福岡高裁平成20年4月22日判決
著者 鈴木 敏彦
雑誌名 明治学院大学法律科学研究所年報 = Annual Report of Institute for Legal Research
巻 26
ページ 37‑44
発行年 2010‑07‑31
URL http://hdl.handle.net/10723/2223
福岡高裁平成20年4月22日判決
鈴 木 敏 彦
殺人の共同正犯の訴因に対し、訴因変更の手続を践むことなく殺人の幇助犯の犯罪事実を認定 したのは違法であるとされた事例(福岡高判平成20年4月22日)
1 事案の概要
⑴ 公訴事実
「被告人は、bと共謀の上、平成6年10月22日未明ころ、福岡県糟屋郡○○町のc(当時34歳の bの前夫)(被害者)方兼有限会社d事務所において、cに対し、殺意をもって、その腹部を刃 体の長さ約18センチメートルの包丁で突き刺すなどし、よって、そのころ、その場において、被 害者を腹部刺創による血管損傷に基づく出血性ショックにより死亡させた」
⑵ 1審での争点
① 事前共謀の成否 ② 事前共謀の解消の有無
③ 被告人が被害者殺害の実行行為に及んだか否か
⑶ 争点に関する検察官の主張の骨子
「dの経営が行き詰まって多額の借金を抱えたbは、被害者を自殺に見せかけて殺害し、保険 金で借金を返済しようと決意したものの、一人で実行することは困難であると考え、以前自分の 子どもの家庭教師をしてもらったことがきっかけで自分に強い恋慕の情を抱いている被告人であ れば協力してくれるものと考え、平成6年10月10日前後ころ、自分の窮状を訴えるとともに被害 者殺害の協力を依頼し、これを承諾した被告人との間で、被害者殺害の共謀を遂げた。そして、
被告人は、「完全自殺マニュアル」という自殺に関する本から得た知識により、被害者殺害の目 的で、bに対し、ベンジン又はシンナーを渡して、これを飲めば死ぬことを教えたり、刃物で腹 部を深く刺して動脈を切り、その刃物をそのまま放置せずに抜けば出血多量で死ぬことを教えた りした。bは、10月21日夜、被告人からの指示どおり、被害者に対し、ウィスキーとサイレース
(睡眠導入剤)を飲ませて、d事務所1階和室に寝かせると、被告人を電話で呼び寄せた。翌22 日未明ころ、bは、被告人から包丁を渡された上、「腹を刺せ」と指示され、寝ている被害者の
腹部に包丁を向けて構えたが、ためらっていたところ、被告人がその包丁を取上げて、被害者の 腹部を1回突き刺した。さらに、被告人は、bがその和室を離れた後、被害者の背部を1回突き 刺して殺害した」
⑷ 弁護人の主張の骨子
「① 被告人は、10月初旬ころ、bから、被害者殺害を依頼されて承諾したが、具体的な取り 決めなどはなかったから、共謀は成立していない。
② 仮に事前共謀が成立していたとしても、10月15日ころ、bの当時の住まいにおいて、b の依頼により、仰向けに寝ていた被害者を刺そうとして、包丁を握って身構えたが、自 分には無理だと悟って止めたのであるから、この時点で殺害の共謀は消滅した。共謀が 消滅したことは、その後、犯行直前の10月21日夜、bから被害者殺害の手伝いを依頼さ れたのに対し、被告人がこれを断った上、殺害を阻止するため、公衆電話から110番通報 したことによっても補強されている(ただし、動揺したため用件を伝えないまま電話を 切った)。
③ 被告人は、被害者が殺害された時、現場であるd事務所には行っておらず、実行行為を していない。被告人は、bが被害者殺害を実行した後、bが犯行の際に着用していた着 衣等の処分や、被害者が死亡しているか否かの確認を依頼されたのに対し、bを助けた いとの思いから承諾して依頼どおりの行動をとったが、共同正犯としての責任はない。
したがって、被告人は無罪である」
⑸ 1審判決
「bの検察官調書については、その内容自体に不自然、不合理な点があるというだけでなく、
b供述そのものには、その供述の根幹部分ともいうべき犯行の態様や犯行前後の行動等について 到底納得し難い変遷があること、さらに、b供述は、公判供述だけでなく、捜査段階での供述に おいても、b自身の責任を軽減し、被告人に押し付けようとする姿勢が見て取れることに照らす と、bの検察官調書の内容をそのまま信用するには疑問が残る」とし、他方で「被告人の供述は 全体としてその信用性が高いと言える」として、被告人の供述を前提に検討した結果、被害者殺 害はbが単独で実行したものと認定した上、bと被告人との間には、10月中旬に被害者殺害の共 謀が成立したものの、犯行前日のbからの協力依頼を被告人が断った時点でその共謀は解消され として、殺人の共同正犯の成立を否定しつつも、なお被告人には、被害者殺害後の事後処理等に ついて、bから協力を求められれば、これに協力してもよいと考えており、bも、被告人に対し、
その事後処理等の協力を求めれば、これに応じてくれると期待しており、bの被害者殺害の実行 を心理的に容易にしたとして、被告人について殺人の幇助犯の成立を認め、訴因変更をしないで、
「被告人は、bが、平成6年10月22日未明ころ、d事務所1階和室において、被害者に対し、殺 意をもって、その腹部及び腰部を包丁で突き刺し、よって、そのころ、その場において、被害者
を腹部刺創による血管損傷に基づく出血性ショックにより死亡させて殺害した際、これに先立つ 同月中旬ころ、bから被害者を殺害する手伝いを頼まれてこれを承諾し、その後被告人自らがb と一緒に被害者を殺害する行為に出ることは断ったものの、被害者を殺害した後の事後処理等に ついて、bから協力を求められればこれに協力する気持ちを持ち続けるとともに、bにもそのこ とを期待させ、もって、bの殺人の犯行を容易にさせてこれを幇助した」旨の罪となるべき事実 を認定した。
1審判決は、訴因変更を要しない理由として、「被告人に幇助犯としての責任を認めることは、
検察官主張の公訴事実を縮小して認定するものである上、その内容は、被告人の公判供述に従っ て事実を認定するものであって、被告人の防御権を侵害するものではないと言うべきであるから、
訴因変更の手続をとる必要はないと解する」旨判示した。
2 控訴審判決要旨
「一般に、共同正犯の訴因に対し、訴因変更の手続を経ることなく幇助犯を認定することは、
いわゆる縮小認定として許容されることがあるとしても、1審での当事者の攻防は、被告人に関 していえば、もっぱら、被害者殺害の場面を含めそれまでの被告人の有形的・物理的関与を巡っ て行われたと評価することができる。これに対し、1審の裁判所が認定した犯罪事実は、被告人 が、被害者殺害後の事後処理等についてbに協力してもよいと考えており、bも、それに期待し ていたというもので、黙示の無形的・心理的幇助であるが、両者は質的にかなり異なるものであ るといわざるを得ない。このような場合、被告人の防御の対象も、当然に異なってくるが、1審 においては、この点について訴因変更の手続がとられていないことはもちろん、明示にも黙示に も争点となっていなかったため、4回の公判期日にわたって行われた被告人に対する質問におい て、弁護人だけでなく、検察官や裁判所も、共謀が解消した後、なお被害者殺害後の事後処理等 の協力の意思があったか否かなどに関して、被告人に対し、まったく質問していないのである(も とより、bに対しても、この点に関する質問は一切されていない)。
そうであるのに、1審の裁判所が無形的・心理的幇助犯の成立を認めたのは、被告人の防御が 尽くされないままされた不意打ちの認定であるといわざるを得ない。
したがって、1審の訴訟手続には法令違反があり、その違反が判決に影響を及ぼすことは明ら かである。
1審の訴因変更を要しない理由の説明は、……不意打ちや防御権侵害の問題は、被告人の公判 供述に従って事実認定していれば回避される筋合いのものではないから、失当である(もし、そ のような考え方が許されるとすると、被告人としては、狭義の共犯を含め公訴事実の同一性があ る範囲において、自己の供述に基づき様々な認定があり得ることを想定しながら防御しなければ ならず、それが過重な負担であることは明らかである)。」
しかし、被告人に防御の機会を与えれば、1審の裁判所が認定した内容による殺人の幇助犯に ついて有罪の認定をし得るというのであれば、この被告事件を1審の裁判所に差し戻した上、1 審で訴因変更の手続等を行わせる必要がある(が)、犯行直前の協力依頼を被告人が断った際、
被告人が、被害者殺害後のbから、その事後処理等について協力を求められ、その場合には協力 しようと考え、bにおいても、被害者殺害後の事後処理等について、被告人の協力が得られるも のと期待していたとするには、合理的な疑いが残り、本件ではこれらを認めるに足りる証拠はな い。
本件の証拠関係からすると、殺人の幇助犯については、そもそもこれを認めるに足りる証拠が ないのであるから、被告人に防御の機会を与えるために、検察官に対して訴因変更を促し、ある いは訴因変更を命じる必要があるとはいえない。そうすると、控訴審としては、訴訟手続の法令 違反により1審判決を破棄して被告事件を1審の裁判所に差し戻すことは相当でない。
そして、1審判決を破棄しても、被告事件を1審の裁判所に差し戻さない以上、この裁判所で 自判することとなるが、当初の訴因である殺人の共同正犯の公訴事実については、被告人の控訴 申し立てに伴って法律上控訴審に移審係属するところとなっている。しかし、その殺人の共同正 犯の訴因と1審の裁判所が認定した殺人の幇助の訴因とは大小の関係にあって、いわゆる縮小認 定であることからすると、1審判決では、大の部分に当たる殺人の共同正犯の訴因については無 罪判断があるものとして扱うのが相当であり、この1審判決に対する検察官の控訴の申立てがな い以上、その無罪部分(殺人の共同正犯の訴因)について、控訴審であるこの裁判所は、職権に よる調査を行うことができず、1審判決の無罪判断に従うほかないと解するのが相当である(な お、仮に上記の職権調査ができるとしても、本件の証拠関係からすると、bの検察官調書の信用 性には疑問が残るのに対し、被告人の捜査及び公判での供述は全体としてその信用性が高いとし た上で、bと被告人の間で、平成6年10月中旬ころに被害者殺害の共謀が成立したものの、犯行 前日のbからの被害者殺害のための協力依頼を被告人が断った時点で、その共謀が解消されたと する1審判決の判断は、この裁判所も是認することができるので、無罪の結論は変わらない)。
3 訴因変更の要否(一般理論)
⑴ 学説
① 法律構成説(構成要件又は罰条同一説)
訴因の拘束力が法律構成にあることから、法律構成に変動があった場合には訴因変更が必 要である(法律構成に変動がなければ訴因変更は不要)。
② 事実記載説
訴因が被告人の防御対象であることから、その防御に影響を及ぼす事実変化がある場合、
訴因変更が必要である。
事実記載説は、更に以下の2つの説に分れる。
ア 抽象的防御説
訴因事実と認定事実を一般的・類型的に対比することを判断基準とする。
イ 具体的防御説
被告人の防御活動等具体的な審理の経過状況を判断基準とする。
⑵ 判例
事実記載説に立脚しており、当初、具体的防御説的であったが、その後、抽象的防御説を基本 としつつも具体的防御説的な思考を加味していると言われている。
① 最判s29. 1. 21(具体的防御説を採ったといわれている判例)
原判決が、訴因変更の手続をとらずに窃盗の共同正犯を同幇助と認定した事案
「訴因及びその変更手続を定めた趣旨は、……審理の対象、範囲を明確にして、被告人の 防禦に不利益を与えないためであると認められるから、裁判所は、審理の経過に鑑み被告人 の防禦に実質的な不利益を生ずる虞れがないものと認めるときは、公訴事実の同一性を害し ない限度において、訴因変更手続をしないで、訴因と異る事実を認定しても差支えないもの と解するのを相当とする……本件において被告人は、第一審公判廷で、窃盗共同正犯の訴因 に対し、これを否認し、第一審判決認定の窃盗幇助の事実を以て弁解しており、本件公訴事 実の範囲内に属するものと認められる窃盗幇助の防禦に実質的な不利益を生ずる虞れはない のである。」
本判決は、後記のとおり縮小認定として説明できるので、具体的防御説をとったと言える のかどうか疑問である。
② 最判s36. 6. 13(抽象的防御説に変わったと言われる判例)
起訴状記載の訴因「被告人が今町町長と共謀の上、同町長の職務に関し、二回に亘つて賄 賂金合計六〇万円を収受した」という収賄の事実につき、原判決は、訴因罰条の変更手続を 履まずに、「被告人が中村和作と共謀の上、今町町長服部宣明に対し、同町長の職務に関し、
二回に亘つて賄賂金合計六〇万円を供与した」という贈賄の事実を認定した。
最高裁は、「本件公訴事実と原判決認定の事実とは、基本的事実関係においては、同一で あると認められるけれども、もともと収賄と贈賄とは、犯罪構成要件を異にするばかりでな く、一方は賄賂の収受であり、他方は賄賂の供与であつて、行為の態様が全く相反する犯罪 であるから、収賄の犯行に加功したという訴因に対し、訴因罰条の変更手続を履まずに、贈 賄の犯行に加功したという事実を認定することは、被告人に不当な不意打を加え、その防禦 に実質的な不利益を与える虞れがあるといわなければならない。従つて、本件の場合に、原 審が訴因罰条の変更手続を履まずに、右のような判決をしたことは、その訴訟手続が違法で あることを免れない。」旨判断した。
③ 最決H13. 4. 11の立場……審判対象の確定(他の事実との識別)を重視?
当初訴因
「被告人は、奈良光郎と共謀の上、昭和63年7月24日ころ、青森市大字合子沢所在の産業 廃棄物最終処分場付近道路に停車中の普通乗用自動車内において、長谷川小太郎に対し、殺 意をもってその頸部をベルト様のもので絞めつけ、そのころ窒息死させて殺害した」
変更後の訴因
「被告人は、奈良と共謀の上、前同日午後8時ころから午後9時30分ころまでの間、青森 市安方2丁目所在の共済会館付近から前記最終処分場に至るまでの間の道路に停車中の普通
乗用自動車内において、殺意をもって、被告人が、長谷川の頸部を絞めつけるなどし、同所 付近で窒息死させて殺害した」
第1審判決の罪となるべき事実
「被告人は、奈良と共謀の上、前同日午後8時ころから翌25日未明までの間に、青森市内 又はその周辺に停車中の自動車内において、奈良又は被告人あるいはその両名において、扼 殺、絞殺又はこれに類する方法で長谷川を殺害した」
最高裁の判断
そもそも、殺人罪の共同正犯の訴因としては、その実行行為者がだれであるかが明示され ていないからといって、それだけで直ちに訴因の記載として罪となるべき事実の特定に欠け るものとはいえないと考えられるから、訴因において実行行為者が明示された場合にそれと 異なる認定をするとしても、審判対象の画定という見地からは、訴因変更が必要となるとは いえないものと解される。とはいえ、実行行為者がだれであるかは、一般的に、被告人の防 御にとって重要な事項であるから、当該訴因の成否について争いがある場合等においては、
争点の明確化などのため、検察官において実行行為者を明示するのが望ましいということが でき、検察官が訴因においてその実行行為者の明示をした以上、判決においてそれと実質的 に異なる認定をするには、原則として、訴因変更手続を要するものと解するのが相当である。
しかしながら、実行行為者の明示は、前記のとおり訴因の記載として不可欠な事項ではない から、少なくとも、被告人の防御の具体的な状況等の審理の経過に照らし、被告人に不意打 ちを与えるものではないと認められ、かつ、判決で認定される事実が訴因に記載された事実 と比べて被告人にとってより不利益であるとはいえない場合には、例外的に、訴因変更手続 を経ることなく訴因と異なる実行行為者を認定することも違法ではないものと解すべきであ る。
13年最決の判断順序
① 審判対象確定のために必要な事項か(識別機能)
② 被告人の防御にとって重要な事項か(抽象的防御)
③ 審理経過から被告人に不利益を与えないか(具体的防御)
4 縮小認定
判例は、訴因の同一性の判断とは別に訴因より小さな事実を認定することを縮小認定として認 めている。
ア 最判昭和26年6月15日(刑集5巻7号1,277頁)強盗→恐喝
「元来、訴因又は罰条の変更につき、一定の手続が要請される所以は、裁判所が勝手に、
訴因又は罰条を異にした事実を認定することに因って、被告人に不当な不意打ちを加え、そ の防御権の行使を徒労に終わらしめることを防止するに在るから、かかる虞れのない場合、
例えば、強盗の起訴に対し恐喝を認定する場合の如く、裁判所がその態様及び限度において 訴因たる事実よりもいわば縮小された事実を認定するについては、敢えて訴因罰条の変更手
続を経る必要がないものと解するのが相当である。」
イ 縮小認定を認めた判例(多くの文献で以下のように罪名だけで要約されているが、法律構 成説ではなく、事実記載説の立場では、罪名だけで検討することは、そもそもおかしいので あるが、便宜上、罪名で表記する)
① 訴因変更不要
背任→詐欺 最判s28. 5. 8 横領→占有離脱物横領 最判s28. 5. 29 殺人→同意殺人 最判s28. 9. 30 殺人未遂→傷害 最判s28. 11. 20 公選法供与→交付 最判s29. 5. 20 強盗致死→傷害致死 最判s29. 12. 17 傷害共同正犯→暴行単独犯 最判s30. 10. 19 業務上過失傷害→重過失傷害 最判s40. 4. 21 酒酔い運転→酒気帯運転 最決s55. 3. 4 ウ 共犯の場合
① 訴因変更不要
傷害単独犯→同時犯 最判s25. 11. 30 詐欺単独犯→共同正犯 最判s28. 11. 10
※窃盗共同正犯→幇助 最判s29. 1. 21( 上記のとおり最高裁が具体的防御説を とったとされている判例である)
※貿易等法違反共同正犯→幇助 最判s29. 1. 28 ※強盗殺人共同正犯→殺人幇助 最判s33. 6. 24 傷害同時犯→共同正犯 最判s33. 7. 18 覚せい剤取締法単独犯→共同正犯 最判s34. 7. 24 ② 訴因変更必要
公選法違反幇助→共同正犯 最判s40. 4. 28
児童ポルノ公然陳列罪共同正犯→幇助 名古屋高判平成18年6月26日 エ なぜ、縮小認定は原則として訴因変更を要しないか。
① 審判対象の一部認定であるから、審判対象に変動はない。
② 当初訴因全部が防御の対象であったのだから、その一部を認定しても不意打ちにならず、
被告人の防御に不利益はない
オ 共同正犯から幇助への変更は、上記ウ①※のとおり訴因変更不要とする事案が多い。
最判s29. 1. 21は、訴因変更の手続をとらずに共謀による窃盗行為自体をその幇助行為と 認定した第一審判決の当否について「法が訴因及びその変更手続を定めた趣旨は、……審理 の対象、範囲を明確にして、被告人の防禦に不利益を与えないためであると認められるから、
裁判所は、審理の経過に鑑み被告人の防禦に実質的な不利益を生ずる虞れがないものと認め るときは、公訴事実の同一性を害しない限度において、訴因変更手続をしないで、訴因と異
る事実を認定しても差支えないものと解するのを相当とする。本件において被告人は、第一 審公判廷で、窃盗共同正犯の訴因に対し、これを否認し、第一審判決認定の窃盗幇助の事実 を以て弁解しており、本件公訴事実の範囲内に属するものと認められる窃盗幇助の防禦に実 質的な不利益を生ずる虞れはない」とした。
カ これに対し、訴因変更を必要とする下級審判例もある。
名古屋高判平成18年6月26日は、児童ポルノ公然陳列罪の共同正犯の訴因を訴因変更しな いで幇助と認定した1審判決の当否につき、「本件は、作為犯である共同正犯の訴因につき、
同じく作為犯の幇助犯を認定するという場合とは異なり、作為犯である共同正犯の訴因につ き、不作為犯の幇助犯を認定する場合に該当するのであり、更なる検討を要する。この場合、
作為犯と不作為犯の両者の行為態様は基本的に異質であり、被告人の防御の重点も、当然に、
共謀の存否、作為犯における作為の存否などから、不作為犯における作為義務の存否、作為 義務違反の存否などに移行することになると思われる。被告人の防御方法が抜本的に修正を 余儀なくされることは明白であり、本件は、訴因変更の手続が必要とされる場合に当たると いうべきである。」とした。
5 本件の検討
本件は上記名古屋高判と同様に作為犯の共同正犯を不作為犯の幇助とした事案であり、最高裁 13年決定の枠組みで説明できる。
すなわち
① 同一の被害者を殺害した事実の共同正犯から幇助なので、審判対象に変動はない。
② 作為犯から不作為犯への変更なので、防御の対象に変化があり、抽象的に被告人に不利益 ③ 具体的審理状況から考えても攻防の対象になっていなかったので被告人に不利益 となるので、訴因変更手続を必要とする。
なお、本件第1審判決は、判決中でわざわざ訴因変更を必要としない旨判示しているが、訴因 変更の要否が問題となり得ることを認識していたのであれば、「念のために」検察官に訴因変更 を促し、後に問題を残さないようにすべきであり、何故、あえて問題を残すような処理をしたの か実務感覚として疑問である。