を僻怠した過失があるとした。担任教師のこの義務違背と本件事故との 間には相当因果関係があるとし,学校設置者である浦和市による損害賠償責任を認めた。
1 原告の主張
(1)いじめ受傷事故の発生に至る経緯4
(判決理由の中の記事から一部を補って記す。)
① 三年生の三学期
昭和54年1月25日 原告女子児童が三室小学校に転入
男子児童のかなりの数が,女子児童に対しふざけの域を越える暴力を加える実情,
原告は,受けた暴行被害を母親に訴えていた。
母親は,(小学校三年生程度の児童にはまだ幼稚さが残っているのが通常と考え,)特に 学校側に申告しなかった。
② 四年生一学期
昭和54年4月 こうした傾向は改善されず,
4月中旬
原告は,暴力を振るう男子児童達への対応ができないことから精神的苦痛が高まり,自 家中毒症状を呈して,登校拒否の挙に出,約一週間欠席する事態になった。
母親は,担任教諭に対し口頭で再三にわたり,原告の暴行被害を告知した。
5月中旬
母親は,担任教諭の家庭訪問の際に,担任教諭に事実を訴えて注意を喚起した。
③ 四年生二学期
原告は,担任の発案により四年二学期から組の全員が作成するようになった「生活反省 表」に,殆ど毎日あるいは毎週のごとく暴行被害の事実を書き続けた。
9月28日
母親は,学校と家庭との通信手段である「連絡帳」に,詳細に理を尽くして,原告が頻 繁に暴行を受けている事態に対する学校側の注意を喚起し,教育的措置を求めた。
④事故当日
11月1日午後三時過ぎころ,四年六組の教室で,
原告は,女児級友二人,担任教諭と翌日に予定されていた写生大会の打ち合わせを終え た後,級友二人とそろって,帰宅しょうと教室から廊下へ出る。途中,級友の一 人が女子便所に入ったので,他の級友と廊下の壁際に向かい立ち話をしながら待 っていた。
秋夫(加害児童)が,原告の背後から原告の足元をめがけて滑り込みをかけてきた。
原告は,転倒したが,怪我はなかった。原告は,起き上がって女子用便所入り口付近に 移動して再び級友と立ち話をしていた。
夏夫(加害児童)が,原告の背後から原告めがけて,秋夫が行ったと同様の滑り込みを かけてきたため,原告は,前向きに転倒し,床面に顔面を強打し傷害を受けた。
男子児童が女子児童の足元をめがけて滑り込みをかける,いわゆる「ズッコケ」と称す るふざけが盛んに行われていた実情を原告は風潮という言葉で表現している。
転校時に受けた「ズッコケ」を原告から訴えられた母親は,小学校三年生程度の児童に はまだ幼稚さが残っているのが通常と考え,学校に申告しなかった。しかし,四年生の四 月に,原告は自家中毒症状を呈して,一週間登校拒否になったことは,四年生になっても 執拗な攻撃を受け続けて,深刻な状態になっていることに母親は気付き,担任教諭に再三
にわたり訴えて改善を要望する。
原告が事態を訴え,不登校にもなる状況に至って,事故の防止を願い,母親が学校の安 全保証義務を請求することは,保護者として当然の措置であり情愛であろう。これに対し て,担任教諭は,男子児童が女子児童に対し実力に訴える行動をとることは,児童の成長 過程においてある程度不可避的な現象と把えていた,という。12
クラスの男子児童の「ズッコケ」を風潮として認識していた担任教諭は,無防備に立っ ている女子児童の足元を目がけて滑り込み,転倒させることを目論む「ズッコケ」の危険 性に対して具体的な対応を採っておらず,また,母親から再三改善策を直接要求されてい たにもかかわらず,具体的な改善が行われていなかった。
(2)学校側の教育的配慮の怠り。
①担任教諭又は校長は,児童の「ズッコケ」の風潮などによる「いじめ」を直接感 得していたにもかかわらず,教育専門家として有効かっ適切な措置を講じなかった。
②担任教諭は,母親の再三にわたる口頭の告知に対して,「言いつけられる方が迷惑 するから言うな」と答えて,被害者側を押さえつけ,事態を放置した。
③事故当日の放課後は,翌日の写生大会を控えて児童が開放的な気分になることが 通常であるうえ,従前から原告に暴行を働く児童がいたのであるから,担任教諭は,
事故が起こりうることを予見することは可能であり,事故の未然防止のため,問題 児童が下校のため,校門を出るまで監視し,又は原告の周辺にいないことを確認し たうえで,職員室に戻るべきであったが,そうした注意を怠った。
「ズッコケ」の風潮を感得しておれば,その危険性を認識して,有効かつ適切な措置を 講ずることが教育専門家であろう,と考えるのが教師や学校に対する一般的な信頼である。
その上,この場合は,教諭は事故防止の具体的方法として,問題児童が校門を出るまで監 視することが安全保証義務であるとするのである。
2 学校側の反論5
学校側は,児童の生命・身体・健康についての安全保証義務を負うことは,学校教育法 その他の教育関係諸法に照らして明らかであるとするが,その義務の性質について次のよ うに限定する。
(1)安全保証義務の範囲,程度,限界。
第一,その義務の範囲は,学校内における生徒の全生活関係にわたるものではなく,
学校における教育活動およびこれと密接不離の関係にある生活関係に限られ,正規のも のである限り含まれる。
第二,その義務の程度は,通常の能力を有する校長および担任教諭が可能な限りの注 意を払えば,その義務を尽くしたことになる。
第三,事故が,学校生活において通常生ずることが予見されうる場合に限り義務を負 うのであるから,予見可能性のない事故については,義務違反はない。
(2)児童の安全管理・指導の方針。
このことについて,三室小において,次のように最善の努力を払っていたとする。
第一,児童の安全のための点検
① 定期点検各学期の開始時,安全点検表にしたがって行う。
②毎月10日を安全の日と定め,児童に危険について認識をもたせる。
③ 臨時点検 台風や地震等の災害時に行う。
④施設の危険個所の調査
⑤体育各部による運動道具・施設等の安全点検 第二,児童の安全に関する指導
①毎週第一及び第三の月曜日朝会時に,校長又は生活指導部教諭の訓話 ②毎週第一及び第三木曜日の児童集会時に,係りから注意を喚起 ③安全部・体育部を中心に,校庭での安全対策をたて注意を喚起 第三,児童の安全な遊び場の確保
①安全で楽しい学校生活を送るよう計画 ② 中間休み中における教員の管理指導分担
第四,昭和54年6月11日付で,安全部が「学校における管理と指導」と題する文書を 作成・配布し,その具体的実施に努めた。各教師に対し,その徹底に努めた。
(3)担任学級の安全管理・指導。
担任教諭は,学級指導の目標を,「好ましい人間関係を育て,児童の心身の健康,安全 保持増進や健康な生活態度を育てる」ことにおき,四年六組の安全管理・指導に次の如
く万全を尽くした,とする。
具体的な指導方法は,
①毎朝15分,帰り15分必ず指導を行い,朝は一日の学校生活を円滑に進めるため の話し合い,帰りは帰校途中及び帰校後の注意を行う。
② 「四学年の指導計画」に従って,その具体的実施にあたってきた。
③各月,各週毎に学級生活上の指導目標を定め,月曜日には当該週の指導目標に ついて児童全員に説明し,週末には反省会を行って,生活指導に万全を期した。
(4)事故発生を予見できる事情の不在。
本件事故の発生の予見は,次のように客観的にも存在しなかった,とする。
①小学校四年生は,相当程度の判断能力を有し,危険回避能力も備えている。
②全教職員をあげて安全管理,安全指導のための努力をつづけている。
③四年六組には,いじめっ子グループや理由もなく他の児童にいたずらをしたり 暴行を加えるような児童はいなかった。
④担任教諭が,教室内の居残り児童が全員退出したことを確認して,職員室に戻 った。
原告が事故の原因と主張する学校側の安全保証義務の怠りについて,学校側は,安全保 証義務の範囲,程度,限界を挙げて反論する。
学校における正規の教育活動及びこれと密接不離の関係にあることを義務の範囲とし,
程度とは,教育活動として可能な限りの注意を払えばよいことであり,事故発生の予見が 可能である場合に限られる。
このような安全保証義務の性質を伴って,学校側は同小の安全管理・指導の方針のもと に最善の努力を払い,加えて,担任教諭の指導目標や安全管理・指導の方法について,具 体的に説明し,万全を尽くした,とする。
さらに,小学校四年生の判断能力6は,危険回避能力を備えており,学校にはいじめっ子 グループや理由もなく他の児童にいたずらをしたり暴行を加えるような児童は居らず,担 任教諭は教室内に児童が残っていないことを確認したように,学校側は安全管理に万全を 尽くした上で,客観的にも,事故発生を予見させる事情は存在しなかったと反論する。
3 裁判官の判断理由7
原告が主張する学校側の過失責任を,裁判官は次の理由によって認めた。
(1)安全保証義務の内容
i 集団生活を営んでいくうえに必要な人格教育 ii 児童間の事故防止に必要な教育を行う義務
とくに児童と日常接触する学級担任教諭の指導義務は,iiについて,次のような内容 に留意して,事態発生を未然に防止する万全の措置を講ずるべき義務を負う。
① 一般的,抽象的な注意や指導
② 児童一人一人の性格や素行の観察
③学級における集団生活の状況を日頃からの綿密な観察
④特に他の児童に対し危害を加えるおそれのある児童,他の児童から危害を加えられ るおそれのある児童については,その行動にきめ細かな注意
iの人格教育については,下記の(4)①②③によって説明される。上記ii①の注意や指導 は,単なる一般的,抽象的なものであって,日頃児童と接触が密なる学級担任教諭におい て,児童個々の性格や素行,学級の日頃の状況を綿密に観察できるのであり,教育専門家
として行わなければならない,との意思が含まれる。
(2)教育的配慮の欠如一安全保証義務の解怠。
裁判官は,原告が学校側の教育的配慮の欠如として主張した次の事実を上記(1)に照らし て義務違背と認定し,それらと本件事故の間に相当の因果関係があるとして,担任教諭の 職務遂行に過失があったとする。
←)原告は,小三の三学期に三室小に転校直後から,同じ組の男子児童から暴行を受 け,四学年に進級すると一層頻繁に暴行被害を受けるようになった。この為,同四月に母 親は担任教諭に対し,原告が度々暴行を受けている事実を告知して善処方を求め,五月の 教諭の家庭訪問の際にも訴えた。
(二)担任教諭は,四年六組では,男子児童が女子児童に対し,暴行を加えている実状 は認識していたが,児童の成長過程においてある程度不可避的な現象と把えていた。
日 担任教諭は,同9月から毎日児童に,その日の出来事を「生活反省表」に記載さ せ,週に一度は家庭に持ち帰らせて,学校と家庭との連絡を取ることができるように計ら った。原告は,ほぼ毎週のように,暴行を受けたことを記載し,また母親も暴行被害の事 実を指摘して,教諭の善処を求めた。
四母親は,再三教諭に対し善処を求めたにもかかわらず,原告の暴行被害が減少し なかったことから,9月28日学校と家庭との通信手段である「連絡帳」に,原告の暴行を 受けていることを指摘し,再度,教諭に対し,善処方を強く求める旨を記載した。
国 教諭は,原告の生活反省表を読み,男子児童の乱暴な振る舞いが目立ち,原告ら の女子児童に攻撃が集中していることを認識したことから,暴力を振るった児童を教壇の 前に呼びだして注意を与え,また,反省会を開いて,暴行被害を受けた児童にその旨報告 させ,自ら加害者を軽く戒めたり,児童らに話し合いをさせたほか,加害者の児童の父母 に生活反省表などを用いて連絡したりしていたが,悪戯や暴行は一向に終息しなかった。
因 「ズッコケ」は,昭和54年当時の三室小四年六組では男子児童により頻繁に繰り 返されていた。
(3)事故防止の具体的な「在るべき指導」
学校側は,学校における教育活動及びこれと密接不利な関係にある場合,安全管理・指 導に万全を尽くしたとするが,裁判官はその注意や指導が単に一般的,抽象的ものであっ たとして,事故防止の抜本的,徹底的な「在るべき指導」について次のように具体的に教 示する。
手順および方法
(→ いじめ事態の深刻さの認識 (:⇒ いじめの真因解明
①児童による集団討論
② いじめっ子及び原告との個別面接 C三)いじめの原因の除去と事故防止 ①家庭と協力する
②暴行又は悪戯からも不測の事故が起こりうることをくり返し真剣に説く ③原告に対する暴行を止めるよう厳重に説諭する
④ 「ズッコケ」の危険性を説明して,これを止めるよう厳重に注意する8
担任教諭は,原告が受けている事態を認識し,母親からの善処要望を受けて2(3)および 3(2>日四国のように担任学級の安全管理・指導に万全を尽くしていたとすることに対して,
裁判官はそれらは単なる一般的指導であり,また,漫然とした注意に終わり,抜本的,か つ徹底した指導措置として挙げた3(1)および(3)を講ぜず「いじめ」を改善又は防止できな かったので,教諭は,義務を解怠した過失がある,と判決した。しかし,学校側が2②に 挙げた学校全体としての安全管理・指導には殆ど触れず,事故原因検証を3(2)のように担 任教諭の指導の在り方に終始している。
さらに,学校側が,2(4)①に挙げているように,小学校四年生の判断能力には危険回避 能力も備えているとの認識によって,事故発生を予測できない理由の一つに挙げているこ
とに対して,裁判官は一般論としての判断を次のように示す。
(4)小学四年生男子の性格 ① 人格の陶冶が十全でない
②他人に対する愛情や思いやりの精神が未成熟 ③ 自己統制力も身についていない
④他と付和雷同し易い
その結果,
⑤弱者,とくに女子児童に対する「いじめ」に走り易い ⑥ その「いじめ」を増強させる傾向がある
⑦特定の児童に対する「いじめ」が集団化する
これらを道理とし,さらに,見易い道理である,と言う。9
裁判官は,小学四年生男子の未成熟性が集団化によって衝動を増幅させる性質は,いず れは「いじめ」事故を生ずることになるであろうことを予測できないはずがないとして,
教育専門家であるべき教諭の認識の甘さを強く戒めて,上記の性格についての認識を一般 論と言い,見易い道理さえと述べていることは,人格教育を重要な職務とする教育専門家
としての被告担任教諭の基本的自覚を問い質している。
児童間の事故防止に必要な教育を含む安全保証義務の遂行,いわゆる児童の安全に対す る教育的配慮を,被告担任教諭が教育活動に密接不利な関係に限っていても尽くして居れ ば,いじめは終息又は改善されえたであろうと推認するに難くないと,裁判官は判断する。
被告担任教諭に安全保証義務の僻怠として過失があったと判断されたのであるが,同時 に,原告は,被告市が教員に対しても,教育学研究の成果に基づき科学的に教導する方法 について指導・助言をなし,充分な研修の機会を設けて教育的施策を実施すべき義務があ るとしている。10
この判例について,市川須美子氏は,「いじめ」を根絶しきれなかった学校側の責任を認 めた事例として注目する。「いじめ」に対応する学校側の教育姿勢を鋭く問う市川氏は,「い じめ」による事故の特質として,「「いじめ」は,学校生活全般に及んでいるのが通常であ り,教師は,生活活動(人間教育)をもその職務内容とし,……「いじめ」による事故は,
教育活動内在的な性格(「教育活動から生じた事故」性)を有し」ているので,「教師・学 校側の教育専門的安全義務が鋭く問われることになる。」と,「いじめ」による事故は突発 的・偶発的なものではなく,教育活動内在的であるとする観点から,「本判決が,学校生活 における「いじめ」を防止する教師の高度の安全義務を認めたことは,「いじめ」の教育活 動関連性を正当に考慮した解釈」と評価する。11
しかし,このような三室小学校いじめ事件判例の意義は,学校教育における生徒指導に 生されることなきが如くにその後の「いじめ自殺事件」が過酷になって行く。
昭和60年度をピークとしていじめ事件件数は,沈静化にあると行政は認識していたが,
平成6年度において再び増加に転じたので,その根絶を目標に全教職員の一致協力体制の 確立を強調した。13しかし,減少傾向であっても,ますます過酷になるその人格破壊的な現 象に晒されている今日の学校教育は,生徒指導の根本的な在り方が問い糺されている。
[引用資料]
1 昭和60年9月25日自殺,平成2年12月26日判決 2 判例時報1159号,p69
3 同上本判決を「いたずら型」事故について学校側の責任を肯定する事例として意義がある,
としている。
4 三室小学校いじめ事件判例 理由二 5 同上 事実 第二 二
6 判例タイムス501号p47学校事故をめぐる法律問題 鍋山著「今日の児童生徒に対する保護 監督義務の内容・程度は,年齢の低いほど,教育活動自体に内在する危険が大きいものほど,
より高度・広範囲の注意義務が要請される。」
7 同上 理由 三 8 同上 理由 三 3 9 同上 理由 三 3
10 同上 事実 第ニ ー 3 (−X1)ロ
11法学教室59号(1985,8)小学校での「いじめ」による事故一三室小学校事件 市川著 p123
12理由三20
13 いじめ自殺事件判例にみる生徒指導に関する考察 拙稿 明星大学教育学研究紀要第12号 p86〜97