は じ め に
最近の世界貿易においては中間財取引のウェイトが増大しており,その背 景は生産の国際化が益々進み,生産工程が世界的に分散化して工程間の国際 的な分業が進んで来ているためである。これを可能にしているのが情報通信 技術の急速な発達と情報通信コストの大幅な低下である。こうした世界的な 貿易と国際分業の変化が進むと,中間財輸入が増大して輸出額とそこに含ま れる付加価値額に大きな乖離が生まれる。ここには国際的な生産ネットワー クの形成が反映されているのである。
本稿では最近のドイツの貿易や国際生産活動についての考察を通じて,ド イツ企業の国際分業構造と国際的な生産ネットワークについて接近してみた い。そのためにまず最近の国際生産と分業の変化について概観した後,ドイ ツの貿易構造の変化と直接投資について考察し,最後にドイツの貿易と輸入 中間財の状況を考察する。
第1節 国際生産の深化と中間財およびサービス貿易の拡大
最近の国際貿易においては,中間財および中間投入サービス貿易の割合が 年々大きくなってきている。国連の『世界投資報告書』2013年版によれば,
世界貿易の約60%が最終消費のための財やサービスの生産のために各生産段
生産の国際化とドイツ企業の国際分業構造
佐 々 木 昇
( 1 )
階で投入される中間財や中間投入サービスの取引によって占められるのであ る(1)。
中間財および中間投入サービス貿易の割合が増大してきた背景には,企業 による生産と流通および販売の過程すなわちサプライチェーンの各過程が,
立地上あるいはコスト面の優位性が考慮されて世界的規模でますます分散化 し,生産過程でも製品の生産工程の分散化が進んだことがある。こうした生 産工程の分散化が進む一方で,世界的に分散して生産された中間財や中間投 入サービスが,最終組立工程の場所に集められて完成品が生産されるのであ る。このようなある製品の原料・中間財さらには中間投入サービスなどの生 産の分散化には,それぞれの生産地点を結ぶ輸送や情報のネットワーク化が 不可欠であるが,これを可能にしたのが急速に発展してきた
ICT
技術であ る。この分野の技術進歩が,分散化した生産地点のネットワーク化のための 輸送コストや情報通信コストを大幅に引き下げたからである。生産の分散化は,これまで多国籍業による世界的な生産や販売のための子 会社の最適配置によって進められてきた。そして世界的に配置された子会社 間あるいは親会社と子会社を結ぶネットワークが形成され,これが企業内分 業やサプライチェーンを形成・拡大する推進主体となってきた。こうした多 国籍企業による直接投資を通じた海外子会社による生産ネットワークの拡大 は,最近の急速な対外直接投資の増大によって示されている。しかし近年こ うした生産のネットワークは,直接投資による在外子会社の設立だけではな く,多国籍企業と直接資本関係のない生産委託企業との間でも世界的規模で 形成されるようになってきていることが注目されるようになっている。
この点でよく引き合いに出されるのが
Apple
社の例である。2009年のAp-
ple
社のiPhone
の生産には,日本の東芝によるフラッシュ・メモリーやタッチ・スクリーン,韓国サムスンのアプリケーション・プロセッサーやメモ リー, またドイツの
Infineon
によるベースバンド, カメラ・モジュール,FR
ランシーバーなど,さらにはアメリカのブロードコムによるブルートゥース, 同じくアメリカの
Numonyx
のメモリーなどが部品として組み込まれている。これらの部品や中間財は,それぞれの生産地から最終的に中国に集められて ここでの最終組立工程で完成品となる。中国での組立工程の大部分を請け 負っているのは鴻海などの台湾の
EMS
企業である。もちろんiPhone
の生産 主体はアメリカのApple
社であるが,iPhoneのほとんどは中国から世界の販 売拠点に輸出されるのである。ここでApple
社が果たしている役割は何か。Apple
社は,iPhoneの生産に当たって,まずその商品企画と開発,そして設計を担った。また各部品や中間財の供給と生産ネットワークの管理を行い,
それをマーケティングと有機的に結びつけてサプライチェーン全体のマネー ジメント,さらには製品価格の管理さえ行っているといわれる。周知のよう
に
Apple
社は,単純な生産者ではなく,自らは直接的な生産者とならず,ハードウェアの生産は海外の業者に委託して,ハードウェアの販売を独自に 開発したソフトウェアと結びつけ,インターネットを通じて顧客を引き留め て売り上げを確保するというビジネス・モデルで成功してきた。
この
Apple
社の2009年のiPhone1台の小 売 価 格 は500ド ル で,生 産 に 関
わった各国企業の取り分は,アメリカ企業が約331ドルで,部品や中間財を 供給した日本や韓国,ドイツなどの企業が約162ドル,そして主に組立工程 などを担当した中国は約7ドルであった。iPhoneは最終財として中国から 世界に輸出されるにもかかわらず,この輸出額と実際の受け取り額には大き な開きが存在している。iPhoneの生産は,国際的な工程間分業によって行 われているが,この工程間分業に参加した各国の受け取り額の相違は,そこ に投入された労働から生みだされた価値の大きさを反映している。アメリカ 企業の取り分が大きいのは,Apple社による商品の企画や設計,さらには マーケティング・販売能力の高さなどが,大きな価値を生みだしたことを示 しているし,日本や韓国企業などの中間財供給もそれに次ぐ大きさの価値形( 3 )
成に貢献したいえる。中国の取り分が少ないのは,完成品の組立工程が主に 単純労働によって担われているために価値形成への寄与が小さいためであ る(2)。こうした各国企業の価値形成への貢献の相違は,生産のロジスティク スに基づいて世界的な生産工程の配置が形成された結果にほかならない。こ うした国際分業を国際貿易面からみると,輸出のために生産される中間財や 最終財の生産に投入するために中間財が輸入されており,最終消費のための 財の生産にために,国際的な複雑な取引関係が形成されている。また,ここ には最終財の生産に投入される中間財が,一国の国境を数度通過するために 中間財の二重計算という問題が生まれているのである(3)。
上記のような
Apple
社の例は一企業の事例であるが,これを産業別あるい は国別に世界の生産分業と貿易関係を付加価値ベースで把握しようとするの がグローバル・バリューチェーン(GVC)という考え方である。付加価値 をベースにして国別の生産分業関係を測定することはこれまで困難であった が,国連のUNCTAD
やWIDO(World Input-Output Database)などによって
資料や統計が整備されて,最近では付加価値に基づくこの世界的な生産の連 鎖が把握できるようになってきている。WIDOのデータに基づいて行われた ドイツの自動車産業に関する研究によれば,第1表のように,1995年から 2008年の間にドイツの自動車産業とその関連産業が生産した価値のうち国内 で生みだされた付加価値の割合は79%から66%へと低下した。これを逆にみ れば,ドイツ以外の国で生み出された中間財の輸入が増加しただけ外国の付 加価値シェアがこの間21%から34%へ増加したことを示している。この研究 は,この付加価値を生みだした資本と労働についての要素の寄与分の内訳を 明らかにしている。これによれば資本による寄与分は29%から35%へ増加し, 労働の寄与分は71%から65%へ低下している。とくに労働の寄与分ではドイ ツでの低技能労働の比率が低下した一方で,高技能労働ではドイツおよびド イツ以外の国での寄与分は高まっている。すなわちドイツの自動車産業をみても,ドイツ国内での生産過程では高付加価値を生みだす高技能労働ないし 技術集約的労働の重要性は高まる一方で,付加価値の生産が小さい低技能す なわち単純労働の工程は,国外へ依存する傾向が強まっていることが伺え る(4)。
以上のように,国際的な付加価値の連鎖を見ることによってドイツをめぐ る自動車産業の国際的な分業構造をある程度知ることができるのである。
ミュンヘン
IFO
研究所のHans-Werner Sinn
は,生産工程の労働集約的な川 上部門は外国へ移され,川下の工程は依然としてドイツに残されるか,拡大 さえするとして,Made in Germany" に代わって, Designed,assembled and
sold in Germany
のラベルがより適切になると主張している。ポルシェのカイエンの例をみると,この車はドイツのライプツィヒで生産されているよう にみえるが,実はスロバキアのブラチスラバで組み立てられている。ライプ ツィヒではエンジンが取り付けられているにすぎないのである。ドイツでは 生産される車の価値の約3分の1が生みだされるにすぎない(5)。ドイツの生 産の付加価値連鎖については第3節でより詳しく分析する。
第1表 ドイツ自動車産業の世界付加価値連鎖
1995 2008
ドイツの付加価値 79% 66%高度熟練労働 16% 17%
中位熟練労働 34% 25%
低熟練労働 7% 4%
資本 21% 20%
外国付加価値 21% 34%
高度熟練労働 3% 6%
中位熟練労働 6% 9%
低熟練労働 4% 4%
資本 8% 15%
最終総生産高 100% 100%
出所)Timmer, M. P. et al, “Slicing up Global Value Chains”, Journal
of Economic Perspectives, vol.28 No.2, 2014
( 5 )
第2節 最近のドイツの貿易構造と対外直接投資の状況
1.ドイツの財およびサービス貿易の構造
まず,最近のドイツの財およびサービス貿易からみた国際分業構造につい て考察していこう。第2表のように,2017年のドイツの財およびサービスの 輸出額は,1兆5400億ユーロに達する。このうち財輸出が1兆2700億ユーロ, サービス輸出が2700億ユーロであった。また同年の輸入額は1兆2900億ユー ロで,このうち財輸入が1兆ユーロ,サービス輸入が2900億ユーロであり,
この結果同年の貿易収支は,2500億ユーロの黒字であった。しかしこの黒字 は財貿易の黒字2650億ユーロによるものであり,サービス収支は160億ユー ロの赤字になっている。輸出額に占める財輸出の割合は82%であり,輸入に ついても78%を財輸入が占め,ドイツの貿易におけるサービス貿易の割合は 比較的小さいといえる。ただし,2004年から2017年の間の推移をみると,輸 第2表 ドイツの財およびサービス貿易
(10億ユーロ)
輸 出 輸 入 収 支
総額 財 サービス 総額 財 サービス 総額 財 サービス
2004 805 686 119 690 533 158 114 153 −39 2005 868 740 128 752 583 169 116 157 −41 2006 986 841 144 859 680 179 127 161 −35 2007 1079 927 152 914 725 189 165 202 −37 2008 1113 949 165 960 764 196 153 185 −31 2009 930 770 160 809 629 179 122 141 −20 2010 1090 918 172 956 757 199 134 161 −27 2011 1211 1030 181 1080 867 213 132 163 −32 2012 1268 1071 197 1100 871 229 168 200 −33 2013 1286 1080 206 1115 868 247 171 213 −41 2014 1341 1115 226 1138 887 250 204 228 −24 2015 1429 1179 250 1184 918 266 244 261 −17 2016 1450 1192 258 1202 924 278 248 268 −20 2017 1543 1270 273 1294 1005 289 249 266 −16
出所)Statistisches Bundesamt, Außenhandel und Dienstleistungen der Bundesrepublik Deutschland mitdem Ausland-Integrierte Daten für den Berichtszeitraum 2013 bis 2017 & 2009 bis 2013
出総額,輸入総額ともに2004年からほぼ2倍に増加しているが,同期間財輸 出が1.9倍に増加しているのに対してサービス輸出は2.3倍に増加したために, 輸出総額に占めるサービス輸出の割合がわずかではあるが増えている。他方, この期間のサービス輸入は財輸入の増加率とほぼ同様の1.8倍であったから, ドイツの最近のサービス貿易収支の赤字は縮小する傾向にあるのである。ド イツの貿易の規模は,財輸出だけをみてもその対
GDP
比は約40%に達し,輸入でも30%を超えており,またドイツの貿易規模は世界のなかでも中国,
アメリカに次いでいる。
このドイツの財およびサービス貿易の品目別構成を示したのが第3表であ る。2016年のドイツの輸出に占める財輸出の割合は82%であるが,この中で
「その他品目」を除いて最大の割合を占めるのは自動車の16%,これに次ぐ のが電機・電子機器と一般機械の12%であった。2010年からの変化をみると, 電機・電子機器と一般機械の割合が減少しているのに対して自動車の割合は 大きくなっており,ドイツ財貿易の自動車輸出への依存は一層強まっている といえる。輸出総額の18%を占めるサービス輸出で最も大きな割合を占める のは,運輸・旅行サービスの受け取りの6%で,これはもっぱら旅行業収入 によるところが大きい。これに次ぐのが金融・保険サービスの輸出であった。
他方輸入では,2016年の財輸入は77%を占めているが,このうち「その他商 品」を除いて最大の割合を占めるのは電機・電子機器の13%で,自動車の9
%がこれに続く。これらを2010年の割合と比較すると,電機・電子機器のシェ アにほとんど変化はないが,自動車のシェアは増加してきている。また,
2010年と比較すると2016年のサービス輸入は,21%から23%へシェアを拡大 しており,サービス輸入で最も大きいのは,やはり運輸・旅行の11%であっ た。これに次いでいるのが「その他ビジネスサービス」の輸入であり,この 輸入シェアは増えている。ドイツの貿易は,自動車や電機・電子機器などを 中心に外国と輸出入し合う産業内分業を形成していることがわかるが,貿易
( 7 )
収支をみればその分業構造はより明白に現れている。2016年の財貿易では 2680億ユーロの大幅な黒字となり,サービス収支では逆に200億ユーロの赤 字であった。財貿易黒字を生みだしているのは,自動車と一般機械であり,
それぞれ2200億ユーロと9400億ユーロの黒字を稼ぎ出している。同じ財貿易 のなかでは,石油・天然ガス,繊維・衣料品,食品・農産品などは赤字であ る。さらに赤字になっているサービス収支で最大の項目は440億ユーロの運 輸・旅行の赤字であり,これもドイツ人による海外旅行が大きな要因になっ ている。以上のように,ドイツの貿易は,自動車,一般機械などの機械類を 輸出して,食品や原料品,さらには労働集約度が高い衣料品などを輸入する という産業間分業の構造を形成し,またサービス貿易については少しずつそ
第3表 ドイツの財およびサービス貿易の品目別構成
輸 出 輸 入 収 支
2010 2016 2010 2016 2010 2016 2010 2016 2010 2016
10億ユーロ % 10億ユーロ % 10億ユーロ
財 918.3 1192.1 84.4 82.2 757.2 924.1 79.2 76.9 61.1 268.0
食品・農産品 46.3 60.9 4.3 4.2 58.3 74.8 6.1 6.2 −12.0 −14.0
石油・天然ガス 4.1 5.0 0.4 0.3 63.4 46.5 6.6 3.9 −59.3 −41.6
繊維・衣料品 22.7 26.8 2.1 1.8 33.5 42.6 3.5 3.5 −10.9 −15.7
化学品 91.9 107.2 8.4 7.4 63.8 73.8 6.7 6.1 28.1 33.4
薬品 50.5 70.6 4.6 4.9 37.8 49.3 4.0 4.1 12.7 21.3
金属製品 82.7 89.3 7.6 6.2 71.1 78.2 7.4 6.5 11.7 11.2
電気・電子機器 143.2 176.9 13.2 12.2 131.3 159.6 13.7 13.3 11.9 17.3
一般機械 141.8 170.4 13.0 11.7 61.2 76.7 6.4 6.4 80.6 93.7
自動車 161.0 228.4 14.8 15.7 70.2 106.1 7.3 8.8 90.8 122.3
その他商品 207.8 268.3 19.1 18.5 206.5 247.2 21.6 20.6 1.3 21.0
サービス 169.9 258.4 15.6 17.8 198.8 278.3 20.8 23.1 −28.9 −19.9
運輸・旅行 68.3 83.4 6.3 5.8 109.4 127.9 11.4 10.6 −41.2 −44.4
金融・保険 21.8 31.6 2.0 2.2 11.3 17.1 1.2 1.4 10.4 14.5
情報・通信 15.7 30.8 1.4 2.1 15.1 27.5 1.6 2.3 0.7 3.2
その他ビジネスサービス 53.2 37.4 4.9 2.6 56.3 87.7 5.9 7.3 −3.0 3.1
総計額 1088.2 1450.4 100.0 100.0 956.0 1202.4 100.0 100.0 132.2 248.1
出所)第2表に同じの重要性が高まってきているが,まだそのウェイトは小さいのである。
さらにドイツの分業を貿易の地域構成からみていこう。第4表のようにド イツの財およびサービス貿易では輸出,輸入とも
EU
が6割近くを占め,こ れにその他のヨーロッパを加えると3分の2がヨーロッパ諸国との貿易に よって占められる。またEU
との貿易では,2016年のユーロ圏との貿易が輸 出で35%,輸入でも38%を占め,他方でユーロ圏以外のEU
との貿易も2割 を占める。ヨーロッパ以外ではアメリカが輸出で10%,輸入で7%を占める が,対中貿易がこれとほぼ同じ規模であり,輸出で7%,輸入ではアメリカ を上回る8%を占めている。2010年と2016年を比較すると,輸出ではEU
の 比重が減って,アメリカや中国の比重が増えているが,輸入ではEU
とアメ リカの比重が増えている。この地域構成も地域別の収支をみるとドイツの他 地域との分業がより明白になる。ドイツはEU
との貿易で2016年には約2200 億ユーロという大幅な黒字になっており,この約6割がユーロ圏以外のEU
諸国との貿易からであった。また対アメリカ貿易でも500億ユーロの黒字で あった。対称的に対中貿易では額は縮小しているが赤字であり,ドイツの中第4表 ドイツの財およびサービス貿易の地域別構成
輸 出 輸 入 収 支
2010 2016 2010 2016 2010 2016 2010 2016 2010 2016
10億ユーロ % 10億ユーロ % 10億ユーロ
EU 631.8 813.5 58.1 56.1 537.5 694.8 56.2 57.8 94.3 118.7 ユーロ圏 418.3 503.6 38.4 34.7 363.4 455.2 38.0 37.9 54.9 48.4 その他 EU 213.4 308.2 19.6 21.2 174.1 239.5 18.2 19.9 39.3 68.7 その他ヨーロッパ 122.7 149.9 11.3 10.3 117.9 138.2 12.3 11.5 4.8 11.7 南北アメリカ大陸 127.8 196.1 11.7 13.5 95.1 121.9 9.9 10.1 32.7 74.2 アメリカ 83.8 137.2 7.7 9.5 61.5 86.9 6.4 7.2 22.3 50.3 アジア・オセアニア 180.4 258.2 16.6 17.8 184.5 227.4 19.3 18.9 −4.1 30.8 中国 59.1 97.2 5.4 6.7 77.8 97.6 8.1 8.1 −18.7 −0.4 アフリカ 24.3 28.4 2.2 2.0 19.9 19.0 2.1 1.6 4.4 9.4 総 計 1088.2 1450.4 100.0 100.0 956.0 1202.4 100.0 100.0 132.2 248.0
出所)第2表に同じ( 9 )
国との分業,EUとの分業またアメリカとの分業は,それぞれ異なった分業 を形成していることがわかる。
2016年のドイツの貿易相手国の上位5ヶ国を示したのが第5表である。ド イツの最大の輸出先はアメリカの1370億ユーロであるが,このうちの3割が サービスであり,上位5ヶ国のなかでは最大である。第2位のイギリスも サービス輸出が2割を占める。第3位以下の国は財の比重が大きい。他方輸 入先では,中国が最大で980億ユーロを占め,このほとんどは財輸入であっ た。第2位のオランダ,第4位のフランスなどではサービスの比重は輸出に 比べて大きくなるが,第3位のアメリカからの輸入では45%がサービス輸入 であり,ドイツの対米貿易はサービスの比重が大きいことがわかる。そこで サービス貿易の比重が大きいアメリカとその比重が小さい中国およびその中 間に位置するフランスとの貿易の産業別構成を比較したのが第6表である。
2016年の対米貿易で7割を占める財輸出のなかで最大の品目は22%の自動車 で,12.4%の一般機械,11.5%の電機・電子機器が続く。また薬品輸出も8
%を占め,薬品貿易の比重が比較的大きいのが対米貿易の特徴である。対米 第5表 ドイツの貿易相手上位5ヵ国
(10億ユーロ)
総額 財 サービス
輸出〉
アメリカ 137.2 95.7 41.5
イギリス 114.6 90.9 23.7
フランス 108.0 91.7 16.2
中 国 97.2 84.5 n.a.
オランダ 89.3 74.0 15.3
輸入〉
中 国 97.6 90.0 7.5
オランダ 96.8 80.6 16.3
アメリカ 86.9 47.7 39.2
フランス 72.6 53.8 18.8
イタリア 64.2 51.5 12.7
出所)第2表に同じ
貿易ではサービスの割合が輸出で30%,輸入で45%を占めるが,この内訳で は知的所有権や研究開発に関わるサービスやコンサルタント料などの「その 他ビジネスサービス」が輸出で13%,輸入で20%と大きな割合を占める。こ れに次ぐのが運輸・旅行サービスであるが,このうち運輸が輸出で7割,輸 入で6割を占める。また情報・通信サービスが,輸出で5%,輸入で8%を 占める。この対米貿易に対して対中貿易では,自動車輸出が21%と大きな比 重を占め,電気・電子機器の17%,一般機械の15%の輸出がこれに続く。輸 入では電気・電子機器が46%と半分近くを占め,これに11%の繊維・衣料品 が続いている。対中貿易では9割以上が財貿易であるが,付加価値の大きい 機械類を輸出して,労働集約的な財を輸入する構造になっている。対仏貿易 は,対米と対中貿易のほぼ中間的な性格を持っている。財輸出は85%であっ
第6表 ドイツの対フランス,アメリカ,中国貿易の品目別構成(2016年)
フランス アメリカ 中 国
輸出 輸入 輸出 輸入 輸出 輸入 輸出 輸入 輸出 輸入 輸出 輸入
10億ユーロ % 10億ユーロ % 10億ユーロ %
財 91.74 53.79 85.0 74.1 95.70 47.75 69.7 54.9 84.51 90.02 87.0 92.3 食品・農産品 5.60 5.00 5.2 6.9 1.37 2.18 1.0 2.5 1.57 1.73 1.6 1.8 石油・天然ガス 0.02 0.02 0.0 0.0
n.a.
0.29n.a.
0.3n.a. n.a. n.a. n.a.
繊維・衣料品 2.30 0.83 2.1 1.1 0.63 0.32 0.5 0.4 0.43 10.25 0.4 10.5 化学品 9.15 7.25 8.5 10.0 6.47 5.46 4.7 6.3 5.01 3.37 5.2 3.5 薬品 3.68 2.39 3.4 3.3 12.78 7.10 9.3 8.2 2.40 0.96 2.5 1.0 金属製品 7.97 5.02 7.4 6.9 5.72 2.35 4.2 2.7 4.02 5.51 4.1 5.6 電気・電子機器 11.73 4.61 10.9 6.3 15.83 10.14 11.5 11.7 16.13 45.10 16.6 46.2 一般機械 11.92 4.94 11.0 6.8 17.08 5.29 12.4 6.1 14.57 7.61 15.0 7.8 自動車 15.20 8.46 14.1 11.6 29.47 7.05 21.5 8.1 20.44 1.34 21.0 1.4 その他商品 33.81 27.14 31.3 37.4 17.47 17.80 12.7 20.5 11.48 18.31 11.8 18.8 サービス 16.23 18.83 15.0 25.9 41.52 39.20 30.3 45.1
n.a.
7.55n.a.
7.7 運輸・旅行 5.02 7.44 4.6 10.2 9.41 10.23 6.9 11.8n.a. n.a. n.a. n.a.
金融・保険 2.53 1.63 2.3 2.2 4.24 2.02 3.1 2.3 0.22 0.02 0.2 0.0 情報・通信 1.85 1.62 1.7 2.2 6.87 6.80 5.0 7.8 0.82 0.46 0.8 0.5 その他ビジネスサービス 5.99 7.13 5.5 9.8 17.41 17.24 12.7 19.8 6.34 3.80 6.5 3.9 総計額 107.97 72.62 100.0 100.0 137.22 86.95 100.0 100.0 97.18 97.56 100.0 100.0 出所)第2表に同じ
( 11 )
たが,主要な輸出品は自動車,一般機械,電気・電子機器で,輸入品では自 動車,化学品であり,全体として輸出入品は同じような構成となっている。
サービス貿易でも「その他ビジネスサービス」と運輸・旅行サービスの比重 が大きい。ただ対米貿易と異なって,対仏貿易では輸出,輸入ともに旅行 サービスが運輸を上回っている。さらにこの3ヶ国との貿易収支をみれば,
第7表のように対米貿易では自動車と一般機械が大幅な黒字になり,対中貿 易でも自動車の黒字が大きい。また対中貿易では電気・電子機器と繊維・衣 料品が赤字なっているが,とくに電気・電子機器の赤字が大きい。これに対 して対仏貿易ではサービス取引が赤字になっている一方で,財貿易では機械 類を中心にしてとくに大きな黒字はなく,全ての品目で黒字になった結果,
総額として比較的大きな黒字を生みだしているのである。
第7表 ドイツの対仏,対米,対中貿易の品目別収支(2016年)
フランス アメリカ 中 国
財 37.95 47.95 −5.51
食品・農産品 0.60 −0.81 −0.16
石油・天然ガス 0.00 n.a. n.a.
繊維・衣料品 1.47 0.31 −9.82
化学品 1.90 1.01 1.64
薬品 1.29 5.68 1.44
金属製品 2.95 3.37 −1.49
電気・電子機器 7.12 5.69 −28.97
一般機械 6.98 11.79 6.96
自動車 6.74 22.42 19.10
その他商品 6.67 −0.33 −6.83
サービス −2.60 2.32 n.a.
運輸・旅行 −2.42 −0.82 n.a.
金融・保険 0.90 2.22 0.20
情報・通信 0.23 0.07 0.36
その他ビジネスサービス −1.14 0.17 2.54
総計額 35.35 50.27 −0.38
出所)第2表に同じ
2.ドイツ対外直投資の構成
次にドイツの対外直接投資についてみていきたい。第8表のように2016年 末のドイツの対外直接投資残高は,1兆1130億ユーロで,外国の対独直接投 資残高約5000億ユーロの2倍以上の規模である。2010年以後の6年間をみて も外国対独投資が約1000億ユーロ増えたのに対してドイツの対外投資は約 3000億ユーロも増加している。この直接投資によってドイツ企業が海外に保 有している子会社数は3万7千社,在外雇用数は700万人,そしてこれら子 会社の売上高は2兆8千億ユーロに達している。このようにドイツの対外直 接投資は外国の対独直接投資を大幅に上回っているのが現状である。
このドイツ対外直接投資の地域別構成を示したのが第9表である。ドイツ の直接投資の約半分はヨーロッパに向けられ,その大部分は
EU
向けられて いる。アメリカ大陸へは全体の3分の1が投資され,このうちアメリカ合衆 国へは30%近くが向けられている。ドイツの直接投資はヨーロッパとアメリ カの2地域で8割以上を占める。残りの大半はアジアに向けられており,そ の半分近くを中国が占める。最近の傾向はEU
をはじめとしてヨーロッパ向 け投資の比重が低下する一方で,アメリカと中国を中心にしてアジア向け投 資の伸びが大きい。他方で,外国の対独直接投資では9割近くがヨーロッパ からの投資であり,EUだけをみても4分の3を占める。このEU
との関係 のうちユーロ圏諸国との直接投資では,ドイツの対ユーロ圏直接投資をユー第8表 ドイツの対外直接投資
独対外投資 外国対独投資
2010年 2016年 2010年 2016年 直接投資残高(10億ユーロ) 832.1 1113.8 384.2 497.0
在外子会社数(1000社) 33.1 37.5 14.8 16.6
在外雇用数(100万人) 6.1 7.3 2.6 3.0
子会社年売上高(10億ユーロ) 2085.9 2806.9 1502.3 1515.5
出所)Deutsche Bundesbank, Foreign direct investment stock statistics 2012 & 2018( 13 )
ロ圏諸国の対独直接投資が上回っているのである。またドイツの対外直接投 資では対アメリカ合衆国投資が3割近くを占めているが,アメリカ合衆国の 対独投資は1割に満たず,投資残高も2010年に比べると大きく減っている。
ドイツとアメリカ合衆国の直接投資をめぐる関係では,以前はアメリカの対 独投資が非常に大きな比重を占めてきたが,現在ではこの関係は逆転し,ド イツが一方的にアメリカに対して直接投資を行っている状況にある。全体と してドイツの対外直投資ではヨーロッパの比重が低下する傾向にあるのに対 して,外国の対独直接投資ではヨーロッパの比重が拡大する傾向にある。さ らにまだ規模は小さいとはいえドイツの対中国投資が急速に増えているが,
中国の対独投資は外国の対独直接投資の0.4%と非常にわずかな規模にとど まっている。
次にドイツの対外直接投資の産業別構成を考察しよう。第10表によると産 業別にみたドイツ対外直接投資の最大の投資先は製造業で,2016年末残高は
第9表 ドイツ直接投資の地域別構成
独対外投資 外国対独投資
2010年 2016年 2010年 2016年 2010年 2016年 2010年 2016年
10億ユーロ % 10億ユーロ %
ヨーロッパ 442.2 534.7 53.1 48.0 320.6 430.9 83.4 86.7 EU 371.0 449.0 44.6 40.3 286.1 378.3 74.5 76.1 ユーロ圏 180.9 205.1 21.7 18.4 239.9 313.6 62.5 63.1 フランス 38.4 40.5 4.6 3.6 34.9 24.2 9.1 4.9 非ユーロ圏 190.1 243.9 22.8 21.9 46.2 64.7 12.0 13.0 イギリス 99.8 118.0 12.0 10.6 32.8 42.4 8.5 8.5 ヴィシェグラード諸国 66.2 83.8 8.0 7.5 0.3 7.5 0.1 1.5 アメリカ大陸 279.7 387.4 33.6 34.8 40.6 33.3 10.6 6.7 アメリカ合衆国 227.6 320.3 27.4 28.8 35.9 28.9 9.4 5.8 アジア 83.5 160.1 10.0 14.4 20.6 31.1 5.4 6.3
中国 29.0 76.3 3.5 6.8 0.5 2.2 0.1 0.4
アフリカ 9.2 10.5 1.1 0.9 0.9 −0.1 0.2 0.0
全世界 832.1 1113.8 100.0 100.0 384.2 497.0 100.0 100.0
出所)第8表に同じ4000億ユーロ,全体の36%を占める。これに次ぐのが金融・保険業の28%,
商業・自動車修理業16%となっている。この3業種で全体の8割を占める。
製造業のなかでは自動車産業への投資が全体の1割を占め,化学産業への投 資の7%がこれに続く。2016年の投資残高を2010年と比べると,製造業が 1400億ユーロ増加し,なかでも自動車産業への投資が2倍近くも大幅に増加 している。このため製造業の割合がこの間4ポイント増加した。また製造業 に続く金融・保険業や商業・自動車修理業への投資も,その割合を拡大して いる。さらにこの表によって主要地域別の投資の産業別構成をみていこう。
まず,対
EU
投資では全体の産業構成と同様に,自動車を中心に製造業が最 大の投資先で,これに金融・保険業と商業・自動車修理業が続いている。そ れぞれの構成比もほぼ同じである。対アメリカ投資では金融・保険業への投 資が最大で,これに製造業と情報・通信産業への投資が続くが,製造業のな第10表 ドイツ対外直接投資の産業別構成
全世界
EU
アメリカ合衆国 アジア 中国 全世界
EU
アメリカ合衆国 アジア 中国
2010年 2016年 2010年 2016年
10億ユーロ %
製造業 263.7 400.1 136.3 107.0 91.0 54.5 31.7 35.9 30.4 33.4 56.8 71.4 化学品 55.0 81.9 16.1 32.1 19.6 8.4 6.6 7.4 3.6 10.0 12.2 11.0 製薬品 19.6 29.3 5.6 13.6 4.9 1.9 2.4 2.6 1.2 4.3 3.1 2.5 精密・医療機器 21.7 28.2 5.2 18.0 2.7 1.2 2.6 2.5 1.2 5.6 1.7 1.6 電機 14.7 27.0 10.5 1.6 10.6 7.5 1.8 2.4 2.3 0.5 6.6 9.8 一般機械 23.0 39.0 12.6 11.2 8.9 6.0 2.8 3.5 2.8 3.5 5.6 7.9 自動車・部品 62.9 106.0 47.6 12.0 29.1 22.6 7.6 9.5 10.6 3.7 18.2 29.6 エネルギー供給 42.1 39.4 34.4 1.6 0.8 0.0 5.1 3.5 7.7 0.5 0.5 0.0 商業・自動車修理 115.8 175.1 73.5 25.4 34.6 14.1 13.9 15.7 16.4 7.9 21.6 18.5 情報・通信 34.5 60.0 17.7 2.5 0.4 4.1 5.4 3.9 11.7 1.5 1.5 0.6 金融・保険業 216.5 311.1 123.1 120.9 23.4 6.1 26.0 27.9 27.4 37.7 14.6 8.0 ビジネスサービス 66.2 10.7 9.2 0.5 0.3 0.0 8.0 1.0 2.1 0.2 0.2 0.0 その他サービス 14.0 16.8 12.7 1.2 1.1 0.3 1.7 1.5 2.8 0.4 0.7 0.4 全産業 832.1 1113.8 449.0 320.3 160.1 76.3 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 出所)第8表に同じ
( 15 )
かでは化学産業への投資が大きく,自動車産業への投資が比較的小さいなど の特徴が伺われる。対アジア投資では自動車産業と化学産業を中心に製造業 が6割近くを占め,それ以外では商業・自動車修理業と金融・保険業が大き な比重を占める。製造業のなかで電機産業への投資も比較的大きいのが特徴 である。この対アジア投資のなかで大きな割合を占める対中国投資ではアジ ア地域全体への投資構成とは異なった構成となり,7割以上は製造業であり, そのうち3割が自動車産業への投資であり,それ以外では化学産業と電機産 業への投資が多い。製造業以外では商業・自動車修理業の比重が大きいが,
他の地域と比べて金融・保険業への投資の割合が小さい。
3.ドイツの中国および中東欧との関係
以上のようにドイツの貿易と直接投資の構成について考察したが,貿易と 直接投資には一定の関係があることは明らかである。企業の国際的活動は貿 易から始まるが,国際的企業間競争や貿易障壁などの要因によって企業活動 は直接投資を通じた海外生産へ発展する。こうした企業活動が拡大していく と,親会社と子会社または同系企業間で国境を越えた企業内取引が世界貿易 で大きな比重を占めるようになる。また最近では
Apple
社や衣料産業の多国 籍企業にみられるように,直接資本関係のない企業に生産を委託して,しか もその製品の生産工程は数カ国にまたがり,完成品の生産のためにこれら生 産工程で生産された中間財は再び国境を越えて取引されるという,必ずしも 資本関係にとらわれない工程間分業が進んでいるのである。ドイツ産業のなかで中核を占める自動車についてみると,2015年の自動車 の海外生産は940万台であった。このうち最大の生産国は中国の400万台で,
EU
が330万台,北米が130万台であった。ドイツの自動車産業にとって中国 市場が最も重要な市場になっているが,輸出についてみると,同年のドイツ の自動車輸出は440万台で,その主要な輸出先はヨーロッパで280万台,この3,500 3,000 2,500 2,000 1,500 1,000 500 0 1,000 台
400 300 200 100 0 2009 2010 2011 2012 2013
2 ドイツ自動車生産
ドイツの中国への自動車輸出
うちイタリア,スペイン,ポルトガルを中心にしたユーロ圏諸国が130万台 となっている。国別にみると最大の輸出先はイギリスの81万台で,これに次 ぐのがアメリカの62万台であった。中国への輸出は20万台程度にとどまって いるのである(6)。第1図の2009年からのドイツの自動車現地生産と輸出の状 況をみても現地生産が輸出に比べて圧倒的に大きいことを示している。この 理由は,現地で安い労働力を確保できることや顧客に近接していることに
第1図 中国におけるドイツ自動車産業の生産と輸出
出所)Deutsche Bundesbank, Monthly Report, Nov. 2013 注)2013年は2月まで
( 17 )
よって輸送コストや生産配置にかかるコストが安い一方で,高い関税や非関 税障壁の存在が,ドイツ企業に対して輸出よりも現地生産を重要視させる要 因になっていると考えられる。
さらに,貿易よりも現地生産と現地販売に重点を置く中国との関係に対し て,ドイツと地理的に近接する中東欧との関係について考えてみたい。この ドイツの中東欧との貿易では,とりわけヴィシェグラード諸国と呼ばれる ポーランド,チェコ,スロバキア,ハンガリーの4ヶ国との経済的関係が深 い(7)。製品貿易だけをみれば,ドイツの輸出においてこれら諸国の比重は10
%を超えて,輸入では13%に達している(8)。しかも2016年の貿易収支は3億 ユーロの黒字にすぎず,輸入の比重が増してきていることを示している。ま たヴィシェグラード諸国への直接投資は,規模としては対中投資とほぼ同じ 程度であるが,製造業投資の半分以上が自動車産業への投資であり,自動車 産業の生産でこの地域とドイツとの関係が密接であることを示しているとい える(9)。このようにヴィシェグラード地域とドイツとの間では,既述の自動 車産業の例のように,国際的な生産ネットワークが形成されている点でドイ ツにとっては非常に重要な地域といえるのである(10)。
また企業内貿易と直接投資について,中東欧へ投資を計画したドイツと オーストリア企業660社を対象にして調査を行った
D. Marin
の研究によると, ドイツからの直接投資のうちでオフショアリングが支配的なのは,チェコ(ド イツからの直接投資のうち調査対象ドイツ企業の投資の占める割合69%),ブルガリア(同72%),スロバキア(同69%),ルーマニア(同64%)であっ た。また,スロベニア(同12%)やポーランド(同14%)ではこの割合は小 さかった。これらドイツ企業の企業内取引が,ドイツと中東諸国との貿易に おいて占める割合を示したのが第11表である。ドイツの対中東欧貿易に占め るドイツ企業の企業内取引の割合は,全体としては輸出で11.7%,輸入で 21.6%であり,あまり大きくないが,国別にみるとスロバキアとの関係では
輸出34%,さらに輸入では65%と大きな割合を占める。また輸出ではハンガ リーとの間でも比較的大きな値を示している。
Marin
によれば,こうした企業内貿易のあり方はドイツと中東諸国との国際分業関係の形成を示しているのである。この調査からドイツ企業は,労働 コストや輸送コストが安い場合企業内輸入が多いことに示されているように 低賃金国でのオフショア生産を選択していることがわかる(11)。
第3節 ドイツの付加価値貿易と国際分業構造の変化
前述の
IFO
研究所のSinn
は,ドイツ経済が徐々に真の生産ではなく物の 第11表 ドイツと中東欧との貿易における企業内取引対中東欧輸出に 占める企業内 取引(%)
対中東欧輸入に 占める企業内 取引(%)
中欧バルチック諸国 5.19 14.41
チェコ 6.83 15.64
ハンガリー 11.95 40.46
ポーランド 17.77 15.34
スロバキア 34.01 64.98
スロベニア 3.32 9.38
南欧
ブルガリア 2.30 4.20
クロアチア 1.78 1.95
ルーマニア 3.86 7.17
旧ソ連
ロシア 4.94 1.67
ウクライナ 4.51 2.44
計 11.67 21.56
出所)Marin, D., “A New International Division of Labor in Europe:
Outsourcing and Offshoring to Eastern Europe”, Journal of Eco- nomic Association, Apr.-May 2006
( 19 )
50
45
40
35
30
25
25
20
15
10
5
0 1995 1997 1999 2001 2003 2005 2007 2009
アウトリーシング
国内調達 オフシェアリング
海外調達
農業
サービス 製造業
取引やその造り直し(repackageing)に依存した「バザール経済」に変わろ うとしていると主張し,ドイツの世界への輸出品のうちでそれに含まれる後 背地の東ヨーロッパで生産された財の価値の割合が増大していると指摘して いる。これは,ドイツの輸出財生産に投入される輸入中間財の比重が大きく なっていることに示される。ドイツの輸出品に占める輸入品の割合は,1991 年の27%から2002年の39%へと高まっているのである。ドイツと中東欧との 分業関係は,ドイツの労働集約的工程が労働コストの安い中東欧へ移転して, そこからのドイツでの生産のための中間財輸入が増大している実態を表すも のである(12)。Sinnの主張をさらに2009年まで伸ばして考察した研究によれば, 第2図のように1995−2008年の期間に製造業における国内調達による中間投 入の割合が低下した一方で,海外生産中間財投入の割合は13%から23%へ拡 大した。またサービス業でも生産額に占める海外調達中間投入の割合は同期 間3%から5%へ増加している(13)。このように
Sinn
が指摘した傾向はさら第2図 ドイツの中間財調達の構成
出所)Ifo Schnelldienst 6/2013 注)生産に占める割合(%)
に強まっているのである。
上記のようなドイツの貿易構造と国際分業の状況について,付加価値に基 づくドイツ連邦銀行の資料によってさらに考察していこう。第12表のように ドイツの2010−2011年の総輸出に占める付加価値輸出の割合は70%で,90年 代後半の78%から低下してきている。この低下は,国内の財・サービスの生 産にとって外国の中間財輸入がより重要になっていることを示す。また総輸 出に占める国内付加価値の割合も同期間82%から73%へと低下している。こ の国内付加価値割合の変化は,輸出業者が輸出1ユーロ当たり,以前は82セ ント稼いだのが,最近では73セントしか稼げないことを意味している。付加 価値輸出よりも国内付加価値が小さいのは,この差額分が重複計算されてい るからである。2010−2011年において両者に3ポイントの差が生まれている が,連銀によればこのうちの2ポイント分は,ドイツ国内の最終消費のため に再輸入された財の付加価値であり,もう1ポイント分は再々輸出された財
第12表 ドイツの財とサービス輸出の構成
総輸出に占める割合(%)
項 目
1995 to 1999
2000 to 2004
2005 to 2009
2010 to 2011
国内付加価値 82 78 74 73
付加価値輸出 78 75 71 70
貿易相手国の最終需要へ 63 59 54 54
最終財としての輸出 34 32 29 28
中間財としての輸出 30 26 25 26
第三国への貿易相手国の輸出 15 16 17 16
ドイツによる再輸入 3 3 3 3
ドイツの生産のため 3 2 2 2
外国付加価値 18 22 26 27
最終財 8 10 11 11
中間財 6 7 8 9
二重計算 4 5 7 7
出所)Deutsche Bundesbank, Monthly Report, Oct. 2014
( 21 )
の付加価値分である。総輸出のうちの国内付加価値を除いた残りが外国付加 価値で,2010−2011年が27%で,90年代後半の18%から10ポイント近く増大 している。この輸出財の生産のために輸入された外国付加価値のうち3分の 1は,ユーロ圏諸国からの輸入であった。
輸出のうち国内付加価値の割合が減少しているのは,世界的な現象である。
この割合の減少は,それぞれの国の経済が特定の生産段階に益々特化してき ていることを示している。ドイツを除くユーロ圏でもこの割合は,1995年か ら2008年までに6ポイント減少して68%となった。これはヨーロッパの生産 ネットワークのなかで密接な分業が形成されていることを示すものである。
またアジアでもこの過程は進んできている。例えば,中国では1995年から20 08年の間に輸出に占める外国付加価値の割合は,20ポイント上昇して3分の 1に達している。この上昇分の1ポイント以上は,ドイツの付加価値の増加 によるものであった。これは,在中国子会社を通じて本国から高品質の中間 財を中国に輸出しようとするドイツ企業にとって生産立地としての中国の重 要性がより大きくなってきていることを物語る(14)。
総輸出に占める国内付加価値が減少することは,逆に外国付加価値が増大 することを意味する。総輸出に占める外国付加価値の割合を国際比較したの が第3図である。これによると中国や韓国が1995年から2008年の間にこの割 合を大きく拡大させているほか,先進国でもドイツやその他のユーロ圏諸国 でもこの割合は3割前後に達している。これに対してアメリカ,イギリス,
日本ではこの割合は比較的小さく2割に達していない。ここには米英日と ヨーロッパ諸国の貿易における分業のあり方の相違が現れているといえる。
次に付加価値ベースでみたドイツの貿易相手国について検討しよう。ドイ ツの主要貿易相手国について2008−2011年間の平均でみた総輸出入額と付加 価値の輸出入額を比較した第4図によると,この期間の総輸出額で最大の輸 出先はフランスであるが,これを付加価値輸出額でみるとフランスの額は総
0 10 20 30 40 0 10 20 30 40
% 国別 ドイツ ドイツを除く ユーロ圏 フランス イタリア オランダ アメリカ イギリス 日本 中国 韓国
ドイツ産業別 製造業 化学 金属加工 電機 一般機械 輸送機械
サービス 商業・ホテル レストラン 運輸・通信 ビジネス サービス
1995 2008 1995
2008
フランス アメリカ 中国 イギリス イタリア オーストリア オランダ スペイン
中国 オランダ フランス イギリス アメリカ イタリア ベルギー オーストリア
0 2 4 6 8 10 0 2 4 6 8 10
総輸出 付加価値輸出
総輸入 付加価値輸入
第3図 輸出総額に占める外国付加価値出所)Deutsche Bundesbank, Monthly Report, Oct. 2014
第4図 輸出額と付加価値からみたドイツの主要貿易相手国
出所)第3図に同じ
注)全て総額に対する比率(%)
( 23 )
輸出額を下回り,順位ではアメリカや中国以下になる。付加価値輸出額では アメリカが最大の輸出先であり,中国がこれに続く。また同期間の総輸入額 では中国が最大で,これに続くのがオランダとフランスであるが,付加価値 輸入額では中国の額がさらに大きくなり,これにアメリカが続く。このよう に総輸出入額で重要な地位を占めていたユーロ圏諸国が,総じて付加価値輸 出入額では後退し,アメリカと中国のウェイトが大きく拡大することがわか る。この理由は,地理的に近い距離にある国との取引では輸送コストが安い から中間財取引が有利であり,そして輸出のための輸入中間財の付加価値が 大きくなれば,それだけ国内付加価値の輸出も小さくなるからである。ドイ ツ連銀は,この点についてドイツ経済への外国からの影響について評価する 際にドイツの生産物にとっての最終需要をより良く反映するものとして付加 価値ベースの評価が重要視されるべきであるとしている。付加価値の輸出先 としてはアメリカが,ヨーロッパよりもさらに重要性を増しており,他方で 輸入先としては中国が非常に重要性な地位にあることがわかるが,これら両 国は,工程間分業に基づく生産ネットワークの深化がヨーロッパほどは進ん でいないことを示す。これは上記のように明らかに地理的な要因によるもの と考えられる(15)。
ドイツの輸出活動ではその収入の85%を財輸出が占めるが,これは世界平 均を上回っている。財輸出の比重が大きいことは,ドイツの産業基盤が強固 であることや世界市場においてドイツ製造業が強い競争力を保持しているこ とを物語る。このためドイツの製造業部門収入の3分の1以上は海外ビジネ ス活動によっているのである。ドイツの製造業部門の内訳では,自動車を中 心にした輸送機械産業が最大のウェイトを占めるが,これに次ぐのが,一般 機械,化学,電機の各産業で,これらと輸送機械産業を合わせると製造部門 内のシェアは40%から50%に達する。これら製造業部門輸出における2008年 の外国付加価値のシェアをみると(前掲第3図),製造業全体では30%程度
国内中間財 外国中間財 直接サービス 付加価値 計
製造業 化学 金属加工 電機 一般機械 輸送機械 サービス 商業・ホテル・レストラン 運輸・通信 ビジネスサービス 総輸出に占める割合(%)
1995 2008
0 20 40 60 80 100
であるが,部門別にみると3分の1以上に達している部門もある。このシェ アが1995年以後とくに急速に上昇しているのが,輸送機械産業とともに化学 産業と金属加工産業である。2008年には製造業部門における輸入中間財の半 分以上が再び海外の最終消費のために輸出されているのである(16)。
さらに財輸出に含まれるサービス付加価値の比重がより重要になってきて いることがわかる。第5図のように,経済全体でみたサービス付加価値の
第5図 ドイツ輸出におけるサービス付加価値
出所)第3図に同じ
( 25 )
シェアは,2008年に45%になり,1995年から6ポイント上昇している。製造 業では同期間この値は,29%から35%へ上昇しているし,輸送機械では95年 の27%から2008年にはほぼ40%に達している。このような輸出におけるサー ビス付加価値のシェア増大は,国内サービスの質やその生産に含まれるコス トが経済の国際競争力の要因としてより重要になってきていることを示して いる(17)。ドイツの産業構造においてサービス部門の重要性がより増している ことを物語る。
む す び
ミュンヘン
IFO
研究所のSinn
は,ドイツの輸出財において輸入中間財が 増大していることを挙げて,ドイツ経済が本当の生産者ではなく,単なる再 加工をするにすぎない「バザール経済」へ移行しつつあると主張している。このことは付加価値ベースでみた分析によってより明白になる。実際に最近 のドイツの輸出品に占める国内付加価値の割合は7割程度に低下しており,
逆に中間財として輸入された外国付加価値が3割に達しているのである。ド イツの輸出構造は自動車を中心として一般機械,電気機械などの機械類が中 心で,これに化学を加えると製造業輸出の半分近くを占める。またドイツの 直接投資の構成も輸出の構成にほぼ対応しており,ドイツの輸出活動は企業 の海外事業活動と密接な関係を持って進められてきたことがわかる。
しかし,強力な国際競争力を持っている自動車を中心にした機械類の輸出 品でも,そこにに含まれる外国付加価値は拡大しているのである。ドイツの 製造業輸出では外国付加価値は3割に達し,自動車でも3分の1まで拡大し ている。こうした輸出財に含まれる外国付加価値の増大は,中間財財生産の 国際的なネットワーク,すなわち国際的な工程間分業が進んでいることを示 す。また外国付加価値の増大は,ドイツだけではなく他のヨーロッパ諸国で
も見られる現象である。ドイツの分業構造は,フランスのような
EU
のユー ロ圏諸国とは,水平的な工程間分業を進めているが,賃金コストの安い中東 欧諸国との分業では垂直的な工程間分業がみられるのである。これは地理的 に近接しているために中間財を輸送するためのコストが小さいことも主要な 要因である。他方,アメリカや中国との分業関係は,産業間分業の性格を 持っている。アメリカとはサービス貿易が赤字になっているのに対して自動 車取引では大幅な黒字になっている。また対中国貿易でも自動車が大幅な黒 字であるが,他方で電機・電子機器や繊維・衣料品で赤字になっており,対 中貿易では機械類を輸出して労働集約財を輸入する構造が明白に現れている。ドイツの貿易構造は,自動車輸出への依存を強めており,その競争力の源 泉のひとつが,地理的に近く,輸送コストのかからない中東欧諸国の安い賃 金を利用した国際的な中間財の生産ネットワークの形成といえる。この分業 は国内の低賃金工程を,外国へ移転させ,そこで生産された中間財を再び輸 入する過程を拡大する。他方,生産設計また商品開発などの研究開発やマー ケティングなどのサービス部門は国内にとどまるから,ドイツでも徐々に サービス部門の比重が大きくなってきているのである。しかし付加価値生産 でみると,ドイツが輸出によって受け取る価値額は徐々に小さくなってきて いるのが現状であり,このことはドイツ産業のなかで最大の稼ぎ手である自 動車産業においても例外ではないのである。Sinnによって指摘されている
「バザール経済」とは,ドイツのサービス経済化の一側面を示すものではな いだろうか。
注