• 検索結果がありません。

論文提出者

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "論文提出者 "

Copied!
9
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

首都大学東京大学院 人文科学研究科 人間科学専攻 日本語教育学教室 博士論文(課程博士)審査要旨

論文提出者

けい

論文題目

中国人日本語学習者における日本語母音 の知覚と産出に関する研究

審査委員 主査 首都大学東京 人文科学研究科 教授 浅川 哲也

副査 首都大学東京 人文科学研究科 教授 西郡 仁朗

副査 首都大学東京 人文科学研究科 教授 長谷川守寿

(2)

本論文の目次

第一部 序論

第1章 本研究の概要 第2章 先行研究 第二部 本論

第3章 日本語母音/a//e/の知覚における後続音の調査 第4章 日本語母音/a//e/の産出における後続音の調査 第5章 日本語母音/a//e/の知覚における先行子音の調査

第6章 日本語母音/a//e/の産出における先行子音の調査及び中国語漢字音の影響 第7章 学習者による日本語母音/a//e/の知覚と産出の相関関係

第8章 日本語母音/a//e/の知覚混同におけるアクセントの関与 第9章 日本語母音/i//e/の知覚と産出における後続音の調査 第

10

章 日本語母音/i//e/の知覚と産出における先行子音の調査 第

11

章 日本語母音/u//e/の知覚と産出について

第三部 結論

12

章 本研究から日本語教育への応用 添付資料・参考文献

論文要旨

1.本論文の研究目的と研究方法

本論文の提出者である李恵氏(以下、論文提出者)は、中国の高等教育機関に在籍する 日本語教師であり、長らく教育現場において日本語教育に携わってきた。その経験上から、

カリキュラムにおいて発音指導などの音声教育はあまり重点が置かれることがなく、語彙 教育や文法教育に比較して教育方法論が遅れているように感じたという。

特に、日本語の「いちばん」を「いちべん」 、 「にせんえん」を「にさんえん」 、 「かなが わけん」を「かながわきん」とするように、誤って産出する音声上の混乱のために、日本 語学習全般において、中国語を母語とする日本語学習者(以下、学習者)の学習態度が消 極的になってしまうケースも見られたという。

音声教育においては、母音が発音の基礎となるが、中国語の母音が単母音・複母音・鼻

母音を併せると

30

種類以上を数えるのに対して、日本語母音は五つしかないため、習得

が容易だと誤解される事例が多く見られる。また、発音の混同などにより全ての単語の発

音が問題になってくるため、重要な課題となっている。これまで、学習者による日本語音

声の研究は主に音声に焦点を当て、母音・子音・特殊拍・アクセントなどについて、多数

(3)

の研究成果が報告されてきた。一方、日本語母音の習得に関しては、これまであまり重点 が置かれていなかったと論文提出者は考えている。

また、日本語母音の/e/は、国際音声記号では[e]に当たるが、中国語共通語(普通話) には[e]がないため、中国語の母音“e”

([ɤ])、([ə])や二重母音“ai”

([ai]) 、 “ei” ([ei])

などに置き換えて発音する学習者が少なくない。中国語の二重母音が

1

音節であるため、

ピンインを代用して発音しやすいのかもしれない。従って、母語話者にはこのような学習 者の発音が/a/か/i/か/u/のように聞こえたり、発音が不自然で意思が伝わらなかったり といったコミュニケーション上の問題が起こりうるとする。

さらに、日本語母音/e/における学習者の発音の混同は、中国語母語の影響を受けやす い初級学習者のみにみられる現象ではなく、超上級の学習者においても、「ゼミ」/zemi/

を「ザイミ」/zaimi/、「ざいさん(財産)」/zaisaN/を「ぜいさん」/zeisaN/と発音して しまう学習者が多く観察される。これは中間言語の特徴である「化石化(学習者が目標言 語の規則を過度に一般化すること) 」という現象であると考えられる。ただし、学習者自 身は自分の発音が不自然であることを意識していないという。

そこで、本論文は、学習者をインフォーマントとして、日本語母音の知覚と産出の実験 を行い、そのメカニズムを分析することによって、学習者による日本語の母音/e/と、

/a//i//u/の知覚と産出の問題点を明らかにすることを目的としている。

また、論文提出者は中国国内で日本語教育を行った際に、学習者における日本語母音

/a//e/の混同が目立つことに気づき、/e/と/i//u/の混同と、/a//e/の混同について調査

し、この現象について日本語音声のフォルマントを示すなど客観的な調査方法によって実 証しようとしているものである。

2.本論文の概要

本論文は、全

12

章であり、序論、本論、結論の三部構成からなる。

序論は、第

1

章から第

2

章である。本研究の前提となる研究の背景、先行研究につい て述べている。本論は、第

3

章から第

11

章で構成されている。日本語母音/a//e/による 知覚・産出調査(第

3

章~第

8

章)と、日本語母音/e//i/の知覚・産出調査(第

9

章、第

10

章)と日本語母音/e//u/の知覚・産出調査(第

11

章)について分析し、日本語母音/e/に対 する学習者の知覚と産出混同を明らかにしている。

1

章では、学習者における日本語母音の混同の実態がどのようなものであるかについ

てアンケート調査によってデータを収集し分析している。その結果、学習者も日本語教師

も日本語母音についての発音上の問題意識を有している人が必ずしも多くないことがわ

かった。さらに、日本語教科書の検討も行っている。中国及び日本で市販されている日本

語の発音教材、および、中国語における日本語の発音教材において、論文提出者が本論文

の結論で明確に指摘している母音/e/の混同に関する情報を採りあげているものも少ない

ことを指摘している。つまり、日本語教育の現状において、学習者の母音/e/の混同の問

(4)

題が気付かれにくいにくい状況であることを明らかにしている。また、母音/e/の問題を 指摘する一部の教材では、混同が生じやすい音環境についての考慮がされておらず、また、

混同の理由についてもほとんど言及されていないことを明らかにしている。

2

章では、日中両言語の母音を、音声学・音韻論、音節構造、音響音声学、第二言語 習得論の観点から整理し、そのうえで、学習者による日本語母音の混同現象についての先 行研究を概観している。

3

章では、58 名の学習者をインフォーマントとした知覚調査を通じて、日本語母音

/a//e/の混同について考察している。その結果、母音/a/を/e/とする誤りと、/e/を/a/

とする誤りのどちらも生じており、双方向の混同が見られることを明らかにしている。知 覚において、音環境は日本語母音/a//e/の混同に影響を与えるという。特に撥音および連 母音が後続する場合に混同が多く見られ、連母音の場合は後続母音/i/の場合が混同しや すいことが明らかにしている。なお、語内の位置は日本語母音/a//e/の混同に影響を与え ないこと、学習レベルによって混同率に差があること、初級学習者は中級・上級学習者よ り日本語母音/a//e/の混同が生じやすいことを明らかにしている。また、上級学習者の場 合、このような混同を拡大して、音環境の影響がなくなる現象も観察されたという。さら に、学習者の母方言が母音/a//e/の混同に影響を与える可能性があり、北方方言を母方言 とする学習者にはこのような知覚混同が多く見られたとする。

4

章では、58 名の学習者に対する産出調査を通じて、日本語母音/a//e/の混同につ いて考察した。母音/a/を/e/とする誤りと、/e/を/a/とする誤りのどちらも生じており、

双方向の混同が見られることを明らかにしている。産出において、音環境は日本語母音

/a//e/の混同に影響を与えることがわかったという。撥音および連母音が後続する場合に

混同が多く見られ、連母音の場合は/i/の方が混同しやすいことを明らかにしている。な お、語内位置は日本語母音/a//e/の混同に影響を与えないこと、学習レベルによって混同 率に差があること、初級学習者は中級・上級学習者より日本語母音/a//e/の混同を起こし やすいこと、混同が多かった学習者が産出した/a//e/のフォルマントの分布はかなり重な っていること、混同が見られない学習者においても、日本語母語話者より/a//e/のフォル マントが近接していることを明らかにしている。また、舌の高さが/a//e/の混同に影響が 大きいことが観察され、知覚調査と同様、母方言が日本語母音/a//e/の混同に影響を与え ることが確認されたという。北方方言を母方言とする学習者には産出の混同も多く見られ たという。

5

章では、先行子音が異なる音環境が日本語母音/a//e/の混同に影響を及ぼすかにつ いて明らかにするため、29 名の学習者に知覚調査を行っている。その結果、学習者は/a/

を/e/にする誤りのほうが多かったが、有意な差が見られず、/ai//aN//ei//eN/の差はな

いことが確認されたという。単語別からみると、

/a/を/e/とする誤りでは、「財産」「暫

定」 「三杯」の混同数が多く、/e/を/a/とする誤りでは、「経験」の混同数が多いことを

明らかにした。また、個人別に見ると、同じ遼寧省出身でも、必ずしも/a//e/の混同を生

(5)

じるとは限らず、知覚調査において、先行する子音が破擦有声歯茎音/dz/の場合、混同率 が最も高いことを明らかにした。その理由の

1

つとして、日本語の子音に対応している中 国語の子音の数が多ければ多いほど、混同しやすい傾向があるのではないかということ、

また、破擦有声歯茎音/dz/は、口腔内が最も狭くなるためではないかという指摘をしてい る。

6

章では、日本語母音/a//e/の混同に子音種及び中国語の漢字音の影響を及ぼすかに ついて明らかにするため、29 名の学習者に産出調査を行った。その結果、学習者は/e/を

/a/に産出しやすいことが確認され、/ai//aN//eN//ei/のうち、/ei/の有標性が高いこと

を明らかにした。また、単語別からみると、/a/を/e/とする誤りにおいては、「暫定」に

「ぜんてい」の混同が多く見られ、一方、/e/を/a/とする誤りでは、「生産」を「さいさ ん」 、 「経験」を「かいかん」、 「見解」を「かんかい」、 「定型」を「たいかい」と産出する などの混同が多く見られたという。また、発音がよくできる人とそうではない人に分けら れ、個人差があることも確認している。これに加えて、先行する子音が破擦有声歯茎音/dz/

の場合、

/a//e/の混同が最も生じやすいことが観察され、漢字音はこのような混同に影響

を与えないことを明らかにしている。

7

章では、学習者による日本語母音/a//e/の知覚と産出調査によって、後続音と先行 子音といった音環境別の知覚と産出の特徴をまとめている。後続音の音環境においては、

知覚と産出の差異が殆どみられなかったが、相違点としては、知覚において、化石化され た上級学習者には音環境の影響がなくなる現象が見られたという。また、学習者には知覚 と産出の正の相関が強いことが観察され、学習者が産出面で混同しやすい場合、知覚面で も混同しやすいという。先行子音の音環境においては、知覚と産出の差異が大きく、一致 している結果としては、知覚においても、産出においても、混同率の上位三位が/dz/>/s/

>/k/であること、相違点としては、学習者は/a//e/のどちらも知覚しやすいが、

/e/を/a/

に産出しやすいことが確認できるという。つまり、学習者の知覚混同の差異は見られない が、産出混同の差異は大きいということを明らかにしている。語頭子音別に後続する

/i//N/の知覚混同の差異はないが、産出混同には/ei/の有標性が高いということである。

また、歯茎有声鼻音/n/の場合、産出より知覚において学習者は/a//e/の混同が生じやす く、後続音とは異なり、先行子音には学習者の知覚と産出の相関が見られなかったとする。

8

章では、中国華北東北方言話者

29

名における日本語母音/a//e/の知覚において、

アクセント、語内位置、

/a//e/の位置、/i//N/の位置の影響を与えるかについて考察して

いる。その上で、要因間の相互作用について検討している。その結果、アクセント型にお いて、頭高型

1

が比較的容易に知覚できているが、中高型

3

が/a//e/の知覚が困難である という傾向が見られたという。これによりアクセント型が知覚しにくい場合、母音の混同 も生じやすいと考えられる。また、

/a//e/の位置と語内位置との相互作用のもとで、/a//e/

の知覚に影響を与えている。1 拍目と

3

拍目の母音が異なる場合、母音/a/が語内位置の

どちらかにあると、混同が生じやすかった。

/i//N/の位置と語内位置との相互作用のもと

(6)

で、

/a//e/の知覚に影響を与えており、/-N-i/の場合、語中のほうが語頭より知覚しやす

いことが確認できた。また、母音と連母音/i/がどちらかに位置すると、混同が生じやす い こ と が わ か っ た 。

/a//e/

の 位 置 に よ る

/i//N/

の 位 置 の 影 響 に つ い て は 、

/aiai//aian//aien//anai/という四つのパターンに混同が生じやすいことを確認してい

る。

9

章では、後続音による日本語母音/i//e/の混同を明らかにするため、44 名の学習 者に知覚調査と産出調査を行っている。まず、後続音の結果から、産出調査と知覚調査の 共通性が見られた。産出調査においても知覚調査においても、基本的に/e/を/i/とする誤 りが多いことが見られた。特殊拍の場合、撥音が後続すると、母音/i//e/の知覚混同と産 出混同がどちらも生じやすいことを明らかにしている。学習歴は混同の要因になっている が、語中位置は混同に影響を与えなかった。しかし、全体の結果から、音環境において、

連母音の場合、

/a//o/が後続すると、母音/i//e/の知覚混同が生じやすいが、/a/、/i/・

/e/、/u/、/o/の間の産出には差異がないことを確認している。要するに、学習者による

日本語母音/i//e/の知覚混同には、後続撥音と連母音/a//o/の影響が見られるものの、産 出混同は、後続撥音しか影響を与えていないとする。学習歴による後続音の結果から、1 年生と

2

年生の間では知覚差異がないが、

1

年生がより日本語母音/i//e/の産出混同が生 じやすいことがわかった。学習歴による音環境の影響について、知覚において、特殊拍の 場合、1 年生は撥音・長音が後続すると、日本語母音/i//e/の混同が起こりやすい。2 年 生は撥音による混同が最も起こりやすい。連母音の場合、2 年生は母音/i//e/と母音

/a//o/が連続で現れる場合、混同が生じやすいが、1

年生は連母音/a//o/に限らず、その

他の連母音でも混同が生じやすいことを明らかにした。産出において、

1

年生と

2

年生は 同様に撥音が後続すると、日本語母音/i//e/の混同が起こりやすく、連母音の場合、学習 歴と関係せず、どの連母音でも混同が生じやすいことを明らかにした。また、学習者の知 覚得点と産出得点に相関が認められた。学習者は産出面で混同しやすい場合、知覚面でも 混同しやすいことが確認された。さらに、モーラ数は学習者の日本語母音/i//e/の知覚混 同に影響を与え、

4

モーラ語と

3

モーラ語の場合、

/i//e/の知覚混同が生じやすいものの、

産出混同に影響を与えないこと、フォルマントの結果によると、母語話者の/i//e/のフォ ルマントも接近しているため、学習者が/i//e/の混同が生じやすいことが観察され、また、

舌の前後の位置が/i//e/の混同に影響が大きいことがわかった。

10

章では、

44

名の学習者に先行子音による日本語母音/i//e/の知覚調査と産出調査 を行っている。その結果、知覚において、調音位置×/i//e/の混同の相互作用が見られた とする。また、軟口蓋破裂音/k//g/の場合、日本語の/e/を/i/とする誤りが一番生じやす いことを明らかにしている。しかし、

/i/を/e/とする誤りには先行子音別の差が見られず、

学習歴と無関係で、先行子音による/i//e/の知覚混同は差異がないということを確認して

いる。産出においても、軟口蓋破裂音/k//g/の場合、日本語の/e/を/i/とする誤りが一番

生じやすいことを明らかにしている。しかし、

/i/を/e/とする誤りには先行子音別の差が

(7)

見られず、1 年生は先行子音による/i//e/の混同の差異がないが、2 年生は先行子音によ る/e/を/i/とする誤りのほうが生じやすいことが確認できた。先行子音による日本語母音

/i//e/の知覚と産出の間に相関が見られなかった。学習者は産出面で混同しやすくても、

知覚面でも混同しやすいとは言えないことが確認された。

11

章では

44

名の学習者に日本語母音/u//e/の知覚調査と産出調査を行った。その結 果、先行子音による/u//e/の結果から、知覚においても、産出においても、学習者が日本 語母音/u/を/e/とする誤りと、

/e/を/u/とする誤りとは双方向の関係であるという。子音

の結果から、知覚において調音方法と調音位置にはそれぞれの主効果が見られたとする。

破擦歯茎音/dz/・摩擦歯茎音/s/の場合、日本語母音/u//e/の混同が生じやすいことを明 らかにしている。産出において、調音位置×調音方法の相互作用に有意差が見られた。ま た、摩擦歯茎音/s/、破擦歯茎音/dz/、両唇破裂音/p//b/の場合、日本語母音/u//e/の混 同が最も生じやすいことがわかった。学習歴からみると、知覚の場合、学習歴と関係せず

、先行子音による/u//e/の知覚混同は差異がないこと、産出において

2

年生は先行子音に よる/u//e/の混同の差異がないが、

1

年生は先行子音による/e/を/u/とする誤りのほうが 生じやすいことを確認している。また、先行子音による知覚と産出の相関関係は見られず

、フォルマントの結果から学習者が産出したフォルマントには多少の重なりが見られるこ と、母音/i//e/の混同と同様に、舌の高さよりも、舌の前後の位置の要素の方が/u//e/

の混同において影響が大きいことを明らかにしている。

12

章は、本論文全体の結論である。各章において得られた結果を整理し、総括して、

日本語教育における音声教育への示唆について記述している。

審査要旨

1.本論文の構成

本論文は、全三部・全

12

章の章立てから成る。第

1

部は全

2

章の問題の所在と先行研 究および本論文の構成の説明、第

2

部は全

9

章の共時論的な研究成果、第

3

部は全

1

章で 本論文全体の総括となっている。

なお、本論文のうち、4 章分は、既に査読付き学術雑誌(日本国外の学術雑誌を含む)

に投稿して採択され、学術論文として公刊されたものを元としている。

2.本論文のもつ研究的意義

中国語を母語とする日本語学習者を対象とする日本語教育の現場では、日本語の音声指 導において、日本語・中国語両言語の音声の相違点や、それぞれの言語の母音の特徴を学 習者に理解させることが重要である。

本論文は、論文提出者の日本語教師としての臨床的な経験から、学習者における日本語

(8)

母音/e/の混同の問題に着目し、これまで理論的にはあまり言及されることがなく、また、

日本語教科書にもわずかな記述しかされていないこの問題について、知覚調査と産出調査 という方法を用いて、学習者による日本語母音/e/の知覚と産出の過程を実証的に明らか にすることによって、指導者としての教師と学習者の双方の日本語母音に対する注意意識 を喚起し、効果的な指導のための基礎的なデータを得ることを目的としている。

具体的には、学習者における日本語母音/e/の知覚と産出を実験によって計測し、後続 音・先行子音・モーラ数・語中位置・学習レベル・漢字音・アクセントなどの要因がその 混同にどのような影響を与えているかについて統計的な分析によって考察している。また、

音響音声学として、学習者の産出する日本語母音をフォルマント図によって視覚化・数値 化している。これらの実験結果は、日本語教育の現場における母音に関する教育方法の検 討が行われる基盤となる実証的なデータとなりうるものであり、また、本論文は、今後の 日本語教育の臨床的な場面における音声教育への方法論的な提言もしている。

このように、日本語教育現場において、いまだ注目されているとはいえない日本語母音

/e/の学習者における知覚調査と産出調査を行い、実証的な調査結果を得ているというこ

とことは非常に重要であり、本論文の意義もそこにあると考えられる。

3.審査結果

2020

1

16

日(木)に博士論文公開審査会が行われ、論文提出者と審査委員との間で

詳細な質疑応答が行われた。審査委員からは、以下に示すとおり、本論文に対して多角的 な観点からさまざまな質問や意見が提出された。

実験のインフォーマントである中国語を母語とする日本語学習者に対してモーラ別の 知覚実験を行っているが、学習者は日本語のモーラを認識できているのか。

現代中国語の表記に用いられる拼音がローマ字表記であるために、中国語母語話者の側 に拼音を発音記号であるかのように錯覚する傾向があるのではないか。

本論文中で示されているデータは統計処理をした後の数値のみであって、実験段階で得 られた第一次データとしての全体的な数値が示されていないなど、結果の示し方や数値の 扱い方に問題があるのではないかとの指摘もなされた。

本論文では未調査とされる問題点がいくつかあり、学習者において、日本語母音/a//i/

のどちらかがより混同しやすいかについては、学習者のインフォーマントとしての一貫性 を保持して調査を継続する必要があると考えられること、また、学習者の日本語母音の習 得過程についても実証的な方法によって解明される必要があるという指摘もされた。

論文提出者からは、審査委員からのそれぞれの質問に対して真摯に回答がなされた。ま た、審査委員からの本論文に対する意見や改善点の要望には、論文提出者にとって今後の 検討課題とすべきものもあり、それらの点については、むしろ、本論文のもつ研究上の実 証性や、今後の研究の発展性を示すものとして捉えることができるものと考えられる。

本論文中にある、先行する子音が破擦音の場合、中国語母語話者にとって/a/と/e/の変

(9)

換が困難になるという指摘は新しい知見である。また、中国語母語話者の日本語音声知覚 の問題については見事にまとめられており、それぞれの実験調査において詳細なデータが とられていて、分散分析や多重比較など適切な分析方法がとられている点が高く評価され た。

公開審査において、詳細な内容での質疑応答が行われた結果、論文提出者の李恵氏は、

明確な研究意識のもとに本論文を執筆していることが明確となった。また、本論文とその 研究成果は、日本語教育学の音声教育の研究分野における先行研究の成果を、方法論的な 面において凌駕するものであり、特に、本論文の第二部での研究内容は、音声学の調査方 法を用いた実証的な研究成果であって、この研究分野に新たな知見を加え、今後のこの分 野での研究に大きく寄与する研究成果であるものと評価できる。

本論文に対するこの評価に審査委員一同の意見が一致した。

以上により、本論文の提出者である李恵氏は、博士(日本語教育学)の学位を授与せら

れる資格があるものと認められる。

参照

関連したドキュメント

母体免疫活性化 MIA は胎児の神経発達に影響を及ぼし、自閉症様行動を始めとする行 動異常の誘因となると考えられている。近年、マウスに

急成長企業が失敗する原因として 5

れ 23 %、 34 %抑制した。 EB13 、 EB53 、 EB87

(48 時間以上)に血中カルシウムを上昇させた。また、LA-PTH の反復 4 週間投与では、1.8 nmol/kg において、血中カルシウムを治療領域(約

第一章では、アトピー性皮膚炎モデルである NC/Tnd マウスを用いて、皮膚の痒みおよ

本研究では、 in vitro 及び in vivo の両面から IS の骨代謝への影響について検討し、 IS

solaris タンパク質に由来 する輸送ペプチドと GFP

 ここでは日本語からの借用語にたいして英語という