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Yutaka FUKUYAMA

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Academic year: 2021

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(1)

慣性概念を意識した力学の教材展開

(平成7年3月15日受理)

AStudyontheTeachingofInertiaConcept

Yutaka FUKUYAMA

(Received March15,1995)

1.はじめに

 この報告の目的は,外力の働いている質点の運動で,慣性の果たす役割を意識的に理解 させるため,質点の速度と位置を,求積法によって求める方法を紹介することにある。

 高校生や大学生の力学の学習における慣性概念の指導において,次のような問題点が存 在する。

(1)多くの教科書で第1法則(慣性の法則)は,物体に外力が働かなければ,その物体は 等速度運動を行うという内容で表現されている。これを実証するための実験は,通常エアー トラックやドライアイスパックなどを使って摩擦や空気抵抗をなくした状態で実演される ことが多い。このため生徒たちの中には,摩擦や空気抵抗のある地上の我々のまわりで起 こる運動では,慣性の法則は成立しないか,近似的にしか成立しないと考えるものがいる。

(2)空気抵抗を無視した放射物体の運動は,慣性による運動と重力による落下運動のベク トル合成によって,放射後の位置を図形的に求めることができる。水平方向は重力が働い ていないので慣性の法則が成立する。では,空気抵抗を加味した場合の運動は,水平方向 にも空気の抵抗力が働くため慣性の法則は成立しないのだろうか。

(3)大学の教養の物理学の講義では,運動の第2法則は質量卿と加速度αの積が力Fに 等しいという運動方程式で表される。質量に働く力がわかっている場合,この物体の速度

と位置は,運動方程式を積分して求められる。この運動において,慣性はどのような役割 を演じているのか。それとも力が働いているときは第1法則の条件を満たしていないので 慣性運動は存在していないと考えられるのだろうか。

 このような慣性に関する生徒・学生の戸惑いを無くし,慣性の正しい理解をうるために,

力学の歴史の中から運動における慣性の役割を抽出し,それらをどのような順序と内容で 学ばせると効果的な教材となるかについて考察を行った。

2 運動の概念の変化

力学の運動を理解するために,次の5つの段階で考えることにする。

(2)

2 長崎大学教育学部教科教育学研究報告 第25号

 第1段階は,ガリレオのr新科学対話」の中 で論じられている,ある物体の水平投射の運動 である1)。ここでガリレオは,図1に示すよう に,この物体の有限時間後の運動の位置は,そ の水平(x)方向への初速度θoによる慣性運動

%=∂0渉

︵1︶

と鉛直下方③方向)への落下運動である等加 速度運動

       1

     ツ=訓2    (2)

との(ベクトル)合成の運動として理解できる ことを見いだした。これは,運動の理解への重 要な1歩を踏み出した考察であり,1つの運動 を2つの基本的要素(水平方向と鉛直方向)に 分解し,それを合成して理解するというそれま でにはなかったやり方を確立した点に十分な注 意を払うべきである。

 次に,第2段階は,任意の方向に投射した物 体についての運動である。第1段階での水平方 向でのみ成立すると考えていた慣性法則を,投 射されたどのような方向へも,慣性の法則が成 り立つという一般化を行ったことである。デカ ルトとニュートンにより,今日の慣性の法則が はっきりと意識され,地上の任意の方向へ投射

S1=Vot

bO﹃l

bOI一

ら∂

      

S1=Vot

図 1

         

r=S1十S2

図 2

     ↓j      2      t      9     1一り乙      =/ ↓髄  \

された運動が,図2に示すように,投射された方向への慣性運動 S1=砂0!

︵3︶

と鉛直下方への(重力による落下運動である)等加速度運動      →  1  →

     S2一ア!2ブ    F       (4)

の合成の運動として理解できるようになった。ここでブは鉛直下方の単位ベクトルを表す。

この段階で,モソキーハンチングの問題がうまく理解できるようになる。

 第3段階は,第1段階の水平投射の運動で,打ち出す物体(弾丸)の速度を,だんだん と速くしていくことにより,地球を回る運動が可能となる運動である(図3)。この外挿 的考察によって月や人工衛星の運動の理解を可能にした。しかし,この場合の運動は水平 運動と鉛直運動が,図4に示すように,第1段階の場合とは異なり,有限な時間後の運動 ではなく,まず最初の微小な時間△!での水平方向への慣性運動

△S1=∂0△!

︵5︶

(3)

△s1

地球

R

△s2

  ﹃  ノ    ノ  !︐

∠ゲ

△S1=V。△t

△s  1

 2㌔9(△t)2

図 3 図 4

運動との合成運動とするアイディアを 放棄しないで,そのかわりに,微小時 間ごとに少しずつ変化する慣性運動と 落下運動を合成し続けることによって 理解できると考えたことにある(図 5)。そしてこの手法の仕上げとして,

微小時間を無限に小さくする極限にお いて正確な運動の軌跡を導くことがで きるようになった。さらにこれを逆に,

重力の向きが変わらない地上の運動に も適用し同じ手法で運動を導くことが

と地球中心(鉛直下方)への等加速度運動      →  1    →         

     △S2=ア(△!)2ブ       (6)

とからなる両者の合成運動である。次に,この合成運動を,次の微小時間の慣性運動と見 なして,同じ微小時間での新しい向きの鉛直方向の等加速度運動との合成運動を求める。

同様な手続きにより,求める有限の時間まで合成運動を計算し続ける。第1段階と第2段 階においては,有限の時間で慣性運動と重力による等加速度運動とを別々に考察して,最 後に両者の運動をベクトル的に合成を行ってもよかったのに比べて,第3段階に議論では,

重力方向が各瞬間ごとに変化するために,慣性運動と等加速度運動とを微小時間後ごとに 合成しなければならなくなった。

 次に第4段階の考察に入ろう。天上の運動は地上の運動を手掛かりにして微小時間ごと に区切って慣性運動と等加速度運動を合成することにより導けることを見いだしたが,こ の地上の運動と天上の運動を同じ手法で一般化して理解するには,どのようにまとめ上げ たらよいかを考察する必要がある。これは,重力による落下運動の方向と大きさが,時間 的にどのように変化したとしても,このときの運動を,慣性運動としての等速度運動と,

重力による落下運動としての等加速度

      →       V2△t   →        V3△t         \.→

   ▽1△t,す/2..∫一

     ノ  ノ      

    →\ノ ノ→ →    V4△t     S/ △r3△r4  ・、、!ぐ

   ノ  ノ       

   ! !△r2   △75 s   ず

Vo△t!       ・ →   ノ      ¥、 V5△t  \」      、

 孤  す一19(△t)2了 一 く   △r1   2     △r6 →       S

      レ      

    △rl=v,△t+s(i=1,2,・・)

図 5

(4)

4 長崎大学教育学部教科教育学研究報告 第25号

できることを確認した。その結果として,天上と地上の両方の運動に適用できる運動解析 の方法が1つの体系として確立されることとなった。

 第5段階。さらに,この体系を最終的なニュートンの力学体系として仕上げるためには,

力の概念の導入と整備が必要であった。まず,地上と天上の運動の加速度運動はどちらも,

地球による引力(万有引力)という新しい種類の力によるものであり,その引力の大きさ は,物体と地球の中心からの距離の2乗に反比例することの発見である。また,それまで 認知されていた,押したり引いたりなどの接触力とこの万有引力は,ニュートソの第3法 則である作用反作用の法則を満たすと考えた。この力によって物体の速度∂(正確には運 動量郷∂)の変化を生じさせることにより,運動の変化は力によって起こるものであるこ

とを明らかにし,ニュートンの運動の第2法則として

郷(砂一∂o)=F(渉一オo)

︵7︶

と表されていることを明らかにした。その結果,どのような運動も,ある時間ずoから微 小な時間△!1=肉一渉0後の時刻肉には,力には無関係なその時間の速度による慣性運動

と,力の働きによる微小時間の等加速度運動の合成による速度と位置が求まる。次の微小 な時間△渉2=オ2一≠1後の時刻!2には,前に求めた!1での合成速度を初速度とした慣性 運動と△!2の間に働く力による等加速度運動により合成された速度と位置を求める。この ようにして,次々と微小な時間間隔ごとにくぎって速度と位置を求めて行く事によって時 間!後の速度と位置を求めることがニュートソ力学の神髄である。このときの時間間隔を 小さくすればするだけ正確になり,この操作が微分積分の計算の本質を示してくれる。初 等力学の教科書では,上に述べた卿△〃=F亙を用いて,この両辺を△!を割り算して,

吻△砂/△渉=Fと書き直し,邸→0の極限を取って加速度αを定義し,結局は,運動を 灘=F,または,挽d∂/宙=Fと書き表している。そこで運動の様子(速度と位置)を 求めるには,この方程式を積分して求めることになる。しかし,この微分方程式を解くこ

とに還元された学習では,初心者には前の節で述べた慣性の役割が見えて来ないし,意識 されないままとなり,はじめに述べたように力学を非現実の世界の理論と考える1つの原 因となっている。そこで,運動における慣性の役割をはっきり理解するために,単に微分 方程式を解くだけでなく,ニュートンの手法にしたがって,微小時間を考えた速度と位置 との変化を求めるやり方を学習することが大層有効である。そこで,次の節では,その一 般的な手法を考察する。

3.微小時問による運動表現と鉛直方向の落下運動

 ここでニュートン流の力学の考え方を整理してみよう。以後の議論は簡単のため1次元 で考察するが,3次元への拡張は簡単に行うことができる。例題として,地上の運動の速 度と移動距離について考察する。

 まず,速度の関係を求めてみる。微小時間△!(=渉1一云0)のあいだに速度が∂0から晒 に変化したものとする。すると∂1は

砂1=ρ0+(∂1一∂0)

︵8︶

と書けるが,この式の右辺の括弧の砂1一∂oは,運動の第2法則の(7)式をつかって

(5)

       ∂1=∂0+(Fo/窺)△渉      (9〉

と書き換えられる。ここでFoは亙のあいだに働いている力であり,亙はトちの%等 分の時間間隔とした。

 次の△渉(=ず2一渉1)のあいだに速度が∂1から吻に変化すると,∂2は

       ∂2=∂1+(F1/窺)△!       ⑩

と書ける。同様にして,一・般に∂zは

       砺=砺1+(君_1/卿)△!       ⑳ と表すことができる。その結果,時刻渉での速度∂.は19)〜⑲式から計算でき

       ゆ  

       砂.=砂o+Σ(Fl/挽)△云      ⑬        ε=0

で表される。

 次に,この場合の移動距離(出発点を座標の原点として座標ッで表す)を考える。

邸(=あ一ガ0)のあいだに移動した距離△ぬはマートンの法則によって       1

       ムギ1=τr(び・+∂1)△!       ⑬

と表されるから,この∂1に(9)を代入すると

      1

       ムツ1=秒0△ず+一(.Fo/吻)(△!)2         ⑯       2

と表される。この式の右辺第1項は% の慣性運動による移動距離を表し,第2項は力 Foによる加速度運動による移動距離を表す。

 同様にして,1番目の△♂の移動距離は

      1

       ムツガ=∂Hムオ+万(君一1/窺)(△!)2      ⑬ と表され,結局,!=渉o(ニ0)から渉=!までに移動した距離のすべては

         の

       .y=Σムツz      ⑯

         多=1

         π一1    1箆一1

        =乱醐+万、邑(昂/郷)(ムオ)2     @

となる。

 ここで,地球上での鉛直線上の落下運動を考える。

このときの力は

       君=一脚       ⑬

と表される。その結果,⑫式は

       砺=砂o−9%△!      ㈲ となる。孤!をずで表すと(!を一定にして%→・・,邸→0の極限で,∂.→∂)

(6)

6 長崎大学教育学部教科教育学研究報告 第25号

       ∂=∂o−gr!

と表される。

 さらに,⑩式にも⑱式を代入すると,簡単な計算の結果        1

        ツ=拶・%△卜互9%2(△渉)2

となる。前と同様にして,船渉→勘一〉・・,湿→0)とすると       1

        ツニ∂・卜万9渉2 と表されることが導ける。

¢⇒

4.速度に比例する空気抵抗のある落下運動

 次に,運動物体に働く外力として,重力だけでなく空気の抵抗をも考慮した場合を考察 する。ここでは空気の抵抗は速度に比例するものとする。このときの外力は

        君=一7麗9一卿β∂,,(β>0)       ㈲ と表し,βは質量卿に依存しないものとする。

(9)式のFoに,ズ=0としたときの㈲を代入すると         ∂1=∂0一(9+β∂0)△渉

      =6ρo−9△≠       ¢φ

ここでoは

        6=1一β△あ(6<1)      ㈲ と定義した。

 また,⑩式のF1に,づ=1としたときの㈲式を代入すると

        秒2=び1一(9+βか1)△渉

      =仰r9亙=02∂o一(o+1)9虚         ㈲

と表される。

 同様にして,π番目の速度砺は

        砺=∂π一1一(9+β∂%一1)△!

         =o吻o一(6%一1+o%}2+…+6+1)9△渉      ㈲

と表される。

㈲式の括弧の中は,公比6の等比数例となり,㈲を用いて計算すると         ρ,=(1一β%△!/銘)%∂。一{1一(1一β剛/%)%}9/β

となる。

(7)

ここで,船!=一定して,%→・。,邸→0のときの砺を∂とすると

       ∂=一9/β+(∂。+9/β)6誠       ㈲

と表すことができる。

ただし,ここで

       召=1im(1+1/%)π       ㈲

         麗→oo を用いた。

 次に,このときの運動物体の移動距離,または,はじめの位置を原点とした座標ッを求 めてみよう。

マートンの法則⑬式に,¢心式を代入すると        1      1

       △yl=〃・ムオ79(△!)2−7β・・(△!)2    ¢O と表される。この式の右辺は,第1項が慣性による運動を,第2項,第3項が,それぞれ,

重力による運動,空気抵抗による運動を表しており,それぞれの微小運動の加法として表 すことができるという特徴がある。

 同様にして,づ番目の△歯は

      1     1

       △yゼ=∂H△卜79(△渉)一万β∂づ一1(△渉)2    吻

と表すことができる。

これらを1から%まで合計し,それをy。と書くと          π      1      1

       ツπ=」⊇価一1△卜万9(△!)一許1−1(ムガ)2}

       1

        =一(9/β)剛+プ・/β0(2一β△!){1一(1一β%△卿)

      1

         +万(9/β2) (2一β△渉){卜(1一β%△物)π}  ㈲

と表される。

この式に錫の式を代入し,簡単な計算を行い,前と同様の極限をとると(砺→0)

      ツ=一9ガ/β+(∂o+9/β)(1−6一βオ)/β      ㈱ が導かれる。

 G心式は,通常の力学の教科書で,微分方程式で表した運動方程式を初期条件をもとに解 いた場合と同じであるが,ここでのやり方は,単に,微分方程式を解くより慣性や各々の 力の運動の役割や積分の考え方が理解しやすい形式となっている。しかし,計算は,∂一 オグラフによる区分求積法の手続きを行うことに対応するため,手続きそのものは,やや こしく繁雑になるため,実際の計算には,微分積分をもとにした微分方程式を解く利点を も理解できるのではないだろうか。このようなプロセスを一度実際に学ぶことは,微分方 程式による運動方程式を解く物理的意味を理解するために有効なことがらであると考えら

れる。

(8)

8 長崎大学教育学部教科教育学研究報告 第25号

5。おわりに

 慣性の概念は,力学の体系化に際して重要な役割を演じたが,学習者には慣性概念を正 しく理解することはなかなか困難である。その原因の1つは,ニュートンの運動法則の表 現が必ずしも統一されておらず,初心者にはわかりにくいからである。

 有尾善繁は,このような誤解や疑問を学習者に生じさせるのは,二.ユートソのプリンキ ピアの法則体系を,今日もそのまま力学教育において用いているからで,もっと論理的に 一貫した体系とすべきであるとして,力学体系の論理体系の分析を行っている2)。その中 で有尾は外力が加わっているときの慣性の役割を明確に理解させるために,運動の第1法 則を, 外から力が加わらなければ という条件を不適当と考え,r物体は外から力が加わ

ると否とにかかわりなく,従前の位置の運動と同じ速度・方向をもった位置の運動をそれ 自身で継続して行う。これを物体の慣性という」と変更することを提案している。また,

実際の運動はこの慣性の運動とそれとは独立の力による速度の変化を生じる運動との合成 と見なす事の重要性を述べ,いわゆる第1法則は,外力の働かない極限の状態を表すもの であるという指摘を行っている。

 また,第2法則の表現が微小時間における運動の表現であるのにたいして,第1法則の 表現は有限時間の運動の表現になっているという不統一が感じられる点も見逃せない。

 このように,運動の法則の表現は,力学を学び始めた生徒・学生たちには必ずしも学び 易くはなっていない。多くの生徒に力学がもっと学び易い体系になるような教材の見直し とその研究が必要である。本論文は,そのような試みの1つとして,運動による速度と位 置を,直接微分方程式を解くことによって求めるのではなく,力学を創り上げた精神にそ

って,あえて区分求積法を用いて空気抵抗がある場合の運動の様子を求める教材展開を紹

介した。

       参考文献

1)ガリレオ・ガリレイ著,今野武雄他訳:新科学対話下(岩波,1956)146 2)町田茂・有尾善繁:現代科学と物質概念(青木書店,1983)45

参照

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