日吉 一浩, 1
東京都における過去 18 年間にわたる大気粉塵モニタリングの 長期傾向とリアルタイムモニタリングによる発生源の解明 Long Term Trends of APM Monitoring During 18 Years in Tokyo and
the Identification of Emission Sources by Real Time Monitoring
応用化学専攻 日吉 一浩 HIYOSHI Katsuhiro
【緒言】
大気粉塵 (Airborne Particulate Matter: APM ) は大 気汚染の原因物質の一つである。粗大な APM は咳 や痰により排出されるが、微小な粒子は肺の深く入 り込み、気管支炎や肺がんなどの肺機能障害の原因 となる
1)。そのため、 APM 中の金属濃度を測定し、
環境中 APM の濃度を把握することや発生源を解明 することは非常に重要である。本研究室では 1995 年 5 月から 2013 年 12 月まで毎月 APM を分級 捕集し、その中に含まれる主成分元素及び微量元素 の 23 元素の濃度を誘導結合プラズマ発光分析法 (ICPOES) 及 び 誘 導 結 合 プ ラ ズ マ 質 量 分 析 法
(ICPMS) を用いて測定する長期モニタリングを行
っている。得られたデータを複合的に解析すること により APM の長期傾向を得ることを目的とした。
また、 ICPMS に APM を直接導入することで短時間
間隔での元素濃度が測定可能なリアルタイムモニタ リング
2)も行った。本研究は、過去 18 年分の長期モ ニタリングと 24 時間のリアルタイムモニタリング から APM の挙動と発生源の解明を目的とした。
【実験】
1. 長期モニタリングの測定
APM のサンプリングは東京都文京区に位置する 中央大学理工学部 6 号館屋上(地上約 45 m)にて アンダーセンローボリュームエアサンプラーを用い て粒径別 (<2, 2-11 及び >11 μm) に流量 28.3 L min
-1で石英繊維フィルター上に捕集した。サンプリ ング期間は 1 ヶ月分を 25 日間とし、 1995 年 5 月か ら 2013 年 12 月まで行った。捕集した APM フィル ターごとテフロン容器に入れ、 50% HF 3 mL, 70%
HNO
36 mL 及び 30% H
2O
21 mL を加えてマイク ロ波分解を行った。その後、ホットプレート上で一 滴大まで揮発させ、超純水で 50 mL まで希釈した。
この溶液を ICPOES を用いて主成分元素 (Na, Mg, Al, K, Ca 及び Fe) を、 ICPMS を用いて微量元素 (Li, Be, Ti, V, Cr, Mn, Co, Ni, Cu, Zn, As, Se, Mo, Cd, Sb, Ba 及び Pb) を測定した。地殻の元素濃度に対して どの程度濃縮されているかを示す指標である濃縮係 数 (Enrichment Factor: EF) を求めた。
2. リアルタイムモニタリングの測定
図 1 にリアルタイムモニタリング装置の概略図を 示す。
中央大学5号館屋上 (地上約30m) から80 m のタイ ゴン
Ⓡチューブを用いて屋上から 1 階にある ICPMS 装置までの経路を作製した。インパクターによって 粒径 <1 μm の APM のみを通過させた。その後、ガ ス交換器にて空気雰囲気下から Ar 雰囲気下に置換 し、ICPMS に導入した。ICPMS 装置のコリジョン ガスとして He ガスを 3.0 mL min
-1で導入した。超 音波ネブライザー (USN) 及び脱溶媒装置と標準
図 1 リアルタイムモニタリングの概略図
A-18
インパクター
大気
or クリーンベンチ(class 100)
ガス交換機 超音波
ネブライザー
(USN)脱溶媒装置 ミニポンプ
キャリアガス
ICPMS
ダイアフラム ポンプ
標準ガス
発生装置
ニトロセルロー スフィルタ‐
マスフロー コントローラ Air: 1000 mL/min
<1.0 μm
Air: 250 mL/min Air: 750 mL/min 孔径: 0.025 μm
Air: 750 mL/min Ar: 250 mL/min
Ar: 250 mL/min
Ar: 300 mL/min Ar: 800 mL/min
Ar: 600 mL/min Ar: 50 mL/min N2: 50 mL/min Cr(CO)6: 50 mL/min
分析タイプ
B: ブランク A: 大気 S: 標準溶液 G: Cr 標準ガスB: クリーンベンチ
A: 大気
S: クリーンベンチ
G: クリーンベンチ
大気測定時のみ B: Arガス
A: Arガス S: Arガス G: Cr(CO)6
B: 内標準溶液
A: 内標準溶液
S: 標準溶液
G:超純水or 内標
日吉 一浩, 2 ガス発生装置の Cr の信号強度の比から USN の導
入効率を求め、USN から導入した標準溶液を質量 流量濃度 (pg min
-1) に変換して定量を行った。測定 日時は 2013 年 10 月 14 日 12:34 ~ 15 日 12:44 であ る。測定は 29 元素、 1 元素毎に 3.4 秒の積分時間で 24 時間測定を行った。
【結果及び考察】
1. 長期モニタリングによる APM 発生源の推定
<2 μm 及び 2-11 μm における各元素の発生源を 推定したものを図 2 に示す。 <2 μm の元素を 3 つ のグループに分類した。EF の季節的な特徴とサン プリング地点における風向の傾向から自然起源(土 壌)と工業地帯 (重油燃焼)及び清掃工場 (焼却飛灰)が 発生源と推定した。 2-11 μm では 4 つのグループに
分類し、 <2 μm の発生源に加えて自動車による排出
の影響を受けていると考えられる。
2. リアルタイムモニタリングの測定結果
図 3 リアルタイムモニタリングの測定結果を示 す。上部の矢印はその時間での風向と風速を示して いる。各元素の濃度は 24 時間の間に昼夜を問わず 時々刻々と変化しており、一時的に高濃度になるプ ロファイルが見られた。 V 及び Cr は南風に変化し たときに濃度が高くなり、工業地帯の化石燃料の燃 焼の影響を受けていると考えられる。Al 及び Mg
は風向の変化の影響を大きく受けていることから APM の組成と濃度は飛来する方角で異なり、風向 によって異なる発生源由来の APM が観測されてい ると考えられる。 Pb 及び Zn は挙動が似ており、
北西の風のときに高濃度が得られたことから清掃工 場の焼却飛灰の影響を受けていると考えられる。
【結論】
長期モニタリングの結果から APM は減少傾向に あり、排出源は重油燃焼、焼却飛灰及び自動車の排 出と推定した。リアルタイムモニタリングの結果か ら元素濃度は風向の影響を受けて昼夜を問わず変化 し、 24 時間と高い分解能で測定を行うことで時々 刻々と変化する APM の挙動を観察することが可能 となった。また、重油燃焼、焼却飛灰の排出影響が あると推定した。
【参考文献】
1) Lippmann, M.; Ito, K. Phil. Trans. R. Soc. Lond. A.
2000, 358, 2787-2797.
2) Suzuki, Y. et al. Spectrochim. Acta, Part B. 2012, 76, 133–139.
【対外発表リスト】
1) 日吉 一浩, 鈴木 美成, 古田 直紀 : 第 72 回分 析化学討論会, 2012, 鹿児島, 口頭発表.
2) 日吉 一浩, 鈴木 美成, 古田 直紀 : プラズマ分 光分析研究, 2012, 筑波セミナー , ポスター発表 .
0
10 Cr
0
5 V
0 150
Al
0
100 Zn
0 25
14/ 12:30 14/ 18:30 15/ 0:30 15/ 6:30 15/ 12:30 Pb .2m/s
0
5 Mg
Time Concentration (ngm-3)
夏に高い 2003年以降減少 GroupD
GroupE
GroupG Na, Mg, Al, Ti, Li, Mn
K, Be, Ca, Fe, Co
As, Cd,Pb, Mo
清掃工場 (焼却飛灰) 1999 と2003
以降減少
V, Cr, Ni, Se
GroupF Cu,Sb, Ba, Zn
自動車交通 (ブレーキパッド、タイヤ) EF が低い
2003年以降減少 冬に高い
冬に高い
南東の風
北~北西の風
北~北西の風
自然起源
(海塩粒子、土壌)
京浜、京葉工業地帯 (重油の燃焼)
EF の特徴 風向 排出源
Group 2-11 µm
図2 <2 µm 及び 2-11 µm APM の発生源推定
図3 リアルタイムモニタリング結果
GroupA
GroupB
GroupC Na, Mg, Al, Ti,
Fe, Be, Ca
K, Li, Co, Mn, Cu, Cd, Sb,Pb, Zn,As
EF の特徴
冬に高い 北西の風 南東の風
排出源
清掃工場 (焼却飛灰) 京浜、京葉工業地帯
(重油の燃焼) 自然起源
(土壌)
夏に高い EF が低い
1999年と2003年 以降減少 2003年以降減少
風向 Group
V, Cr, Ni, Ba
<2 µm
Se, Mo