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四面体型構造を持つ

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Academic year: 2021

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(1)

1.

四面体型構造を持つ

sp3

混成の炭素原子に4つの異なる置換基が結合している時、そ の炭素原子を

asymmetric carbon

と呼ぶ。不斉炭素の特徴は、置換基の空間配 置に二種類の異なるものがあることである。たとえば、

2-

ブロモブタンは、2番目の炭 素に「水素原子、臭素原子、メチル基、エチル基」という4つの異なる置換基が結合し ている。このとき、下の2つの分子は同一ではない。

これらの間の関係は、「右手」と「左手」の間の関係と似ている。右手と左手は同じ 形ではない。その証拠に、右手用の手袋を左手にはめることはできない。一方、右手を 鏡に映すと、左手と同じ形になる。逆に、左手を鏡に映すと、右手と同じ形になる。

このように、「鏡に映すと違う形になる」という性質のことを

chiral

という。

右手、左手はキラルな物体の典型例である。 「キラル」という言葉はギリシャ語の「手」

χείρ, cheir

に由来する。先ほどの分子は、互いに異なる形であるが、左側のものを鏡に

映すと右側のものと同じ形になる。従って、この分子はキラルであると言える。キラル でないことを

achiral

であるという。

2つの物体が同じ形であることを「

superposable

」という言葉で 言い表すことがある。この言葉を用いて、左手と右手の関係を、次のように表現するこ とができる。「左手と右手は、重ね合わせられない」、あるいは「右手を鏡に映すと、そ の胸像と左手は重ね合わせられる」。分子の構造についても、このような表現を使って 立体構造を議論するので、覚えておくこと。

2-

ブロモブタンがキラルである原因は、不斉炭素を1個持つことである。有機化合物 の中には、炭素以外の原子がキラルである原因になっていることもある。そのような原 子のことを

asymmetric center

と呼ぶ。不斉炭素も不斉中心の一種である。本 講義で登場する不斉中心は、ほとんどすべてが不斉炭素である。

C CH3

Br CHH2CH3 C CH3 CH3CHH2 Br

左手 右手 左手 鏡に映した

左手 違う 同じ

(2)

不斉炭素を1個持つ分子は、必ずキラルである。不斉炭素を2個以上持つ分子は、キ ラルであるとは限らない。本章の後ろの方に、そうでない例を示す。

2.

2-

ブロモブタンはキラルであるから、不斉炭素の空間配置が異なる二種類の立体異性 体がある。これらは、互いに鏡像関係にある。鏡像関係にある立体異性体のことを

enantiomer と呼ぶ(注1)。

注1:古くは「光学異性体」とも呼ばれた。これは、エナンチオマーがある種の光学的性質(偏 光の振動面を回転させる性質)で区別されるためである。しかし、光学的性質が異なる異性体は エナンチオマーに限らないので、IUPAC はこの用語を推奨していない。

「キラル」と「エナンチオマー」という言葉の使い分けに注意すること。「キラル」

は、分子または化合物の性質を表す言葉なので、「

2-

ブロモブタンはキラルである」と いうように使う。一方、「エナンチオマー」は互いに鏡像関係にある立体異性体を指す 言葉なので、「

2-

ブロモブタンはエナンチオマーを持つ」というように使う。「一対のエ ナンチオマーを持つ」と言えば、より正確である。

3. R,S

不斉炭素の周りの置換基の位置関係のことを

configuration

と呼ぶ(「立体配 座」と異なるので注意)。不斉炭素の立体配置を表記するための規則として、 「

R,S

(R, S system)

がある。特定の不斉炭素について、立体配置を

R, S

のどちらで表すかは、

以下の手順で決定する。

(1)

・不斉炭素に直接結合している原子の原子番号が大きい方を上位とする。

・原子番号が同じである場合は、その次に結合している原子同士を比較し、原子番 号が大きい方を上位とする。

・二重結合・三重結合でつながっている原子は、同じ原子が2個・3個つながって いるものとして比較する。

2-

ブロモブタンについて検討してみよう。不斉炭素に結合している四つの置換基は、

H, Br, CH3, CH2CH3

である。不斉炭素に直接結合している原子はそれぞれ

H, Br, C, C C

CH3

Br CHH2CH3 C CH3

CH3CHH2 Br -

(3)

なので、

Br

が最上位、

H

が最下位である。

CH3

CH2CH3

はこの時点では「引き分け」なので、次の原子に進む。次に結合し ている原子は、

CH3

について「

H, H, H

」、

CH2CH3

については「

C, H, H

」である。

C

が一つあるので、

CH2CH3

の方が上位となる。

このとき、原子番号を足し合わせて比較してはいけない。一番大きな原子番号のもの から順に比較していく。たとえば、

–CH2OH

と–CH(CH

3)2

だと「O, H, H」と「C, C, H」

の比較になり、

O

が一つある方が上位となる。

結合している原子を順番に比較していくことに注意。たとえば、置換基が

CBr3

Cl

の場合は、まず

C

Cl

を比較するので、Cl が上位となる。

(2)

言い換えると、最下位の置換基が自分から一番遠くなるように分子を置く。

(3)

時計回りならばその不斉炭素の立体配置は

R

、反時計回りなら

S

と定める。

従って、この物質の正式な系統名は、

(S)-2-

ブロモブタンとなる。

(R), (S)

を定めるのに用いた「置換基の優先順位」を決める規則を と呼ぶ。順

位則は、不斉炭素の立体配置だけでなく、二重結合まわりの立体異性体(シス・トラン ス異性体)を区別するのにも用いられる。「アルケン」の項で改めて述べる。

CH3CH2

C CH3 H Br

1 4 2, 3

C H

H H

C CH3 H H

CH3CH2

C CH3 H Br

1 4 2 3

CH2CH3 CH3 C

H Br

3 2

1 4

CH2CH3 CH3 C

Br H

3 2

1 4

(S)-

(4)

4.

RS

表記を決定するとき、紙に書かれた透視図を元に、空間内で移動させる必要があ る。下の分子を例にとって、どのように考えればよいかを説明する。

(1)

よく使うのは、紙面内の水平軸、垂直軸の周りの

180°

回転である。垂直軸の周りに

180°

回転させると、下のようになる。図の「左右」「手前・奥」が入れ替わり、「上下」

は変わらないことに注目する。例えば、

NH2

基は回転前に「右・下・手前」だったもの が、回転後は「左・下・奥」になっている。

水平軸の周りに

180°

回転させると、「上下」「手前・奥」が入れ替わり、「左右」は変 わらない。

紙面内で回転させることもある。これは、紙面に直交する軸の周りの

180°

回転に相 当する。この場合は、「上下」「左右」が入れ替わり、「手前・奥」は変わらない。

(2)

「アルカン」の章で学んだとおり、単結合は自由に回転できる。下の2つの物質は、

真ん中の

C–C

結合の回転による異性体、つまり配座異性体である。立体配置を考える 場合は、配座異性体は「同一物質の2つの異なる形」と見なす。

C C

COOH

NH2 D HOH

CH3

180 C C

COOH

NH2 D HOH

H3C

C C HOOC

D H2N

OHH CH3

180 C C

COOH

NH2 D HOH

H3C

C C H3C

H HO

NHD2 COOH

180 C C

COOH

NH2 D HO H

H3C

C C CH3

OH H H2ND

HOOC

(5)

図の上で左の構造から右の構造に移行するには、右側の3つの置換基(

COOH, D, NH2

)の位置を順に入れ替えればよい。

(3)

(1)(2)

は「回転」なので、移動前と移動後は同一の立体異性体である。一方、キラル

な物質の立体異性体を考える場合には、鏡に映してエナンチオマーに変換して、構造を 比較したい場合がある。そこで、鏡に映すやり方にも慣れておく必要がある。

鏡に映す場合は、「左右反転」「上下反転」「前後(手前と後ろ)反転」の三通りにつ いて理解しておけばよい。左右反転の場合は、「左」「右」が入れ替わり、「上」「下」、

「手前」「奥」は変化しない。同様に、上下反転の場合は「上」「下」だけ、前後反転の 場合は「手前」「奥」だけが入れ替わる。

5.

キラルな物質の一対のエナンチオマーが1:1で混ざったものを

racemic

mixture

と呼ぶ。先に述べた通り、キラルでない物質からキラルな物質を合成すると、

両方のエナンチオマーが区別されずに生成するため、自動的にラセミ体になる。また、

単一のエナンチオマーだった反応物が、反応後に両方のエナンチオマーの混合物を与え ることを、

racemization

と呼ぶ(「ラセミ体になる反応」という意味である)。

あるキラルな物質が単一のエナンチオマーか、ラセミ体か、それともその中間か(2 つのエナンチオマーが混ざっていて、どちらか一方が過剰にある状態)を、簡単に区別 する方法が知られている。それは、「偏光面の回転」である。偏光とは、電磁場がある 特定方向にのみ振動している光のことである。キラルな物質で、一方のエナンチオマー

C C

COOH

NH2 D HOH

H3C

C C D

COOH NH2 HO H

H3C

C C

COOH

NH2 D HOH

H3C 120

C C D

COOH NH2 HOH

H3C

C C

COOH

NH2 D HOH

H3C

C C HOOC

H2N D

HOH CH3

C C H3C

HO H

NH2 D

COOH

C C

COOH

D NH2 HHO

H3C

(6)

が過剰に存在している(純粋なエナンチオマーである場合を含む)ときは、偏光面を回 転させる。一方、キラルでない物質や、キラルな物質のラセミ体は、偏光面を回転させ ない。

ある物質が「偏光面を回転させる」性質を持つことを

optically active

と呼ぶ。

光学活性な物質は、キラルな物質の一方のエナンチオマーを過剰に含んでいる。一方、

光学不活性な物質は、アキラルであるか、またはキラルな物質のラセミ体である。

6.

二つの不斉炭素を持つ分子は、通常は

22 = 4

個の立体異性体を持つ。例として、3- クロロ

-2-

ブタノールを取り上げる。

2-, 3-

位の炭素原子が不斉炭素である。

この化合物には、二つの不斉炭素の立体配置が、「

R,R

」「

R,S

」「

S,R

」「

S,S

」となる 四種類の立体異性体がある。透視式で書くと、次のようになる(注3)。

注3:この化合物の名称を

RS

表示で表記するためには、「どの炭素原子の立体配置を表してい るのか」を位置番号で特定しなくてはならない。たとえば、次のようになる。

このうち、

(R,R)

体と

(S,S)

体、および

(R,S)

体と

(S,R)

体は、互いにエナンチオマーで ある。これは、

(R)

の不斉炭素を鏡に映すと

(S)

になることから、直ちに理解できる。一

CH CH CH

3

Cl CH

3

OH

*

*

C

(S) (S)

(S)

C

(S)

H

3

C H

CH

3

H HO

C Cl

(R) (R)

(R)

C

(R)

H

3

C HO

CH

3

Cl H

H C

(R) (R)

C

(S) (S)

H

3

C HO

CH

3

H H

Cl C

(S) (S)

(R)

C

(R)

H

3

C H

CH

3

Cl HO

H

C

(R) (R)

(S)C

(S)

H3C HO

CH3 H

H

Cl (2R,3S)-3- -2-

(7)

方、

(R,R)体と(R,S)体は鏡に映しても互いに移り変わることはない。従って、これらは

互いにエナンチオマーではない。また、

3-

位の炭素の立体配置が異なるので、同じ分子 でもない。このように、互いにエナンチオマーでなく配座異性体でもない立体異性体の

ことを、

diastereomer と呼ぶ(注4)。

注4:ジアステレオマーの定義は実は非常に広い。配座異性体を同一化合物と見なせば、「エナ ンチオマーでない立体異性体」はすべてジアステレオマーとなる。シス・トランス異性体もジア ステレオマーの一種と言える。

二つの不斉炭素が同じ置換基の組み合わせである場合、異性体の数が四つよりも減る。

例えば、

2,3-

ジブロモブタンを考えてみる。この化合物では、二つの不斉炭素について いる置換基が同じ組み合わせとなっている(

H, Br, CH3, CH3CHBr

)。

二つの不斉炭素の立体配置の組み合わせをすべて書き出すと、下のようになる。

この四つのうち、(R,R)体と(S,S)体は、先ほどと同様互いにエナンチオマーである。

ところが、(R,S)体と(S,R)体は、同一化合物であることがわかる。

つまり、二つの不斉炭素の置換基の組み合わせが同一である場合、

(R,S)

体と

(S,R)

体 は同一化合物となる。この化合物は、鏡に映しても同一であることから、アキラルであ る。このように、不斉炭素を持つにも関わらずアキラルである物質のことを、

meso compound

と呼ぶ(注5)。

注5:

(R,S)

体がキラルでないことは、下の図からもわかる。二つのメチル基が重なり形になる

C

(R) (R)

(R)C

(R)

H3C HO

CH3 Cl H

H C

(R) (R)

(S)C

(S)

H3C HO

CH3 H H

Cl

C

(S) (S)

(R)C

(R)

H3C H

CH3 Cl HO

C H

(S) (S)

(S)C

(S)

H3C H

CH3 H HO

Cl

CH CH CH

3

Br CH

3

Br

*

*

C

(S) (S)

(S)

C

(S)

H

3

C H

CH

3

H Br

C Br

(R) (R)

(R)

C

(R)

H

3

C Br

CH

3

Br H

H C

(R) (R)

C

(S) (S)

H

3

C Br

CH

3

H H

Br C

(S) (S)

(R)

C

(R)

H

3

C H

CH

3

Br Br

H

C

(R) (R)

C

(S) (S)

H

3

C Br

CH

3

H H

Br C

(S) (S)

(R)

C

(R)

H

3

C H

CH

3

Br Br

C H

(R) (R)

C

(S)(S)

CH

3

H H

3

C

Br

Br

H

(8)

ような立体配座を考えると、分子自体が対称面を持つことがわかる。不斉炭素を持っていても、

自分自身が対称面または対称中心を持つ分子は、アキラルであり、従ってメソ化合物である。

7.

・ 不斉炭素

・ 立体配置

・ エナンチオマー

・ キラル、アキラル

・ 立体配置の

R, S

表記

・ 順位則

・ 透視図を立体的に動かす

・ ラセミ体、ラセミ化

・ 光学活性

・ 2個の不斉炭素を持つ化合物

・ ジアステレオマー

・ メソ化合物

【教科書の問題(第4章)】

15, 38, 67, 73, 76, 77

C

(R) (R)

C

(S) (S)

H3C Br

CH3 H H

Br C C

H3C Br

H

CH3 HBr

参照

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