児童虐待の防止等 に関す る法律及び児童福祉法の改正 と 要保護児童への援助課題
神奈川県社会福祉協議会 小野 智明
は じめに
1 947
年 に児童福祉法が成立 してか ら今年で60
年の年月を数える。その成 り立ちは戦後 の混乱期 に戦争の犠牲 となった児童がちまたにあふれ、浮浪児の発見 と保護の必要性か ら スター トしたものであったが、その理念は 「保護」 とい う側面を残 しなが らも、「すべての 児童の生活 を保障する」 とい う保護政策の転換を求めた とい う点で画期的だ とも言われて い る1。児童に関連す る諸制度を概観 してみると
、1 951
年に 「児童憲章」が制定 され、1 959
年 に は国連か ら 「児童の権利宣言」が採択 された。その後、1 989
年には 「児童の権利に関する 条約」が国連で採択 され、日本は1 994
年に批准 した。児童福祉法においても社会の変化や 国際的な要請のなかで何回 もの改訂が行われ、児童の健全な育成 を図るための諸制度が整 備 されつつある。しか しなが ら、親の子育て環境 も変化 してい くにつれて、児童が健全に育まれる環境が 良 くなっているとは言い難い。例 えば
20 0 0
年に 「児童虐待の防止等に関す る法律 (以下、児童虐待防止法 と略す」が制定 された前後か ら児童相談所 に寄せ られ る虐待ケースが増加 していること、新聞等 に掲載 され る虐待事件 な ど枚挙に暇がないことな どか らも明 らかで ある。
児童福祉法においても近年では
1 9 9 7
年、2 0 0 0
年、2 0 01
年、2 0 0 2
年、2 0 03
年、2 00 4
年、2 0 0 5
年、そ して2 0 0 8
年では大幅な改正が見込まれている。特に2 00 8
年 に予定 されている 改正では、「虐待防止法及び児童福祉法の一部 を改正す る法律」と銘打っていることか らも、児童虐待防止法の改正 と関連 させ、相互に補完 しあえるよ うな枠組み となっている。
そ こで本稿では、この 「児童虐待防止法及び児童福祉法の一部を改正す る法律」に焦点 を当て、今後の要保護児童‑の対応 とその課題 を明 らかにすることを主眼 とす る。
1.児童福祉法の改正の趣 旨とその背景
児童福祉法は
50
年を経て1 997
年に大改正を行い、児童福祉施設の名称や機能の見直 し の他、措置制度か ら利用制度‑の移行を志向 したもの として大 きな転換が図 られた。その 後、 2001
年の改正では保育士資格の法定化 と名称独 占化がはか られ、 2002
年度の改正では、児童虐待な ど子 ども‑の不適切な関わ りについて、その受 け皿 となる児童相談所の機能強
‑31
‑化 を
、2003
年度には子育て家庭‑の支援をポイン トとして、市町村 における子育て支援事 業の実施や地域の子育て家庭‑の相談支援体制の強化策が盛 り込まれている。2004
年の改正では、2000
年 に施行 された 「児童虐待の防止等 に関する法律」の影響から 児童相談 に関す る体制 をさらに進 め、身近な場所で相談が受 けられ るよ う、児童 に関する 相談はまずは市区町村がお こな うこととされ、児童相談所の役割はより困難 な事例に対応 すること、 さらに市区町村‑の相談や調整の役割 を担 うこととなった。 これ らの改正のポ イン トの課題 としては、児童相談所な どの公的なサー ビスや児童福祉施設に対 しての機能 の拡充をふまえなが らも、地域における子育てや、虐待に象徴 され るよ うな子 どもに対 し ての不適切なかかわ りによる問題 に対 してのサー ビス整備 を志向 しているものであるとい える (図表 1)0(図表 1)児童福祉法の改正の趣 旨
改正年度 背景 改正の主なポイン ト
1 997
子 どもを取 り巻 く環境の変化、子 ど○
保育施策もや家庭 の問題 の複雑化 、多様化、 従来までの措置制度か ら選択利用制度‑移行、市 子育て支援の必要性、子 どもの権利 町村‑ の保育所の設置者等 についての情報提供 擁護‑の意識の高ま り 義務付 け、保育所‑の保育に関す る情報提供の努 力義務、保育料負担方式の改正、保育所における 子育て相談の実施
○
母子家庭支援施策「保護」か ら 「自立」を目指 し、母子寮を 「母子 生活支援施設」‑名称変更
○
児童 自立支援施策教護院を 「児童 自立支援施設」‑、養護施設 を 「児 童養護施設」‑名称変更を行い、虚弱児施設は 「児 童 自立支援施設」‑統合す るな どの機能の見直 し
○
児童家庭支援セ ンターの設立2001
家庭や施設な どにおける子 ども‑の○
認可外児童福祉施設に対する監督の強化 不適切な関わ りについての意識の高ま り○ ○
保育士資格の法定化 と名称独 占化主任児童委員の法定化 と職務の具体化2002
児童虐待 をは じめ として、児童相談○
児童相談所長 .児童福祉司の任用資格について所における援助が複雑かつ困難な案 の厳格化
件の増加
○
一時保護期間の弾力的な運用○
中央児童福祉審議会の併合2003
急速 な少子化進行 と、子育て家庭 に○
市町村 における子育て支援事業対す る子 どもの養育のた めの支援の 市町村が居宅や保育所等で子 どもの養育 を支援 必要性の高ま り す る事業や地域の子育て家庭か らの相談支援 .悼
報提供や助言を行 う
○
市町村の保育計画の作成○
保育ゐ実施等の供給体制確保 に関す る計画 を 定める2004
児童虐待防止法等に関す る法律施行○
児童相談体制以降の児童虐待相談の増加、児童相 児童相談所 にお ける役割 として緊急 ケース等専 談所 の飽和状態、児童福祉施設の機 門性の高い もの‑の対応.育児不安な どの相談は 能強化の必要性 子 ども家庭相談 として市町村業務に位置づける.o
○
要保護児童対策地域協議会の設置○
保護者 の児童虐待等 にお ける司法関与等に関 す る改正○
要保護児童やその保護者 について家庭裁判所2 0 05
障害者 自立支援法制定○ ○
知的障害者児施設等の指定について等に関す障害児施設給付費の支給る改正「子 どもと家庭の支援 と社会福祉」 ミネル ヴァ書房
、2 0 0 8 、p. 7 3‑7
7か ら抜粋要約これ らの改正の背景 となる子 どもを取 り巻 く家庭環境の変化 に関する問題ついて、森 は、
自治体行政 との関連において要介護高齢者や障害者 に比べて要保護児童数が少ない とい う ことを指摘 している2。加 えて児童個々の問題が根深 くかつ個別性が強いこと、家庭や施設 とい う密室性 が高い環境が問題 を隠蔽化 しやすいこと、問題が生 じても子 どもであるが故 に声 をあげに くいことな どか ら社会問題にな りにくかった とい うことも関係 しているであ ろ う。
これ ら児童の問題 については森が示 したよ うな社会問題 にな りにくかった背景に加 え、
社会環境 については、地域 における子育て機能が弱体化 しつつある問題 について注視 して おかなければな らない。 これ ら子育ての環境の整備が遅れていることにより、少子化‑の 歯止 めがかけられなかった ことと、弱体化 した子育て環境によ り、虐待などの子 どもに対 する不適切なかかわ りが増加 しているとい うことな ども問題 を大きくさせ、 さらに複雑化
させているともいえるからである。
山崎はこのよ うな児童にかかわる問題のなかで、地域における子育て機能が弱体化 した ことに注 目し、家族のス トレス‑のアプローチを提唱 している。それは、「子育ての状況次 第では、そ こに多 くの時間を割いてかかわる家族 にとって、他の家族か らの助けを必要 と す る課題 を抱 えていることに着 目し、支援 システムが機能 しなければな らない」 とし、家 族の小規模化 によって何 らかのサポー トが受けにくい状況によ り、助け合いの関係が縮小 していることか ら、ボランタ リーセクターによるサポー トや支援の戦略の必要性を説いて いる。そ して、家族‑のアプローチの視点 として 「時には当事者組織を活用 し、時にはコ ミュニテ ィにある多様な機能をもつ資源を活用 し、また、ある時には個別化を図 りながら、
しかも行った り来た りのかかわ りの中で工夫を加 えなが ら支援 を進 めること」を求めてい る。 さらに 「コミュニティの中で安心 して暮 らし続 けるために、その可能性 を専門職や行 政のよ うに一定のセ クター との関係 の中で模索す るのではなく、当事者性のある人び とと 対等なパー トナーシップの構築を図 りなが ら模索す る道を創出する必要性」があるとして いる3。このことは、ある特定のサー ビスでは家族間題や虐待‑の対応が図 られにくいとい うことを示 しているものであ り、家族に対 しては、公的なサー ビスや民間のサー ビスな ど も含 め、地域 における支えあいの力 を創出 してい く必要性 を指摘 しているとともに、当事 者組織による新たな共同社会の構築‑の期待を示 しているものであると考えられる。
2.
児童福祉法等の一部を改正す る法律 (秦)の主な内容それでは児童福祉法においてはどのような内容が改正 されるのか
、2008
年2
月1
日に行‑3 3‑
われた 「第30回社会保障審議会児童部会」では、児童福祉法の改正についての趣 旨が確認 されているが、その内容は 「『子 どもと家族 を応援する日本』重点戦略等を踏まえ、家庭 的保育事業等の新たな子育て支援サービスの創設、虐待を受けた子 ども等に対す る家庭的 環境における養護の充実、仕事 と生活の両立支援のための一般事業主行動計画の策定の促 進な ど、地域や職場における次世代育成支援対策を推進す るための所要の改正を行 う
。」
とし、その内容を 1.子育て支援事業等 を法律上位置づけることによる質の確保 された事 業の普及促進、 2.困難な状況にある子 どもや家庭に対する支援 の強化、 3.地域におけ る取 り組みの促進 とい う
3
本の柱 として位置づけたものである4 (図表2)
0(図表
2)
児童福祉法等の一部を改正する法律 (秦)の主な内容1.子育て支援事業等を法律上位置づけることによる質の確保 された事業の普及促進 (1)子育て支援事業を法律上位置づけ
(2)家庭的保育事業を法律上位置づけ
2.困難な状況にある子 どもや家庭に対する支援の強化
(1)里親制度の改正(2)小規模住居型児童養育事業 (仮称)の創没
(3
)要保護事業対策協議会の機能強化(4)年長児の自立支援施策の見直 し (5)施設内虐待の防止
第
3 0
回社会保障審議会児童部会 資料1
より抜粋要約3
次世代育成支援対策推進法 (地域における取 り 組みの促進)については省略上記図表
2
の 「1.子育て支援事業等を法律上位置づけることによる質の確保 された事 業の普及促進」については、①乳児家庭全戸訪問事業、②養育支援訪問事業、③地域子育 て支援拠点事業、④一時預か り事業を省令 にて示す こととし、市町村において着実に実紘 され るよう努めるものとしている。また、家庭的保育事業についても法律上位置づけるこ ととした5 (図表3)
。(図表
3)
参考資料 子育て支援事業の定義規定のイメージ1 乳児家庭全戸訪問事業
市町村内における原則 としてすべての乳児のいる家庭を訪問することにより、厚生労働省令で定めるとこ ろにより、①子育てに関する情報の提供、②乳児及びその保護者の心身の状況及び養育環境の把握を行 う ほか、③養育についての相談に応 じ、助言その他の援助を行 う事業
2
養育支援訪問事業厚生労働省令で定めるところにより、乳児家庭全戸訪問事業の実施その他により把握 した①保護者の養育 を支援することが特に必要 と認められる児童及びその保護者、②保護者に監護 させることが不適当である と認められる児童及びその保護者、③出産後の養育について出産前において支援 を行 うことが特に必要 と 認められる妊婦に対 し、その養育が適切に行われるよう、これ らの者の居宅において、養育に関する相談、
指導、助言その他必要な支援を行 う事業
3
地域子育て支援拠点事業厚生労働省令 で定めるところによ り、乳児又は幼児及びその保護者が相互の交流を行 う場所 を開設 し、子 育てについての相談、情報の提供、助言その他 の援助 を行 う事業
4 ‑時預か り事業
家庭 において保育 を受けることが一時的に困華 となった乳児又は幼児 について、厚 生労働省令で定 める と ころによ り、主 として昼間において、保育所その他 の場所 において、一時的に預か り、必要な保護 を行 う 事業
5 家庭的保育事業
保育に欠 ける乳児又は幼児 について、家庭的保育者 (市町村長が行 う研修 を修了 した保育士その他 の厚 生 労働省令で定 める者であって、 これ らの乳児又 は幼児の保育を行 う者 として市町村長が適 当 と認めるもの をい う。)の居宅その他の場所 において、家庭的保育者 による保育を行 う事業
第
3 0
回社会保障審議会児童部会資料1
よ り抜粋「2.
困難な状況にある子 どもや家庭に対す る支援の強化」の主な改正点 としては、① 里 親制度 を社会的養護の受け皿 として拡充するため、養子縁組を前提 としない里親 (養育里 親)を制度化 し、一定の研修を要件 とす るな ど里親制度を見直す.②家庭的な環境におけ る子 どもの養育を推進するため、虐待を受けた子 ども等を養育者の住居 において養育する 事業 (ファミリーホーム) を創設。③年長児 の自立支援策を見直 し、児童 自立生活援助事 業について、対象者の利用の申し込みに応 じて提供す るとともに、20歳未満の支援 を要するものを追加す る等の見直 しをすることとした6。
この改正は出産前後の相談な どによる支援体制 を拡充 しつつ、今後においては家庭的養 護のサー ビス供給量を増や し、施設養護型の施設 において家庭 に近い環境をつ くりあげ ら れ るよ うな取 り組みを促進 し、 さらに子育てに関 しては、里親や小規模 な児童養育環境 を 整備 し、できるだけ家庭 に近い環境での子育て支援の必要性 を具体化 したものであると考
えられ る。
そ してこれ らの取 り組みにあたっては、これまで養育のノウハ ウを蓄積 し、大きな役割 を果た してきた児童養護施設がそのバ ックア ップ機能 を果たす ことが子育て支援の好循環 を生み出す条件 となるであろ う。
3.
児童虐待防止法お よび児童福祉法の一部を改正す る法律社会的養護関連分野についてはどのよ うな改正が予定 されているのであろ うか。児童虐 待防止法お よび児童福祉法の一部を改正する法律 (秦)では虐待案件の増加 な どによりそ の改正が急がれている。特 に児童虐待‑の対応については、児童福祉法 と連動 させて改正 をす ることか らも児童福祉法が主な対象領域 とす る児童養護施設な どの諸サー ビス と、児 童虐待防止法が主な対象 としている家庭の児童虐待 を阻止すべ く、児童相談所の機能 と権 限を拡充 させ よ うとしているものである。
そのため、改正に当たっては
、
「1.児童の安全確認等のための立ち入 り調査等の強化」「 2 .
保護者に対する面会 ・通信等の制限の強化
」「 3 .
保護者に対す る指導に従わない場合の措 置の明確化」 「 4.その他」の大枠に対 して1 2
の項 目を示 し、その内容について見直 しをす
‑3 5
‑るもの となっている (図表
4)
。 これ らは主に児童相談所が果たすべき役割であると考える ことができることか らも明らかである。以下にその内容を示す。(図表
4)
児童虐待防止法及び児童福祉法の一部を改正する法律 (秦)の主な内容前回 (平成16年)の改正法附則の見直 し規定を踏まえ、児童虐待防止対策の強化 を図る観点か ら、児童 の安全確認等のための立入調査等の強化、保護者に対す る面会 .通信等の制限の強化等を図るための所要 の見直 しを行 う○ (平成20年4月施行)
1 児童の安全確認等のための立入調査等の強化 対応法律
○
児童相談所等は、虐待通告を受けた ときは、速やかに安全確認のための措置を 児童虐待防止法講ずるもの とすることo 付則第2粂
○
市町村等は、立入調査又は一時保護 の実施が適 当であると判断 した場合には、 児童福祉法 その旨を児童相談所長等に通知す るもの とす ること○ 第25条の7○
児童虐待のおそれのある保護者に対す る都道府県知事 による出頭要求を制度化 児童虐待防止法す ること. 第8条の2
○
従来の立入調査のスキームに加 え、都道府県知事が立入調査を実施 し、かつ、 児童虐待防止法 重ねての出頭要求を行つても、保護者がこれに応 じない場合に限 り、裁判官の許可 第9条の3 状を得た上で、解錠等を伴 う立入を可能 とす ること○○
立入調査を拒否 した者に対する罰金の額を引き上げるもの とすること○(30万円 児童福祉法以下‑50万円以下) 第61条の5
2 保護者に対す る面会 .通信等の制限の強化
○
一時保護及び保護者の同意 による施設入所等の間も、児童相談所長等が保護者 児童虐待防止法 に対 して面会 .通信を制限できるよ うにすることo 第12粂○
裁判所 の承認 を得て強制的な施設入所等の措置を行った場合であって、特に必 児童虐待防止法 要があるときは、都道府県知事は、保護者 に対 し、児童‑のつきま といや児童の居 第12条の4 場所付近でのはいかいを禁止できることとし、当該禁止命令の違反につき罰則 を設けること○
3 保護者 に対する指導に従わない場合の措置の明確化
○
児童虐待を行 った保護者に対す る指導に係 る都道府県知事の勧告に従わなかつ 児童虐待防止法 た場合には、一時保護、施設入所措置その他の必要な措置を講ずるものとす ること○ 第8条の2○
施設入所等の措置を解除 しようとす る際には、保護者 に対する指導の効果等を 児童虐待防止法勘案す るもの とす ること○ 第13条
4 その他
○
法律の 目的に、「児童の権利利益の擁護に資す ること」を明記す ることO 児童虐待防止法第1条○
国及び地方公共団体は、重大な児童虐待事例の分析を行 うこととすることo 児童虐待防止法第4条の4○
地方公共団体は、要保護児童対策地域協議会の設置に努 めなければな らないも 児童福祉法のとす ること○ 第25条の2
2007年8月21日 厚生労働省雇用均等 ・児童家庭局 「資料2 最近の児童行政の動向について」より (対 応法律については筆者加筆)
それでは児童虐待防止法および児童福祉法の一部を改正する法律の趣 旨と改正す る条項 を照合 してみると、主には児童虐待防止法では
9
点、児童福祉法では3
点の改正が図 られるもの となっている。主な点 として児童相談所の立ち入 り検査に協力 しない家庭‑の警察 力の関与を明言 し、立ち入 りを拒否 した場合の罰則 を強化 したことな どが挙げ られ る。ま た児童虐待 について国や地方公共団体は児童虐待事例の分析 を行 うこととされたが、その 背景には、虐待が生 じて しまった場合の対応策 を強化す ると同時に、国や地方公共団体が 児童虐待についての原因を地域の実情に応 じて把握 し、虐待 を予防するための対策 を立案
させ ようとす る意図があると考えられ る。
4 法改正の課題
児童虐待防止法および児童福祉法の改正によって、子育ての環境が どう変化す るのか、
あるいは虐待の予防につながるものなのか、次に現状から考えられ るい くつかの課題 を示 しておきたい。
児童虐待について、平湯 は児童福祉司などの増員や一時保護所の増設の必要性、立ち入 り調査の手段強化や親権制限など、子 どもの保護や親‑のケア、あるいは保護 した子 ども の問題行動の解消や成長支援などの実質的な規定を欠いていることを指摘 している。そ し て
「
「悪い親」か ら 「かわいそ うな子 ども」を保護す る、 とい うだけに とどま り、施設内 での子 どもの処遇の困難 さを軽視 し、子 どもの成長発達の権利あるいは家族生活の保障、とい う全体視点が欠けて しまっている。」 とし、恩恵的福祉観 を脱却できていないと述べ ている7。
ちなみに児童福祉司の配置数については、2007年度は全国で
2, 263
人であ り、2 0 06
年度2,1 39
人か ら1 24
人の増員 となってお り、児童心理司も53名の増員 となっている8。また、相談窓 口に従事す る職員については、何 らかの専門資格を有する者が、2005年度の
61. 5%
か ら69.
2%
と増加、うち、児童福祉司 と同様の資格 を有する者は7. 8%か ら 1 1 . 4%
と増加 し ている。 さらには要保護児童対策地域協議会または虐待防止ネ ッ トワークを設置 している 市町村割合は2006
年度69. 0%、2007
年度では8 4.1 %、2 007
年度末での設置見込み として94.5%
となっている。加 えて児童家庭相談専任職員は、2006年度の3 6.5%か ら20 0 7
年度 には40 .7%
と約4%増加 した
9。このよ うに児童相談所の機能は人的にもあるいは組織 とし ても拡充 されているといえるが、実際の虐待相談件数は2005
年度3 8,1 83
件、2006
年度45, 901
件 となってお り、減少す る気配はいまだない。つま り、効果的な虐待予防策は見つ かっていない、もしくは策 を上回るいきおいで問題が顕在化 しているのが現状 といえるで あろ う。なお、平湯は立ち入 り調査の手段強化や親権制限な ど、子 どもの保護 を早い段階か ら指 摘 していたが、この指摘は
2008
年4
月の改正に盛 り込まれる予定であ り、今後の成果が見 込まれる。そ して今後、課題 となる事柄 として重視すべ きことは、親‑のケア、あるいは保護 した 子 どもの問題行動の解消や成長支援な どの実質的な取 り組みであると考えられる。 「被虐
‑3 7
‑符の影響 として現れる問題 は、共感性の欠如、 自尊感情の低 さ、対人関係 の問題 を呈す る ことである。それ らには、乳幼児期の主な養育者 との積極的 ・能動的 ・情動的関わ りが重 要なことが確認 された。虐待 を受 けた子 ども‑の心理的なアプローチでは、何 よ り安心で き緊張を緩 められ ること、心身の問題 を意識す るこ とが肝要 となる。治療的側面 と教育的 側面をあわせ持つ ことが必要 とな り、専門家同士のより高度な協働が望まれ る。 10」 との 指摘か らも子 どもの成長‑の支援 について、今後 どのよ うに取 り組んでい くのか さらなる 検討 を加 えな くてはな らない。 山崎が前述 しているように地域の子育て機能が弱体化 しつ つある今、家族のス トレスはますます大きくなることは想像 に難 くない。支 えあいの関係 は対人関係能力を向上 させ ることか らも、専門職同士の協働 による支援だけでな く、地域 における子育てグループな どの地域活動、あるいは 自治会な どの既存の組織 による見守 り 活動だけでな く、虐待 を受 けた経験のある当事者や虐待 をして しまった親 同士の分かち合 いによるセル フ‑ルプ活動による取 り組みや これ らの資源 をマネ ジメン トできる機関が必 要 となる。地域 と本人 を支 える重層的な仕組み、つま りインフォーマルセ クター、パ ブ リ
ックセ クター、ボランタリーセクター、 ビジネス的なセクター11に加 えて新たにセル フ‑
ルプセクターを加 え、これ らのセクターを第
3着的な立場でマネジメン トし、社会に発信
す る、あるいは市民による支 えあいを強化できるよ うな機関も加 えたシステムも必要かもしれない。
最後にこれまで児童虐待防止法や児童福祉法な どの改正点を概観 してきたが、 これ ら法 が 目指す ところの 「子 どもが安心安全で育まれ る社会」のためには、公的なサー ビスのみ な らず、地域やインフォーマルな資源をも加 えた重層的な仕組み を構築す る.視点が必要で あるとい うことを付記 しておきたい。
1 ‑番ケ瀬康子監修、山田勝美、近江宣彦著 「児童福祉の原理 と展開」一橋出版
、2005、p. 27
2森望 「子 ども家庭福祉 と自治体行政‑子育ての社会化 と地方分権パラダイム
」
『社会福祉研究』第82
号2001、p. 29
3山崎美貴子 「社会福祉 と家族‑ 「家族福祉論」研究の現代的課題
‑ 」
『社会福祉研究』第88
号、 2003
、p. 37‑39
4
3.
地域における取 り組みの促進については、次世代育成支援対策推進法の改正 と連動 しているため、図表2のなかではあえて示 さないこととした。
5
201 0
年4
月施行予定6他 に要保護事業対策地域協議会の機能強化や施設内虐待の防止、児童相談所における保護者指導 を児童 家庭支援センター以外にも委託ができるよ う条件を緩和す ること、都道府県における里親や児童養護施設 等の提供体制の計画的な整備についてな どが盛 り込まれている。
7平湯真人 「少年法改正問題 と青少年福祉政策の課題」『社会福祉研究』第
82
号2001、p. 47‑p. 48 82007
年7
月厚生労働省報道発表資料 よ り9
2006
年1 0
月厚生労働省報道発表資料 よ り転記10北川清一、小林理編著 『子 どもと家庭の支援 と社会福祉』 ミネル ヴァ書房
、2008、p. 1 74
11前掲書