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発達障害傾向を有する人の自己理解促進のために

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Academic year: 2021

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【岩本論文へのコメント】

発達障害傾向を有する人の自己理解促進のために

山 科   満

 発達障害傾向にある人の支援において「自己理 解」の促進が核心的なポイントであるとの見解に 基づき、メンタライジングの重要性を指摘した上 で、自己理解促進に資する介入プログラム作成を 目指して文献研究から始める、という趣旨の論文 である。

 検討した文献は幅広く

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本に及び、介入方法 を確立していくための仮説生成への手がかりを掴 む役割をよく果たしていると言える。今後の著者 の研究が発展されることを強く期待させる内容と なっている。

 問題設定に至る論旨は明瞭である。まずは発達 障害傾向を有する人の就労場面における

2

次障害 を防止するためには、自己理解の促進が鍵となる ことを、先行研究に基づいて指摘している。次に、

自己とは何かをダマシオから説き始め、発達障害 傾向の人の自己の発達プロセスが定型発達と異な り、「人の内的な情動や心に関する記憶の積み重 ねが圧倒的に少ないまま」自己概念が形成されて いることを押さえた。それを踏まえてメンタライ ジングすなわち「自己と他者の精神状態に注意を 向けること」の経験の積み重ねが必要であること を強調している。

 ここで、他の論文には見られない独特の記述が ある。それは著者が当事者研究を続けてきた成果 に他ならない点である。すなわち「(略)メンタラ イジングするという経験を経て、まさに自己と他 者の価値観の擦り合わせをしていたある瞬間にリ

アルな自己感が立ち上がった」という著者自身の 経験を述べた箇所である。「自己感が立ち上がり 世界の見え方がクリアになる感覚」というのは、

著者ならではの、これ以上無い的確な記述である と感じられた。コメントを書いている筆者(精神 科医・臨床心理士)が発達障害傾向を有する人の 外来診療で稀に出会い、精神療法で目指している ものはこれであったのだと、はたと納得させられ た。

 このような著者自身の経験に根ざし、著者は、

ASD

のある人に必要な自己理解を促進するため に、メンタライジングのスキルを効率よく身につ けていただけるような介入方法を探ることを問題 設定しているのである。

 文献研究の目的が絞り込まれているため、結果 は簡潔明瞭である。メンタライジングに必要な脳 機能としてワーキングメモリと注意の切り替え機 能を挙げ、現状での介入方法を紹介している。そ の上で、考察のポイントをメンタライジングに必 要な要素とそれへのトレーニング方法の可能性に 絞って論述している。

 著者の研究は、まだ端緒に着いたばかりである。

しかし、この研究が、発達障害に関する数多の臨 床研究を凌ぐ本質的に重要なものになることを、

筆者は確信している。当事者ならではの視点と、

客観的な研究者としての目配りが合体したとき、

これまでにない説得力を持った研究成果が得られ るに違いない。岩本氏の次なる論文が待ち遠しい。

Mitsuru Yamashina:中央大学文学部人文社会学科心理学専攻

参照

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