平成 30 年度 修士論文
首都圏における
繁華街の飲み屋街としての性格に関する研究
首都大学東京 都市環境科学研究科 都市環境科学専攻 建築学域
17886401 朝隈 暉
指導教員 吉川 徹
梗概
首都圏における繁華街の飲み屋街としての性格に関する研究
17886401 朝隈 暉 指導教員 吉川 徹 1. はじめに
1.1 研究の背景
人類の生活において飲食という行為は必要不可欠である。その延 長線上に存在する“飲酒”という行為は必要不可欠ではないものの、
人々の娯楽の1つとして古くから様々な文明において見られる。現 代日本において、特に都市においては、この“飲酒”という行為は、
自宅を除いた場合、その多くはアルコール類を提供する飲食店、す なわち飲み屋で行われている。その分布は、都市における娯楽施設 の分布のうち、もっとも基本的なものであり、現代日本の都市生活 の空間的展開を考える上で、重要な示唆を与えるものと期待される。
この分布を決定する要因として、まず考えられるのは、飲酒を行う 人にとって生活拠点となる地域、つまり居住地と就業地である。こ のことから、飲み屋の分布の最大の要因は居住地と就業地の分布で あると予想される。これに加えて、先述した通り娯楽として、ある 特定の地域の飲み屋に行く動機を多くの人が持っていることが考え られる。この場合、目的地として考えられるのは交通利便性の高い 地域である。
1.2 研究の位置づけと目的
以上の背景を踏まえて本研究では、多種多様な飲み屋が集積する 飲み屋街が駅前に数多く存在する首都圏中心部に着目し、それぞれ の飲み屋街にどのような特徴や違いがあるのかを比較し、最寄り駅 の交通利便性、さらにはそれ以外にどのような要因が影響している のかを検討することを目的とする。このために、飲み屋街の規模、
すなわち飲み屋の件数を目的変数、その飲み屋街の特性を説明変数 とした重回帰分析を行う。
これに関する既往研究としては、繁華街に関するものが挙げられ る。たとえば前田 ¹⁾らは鉄道駅近辺の繁華街に着目して、その特性 の検討や集客力を説明する要因について述べている。あるいは籾山
²⁾らは東京の広域を舞台に、そこに点在する複数の大規模商業集積 地について、統計指標を参照してそれらの関係性や集客力を研究し ている。さらに下山 ³⁾らは首都圏でも著名な飲み屋街である新宿ゴ ールデン街に着目し、飲み屋街としての歴史的特徴や実態を述べて いる。以上のように複数の繁華街の空間的特性を比較したり、特定 の飲み屋街に着目してその特徴や変遷について述べている論文は見 られるが、広域圏における多数の繁華街について、飲み屋街として の空間的特性を比較検討している研究は見られない。 その点が本研 究の独自性である。
2. 研究の対象について 2.1 飲み屋街の定義
本研究では首都圏中心部に着目することから、飲み屋街の定義付 けとしては、駅前繁華街を対象とに着目し、その飲み屋街としての 特徴につて述べることにする。そこで1駅につき1つの飲み屋街を
構成して持ち併せていると考えてし、飲み屋での飲酒を目的とした 駅からの徒歩での移動距離を考慮した結果として上で、駅から半径 600m以内を駅前飲み屋街のエリアとする。
2.2 研究対象の地域
研究対象地域は東京都区部とする。ただし、山手線の内側につい ては、駅の密度が高く繁華街が連続しており境界が曖昧なため対象 外とする。
2.3 駅の定義
本研究では、研究対象地域の全駅を対象とする。ただし、併用軌
道を走行する区間が存在する鉄道路線、すなわち都電荒川線、駅か ら 600m圏内全域が羽田空港敷地内に収まっている3駅、さらに有料 施設内に全線が立地し、飲み屋に行く動機での利用可能性が皆無と 考えられる東京都交通局上野懸垂線(上野動物園モノレール)の駅 は対象外とする。
2.4 乗り換え駅の扱い方
本研究では、異なる名称の駅同士について、乗り換え業務(定期 券に限った連絡業務も含む)を行っている場合は1つの駅とみなす こととする。その際、最も乗客数の多い駅の名前を代表として扱う。
また上記の条件を満たしていない場合でも、駅が近接しているため に、分析を行う上で統一するべきと判断された駅も同様に1つの駅 として分析を進める(表1) 。
3. 分析の手法 3.1 駅のデータ
駅のデータは国土交通省が提供する国土数値情報ダウンロードサ ービス⁴⁾の平成 29 年度鉄道データよりダウンロードした。
3.2 飲み屋のデータ
タウンページ検索『賢早くん』 ⁵⁾を使用し、グルメ・居酒屋の項目 の中の飲み屋の項目の中に含まれる居酒屋で業種登録されている物 件を抽出した。得られたデータを GIS 上にプロットし、各駅から距 離単位で半径 600mのバッファを敷いて、そこに含まれる軒数をその 地点での飲み屋の軒数とする。
3.3 就業構造データ
本研究では、飲み屋街の性質に関与しうると考えられる基本的要 因として、上記の常住地人口と就業地人口、地域ごとの就業構造を 考える。なお、 就業構造データについては、データ同士の相関係数 を計算し、相関が高い要因はまとめることとする。その際、相関係 数 0.8 以上をまとめる目安とする。また、それぞれの職種・業種別
統一する駅 統一後の名義 新宿駅、西武新宿駅、新宿西口駅 新宿駅 代々木八幡駅、代々木公園駅 代々木公園駅 下赤塚駅、地下鉄赤塚駅 地下鉄赤塚駅 成増駅、地下鉄成増駅 地下鉄成増駅
表1 例外として統合する駅
図 2 各飲み屋街の飲み屋軒数の大小
3.3.1 常住地人口
常住地人口については平成 27 年国勢調査⁶⁾・東京都区市町村町丁 別報告第1表の人口データを使用する。
3.3.2 就業地人口
就業地人口は平成 26 年経済センサス・基礎調査の町丁・大字集計
⁷⁾ より町丁目の従業者数を用いる。
3.3.3 地域ごとの就業構造
本研究では地域ごとの就業構造についてのデータとして以下の 2 点を用いる。
まず 1 点目が平成 27 年国勢調査の職業等基本集計に関する集計に 分類される『職業 ( 大分類) , 男女別 15 歳以上就業者数 -町丁・字等』
⁸⁾である。このデータでは、それぞれの地域に在住している人々の 職種を 12 種類に分類して公表されている。これを用いることにより、
その地域で働いている人々の業種を調査する。本研究で扱う一覧を 表 2 に示す。
続いて 2 点目が、 平成 26 年経済センサス - 基礎調査の 『経営組織 (2 区分) 、産業(中分類) ・従業者規模(6区分)別全事業所数及び男 女別従業者数-市区町村、町丁・大字』 ⁹⁾である。このデータでは、
97 種類の業種を 19 項目に分類して、町丁目別の従業者数が集計され ており、これを用いることにより、その地域に出勤する人々の業種 を調査する。本研究では 19 項目にまとめたデータを用い、その一覧 を表 3 に示す。
3.4 面積按分
以上で得られたデータについて GIS を用いて駅から半径 600m のバ ッファで面積按分することで、駅周辺の飲み屋の軒数、就業構造を 把握する。図 1 に面積按分の一例を示す ( 蒲田駅近辺 )。
3.5 その他のデータ
上記以外に最寄り駅の交通利便性の大小を考慮する指標として、
平成 28 年度の東京都統計より駅の一日平均乗降客数、駅に乗り入れ る鉄道路線の数を用いる。さらに、 最寄り駅の性格を表す指標として、
駅が開業してからの年数も用いる。
3.6 重回帰分析
以上で得られたデータを用いて重回帰分析を行う。本研究では、
目的変数として飲み屋街の需要を表す飲み屋の軒数、説明変数とし て上記の要因のデータを用いて、P=0.05 を基準とする変数増減法に よる重回帰分析を適用する。計算は、青木による「Black-Box」¹⁰⁾
を用いて行った。
4. 結果と考察
4.1 飲み屋の軒数の概要
全 348 駅の中で、最大が池袋駅の 244 軒であった。図 2 に各地点 における飲み屋の軒数の大小を示す。図より JR 線の主要駅は軒並み 飲み屋の軒数が多く、特に山手線と京浜東北線が乗り入れる上野駅 から新橋駅にかけては、規模の大きい飲み屋街が連なっていること が分かる。また、とりわけ飲み屋の軒数が多い地域として、100 軒以 上が観測された地域に着目すると、池袋駅、新橋駅、渋谷駅、神田駅、
蒲田駅の 5 地点が挙げられる。蒲田駅を除く 4 駅はいずれも山手線
屋街がある地点では、神泉駅のように近隣駅がその影響を受けて、
乗客数や乗り入れ路線の数が小さいが飲み屋の軒数が比較的多い傾 向が生じた。また新宿駅や東京駅については、至近距離にある近隣 駅が多く、駅の規模が大きいが飲み屋の軒数は少なくなった。
4.2 相関係数の計算結果 4.2.1 業種データ
前章で述べた通り、各業種データの相関係数に基づき、B 専門的・
技術的職業従事者、C 事務従事者、D 販売従事者と H 生産工程従事者、
I 輸送・機械運転従事者、J 建設・採掘従事者、K 運搬・清掃・包装 等従事者が相互に相関係数 0.8 以上であったので、統合する。
4.2.2 業種データ
同様に、各職種データについては、M 宿泊業,飲食サービス業、N 生活関連サービス業,娯楽業が相関係数 0.8 以上を示したので、統 一する。
4.3 重回帰分析 ( 説明変数非限定 )
以上を踏まえて決定した、重回帰分析で用いる説明変数一覧を表 4 に示す。決定係数 0.677 の回帰式が得られた(表5) 。この表より従 業者 mn が高い標準化偏回帰数を示した。このことから宿泊業・飲食 サービス業・生活関連サービス業・娯楽業の従業者数が特に影響を
表2 平成 26 年経済センサス・基礎調査における産業分類一覧
表3 平成 27 年度国勢調査・職業等基本集計における職種一覧 平成
26年経済センサス‐基礎調査 産業分類一覧
a農業,林業
b
漁業
c
鉱業,採石業,砂利採取業
d建設業
e
製造業
f
電気・ガス・熱供給・水道業
g情報通信業
h
運輸業,郵便業
i卸売業,小売業
j金融業,保険業
k不動産業,物品賃貸業
l学術研究,専門・技術サービス業
m宿泊業,飲食サービス業
n生活関連サービス業,娯楽業
o教育,学習支援業
p
医療,福祉
q複合サービス事業
r
サービス業(他に分類されないもの)
s
公務(他に分類されるものを除く)
平成
27年国勢調査の職業等基本集計に関する集計・職種一覧
A管理的職業従事者
B
専門的・技術的職業従事者
C事務従事者
D
販売従事者
Eサービス職業従事者
F保安職業従事者
G 農林漁業従事者 H生産工程従事者
I 輸送・機械運転従事者 J建設・採掘従事者
K 運搬・清掃・包装等従事者 L分類不能の職業
及ぼす要因であると示唆された。しかし飲み屋と飲食業や娯楽業の 従業者数はそもそも対応している可能性があり、またこの説明変数 に対する分散拡大要因も 2.8 と相対的には高い。
4.4 重回帰分析(説明変数限定)
上記を踏まえて、問題となり得る要因を除外して改めて重回帰分 析を行って結果を比較する。ささらに就業構造データ同士をまとめ る目安の相関係数の値を 0.6 程度に下げて、職種・業種の類似性も 考慮した上で、説明変数を限定して重回帰分析を行った。2 回目の分 析で用いる説明変数の一覧を表 6 に示す。この結果を表 7 に示す。
ここでは決定係数 0.64 と、説明変数を限定しない場合とほぼ同様の 説明力を持った回帰式が得られた。ここでは、乗客数や従業者 op が 比較的高い標準化偏回帰係数を示しており、教育・学習支援業・医療・
福祉の従業者数が主要因として示された。また従業者 de については、
重回帰分析で従業者 e が回帰式に残っていることから、製造業の従 業者人口が重要な要素の1つであると考えられる。なお、この重回 帰式で新たに説明変数として採用された乗客数については、分散拡
大要因がやや高く、また乗り入れ路線数のそれも上昇したので、互 いに影響し合っている可能性が考えられ、解釈に注意が必要である。
ただし、両者の偏回帰係数は正の値を示し、かつ P 値が極めて低く 高度に有意であることから、同様の乗客数を持っている駅では、乗 り入れ路線数が多いほど飲み屋街として規模が大きいと解釈でき、
乗り換えのついでに立ち寄る効果の存在が示唆される。
4.5 残差
上記の要因以外に飲み屋街の需要に関わる特異的な要因が存在す るかどうかを確認するため、回帰式の予測値と観察値の残差を確認 する。図 3 では予測値と観察値の関係を、図 4 では各地点の残差の 大小を示す。図3では飲み屋の軒数が多い地域ほど、分散する傾向 が読み取れるため、本研究で扱った説明変数以外に飲み屋の軒数が 多い地域に共通する特性があると考えられる。図4からは、残差の 大きい地域は比較的 JR 線の駅と一致する傾向にあることが分かり、
JR 線の存在が駅前飲み屋街の規模に影響を与えることが示唆される。
表 7 重回帰分析(説明変数限定)の結果
駅開業からの年数 なし 周辺の従業者数(業種c) 従業者
c周辺の在住人口 なし 周辺の従業者数(業種de) 従業者
de乗客数 なし 周辺の従業者数(業種f) 従業者
f乗り入れ路線数 なし 周辺の従業者数(業種gijklr) 従業者
gijklr周辺に居住する就業者(合計) なし 周辺の従業者数(業種h) 従業者
h周辺に居住する就業者(職種ABCDE) 就業者
ABCDE周辺の従業者数(業種op) 従業者
op周辺に居住する就業者(職種F) 就業者
F周辺の従業者数(業種q) 従業者
q周辺に居住する就業者(職種G) 就業者
G周辺の従業者数(業種s) 従業者
s周辺に居住する就業者(職種HIJK) 就業者
HIJK周辺の従業者数割合(業種a) 従業者
a%周辺に居住する就業者(職種L) 就業者
L周辺の従業者数割合(業種b) 従業者
b%周辺に居住する就業者割合(職種ABCDE) 就業者
ABCDE%周辺の従業者数割合(業種c) 従業者
c%周辺に居住する就業者割合(職種F) 就業者
F%周辺の従業者数割合(業種de) 従業者
de%周辺に居住する就業者割合(職種G) 就業者
G%周辺の従業者数割合(業種f) 従業者
f%周辺に居住する就業者割合(職種HIJK) 就業者
HIJK%周辺の従業者数割合(業種gijklr) 従業者
gijklr%周辺に居住する就業者割合(職種L) 就業者
L%周辺の従業者数割合(業種h) 従業者
h%周辺の従業者数(合計) なし 周辺の従業者数割合(業種op) 従業者
op%周辺の従業者数(業種a) 従業者
a周辺の従業者数割合(業種q) 従業者
q%周辺の従業者数(業種b) 従業者
b周辺の従業者数割合(業種s) 従業者
s%重回帰式 偏回帰係数 標準誤差
t値
P値 標準化偏回帰係数 分散拡大要因
乗客数
4.88E-05 1.04E-05 4.6791 0.0000 0.2816 3.4262従業者
de 0.0026 0.0006 4.2071 0.0000 0.1693 1.5316従業者
op 0.0073 0.001 6.7341 0.0000 0.2962 1.8303駅開業からの年数
0.1051 0.0286 3.6659 0.0002 0.1307 1.2035従業者
qの割合
-58.852 11.7088 5.0263 0.0000 -0.2164 1.7538乗り入れ路線数
3.4314 0.9603 3.5731 0.0004 -0.1411 3.1527従業者
h -0.0049 0.0014 3.4091 0.0007 -0.1411 1.6211定数項
0.2325 3.2598 0.0713 0.9431分散分析表
要因 平方和 自由度 平均平方
F値
P値
回帰
175462 7 25066.13 86.527 0.0000残差
98495 340 289.6914全体
273958 347重相関係数
0.8003決定係数
0.6404自由度調整済み重相関係数の二乗
0.633ータに加え、周辺の人口や就業構造データも加えて重回帰分析を行 い、飲み屋街の規模・需要に影響する要因を探った。結果、飲食娯 楽の従業者は当然のことながら、医療福祉関係・製造業の従事者の 大小も重要な要因となる可能性が観測された。また残差の確認より、
本研究で扱った説明変数以外にも考慮すべき要因がある可能性が考 えられたので、それらの要因を分析することが将来の課題である。
参考文献
1) 前田敬・福井賢一郎・北村隆一、鉄道駅周辺の繁華街特性についての基 礎的考察、土木計画学研究・論文集、Vol.21、no.1、pp.203-208、2004 2) 秋山真人・十和田朗、統計指標から見た広域集客型エリアと大規模商業 集積地域との商業的・空間的特性、都市計画論文集、No. 40-3、pp.889-894、
2005
3) 下山萌子・後藤春彦・馬場健誠、新宿ゴールデン街における新旧店舗の 混在とその更新の実態に関する研究 - 店舗更新時の旧店主からのアドバイスに 着目して -、都市計画論文集、Vol.52、No.3、pp.1074-1080、2017
4) 国土数値情報ダウンロードサービス
http://nlftp.mlit.go.jp/ksj/index.html( 閲覧日:2019 年 1 月 20 日 ) 5) タウンページ検索 賢早くん
http://www.mjakk.jp/kensakun/(閲覧日:2019 年 1 月 20 日)
6) 平成 27 年国勢調査
https://www.stat.go.jp/data/kokusei/2015/kekka.html(閲覧日:2019 年 1 月 20 日)
7)平成 26 年経済センサス・基礎調査の町丁・大字集計
https://www.stat.go.jp/data/e-census/2014/index.html(閲覧日:2019 年 1
2019 年 1 月 20 日)
9) 平成 26 年経済センサス - 基礎調査の『経営組織(2区分)、産業(中分類)・ 従業者規模(6区分)別全事業所数及び男女別従業者数-市区町村、町丁・大字』
https://www.e-stat.go.jp/(閲覧日:2019 年 1 月 20 日)
10)