緒言
2011年4月に開学した本学は,保健医療学部に4学科(看護学科・放射線技術科学科・検査科学科・医 療工学科)を擁し,それぞれ看護師・保健師,診療放射線技師,臨床検査技師,臨床工学技士の各医療 専門職を養成する教育を展開し本年創立10年の節目を迎える.21世紀の本格的な少子高齢化,グローバ ル化や情報化の進展,経済状況の厳しさの拡大,人間関係の希薄化や格差の固定化など,予測困難な時 代を迎えている中,現在の複雑・高度化・専門分化した医療を支える医療人の養成は重要な課題の一つ となっている.
「Society5.0に向けた人材育成」1)の中で,人間らしく豊かに生きていくために必要な力は,知識・技 能,思考力・判断力・表現力をベースとして,言葉や文化,時間や場所を超えながらも自己の主体性を 軸にした学びに向かう一人一人の能力や人間性が問われることとなるとしている.その際共通で求めら れる力として,①文章や情報を正確に読み解き,対話する力,②科学的に思考・吟味し活用する力,③ 価値を見つけ出す感性と力,好奇心・探求心が必要であるとしている.
専門的知識や技術の修得はもとより,感性豊かな人間性や深い人間愛をもった医療人の育成には,医 療人に共通して求められる基盤的な資質を身につける全人的医療人教育が重要であることを示しており,
それに応えるため本学において「純真学」という大学独自の科目を設け,新しい教育への改革を行って きた.「純真学入門」は自校教育の一環であるとともに,新しい時代を支える人材の育成,医療人とな る第一歩を踏み出すための,「人間力」の育成としての初年次教育科目となっている.
『純真学入門』
亀子 文子 純真学専門部会長
特集
Introduction to JUNSHIN education
Fumiko KAMEKO
Director of the department of JUNSHINGAKU
【要旨】 21世紀の本格的な少子高齢化社会を迎える中,社会の医療に対する要望はますます高まっており,現 在の複雑化・高度化・専門分化した医療を支える医療人の育成は重要な課題の一つとなっている.
本学は自校教育として『純真学』を展開し,医療に求められる専門知識・技術に加えて,他者をおもいやる 人間力豊かな気品,知性を兼ね備えた人材を輩出できるよう取り組んでいる.1年次4月より展開される「純真 学入門」では,学園訓である「気品」「知性」「奉仕」によって象徴される人物像,建学の精神の解釈と純真学 園の歩みを学長自らが教授することにより,入学間もない1年次生が,本学を知り,純真学園大学で学ぶこと について個々の目標設定を明確にする重要な導入部分を担当されている.オムニバスで展開される社会経験・
国際経験豊かな教授陣をはじめ,身近な在校生からの身をもって体験した貴重な時間から学んだ大学生活での 心構えの伝授により,この大学で学んでいく目標と医療従事者となる誇りと使命感を持つ1年次前期開講科目 としてのねらいは達成できていると思われる.10年目を迎えるにあたって,社会へ巣立った純真学園大学の卒 業生が,医療の現場で「人間力」を発揮し,社会に貢献できる人材として活躍できているのか,大学への帰属 意識や愛校心の涵養が行えているかの検証を今後しっかりと行い,初年次教育としての「純真学入門」のさら なる充実を図ることが使命と考える.
キーワード: 建学の精神,初年次教育,医療人育成,帰属意識,愛校心
令和2年9月1日
純真学園大学 純真学専門部会
授業概要
純真学園大学保健医療学部の教育目標は,①学園訓「気品」「知性」「奉仕」の理念を育み人間力豊か な人材,②チーム医療(多職種連携)を可能とする人材,③地域社会に貢献できる人材,④国際的な視 野を持つ人材,⑤情報化時代に対応可能な能力と自分自身で問題点を解決するための手法を考えること ができる人材の育成としている.純真学園大学では多くの特色を有する教育体制の中で,医療人として の素養を涵養するために,学生による主体的な学びの姿勢や意欲を身につけさせ,社会に求められる汎 用的能力の育成を目的に,大学独自の建学の精神を具現化する全人的医療人教育の一環として,1年次 から3年次にわたり6科目からなる「純真学」という4学科合同共通教育科目をH28年度より開講した.
その中で,「純真学入門」は,1年次前期セメスターの入学直後から開講される必修科目で,これから 3年間をかけて「純真学」を学ぶにあたっての導入科目に位置づけられる.「純真学入門」においては,
共通教育科目 ” 純真学 ” という一連の体系の中で,純真学園大学で学ぶということはどういうことか,
そして純真学園大学を卒業して社会に対してどのようなことをなしていくか,についての思考力を深め ていくことを目的としている.
到達目標
授業はオムニバス形式で,学長自らが科目責任教員となり「純真学園大学の建学の精神について」,
学園創設者である福田昌子先生の生涯と事績についての講義内容により,建学の精神である「気品」
「知性」「奉仕」によって象徴される人物像,建学の精神の解釈と純真学園の歩みを教授することにより,
入学間もない1年次生が,本学を知り,純真学園大学で学ぶことについて個々の目標設定を明確にする 重要な導入部分を担当されている.
続いて,プロ意識や志,人生観,日本文化,国際的視野を持った社会経験・国際経験豊かな教授陣に よって,専門家・実務家の立場から具体的な事例や体験談を交えて講義をしていただくことで,職業観 やプロ意識とはどういうものかについて自らの考えを展開できること,専門的知識の獲得へ向けて教養 を学ぶ意味を理解し,自由で幅広い思考体系を培うことの重要性を意識できることを純真学入門の到達 目標としている.
表 1 .「純真学入門」シラバスの概要
4 表 1.「 純 真 学 入 門 」 シ ラ バ ス の 概 要
授 業 内 容
1 純 真 学 園 大 学 の 建 学 の 精 神 に つ い て
( 学 長 講 演 ) 2
3 郷 土 を 探 訪 す る
4 大 学 生 活 の 意 味 ( 在 学 生 ) 5 世 界 と 競 争 す る
6 こ と ば の 花 束 を あ な た に ・ ・ ・ 7 グ ル ー プ ワ ー ク
8 発 表 会
講 演 か ら の 学 び・学 園 訓 の 解 釈・卒 業 時 、卒 業 後 の 目 標 に つ い て
『 純 真 学 入 門 』 の 授 業 展 開
全 8 回 の 授 業 内 容 は 学 長 に よ る 「 純 真 学 園 大 学 の 建 学 の 精 神 に つ い て 」 2 回 の 講 演 に 引 き 続 き 、 開 講 3 コ マ か ら 6 コ マ の 授 業 展 開 は 、 書 家 で あ る 純 真 短 期 大 学 教 授 平 嶋 一 臣 先 生 の「 郷 土 を 探 訪 す る 」の 講 義 に よ り 、福 岡・博 多・天 神 ・ 大 橋 の 歴 史 ・ 文 化 を 知 り 、 九 州 ・ 沖 縄 各 県 よ り 本 学 に 入 学 し た 学 生 の 、 こ れ か ら 自 身 が 身 を 置 く 地 域 の 成 り 立 ち を 理 解 す る こ と に よ り 、 生 ま れ 育 っ た 故 郷 と は 違 っ た 、 こ れ か ら の 生 活 の 拠 点 と な る 地 の 理 解 を す る こ と に よ り 、 不 安 が 取 り 除 か れ 、 期 待 に 胸 が 膨 ら む 機 会 と な っ て い る 。
引 き 続 き 、 ア ボ ッ ト ジ ャ パ ン 株 式 会 社 で 多 く の 研 究 開 発 に 従 事 さ れ 、 上 級 顧
『純真学入門』の授業展開
全8回の授業内容は学長による「純真学園大学の建学の精神について」2回の講演に引き続き,開講3 コマから6コマの授業展開は,書家である純真短期大学教授平嶋一臣先生の「郷土を探訪する」の講義 により,福岡・博多・天神・大橋の歴史・文化を知り,九州・沖縄各県より本学に入学した学生の,こ れから自身が身を置く地域の成り立ちを理解することにより,生まれ育った故郷とは違った,これから の生活の拠点となる地の理解をすることにより,不安が取り除かれ,期待に胸が膨らむ機会となってい る.
引き続き,アボットジャパン株式会社で多くの研究開発に従事され,上級顧問として世界で活躍され ていた本学客員教授である飯沼一茂先生による「世界と競争する」の講義においては,世界で活躍され た華麗な経歴とともに,米国製薬会社時代の研究開発,国際競争,アジアの医療関係者の育成にご尽力 された研修所の設立など,免疫学に関する講義を交え,世界と競争するためには何が必要となるのかを 講演していただいている.
また,豊永せつ子先生による「ことばの花束をあなたに・・・」では,保育園の園長先生としての経 験の中から,言葉の持つ力,一冊の本が伝える言葉の重みを福田陽子先生によるピアノの伴奏とともに 朗読された「葉っぱのフレディー」で伝えられました.学生は,命の儚さ・大切さ,他人を思いやる笑 顔,笑顔でいれば幸せになれる,辛い時こそ笑う,笑いの力,人の言葉のもつ力,話し方,温かさを教 えていただいています.
新4年次生からは,「大学生活の意味」と題して,先輩として新入生にこれからの大学生活をどのよう に過ごしていくことが重要か,自らが3年間を過ごしてきた経験をもとにした貴重な助言が新入生に伝 えられています.最も興味関心が高かった授業が,在学生からの「大学生活の意味」であるとの授業評 価から,先輩方からのメッセージは,年齢が近く,素直に共感できるアドバイスとなり,新1年生に とって入門としての授業効果を高める内容となっている.
純真学入門においても,一方向的な講義形式の教育だけでなく,学生によるアクティブ・ラーニング 形式を取り入れ,7コマ目にグループワークによる演習を取り入れている.
演習目標として,①各講義からの学びを述べることができる.②学園訓(気品・知性・奉仕)に対す る考えや解釈を述べることができる.③卒業時の目標を挙げ,達成するための方法を説明することがで きる,とし各学科別グループワークを行い,5つの講義内容より1テーマについて①についてデスカッ ションのうえまとめ,②③については共通テーマとして,レポートをグループごとに提出し,各学科純 真学専門部会員の先生より選抜された代表グループによるプレゼンテーション1グループ15分の全体発 表会を最終講義としている.(表1)
また,学生には最終講義後,「授業を通して,学園訓に対するあなたの考えを述べなさい」という テーマで1200字のレポート提出と振り返りシートの提出を課している.最終成績評価は,7,8回の演習 におけるグループ評価30点満点,個人レポート評価70点満点としている.
演習と発表を取り入れたことは,同じ学科内で早い段階でのグループによるデスカッションとホール での発表経験をすることは,コミュニケーションをとることの重要さと,主体的な学修を促し学びを共 有することができる機会となっている.
『純真学入門』の授業評価
本科目の授業評価結果は巻末資料集に示されているが,科目の学修目標である「純真学園大学の建学 の精神について知ること」については,“ 各学園訓について説明できる ”,“ 大学の歩みや創設者につい て知ることができた ” との設問に約8〜9割の学生が「そう思う」,「非常にそう思う」と回答した.
純真学入門の講義を通して学んだことに「自分を見つめ,驕らず,自己研鑽を続けていくこと」「常 に相手のことを考え,思いやりを持って接すること」「グローバルな考え方と広い視野を持ち,意欲を もって学ぶことの大切さ」「自分たちにできることを考え,医療の発展に貢献することの大切さ」を学 び1年次の前期より純真学園大学で学ぶということはどういうことなのか,将来像を実現するために何 が必要なのかを,入学間もないこの時期に考える大きなきっかけとなる授業となっている.
『純真学入門の講義から考える将来像』として,「患者さんのことを第一に考え,更なる技術の向上を 目指し,努力を惜しまない医療人となる」「常に相手のことを考え,思いやりを持って接し,患者さん をはじめ職場の人からも信頼される医療人になる」「驕らず,学ぶ意欲を常に持ち,広い視野を持って,
更なる医療の発展に貢献できるようになる」.その『将来像を実現するために』「学ぶ意欲をもって,更 なる自身の向上を求め,積極的に学修する」「挨拶を心掛け,コミュニケーションを取り,普段から相 手のことを思いやる行動できるようになる」「スケジュール管理や体調管理,身の回りの整理整頓を行 い,自己管理能力を身につける」「将来,医療従事者になる自覚を持ち,自分を見つめ,今,自分に何 ができるのかを考え行動する」という明らかな目標設定を多くの学生が自覚できる機会となった.興味 関心を持てた内容として,在学生が発表した「大学生活の意味」を挙げる学生が一番多かった.身近な 先輩方から学園生活を送るにあたっての身をもって感じた貴重なメッセージは,これから過ごす純真学 園大学での医療従事者になるために必要な基本姿勢,目標に向かって学園生活を充実させるための心構 えをより強く,明確化する授業となった.
8コマ6階ホールでの講義形式の授業形態では,一方通行の押し付けになり,教育効果としての問題点 が見いだされたため,学生自らが積極的・主体的に学ぶ機会とするグループワークと発表を取り入れた 演習を設定したことは,「他学科の考えを聞くことができ,さらに理解が深まった」「発表グループの発 表がすごかった」と大きな刺激を受ける時間となった.グループワークが1コマという設定時間が短 かったとする学生が約4割いたことから,アクティブラーニングを取り入れたさらなる,より効果的な 授業展開の検討も必要と考えられた.
おわりに
21世紀の本格的な少子高齢化社会を迎える中,社会の医療に対する要望はますます高まっており,現 在の複雑化・高度化・専門分化した医療を支える医療人の育成は重要な課題の一つとなっている.
本学は自校教育として『純真学』を展開し,医療に求められる専門知識・技術に加えて,他者をおも いやる人間力豊かな気品,知性を兼ね備えた人材を輩出できるよう取り組んでいる.
これからの時代に求められるのは,個々の能力・適性に合った専門的な知識とともに,幅広い分野や 考え方を俯瞰して,自らの判断をまとめ表現する力を備えた人材である.また,求められる人材は一様 ではなく,むしろそれぞれが異なる強みや個性を持った多様な人材によって成り立つ社会を構築するこ とが,社会全体としての各種変化に対する柔軟な強靭さにつながるものであるとしている2).
高校生がどのような価値観に基づき志望校を選択するのかいくつかの調査研究があるなか,ベネッセ やリクルートらが実施した大学選択理由の調査研究結果では,理由順位として①学びたい学問分野や学 部がある,②偏差値(難易度),③資格取得,④立地,⑤就職率,⑥学費と続いている3)4).
純真学園大学保健医療学部は地理的には福岡市内の中心地,筑紫が丘に立地する恵まれた環境にあり,
本学は医療職の養成というはっきりとした学部学科を持つ大学である.本学へ入学した学生と保護者の 目標は,国家試験合格と就職であり,医療の現場で活躍できる高い専門性のある国家資格を取得でき,
就職率100%の実績をもつ地域に開かれた,九州における地域医療に期待される大学となっている.
東京大学名誉教授寺﨑昌男先生の講演5)から,20世紀アメリカの哲学者であり教育者であった William Arthur Wardの至言に,「凡庸な教師はただtellsをやる.次の優れた教師はexplainする.そして 非凡な教師は,demonstrateする.そして,偉大な教師はinspire,すなわち「心に火をつける」,と述べ ている.
学生の純真学入門の授業評価自由記述より「この授業があることによって,学習の幅がさらに広がり,
将来有望な社会人兼医療人になれると感じた」「気品・知性・奉仕がこれからの医療従事者としての人 生において,どう関わってくるのか知ることが出来た.夢を再確認することが出来た」.と記されてい た.
もともと職業観や学習意欲が強い学生に対して,知的好奇心を高め,学習の喜びをあたえることがで き,純真学園大学でこれから4年間学び,そして生涯学び続ける覚悟,自らが目指した医療人としての 使命には人命を預かるという重い責任が伴う,尊い職業であるとの自覚をもてる「心に火をつける」機 会となりうる科目として「純真学入門」を位置付けられるよう取り組んで行きたい.
純真学園大学シンボルマーク(図1)は,「J」の芯の部分は純真学園大学の 頭文字を表し,翼は,芯の大学を起点として社会へはばたく本学学生そのもの を表しています.翼の3つの羽は学園訓である「気品」「知性」「奉仕」を意味 し,白色は純真さを表し,紺色は真摯さを意味している.
学生にとって自学を理解するということは他大学との違いが分かり,それが
“ 安堵感 ” につながるとされており,それら自校(自学)理解から大学への帰 属意識や愛校心の涵養が期待できるとされる6).10年目を迎えるにあたって,
社会へ巣立った純真学園大学の卒業生が,この3つの翼を具現化し,医療の現 場で「人間力」を発揮し,社会に貢献できる人材として活躍できているのか,
大学への帰属意識や愛校心の涵養が行えているかの検証を今後しっかりと行い,地域社会で活躍してい る本学卒業生の確かな足取りを実感する機会が増えることが重要と考える.
参考文献
1) Society 5.0 に向けた人材育成 〜 社会が変わる,学びが変わる 〜
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/other/detail/..
図 1
2)「高等教育における国立大学の将来像(最終まとめ)」平成30年1月26日 一般社団法人国立大学協会
3) 教学改革と高校生の大学選択基準.ベネッセ教育総合研究所.View21 大学版 Vol.2. 2013.
4)元根朋美.学生の誇りにつながる自校教育の内容選定に向けて①−学生が自慢したいと思う大学像の調査研究−.
人間環境科学 25:47-60. 2018.
5)寺﨑昌男.大学のアイデンティティの共有と教員・職員の役割―自校教育の体験を踏まえながら―.三重大学高
等教育研究 24:1-35. 2018.
6)寺崎 昌男.自校教育の役割と大学の歴史 ― アーカイブの使命にふれながら―.金沢大学資料館紀要 5; 1-17:
2010.