わが国の公益企業 の範 囲
(1)一 各種法規に散在 しているものを整理 して‑
.・.....II....I
藤 田 正 一
目 次
〔1〕
は じめに
〔2〕
公共の利益 とい う目的のために私権を規制 している法律
(1)土地収用法
(2)
独 占禁止法
〔3〕
一般公衆の需要に供す るとい う目的を明示 している法律
(1)労働関係調整法 (以上,本号)
(2)
個別事業法 (以下,次号)
(D公衆運輸事業系統
② 公衆通信事業系統
③ 市民生活必需用役( 財)供給事業系統
〔4〕
公営を基盤 としなが ら公共の福祉の 目的を明示 している法律
(1)公共企業体等労働関係法
(2)
地方公営企業法
(3)地方公営企業労働関係法
〔5〕
むすびにかえて
〔1
〕は じめに
公益事業法 とい うよ うな公益事業に共通す る基本的法律,すなわち,公益事
業についての総括的統一的法律は,存在 しない。 しか し,その よ うな法律の制
定 の兆候が,過去においてなか った訳でない。昭和
7年,池 田宏理事を中心 と
した㈱ 東京市政調査会が,次の よ うな理 由か ら公益企業法案を世に問 った こと
もあ る。す なわち,一般 の需要に応ず ることと独 占的性質を有す ることの
2つ
の共通す る特質を もつ経済的企業を公 ・私営を問わず公益企業 として,その機
24
能を十分 に発揮 させ るためには,その ような企業の経営上の総括的統一的準則 として公益企業法が是非 とも必要 であ るとい う理 由か ら,同法案が世 に問われ たのであった。
しか し, この種の企業経営に対 しては,す でに各種公益事業別に個別事業法 が制定 され,必要な規制がなされていたので,同法案の成立を可能にいた らし め るだけの土壌が,当時,社会に存在 していなか った. もちろん
,今 日で も同 様 に存在 していないのであるが。
それに もかかわ らず,当時,同法 ( 秦)の必然性を同調査会が主張 した理 由
(注 1)
は,次の とお りであ った。
1. 個別 の公益事業法は,各公益事業について,それぞれ特別 の規制を課す る ことに重点がおかれているので,統一化 された公益企業法を制定す ることに よ って,個別 の公益事業法に欠けている一般的共通事項を補 うことができること。
2.
個別 の公益事業法の長所 を生か して同法に採用 し,短所を捨象 し,あ るい は修正 して同法に採用す ることができること。
3.
同法の円滑 な施行 に よって,公益企業 の機能が充分 に発揮 され ると同時に, 機構や条件等 の諸制度 も整備 され るよ うになること。
また,同法案の要綱は,次のような項 目か ら構成 されていた。
1. 公益企業 の 目的 とその適用範囲
2.公益企業 の特許
3.
公益企業の新経営形態
4.企業 の共 同経営
5.公益企業者 の権利義務
6.公益企業 の助成
7.経営管理 の統制
8.企業 の買収
(江 1)
帥東京市政調査全編 『 公益企業法案』 抑東京市政調査会 ,昭和
7年
,p.21.9.公 益 企 業 の行 政 統 制 と業 務 監 督 の親 閲
当時 , 上 記 の よ うな 目的 と内容 を もつ 公 益 企 業 法 案 は, 官 界 , 学 会 , 産業 界
(荘 2)
にか な りの関心 を与 えた の であ る。
しか し, 法 制 化 す るに至 らなか った 。 そ の理 由 と して は, 次 の2点 が 指 摘 さ れ よ う。
1.
公 益 企 業 法 が施 行 され うるた め の前 提 条 件 と して の社 会経 済 環 境 が , 当時 , 整 備 され て い なか った こ とであ る。 す なわ ち, 公 益 企 業 政 策 を施 行 す る上 で の 社 会 基 盤 ,経 済 基 盤 が 確 立 され て い なか った が ゆ え に, そ の政 策 を施 行 す る上(注3)
で の基 本法 と して の公 益 企 業 法 の不 成 立 は, 当然 の こ とであ った とい え る。
2.公 益 企 業 審 事 院 , 公 益 企 業 監査 会 設 置 に対 す る既 設 行 政 機 関 の懸 念 。 わ が 国 の行 政 の慣 行 は,■法 案 が立 法 化 され た場 合 , そ の法 令 の執 行 や改 正 等 の作業 は, 既 設 の行 政 機 関 に よって施 行 され る こ とが一 般 的 であ った し, 今 日 で も同様 であ る。 この よ うな意 味 か ら も理 解 され る よ うに, 同法 案 に示 され た
(注 4) (注5)
公 益 企 業 審 事 院 と公 益 企 業 監査 会 が設 置 され た場 合 ,所 管 の既 設 行政 機 関権 限
(注2) 東京市政調査会は,昭和7
年
7月公刊の 『公益企業に関す る諸家の意見』 とい う報告書の附録 として 「公益企業法案に対す る世論一班」を記載 している。その 内容は,同調査会の発行 した報告書であ るがゆえに,大 旨,その必要性を認めて・ いる意見が記載 されてお り,批判的意見は記載 されていない。
(注3) 竹中龍雄教授は,公益企業政策を施行す るには,平和経済が前提であると主張 している。 しか るに,当時, 日本は軍事拡大化の方向に進行 していた ことか ら, 平和経済か ら次第に遠 ざかるよ うになっていた。
竹中龍雄稿 『公益事業研究第
1
巻第1号
』「現下 の 日本 と公益事業」 公益事業学 会,昭和24年
3月,p.ll.(注4) 公益企業審事院 とい う機関の権限は,単なる諮問検閲の権限 より大 きい。 しか し,アメ リカの独立行政委員会のよ うな大 きな権限 (議会 と行政府か ら独立 し.
法の委任の範囲内で規制権をもち,審理権を もつ)はない。 この機関について, 公益企業法案作成の中心であ った池田宏理事は次のよ うに説明 している。 「公益 企業に関す る重要なる処分事項に付いてほ行政官庁の自由裁量にのみ委ね ること な く,必ず比の公益企業審議院の議に繋か らしむ る事 とし,又克 く各省大臣の諮 問に応 じ又進んで関係各大臣に建議す ることを得べか らしめ,其の職能を完 くす るに足 るの組織 と,其の運用に関 し,具 さに案を献 じ,動 もすれば.権威を失墜 せんとす るの行政上の時弊を匡救 し,恰 も知識経験の府たると共に司法司直の権 威に居 り,各種重要統制事項に対 して能 く凍 るべ きの規準を垂れ,依て以て公益 企業行政の振粛を図 り,克 く行政統制の中枢機関 として,公益企業行政の公正な る擁護者た らしめん ことを期 した り。」槻東京市政調査会編,前掲書.p・37.
/
26
の縮小は, 明白 とな った。それ ゆえ,既設 の行政機 関は,上記 の両機 関設置 を 明示 してい る同法案の成立 に対 して,批判的 であ った。
か くして,東京市政 調査会 の精赦 な研究 の結果 と して公表 された公益企業法 案 は,上 記 の よ うな理 由に よ り,同調査会 の懸命 な る努力に もかかわ らず制度 化 に至 らなか った。
近年,わが国に行財政改革 の機運が高 ま り,公企業 の民営化が進行 してい る。
しか し,「公企業 の民営化」と 「公益企業 の経営上 の総括的統一性」 の整合性を 有す る公益企業法 の制度化 とい う楼運 はない。 この よ うに,わが国において, 今 日, なお公益企業 の経営 に関す る総括的統一的準則が制度化 で きない理 由は, 政府 が公益事業や公益企業 に関す る根本的 な統一基準や政策 を長期的視野 に立
って構築 しよ うとせず に,各公益事業 の生成 した社会経済環 鏡 に基ず いた短期 的視野か ら各省庁が各公益事業 につ いて独 自の個別事業法を制度化 して きた こ
(注6)
とや 各公益事業 を独 自に所管 して きた ことに起 因す ると思われ る。
しか し,公益企業 に法的 な統一的概念 を与 え よ うと して,諸種 の法規 の中に 散在 され てい る公益事業や公益企業 に関す る定義的 な条項 を掘 り起す ことに よ って,公益企業概念 を モザ イ ク的 に描 き,公益企業概念 を構築 しよ うと した先
(注 7) (注8)
学者 として,蟻 山政道教授 と林信雄教授 が いた。
鳩 山政道教授 は,わが 国の公益企業概念 の構築 につ いて,次 の よ うに指摘 し
\(江 5) 公益企業監査会 という機関は,内閣総理大臣の管理下にあ り,公益企業の業 務,会計,工事及財産等について必要なる監査をする機関である。この機関は, 会長と監査員で組織され,同機関が円滑に運営されるように,それ らの下に庶務 や事務や技術に従事する幹事と書記若干名が配置されている。会長は内閣総理大 臣がな り,監査員は公益企業の種別毎に
1
人配置される。ただ し,1
事業に閑し 所管の大臣が数人関与する時は,その管掌事務毎に1
人配置される。そして監査 員は主務大臣の議により内閣によって任命される。軸)東京市政調査会編,前掲書,pp・321‑326.
(江 6) わが国の公益事業 ・公益企業に関する総括的 ・統一的基準は制度化されなかっ たが,公益事業として一般的に認められ うる個別の公益事業には,それぞれの事 業法が制定された。そして,各事業の目的やその定義については,各事業法の中 に tt公共の福祉を増進する目的"とか tt一般の需要に応ずる事業"というような 表現で明記されている。
(注7) 蝿山政道著,『公益企業論』 国土社,昭和55年3
月
,pp・16‑18・ /I. L ;Jも TpT∴ りt; ‑陛 rjJ ・ ・.∴ .
ている。 「我国の公益企業概念 の構成は,米国の場合の如 き司法権 の優越 の憲 法制度 に厳格に適合す る必要はない。 さ りとて,英国の場合の如 く自由党や労 働党 の如 き進歩的分子の政策 の上か らす る企業 の区別論が発達 していない。従 って我 国の公益企業概念 の特徴は,主 として行政官庁 の立案に よって議会を通
(珪9)
過 した る各種 の制定法を通 じて探究す る外はない
。」上記の鳩山教授 の指摘は,次の ような ことを意味 していると思われ る。す な わち,わが国におけ る公益企業概念 の画定は,米国の ように最終的 に司法に よ って公益企業の範噂を画定す るとい う方式に よるのではな く, また,英国の よ うに議会が政策遂行上 の必要か ら立法に よって公益企業 の範境を画定す るとい う方式に よるもので もない。その画定方式は各行政官庁 の立案 した法令 の制定 の後 に,それ らの中に散在 され ている 「公共の利益 となるべ き事業」 とか 「公 衆 の需要に応ず る事業」 とい うような含蓄のあ る用語 で思考 され ている一条 の 論理 の糸をた ぐって画定すべ きであ る, とい うことを意味 している‑ t思われ る.
(注10)
林教授は,昭和
33年 の論文において,「公益事業 ・公益企業に関す る一 般 法 の制定 のないままに,公益企業 として統一的概念構成 の可能な ものを, モザ イ ク的に各種 の法規 の中に散在せ しめているものと理解すべ きであ る。 」 と い う 認識 の下に,私権規制 の概念 としての公益事業 と,調整対象の概念 としての公 益事業に大別 して,わが国法制上 の公益事業の理念的,歴 史的究明の うちに, わが国法制上に現われた 「公益企業概念 のモザ イ ク的性格」を明 らかに し,公 益企業概念 の構築 の試 図を素描 しようとした。
しか るに,公益事業や公益企業を カテ ゴ . )‑化 した一般法が制定 され ていな い現在,両教授がかつて各種法規 の中に顕在的,潜在的に散在 され てい る公益 事業や公益企業に関す る定義的条項 を掘 り起 して公益企業概念を構築 した と同
\(注8)
林信雄稿
,『 公益事業研究第
10巻第
1号』「 法制上の概念 としての公益事業」
昭和
33年
,pp.1‑16.(荘 9)
鳩山政道著,前掲書
,p・16・(注10)
林信雄稿,前掲論文,p・
8・28
様 な方法で,公益企業概念を構築す ることが,最良な方法であろ うと思われ る。
しか しなが ら,公益企業概念を構築すべ き価値があ るか どうか疑問をいだ く
(荏ll
)
著名な先学者がいないわけでなか った。なぜ なら,公益企業概念は制度概念で あ り,歴史的背景,文化程度,政治経済制度,生活様式, 自然環境等を基盤 と
し,社会的合意に よって構築 され る経済制度 の一部分 であ るか らであ る。
しか し,公益企業は制度的な ものであ り,決 して絶対的,固定的,画一的, 不変的な ものでないに もかかわ らず,公益企業概念一公益企業 の範四一 を恒常 的に暖味のままに してお くことは,社会制度上,次のような ことか ら決 してよ
(注12)
い ことではない。
1. 行政上におけ る公共事業 の位置,公企業 の位置,公益企業の位置を不明瞭 に してお くことは,それぞれ,抱 えている問題 ( 例 えば財務問題,人事問題, 組織機構,料金体系,規制問題等)の解決を, ます ます困難 にす る。
2.
社会構造 の進化に ともない,公益企業が必然的に変化 してい くものであ る とはいえ,その行動様式は,一定 の歴史の過程 で規定 され るべ きものであ るか ら,公益企業概念 の不明瞭性は,一定 の歴史の過程におけ るその経済的榛能, 社会的壊能を不明瞭のままに してお くことせ こなる0
3.
公益企業概念 の不明瞭性は, 「 一般私企業に対す る規制」 と 「公益企業規 制」 との関係を暖昧にす ることとな り ( 特 に独 占規制に対 しての見解を暖味に す ることとな り) ,消費者 であ る一般公衆は,多大な損失を蒙 りかねない。
以上 のような理 由か ら,公益企業概念一 公益企業 の範図‑を構築す ることは, 決 して研究者 の もフ特有の気暗に終 るものでない し,徒労に終 るものでない こ
とが理解 され るであろ う。それゆえ,わが国に散在す る諸法に共通す る公益事 業や公益企業の範囲に関す る糸をた ぐって,わが国の公益企業 の範囲を考察す
ることを, この小論の課題 とす る。
(荏ll) E・W・clemens,
『 公益企業経営論 凹J t 竹 中龍雄監訳, ダイヤモ ン ド社
,p・21・(注12)
拙稿
,『 公益事業研究第31 巻第
2号
』「 公益企業概念につ いての再考察」公益事
業学会,昭和55年
1月,pp・50‑52・さて, この小論 の課題を考察す るにあた り,散在す る諸法を,下記の④
⑧◎のように,社会経済的楼能別に分類 し,それぞれ の内容に側 して考察す る。
④ 公共の利益 とい う目的のために私権を規制 している法律
⑧ 一般公衆の需要に供す るとい う目的を明示 している法律
◎
公営を基盤 としなが ら公共の福祉の 目的を明示 している法律
●〔2〕
公共の利益 という目的のために私権を規制 している法律
(1)
土地収用法 ( 昭和
26年
6月
9日公布,法
219,同年
12月
1日施行)
\
「この法律は,公共の利益 となる事業に必要な土地等 の収用又は使用に関 し, その要件,手続及び効果並びにこれに伴 う損失の補償等について規定 し,公共 の利益 の増進 と私有財産 との調整を図 り, もって国土 の適正且つ合理的な利用 に寄与す ることを 目的 とす る。 」 とい うように,第
1章総則 ,第
1条に土地収用 法の目的を示 している。第
2条では,土地を使用できる条件を 「公共の利益 と なる事業の用に供するため」 と限定 し, さらに 「当該事業の用に供す ることが 土地利用上,適正且つ合理的であるとき」 と限定 している。 また,同法
3条に, 具体的に土地を収用又は使用でき うる公共の利益 となる事業 として
,35事業種 が列挙 されている。そ して,それ らの事業を遂行 してい くための施設建設 とし て,以下の施設建設が容認 されている。
1. 道路,2. 河川施設 ( 堤防,護岸, ダム,水路,貯水鞄)
,3.砂防設備 ,
4.地すべ り防止施設
,5.ぼた山崩壊防止施設
,6.急傾斜地崩壊防止施設,
7.運河
,8.農業用道路
,9.用水路
,10.排水路,
ll.海岸提防
,12.かんがい用池
,13.防風林
,14.土地改良に伴 う施設
,15.地下水源の利用施設.
16.
国鉄施設
,17.塩専売事業施設
,18.日本鉄道建設公団施設
,19.本州四
国連絡橋公団施設
,20.地方鉄道施設
,21.軌道施設
,22.無軌道電車施設,
23.石油パイプライン施設,
24.一般乗合 自動車施設
,25.一般路線貨物 自動
車運送事業施設
,26.自動車 ター ミナル施設
,27.港湾施設
,28.漁港施設,
Jや'TV;
30
29.
海岸保全施設,3
0.航路標識施設
,31.水路測量標識施設,3
2.飛行場,
33.航空保安施設,34.気象観測施設
,35.電波監視施設
,36.電気通信設備,
37.公衆通信施設,3
8.放送事業設備,3
9.電気事業施設,4
0.電源開発株式会 社施設,4 1.ガス事業施設,4
2.水道事業施設,4
3.下水道事業施設,4
4.消防施設,4
5.水防施設,46. 学術研究施設,4
7.公民館,4
8.博物館,4
9.図 書館,5
0.社会福祉事業施設,5 1.公共職業訓練施設,52. 共済組合施設,53.
火葬場,54.と香場,5
5.‑ い獣処理場,56. 廃棄物処理場,5
7.公衆便所,
58.卸売市場,
59.自然公園,60.自然環境保全地域及び保全事業施設,61.
都市計画法に基づ く住宅,6
2.庁舎,6
3.公営工場,6
4.公営研究所,6
5.公 営市場,6
6.公営運動場,6
7.公営墓地,6
8.公営広場,6
9.公営緑地,7
0.公 営公園,7 1.日本原子力研究所施設,72. 動力炉 ・核燃料 開発事業施設,7
3.水 資源開発公団施設,7
4.愛知豊川用水施設,7
5.宇宙開発事業施設, さらに, 上記 の施設を利用す る場合に不可欠 な通路,檎,鉄道,軌道,索道,電話線, 水路,池井,土 石 の捨場,材料 の置場,職務上常駐を必要 とす る職員 の詰所又 は宿舎その他 の施設 に対 して も土地収用が容認 され てい る。すなわち,上記の 施設 に用す る土地 を,公共 団体や公有公営 の経営体はい うにお よばず,私有私 営の経営体であ って も, 同法第
3条の3
5種 の事業 内で,公共の利益 とな る事業 を経営す るために利用 しよ うと した場合,その土地は,その主体 に よって収用 され,使用 され ることが,可能であ るとい うことであ る。
しか るに,上記か らも推論 され るよ うに,土地収用法 は,公共の利益 のため
(注13)
に私権が規制 され ている内容を示 してい る法律 であるといえ よ う。
(注13)
私権の規制と公益企業の関連性については,すでにアメリカ合衆国において,
1887年のマン対イ リノイ州事件で重要な原則が示されている。同事件の判決は,
上記のような関連性について次のように明示 している。 「 私有財産が ■ 一 公衆の利
益に責務を負 う"ものであるとき,それは,ただ私権であるべきことをやめるこ
とになることを我々は知る。 このことは
,200年前にイギ リス高等法院の首席裁
判官‑‑ル卿が,彼の論文 『 海港論 I
k lX)rCtibusMariS』の中で述べられていた
ことであった。それ以来,財産法における本質的要件として.反対されることな
く受講されてきたのであった。財産がある意味で公共的結果を生み,かつ地域/
換言す るな らば,土地収用法 とは,あ る主体 が経済的機能 を遂行す る過程 で 必然的 に公共 の利益 と一致す る場 合 で,かつそ の公共 の利益 が客体 の私権 よ り 優先 され るべ きであ る ことを何人 に よって も容認 され た場 合,客体 の私権 が塊 制 され るとい う法律 であ る。
い うまで もな く,公共 の利益 を遂行す る主体 と しては,非企業 と企業 とい う 2つ の異 な る組織体 に大別 され る。前者 は,公共 団体 に限 られ,公共事業 と し ての港湾,道路,公 園等 を税金や特別課税 に よって建設 し,それ らを維持 ・運 営 してい る組織体 であ る。それ ゆ え,企業 と しての性格を有 しない。後者 は, 所有主体 が公的 であれ私的であれ,そ の主体 が供 給す るサ ー ビス (日常生活 に 必需 なサ ー ビスや財 )を公衆 に一定 の価格 (差別 な し)で販売 して, 自らの経 営 を維 持 ・発展 させ る とい う性格 を有す る経営体 (継続企業 )であ る。それゆ え,前者 は公共事業 の範噂 に属 し,後者 は公益企業 の範境 に属す とい うことで
あ る。
しか るに上記 の意味か ら も理解 され る よ うに土地収用法 は,公共 の利益 と一 致す る法律 であ るか らとい って,土地収用法 の全 てが公益事業法 とはな らない。
す なわ ち,公益企業 と関連 してい る土地収用法 の限 られ たそ の部分 は,公益事 業法 であ る とい えるが,公共事業 と関連 してい る同法 のその部分 は,公益事業 法 であ る とはい えない。
\社会全般に関与するように使用された時,それは公共の利益をともなってくる それゆえ,自己の財産が公衆と利害関係をもつように利用された時,人は,実際 において,その利用において公衆に利害関係を認可したのである。そ して,この ようにして創られた利害関係の範囲内で,公共の善のため,公衆による統制に服 さなければならない。‑」 この判決は,私有財産権は絶対的なものでな く,公共 の利益によって限定されるということを明示 したものであった。いわゆる,それ までの私有財産制,契約の自由,企業競争の自由を遵守 して い た Leisse2:‑faire の思想に替るものとして,当時,すでに潜在化していた新 しい自由主義が,形を 整えて生成されだしたのである。 この背景は,当時,イギ リス同様にアメリカの 社会 二経済環境にも産業化の波がおしよせ,個人の自由や生活は,それ までとは 違って,否応なしに社会化をともな うようにな り,全体の社会福祉に一層,緊密 不可分に結ばれるようになったことに起因したといえる。
PaulJ・GarfieldandWallaceF.Lovejoy,PublicUtilityEconomics,1964,p.7.
32
か くして
,「前述の土地収用法第
3条の
35事業種」 と
,「 上記の私見に よる土 地収用法 と公益事業法の関連性の考察」か ら,土地収用法に内包 されている公 益企業 の範囲を推論すれば,おお よそ,次の よ うに示 され るだろ う。
(注14)
1. 日本国有鉄道法 に もとづいて鉄道事業等の業務をなす 日本国有鉄遭
2.地方鉄道法に もとづいて,一般の需要 に応 じ旅客又は物品を運送す る地方
(注15)
鉄道
3.
軌道法に もとづいて一般交通の用に供す る事業をなす軌道事業経営体又は
(注16)
無軌道電車事業経営体
4.
石油パイプライ ン事業法に もとづいて,一般の需要 に応 じて導管を使用 し
(注17)
て石油輸送を行 う経営体
5.
道路運送法に もとづいて一般乗合旅客 自動車運送事業や一般路線貨物 自動
(注18)
串運送事業をなす経営体
(注19)
6.
航空法に もとづ き航空事業をなす航空事業経営体
7・
公衆琴信の用に供す る事業をなす経営体 (日本電信電話株式会社又は国際
(注20)
電信電話株式会社)
(注21)
8.
放送法に もとづ き放送事業をなす放送事業経営体
9.
電気事業法に もとづ き一般の需要 に応 じ電気を供給す る事業をなす電気事
(注22,
業経営体
10.
ガス事業法 にもとづ き一般の需要 に応 じ導管i こよりガスを供給す る事渠を
(注23)
なす ガス事業経営体
(注14)
土地収用法第
3粂 7号の 1, 日本国有鉄道法第
1粂 ・第
3粂
(注15)土地収用法第
3条
8号の 1,地方鉄道法第
1粂
(注16)
土地収用法第
3条
8号の 1,軌道法第
1条
( 注
17)土地収用法第
3条
8号の
2,石油′ くイプライ ン事業法第
1粂 ・第
2条
(注18)土地収用法第
3粂 9号,道路運送法第
1条,第
2条,第
3条
(注19)土地収用法第
3粂12号,航空法第
1条,第
100条,第
101粂
(注20)土地収用法第
3条
15号の
2,電気通信事業法第
(注21)
土地収用法第
3条
16号,放送法第
1条,第
2条
(注22)土地収用法第
3粂17号,電気事業法第
1条,第
(注23)土地収用法第
3粂17号の
3, ガス事業法第
1条,
12条 条 第
2粂
ll.
水道法に もとづ き一般の需要に応 じて,水道に より水を供給す る事業をな
(注24)
す水道事業経営体
上記の ように,土地収用法に明示 され ていて,かつ公益企業 の範囲に属す る 経営体 は,いずれ も継続企業 であ る。 しか し,それ らが税金や特別課税 に よっ て経営 され るよ うになったな らば,公益企業の範囲に属 さず,公共事業 の範囲 に属す ようになる。反対 に,土地収用法第
3条の
35種事業 の中の上記の1 1事業 以外の事業が,一般の需要に応 じて,主 として税金や特別課税に よらず して継 続企業 として経営 され るようになった場合,その ような事業体は,公益企業 の 範囲に属す るようになる。
しか るに,公益企業 の範囲は,決 して絶対的,固定的,画一的,不変的な も のでない ことを銘記 しておかなければな らない。す なわち,公益事業 に包括 さ れ る事業 は,社会経済環境,文化,科学技術,生活様式等 に基づ き社会的合意 の上で形成 され るものであ り,それゆえ,制度的な ものであ る。 また,公益事 業を遂行 していかなければな らない経営体 としての公益企業は,その所有態様 一つを取 り上げて も,それ以上 に,社会経済環境や文化程度等 に よって相違す るものであるか ら,公益事業 より, もっと制度的な ものであるといえる。 しか し,一定の歴史過程で公益企業の行動様式を概観す るな らば,公益企業は一定 の運動法則を もち,一定 の行動様式を とっていることも事実であ る。
(2)
独占禁止法 ( 私的独 占の禁止及び公正取引の確保 に関す る法律,昭和22 年
4月1
4日,法54)
独 占禁止法は,一般消費者の利益を確保す るとともに,国民経済の民主的で ( 注24) 土地収用法第
3条1
8号,水道法第
1条,第
2条,第
3条
筆者が下水道経営体を土地収用法に内包 されている公益企業の範囲であると認
めない理 由は次の とお りであ る。すなわ ち,同経営体は地方公共団体の財政基盤
の貧弱性や社会資本の立遅れに よって,わが国では, まだそれほ ど普及 されてお
らず,一般の需要に応 じて供給す る経営体であ るといえない し, また,土地収用
法や下水道法に も一般の需要に応 じてサ ー ビス供給す る事業であ るとい う意味の
語句がみ られないか らである。 しか し,その普及が高 まるにつれて,同経営体は
公益企業の範囲に属す るよ うにな ると思われ る。
L‑1rl ,ヽ三rlTr
34
●●●●●●●●●●
健全な発達を促進す るとい う経済的民主主義の確立を 目的 として制定 された法 . 律である。
そ して,上記の 目的を確立 してい くべ き指導原理 として,公正且つ 自由な競 争を促進 し,事業者の創意を発揮 させ,事業活動を盛んに し,雇傭及び国民実 質所得の水準を高め ることを明示 している。
また, これ らの指導原理を具現化 してい くための方法 として私的独 占,不当 な取引制限,不公正な取引方法の禁止や事業支配力の過度の集中を防止 して, 結合や協定等の方法 に よる生産,販売,技術等の不当な制限その他一切の事業 活動の不当な拘束 の排除を明確に示 している。
ところで,独 占禁止法は,資本主義経済体制を基盤 として成立 してい る。い わゆ る,私的所有権,契約 の 自由,競争の 自由の
3つを基盤 として成立 してい
る。換言すれば, 自由競争経済が遵守 され るな らば,企業は能率的経営をな し, 結果 として一般消費者 の利益が確保 され るとともに,国民経済の民主的で健全 な発達が促進 され るとい う古典経済学理論が,独 占禁止法の基盤 となっている。
しか し,資本主義経済体制 の経済活動の中で, 自由競争 とい う指導原理が, 必ず しもガスや水道事業の経営 にさい して有効的に機能せず,逆 にマイナスに 作用す るとい う事 実 を, ジ ョン ・スチ ュアー ト・ミルが 『政治経済学原理
』(注25)
(1848)
に,すでに次の ように明示 してい るのであ る。「もしも, ロン ドンが, ただ
1個のガス会社 または水道会社か ら供給 を受け るようにな ったな らば,そ こか らどれほ ど大 きな労働の節約が生ず るか, これはい うまで もな く明 らかな ことであ る。た とえ,
2会社 しか存在 しない として も,それはやは りすべ ての 設備の重複を意味す る。が しか し,
1会社だけであ るとす ると,その設備を少
し拡張 しさえすれば,全部の作業 を立派にや ってゆけ るであろ う。‑‑・ お よそ, 真に公共的な重要性を有す る事業であ って, しか も大規模に営んでは じめて利
(江25) John.Stuart.M
i l
l,『PrinciplesofPoliticalEconomy,withsomeoftheirAppli‑ cationstoSKialPhilosophy』末水茂喜訳
,『 経済学原理( 1 ) 』
岩波書店,昭和42
年 第
7刷
,pp・270‑272,′ ・ b 、J. '・...i1 ‑Jt‑港
益をあげ られ うるがゆえに競争の 自由が,ほ とん ど許 されない ものにおいては, 社会に対 してただ この一つのサ ービスをなすために教組の高価な設備が並 び存 す るとい うことは,公共資源の配分 として まことに不経済なことであ る。 この よ うな事業は,ただちにそれを公営事業 とす る方がはるかにいい ものであ る。
そ して, もしも政府 自体がその事業を有利 に経営す るに適 しない場合には,そ れを公共のために もっともよい条件 で営み うる会社 または組合に全部移管すべ
きであ る。・ ‑‑。 」
ミルの この考察力の精敵性は, アメ . )カ合衆国や ヨー ロッ/ くの全ての都市の 公益企業史に よって公益企業 の 自然的独 占として立証 された, とガ‑フ ィル ド
(注26) (注27)
とラブジ ョイは指摘 し、次の ように述べているo「初期の公益企業 ( 1 90 0年前後 頃の公益企業 )は,不安定で破滅的な競争に直面 し,企業合同す ることが, よ りよい解決方策であ ることを知 った。なぜ な ら,企業合同は,低 コス トを形成 しなが ら,価格 と実質的経済活動の支配の達成 を示 したか らであ る。特 に後者 の ことは,注 目された。すなわち,公益事業を継続 してい く上で,特定 の市場 にサ ービス供給す る場合,. 無競争 とす る最大の理 由は,同 じサ ービス供給をな す他会社 との競争がな くなるので,最小 コス トない しそれ に近 い コス トでサ ー ビス供給 で きるとい うことが事実 として証明され るようになったか らであ る。 」
上記のガ‑フ ィール ドとラブジ ョイの指摘か らも理解 され るように, ミルの 公益企業独占指向説は, アメ リカや ヨー ロッパの都市 におけ る初期の公益企業 の破滅的競争に よって,社会的に公益企業 の 自然的独 占として立証 されたので あ る。
わが国において も,公益企業間の破滅的競争 の末の独 占化の事例は少な くな い。その典型的事例 として,われわれは,東京瓦斯 と千代 田瓦斯の抗争 の末の
(注28)
合併や,第
1蓑 に示 され るような,第
1次世界大戦
(1914‑18)後 の恐慌を契 (注26) Paul∫.GarfieldandWallaceF.Lovejoy,op.°it.,p.15.(注27) Ibid,p.16.
36
第
1表 東京電燈株式会社 の合併又 は買収 ( 大正1 0年(1
921 )〜大震災以前(1
923))年 次 l 合 併 又 は 買 収 会 社 名 l 毒併蛋 ( i F q a ) J 還i@/ fF q q 大正1 0年
4月
1日
同 上 大正
10年
5月
1日 大正1 0年1 0月
1日 大正1 0年1
2月1 0日
同 上 大正1 1 年
2月
1日大正1 1 年1 0月
1日大正1 1 年 11月1 0日 大正1
2年
2月
1日大正1
2年
4月
1日同 上
利 根 発 電 株 式 会 社 ( 合併) 利 根 軌 道 株 式 会 社 (買収) 横 浜 電 気 株 式 会 社 ( 合併) 第
2東信 電 気 株 式 会 社 ( 合併) 高 崎 水 力 電 気 株式会社 ( 合併) 熊 川 電 気 株 式 会 社 ( 合併) 桂 川 電 力 株 式 会 社 ( 合併) 日本水力 電 気 株 式 会 社 ( 合併) 烏 川 電 力 株 式 会 社 ( 買収) 水 上 発 電 株 式 会 社 ( 買収) 猪 苗 代水力電気株式会社 ( 合併) 忍野水力 電 気 株 式 会 社 ( 合併)
22,000,000
20,000,000 5,000,000 5,500,000 750,000 42,500,000 2,250,000
35,500,000 500,000
146,000,000 1
4
6,000,00() 166,000,000 17
1,000,000 176,500,000 177,250,000 219,750,000 222,000,000 222,000,000 222,000,000 257,500,000 258,000,000( 注) 東京電燈株式会社編
,『 東京電燈株式会社開業5
0年史』 昭和 1 , 1 年
8月,p.
127よ り転載
第
2表
5大電力会社 に よる市場拡張戦
競争‑ 腎 腎 i 翠 腎 I
紛争
の 原 因l 結
果当 事 者
日本電 力対
東 邦 電 力 中京地方
I歪要 8 月 景
3月l旦雲 の大都市進 出第 l謂空相 へ供給権 日本電 力対
宇治川電気 関西地方
宇治電が
大同の阪 進 出を恐れ大 同 と 電協定 し日電 との 約条件を破棄 しよ と
したため
日電,宇治電 との売 電 回復
東京電燈
対
東 京 電
力
関東地方 )盃葦 5月
l管掌1
2月東邦の東京電燈市場 への乗込
東京電燈 と東京電力
(東邦電力の子会社 )
の合併,東邦は東京
電燈の大株主 とな る
東京電燈
対
東 邦 電
力
中京地方 間 12月t管掌 1。月l豪雪雪質芸名古畳市
I露謹言歪蓑名相 供日本電力対
束 京 電
燈
関東地方月月57
和
年和年昭4昭7 9,慧 11月l三選日電の大都市進出第 日電の関東地方供給成功
大 同電力対
束 京 電 燈 関東地方 大
14昭
4昭 9 正 年
和年 和
年11
6 月月
月月 月
10711
和 年 和
牛和 年 昭
4昭
6昭
9大 同の関東市場進 出 紳士協定 の改訂,大 同の売電継続 と料
金引下
大 同電力対
宇治川電気 昭和
l昭和宇 治 電 が 日 電 よ り の
関西地方 1 7等
11月r8n軍8月 l 要 の 望 契 約 夏 空 を 慧 破 去 棄 , 従 来 大 同の売電存続 と料 金引下
( 注) 三宅暗輝著 『日本 の電気事業』春秋社,昭和2
6年
8凡
p.73.よ り転載。
I/̲ ; ‑ヽ.I E I J .I, ̲
機 に発送電系統 の合理的連絡網強化に よる コス ト減を 目的 として吸収合併を強 力に形成 した資本力の強 い電力会社や,第
2表 に示 され るような,大正末期か ら昭和初期 にかけての
5大電力会社 間の市場獲得競争に よる協定 の結果を,揺 摘す ることができる。
前述か らも推論 され るように,欧米において も, 日本において も,公益企業 間の破滅的競争 に よって公衆の利益が損われない ように,又 国民経済の民主的 で健全な発展が阻害 され ない ように とい う事 由か ら,公益企業の独 占が必然的 に余儀 な くされ るようになった ことを,われわれは理解 した。
しか し, また,単に破滅的競争に よる経済的損失の防止だけでな く,サ ービ ス供給 され る利用者公衆側か らの便益性 とい う面か らも,公益企業の独 占化は, 必然的 とな らざるをえない ことであ ったのであ る。た とえば, ガス会社が ガス 供給す るにさい して,公道の使用は不可避 であ る。 しか るに同一 の公道 に複数 以上のガス会社 のガス管が埋設 された場合, ガス管の交換,検査,修理等でそ の公道 の掘 りか え しが,それだけ多 くな り,公道を利用す る地域住民にそれだ け迷惑をかけ ることになる。それゆえ,便益性 とい う面か らも,公益企業は, 単一 の事業者 に よって経営 され る方が よい と地域住民 に認識 され るよ うになっ たのであ る。
か くして,前述 の 「破滅的競争」や 「便益性」 とい う2 つの面か ら,われわ れ は,公益企業 は必然的に独 占とな らざるをえない経営体 であ り,いわゆ る自 然的独 占
(naturalmonopoly)とい う特質を有す る経営体 であ るとい うことを認識 した。そ して, また,公益企業の独 占は,決 して独 占禁止法の 目的 ( 一般 ( 注28) 明治1
8年に東京府瓦斯局の払い下げを受けて東京瓦斯会社が設立 された。設立
か ら
25年間,東京におけ る唯一のガス事業 として東京瓦斯会社の事業は順調に発 展 した。 しか し,明治のおわ りごろ, ガス事業の報償契約を東京市 と結んだ千代 田瓦斯会社が設立 され, この新会社の出現によって同一供給地区域に2 つのガス 事業が並立す る形にな り,激 しい競争が行なわれた。・ ‑‑そのまま推移す ると両 社はやがて共倒れになることが明瞭になったo ガス事業に起 った混乱状態は世の 批判をまね き.事態を収拾す るため東京府知事等の斡旋に よって,東京瓦斯 と千 代 田瓦斯を合併 させ る協議が進め られた。‑‑明治44 年末に東京瓦斯 と千代田瓦 斯の合併が行なわれた。
『 東京瓦斯
70年史』昭和
31年
,pp.63‑72.宇戸ヲgI呼野
38
公衆の利益の保護や国民経済の民主的発展) と矛盾す る ものでない ことも理解 で きた。いわゆ る,現実 の経済活動の中で, 自由競争経済秩序 の維持 イ コール 公共 の利益 とい う独 占禁止政策 の理念が通用 しえない領域 があ るとい うことを, われわれ は認識 し,その典型的領域 と して,公益企業を理解 したのであ る。
換言す るな らば,わが国において,独 占禁止法 の制定 当時か ら,公益企業 に ついては前述 の 自然的独 占とい う特質を十分 に考慮 し,かつ独 占禁止法 の 目的 を達成す るためには,独 占禁止法は全ての経営体 に機能す る法律でな く,限界 を有す る法律であ ることを我 々は認識 しなければな らない とい うことであ る。
そ して,それ らを認識 した上 で,同法21 条を もって,公益事業 に対 して,独 占 禁止法 の適用除外がは じめて理解 され るとい うことであ る。
同法21 条の全文は ,次の よ うに明示 され てい る。「この法律の規定は ,鉄道事 莱,電気事業,瓦斯事業その他その性質上 当然に独 占とな る事業を営む者 の行
う生産,販売又 は供給に関す る行為であ ってその事業 に固有 の ものについては, これを適用 しない。 」。すなわ ち ,この条文は ,その性質上当然 に独 占となる事 業 の行為に とって,一般消費者 の利益や公共 の利益 の擁護 を余儀な くされ るこ とか ら, 昏由競争 とい う私権 が明確に規制 され なければな らない法律であ り, それゆえ,公益事業法であ るといえ よ う。 また, 同法21 条が公益事業法であ る とい うこと以上 に,われわれが同法21 条に関心をいだ くことは,そ こに公益事 業 の範 囲が,あ る程度,明示 されてい ることであ る。 いわゆ る公益事業 として, 鉄道事業,電気事業,瓦斯事業 が明示 され, さらに公益事業 の範 囲 として,そ の性質上,当然 に独 占とな る事業であ ることを示 してい るか らであ る。 この こ とは,公益企業の概念が,決 して,絶対的,固定的,画一的,不変的な もので な く,変化す る内容を もつ一定 した概念
(a fixed concept with achanging(注29)
content)
であ ることを意味 している。いわゆ る,その ことは社会経済 の変動に
よっては,公益事業は変化を余儀な くされ,累積的発展過程 を示す ものであ る
( 注
29) MIG・Glaese
r,TheMeaningofPublicUtility‑ A S∝iologicalInterpretation (inH ・B・t
brau,MaterialsfortheStudyofPublicUtilityEconomics)Macmillan, NewYork,1930.、 ⁚ 、リ . ㌧ ∴
ことを意味 している。それゆえ,公益事業の地位は制度的な ものであ ることを 銘記 しておかなければな らない。
しか しなが ら,公益事業地位がいかに制度的な ものであ り,累積的発展過程 を示す とはいえ,あ る特定の産業類系 に t t 独 占性"と t t 必需性"とい う公益事業 の属性が必然的に具備 されているとい うことが,公益事業地位の大前提であ る。
そ して,その ような大前提が整 っている場合に集団的判断に よって,その経済 的活動は公益事業 であ ると認め られ るのであ る。集団的判断 とは, この場合, 地域社会の人 々に よる判断であ り,世論であ り,最終的には法の制定 に よって
(注30)
確定 され るものであ る。
また,公益事業 に関す る独 占禁止法 の適用除外については,独 占禁止法第
21条だけでな く
,「同22 条」 と 「独 占禁止法 の適用除外に関す る法律」( 昭和22 年
11月20日,法律1
38,以下適用除外法 とい う) も関連 している
。独 占禁止法第㌶条
1項 の全文は ,次の とお りであ る。「この法律の規定は ,特 定 の事業 について特別 の法律がある場合において,事業者又は事業者団体が, その法律又はその法律に基 く命令に よって行 う正当な行為 には, これを適用 し ない。(昭和2 8年,法259本項改正
)」 この条項 の中で
,「 特定の事業 について特 定の法律」 とい うことが不明確であ るので,同条の
2項 で 「前項の特別 の法律 紘,別 に法律を以て これを指定す る。 」 と規定 されている。 そ して, この規定 に基づ き適用除外法が制定 されたのであ る。
適用除外法第
1条には,特別 の法律 として次の ような法律を規定 している。
1. 地方鉄道法第2 5条第 1項( 第26 条において準用す る場合を含む)
2.
陸上交通事業調整法第
2条第
1項第
6号
7号並 びにこれ らの規定に係 る同 条第
2項
3.食糧管理法
( 注
30)竹中龍雄,北久一共著 ,北久一稿 『 経営学全書
14公企業 ・公益企業経営論 』 「 公
益企業経営論」九善,昭和
45年
,p・165・40
4.
損害保険料率算出団体 に関す る法律
5.漁船損害等補償法第
4章第
1節
6.
公衆電気通信法第
5条 の
2第
2項 .
7.
旧ポ ツダム宣言の受諾 に伴 い発す る命令 に関す る件 に基 く命令 であ って, 現に法律 として効力を有す る もの
しか し,上記 の 「独 占禁止法第22 条」 と 「適用除外法第
1粂」に示 され てい る内容か ら, これ らの法律は,全ての公益事業 に関す る独 占禁止法 の適用除外 を示 してい るものではない。なぜな ら, これ らの法律 に示 され てい る独 占禁止 法 の適用除外 としての事業 の範 囲は,公益事業 の範 囲 とい うよ りも公的規制 の 範 囲 とい う側面か ら,広 く示 され てい るものであ り,公益事業 に関 しての独 占 禁止法の適用除外を明確 に示 してい るものではないか らであ る。今村成和教授 は, これ らの事業 の範 囲を,「アメ リカでい う
regulated lndustriesが, これ(注31)
に当 り,公益事業 よ り広い観念 である。 」 と主張 してい る。 さらに ,今村教授 は, これ らの事業 を,「自由競争原理が妥当せず ,従 って ,認可制 に よ り事業者 の独 占的地位を保障す る反面 において,公衆 の利益保護 のために,料金その他につ
(注32)
いて,高度 の公的統制が加 え られ る事業」であ ると主張 してい る。いわゆ る, 上記の適用除外法 第
1条 の
3・4・5・7の 法律か ら推論 され るよ うに, これ ら の法律に関与す る事業は,高度 ( 政治的要 因を含む)に公的規制が加 え られて い る事業 であ り,公益事業 の範 囲であ るとは認め られない。 しか し,適用除外 法第
1条の
1・2・6の 法律 に関与す る事業 には, tt 独 占性" と t l 必需性" とい う公益事業 の属性が必然的に具備 され てい るとみな され うる。それゆえ,独 占 禁止法第
22条 と適用除外法 の一部 (特に適 用除外法第
1条 の 1
・2・6)は,公 衆 の利益保護 のために,独 占が保障 され, 自由競争 とい う私権が規制 されてい
る法律 であ り,公益事業法であ ると理解 して もよか ろ う。
(注31) 今村成和著
,『 独 占禁止法』
有斐閣,昭和49年,p・162・(注32) 今村成和著,前掲書,p・162・
しか るに,独 占禁止法第21 条に公益事業 として明示 され ている鉄道事業,電 気事業, ガス事業の外に,独 占禁止法第22 条 と適用除外法第
1条の
1・2・6の法律の意味か ら,地方鉄道事業,軌道事業,一般乗合旅客 自動車運送事業,公 衆電気通信事業 も,公益事業 として独 占禁 止法に明示 され ていると理解 され る。
しか るに,独 占禁止法の公益企業 の範囲は l
,・上記の事業 の枠 内で,経済性を指 導原理 として,合理的,継続的,統一的に商品生産をなす意思統一体 と しての 個別生産経済体 であると理解 され るのであ る。
〔3〕
一般公衆の需要に供するという目的を明示 している法律
(1)
労働関係調整法 (昭和21 年
9月2 7日公布,法律2
5号,昭和21 年1
0月1
3日
施行)資本主義経済体制の場合,労使の利害対立は不可避 であ り,その最終的対立 の結果 として,労働争議行為 となる。周知の よ うに,労働争議行為は,労使双 方に多大の犠牲を もた らすだけでな く,社会に も多大な損失を もた らす。 しか るに,争議行為に至 らない ように最善の予防を した り, 自主的に調整 され るこ とが,基本的に労使間に確立 されていなければな らない。 しか し,その ような 努力に もかかわ らず,争議行為が起 った場合のために,それを調整す る制度 の 確立が必要 とされ るのであ る。それゆえ,第
2次大戦後, この ような予防措置 や 自主的な労使間の調整制度や争議行為調整制度を保障す る法律 として,労働 関係調整法 (以下,労調法 とい う)が制定 されたのであ る。
労調法の 目的は,同法
1条に 「労働組合法 と相保 って,労働関係の公正な調
整を図 り,労働争議を予防 し,又は解決 して,産業の平和 を維持 し, もって経
済 の興隆に寄与す ることを 目的 とす る。 」と明示 されている。それゆえ,同
1条
か ら推論す る限 りにおいては,争議行為調整制度が,全面的に労調法に よって
保障 されているようであ るが,事実は,そ うではない。争議行為の禁止お よび
制限 として,以下の三つの事項が,労調法に明示 され ている。
42
1. 安全保持施設 の運行 の停止を伴 う争議行為の禁止 (同法
36粂)
2.公益事業争議行為におけ る予告制度 (同法3
7粂)
3.