未延伸6‑ナイロン糸のヤング率の水分率依存性について
長崎大学教育学部末松宗雄
Moisture Dependency of Young's Modulus in the Undrawn 6‑nylon Filament on the Dehydration
Muneo SUEMATSU
Faculty of Education. Nagasaki University, Nagasaki 852 (Received Oct. 31, 1976)
Abstract
The dynamic Young's modulas in the undrawn 6‑nylon filament has been studied with the pulsed longitudinal sound wave method under various moisture contents.
The results obtained as follow :
1) The undrawn 6‑nylon filament is dehydrated by P2O5 from 5% moisture condition
to anhydrous condition after about 240 hours, and the longitudinal wave velocity
in the undrawn 6‑nylon filament increasea from 1,400 m/sec under 5% moisture
condition to 1,700 m/sec under the anhydrsus condition.
2) In the attempts of dehydration under several kinds of R. H., each time the longitudinal pulsed wave velocity in the undrawn 6‑nylon filament reaches the saturated value of velocity after about 168 hours.
3) For the adsorption of water under the condition of 91% P. H. and 20℃, the
longitudinal wave velocity in the undrawn 6‑nylon filament decreases rapidly from 1,700 m/sec to 1,300 m/sec under the anhydrous Conditions after 24 hours adsorp‑
tion, and gradually deereases to 1,200 m/sec after 312 hours adsorption.
4) It is shown that the longitudinal wave velocity in the undrawn 6‑nylon filament increases gradually along with decreased moisture contents, and rises up suddenly
at 3% moisture. Above 3% moisture, the longitudinal wave velocity decreases gra‑
dually along with the increasing maisture contents. On the other hand, below 3%
moisture, the longitudinal wave velocity suddenly increases along with the decrea‑
sing moisture contents.
5) It is shown that the dynamic Young's modulus in the undrawn 6‑nylon filament increases gradually along with the decreasing moisture contents, and changes
suddenly at 3% moisture. Above 3% moisture, the Young's modulus decreases
末松宗雄
gradually along with the increasing moisture content : It is probably dependent upon the water of the Langmuir's absorption in the capillaries of amorphous parts.
Below 3% moisture, on the contrary, the Young's modulus suddenly increases
along with the decreasing moisture contents : It is probably dependent upon the exclusion of strongly bound water in the water‑6‑nylon system.
1.緒言
紋経は吸水により物理的性質が大きく変化することがよく知られている。特に繊維は吸水に より密度が変化することを小田1.2)等は明にし, J. J. Creely and V. W. Tripp3はセルロ ーズの結晶率が水分率により変化することを明かにし,測野4)等は熱応力が水分率により変る ことを示しL. Rebenefled et al5)は乾湿状態によりレイヨソ糸の強伸度曲線が大きく変る ことを明かにし,またJ. P. Walters6*はナイロソ610のE′, E"とtanSの温度依存性が乾 湿性状態により大きく変ることを明にした。
本報告では未延伸6 ‑ナイロソ糸における!くルス波の伝播速度及び動的弾性率は水分率によ り大きく変り,また脱水・吸水過程において異なる状況となるとともに,動的弾性率および伝 播速度が安定するには長時間の脱水および吸水が必要であることを報告する。
2.実験方法および試料
試料,発振子,受圧子(第1‑2図参照)および重錘を第1図の20‑Cに調整した硝子2重
第1図縦!ミルス披速度測定装置第1 ‑2図(a)振動子片のcutと構造(b)試料固定法 振動子の切断方向と,ノミイモルフ構週の図Kl; K2 を保持片Aj, A2を保持器にアラルダイトにより固 定するNylonを保持片端BにNylonのループで 固定し, Nylonのフイテメソドで結束し,またCの 範岡をアラルダイリで固定するようにした。
管の恒温室に封入して,3000Hzの縦パルス波を毎秒50回の周期で加へ,発振ジクナル,受振 ジクナルおよび時間目盛をシソクス・スコープにて写真にとり,パルス波の伝播時間を測定し た。第1−3図はそれらの写真の1例である。第1−3図(a)は%lo sec間の写真で時間目盛 は2×10㎝4secである,(b)(c)は発振シグナルと受信シグナルの波頭が受圧子へ到達するま での写真であり,時間目盛は10−5secある。また試料の長さは約800mmであって,その長さ はカセトメータで測定した。
試料の長さとパルス度の伝播時間からパルス度の伝播時間からパルス度の伝播速度を求め,
(a)
(b)
(c)
第1−3図オツシログラフの写真 1
(a) . secの波動と時間目盛,2×10−4sec,第1,第2エコーが現われがいる。
00
(b)パルス発振から到達波頭間の波動と時間目盛,10×一5sec(始の部分に多少の 波動の重複がある)。
(c)パルス発振から到達波頭間の波動と時間目盛,時間目盛は10−5secであるQ
4 末松宗雄
伝播速度から動的弾性率を求める方法を用いた。
試料は6一ナイ・ン未延800デニル15フイラメソトである。試料の糸は紡糸したままで200C において,密度ρ=1.133g/cm2,結晶化率αc=2L6%である。
3.実験結果
3.1 脱水速度
普通繊維は100%RHにて十分浸潤すると繊維に含まれている歪が取り除かれ,その後の長 さの変化は乾燥と吸湿では可逆となる。本実験では水中への浸漬等による結晶化度の変化,紡 糸による歪等の影響(非可逆収縮等)を除くためにあらかじめ水で処理した。
資料は200C,0.25%のモノゲン水2000ccの中にて未延伸6一ナイPン糸 100mgを3時 間洗浄し, 20。Cの水にて20時間水洗した後,約30分間風乾して表面に水分が認められなくな った時に,第1−4図の(D)部に5酸化燐を装入し,恒温に調製した脱水管にスプリソグ秤 にかけて封入した。脱水量をスプリソグ秤で測定すると第2図のようになる。脱水開始後24時 間でほとんど大部分の水は脱水されるが,しかし100〜200時間程度までは僅かに脱水する。そ の後はほとんど脱水しない。
6一ナイ冒ン未延伸フイラメントの含水率と相対湿度の関係は第3図のようになる。相対湿 度と水分率の曲線にて用いた試料は未伸6一ナイ・ン糸をベンゾールで6時間洗浄した後,ア ルコールで3時間洗浄し,20時間水洗した糸である。測定は20。Cの恒温室内において,塩化
ビニールで包んだ箱の中に直示天秤と試料を封じ込め,硫酸で箱の中を調湿し,天秤の指示が 一定になるまで充分な時間を置き平衡になつてから糸の糸の重さを測定した。
←
ノ ノ , ノ ノ , , , ノノ ノ!!ノ
ノ ノ4
ズ
一
島o鵠ら
一
ンkぐ20&)
←
第1−4図 脱水量の測定装置 スプリングの伸長はカセトメー『ターで測定
6
4
鵠へ2 咋《
{
o、oく
o. 、._ひ____ _。_...
O ,20 240 360..
1晦聞 鴫,
第2図 5酸化燐による脱水時間と水分率 の関係(14。C)
,15
10
へ漣
〉
威卜
余
{5
0
o
6
0 50 100%
一一一→ 尼,月.
第3図 相対湿度と水分率の関係(20。C)
3,2 含水率による縦パルス波の伝播速 度と動的弾性係数Eの変化 3.2.1脱水・吸水による縦パルス波 の伝播速度の変化
2.1のモノゲソ液の方法で洗浄し水洗 した未延伸6一ナイロソ糸を200Cの蒸溜 水の中に24時間浸漬して,大気中に3ケ月 間放置した後,第1図の(D)部に入れた 五酸化燐と共に恒温管の中に封入して,脱 水時間による縦パルス波の伝播速度の変化 を測定すると,脱水時間と縦パルス度の速 度の関係は第4図となる。五酸化燐と糸を 封入した時は糸の水分率は7%で伝播速度 は1400m/sec程度であるが,脱水時間と 共に伝播速度は急激に増加する。脱水24時 間で1550m/sec,脱水48時間で1640m/sec また脱水120時間で1680m/secとなる。脱 水120〜360時間では伝播速度はほとんど一 定となる。
脱水試験が終った後180C78%RHの空 気中に31日間放置して伝播速度を測定した ら水分率7.2%で1350m/secとなりほとん ど脱水前の状態に近くなっていた。このこ とは脱水による収縮の可逆とと一致する。
脱水後の吸水にかる速度の変化をみるた
lgoo
1700
ハ峯
く乙 鐸15
130%・
ロ
\
第4図
120 240 360 … 1104
一→肉m{晦)
5酸化による脱水における脱水時間とタテパルス波の速度の関係(20。C)と 空気中(18。C,79%)における644時間吸水後のタテパルス波の速度(18。C)
6 末松宗雄
めに,水分率10%の6一ナイ・ン糸から五酸化燐で良く脱水した後,280C91%R。H.の空気 中に放置しながら伝播速度を測定すると第5図となる。脱水中の糸における伝播速度は第4図
と全く同様であるが,五酸化燐で35日間脱水して水分率0%の6一ナイ・ン糸を 280C91%
R.H.の空気中に放置すれば,第5図の様にその伝播速度は吸水過程の始めの24時間では急速 に減少し,その後は負指数関数的に僅かに減少する,また約310時間後はほとんど一定となる。
3。2.2 相対湿度による伝播速度,動的弾性率の変化
第1図のD部の硫酸の濃度を変て6段階に調湿して,6一ナイ・ン未延伸糸の脱水による縦 パルス波速度の時間的変化を測定すると,第6図のようになる。82.6%R.H.(未延伸6一ナイ
・ソ糸の水分率7.70%)から70.5%R.H.(水分率5.64%),48.2%R.H.(水分率3.45%),
2.
3し 養傘
展 6
し
ぐP 8ゆ
き1.5
欝
12
0LO
一+一点鼻キ ーo一近瓦 一●一毘激
rびrB÷一8↓卜・
7/
0
、4、
\
_o−o。o−8一一一一一ro−8
。 /
・8、8
i\8一●一._
} 2
0 240 480 72て) 960
一一一一→略問(時)
5酸化燐による脱水時間とタテパルス速度(200C)と,280C,91%RHの 空気中における吸水時間とタテパルス波速度(280C)
1200
第5図
35ηo
ハ受8
農2000
)
葺
1…
ノ ゆ
て) 240 480 720 960
一一一一暗闇(蒔)
第6図 硫酸脱水による水分率とタテパルス波の速度および脱水時間と縦パルス波の 速度の関係(20◎C)
o
0
聴oトペ鳶奪 戚
も
塾 ゴ
虚
叙
畿 r
慧褐 t痴奪 に
眠 輸
N 撃
きく 、・鳶尽 記
K
−o.〇一 0 0 0 0
ρ /
◎ 8 〇一8−9一
・
!3で8一審8
之5
20
ハぎ く 辱 ミ ミ 翼
㌧
廻 域
1.5
lo
・ 一。一縦バルス波速度
\ _動的弾性係数
● \●
\0
\。
\丸\㌧
\k
4
へ3、
零 ぐ
、
ミ こ
藁 雫 2噸 噸 釜め ぶ 1
0 5 101
一一→爪分乎(ツ・)
第7園 水分率とタテパルス波速度,水分率 と断熱的弾性係数の関係(20。C)
37.1%R.H.(水分率2・60%),28・7%
R.H.(水分率1.85%)および17.1%R。H.
(水分率1.05%)においてそれぞれ168時 間保って脱水すれば,水分率3。45%から 2.60%への脱水において伝播速度は1350 m/secから1720m/secへ飛躍的に増加す
る。またこの水分率の間では同じ湿度に 168時間保つても伝播速度はまだ飽和して
いない。
水分率と縦ダルス波の伝播速度および動 的弾性率は第7図のようになる。水分率 3.45%以上では水分率の減少とともに伝播 速度は僅かに増加するが,水分率3%にお
いて伝播速度は不連続的に増加する,また 水分率2.60%以下では伝播速度は水分率の 減少により直線的に増加する。
この伝播速度から, E=ρv2の関係を用 いて動的弾性率を求めると第7図のように なる。ここでρは6一ナイロン糸の密度,
vは縦パルス波の伝播速度である。動的弾性率は含水率3%において,2.05x1010dyn/cm2か ら3.5×1010dyn/cm2へ急激に増加する。
5.考 察
未延伸6一ナイ・ン糸の脱水過程において,水分は第2図のように脱水開始後24時間で水分 率5%から0.8%程度まで急速に脱水されるが,尚240時間程度は僅ながら脱水が行われ,その 後はほとんど脱水されない。これはA.」。Hailwod and S.Horrobin7)のように,吸着水を 繊維中の原子団と特に強く結合した結合水と繊維に溶解している水に分けて考えると,脱水の 初期には主として繊維に溶解した吸着水が脱水されて,この吸着水は短い時間で脱水される が,脱水の中,後期には主として繊維と結合した結合水が脱水され,この結合水は脱水に長い 時間を要することを意味とすると考えられよう。
未延伸6一ナイ・ン糸の脱水による縦パルス波の伝播速度は第4図に示すようになる。5酸 化燐による脱水では,脱水24時間で1400m/secから1550m/secへ,72時間で1640m/sec,
240時間で1700m/secと増加する,また240〜360時間ではほとんど一定となる。これを先きの 脱水速度と比較すれば,脱水初期に大部分の水が脱水されるが,バルス波の伝播速度は中期に 大きく増加することが解る。したがって初期に脱水された水分は脱水の中期以後に脱水された 水分よりもパルス波の伝播速度により小さな影響をすることを意味する。
吸水過程における縦パルス波の伝播速度は第5図となる。 5酸化燐で816時間脱水した未延 伸6一ナイ・ソ糸を280C,91%R.H.の空気中に放置すれば,吸水24時間で縦パルス波の速 度は1700m/secから1300m/sec程度まで減少し,その後は312時間で1200m/secまで減少 する。このように吸水過程では脱水過程とは異なり,吸水の初期に吸着された水分が縦パルス 波の速度に大きな影響がある。これは吸水過程では初期においては水分は繊維と結合して結合
8 末松宗雄
水となり,ナ様に吸着して繊維全体が膨潤されたような状態となって縦パルス波速度は急激に 小さくなるが,後期に吸着した水分は繊維の溶解水として吸着するので縦パルス波には小さな 寄与をすると考えることが出来るであろう。
吸水・脱水過程において安定な状態となるには第5図,第6図から明なように約168時間を 要する。しかし水分率3.45%から2.6%への脱水においては168時間の脱水では安定な状態とな
らないようである,これと水分率3.45%〜2.60%において縦パルス波速度が不連続に増加する ことから水分率約3%で吸着水の様子が変り,Hailwood and Horrobin7)が主張するように,
水分率3%以下の吸着水は主として繊維の原子団と結合した結合水となり,約3%以上の吸着 水は主として繊維の溶解水となっていることを意味するようである。
以上のことは第7図においても考えられる。第7図において,水分率と縦パルス波の速度お よび動的弾性率の関係は水分率3.45%〜2.60%の範囲で不連続的に変化する。水分率3.45%以 上の範囲では動的弾性率と縦パルス波速度は水分率の増加とともに負指数の指数関数的に僅か に減少する。このことはHermass8)等の木綿に鳴更おける吸湿量一結合水の見掛の密度 におい て見掛けの密度が吸湿量2〜3%において急に増加するという結果とよく似ている9 10)。
5.結 目
未延伸6一ナイロン糸においては吸水脱水の過程において,縦パルス波速度および動的弾性 率は異なった様相を示す。
1.吸水過程では約24時間で縦パルス波速度はほとんど飽和値に近い値となる。
2.脱水過程では約72時間で縦パルス波速度はほとんど飽和値に近い値となる。
3.脱水・吸水過程においては,それぞれの相対湿度において,200〜300時間後に縦パルス 波速度は飽和値となる。
4.糸の水分率2.60〜3.45%の範囲では縦パルス波速度および動的弾性率は脱水開始後168 時間後も大きく増加する。
5.糸の水分率2.60〜3.45(約3%)では縦パルス波および動的弾性率は水分の減少により 急激に増加する。
6.糸の水分率2.60〜3.45%を嶢にして,未延伸6一ナイロソ糸における縦パルス波速度と 糸の動的弾性率は,糸の水分率3。45%以上においては,水分率の増加と共に緩かに小さく なる,これに反して,糸の水分率2.60%以下においては,水分率の減少と共に直線的に急 に増大する。
7.糸の水分率2.60〜3.45%を境にして,糸の水分率2。60〜3.45%以下の水分子は未延伸6 一一ナイロソ糸の繊維分子団と結合し結合水となり,糸の水分率2.60〜3.45%以上の水分子 は未延伸6一ナイロン糸に溶解していると考えられる。
参考文献
1)
2)
3)
4)
5)
小田;繊維誌13.51,116(1957)
和田,小田;高分子化学4.171(1957)
渕野,仲道,田中;繊維誌22,302(1966)
J.」.Creely and V.W.TripP;Text,Res.T.,41,371(1971)
L.Bebene£ed,Clinton V.Oster JR,and Lavaence F.Klurfeld;Tart。Res.J.,41,139(1971)
6)J.W.Walteai;ibid41,857(1971)
7) A。J.Hailwood and S。Horrobin;Trans.Faraday Soc,42B34(1946)
8) P.H.Hermans;J.Poly.Sci.,1,149,156,162(1946)
9) A。J。Stamm and R。H.Seborg,J.Phys。Cham,39,133(1949)
10〉 J。B。Speakmann&A。K.Saville;J.Text.Iust.,37,271(1949)