熊 本 県 内 の 山 崩 れ に つ い て
は じ め に
豪雨につきものの災害は避けることが難し い。しかし災害を最小限にくいとめる為には 誰もが災害の原因や性格をよく知っているこ とが必要である。昭和28年の阿蘇山地の崩壊 による熊本の大水害・昭和32年の金峰山周辺 の水害・昭和38年の五木横手部落を中心とす る水害・昭和47年7月6日の天草上島の山津 波等は熊本県人にとっては忘れることが出来 ない大規模なものである。集中的ではないが 絶えず我々の生活を脅かす阿蘇火砕流堆積物 やシラスの小規模な災害も数が多いだけに無 視することが出来ないのである。最近でも59 年6月29日未明の五木竹の川の山崩れ、60年 10月1日未明.の川内田の崩壊では人身事故が おこっており、今年10月12日未明の国道219 号の山崩れはその規模等の関係で復旧の見込
さえたっていない。しかも最近のこの三つの 事故は工事中又は工事後、時を経づして起こ っている。工事関係者はどう考えるのだろう か。この小論は8ページ以後の五木・竹の川 の山崩れについての論文を紹介するために前 置きとしてつくったものである。使用した写 真はカラースライドからのもので鮮明でない ことはお許し願いたい。竹の川の山崩れにつ いては私としても学問的良心からしっかりと 主張することは主張し、記録として残してお きたい気持から日本地質学会発行の地質学論 集28号に投稿したものである。転載を許され たことに対し当局に感謝する。.
山崩れと地滑り
山崩れと地滑りとの区別は難しい。しかし、
地滑りは、地質構造との関係がより密接で、
熊 大 ・ 教 育 田 村 実
第三紀層(特に新第三紀層)の分布域や構造 帯(蛇紋岩や破砕された岩石の滑り)及び温 泉作用により風化が促進されている地域に集 中して分布し、その活動は前もって予知する ことが出来る程運動が緩慢なものが多い。之 にくらべると山崩れは地質構造との関係は地 滑り程密接ではないが、未固結部(風化部)
さえあれば殆ど到るところで発生の可能性を 有し、豪雨などで未固結部に重みがますと、−
その運動は急激で人畜に及ぼす被害は地滑り よりはるかに大きい。又地滑りは山崩れより ははっきりした滑り面をもちその面の傾斜は 比較的ゆるい。しかし山崩れは垂直的で(と いっても45.をこすものは少ない)、ルーズ になった崩落部が重みが加わっておちるので 滑り面といったはっきりしたものはない。大 規模な山崩れ一山津波という−は梅雨や台風 に伴う豪雨によるもので我が国では自然災害 の最大のものであろう。地滑りは熊本県内で も破砕帯の蛇紋岩地滑りが東陽村や旧3号線 の赤松峠付近に多く、之に道路がクロスする ところではその維持が困難である。第三紀層 の地滑りではないがこの型に属するものは宇 土半島の赤瀬付近や御船町粒麦や天草等でみ られる。この種の地滑りは厚い風化層の存在 が関係している山崩れと識別しにくいものが ある。熊本県内では特に南小国の咳ノ湯等で 温泉作用による地滑りがある。
山崩れの原因
さて、山崩れはどうしておこるのであろう か。山崩れがおこるにはそれが契機となる直 接的原因もさることながら山崩れがおきる可 能性のある斜面の状態がなければならない。
それは崩落がおこるような未固結又は風化し てルーズになった岩石の部分が存在している ことである。従って露岩地帯や極く最近に崩 落がおきてルーズな部分が存在しないところ ではいくら豪雨等があっても山崩れはおこら ない。
直接的な原因としては自然的な豪雨等が多 いが、豪雨後のきっかけとして地震や人工的 な原因(大型車の振動等)が加わることがあ る。そのような力が加わることによりバラン スが失われて山崩れがおこる。又最近ではPI.
1.Fig.7に示すような風化部(ヘホハニ の部分)のうち道路工事などでニホロより左 の部分を除去した時にヘニホの部分が支持部 を失って落ちるようなものがある。五木竹の 川や川内田、219号線等のものはこれと関係 なしとしない。一般に山崩れの殆ど全部とい ってよい程多く起きるのが豪雨に起因する崩 落である。山崩れが熊本県では梅雨期や台風 シーズンにおこることがこれを物語っているc 降雨は地表面を流下するものと、地下に浸透 する部分と、蒸発する部分とがある。地下に 浸透したものも一部は湧泉その他となって流 出する。この二つの部分即ち流出量と降雨量 との比を流出率といってこの値が大きい場所 程洪水がおこりやすい。降雨量100ミリ迄は 地下に保留される水量は殆ど同一の割合であ るが、これを超えると保留水量は漸減し250
300inmを境として殆どすべて流出するとい われている。勿論長い時間かかって250〜
300皿以上降っても保留能力が回復するので 洪水にはならない。この降雨量をこえると保 留水の地下での動きが活発になり、重さの増 加と共に未固結部が崩落する重要な原因とな る。
土 石 流
山崩れをよくみると傾斜が40.士のものか 多いが35.以下のものもある。これらは幅に
比して長さが大で土石流というべきものが多
い。この頂部は40。±の傾斜を示すがその崩 落物が谷に流出し谷の側壁の崖錐をおしだし
谷をうめてしまう。PI.1,Fig・10に示す
41年8月の上村のものは土石流であった。し かし大規模な山崩れは下流では土石流になっ ていることが多い。
山崩れと地質地形の関係
山崩れでも地質との関係が密接なものがあ る。断層破砕帯の軟弱部が崩落面となってい
たり地層面が低い方に(例えばPI.LFig.9
の如く)傾斜して滑り面をもったりする場合 である。この場合は地滑りとは区別しにくい が、滑り面の角度と崩落の速さで区別しうる と思う。10月12日の219号線の山崩れはこれ
である(PI.2,Figs.3,4)。
地質調査をしてみると、或地域で崖崩れが おこりやすいところは、風化がゆきとどいて、
固結していない岩石がある急傾斜な場所であ る。こんなところに豪雨があればまず災害を 防ぐということは困難である。普通の堆積岩 では砂岩と頁岩のこまかい互層の部分や地殻 の力で破砕されているところに崖崩れが多い。
これらは他の岩石にくらべ風化しやすいから である。
以上に崖崩れの一般的なことを地質学的見 地から簡単に考察したが最近の熊本県内に起 った次の3つの崖崩れは自然の状態のみから 起ったものではなく工事と関係して起ってい るので注目すべきものである。五木竹の川に ついてはあとでのべるが、川内田・219号線 のものについて簡単に考察しよう。熊本県内 で起った主要な山崩れ(A型)と最近新聞面 をにぎわした3件のB型の山崩れを第1表に 示す。
自然災害(A型)と工事と関係ある災害(BW このうちA型は集中豪雨による局地的なも のも含むが或広さにかなりの数の崩れを伴い 明らかに自然災害であることがわかる。
鍵
一一
未固結部
ざ
篭
Plate1
…
Plate2
P l a t e 1 の 説 明
1.杵島岳の侵食谷:昭和28年の熊本水害で崩れて深さがましたという。
2.金l峰山地梅洞の昭和32年の崩壊:ここで46人に達する死者・行方不明者を出している。
3.昭和38年8月の五木村横手部落の山崩れで土石流も伴ったであろう。
4.天草郡竜ケ岳町の47年7月6日の山崩れを東方よりみる。手前の部分は和田の鼻。
5.上と同じ時の内野河内南方の山崩れによる土石流。押出した厚い堆積物に注意。
6.上村の41年8月の山崩れ:植林後充分時間がたっていない。地形の変換点(風化層が厚い)
でおきている。
砥風化物のある斜面の脚部カットにより風化物が落ちやすくなっていることの説明図(本文 参照)。
8.京町台地の阿蘇火砕流の軽石層の崖くずれ。
9.地質構造(地層面との関係)と崩れやすいことの関係を示す露頭(五木村板木)。
10.上村南部の土石流(41年8月の水害)。
Plate2の説明
1,2.益城町川内田の崖崩れ:51年に急傾斜地崩壊区域に指定され、工事が行われていた時に 起った。
3,4.219号線(61年10月1日発生)の100mをこす幅をもつ山崩れ。風化部が厚く、一見地 滑りの如くみえる(球磨川左岸より撮す)。
と こ ろ が B 型 は い ず れ も 工 事 と 関 係 し て い る。竹の川(Bl)はあとで詳しくのべるの でここではのべないが、川内田(B2)は急 傾斜地滑り危険区域であることがわかってお り 、 そ の 工 事 が 行 な わ れ て い た 時 に 起 っ て い る。原因調査の結果も新聞でみる限りでは何 のことかわからない。一方、219号線の崖崩 れ箇所も(第1図参照)朝日新聞によれば同 じ箇所が59年6月の崖崩れで1ケ月間通行止 めになり、その復│日工事で4mの拡幅をした 場所で再び山崩れが起っているという。10月 23日のテレビ放映で道路維持課長は工事と関 係ありませんと言明した。しかし、復旧の時 に拡幅工事をしたのである。危険を除くため、
崩れることを防ぐ安全な工事をするのではな いのだろうか。竹の川(Bl)については自 分でも調べたので自然災害として片ずけられ ないことを断定できる。川内田(B2),219 号線(B3)については自分で詳しく調べて
ないので断定できないが、工事との関係には 割り切れないものがある。
地質条件が両岸で全く同じ球磨川沿いで、
一方の国鉄肥薩線は八代一渡間に22のトンネ ル が あ る の に 国 道 で は 1 ケ 所 の み で あ る こ と と 、 国 道 で は 崖 崩 れ が 頻 発 し 、 国 鉄 は 殆 ど 事 故がないこととを考え併せると、219号線の 山崩れの問題の所在は己ずと明らかであろう。
あとがき
毎 年 と い っ て も よ い 程 お こ る こ の よ う な 災 害に対して案外世論は弱い。世論の担い手で あるマスコミも崖崩れと地滑りの区別さえし らない報道があったりでは工事関係者につっ こんだインタビューも出来ないだろうし、ど こに問題があるかもつかめないことが多いの ではないだろうか。
今後、限られた土地に益々大型化する交通 手段がとられると、道路の無理な拡幅災害は
第一表熊本県の主要山崩れと最近の工事と関わりがある山崩れ
山崩れの場, 発 生 月 日 雨 飼 死 者 又 け
行方不明者 山崩れの範囲(広さ) 地質との関わり
A型︵目然災害︶
熊本県下大水害(An
金峰山周辺水害(A2)
五木水害(横手部落等)
( A ) ( A 3 天草上島の水害(A4)
28年6月26E
32年7月26E
38年8月l7E
47年7月6E
阿蘇では985mmの降 雨あり。熊本測候所 はじまって以来の豪 雨
7月25日9時〜26日 15時まで熊本で503
1mnの雨量,最高1時間76m
8月17日の1時間脱 140mmの雨ロ 7月6日10時よりa 時間雨賦130m
537ノ
171ノ
11人
123ノ
阿 蘇 ・ 熊 本 市 を 含 む 県 T 各地を含む九州中北部一 円で崩壊箇所多
金峰山周辺の集中豪雨{ミ よる山崩れ箇所多し
集中豪雨による山崩れて 崩壊箇所多I
集中豪雨による崩壊箇月 多I
広範囲なので特に馳 質との関わりはなも
安山岩と阿蘇火砕茄 の風化部の崖崩れか 多かったが特に地質 と.の関わりはほと人 どない
特別に地質との関士 り は な C 風化未固結部が崩落
し特に地質との関わ り は な U
B型︵工事が山崩れの前後にあるもの︶
五木・竹ノ川の山崩れ cbi:
益城町川内田の崖崩れ (B2)
219号線の山崩れ (B3)
59年6月29日
60年10月1E
61年10月l2E
21日〜29日まで490 1m、28日23時からの時 間雨蹴39,m
特に関係ある降雨は な い
9月中には平年より 多い。216mの雨撒 があったが直前に豪 雨はない
14人
4メ
豪雨あるも林道工事とα 関係大。他に崩落箇所園 と ん ど な L
崩れやすい砂レキ脳中か らの湧水多く、以前にも
山崩れがあり、工事中。昭和51年に急傾斜地滑り 危険地に指両
1ケ所のみの、しかも豪 雨と関係な↓
斜面にはりついた阿 蘇火砕流の風化部が 工事による支えの脚 部を失い崩落 砂レキ廟中の湧水と 工事との関係ある模 様
風化しやすい破砕帯
のため斜面の風化層
が厚く、拡幅による
工事で地下水に変化
を生じた可能性あり
国道219号線
山崩れのまえ(一部推定)
(山崩れは61年10月12日未明発生)
, 沙
杉
l 雌
可能性がある
拡幅で除かれた部分︵この部分が以前は崩れた部分を支えていた︶ 一謹鮮一
シャープではない
道路
球磨Jl 風化割
水直 こ の 部 分 に
コ ン ク リ ー ト 擁 壁 が あ っ た
l
催 似
第1図219号線山崩れ発生前後の状態説明図(推定)
益々多くなるだろう。やはり安全を念頭にし て工事をしてもらいたいものである。全く予 測しがたい未曽有の豪雨等によって施工済の 場所に災害が起った場合は自然災害ですと弁 解 し て も よ い か も し れ な い が 、 誰 が み て も そ
のような場合と考えられない施工済の箇所の 山崩れを、「予算が限られた工事だから或程 度以上の安全は保障出来ない」というなら工 事に対する考えを根本的にかえる必要がある のではあるまいか。