分 裂 病 心 性 ‑ の 接 近
1:自閉症 につ い ての一考察
布 施 清
FUSE.KIYOKAZU
弘 前 大 学 医 学 部 神 経 精 神 医 学 教 室 (主任 和田豊治 教授) 西 北 中 央 病 院 神 経 精 神 科
(ll. Ⅱ.1964受付)
緒 言
現喜,精神 分裂病 の病 因解 明は ,身体病 理 学,精 神病理 学 の両面か ら精力的な追求が な され て来 てい るに も拘 らず ,殆 ん ど未知 で , 研 究者 に よ り,本病 に対 す る態度 は極 め て多 様 で,単 一 な疾病単位か否か につ いて も多 く の議論 の あ る所 で あ る .
分裂病 心性 の本質 をStranskyはIntrapsy‑
chische Ataxie(精神 内失調), S6giasは d6sagr6gation delapersonnalit6 (人格 の解 体), E.Bleulerは Assotiationslockeruiュg (連合解体 ), Minkowskiは現 実 との生 け る 接触 の喪 失 と考 え,夫 々独 自の分裂病 論 を展 開 してい る .
近年 ,分裂 病へ の心理療法 的接近 が諸家 , 特 に力動精神 医学 的立場 の人 々に よって試 み られ る よ うにな って以来,分裂病心 性 の解 明 が徐 々にではあ るが, な されつつ あ るよ うに 思われ る .
今 回,著 者 は分裂病 心性へ の接 近 をはか る ために,分裂病 者の示 す特 異 な症状 の精神病 理 学的解 明 を意 図 し,第1に 自閉症 を乗 り上 げ てみ た .
E.Bleulerは,現実 との接触 を失 って, 自 己の非 現実的世界 の 中に転 落 し, その 中に閉 じこ も り,非創 造的世界 に安住 してい る分裂 病 者 の特 異 な状態 を 自閉症 と名付け た .
Minkowskiは ,分裂病者 の 自閉症 を 1)主
観 的心的複 合 の表 現 として症状 の発生 を とも な う場 合 の豊 か な 自閉 (autismeriche)と, 2)人格 の現 実か らの脱 出,及び これ に対す る直接 的 な反応的態 度 のみ認 め られ る場合 の 貧 しい 自閉 (autismepauv∵e) とに分類 し た .
Binswangerは , 彼 の大著 「精神分裂病 」 に於 い て. 自閉症 とは, 自己 自身へ の退 却 を 意味す る ものでな く,世 界に よ り自己が圧 倒 され る事 ,即 ち須 落世界 化或 いは非 自己化 を 意味 す る もの であ り,萎縮 した現存在 構 造 を 有す る現存在 の弱 さであ る と述 べ てい る .
然 し分裂病 者 の 自閉状 態 は ,単 一 の もので な く,現実世界 との係 りあ い の 在 り方,級 過 .人格解体 の程度等に よ り多様 で,幾 つか の型が あ る よ うに思われ る .
著者 は Minkowskiの 自閉の分類 と対 比 し なが ら, 自閉症 を, 1)疾 病 の経 過 , 2)柄 者 の住 む世 界の変容 , 3(現実世界 との係 り あいのあ り方 , 4)人格解体 の様相 との関聯 に於 いて捕 え,分類 ・考 察 を行 な ってみ た.
分 類 及 び 症 例
〔A〕 暗 い 自閉
〔病例 イ〕 高 校2年 ,男 子,16才 . 遺伝歴 : 特 記すべ き事 な し.
性 格傾 向 : 整 頓ず き,凡帳 面 ,交友 少 くて無 口,孤 独 で非常 に温 和 しい .
44 ‑ 布 現 病歴 : 3人兄弟 の末子 として生 まれ , 幼 少時か ら非常に甘 やか され て育 ち,神職 に あ る父 も,患者 を非常 に可愛が り,虚 栄心 の 強い母か らは,大 きな期 待 を寄せ られ て育 っ た .幼 少時か ら非常 に神経 質 な1頃向がみ られ た ,田舎 の 中学校 を一番 の成績 で卒業 し,昭 和37年4月,有 名な高校 に入学 し,親元 を離 れ て 下宿生 活を していた .学力の程度が違 っ たため非常に辛い学校生活で あ った らしい.
翌年夏 休みが終 り下宿に帰 ったが,間 もな く 前触れ もな く突然帰宅 し,一室に閉 じこ も り, 殆 ん ど食事 もしな くな った .両親 が理 由を問 いただす と,〝世 の 中が変 って来 るんだ〝, 〝級 の友達 が 自分 をじろ じろ見なが ら噂 しあ って い る∴ 〝逆の事が起 ってい るんだ .〟,〟白券 の考 えてい る事が皆に知 られ て しま う了,〝人 の考 えてい る事 は皆 自分 に解 る.", 〝周囲の 様子が何 とな く奇妙だ .〟 等言い出 し,不旨民
も高度 とな り,9月下 旬当科 受診 ,分裂病 の 診断 で入 院 した .
初診時所 見 : 表情 は極 めて措 く, うつ 向 普,相手 を正 視せず ,時折不安気 な様子 で, 立 った り坐 った りし,上 呂使いで疑い深 そ う な まなざ しを診察者に 向け る.応答 は きき と れ ない よ うな小声 であ ったが,妄想気分 ・離 人 体験 ,注察 ・関係妄想 ,作為体験 等 を確認
し得 た .
入院後 ,薬物療法 と共 に冶癖 的面接 を繰 返 したが,不安傾 向改善 されず ,不眠 ・被害妄 想 ・作為体験増 強 し,服薬 を拒否 し,無断離 院の試 みが屡 々認 め られ たため,ESTを数 回 行 な ったが殆 ん ど変化な く,無断退院 した.
現在家族 と共に週 一一度来院 させ,投薬 を行 な ってい るが,多少 不安状 態 が 軽 快 した のみ で,症状 の大 きな変化は認 め られ ない .
〔症例 ロ〕 無職 ,男子,19才 . 遺伝歴 : 特記すべ き事 な し.
性格傾 向 : 非常 に素直で温和 しい .無 口で友人は殆 ん どない .
現病歴 : 中学校 を 中 位 の 成 績 で 卒業 施
後,上京 して電気関係の会 社に勤務 し,問題 な く生活 していたが,昭和38年3月,何等の 誘因 な く突然 〝将来性 のない会社 だ ∴ 〝同 僚が 自分 に意地悪 く当 る .〟, 〝自分 を陥 し入 れ よ うとしてい る.〝等 と言い出 して,親元に も相談 な く退職帰郷 した .帰郷 後は,ノ、前に 出 たが らず,一室に閉 じ こ も り, 〝周囲の様 子が変 だ.〟,〝恐 しい .〟, 〝誰か 自分 をね らっ てい る.〟 , 〝村の駐在 は会 社か らの缶令で 自 分 を監視 してい るのだ了 等 と言 う様に な る.
6月頃か ら, 〝世 の中は破 滅 しそ うにな って い るeN , 〝俺 はそれ を止 め なけれ ばな らない "
等 と言い,夜間 〝本当の 自分が あるのか ど う か 確か め るのだ.〝 と言 って附近 の湖に飛び こん だ りす る様 な行動が多 くな り, 当科に入 院 した .
初診時所 見 : =拒絶的 で,言葉 に抑揚 な く 単 調 .表情 も磨 く,不安気 な視線 を落 ちつ き な く, あち こちに向け る と言 った状態 で,問 診 に よ り,世 界没落感 ,離人 休験 ,幻聴,被 害 ・注察 ・追跡妄想,作 為 体 験 等 を 確 認 し た .
入院後,薬物療 法 ,EST,IST等 を施行 し,急性症状 は消失 したが, 自発性減退,感 情鈍麻傾 向が色濃 く残存 してい る.
〔小 括〕
両例 は,初期分裂病患者で,病 者 を と りま く現実世界 は,奇 隆で冷 く,異様 な迄に恐 し い姿に変化 して,d急monischで圧倒的 な力で 病者に押 し迫 って居 り,病者 は その圧倒的 な 力に呑 み こまれ よ うとしなが ら も,必死に抵 抗 し,暖い愛情 に充 ちた 曽 っての世界 を振 り 戻 そ うとしつつ押 し流 され,次第に妄想世界 の 中に呑み こまれ て行 く姿 であ る と考 え る事 が 出来 るで あろ う.
〔B〕 明 るい 自閉
〔症 例ノ、〕 無職,女子,26才 .
遺伝歴 : 実母,母方叔母,姉 が分裂病 であ る.
性格 頓向 : 温 和 し くて内気 無 口 . 現病歴 : 高校を中位の成績 で卒業 した が, その頃か ら性格 変化が認 め られ る様 にな り,落 ち着 きな く出歩 き.態 度 も女性 らしさ に欠け,奇妙 な色調の化粧 を した り,家人に 意味の解 らない独語 ・空笑が顕著 とな り,時 に裸 に な って戸外 に飛 び出 した り, 〝母 に殺 され る.〝等 と言 い出 し,某精神病院に心因反 応 の診 断 で3カ月入院,寛解退院 した .その 後略正常 の状態 で家事手伝 い等 をしていた.
昭和38年6月頃か ら,不眠,俳 掴 ,孝虫語 , 空笑が高度 とな り,他人の 自転 車 を無断 で乗 り廻 し,I,1が 買 って与 える高価 な衣類 を滅茶 滅茶 に切 って雑 巾に して しま った り,親類 や 知人の前 で も平気 で子供 っぽい行為 を し. 言 葉使 い も乱暴 とな り.8月当科に入院 した.
初診時所 見 : 頭 髪は男 の様 に奇妙に カ ッ トし,盛 夏であ るに も拘 F,ず,厚 い長袖の セ 一夕 ‑を着込 み,下 に メ リヤ ス の シ ャ ツを 着 ,毛糸 のズ ロースをはいていた .態度 は筒 奇的 ,小 児的 で ,多少多幸的 な傾 向がみ られ , 舌 を出 した り,理 由 もな く大声 で笑い,附添 って来 た父が注意す る と,乱暴 な言葉 でのの しる とい った状態 で あ った .
問診時 に, 〝高校時代の先生が 自分に愛情 を もっていた.〟,〝今 その先生 は某市にい て , 自分 の胸に先生 の愛 の心 が ピ ン と入 っ て来 る.〟,〝東京 で愛人が 出来 ,今 その人の事 を考 え る と,その人 の子供 を妊娠 できる.〟 ,〝テ レ
ビで 自分の事 をや っている,〝等 と大声 で喋 り たて.厚着 をしてい る理 由を尋ね る と, ′′腰 が冷 え ると子供が生め な くな るか ら."と.乱 暴 で,得意然 と話す有様 であ った .
入 院後,薬物療法 ・IST等 を試 み たが,袷 ん ど変化 な く,多幸的 で,一 日中何度 とな く 着衣 を取 り替 え,男子 の入浴 日で も,強 引に 入 浴 しよ うとし,態度 も粗野 で女性 らしい繊 細 さに欠け,〝病院は面 白い.〟 , 〝家に帰 るの は嫌だ.〟,〝病院 に一生 居 たい.〝 等 と,事 も なげに言 って楽 しそ うに生活 してい る .
〔症例 ニ〕 農業 ,女子,31才 .
遺伝歴 : 母方従 兄が分裂病 である . 性 格傾向 : 多弁,勝気,社交的 . 現病歴: 23才時 ,何等誘 因な く,拒 絶 的傾 向,被害 ・関 係妄想 ,幻聴 ,気分易変, 作 為 体験 を持 って初発 した .某精神病 院に 2
カ月間入院 したが,不変のため退 院 した .そ の後一進 一退 で,気が 向けは家業 である農業 を手伝 った りしていたが,あ きっぼ く,殆 ん ど纏 った仕事 は出来 なか った .昭和35年末頃 か ら次第に俳桐 が多 くな り,独語 ・空笑 を認 め,不眠 も高度 とな り,大声で路上 を叫び歩 き,話 の内容 も全 く理 解 出来 ない もの とな り, 37年 」月当科 に入院 した .
初診時所 見 : 表情は空虚 では あ るが ,比 較 的明 る く,問診 には全 く無 関心で,独語 多 く,診察室 を不恩義 そ うに歩 き回 り,局囲の 事 を全 く意 に 介さず,時に 幻 聴 が あ る ら し く,首 を傾けて何かに聞 き入 る様 子 を 示 す が.殆 ん ど纏 った応答 は得 られ なか った .
入院後, 薬物療法 ・作業療法 ・EST ・IST 等 を行 な ったが,病像 は殆 ん と変化しなか っ た .入院後3カ月頃か ら, "自分は当院 の看 護学院 を卒業 し,看護婦 の 免 許 を 持 っ て居 り, 曽 って当科 に勤 めた事 もあるのだか ら, 看護婦 の着物 と帽子 を貸 して呉れ.〝と言い出 し, ''看護婦 の仕事 をす る.〝 と言 っては 白い 前掛 を着け,重症 患者 の世話や便所 の掃除 を 熱 心にす るよ うにな った .それ と同時 に,〝身 体は も う大丈夫だか ら家 に帰 して くれ.〟 ,〝家 に帰 って病 院に勤め るのだ.〝と言 って退院 を 強要す る よ うに な ったが,説得す るとす ぐ納 得 し,毎 日楽 しげに笑 いなが ら種 々看護者 の 手伝 い をして呉れ る と言 った状態 が続 いてい る .
し小 括 〕
両例 では,初期 に於 て認 め られ た,共 同世 界 の激 しい圧倒感は殆 ん と消失 し,現実世界 は既 にその価値 を喪失 し,孤立的 で非現実的
・閉鎖的 な妄想世界の 中に完全に投入 し,そ
46 ‑ 布
の中で夢想的 ・誇大的 ・小児的 な世界 を築 き あげ てい る姿 と考 え る事が 出来 るで あろ う.
〔C〕 荒涼 た る自閉
〔症例 ホ〕 無職 ,男子 ,34才 . 遺伝歴 : 特記すべ き事 な し.
性 格 傾向 : 内気 ・無 口 ・′トト.交友 は 殆 ん どない .
現病歴 : 高等小学校 卒業後,上京 して 土工等 を していたが,約 1年位 で仕事 を止 め て郷里 に帰 った .その頃既 に生来 の性格傾 向 が極 度に増強 され てい るよ うに感ぜ られた と い う,繊黙 ・無為 弓庶人傾 向が 目立 ち,一年 位家 人が無理 に法華教 の 寺 に 連 れ て 行 き,
〝行〝を させ たが,殆 ん ど変化は認 め られ なか った とい う.その頃か ら,寝床 につ いた まま 歩 こ うともせず ,洗面 ・洗髪は全 く行 なわず , 両便 も布 団の中で便器 を用 いて行 な うよ うに な った .
数年後 には,下肢 の廃用性萎縮が起 り,歩 行不能 となった ,昭和36年末頃か ら,独語 ・ 空笑顕著 とな り.側に寝 ている実母 に対 して 暴 力行為 を振 うよ うにな り,37年6月当科 に 入 院 した .
初 診時所見 : 下蕨 は高度に萎縮 し,殆 ん ど歩行は不能 .悪臭を放つ衣類 を着 てい るが 意に介 さず,問診 に対 して奇妙 な声 で応答す るが ,内容 は支離滅裂且つ作語が高度 で理解 出来ず,語胎 と言い得 る様 な状態 であ った.
然 し,知能 ・指南力の障害 は認 め られ なか った .
入 院後は薬物療法 を主体 に,下肢 の機能 回 復 を図 った所,約6カ月後には起立 し得 る様 にな ったが ,精神症状 の改善 は殆 ん どな く, 一 日中部屋 の隅に倖 立 し. 常 同 的 姿 態 を と り,周 囲 との交渉 は全 くな くて不関状態 で, 支離滅裂 な独語が顕著 であ る.
〔症例 へ〕農 業,男子 ,24才 .
遺伝歴 : 長 兄が分裂病 で某精神病院に 入 院 中に,心 臓疾患 で死亡 .
施
性格傾 向 : 無 口 ・短気 ・小 b ・引込み 思案 .交友は殆 ん どない .
現病歴 : 中学卒業後 ,家事 の農業 の手 伝 いを していた .37年 春頃か ら,無 口の程度 が増強 し,仕事 もぞんざい とな り,家か ら殆 ん ど出たが らな くな った .家人が注意す ると 暴力的 とな り, 〝俺 は月給板 りだか ら働 く必 要 は ない.〝 等 とつ じつ まの合わない事 を言 い,言葉 も乱暴 に な って来 た .その頃か ら被 害的 な幻聴 を洩 らす よ うにな り,食事 もせず に閉 じこ も り,寝 てはか り居 る とい った状態 が,約1カ月持続 した後,急に夜間排 桐が多 くな り,他家へ無断 で上 りこみ,酒 を強要 し た りす るよ うに な り,独語 ・空笑 も著明 とな った .38年1月, 〝隣の家 の軒下 に悪魔 が 冒 て 自分 を馬鹿に して笑 ってい る.〝∴近所の話 し声が うるさ くて眠 られ ない了′と言 って隣家 に放火 した .直 ちに逮捕 され ,当和 こ診断 を 依 碩 され ,その まま入院 した ,
初診時所見 : 態度 は庵めて衛書的で,作 輿, しかめ眉が著 明で,被害的内容 の幻聴 . 作為体験 ,関係 ・被害妄想等 を確認 し得 た.
入院後 .幻覚 ・妄想に支配 され た衝動 的暴 行 が 再 三 認 め られ たが,薬物療法 ・EST ・ ISTに よ り殆 ん ど消失 した .然 し,次 第に無 為 ・感情鈍麻増強 し, 一 日中部屋に閉居 し, 殆 ん ど身動 き もせず,常 同的姿態 を と り,他 息 との接触 もな く,時 に尿 の失禁 さ えも認 め られ る とい った状態 である .
〔小 指〕
この 自閉状態 は極めて印象的 で, 曽 っては 親 しみあふれ る ものであ り,病初 には不安 と 恐怖 に満 ちていた共 同世界が,やがて既 に色 槌せた もの とな り,何 の感情 を も引 き起 させ る もので もな くな り,言 ってみれ ば,病者か らは全 く隔絶 され ,縁 な きもの とな り,病者 自身 も機械的 ・植 物的 な荒涼 として冷い世界 の 中に落 ち こんでい る姿 と考 える事が出来 よ
う.
総 括
これ ら6例 の症例 は, 特 異 な 症 例 で は な く,我 々が 日常屡 々出会 う患者 で あ り,鋳躍 な く分裂病 と診 断 し得 る もの であろ う.然 し 我 々の前 にあ る病者 の姿 は,病 型 の相違 ・経 過 の長短が あ る とは言 え, きわ立 った差異が 認 め られ る . この相違 の 由 来 を 考 え て み る と,病者 と現実世界 とのか かわ りあい如何 が 大 きな役割 を演 じてい る と考 え る事が 出来 よ う.即 ち,暗 い 自閉状 態 に あ る病者 の,現実 世界 との接触 の辞 は,未だ絶 ち切 られ て居 ら ず, おのれ を圧 倒し尽 くそ うとす る世界 没落 感 におのの きなが ら,妄想 ・幻覚 を もって, 病 的 では あ るが立 ち直 ろ うとの努力 をみせ , 一一万 ,恐 しげ な硬 い表 情 で眉 を寄せ ,顔 をゅ が ませ ,拒絶的 では あ るが病 弱 さをみせ ,お のれ の苦悩 を訴 え続 け,失われ 様 とす る硯実 世 界 との共感 ・共 振 を坂 り戻 そ うとしてい る 姿 と考 え られ よ う.
明 るい 自閉状態 にあ る病者 と,硯実世界 と の接触 は既 に失われ , 曽 っては病 者の苦悩 を む き出 しに映 し出 した妄想 ・幻覚等 は ,その 不気味 さ,苦悩 の色 を失い,異質 で圧倒感 に 充 ちた共 同世界 は な く,表 情 も空虚 では ある が, 比較 的楽 しげ で明 る く,苦 悩 は認 め られ ず,何 か誇 らしげで,児戯 的態度 さえ もみ ら れ る よ うにな り,独語 ・空笑 も不安 ・苦悩 の 色彩 のない誇大的 な妄想 ・幻 覚 に対す る応答 の型 を と り,非創造 的 な思考 ・感情 に基 いた 活動性 の 中に安住 してい る 姿 と考 え ら れ よ
う.
荒涼 た る 自閉状態 に あ る病者 は,硯実世界 との隔絶が一層 高度 で,共 同世 界に も,又病 者 の心的世界 の 中に も,病者 と共感 させ , 動 か し得 る ものは何 もの も存在せず,支 離滅裂 な思考 と,荒涼 た る感情世界 の中で,常 同的 な姿態 を続 け,空 しい仮面 の様 に動か ない痴 呆的表 情 のみが残骸 の様 に残 り,不 毛 の砂漠 を思わせ る世界 に僅 かに生 き続 けてい る姿 と 考 え られ よ う.
考 察
以上3型 の 自閉状態 につ いて, 各 々 2例 宛 簡単 な病歴 をあげ て逮べ たが ,各 自閉状態 が 極 めて特徴 的 な像 を呈 してい る事 は明 らか で あろ う.それ らの特徴 は ,総 括 に於 て述べ た 如 く,病 者 と現実世界 とのかか わ りあい如何 に依 る事 は勿論 であ るが ,その背 景には,分 裂病特 有 な人格解体 の深浅が重 大 な役割 を果 して居 り,且 つ疾病 発展の程度 に も大 きな意 味か あ る もの と考 え る事 が出来 よ う.
即 ち,暗 い 自閉の段 階に於 け る病 者 は,殆 ん どか初期分裂病者 であ り, これ らの病者 の 人格解 体は未 だ人格 の核心 に迄は達 せず ,顔 く暗 い表 情 の中に も,何 か心の触れ あい を感 じさせ る ものが あ り,病者 自身 も自己の奇妙 な病的状 態 に対 して,違 和 感 ・不 安 感 を抱 き, これ が病感 として訴 え られ ,時 には比較 的正確 な病識 さ え も認 め られ る事 が ある .
然 し, こ うした 自閉の 段 階 も次 第 に 崩壊 し,病勢 の進 展 と共 に一層 深い人格解体 が行 なわれ ,更 に高度 の 自閉状態 が もた らされ る のであ る .
明 るい 自閉 の段 階 に於け る病者 は,苦悩 と 迫害 に充 た され なが ら もなお現実世界 との接 触 を,僅 か ではあ るが.保 ち続 け た暗 い 自閉 を経 て,次 第 に高度 な人格解体へ と導かれ , 病 者 と我 々 との交流 は絶 たれ ,触れ あいは失 われ,開か れた未来 を生 き生 き と生 きる事が 不可能 とな り,閉 ざ された非 創造 的 な空虚 で 明 るい 〝今 〝 を送 ってい るに過 ぎない状態 に 達 す るので あ る .
荒涼 た る自閉の段階 にあ る病 者 の人格解体 は,完全 に人格 の深奥 に迄達 し,生 き生 き と
した生 命感情 は既 に失われ, 明 る く空虚 な妄 想世界 も消失 し,硯実世界へ の手掛 りさえ も 完全 に失われたか に感ぜ られ る .
Minikowskiは, 現実 との生 け る接触 の喪 失 と言 う新 しい立場か らの分裂病理解 よ り出 発 して,彼 自身 の 自閉分類 を行 な ってい る事 は,緒 言に於 いて述 べ たが,彼 が豊 か な 自閉
18 ‑ 布
に対応す る もの としての妄想型分裂病,貧 し い 自閉に対 応す る もの としての破瓜 ・緊張 両 塾 を考 えてい る事は明 らか で あ る .事実 彼 は,豊 かな 自閉 に於け る想像的世界及び病的 人格に 尚残存 する正 常 な生命,貧 しい 自閉に 於 け る共 同世界 との接 触を失 った活動性 を強 調 して,Ble.Lilerが 自閉的活動の重大 さを余
り問題 に しなか った事 を指摘 してい る.
著 者 もMinikowskiの Bleuler批判は極 め て重要 な意味 を もってい る もの と考 える.そ の理 由は即ち,現在我 々が用 いてい る自閉 と い う概念 の主 要部分が ,活動性 の裏返 し とし ての高度 の 自発性 の減退,即ち無為 として考 え られ る こ と.即 ち,著者 の分類 に よる荒涼 た る自閉のみが強調 され る ことで ある.然 し 明 るい 自閉状態は,深 い現実 との断裂か ら も た らされ た病者の姿 で あ り, また暗 い 自閉状 態 が,現実世界 との接触 を失いなが ら, 自閉 の淵に足を踏み こんでい る病者 の苦悩 の姿 で あ るこ とへ の理解が 少ないためではないだろ
うか .
翻 ってMinikowskiの分類 を検討 してみ る 時,彼 の分類 には,病勢 の進展 ,変 化に よる 自閉状態 の変遷 ,人格解体 と自閉状態 との関 聯 につ いての考慮が余 りな され てお らず,辛 ら現実世界 との接触 の如 何 とい った面か らの みの観察が [トbとな ってい る様 に思 われ る・
ただ勿輪 ,彼 の この観 点か らの分類が極 めて 重要 な事は言 う迄 もない .
然 し我 々は 日常診療 に当 って Bleulerの言 を待つ迄 もな く,分裂病者が深 い 自閉 ・荒 廃 よ り,卒然 として寛解 の状態 に達す るのを驚 きの 目を持 ってみ る事 が稀 ではない . "明 る い 自閉〝, 〝荒涼 た る自閉〝 に あ っ た 病 者 が schubに 際 し, 急 激 に暗 い 自閉の段階に達 し,苦痛 に充 ちた表情 を示 して,新鮮 な離人 症 ・妄想気分 ・世界没落感等 を訴 え,僅 かで はあ るが疎通性 さえ感 じさせ る事が稀 でな く 体験 され る.
これ らの事実か ら考察 して も,分裂病 自閉 は,分裂病病型が 固定的な ものでない如 く,
施
移 行や流動が行われ,その背後に分裂 病に特 有 な人格解体,現実世 界 とのかかわ りあいの 変容,及び病勢の変化が存在 す る もの と推完 す る事が出来 るであろ う.
こ うした流動性 こそ分裂病 自閉,或 いは分 裂病心性 の大 きな特徴 と考 える事が出来 るで
あろ う.
結 論
分裂病 にみ られ る自閉症 を,病 者 と現実世 界 とのか かわ りあい と,人 格 解 体 と疾 病 進 展 の 関 聯 とか ら とらえ分類考察 し.併せ て Minikowsklの分類 との比較 を行 ない, 次の 結輪 を得 た .
〔1〕分 裂病 自閉には, 〝暗 い 自閉〝 ・〝明 るい 自閉〝 ・〝荒涼 た る 自閉〝 の3型 があ り, これ ら各 自閉状態 は,人格解 捧の深浅 ,疾病 の進 展 ・変 化,病者の現実世界 とのかか わ り あい如何 に よ り決定づけ られ る .
〔2〕 これ ら3型 の 自閉は固定的でな く, 移動 ・流動が行 なわれ る.
(本論文の要旨は第17回東北精神神経学会に於い て報告 した.)
和田豊治教授の厚い御指導と御校閲を深謝致 しま す.又種々御助言をいただきました山村道雄先生に 深謝致 します.
本論文を弘前大学医学部神経精神医学教室開講15 周年記念に捧げます.
参 考 文 献
1) JÅNET,P.:関 訳 :人格の心理的発達, 1957,慶応通信 .
2) BINSWÅ1‑GER,L.:新海,宮本,木村訳 : 精神分裂病1,1960,Ⅱ ̲1961,みすず書房.
3)JASPER,K∴ AllgemeinePsychopathO‑
logie,6Aufl.,Berlin(1953).
4) M INIKOW SKI,E∴ 村上,野村訳 :精神分 裂病,1946,弘文堂.
5)村上 仁 :精神分裂病の心理,1951,弘文堂.
6)村上 仁 :異常心理学,1952.
7)越賀一雄 :時空間体験の異常 (異常心理学講 座),1954,みすず書房.
8)新福尚武 ・池田数好 :人格喪失感 (異常心理 学講座),1954,みすず書房.
9)官本忠雄 :精神医学.1961,3,29.
10)荻野恒‑ :精神医学.1961,3,3. 16)島崎敏樹 :精神経誌 .1949,51,1. ll)小木 兵孝 :精神医学.1961,3,15. 17)島崎敏樹 :心で見 る世界 .1960.
12)小川信男 :精神経誌.1961,63,62. 18)Boss,M.:笠原三好訳 :精神分析 と現存在 13)BLELLEli,E∴ Dementiapraecox,Leip‑ 分析論,1962,みすず書房.
zigu.lVien(1911). 19)中修三編 :精神分裂病,1959,医学書院.
14)宮本忠雄 :精神経誌.1959,61,1316. 2O)笠原 嘉 :精神経誌 .1959,61,1. 15)島崎敏樹 :精神経誌.1949,5033.
AN APPROACIITOW ARD THE SCHIZOPHRENIC PSYCIIIC,ALS PartI.Comments Upon "Autism"
By EIYOE.AZU FUSE
Dejta:‑tJJLt,,liofNezIJrOPSJIChL'atry,Facult3・OfMediri7le, (Iiro5L7L‑L'U71iuersity,HirosaJh‑(Prof.T.WADA)
Pathogenesisofschizophl・eniaisnotclari丘edclearlyyet.Theauthorhasintended psychopathologicallytointerprettheschizophrenicpsychicmechanismsespeciallyfrom tll,.eview pointoftheautism wi thdescrlptionon severalcases.
Once,Minkowskihadadvocateduniqueinterpretation,namely"lossofvividcon‑
ttLC,iWitllreallty",foressentialsofschizophrenicpsychicphenomena,andclassifiedthe autism into2types:"rich"and"poor".However,theauthorhasintendedtoconsider itnotOnlyin connection with thesurrounding world,butalso inrelationtothepro‑
gressofdiseaseitselfextending to the disintegration ofpersonality.Hehasobtained thefoliowingconclusions:
1) There may be tllree typesOfautism :̀grey autism',̀bloomingautism'and
̀deterioratedautism',asfarasclinicalfeaturesareconcerned. Each oftheseautism maydependon psychopathologicalpatterns,whicharemade upaccordingtothepro・
portionsofthefollowingcomponents:the disintegration ofpersonality,the stage of processinthedisorderandthedetachmentfrom reality.
2) The autism itselfseemsnottobe 丘Ⅹed,butto bevariable;thatis,ashift from onetoanother,which isoccasionallyseeninthecourseofdisease.
(Autoabstract)