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論文提出者: 孟モウ 盈エイ

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Academic year: 2021

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(1)

【学位論文審査の要旨】

(2)

首都大学東京人文科学研究科人間科学専攻 日本語教育学教室 学位論文審査要旨(課程博士)

論文提出者: 孟

モウ

エイ

論文題目:

中国語を母語とする日本語学習者における 単漢字和語動詞の習得研究

審査委員

主査:首都大学東京 奥野 由紀子 准教授

副査:首都大学東京 長谷川 守寿 教授

副査:一橋大学 庵功雄 教授

(3)

本論文の目次

第1章 序論 ... 1

1.1 研究背景と研究目的 ... 1

1.2 研究対象 ... 3

1.2.1 中国語を母語とする日本語学習者とインドネシア語を母語とする日本語学習者 ... 3

1.2.2 CJLにおける上位群と下位群 ... 5

1.3 研究方法 ... 5

1.4 本研究の構成 ... 8

第2章 先行研究の概観... 11

2.1 言語間類似性 ... 11

2.1.1 言語間類似性(Cross-linguistic Similarity)の重要性... 11

2.1.2 客観的言語間類似性と知覚的言語間類似性/仮定的言語間類似性 ... 12

2.1.3 理解と産出における語彙の言語間類似性の働き ... 14

2.2 語彙における言語間類似性—同根語(Cognate) ... 16

2.2.1 同根語の定義と促進効果 ... 16

2.2.2 同根関係を持つ日本語漢字表記と中国語漢字 ... 18

2.2.2.1 日本語における漢字 ... 18

2.2.2.2 中国語における漢字 ... 19

2.3 語彙習得におけるL1の影響 ... 21

2.3.1 L1の影響の変遷 ... 22

2.3.2 単語処理におけるL1の影響 ... 23

2.3.2.1 改訂階層モデル(The Revised Hierarchical Model) ... 24

2.3.2.2 分散語彙・概念素性モデル(The Distributed Lexica/Conceptual Feature Model) ... 25

2.3.2.3 バイリンガル相互活性プラスモデル(The BIA+ Model) ... 26

2.3.3 語彙の誤用から見るL1の影響 ... 27

(4)

2.3.3.1 形態上の転移 ... 28

2.3.3.2 意味上の転移 ... 29

2.4 CJLにおける漢字語彙の習得に関する実証研究 ... 31

2.4.1 CJLにおける二字漢語の習得に関する実証研究 ... 31

2.4.2 漢字表記がCJLの語彙習得に及ぼす影響 ... 33

2.5 まとめ ... 35

第3章 単漢字和語動詞における日中漢字類似性の認識 ... 37

3.1 調査の目的 ... 37

3.2 調査概要 ... 38

3.2.1 調査協力者 ... 38

3.2.2 調査対象語 ... 38

3.2.2.1 日中同形語の選出 ... 39

3.2.2.2 日中同形語における客観的意味類似性の判定 ... 39

3.2.2.3 中国語における語と形態素の判定 ... 41

3.2.3 調査文 ... 43

3.2.4 調査方法 ... 45

3.3 調査結果 ... 46

3.3.1 同形同義語と同形異義語における意味上の知覚類似性の差異 ... 46

3.3.2 中国語の語か形態素による意味上の知覚類似性の差異... 47

3.4 考察 ... 47

3.5 まとめと課題 ... 51

第4章 研究課題と操作的定義 ... 53

4.1 研究課題 ... 53

4.2 操作的定義 ... 54

4.2.1 習得(Acquiared) ... 55

4.2.2 L1の影響(L1 Influence) ... 57

4.2.3 同根関係 ... 59

(5)

4.2.4 日本語習熟度 ... 60

第5章 本研究における分類基準 ... 62

5.1 分類基準 ... 62

5.1.1 産出に基づく分類 ... 64

5.1.2 CJLの漢字知識の活用を反映する分類 ... 64

5.2 分類手続き ... 66

5.2.1 同根か非同根かの判定 ... 67

5.2.2 中国語漢字における語か形態素かの判定 ... 68

第6章 調査方法 ... 70

6.1 出題語彙の選定 ... 70

6.2 調査用テストの作成 ... 73

6.2.1 産出テスト ... 73

6.2.2 理解テスト ... 76

6.3 調査の実施 ... 78

第7章 単漢字和語動詞の習得における日中漢字類似性の影響 ... 79

7.1 調査の目的と概要 ... 79

7.2 調査協力者 ... 79

7.3 結果と考察 ... 80

7.3.1 産出テストの結果と考察 ... 80

7.3.1.1 産出テストの正答率に関する結果と考察 ... 82

7.3.1.2 産出テストの誤答に関する結果と考察 ... 84

7.3.2 理解テストにおける結果と考察 ... 89

7.3.2.1 理解テストの正答率に関する結果と考察 ... 89

7.3.2.2 理解テストにおける正答率異常値の結果と考察 ... 93

7.3.3 単漢字和語動詞における理解語彙の産出難易度 ... 96

7.4 まとめと課題 ... 98

第8章 単漢字和語動詞の習得における習熟度の影響 ... 99

(6)

8.1 調査の目的と概要 ... 99

8.2 調査協力者 ... 99

8.3 結果と考察 ... 100

8.3.1 産出テストの結果と考察 ... 100

8.3.1.1 産出テストの正答率に関する結果と考察 ... 100

8.3.1.2 産出テストの誤答に関する結果と考察 ... 103

8.3.2 理解テストにおける結果と考察 ... 109

8.3.3 単漢字和語動詞における理解語彙の産出難易度 ... 111

8.4 まとめと課題 ... 113

第9章 結論 ... 114

9.1 本研究の要約 ... 114

9.2 本研究の意義 ... 118

9.2.1 単漢字和語動詞に焦点を当てる習得研究 ... 118

9.2.2 非漢字圏話者との比較によるL1の影響の検証 ... 119

9.3 教育的示唆 ... 120

9.4 本研究の限界と今後の課題 ... 122

参考文献 ... 125

付録 ... 135

資料1 単漢字和語動詞における日中漢字類似性の意識調査 ... 135

資料2 意識調査用翻訳課題 ... 139

資料3 JNSとCNSにおける産出テストの回答状況 ... 142

資料4 産出テスト ... 144

資料5 理解テスト ... 155

資料6 産出テストにおけるCJLとIJLの正答率 ... 158

資料7 産出テストにおけるCJL下位群と上位群の誤答 ... 159

資料8 理解テストにおけるCJLとIJLの正答率 ... 163

(7)

資料9 理解テストにおけるCJLとIJLの誤答 ... 164

資料10 産出テストにおけるCJL下位群と上位群の正答率 ... 169

資料11 産出テストにおけるCJL下位群と上位群の誤答 ... 170

資料12 理解テストにおける下位群と上位群の正答率 ... 173

資料13 理解テストにおけるCJLの下位群と上位群の誤答 ... 174

謝 辞 ... 177

(8)

論文要旨

中国語と日本語の語族は異なるが、漢字という共通の文字表記体系を使用しており、中日 辞典において、中国語の語幹・語基を利用した借用語は日本語の50%以上を占めている(松 見他, 2006)。日本語においては、漢語のほか、和語でも漢字一字で表記される語が多い(例 えば、「植える」)。和語を漢字で表記することは、漢文訓読で、古代中国語の漢字と同義の 和語をあて、その漢字を和語で読むことからである。そのため、現代でも同じ漢字で表記さ れる日本語と中国語において、意味上に類似しているものが多い。また、中国語における漢 字表記は表形態素音節文字(morpho-syllabogram)と呼ばれ、一文字でも意味は表せる。以 上のような類似性から、単漢字表記和語動詞の学習においては、中国語を母語とする日本語 学習者(以下、CJLとする)は日中漢字の類似性を認識し、中国語の漢字知識を活かす可能 性があると考えられる。

一方、現代中国語において、漢字一文字は語のほか、単語造語成分である形態素としての み存在し、一部の漢字の字義が曖昧になっている。CJLでもはっきりと理解できない場合も あり、中国語の形態素知識が単漢字表記和語動詞の習得に繋がらない可能性が考えられる。

つまり、中国語における漢字が語か形態素のいずれを表すかによって、CJLの単漢字和語動 詞の学習において、中国語の漢字知識を活かす程度も異なる可能性がある。

本研究では単漢字和語動詞に焦点を置き、CJLを対象に、インドネシア語を母語とする日 本語学習者(以下、IJL)との比較を通して、産出、理解、理解語彙の産出難易度という3つの 側面から、L1漢字知識が単漢字和語動詞の習得にもたらす影響を検証した。さらに、CJLの 単漢字和語動詞の習得におけるL1漢字知識の影響が日本語の習熟度に伴う変容も明らかと なった。

本研究は9つの章から構成され、以下では各章の内容をまとめる。

第1章では、言語間類似性の観点から、単漢字和語動詞における漢字表記と中国語の漢字 との類似性を示し、CJLの漢字語彙におけるL1漢字知識の影響を明らかにするため、単漢 字和語動詞に焦点を当てる必要性を指摘した上で、理解と産出から研究する必要性も述べ ている。また、L1影響研究の方法論を述べ、本研究の研究対象と研究方法を提示している。

第2章では、本論文の理論的背景およびCJLの漢字語彙の習得研究について述べている。

まず、言語間類似性の理論的背景を述べ、単漢字和語動詞の漢字表記と中国語漢字の形態的 類似性と意味的類似性を示している。また、心理言語学と語彙転移の観点から語彙の貯蔵、

理解、産出におけるL1の影響を述べ、日中漢字の類似性がCJLの単漢字和語動詞の理解や 産出に影響を及ぼす可能性を指摘している。また、漢字語彙の習得研究を整理し、CJLの単 漢字語彙における習得研究の成果をまとめた上で、漢字語彙の習得研究は二字漢字語彙に 関する研究が圧倒的に多く、単漢字語彙に関する習得研究が少ない現状を指摘している。

第3章では、第2章で指摘した日中漢字類似性がCJLの単漢字和語動詞の習得に影響を 及ぼす可能性を探り、さらに中国語漢字が表すのが語か形態素かによって CJL の日中漢字

(9)

類似性への認識度に違いがあるかを明らかにするため、意識調査を行った。中国にある大学 で日本語を専攻とする2年生72名を対象に、単漢字和語動詞を含んだ短文と中国語の同形 漢字をセットで提示し、4段階(1 まったく類似していない;2 類似しているが、強くない;

3比較的に類似している;4 非常に類似している)で意味類似性を測った。その結果、CJL は単漢字で表記される和語動詞において、日中同形漢字の意味的類似性を認識できること が明らかとなり、CJLは単漢字和語動詞を学習する際、中国語の漢字知識を援用する可能性 も示された。また、日中同形漢字に対する意味的類似性の認識度は、中国語において語なの か形態素なのかが影響していることも分かった。中国語の漢字が形態素の場合、日中同形漢 字が客観的に意味上に類似しているものの、CJLは語ほど意味的類似性を認識していないた め、単漢字和語動詞の習得を検討する際、中国語における語か形態素かによる違いも習得を 影響する要因として考える必要性を指摘している。

第4章では、CJLの単漢字和語動詞の習得におけるL1漢字知識の影響とそれがL2習熟 度に伴う変容を明らかにするため、以下の6つの研究課題を設けている。また、本論文にお ける重要な用語の操作的定義を提示している。

研究課題1 CJLにおける単漢字和語動詞の産出は語彙カテゴリーによって異なるか。そ れはIJLの産出とどう異なるか。

研究課題2 CJLにおける単漢字和語動詞の理解は語彙カテゴリーによって異なるか。そ れはIJLの理解とどう異なるか。

研究課題3 理解されている単漢字和語動詞を、CJLはIJLより容易に産出するか。語彙 カテゴリーによって異なるか。

研究課題 4 単漢字和語動詞の産出は CJL の習熟度によって異なるか。それは語彙カテ ゴリーによってどう異なるか。

研究課題 5 単漢字和語動詞の理解は CJL の習熟度によって異なるか。それは語彙カテ ゴリーによってどう異なるか。

研究課題6 理解されている単漢字和語動詞は、習熟度が上がるにつれ、容易に産出され るか。語彙カテゴリーによってどう異なるか。

第5章では、本論文における単漢字表記和語動詞の分類を提示している。本論文は単漢字 表記和語動詞の産出にCJLのL1漢字知識による影響を検討するため、従来の理解に焦点を 当てる日中語彙の分類と異なり、産出過程とCJLのL1漢字知識の活用という二点を考慮し 分類を行った。すなわち、日本語の単漢字和語動詞と中国語の漢字との対応関係を「同形語」、

「同形形態素」、「非同形漢字」に分類した。

第6章では、第5章の分類に基づく出題語彙の選定基準、調査文の作成方法、調査の形式 と実施など調査方法に関する内容を示している。調査票は絵つき空所補充課題である産出 テストと日本語から中国語への翻訳課題である理解テストから構成されている。出題語彙 は、調査協力者の既習語彙から、日中漢字の客観的類似性と CJL が認識する日中漢字の類 似性に基づき選定を行った。調査文はコーパスの用例に基づき、学習者のL2知識を考慮し

(10)

た作例であった。産出テストに用いる絵と例文の妥当性について、日本語母語話者と中国語 母語話者によって検証を行った。

第 7章では、単漢字和語動詞の習得におけるL1漢字知識の影響を明らかにするために、

日本語習熟度が同程度であるCJL とIJL を対象に、産出テストと理解テストを用いて、産 出、理解、理解語彙の産出難易度におけるL1漢字知識の影響を検討した。産出テストでは、

各語彙カテゴリーにおいて、CJLとIJLを比較すると、「同根語」と「同根形態素」におい て、CJL はIJLより、高い産出正答率を示した一方、「非同根漢字」においてはCJL とIJL に有意差が見られなかった。これはL2語彙の産出過程において、L1語彙も同時に活性化さ れ、「同根語」と「同根形態素」タイプの単漢字和語動詞では、活性化されたL1漢字と日本 語漢字表記に形態も類似しているため、促進効果が生じる。一方、「非同根漢字」の産出過 程においては、L1 語彙が活性化されても、日本語の漢字表記と異なるため、形態上の類似 性による促進効果が機能せず、IJL との差がなかったことが推察された。CJL では、「同根 語」と「同根形態素」は「非同根漢字」より、産出正答率が高い一方、IJLでは、語彙カテ ゴリー間に差がなかった。このことから、CJL では、L1と同義関係をもつ単漢字和語動詞 はL1漢字と形態上に類似していれば、形態的類似性を持たないものより正確に産出される が、IJLでは、表記上に類似性がないため、語彙カテゴリーによる差がなかったと考えられ る。つまり、L1漢字知識はCJLの単漢字和語動詞の産出に影響を及ぼし、L1と同根関係を 持つ単漢字和語動詞はより正確に産出される可能性が高いと示唆されている。

理解テストでは、産出とテストと同様に、CJLでは、「同根語」と「同根形態素」は「非 同根漢字」より産出正答率が高い一方、IJLでは、L1漢字知識の影響がないため、どの語彙 カテゴリーにおいても、理解度に差がなかった。また、語彙カテゴリー別にCJLとIJLを比 較した結果、「同根語」と「同根形態素」では、CJLはIJLより理解度が有意に高かったが、

「非同根漢字」では、CJLはIJLより理解度が高い傾向が見られた。語彙カテゴリーによっ て理解度に異なる傾向が示されたのは、類似性による促進効果に違いがあったためである と考えられる。「同根語」と「同根形態素」では日中漢字に形態上でも、意味上でも、類似 性を持っているため、L1漢字知識による正の転移が促される一方、「非同根漢字」では、形 態が類似していても、意味的類似性を持っていないため、表記親近性効果などによってIJL より高い理解度の傾向を示しても、理解度は「同根語」と「同根形態素」には及ばない。つ まり、CJLの単漢字和語動詞の理解において、L1漢字知識による影響があり、L1と同根関 係を持つ単漢字和語動詞はより正確に理解されると言える。ただし、産出と異なり、「非同 根漢字」では、形態上の類似性のみでも、IJLより理解度が高い傾向を示している。

そして、理解語彙の産出難易度について、理解テストでの正答において、産出テストの正 答率をカイ二乗検定で分析を行った。その結果、「同根語」と「同根形態素」において、CJL はIJLより、正答率が高いことが示された。このことから、「同根語」と「同根形態素」で は、単漢字和語動詞が理解された後、L1漢字知識が産出に影響して、IJLより容易に産出で きると推察される。一方、「非同根漢字」では、IJLより、CJLは低い産出正答率であった。

(11)

この結果を研究課題2の結果と総合的に考えると、「非同根漢字」では、理解過程において、

処理上、表記親近性効果や意味推測ストラテジーによって、ある程度理解度を高めるが、産 出過程において、意味上に類似性がないため、L1 漢字知識による影響がなく、意味から形 態へのリンクが弱いと考えられる。つまり、単漢字和語動詞の理解語彙においては、異なる 語彙カテゴリーによって、産出難易度も異なる傾向を示した。「同根語」と「同根形態素」

ではL1漢字知識の影響によってCJLはIJLより容易に産出できるが、「非同根漢字」では CJLはIJLより産出に困難があることを示唆されている。

第8章では、単漢字和語動詞におけるL1漢字知識の影響が日本語の習熟度に伴う変容を 明らかにするため、CJLをSPOTの得点によって下位群と上位群に分け、産出テストと理解 テストを実施した。その結果、産出テストでは、いずれの語彙カテゴリーでも、上位群は下 位群より産出正答率が高くなった。このことから、単漢字和語動詞は語彙カテゴリーにかか わらず、習熟度が上がるにつれ、より正確に産出できると言える。しかし、各習熟度におけ る語彙カテゴリーの産出率の結果、どの習熟度においても、「同根語」と「同根形態素」は

「非同根漢字」より、産出正答率が高かったことが観察された。つまり、「同根語」と「同 根形態素」におけるL1漢字知識は単漢字和語動詞の習得過程に影響し続ける可能性が高い。

「非同根漢字」は習熟度が上がるにつれ、正確に産出される傾向があるが、L1 漢字知識に よる正の転移がないため、「同根語」と「同根形態素」と同程度の正確さに達していないこ とが分かった。

理解テストでは、「同根語」と「同根形態素」は下位群と上位群において理解度の差が見 られなかった。このことから、習熟度にかかわらず、理解度は同程度であることが示された。

これは、「同根語」と「同根形態素」において、L1漢字知識の影響によって、下位群では既 に高度な理解度に達しているためであると考えられる。一方、「非同根漢字」では、習熟度 が上がるにつれ、上位群は下位群より理解度が優れているという結果になった。各習熟度に おける語彙カテゴリーの産出率の結果は産出テストと同様に、どの習熟度においても、「同 根語」と「同根形態素」は「非同根漢字」より理解度が高かったことが観察された。この結 果からも、L1漢字知識の影響によって、「同根語」と「同根形態素」の理解過程に正の転移 が起こり、理解度が高くなっている一方、「非同根漢字」においては、L1漢字知識の促進効 果がないため、習熟度が高くなるにつれ、理解度も高くなっていくが、「同根語」と「同根 形態素」ほどの理解度には達しないと示唆されている。

習熟度が理解語彙の産出難易度への影響について、CJLの下位群と上位群を対象に、理解 された語彙に産出テストにおける正答率の差異をカイ二乗検定で確認した。その結果、どの カテゴリーにおいても、上位群は下位群より、産出率が高かったことが分かった。つまり、

習熟度が上がるにつれ、理解された単漢字和語動詞は容易に産出できると示唆されている。

第9章では、本論文が設定した各研究課題に対する回答を提示した上で、本研究の意義や 日本語教育への示唆などについて述べられている。本研究の意義は、以下の 3 つである。

まず、本研究は単漢字和語動詞に焦点を当て、L1 漢字知識の影響を検証した。単漢字

(12)

和語動詞の多くは基本語彙であり、日常生活で使用頻度の高い語彙であるため、語彙教 育において重要な位置づけとなっているが、習得研究がほとんどなされていない。本研 究では、これまで注目されていなかった単漢字和語動詞に焦点を当て、CJLの習得状況 及び習得におけるL1漢字知識の影響を明らかにしたことによって、CJLにおける漢字 語彙習得の全体像を見ることができると考える。また、本研究では、CJLのL1漢字知 識を検証するため、アルファベット表記で、なおかつ中国語と同様に動詞活用のないIJL との比較を行った。これによって、CJLの習得におけるL1 の影響と、CJL とIJLにお ける習得上の共通点を見分けることができた。そして、本研究は、産出、理解、産出と 理解の関係から、CJLの単漢字和語動詞の習得を考察した。今までの語彙習得研究にお いては、知識面または産出面から検討するものが多いが、本研究は、理解と産出の両面 からの考察によって、CJLにおける単漢字和語動詞の習得の全貌が明瞭となり、習得に おける優れている点と困難点を示唆し、CJLにおける単漢字和語動詞の習得メカニズム を解明することは新たな知見を提示した。

また、本研究の成果を踏まえ、以下のように語彙教育に提案を行った。まず、本研究 は、母語にかかわらず、産出は理解より発達が遅れているという結果を得た。この問題 が生じたのは、各要因の相互作用による結果であるが、練習上による影響も一因として 考えられる。通常の教室環境では、知識の理解を中心に進め、アウトプットの機会が少 ない。そのため、意味から形態へのリンクを強め、意図的に産出のための学習を行う必 要がある。また、CJLとIJLともに見られる産出上の問題点として、既習語彙の類義語 の習得が遅れることが挙げられる。例えば、「破れる」と「割れる」はCJL とIJLとも に低い産出正答率を示し、誤答に「壊れる」が多数回答されていることが観察されてい る。この問題については、産出のための練習を通して「破れる」と「割れる」のような 語彙の意味から形態へのリンクを強めるほか、教授側から「壊れる」は「破れる」と「割 れる」の文脈に使用できないという否定的証拠を明示する必要がある。そして、CJLに は、「同根語」と「同根形態素」は意味が類似しているため、ほとんど意味理解に問題 がなく、産出するための練習に重点を置けば、効率的であろう。一方、「非同根漢字」

の学習は、中国語の漢字に新たな日本語の意味を構築する過程であるため、意味理解の 段階から、意識的な語彙学習が必要であろう。

(13)

審査結果

本論文の公開審査は2020年7月2日(木)16:00~18:00 オンラインにて行われた。本 論文に対して、講評と習得研究、日本語学的視点、コーパス研究、日本語教育の視点などか ら様々な質問や意見が出された。

まず講評として、本研究では、単漢字による和語動詞を対象に、CLJ は中国語における 漢字の語か形態素かによってどのように類似性を認識し、習得に活かしているのかその影 響を明らかにしようとする、非常に意欲的でオリジナリティの高い研究であること、それは 研究数の少ない単漢字和語動詞を対象としただけではなく、L1 とL2 の客観的な類似性を 学習者がどのように「認識しているのか」という知覚的類似性に着目した点にあることが評 価された。また、L1の影響について、言語的な類似性からくる学習者の認識という興味深 い観点からアプローチし得たことは、この研究の大きな成果であり、語彙の転移研究を大き く前進させるものだと評された。また、体系的な習得研究が進んでこなかった一因である日 中の複雑な語の関係について意味関係、形態関係、中国における語か形態素か、同根語か同 根形態素か非同根漢字かという観点から分類基準の作成を試みていることもこれからの日 中の語彙研究の発展に寄与するものであるとされた。中国の他に、予備調査ではマレーシア に赴き、本調査ではインドネシアに赴いてレベルを統制し、丁寧にデータを収集し、非漢字 圏の学習者と比較し、産出と理解、理解語彙の産出難易度という3つの側面から、L1漢字 知識が単漢字和語動詞の習得にもたらす影響、習熟度により違いを、統計的手法を用いて検 証し、日中漢字の類似性の影響を詳細に検証できたことは、大きな成果と評された。

質問と意見として以下のような点が出された。

a 「客観的類似性」と「知覚的類似性」「仮定的類似性」と調査結果との関連性 b 分類基準について

c 非同根漢字にみられた「有意傾向」について d 教育的貢献の可能性について

e 分類の基準の解釈について。

これらの質問や意見について、孟盈氏が本論文の不十分な点をきちんと自覚していて再 考する方向性をつかんでいることが確かめられた。適確な質疑応答から孟盈氏が十分にそ の力を備えており、本論文をもとにさらなる飛躍が期待できるものと判断された。

また、数値を適切に処理し判断していること、努力を惜しまず自力でデータを収集する態 度を持っており、研究者として求められる資質を十分に備えていると判断された。また、今 後辞書の開発など今後の日本語習得研究に資するところの大きい論文であると判断された。

学位請求論文の内容、公開審査における応答内容などから総合的に判断した結果、審査委 員全員一致で、この研究が博士(日本語教育)の学位を授与するにふさわしいものであると いう結論に達した。

(14)

また、学会などでの口頭発表4回、投稿論文3本と研究成果も発表していることは研究者 としての資質を保証するものである。

(15)

研究業績一覧

専攻・教室:日本語教育学教室 学修番号:15965105

氏名:孟盈

学位請求論文題目:

中国語を母語とする日本語学習者における単漢字和語動詞の習得研究

(1)発表論文・著書

1 孟盈「中国語を母語とする日本語学習者における語彙習得研究 ―言語間類 似性の観点から―」『日本語研究』37,TMU日本語研究会,151-164,2017年,査読有。

2 孟盈「中国語母語話者における単漢字表記和語の理解について―同形同義語 と同形異義語を中心に―」『台灣應用日語研究』24, 台湾応用日本語学会, 2020年, 査読 有。

3 孟盈「単漢字和語動詞と中国語同形漢字における漢字類似性の認識―中国語 を母語とする日本語学習者を対象に―」『日本語研究』40, TMU 日本語研究会,2020 年

(印刷中), 査読有。

(2)学会発表等

1 孟盈「中国語母語話者における和語動詞の産出について―KYコーパスにおける 英語母語話者との比較」中国語話者のため日本語教育研究会, 於名古屋, 2015 年, 口頭 発表, 審査有。

2 孟盈「上級中国語母語話者の和語動詞の産出に見られる特徴について ―KY コ ーパスにおける英語母語話者、韓国語母語話者との比較―」TMU 日本語・日本語教育 研究会第9回研究会, 於東京, 2016年, 口頭発表, 審査有。

3 孟盈「中国語母語話者の和語動詞の産出に関する量的検討―KYコーパスを用い て―」2018年度日本語教育学会春季大会, 予稿集pp.307-312, 於沼津,, 2018年, ポスタ ー発表, 審査有。

4 孟盈「中国語母語話者における単漢字表記和語動詞の理解について―言語間類似 性の観点から―」2019 年度日本語教育学会春季大会, 予稿集 pp.255-260, 於筑波, 2019 年, 口頭発表, 審査有。

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