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(1)

所有主価値とカレント・コスト会計

その他のタイトル Value to the Owner and Current Cost Accounting

著者 岡部 孝好

雑誌名 關西大學商學論集

巻 22

号 3‑4

ページ 232‑262

発行年 1977‑10‑25

URL http://hdl.handle.net/10112/00021002

(2)

所有主価値とカレント。コスト会計

岡 部

孝 好

は し が き

既にわが国でもよく知られているように,英国のインレーション会計委員 会(委員長

F.E. P.

サンデランズ),は,「革命的というよりも発展的である」

とか, 「既に近代会計の慣習の中で確立されている原則の程度上の拡大にす

(1) 

ぎない」としながらも,時価主義会計に全面的に移行するというドラスチッ クな会計制度の改革を提唱した。ここ数年の急激なインフレーションの進行 は歴史的原価会計の欠陥を露呈させたが,これを是正するという理由のもと に , 大胆にも,基本会計報告書にカレント・コスト会計

(Current Cost 

Accounting) —以下ではCCA という一ーを導入すると決定したのである。

この会計システムにはいくつかの特徴が認められるが,その最も顕著なも のをあげるとすれば,まず第一に硯在購買力単位

(tinitof current purch‑

(1)  Inflation Accounting Committee,  Inflation  Accounting:  Report  of the  Inflation Accounting Comttee,(HMSO, Cmnd 6225, 1975), para. 524. 

(3)

所有主価値とカレント・コスト会計(岡部) (

233)55  asing power)

の採用を否定した点を指摘することができよう。従来,イン

フレーション会計とか物価変動会計と総称される諸方法の中で最も有力なア プローチと目されていたのは,絶えず伸縮する貨幣単位の代りに恒常的な購 買力単位を会計上の測定単位に採用するというものであり,また歴史的原価 基準から時価基準へと評価基準を変更する場合でもこの種の測定単位の切換

(2) 

は不可欠であるとするのがむしろ支配的な見解であった。•ところが,その後

(3) 

の 公 開 草 案 第

18

号ではやや後退を余儀なくされたとはいえ,同委員会報告書

(2) 

時として一般物価変動会計と個別物価変動会計を対置し,後者を採用するため に前者を否定するという説明がおこなわれるためか,通常,時価主義会計は貨 幣購買力変動の修正をおこなわないと誤解されやすい。しかし,この考え方は

CCA

の著しい特徴であって, 一般にそうであるのではない。エドワーズ・ペ ルやチェンバースの時価主義にしても,.あるいは経済学的利益のモデルにして も,測定単位の歪みの補正をおこなうのはむしろ当然のことと考えられている のである。

Cf.  Edgar 0.  Edwards and Philip W. Bell,  The Theory a

Measurement of BusssIncome (University of Califor~ia Press,  1961),  pp.122131; Raymond J.  Chambers,  Accounting,  Evaluatioand Eco

omic Behavior (PrenticeHall,  Inc.,  1966),  Chap.  10. 

(3) 

インフレーション会計委員会報告書では硯在購買力単位の使用はほぼ完全に否 定されていた。ところがその約

1

年後に公表された公開草案第

18

号では,この 見解に対する反対論が考慮に入れられ,暫定的解決法として次のような方式が 採用されることとなった。(

1)

貨幣価値変動から生ずる購買力損益を一般物価 指数ー一小売物価指数

(RPI)

一ーの利用によって計算し, それが及ぼす純資 産への影響を「貨幣価値変動考慮後の株主持分増減表」

(statementof change  in shareholders net equity interest after allowing for the change in the  value of money)

において明らかにする。この表は基本財務諸表の脚注とし

て取扱われる。

(2) 

資産の再評価によって生じた剰余金(保有利得)が準備

金として拘束されるかどうかはすべて取締役の自由な判断に委ねられるが,準

備金組入額を決定する際には,原則として取締役は当期に発生した購買力損益

の額を考慮しなければならない。この考慮がなされるとすれば,貨幣価値の変

動は実質的に処分可能な利益に影響を与えることになる。なお,この点は後述

する。

InflationAccounting Steering Gr~up, E

osureDraft 18(ED18)ofthe  Proposed• Statement of Standard Accounting  PracticeCurre Cost Accounting (November 16), paras.  7679, 258263,  and Appendix 2. 

(4)

所有主価値とカレント・コスト会計(岡部)

は伝統的な貨幣単位の使用をむしろ積極的に支持し,購買力単位を棄却する 立場をとった。その結果,以前からその制度化のための検討が精力的にすす められていた硯在購買力会計

(currentpurchasing power accounting)(4) 

が ほぼ完全に退けられてしまったにとどまらず,

CCA

での修正も非貨幣項目 に限定されてしまうこととなった。また,これに応じて,購買力損益の認識 も否認されてしまったのである。

そして,第 2に,大多数の情報利用者に最も目的適合的な時価として所有 主価値

(valueto the owner)

ないし「事業にとっての価値」

(valueto the  business)

が採用されたことがあげられよう。一般に,歴史的原価に代替し

うる代表的な時価が取替原価

(replacementcost)

,正味実現可能価値

(net realizable value)

,および割引現在価値

(discountedpresent. value)

であ

ることはよく知られているし,また時価主義とは,多元的測定論の場合を除 いて,これらの中からどれか

1

つを選択し,それを首尾一貫して適用する方 法であると理解されている。しかし

CCA

における時価は所有主価値であっ て,上の 3つのうち特定のどれかを指すわけではない。どの時価を用いるか は特定の情況においてどれが所有主価値を最もよく表現しうるかによって決 定されるのであり,ただ

1

つの時価を首尾一貫して用いるのではない。ある 時には取替原価基準が,またある時には正味実現可能価値基準や割引現在価 値基準が適用されるのであり, それゆえこの場合の時価主義は「受入価格

(5) 

(entry price)

と払出価格

(exitprice)

の両方を利用する」方法として

(4) 

小売物価指数

(RPI)

による硯在購買力会計はたとえば次のようなもので具体 的に提案されていた。

AccountingStandards Steering Committee, Exposure  Dra

8(EDB),  Accounting for Changesthe Purchasing  Power of  Money (January 1973).  Accounting St

dardsSteering Committee, Pro visional  Statement  of  Standard  Accounting  Practice  No. 7 (SSAP7),  Accounting for Changes in the Purchasing Power of Money (May 1974).  (5)  R.H.  Parker  and. G. C.  Harcourt,  "Editor's  Interoduction," ・ in  R.H. 

Parker and Harcourt (eds.),  Readings in the Concept and Measurement  of Income (Cambridge University Press,  1969),  p.. 17. 

(5)

所有主価値とカレント・コスト会計(岡部) (

235)57 

特質づけることができる。

したがって,これら2点だけからしても,英国でいままさに制度化されよ うとしている

CCA

には検討に値する新しい内容が含まれているのは明らかで ある。そこで,本稿では, インフレーション会計委員会報告書—以下では サンデランズ報告書という一~ ED18 と い う ー を 主な素材として,まず第

2

の所有主価値の概念に焦点を合せ,

CCA

の理論的 特徴と実際的意義をできるだけ明確にすることにしよう。これにつづいて,

(6) 

エドワーズ・ベル等によって呈示されたアメリカ型のカレント・コスト会計 を念頭におきながら,

CCA

の利益と資本の概念を浮き彫りにし, それにか かわる若干の問題点を指摘してみることにしたい。

所有主価値と剥奪価値

CCAにおける最も基本的な概念は,上にも述べたように,所有主価値

ないし事業にとっての価値であるが,この背後にあるのは一般に剥奪価値

(deprival value) 

とよばれているきわめてユニークな価値の概念である。

そこで,

CCA

の内容に立ち入る前にまずこの考え方を整理し, それにもと づく一般的な評価の

J

いールを明らかにすることにしよう。

一般に消費財はわれわれの生活を支える物的手段にしかすぎないといわれ るが,所有主価値概念を提唱する論者によれば,企業が調達する物的資産も この点においては何ら変るところがない。それらは営業活動をすすめる上で のいわば用具にすぎないから,その所有者の保有意図や利用計画から切り離 してそのもの自体「価値」を論じたり,その経済的意義の大きさを評価した りすることはできない。資産はそれが所有者の目標達成に寄与しうるかぎり においてはじめて価値をもちうるといえるし,またその価値の大きさもその 寄与の程度に応じて異なるものと考えなければならない。このことは,ある

(6)  Edgar 0.  Edwards and Philip W. Bell, op.  cit. 

(6)

企業においてきわめて有益だとみなされている資産が,物質的特性からして も市場価格の点からしても全く同一であるにもかかわらず,他の企業で全く 無価値な資産と評価されている事実をみても明白である。そこで,資産をこ のように収益実現の用具とみるかぎりにおいては,資産がおかれている特定 の具休的な情況の中でかかる目的に対するその意義を見積ることが重要なの で あ り , そ れ ゆ え そ の 価 値 に 言 及 す る 場 合 に は 常 に そ れ を 保 有 者 に 結 び つ . . . . . . . .  

け,所有主にとっての価値として把えることが必要である。

このような意味での価値は客観的というよりも主観的であり,また一般的 というより特殊的である。しかしながら,たとえそうであっても,それは所 有する資産に対して所有主が抱く主観的な期待であろうから,われわれには このような価値の理解はそれ自休として既にひとつの会計システムを暗示し ているかに思える。それぞれの資産が産み出すと期待される将来的キャッシ ュ・フローを予測してそれらの割引現在価値を計算すれば,所有主の期待を 反映する資産の測度が直接に得られるであろうし,またこの割引現在価値に よればその期中純増分としていわゆる経済学的利益

(economicincome)

が 得られるであろうからである。

しかしながら,所有主価値の論者が展開するのはこの経済学的利益のアプ

(7) 

ローチではない。彼等が採用するのは,全体の中に組入れられている個別の

(7) 

所有主価値を支持する論者が経済学的利益のアプローチをどのように評価して いるかは明らかでない。一方でそれを彼等の立論の基礎とし,他方でそれを棄 却しているとさえ思われる。サンデランズ報告書に即していえば,筆者には,

経済学的利益について次の

2

つの矛盾があると思えてならない。(

1)

経済学的

利益は理想的であるが適用不能なので「それに近似し,そして実際的適用の可

能な他の概念が考えられなければならない。」

(para.103.)

とする一方で,そ

れは有意義でも有用でもありえないと主張している

(paras. 499502.

。 )

( 2 )   将来の純キャシュ・フローの予測は不可能であるから経済学的利益は適用

不能であるというにもかかわらず,時には割弓[現在価値を用いなければならな

い所有主価値概念を採用している。また,所有主価値を測定するためには,後

述するように,割引現在価値,正味実現可能価値,取替原価を比較しなければ

ならないから,経済学的利益のアプローチを否定しておきながら,それに依存

しなければ所有主価値を決定しえないというのは矛盾であるという非難も多

い。たとえば次のものを参照せよ。

HiroshiYoshida,  "Value  to  the  Firm  and the Asset Measurement Problem," ABACUS, June  1973, pp. 2021. 

(7)

所有主価値とカレント・コスト会計(岡部) (

237)59 

資産に焦点を合せ,可能なかぎりそれらを客観的な市場価格で評価する方法 であって,一団の資産が稼得するであろう全体的な収益を個々の資産に恣意 的に配分する方法ではない。すなわち,当該資産を所有していなかったなら それがどういう相遮をもたらすかを個々に判断し,これによってその資産の

(8) 

「所有による利益」

(advantageof ownership)

を見積ろうとするのである。

そのうえ,この意味での価値を見積ろうとする際には,普通,剥奪や破壊等 による硯有資産の減失を想定してみるというきわめて特異な方法がとられる のであり,このことからかかる価値は一般に剥奪価値とよばれている。それ を最初に呈示したポンプライトによると,それは「その所有主にとってのあ る財産の価値は,所有主がその財産を剥奪されるとすれば彼が被ると期待す るであろう,直接又は間接の,あらゆる損失という不運な価値と金額的に同

(9) 

ーである。」と定義される。

この定義はもともと,所有者が実際に特定の資産を破壊又は剥奪により減 失した時,浸害された所有者の権利を回復させるという目的をもって,失っ

た財産を評価しそれを補償するという考え方に立つものであったといわれる から,より直接的には,会計上の評価というよりもむしろ損害賠償上の評価

(10) 

を意味するものであった。それだから,この本来的意味からすれば,剥奪価 値は所有者が剥奪以前の原状を取り戻すに足る金額にちょうど等しくなけれ ばならない。それは「所有主に彼の以前の状態を回復させる費用をこえない

(11) 

……」し,また損失を最少限に食い込めようとする所有者の努力が前提でき

(8)  W. T.  Baxter,  "Accounting Value and Inflation  (McGrawHill,  Engl and,  1975),  p.126. 

(9)  J.C.  Bonbright,  The Valuation  of Property  (McGraw‑Hill  Book  Co.,  1937),  p. 71. 

(10) 

R .  

J.  Chambers,  "Value to the Owner," ABACUS, Vol. 7 1971,  p. 71.  (11)  David Solomons,  "Economic and Accounting Concepts of  Cost  and Val

ue," in  Morton Backer (ed.),  Modern Accounting Theory(PrenticeHall,  Inc.,  1966),  p. 124. 

(8)

るかぎり,彼の原状を部分的にしか回復させえないものであってもならな い。所有者が実際に被った「直接又は間接の,あらゆる損失」を具休的情況 において正確に見積り,所有者の以前の状態を完全に復元させるというのが その基本的な考え方なのである。

しかしながら,このような概念が会計に導入されるといくつかの点で意味 の変化が生じてきた。まず第

1

に,会計においては,評価しようとする資産 は実際には所有されているのであって剥奪されているわけではない。実際に は継続して所有するという意思決定がなされ,それゆえ資産が現存するにも かかわらず, この硯実とは正反対の状態が仮定されるのである。換言すれ ば,実際に採用されている行動のコースではなく,それに代替する可能な捩 会が仮定されている。そして,この事実に反する機会の想定にもとづいて,

それが生ずるとすれば結果するであろう損失を見積ろうとするのが剥奪価値 概念の特徴にほかならない。それゆえ,この場合には,実際の所有のために いくらを費したか(歴史的原価),実際の所有からどれだけの利益が期待でき るか(割引現在価値)等ではなく,所有していないとした時,あるいは所有を 中断した時にどういう結果が生ずるかを問わなければならない。ちょうど機

. . . . .  

会原価

(opportunity cost)

が放棄された行動機会からの期待利益によって 測定されるのと同様に,剥奪価値も現実にはとられていない行動のコースを 基礎にして,価値の測定をおこなおうと努める。したがってこの意味からす れば,剥奪価値は伝統的会計の諸概念と全く異なる基盤から出発するもので あり, ライト等が指摘するようにして, むしろ機会価値

(opportunity

(12) 

value)

と把えればその特質を最もよく理解することができるであろう。

そして,このことに関連する剥奪価値のもう

1

つの特質として,資産の喪

(12)  F. K. Wright,  "Towards a General  Theory  of  Depreciation,"  in  R.H.  Parker and G. C. Harcourt (eds.),  op.  cit.,  p. 278.  Cf.  Sandilands Report,  para.  209. 

(9)

所有主価値とカレント・コスト会計(岡部) (

239)61 

(13) 

失による不利益をもって「所有による利益」とする点をあげえよう。新規に 汽産を購入する場合であれば各代替案の期待利益を直接に比較できるであろ うが,既有の在産を評価しようとする時には,叙上のように減失ないし所有 の中止を代替機会とする以外にない。 この結果として, 価値, 利益, 値打 ち,頂要さという戟極的側面よりも股用,狽失,担害,犠牲という消極的側 面が強瀾されることにならざをえない。もちろん,剥奪による担失は実際に は被らずにすんでいるわけであるから, ライトが主張するように,この狽失

(14) 

は「汽産を所有することにより回避された」といい換えれば,かかる否定的 合意は消失するであろうし,また彼の機会価値概念にもよりよく調和するか もしれない。しかしながら, 回避された毀用とか節約された股用といって も,それは単に表現の問題にすぎず, ライト自身も謁めるように,具休的に は所有者が被ると予想される損失によって汽産の価値が評価されなければな らない点に変りはない。所有主価値は,現有汽産についての所有による利益 を測定しようとするにもかかわらず,非所有という代替機会を基礎にして,

その不利益を測定するのである。この点に,伝統的会計や他の会計測定モデ ルとはなはだしく異なる所有価値概念の特徴が認められる。

]I 

剥奪価値と所有主の行動仮説

所有主価値が割引現在価値で測定されうるような期待利益ではなく,剥奪

(13)  W. T. Baxter, op. cit.,  p. 126.チェンバースも指摘するように.ポンブライト

の定義と同一の形をとって, 「所有による利益」を剥奪による不利益で表わさ ないことができる。つまり「その所有主に対するある財産の価値は,その所有 主が財産の所有から生ずると期待するであろう,直接又は問接の,あらゆる利 得である。」と定義すれば.消極的な含意は積極的なものに転換する。しかし,

このように読みかえると剥奪価値とは全く異なる会計測定モデルに達してしま

う。この意味での「利得」は割引塊在価値によって測定されるであろうし;ま

たそうであれば,剥奪価値というよりも経済学的利益のモデルを採用すること

になるからである。 R .

J.  Chambers,  "Value to the Owner," op. cit., p. 64.  (14)  F. K.  Wright,  op.  cit.,  p.8.

(10)

がもたらすと期待される担失であるとすれば,所有主価侑の測定にあたって は何よりもまずかかる損失の大きさを数且的に決定する方法が示されなけれ ばならない。しかしながら,所有者が査産を剥奪されることにより実際に何 を失うかは必ずしも一様ではない。ある時には剥奪された所有者は販売収益 を失ったと主張するかもしれないし,他の時には再調達によって以前の状態 を復元させる費用を支払わねばならなかったと主張するかもしれない。ある いはさらにこれらとは全く別個の損害を被ったというかもしれない。剥奪さ れた時に所有者がとる行動もまたそれによって生ずる結果も梢況に応じて異 なるものであり,したがって関連する股用もまちまちである。それゆえに,

所有主の代替的な行動のコースを叙述し,それぞれの場合に生ずる股用の額 を見積るという手続をとらなれけばならない。バックスクーの用語を用いれ

(15) 

ば,剥奪予算

(deprivalbudget)

を作成しなければならないのである。

剥奪されて硯有資産を失った時に所有者が事態を収拾するためにとる行動 の中で,おそらく最も普通のものは,失ったのと同一クイプの資産を再調達 して,以前に抱いていた収益稼得の期待を回復させることであろう。 しか し,これ以外にもいくつかの可能性がありうる。たとえば,

1

台の機械を失 った場合に,所有者は,失った機械と同一のサーヴィスを確保するために,

全く新しいクイプの機械を購入したり企業内の他の機械を転用するかもしれ ない。あるいはまたそうする方が経済的である場合には資産の賃借とか人間 労働の投下によって失ったキャパシティを埋め合せようとするかもしれな い。生じうる可能性は無数に存在するし,またそれぞれの場合に応じて費用 や損失も異なってくるであろう。

そこで,所有主価値の測定にあたっては,剥奪された時に所有者は実質的 に同一又は同等な資産を再調達するか,それとも再調達しないかだけについ

(16) 

て選択するというと単純化がなされる。しかしここで,再調達しないという ことは剥奪されてもその資産を再び補充しないということを意味するから,

(15)  W. T.. Baxter, op. cit.,  p. 127. 

(11>)  Ibid.,  p. 128,  F. K.  Wright, op. cit.,  p.8.

(11)

1 所 有 _ E 価伯とカレント・コスト会計(岡部) ( 2 4 1 ) 6 3   剥奪以前において所打者がその汽産を販売すると計画していたかそれとも引 続き保有又は利用すると汁画していたかが重要になってくる。前者の場合に は,販光棧会の放棄による担失が,また後者の場合には保有又は利用機会の 放棄による担失が剥奪によって被る所有者の担失となるであろうからであ る。したがって上のように単純化しえた時でさえ,所有主価値を評価するた めには,(

1

)購入する,(

2

)保有する,(

3

)販売するという

3

つの代替的行動のつ ースの中で所有主がどのコースを選択するかを知る必要があることになる。

しかしながら,これらの行動のコースの中からの選択は,所有主が常に合 理的行動をとると前提できるかぎりにおいては,査産をとりまく特定の梢況 から定式化しうるというのが所有主価飢の擁護論者の主張である。すなわ ち,そのときどきの当該汽産の取替原価(購入価格)と正味実現可能価値(販 光価格)が与えられていて, 所有者の抱く期待が割引現在価値によりわかっ ている時,彼等はそれら.を比較して自己に最も有利な結果が生ずるように常 に一定の行動をとるとみなしうるというのである。その内容を具体的に示す と次のようになる。

{ a )   割引現在価値と取替原価の比較。

特定の資産がもたらすと期待される将来的キャシュ・フローの割引現価 がその取得に要する費用を上回るときには,資本予算の教科書が教えるよ

うに,その資産は新規購入に値するし,また反対であれば,その資産は購 入に値しない,といえる。このことは資産が既に保有されていた場合でも 同様である。その期待値が取替原価を上回る資産を失った場合,所有者は 最も安価な方法で同一用役を供与する資産を再調達して,以前に計画して

(17) 

いた通りに保有又は利用するのが合理的である。ま f こ反対に割引現在価値

(17) 

ここでは暗黙のうちに当該資産は側奪されるまで最も有利に利用されていた

.との仮定がなされていると考えられる。というのは,企業の内部又は外部にヨ リ有利な投資機会が存在するとすれば.剥奪された所有者は失った収益稼得の 機会を回復させるという理由にもとづいて,同一資産に再投資するというより

も,ヨリ有利な.新しい投資機会の方に資金を投ずるということが考えられる

からである。チェンパースが批判するのもこの点である。 R .

J.  Chambers,  op.  cit., P• 67. 

(12)

64(242) 

の方が低い時には,も早やその資産を再調達しないのが合理的である。取 替原価に比較して割引現在価値の方が高い時に再調達をしなければ,ある いは割引硯在価値の方が低い時に再調達をすれば,所有主の被る狽失は拡 大し,彼の経済状態は剥奪以前よりもさらに悪化するであろう。

( b }   正味実硯可能価値と取替原価との比較。

同一時点の受入価格と払出価格とが異なりしかも後者の方が潤い時,査 産は購入に値する。それを購入して転売することによって利益を得ること ができるからである。それゆえ,かかる情況にある査産が剥奪された場合 にも, それを再調達し, さらに販売するのが所有者にとって有利な行動

(18) 

であろう。また上とは逆に,取替原価よりも正味実現可能価値の方が低い 時,再調達して安価に販売すれば追加の損失を被ることになるから,再調 達をするのは合理的とはいえない。剥奪されたなら,そのまま放匝し,販 売による収益の方を断念しなければならないであろう。

( c )   正味実硯可能価値と割引現在価値の比較。

これら 2つの価値は共に払出価格であり,したがって資産が既に所有さ れている時にのみかかわりが生ずるが,硯在の正味実現可能価値が割引硯 在価値よりも高いということは,それを将来まで保有叉は利用するよりも いま処分する方が有利であることを示している。また反対に,硯在の正味 実硯可能価値が割引硯在価値よりも低ければ,所有者は彼の計画していた 最善の内部的用途で利用しつづけるのが賢明であろう。所有主はこの決定 をすることにより割引現在価値に等しい利益(叉は原価節約)をうることが でき,この額は現在の販売又は処分による収益よりも大きい。したがっ て,この場合に当該資産を販売したり処分したりするのは合理的とはいえ ない。

(18) 

ライトの表硯を用いれば,この場合に「損失を最小にとどめるのに適切な行動 は在庫の不足が売上を失わせる前に取替を発注することである。」 F.K. Wr‑

ight,  "A Theory of  Inventory  Measurement,"  ABACUS Vol.1,  1965,  p.154.

なお,この場合にも, 他にヨリ有利な投資機会が存在して,同一クイ

プの資産への再投資を見送らなければならないようなことはないと仮定されて

いる。

(13)

所有主価値とカレント・コスト会計(岡部) (

243)65 

このように祁きうる所有者の行動は取替原価,正味'火現可能価侑,割引硯 在価値の

3

つの大小肉係によるのであるが,それぞれを

RC, NRV, PV

で 表わし,これらの可能な組合せを求めると結果は,第

1

表に示されているよ

1

(ll  N RV  (2)  N RV  (3)  P V  14)  P V 

P  V  、 ‑ : RC

;

  :、 :~v

RV >•

RC 

(5)  PV  RV 

1 6 )  

~

・ 

NRV 

‑‑-—•..—

・一‑‑‑‑・、 一

(19) 

うに, 6 通りになる。現実の梢況が屈するのはこの中のどれかである。これ らの中で ( 1 ) から ( 4 ) までの 4 つのケースは,正味実現可能価値か割引現在価値 のいずれか又は両方が取替原価を上回る梢況であり,したがってこれらの場 合には取替に侑する。これらの梢況のもとで保有汽産を剥奪されたなら,上 の ( a ) と ( b ) で述ぺたように,所有者は失った査産を再調達するのが最善である

(20) 

とみなしうる。所有者は付随費用を含む現在取替原価を支払うことによって その販売収益を獲得する機会やその保有又は利用から生ずると期待される将 来的効益を受け取る機会を回復させうるし,またこのことが可能なら剥奪以 前の経済状態を取り戻したといえるであろう。したがってこのよう・に所有者 の剥奪時の行動が再調達であると仮定できる ( 1 )から ( 4 )までのケースでは,資 産の剥奪価側は取替原価であって,正味実現可能価値や割引現在価値ではな いといえる。これらの場合には取替原価が所有主価値の上限を画するのであ り,正味実硯可能価値や割引現在価値による評価は所有者の状態を剥奪以前 ( 1 9 )   サンデランズ報告書に再掲されているこの表は,パーカー・ハーコウトがソロ

モンズの•4 つのケースを 6 つに拡大して一般化したものである。 David Solo mons,  op.  cit.,  p. 125; R. T.  Parker and G. C.  Harcourt,  op.  cit., p. 17.  (20) 

ここで取替は剥奪直後にただちにおこなわれると仮定されているので,付随費

用は含まれるとしても.取替の遅延による売上の喪失等の追加的損失は含まれ ない。また同時に取替原価は性急な取替による異常な高価格であってはならな

(14)

よりも改善することになり,所有主価値の過大評価を結果する。

しかしながら,残る ( 5 ) と ( 6 ) のケースは全く異る。これらの場合には,正味 実現可能価値も割引硯在価値も共に取替原価よりも低いから,再瀾達は正当 化されない。合理的所有者が失った査産を再び購入することはありそうにな いし,したがって取替原価は無関連である。衰産を失った場合,剥奪された 状態を放爵し,正味実現可能価値か割引現在価値を放棄するのが掴失を最少 限に食い止める方法である。取替が生じえないこれらの場合において,割引 硯在価値の方が正味実現可能価よりも高ければ,上の ( c ) で述べたように,所 有者は当該資産を保有又は利用しつづげることを計画していたはずであり,

したがってこの所有主の選択が前提できるかぎり,彼の被った剥奪による損 失は割引現在価値であると主張できる。 ( 5 ) のケースでは取替原価も正味実現 可能価値も所有者の選択するであろう行動のコースにかかわるものでなく,

割引硯在価値だけが現実に生じうる情況を最もよく表わしうるのである。ま た,正味実硯可能価値が割引視在価値よりも高く取替原価よりも低い( 6 )のケ ースでは,取替原価のみならず割引現在価値も所有主価値の尺度とはなりえ ない。このような情況においては,所有者はできるだけ早い機会に販売又は 処分することを以前から計画していたはずであるから,剥奪によって被る彼 の損失は正味実硯可能価値であるといいえよう。

それゆえ,所有者の選択がそのときどぎの価格ないし価値だけにもとづい ておこなわれしかもそのパクーンが先に示した通りだとすれば,われわれは 具体的な評価のルールを示すことが可能である。剥奪された資産の再調達が 正当化されるという大多数の場合にはすべて取替原価が採用されなければな らないが, 「資産がその取替原価には値しない時には,所有者がいまそれを 売るであろうかそれともそれを利用のために保持するであろうかを問わなけ

(21) 

ればならない。」正味実視可能価値が割弓

l

硯在価値よりも高ければ所有者は 売るであろうし,反対ならば保持するであろうから,取替に値しない湯合に はこれら

2

つの払出価格のうちヨリ高い方が所有主価値である。それゆえ,

(21)  W. T.  Baxter, op. cit.,  p.131. 

(15)

所有主価値とカレント・コスト会計(岡部) (

245)67 

所有主価値の概念にしたがったときその評価の一般的な

J

レールは結論的には 次のようになる。 「会社にとってのある査産の価値は,次の梢況の場合を除 き,それの償却股控除後の現在取替原価(硯在購入価格)である。ただし償却 毀控除後の現在取替原価が『経済価値』と正味実現可能価値の両方よりも謀 い均合,会社にとっての汽産の価値は『経済価値』か正味実現可能価値のう

(22) 

ちいずれか麻い方である。」と。

11I 

所有主価値の測定

ところで,以上のようにして構成される所有主価値の理論には,人も指摘 するように,数多くの問題点が含まれていることは明らかである。剥蒋価値 の概念にしても所有主の行動仮説にしても,時価主義の採択を十分に正当化 する内容のものであるかどうかにはなお疑問が残る。しかしながら,上の評 価のルールに示されている結論だけからしてもこの所有主価値に基づく会計 システムの基本的特徴は既に明示されているように思われる。非貨幣資産の 評価にあたり原則として取替原価基準を適用しようとするのがその基本的な

(23) 

考え方であり,この点に関しては,エドワーズ・ベル, AAA 等の提案とさ して異なるところはみられない。ただ,例外的に,取替原価に代えて正味実 硯可能価値や割引現在価値を用いる点に差異がみられるにすぎない。そこ

(22)  Sandilands Report,  para.  219.

なおここに「経済価値」

(economic value) 

とはいうまでもなく割引現在価値を意味する。

(23)  E. 0.  Edwards and P. W. Bell,  op.  cit.,  American Accounting  Associa tion,  Committee on Concept and StandardsLonglived Assets;  "Accou‑

nting for Land,  Building and Equipment," Accounting Review, July 1964,  pp. 63999.  Committee on Concepts and StandardsInventory Measure‑

ment,''A Discussion of  Various Approaches to Inventory Measurement," 

Account

g Review,  July  1964,  pp. 70014.  Committee  to  Prepare  A  Statement of Basic Accounting Theory,  A Statement of Basic  Account ing Theory (American Accounting Association,  1966). 

参照

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