産業保護と産業組織 57
産業保護と産業組織
田 中 茂 和
I II III
V
序 論
輸入競争と関税障壁
関税政策の目的および決定要因 産業保護と外国資本の流入
産業保護関税の市場構造・成果に及ぼす影響 結 論
1 序 論
開発途上国の経済発展を促進する上で何よりも関心事となることは,一般的にはいかに して資本形成をすみやかに行うかであろう。この点に関して外国投資を誘致し,国内の資 本形成を促進する一つの方法として,保護貿易を主張する議論がある。つまり外資導入策
として保護貿易を評価しようとする。また反独占政策として保護貿易を位置づける考えも 存在する。しかしひるがえって考えてみると,保護貿易が産業の市場パフォーマンスにど のような影響を与えるかはそれ程明らかでない。最近精緻:化の著しい実効保護の理論にし ても,実効保護が国内市場における独占的市場支配力の形成に貢献した場合いかなる展開 をみせるのかについてほとんど何も教えてくれない。
国際貿易の理論においてこれまで共通認識として,国内産業の保護はその産業における 集中を高め,競争を阻害すると考えられてきたと思われる。筆者はかねてから「不完全競 争の国際経済学」の確立に興味をいだいてきた。国際貿易理論において「完全競争」の仮 定を緩和する際,標準的な二部門モデルにおける一部門の市場独占の想定は,開発途上国 の輸入代替産業での保護措置を考えると,特にリリーヴァントであると述べた事がある。
しかし,そもそも産業保護は競争政策と相対立するものであろうか。本稿における展開は 以上の問題意識を出発点としている。かくして本稿の分析は,保護貿易論においてこれまで 余り斜酌されなかった保護貿易の配分効率効果にスポットをあてる点に意義があり特長が
ある。それは又同時に,産業組織論における集中度一利潤率分析において無視されてきた
国際要因(輸入競争)の導入をもたらす。
II 輸入競争と関税障壁
保護貿易と産業組織 国際経済学の領域において保護貿易主義の議論は自由貿易主義のそ れに劣らず活発になされてきた。保護貿易論,つまり関税賦課が必要であるとする主張に ほ,その根拠とする経済的理由および経済外的理由から分類するとさまざまなものがある。
関税政策の議論においては,様々な保護目的の類型化に基づいてそれらの政策目的を所与 としたときに,果して関税政策がその目的達成のために適切な政策であるかどうか,他に 最適な政策手段はないかという政策ランキングの問題関税政策がとられた場合の経済厚 生の損失・利益の分析等にこれまで主要な関心が寄せられてきたが,関税の配分効率効果 については明確に分析されていない。自由貿易の最適性の裏返しの論理では,関税保護は 輸入を通じる外国競争企業の市場参入を阻止する結果,その産業の集中度を高め自由な競 争を阻害することになろう。しかし関税と国内産業の収益性との関係は理論的予想におい てさえそれ程単純なものではない。
近年諸国民経済間の相互依存性の高まりとともに経済摩擦現象が生じ,その結果保護貿 易主義が新たに台頭しつつある。国際的競争政策の観点からみれば,関税・輸出入制限な どの公的競争制限は,国際カルテル・多国籍企業の競争制限活動などの私的競争制限と相 ユ
互に補完しあう。かくして関税をはじめ種々の貿易政策は競争政策と一致するのか,それ とも対立するのかをみることが重要になってくる。本稿における展開は,産業組織論の観 点からはこれまで無視されてきた市場構造の国際的要素(輸入)を考慮し,集中度と利潤 率の関係において外国との競争がいかなる影響を及ぼすのかを明らかにする意義をもつ。
国際経済学の観点からみれば,関税保護政策の効果分析においてこれまで軽視されてきた 側面一産業組織および競争秩序に及ぼす影響一を考察する目的もかねている。現代の国際 経済秩序において集中と競争の問題を論じる場合に産業組織政策と貿易政策の関係をみる 事が肝要であり,それ故方法論的にはこれまで経済学の応用分野として独立に発展してき
た国際経済学と産業組織論の協力的展開が是非とも要請される。
関税障壁と輸入競争 国際貿易の市場構造・市場成果に及ぼす影響について,国際貿易論 および産業組織論から導かれる諸仮説,そしてその経験的リリーヴァンスがどの程度である
かを検討する機会がすでにもたれた。集中四一利潤分析に国際要因を導入する場合まず問 題となるのは,外国との競争の適切な代理変数の選択である。輸入競争の場合考えられる
1 松下〔1973〕P.120参照。
2拙稿〔1979〕および馬場〔1980〕参照。本稿における分析は前稿の第HIおよびIV節の考察を基礎と しており,以前の議論の不充分さを克服し,前稿の関税と輸入競争を論じた部分の敷桁と拡充をな している。
産業保護と産業組織 59
代理変数としては大よそ二つに分けられよう。一つは輸入比率,いま一つはNTBを含め た関税率によるアプローチである。本稿ではそれらの代理変数の比較優位・劣位を余り問 わないことにする。そうした比較分析も可能であり,無視できないが,いずれにせよ互い に補完的であり,経験的検証を行う際同時に幾つかの変数を用いることはその成果の解釈 の余地を豊かにし論拠を強化させるのに役立つからである。従ってここでは,後で述べる 理由から,現実に一般的な産業保護政策とみなされる関税政策に焦点を合わせ,関税保護 の集中度・利潤率に及ぼす影響をさぐることにする。
関税と国内産業の利潤率との間の関係を推論する上で,留意しなければならない点が二 つ存在する。関税を一つの参入障壁と考えた場合ありうる推論の一つは,関税はそれだけ 国内生産者が外国生産者の参入を引きおこすことなく設定しうる制限価格(limit Price)
を引き上げることから,産業保護と利潤率の問に正の相関関係がみられるというものであ
る。
しかし両者の関係は,関税がもともと何を目的として賦課されたか(或いは引上げられ たか)にも依存するであろう。第二に,関税が外国の潜在的競争企業にとって参入障壁と なるのは,外国企業が輸出を国内市場への参入の手段として選択する場合に限られる。け だし,他の代替的手段である技術提携や対外直接投資はこの参入障壁をのりこえることが できるからである。その場合直接投資は新規参入の一形態であるから,一般的には進出先 の産業分野の市場成果を改善するものと期待されうる。かくして対外投資に与える関税の 影響は産業保護と利潤率の関係をさぐる上で追加的な分析が必要であることを示唆する。
これまで行われた輸入競争と利潤率に関する数多くない実証研究のほとんどは輸入比率 アプローチに依拠しており,関税政策に対する注目は少数派に属し,しかも上述の看過で きない二点に関する配慮はなされていないのが実状である。本稿では,主として関税政策 と市場構造的決定要因との相互依存性および貿易と対外直接投資の代替性に着目しながら 既存の実証研究に批判的検討を加え,産業保護と産業組織に関する考察の望ましいあり方
を模索することをねらいとする。まず予備的作業として関税政策の主要な決定因が何であ るかを空節で検討する。第W節ではいわゆる「関税工場」論を一般均衡・部分均衡双方の 観点から吟味する。これらの考察結果に基づいて第V節においては,産業保護と産業利潤 率との間にいかなる関係がみられるかを明らかにする。
III関税政策の目的および決定要因
関税政策の決定モデル 任意の経済政策がいかなる意思決定プロセスを通じて採用される かを考えるときまず問わねばならないことは,政策決定の主体はどこにあるかという点,
そしてそれと関連して政策決定に主要な影響力を及ぼす経済主体もしくは経済的要因は何 かということであろう。関税政策もまたその例外ではない。
一つに任意の経済政策と採用・運営が政策主体の地位保全のためになされると考えられ
よう。すなわち,政府が政権維持ないしその安定を政策決定の判断基準とする場合に妥当し よう。またその政策の実施によって利益を受ける集団の圧力が支配的であるかも知れない。
3
さらには国家的威信が当該政策の選択に踏み切らせる場合もあろう。最初のアプローチは 多分に国内政治の駆引的戦略としての関税政策の位置付けを強調している。第二のアプロ ーチは,いかなる経済政策にせよ常にそれによって利するグループと損をこうむるグルー プが存在し,前者がプレッシャー・グループとして支配的な力を得る傾向にあることに立 脚した考えに他ならない。最後のアプローチは集団選好の概念に通じる。いずれにせよ実 際の政策決定プロセスは経済的な要素ばかりでなく経済外なそれを含み,錯綜した様相を 呈すものと思われる。
しかしわれわれはここで政策決定の一般モデルを展開するつもりはないし,関税政策の 決定要因すべてに言及する必要もない。関税による産業保護の市場構造および市場成果に 対する影響をみる上で,直接関係するとみなされうる諸要因に目をやれば,事足りる。す なわち市場構造に関係する諸要因にのみ注意が払われる。
関税政策と市場構造的特長 保護貿易論において様々な理由から産業保護が主張されるが 関税政策の決定にかかわる経済的要因を列挙してみると,規模の経済,賃金水準,資本形 4
成,生産性格差,多様化,地域的利害等となる。一方市場構造の基本的諸要素の内,関税 政策にじかに関係するのは,集中度,規模の経済,市場需要の成長,研究開発の四つであ ると思われる。これらの諸要素が関税水準もしくはその引き上げにどのようなかかわりを 持つのかを以下で一つ一つ検討していくが,一義的な予想をたてることは困難である。
関税率決定における集中度の役割を考える際には,寡占企業間の相互依存関係が参考に なる。つまり,寡占企業相互間の協調を前提とすれば,それだけ独占に近い寡占体制を意 味する。その場合強力なプレッシャー・グループの形成が政策決定に対して大きな影響力 を及ぼしうる。それと同時に逆説的な予想も可能である。非集中産業における多数企業の 結託が実現するならば,少数の寡占企業と同一規模の労働者をかかえる産業が,集中産業 にひけをとらない影響力を行使しうる可能性を否定できない。このとき集中と関税の正の 関係が疑問視される。
以上はケイヴズが利益集団モデルと呼ぶアプローチに基づいた推論である。関税政策が 選挙の票集め的性格を強く帯びている場合にはどうであろうか。議論を単純化するため以 下では雇用労働者(選挙権者)数で同一規模であるが,企業数,したがって集中度において のみ差がある二つの産業を想定しよう。その場合企業がより分散している程,票あつめの ウェイトが高まるものと期待される。つまり小規模の企業が多数でしかも集中度が低い産
3ケイヴズ〔1976〕はこれら三つの関税政策決定モデルをそれぞれ計算機(adding−machine),利益 集団(interest−group),国家政策(national policy)モデルと名付けている。
4 小宮・天野(1972〕,第8章参照。
産業保護と産業組織 61 業程,厚い保護措置が与えられやすいことになる。
次に規模の経済に議論を転じよう。この決定因についても前と同様に,依然として相対 立する仮説が導かれる。利益集団の強いプレッシャーを重視すれば,同様の論理から生産 における規模の経済性が著しい産業程,より強い関税保護を受けるに充分な影響力を有し ているといえよう。また幼稚産業保護論における幼稚産業選定基準からみて,規模の経済 が強く作用する産業ほど潜在的将来性があり,国家的目標に合致する魅力的な産業であ ろう。さらには弱い規模の経済性と企業の分散との関係と並んで企業の分散化の関税政策 決定におけるウェイトの増大に注目すれば,上述の二つの推論とはコントラストをなす予 想もまた可能である。
集中,規模の経済といった要素に比べて市場需要の成長についてはそれほど複雑な議論 にならない。市場需要の成長が緩慢である産業が,関税保護のプレッシャー・グループと して有効な影響力を獲得しうるであろうか。市場需要が急速な拡大をみせている産業は関 税率の引き上げをまず必要としないであろう。そうではなくてむしろ需要の停滞している 産業が,関税による輸入品の国産品消費代替に活路を見い出そうとする。したがって先き の問に対する答はいうまでもなく明らかである。それに反して集団選好の考えに即せば,
需要成長の著しい産業ほど関税政策の対象に選定されやすいと考えられる。
研究開発要素については,最近の先端技術産業に対するアメリカ政府の保護主義的方針,
資源制約の強い日本経済の将来展望として描かれる知識集約型産業下等から,研究開発集 約産業における高関税は想像にかたくない。いわゆる国家政策モデルのロジックにおいて 研究開発は関税政策の決定に関してポジティヴな役割を果すものと考えられる。しかし利 益集団モデルに基づくならば,活発な研究開発活動による技術的優位故に保護を要しない かも知れない。かくして研究開発と関税保護の関係について確定的な予想を展開すること は無理のようである。
以上のように,関税政策の決定要因とおぼしきいずれの市場構造諸要素についても,そ の理論的予測においてさえ確定的な関係を見い出すことははなはだ困難である。ここまで の議論においては仮説の導出の域を出ないが,実際の所産業保護構造の説明としてどの程 度説得的であろうか。
ら ここに三つの実証研究が見い出せる。発端はすでに言及したケイヴズの分析である。そ
こでは関税政策決定に関するモデルが三つ示されており,のべ11個の変数が決定要因とし て挙げられている。とくにそれらのモデルにほぼ共通の変数は,集中度,規模の経済,需 要成長率を含む。クロス・セクション回帰分析の結果から次の事柄が導かれた。第一に利 益集団モデルが最:も説明力に富んでいること。第二に実際の関税交渉は名目関税よりむし ろ実効関税をベースとして行われること。そして一人当り付加価値・輸送コストと並んで,
5.脚注3参照
規模の経済,集中度が関税率の産業間の相違を説明する重要なファクターであること。労 働組合はプレッシャー・グループとして関税政策の決定に大きな影響力をもつことは確か 6 に肯定されるが,その場合の適切な代理変数は一人当り付加価値でなく賃金水準である。
これらの分析に対して重要な修正がなされている。その修正モデルは,関税決定要因の 一部を内生化し,TSLSで検証を行うことによって,実効保護の決定要因と関税の相互 依存関係(同時的フィードバック効果)を把握するのに成功している。さらに外国企業子 会社のシェアを導入している点は注目に値する。けだしカナダの場合,カナダ以外とくに アメリカ系企業に支配されている巨大企業の比率が高い事実からみて,集中度と外国子会 社のシェアとの間に強い関係が認められるならば,外国子会社が関税政策にいかなる影響 の仕方をするのかを無視することができないからである。
経験的事実 以上の実証研究の結果,市場構造諸要素が関税政策決定プロセスにおいてど のようなかかわりをみせるかについて諸仮説の経験的支持の程度を示そう。研究開発はこ れら三つの実証研究のいずれにおいても取り上げられていない。
集中度と関税率についての実証結果をみると,ケイヴズは有意な負の関係を得,ヘライ ナー(Helleiner)の分析では集中度と関税水準との間に一貫した有意な関係はみられないが 関税水準の変化と集中度の関係においては有意な負の成果が得られている。これは産業に おける小企業の雇用シェアと関税水準(実効関税)の変化との間でみられた有意な正の関 係と一致する。規模の経済と関税率についてぱ,ケイヴズにあっては有意な正の関係が示 されているのに対し,ヘライナーは有意でない負の結果を得たにすぎない。又,関税水準 の変化を用いても有意な結果は得られなかった。市場需要の成長率と関税率との関係につ いてはケイヴズの分析に依拠するしかないが,有意な係数値は予想に反した符号をも ち,有意でないそれは予想どおりの符号をもつという不確定な結果にとどまる。以上の諸 結果は,関税政策の決定において需要要因よりもむしろ供給要因が支配的であるという解 釈の余地を残している。
ところでサンダーズ(Saunders)の同時決定モデルからどの程度確定的な関係が導かれる であろうか。確認されるのは集中度および規模の経済と関税水準の関係のみにとどまる。
前者については先述の分析結果と対立する有意な正の係数が得られている。この点につい ては著者自ら指摘しているように,次のような注釈が必要であろう。関税の集中度への同 時的インパクト(高関税は非効率的な小企業を存続させ集中度を低める作用をする。)と外 国子会社生産の関税水準に及ぼすネガティヴな影響(企業内貿易を円滑に行うため,外国 子会社は関税率引き下げについてプレッシャー・グループの地位に立つ。)を差引けば,集
6Helleiner〔1977〕参照。またケイヴズとは逆に,関税交渉は実効関税よりも名目関税を中心に行わ れてきた,と結論づけている。
7Saunders〔1980〕参照。
産業保護と産業組織 63 中度は関税率にプラスの作用をすると考えられる。しかし著者は次の点を見落していると 思われる。すなわち,関税の子会社生産に対する同時的フィードバック効果も併せて考慮 されねばならない。高関税水準は外国の直接投資を引きつけるという側面は関税の集中度 に対するフィードバック効果を一層強める働きをするからである。最後に規模の経済につ いては有意な結果が得られず,先述の相対立する仮説のいずれも支持されないままに終っ ている。
】V 産業保護と外国資本の流入
経験的事実 保護貿易に賛成するいろいろな議論があるが,外国企業の活動に影響を与え る目的で関税政策が使われる場合がある。前節で保護貿易の経済的理由の一つとして挙げ られた国内資本形成を促進するために関税保護をすべきであるという主張がそれであり,
いわゆる「関税工場」論として知られる。外国為替レートが外国企業の輸出と対外投資と の選択に潜在的に影響するならば,外国市場をとりまく関税水準もまたそうであろうと考 えられる。しかし外国為替レートは各産業に一様な効果を及ぼすが,関税は差別的な政策 措置であり,そうした一般論で処理可能な問題であるかどうか疑問である。関税政策のそ うした性格については,前節の決定因分析から具体的に明らかであるから改めてくり返さ ない。ともあれ「関税工場」論は決してレア・ケースの議論でなく,多国籍企業に関する 諸研究で数多く証拠立てられている。
企業が外国市場に進出する際,輸出(国内生産)をするか,対外直接投資(外国生産)
を行うかの選択には当然ながら一国の比較優位(企業の絶対優位)と並んで輸送コストと 関税とが考慮されよう。若干の調査によれば,直接投資を行う動機について貿易制限,と くに関税障壁の回避がかなりのウェイトをしめており,実証研究の多くは,外国市場進出 に伴う生産立地の選択に関税が密接なかかわりをもっことを強調している。
数多くの実証研究の中でとりわけホーストの分析は,関税と外国企業の生産立地決定に
対する経験的立証として最も注目される。ホーストは外国企業の輸出と対外投資との選択 に強くかかわる要因として,関税障壁と実質生産コストの差を重視した。前者の代理変数と して名目関税と実効関税を,後者の第一次近似として相対的市場規模を用い,それらの総 販売額(子会社販売と輸出の合計)に対する輸出比率に対する回帰分析を試みた。その結 果輸出のシェア,相対的市場規模と関税との間に有意な負の関係がみられた。
8対外直接投資の動機についてはBrooke&Remmers 〔1970〕, pp.227−230,およびKolde〔1968〕
を参照。さらにBrash〔1966〕, Johns〔1967〕, Barlow&Wender〔1955〕, Safaran〔1966〕, Orr
〔1975〕,Wonnacott&Wonnacott〔1967〕, Marshall, Southard and Taylor〔1936〕, Horst〔1969〕,
〔1972〕,〔1975〕Brecher&Reisman〔1957〕等を参照のこと。
9 Horst〔1972〕参照。
これらの成果は関税障壁は確かに対外投資を促進させようが,輸出先の市場規模が相対 的に小さければその限りでないことを物語る。さらに同様の回帰分析を他国についても行 った結果,カナダについて得られた回帰係数値よりイギリス・ECの順に低かった。この バイアスがどのような要因によるものか,より綿密な比較研究を要請する価値があろうが そこでは相対的市場規模が捨象されており,それ故一つの解釈が成立するかもしれない。
カナダよりもイギリスそしてECの方が相対的に大国とみなしうる。その場合関税障壁を つうじる輸出と対外投資の代替性の程度は,相対的市場規模にも依存する。たとえ輸出の ウェイトが小さいにせよ,輸出先の市場規模が大きく,潜在的に需要成長が期待されるな らば,企業は対外投資選言を選択するであろう。このように経験的事実の多くが,対外投 資に対する関税の影響を裏付けており,防衛的な性格をもつ直接投資をうかしぼりにする。
ところで関税工場の議論に好意的な諸研究ばかりでなく,一見否定的な様相を示す議論 10
も見受けられる。例えばオールは先述のホーストと同様の分析をディスアグリゲート・レ ベル(二桁産業分類→三桁産業レベル)で行った結果,関税率の引上げは輸入を減少させ るが,外国子会社生産がそれに取って代わるという証拠は発見できなかった。しかしオー ルの主張に対するホーストの反論を対比させるとオールの見解は既存の諸研究の肯定的結
果を打ち消すものでないことがわかる。またケイヴズによる対外直接投資の決定因に関す る統計的分析(TSLS)では,外国子会社の販売シェアの決定において実効関税が影響 12力をもつという仮説は支持されていない(有意でない正の回帰係数値)。
結局これまでの所少なくとも先進国市場においては「関税工場」論に対する反証は示さ れていない以上,関税保護の集中・競争に与えるインパクトを考察する上で関税障壁と対 外直接投資の関係を無視することができない。ただし関税・輸入制限などの貿易障壁が,
13
国際間の直接投資を阻害する場合がないわけではない。外国系企業の輸入依存度が高けれ ば,高い関税率は逆に直接投資を抑制しよう。さらにまた,タリフ・エスカレーション(
高い実効保護率)はその国の外国への直接投資の妨げとなろう。本節では外国のタリフ・
エスカレーション・輸入制限等が自国の外国への直接投資を促す側面に焦点を合わせてい る。いま述べた前者のケースは前節でふれた関税率引下げのプレッシャー・グループとし て行動する外国子会社の事例に該当する。後者はとくにLDCへの対外投資を抑制する主 要な理由としてよく知られている。
100rr〔1975〕参照。
11Horst〔1975〕参照。ホーストは次の様に反論している。つまる所問題はアグリゲーション・レベ ルではなくてクロス・セクション分析にある。関税保護と産業組織の関係をみる上でクロス・セクシ ョン分析が適切な分析方法でないことは次節で言及される。
12Caves et al〔1980〕, PP.85−86参照。
13小宮・天野〔1972〕,pp.439−440参照。
産業保護と産業組織 65 一般均衡分析 産業保護と外国資本の流入の関係についての経験的立証はさておき,理論 的分析に移ろう。
保護関税を賦課することは,商品貿易を抑えて生産要素の国際移動を促進する,という 14
命題はストルパーニサミュエルソン定理を用いて証明される。バグワッティによればスト 15
ルパー=サミュエルソン定理は三つの命題から構成される。第一に保護は輸入可能財の国 内相対価格を上昇させる。第二に一財の相対価格の上昇はその財の生産に集約的に用いら れる要素の実質賃金を上昇させる。第三に輸入可能財は稀少要素集約財である。かくして 保護は稀少要素の実質賃金を引き上げると結論される。従ってメッツラー・ケースでない 限り,労働豊富国における輸入競争産業に対する関税賦課は外国資本の流入を促進するの
である。
以上は完全競争の仮定に基づく議論である。もし関税保護がその産業の集中度を高め,
16 独占的市場支配力の強化につながる場合でもストルパー=サミュエルソン定理は成立する。
結局国際貿易理論から関税による輸入制限と外国資本の流入との関係について導かれる結 論は次の如くである。関税保護が輸入競争産業における市場成果の改善をひきおこすかそ
れとも悪化させるかいずれにせよ,それは利潤率を引き上げ,外国資本の流入を促す。
17 しかし以上の議論はそのよってたつ仮定のためにその正当性がかなり損なわれている。
まずそこでは対外投資の決定因として資本収益率の相違を考慮しているにすぎない。資本 収益率の相違のみで現代の対外直接投資現象を説明できないことは,それが資本の相互交 流の発生を予測できないことから明らかである。第二の点は産業間で差異のない一様な利 潤率を想定していることである。関税工場の議論はその抽象度こそ低いが,そこで関係す るのは産業の利潤率であって,経済全体の平均利潤率でないことは疑いえない。関税保護 の結果,国内市場に対する外国資本の供給は,経済全体の利潤率でなく保護産業の利潤率 に反応しておこるのである。つまり,そこで言及される資本とは部門間で移動可能な一般 的な資本でなく,産業に固有な資本に他ならない。
このようにみてくると,ストルパー=サミュエルソン定理からの演繹は,特殊要素(産 業に固有もしくは部門に特化した資本を含む)モデルから正しく導かれなければならない。
特殊要素モデルにおけるストルパー=サミュエルソン定理によれば,任意の財の相対価格 の上昇はその財の生産に固有に用いられる生産要素の実質価格を引き上げ,他財の生産に おける固有な資本のそれを引き下げる。換言すれば,輸入競争産業に対する関税保護はそ
14Mundell〔1957〕およびJones〔1967〕参照。
15Bhagwati〔1959〕p.197およびStolper&Samuelson〔1941〕参照。
16Batra〔1973〕,拙稿〔1977〕参照。
17 関税障壁と外国資本の流入に関する貿易理論的一般均衡アプローチに対する批判的検討については,
Michaely〔1977〕, pp.88−90, Meier〔1968〕,第7章,参照。
66
の産業の利潤率を高め外国資本の流入を促進する反面,輸出産業の利潤率を低め,資本流 入の減少ないし資本流出をひきおこす。特殊要素に関するストルパー=サミュエルソン定 理は,以上の二つの仮定の修正を行ってさえも,一般均衡論的には関税障壁が外国資本の ユ
流入を促進するとは必ずしもいえないことを教える。
しかし実証研究の多くは実際,保護が資本流入を促進するという観察結果を得ている。
われわれの理論的考察の結果からこの肯定的事実をいかに解釈するのが適切であろうか。
ミケーリィは部門七化資本の供給強力性が相対的に高い産業に高関税をかけるという差別 ユ
的関税保護構造に説明を求める。この見解が前節での関税政策の決定因分析結果とどのよ うなかかわりをもつのか興味深い。 ・
部分均衡分析 外国企業の生産立地決定における関税障壁の影響についてホーストは部分
均衡モデルを展開した。その結果その影響の程度は,生産条件(逓増費用か逓減費用か)
と関税の引き上げ幅に依存することが指摘された。逓増費用ケースでは,関税率の引き上 げは輸出の対外投資への代替を招くが,逓減費用の場合には,関税率の引き上げの対外投 資へのインパクトは関税率の引き上げ幅に依存する。小幅のときは輸出コストの上昇に伴 い,輸出量減少というこれまでの戦略上での限界的な調整にとどまるが,関税率の大幅な 引き上げは輸出から対外投資へと新しい戦略への根本的な転換をすると主張される。関税 水準と対外直接投資との間に何らかの臨界水準ないし不連続性が存在することはうなづけ
る。
関税工場論の適用範囲 ところで関税工場の議論は,どのような国が関税保護を行うにせ よ,その妥当性は一般的であろうか。またそれは関税保護産業の性格に依存しないのであろ うか。前者については次の様に考えられよう。多国籍企業の輸出か子会社生産かの選択に は,関税のみならず市場規模によっても影響をうけるであろう。その国が小規模である程,
外国企業が輸出を選択することを望むと思われる。ケイヴズはこのことから,逆にいえば ユ
小国の関税賦課は外国企業による関税工場の設立を促すと主張する。
しかし関税工場の生産物に対する国内需要を十分に大きく増加させることは関税だけで はなしえない。関税賦課の対象となる輸入品に対する国内需要が小さい限り,外国企業を
18保護と直接投資の関係についてはすでにコーデンが理論的な考察を行っている。示唆に富み,最終 的な結論はわれわれのものと軌を一にする。しかし叙述的な分析であり,その依拠するモデルがどの ようなものかは不明である。Corden〔1974〕, pp.331−335およびCorden〔1967〕参照。ただし前者 は後者の改訂版である。
19Michaely〔1977〕, p.90参照。独占の下での実効保護の資源配分効果についてはRay〔1976〕,
〔1979〕,Dutton&Tower〔1979〕を参照。
20Horst〔1971〕参照。
21Caves et al〔1980〕, P.18,参照。
産業保護と産業組織 67 誘致するための必要条件は満たされない。もっとも国内市場向けのみならず,輸出向け生 産が重視されるならば,狭い国内市場の有する企業進出の阻止効果を減じるかも知れない。
結局,市場規模の小さいLDCよりもむしろ先進諸国にとって「関税工場」論は意味をも つといえる。その意味ではケイヴズの主張はあやまりである。相対的市場規模は関税工場 の妥当性に大きく関係する。それは既述のホーストの研究結果によって経験的な裏付けが
得られている。
最:後に関税保護による外国企業誘致策は,いかなる産業についても同じ程度に有効でな いことを述べておこう。関税保護は資源指向型産業よりもむしろ市場指向型産業の誘因と なる。かくして資源開発のための垂直的統合よりも水平的統合のタイプの直接投資のケー スに,関税工場の議論はよくあてはまる。また外国企業の優位性の種類にも留意する必要 がある。他国に移転不可能な要素に基づく優位性の場合には,たとえ関税障壁が設けられ ようと,対外直接投資をつうじて市場の維持をはかることは不可能である。この議論の敷 桁として,標準化された財を生産する産業よりもむしろ差別化製品産業にとって,対外投 資は輸出の代替物たりえるであろう。もっともこの推論は,対外投資の市場構造的決定因 からじかに導かれる性質のものである。
関税工場と乗っとり これまで繰り返し行ってきた経験的および理論的考察は,関税障壁 をのりこえた外国系企業の進出が子会社の新設という形をとる場合に限定された。しかし 実際にはそれのみならず,既存企業の買収という形をとることもある。本節の初めの部分 で言及した数々の実証研究では,両者を明確に区別されていないのがほとんどである。
ルーバーとローズマンの行った実証研究によれば,外国系企業のシェアと乗っとりとの 23間,そして乗っとりと関税保護水準との間に強い正の相関関係がみられる。この結果は経験 的事実として,関税障壁をのりこえた外国企業の進出が,国内企業の乗っとりという形を とる場合もあることを指摘する。リプシー(Lipsey)が正しくコメントしているように,
乗っとりと関係するのは子会社の規模でなく,むしろ親会社の規模であろう。ともあれこ こで問題となるのは,関税工場が子会社・国内企業の乗っとりのいずれの形をとるかによ って,産業組織の観点からみて重要な差異がみとめられるか否かである。たとえ差が生じ 24ても,それが限界的なものであれば,両者を区別する必要は生じない。
関税工場の産業組織に与える影響は,とどのつまり対外直接投資の市場構造・成果に及 ぼす影響に依存する。前節でみたように,関税の対外直接投資に与える影響とともに,対 外直接投資(外国子会社の存在)が関税政策に同時的インパクトを与える。かくしてここ では関税保護がその産業の集中度を高め,競争を阻害する方向で作用する場合には,関税
22.本文63頁参照。
23.Reuber&Roseman〔1972〕参照。
24.この点について小宮は,重要な差があるとは思われないと述べている。小宮〔1969〕,p.269参照。
工場の設立は,外国系企業の参入をつうじて国内企業の市場支配力を弱め,競争的な産業 組織の維持に貢献することを述べるにとどめる。関税保護産業が強い規模の経済性と高い 集中で特長づけられる場合には,とくに関税工場の市場パフォーマンス改善効果は強調さ
れる。
しかし外国の巨大企業は,関税障壁のみならずさまざまな参入障壁をのりこえて,対外 直接投資を行う。既存の参入障壁に強いことは同時に,新たな参入障壁をつくることも得 意であることを意味するかも知れない。外国企業の子会社設立という形での参入が,関税 障壁かそれとも他のインセンチィヴに基づいて行われるかによって,対外直接投資の産業 組織に与える影響にそれ程差があるとは思えない。それ故関税工場が市場構造・成果にポ ジティヴ・ネガティヴのいずれの効果をもつかは,依然として対外直接投資そのもののイ ンパクトを知らなければ解明されえないであろう。
V 産業保護関税の市場構造・成果に及ぼす影響
問題の整理 産業組織上の観点から産業保護政策を検討することは,小国・高集中産業に ついてとくに有意義であることはいうまでもないであろう。国の経済規模が高まるにつれ 貿易依存度は低下する傾向にあり,そして国の経済規模からみて小国と称される国では集 中度が概して高く・なる傾向にある。したがって小国ほど産業組織ないし競争政策における 外国との競争のウェイトが高くなる。
そうした国にとって外国企業の貿易面での参入を妨げる障壁としては,輸送費以外では 関税とNTBが挙げられる。 NTBはその形態が多様かつ複雑iであり,そのため比較可能 な保護の客観的尺度としての資格要件に欠けるきらいがあり,われわれにとって利用可能 なものはやはり名目関税と実効関税に限られよう。とはいえ参入障壁としてのNTBの重 要性を否定するわけではない。GATT体制の下での関税一括引き下げが促進されるにつ れ,今後ともNTBの参入障壁としての重要性は高まりこそすれ,低下しないと考えられ 馬る。もっともNTBを用いる場合には関税工場の議論に目を向ける必要はない。
関税はプラスで定義すれば,輸入競争と対をなす変数であるが,産業組織の観点からみ て,産業保護の程度を表わすものとして,名目関税と実効関税のいずれが適確であろうか。
名目関税は価格水準を左右するが,生産コストを含めて企業の超過利潤に関係するのは実 効関税水準である。関税保護が実効保護を基準に運営されているのか,それとも名目保護
を中心に考えられているのか,もっとつきつめれば,産業に対する関税賦課がどのような 目的にそって行われているのかによって違ってくる。関税保護がただ単に,国内産業の確 立ないし存続を保証するレヴェルで認定される場合には,関税水準は国内平均費用との関 係で決定され,国内生産者の潜在的利潤と無関係であるともいえる。外国企業の他の側面 25での優位牲を同時に考慮する必要があるし,また過剰な関税(redundant tariff)の問題もあ
25.過剰な関税についてはFisheison&Hillman〔1979〕参照。
産業保護と産業組織 69
り,関税水準が外国企業にとってそのまま参入障壁の高さを示しているとはいいがたい可 能性を否定できない。
関税は差別関税でない限り,既存の外国輸出企業のみならず,潜在的外国企業にも適用 されるものである。それ故関税は輸入競争のもう一つの代理変数である輸入比率の難点一 潜在的競争者を考慮していないという一をカヴァーする意義をもっている。しかし関税率 の引き下げによる輸入増大に伴う競争促進は,引き下げ後一定期間を経ないかぎり期待で きない。このことは関税保護と利潤率に関する実証分析に際しては,比較的長期にわたる 時系列データを用いる必要性を示唆する。それと関連して指摘されるのは,関税工場論の 経験的検証には,クロス・セクション分析が不適なことである。いくら高い関税が課せら れていても,対外投資をひきつけるに充分でない産業が存在しうるからである。関税工 場論のみならずより一般的な理由から,関税の配分効率閉果に関する分析にとってクロス
・セクション・アプローチは適切ではない。それは第III節の関税政策の目的に関する議論 から明らかであろう。つまり実際の保護措置は,その決定プロセスからみて,競争部門・
独占部門に余り関係なく与えられる傾向がみられる。このことは高関税であっても,、超過 利潤を発生させないケースも存在しうることを意味する。
関税工場の議論は又,製品の差別化と関連付けるならば,産業保護と利潤率に関する統 計的分析は,全産業サンプルでなく,消費財・生産財サブサンプルをベースとして展開さ れなければ,十分な成果を期待できないことを示唆する。この財グループ毎の検証はより 一般的かつ強力な理由からも要請される。今日の世界貿易の主流は,主たる説明変数に製 品の差別化が求められる産業内貿易である。関税工場論は,さらに一層の示唆を与えてく れる。関税水準によって輸入競争の程度を計測し,輸入と利潤率の関係を分析するアプロ ーチは,対外直接投資と貿易の代替性の考慮に基づいて行わねばならない。
関税を一つの参入障壁と考えた場合,一つのありうる推論は,関税はそれだけ国内生産 者の参入をひきおこすことなく設定しうる制限価格を引き上げ,その結果他の事情にして
等しい限り,関税は利潤率を引き上げる作用をするというものである。しかしそれ程簡単 にはいかない。関税と利潤率の間に負の相関が見い出される場合も生じうる。これらの相
対立する予想を説明する上で,単純化された支配企業モデルが説得的である。
両者の間に正の相関が予想されるのは,支配企業が自国に属し,より小さな企業および 潜在的参入企業が外国に属する場合である。逆に負の相関が期待されるのは,支配企業が 外国に属し,より小さな企業が自国に属する場合である。前者のケースにおいては,貿易 自由化は創造的破壊者としての外国企業の参入を促すことになる。一方,後者のケースに
26 外国との競争は配分効率のみならず,技術効率にも影響する。関税の技術効率に与える影響につい てはEastman&Stykolt〔1960〕が詳しい。
27Corden〔1974a〕, pp.216−219参照。
おいては関税保護は国内市場に対する外国企業の独占的市場支配力の制限政策・国内競争 企業の育成策としての関税政策の役割をクローズ・アップさせる。このように支配企業が 外国企業である場合とそうでない場合とでは,関税の利潤率に与える影響は異なってくる。
ところで関税障壁と利潤率について統計的分析をなす場合,両者の間にもともと連続的 な関係が予想されるとはかぎらないことに注意せねばならない。その一つの理由である過 剰な関税についてはすでにふれた。しかし一般に参入障壁の高さと利潤率との関係は,少 28:なくともいくぶん不連続であるといわれる。いま利潤率決定において集中度と参入障壁 の関係を図示すると第1図が得られる。
高利潤
高い参入障壁
低い参入障壁
高利潤 高い参入障壁
低い参入障壁
高集中 高集中 第1図 集中度・参入障壁・利潤率
これらの図を関税障壁について解釈すれば,次の仮説を示すこととなる。弱い関税保護 をうけている産業では,その国内集中度は利潤率にほとんどもしくは全く影響を与えない。
一方,関税保護の程度が大きい産業では国内集中度は利潤率と正の関係をもつと考えられ る。以上の仮説は,関税保護の程度と輸入水準との間に有意な負の相関がみられるならば 支持されよう。
前者の産業では輸入競争が強いため国内市場における生産の集中は,ほとんど販売の集 中を反映しない。一方輸入競争の程度がほとんど無視できる強い関税保護の下では生産の 集中は利潤率に良く反映されうる。利潤率の決定において集中度が一つの支配的な要因で あり,それに加えて関税保護水準と輸入水準もしくは輸入比率との間に連続的な負の関係 がみられるならば,関税保護と利潤率との間に有意な正の相関が期待されよう。しかし保 護政策の目的に関する第III節の分析によれば,高関税と高輸入水準が併存するケースを排 除できない。
さらにより重要なことは,関税政策といくつかの市場構造変数が相互依存関係にあるこ とである。規模の経済・集中度・研究開発・市場需要の成長といった市場構造諸要素は産 業の関税保護の程度に影響するが,同時にそれらは関税賦課後の市場構造・成果にインパ
28.Bain〔1968〕p.493
産業保護と産業組織 71 クトを与えるのである。かくして関税保護と利潤率の関係をさぐる場合に何らかの形で同 時決定モデルを用いなければ,充分な検証となりえないであろう。
若干の実証結果 以上の諸点に着目しながら,これまでなされた諸研究の成果を紹介する ことにする。第II節で述べたように,輸入競争の配分効率効果に関する実証研究のほとん どが輸入比率に偏向しており,関税を用いた分析は極めて少ない。そしてNTBについて の分析はわずかにパグラトス=ソレンセン〔1976〕にみられるにすぎない。
最初にマクフェトリッジおよびジョーンズ=ローダディオ=パーシイは,カナダ経済に おいて実効関税の価格・費用マージンに対する影響を早い出すことができなかった(有意 29
でない負の相関)。アメリカについてはパグラスト=ソレンセンがNTBで示される輸入競 30争と利潤率との間に有意な正の関係をみたが,名目関税についは有意でなかった(符号は負)。
プーゲルの研究に至ってはじめて有意な結果がえられている。すなわち名目関税について 有意な正であった。しかし実効関税については有意でない。
一方ケイヴズは関税が小規模な非効率な生産者を存続させるか,それとも効率的生産者 の新規参入を許すかのいずれにせよ,売り手の数をふやし集中度を下げる作用をすると考 32
え,カナダについてサポータブルな結果を得た。つまり関税は技術効率にマイナスの効果 を与える以上,関税が集中度を高め,利潤率を引き上げることはないと主張される。また イギリスに関してヒティリスはケイヴズと同様に有意な負の係数値をえている。
関税と利潤率との関係についての実証研究の中で,とりわけブロックの試みは注目され 33る。ブロックは関税と集中度の利潤率に及ぼす影響の相互依存度性と,その影響力の不連 続性の二つの理由から,回帰分析は適当でないとして比較分析を行った。すなわち関税水 準と集中の程度の二分法に基づき産業グループを四つに区分し,カナダ産業対アメリカ 産業との比較で,価格・直接コスト・利潤率についての指数を求めた。そこで導かれた 結論は次の様に要約される。第一に関税と集中度は価格引き上げ作用において相互依存的 であるが,関税は二次的な影響力しかもたないこと。第二に高い関税は高集中産業でのみ 高い単位費用と関係する。高関税が高位集中における高い単位費用の結果であるというよ りは,むしろ原因であるとみられる。つまり市場規模に比して企業規模が大きすぎるので ある。この結論はイーストマン=スタイコルトの解釈,そしてケイヴズのえた結果とも一 34
致する。第三に関税が利潤率に影響するという証拠も集中度の利潤率への影響の程度が関
29.McFetridge〔1973〕およびJones, Laudadio&Percy〔1973〕参照。
30.Pagaulatos&Soreusen〔1976〕参照。
31.Puge1〔1978〕参照。
32.Caves et al〔1980〕, PP.52−53参照。
33.Bloch〔1974〕参照。
34.Eastman&Stykolt〔1967〕, Caves et al〔1980〕参照。
税水準に依存するという証拠も示されなかった。したがって関税と集中度の相互依存性に ついては確定的なことはいえない。結局ブロックの分析結果からは,集中度が高い程利潤 率は高いという仮説はサポートされるが,関税率が高い程利潤率は高いという命題は立証 35
されていない。
VI 結 論
われわれは国内産業保護の産業組織に与える影響をみる上で,関税政策の決定因および 関税工場に関する分析が不可欠であることを幾度も強調してきた。前者の分析は,国際貿 易の利潤率に与える影響を明らかにする際,国際貿易の決定因とのかかわりで論じるのが 何よりも重要な視点であることと同様の理由からその存在理由が正当化されうる。
前者の分析から導かれたことを要約すると次の様である。第一に関税政策の決定モデル としてプレッシャー・グループの存在を重視するアプローチが最も説得的である。第二に 産業組織の観点から関税政策をながめると,その決定因として重要視されるのは,集中度
・規模の経済・市場需要の成長・研究開発・外国系企業の存在等であり,恐らくは需要サ イドよりむしろ供給サイドの要因のウェイトが高いと考えられる。
関税工場論に対する一般均衡・部分均衡分析が明らかにしたことは次の様に要約される。
外国企業の輸出か子会社生産かの選択において,関税・相対的市場規模・費用条件等が電 要な役割を果す。さらに関税工場は,製品の差別化をその市場構造的特長として有する産 業,そして水平的対外直接投資にのみ関係するであろう。
本稿での考察は,関税保護の産業組織に与える影響を検討する場合,何よりも利潤率を 決定する市場構造変数と関税水準との相互依存関係を考慮する重要性を強調している。そ して輸入競争と利潤率との関係をみる場合に,単に貿易のみならず,対外投資と貿易の相 互依存関係にも注意を払う必要性を指摘する。集中度一利潤率分析に国際要因を導入して 開放経済における集中と競争の問題に接近しようとするとき,輸出・輸入・対外投資とい ったチャネルをそれぞれ独立に取り上げるのではなく,それらは相互に関連し,同時決定 の関係にあることを認識しなければならない。
関税保護と産業組織の問題に関する研究はまだ緒についたばかりである。この分野での 一層の実りある研究成果は,国際経済学と産業組織論との有機的総合がはかられてこそ達 成されうる。これまでの研究の多くはカナダ経済等に偏っている。開放経済下の小国を中 心としてより一層の研究のつみ重ねが必要であり,輸入競争の配分効率効果の分析は本稿 での関税アプローチと輸入比率アプローチの両者が併行して行わなければならない。本稿では方 法論的ないし理論的な考察をしたにとどまるが,今後一層の実証研究を期待してやまない。
35 未見であるが,関税保護と利潤率に関する実証分析で同時方程式アプローチによる注目すべき研究 が存在する。Caves〔1979〕にその内容が紹介されているGupta〔1977〕参照。
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