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児童養護施設で暮らす障害のある子どもにとっての

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Academic year: 2021

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はじめに

 先行するプロジェクト研究において,児童養護施設等には障害のある子ども,もしくはそ の疑いのある子どもが多く在籍していることがわかった。障害の上に,生育環境上の困難を かかえた子どもたちにたいして,どのような特別な支援をする必要があるのだろうか。特別 支援教育への移行が始まって2014年で 8 年が経過し,療育手帳を所持する程度の障害児に加 えて,広汎性発達障害をはじめとして人との関係や行動上の困難をかかえる子どもの教育に 光が当てられているようになったといわれる。その光は,児童養護施設で暮らす障害のある 子どもには届いているのだろうか。

 児童養護施設職員と学校教師が同席するある研究会でのこと,「問題行動」を繰り返す子ど もを前に自分の「指導力不足」を口にする教師の姿があった。しかし実際には,児童養護施 設等で生活する障害のある子どもの支援に関する実践と研究は未着手の部分が多いのではな いだろうか。もっと実践を検討し合う場,事実を共有する場が必要ではないかと思う。そう した課題があると考え,本報告では児童養護施設からの子どもの教育に携わった特別支援学 級担任の経験の聞き取りを行った。その結果に基づいて,学校や教師の役割について検討 する。

1 .児童養護施設と特別支援学級

 児童養護施設,児童自立支援施設,情緒障害児短期治療施設などの社会的養護を目的とし た児童福祉施設(以下,総称する場合は「児童養護施設等」とする)で生活しつつ,特別支 援学校,特別支援学級,通級による指導という,通常学級とは異なる特別支援教育の場で教 育を受けている子どもの実態は,文部科学省,厚生労働省のいずれにおいても把握されてい ない。そのため,そうした児童生徒数さえ不明である。本研究に先行して実施された埼玉県 児童養護施設等調査によれば,2011年度において同県児童養護施設に入所している義務教育 段階の児童生徒中,15.1%が特別支援学級に,1.3%が特別支援学校に通学していた。同県児

*立正大学社会福祉学部社会福祉学科

キーワード:社会的養護,発達障害,特別支援教育,特別支援学級

児童養護施設で暮らす障害のある子どもにとっての 特別支援教育

Issues of Special Education for Children with Disabilities Living in Children ’ s Homes

中村 尚子

Takako Nakamura

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童生徒全体(義務教育段階)の数値が,特別支援学級1.5%,特別支援学校0.6%(埼玉県特別 支援教育課,2011)であることと比較してみると,児童養護施設で生活する子どもたちの中 での特別支援学級在籍率がきわめて高いことがわかる。

 学校教育の側からすると,すべての特別支援学級に児童養護施設からの通学生が在籍して いるということではないので,児童養護施設在籍児の教育が特別支援学級の一般的な課題と なっているわけではないのだが,特別支援学級の通学校区に児童養護施設がある学校・学級 では施設在籍児にたいする教育は留意すべき課題となっていると推察される。

 たとえば,本研究のT施設に対するヒアリングにおいてもつぎのような話があった。制度 面では,年度当初,施設入所児中の特別支援学級対象児数が学校の特別支援学級数を左右す る。施設入所は年度途中もあるので,年度当初の児童生徒数で学級数を決定することを原則 とする学校教育の制度とはズレがある。また,障害があったりその疑いがあったりして特別 支援学級での教育を希望しても,学級数の増加が望めない場合もあり,通常学級に通ってい る子どももいる。実践面では,施設入所児にしばしばみられる愛着障害に起因するさまざま な行動(もちろん施設入所児に特有のものではなく,生育環境によるものであるが)と障害 に起因する行動の類似や区別などもあり,子どもをいっそう深く理解することが教師に求め られる場面が多くあるという。また,中学校段階の特別支援学級にとって進路・進学問題が 迫ってくるのは当然であるが,施設入所児の場合は,施設生活の年齢期限が高校段階で終了 するため,後期中等教育 3 年間のその先を見通した選択,あるいはその 3 年間,通学しつづ けることができる教育機関を選択することが担任にとっても責任ある課題となる。

 以下,小・中学校の特別支援学級において,児童養護施設在籍児の教育に取り組んだ経験 をもつ教師からのヒアリングにもとづいて報告する。

2 .特別支援学級における教育実践

⑴ 小学校特別支援学級での取り組み

 X児:母親からの虐待により幼児期にS園に入所。小学校特別支援学級在籍。S園を校区 とする小学校には特別支援学級が設置されていないため,別の小学校に通学している。

 教師O:教師歴30年以上のベテランで,特別支援学級を担任歴が長い。Xの 1 ~ 3 年生の 担任。

  1 )入学当初のX

  1 年生入学時,特別支援学級はXを含む 4 人集団。 4 人とも話し言葉はある。Xは勉強が 好きで,楽しんで学習に参加していたが,人との関係を結ぶことに弱さがあった。もっとも 気になったのは,時折,暴力をふるい,形相を変えて暴れることがあったことだ。その時の ことを,Oは「変身」と表現した。それほどの変わりようだった。「変身」を見たほかの子ど もたちは,当然ながらXを避ける。教師がいないときには,子ども集団の中で 3 対 1 になる こともあった。

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 Oは暴力には毅然とした態度をとったが,Xがなぜ「変身」するのか,その理由をつかむ 必要を感じ,生育歴や障害について知りたいと思った。Oは以前に知的障害児施設内の学級 担任の経験があったため,Xの示す行動が障害だけに起因するものではないと考えたのであ る。施設職員との面談で,自身の施設内学級の経験を話し,X自身が自分を肯定するよう支 援するためにも,Xのことをもっと知りたいと思いを伝えたが,施設からXについての核心 に迫る話は聞けなかった。

 しかし,施設入所児への教育経験がXへの理解の基礎となったことは確かだ。「それがな かったら難しかったかもしれない」と語っている。

 「変身」の背景が生育歴にあることを推測しつつ,「みんなと学ぶ楽しさを味わってほしい」

と,学級集団の中にXをどう位置づけるかを考えた。そして学級が安心して過ごせる場にな ること,成長の節目で自分の命を大切に育ててくれた人たちのこと,ともに学び育ちあって きた仲間たちのことを心に貯めて,自分の生い立ちを振り返り,未来に向かって生きていけ る力をつけてほしいと,学級集団を基盤に,絵本の読みとり,絵日記などを通じて,他者の 気持ちを理解し,自分を表現する場面を確実にするよう実践を練り上げていった。

  2 )Xの変化

  2 年生になると,友だちとのかかわりに変化がみられ始めた。子どもたちどうしの話し合 いも少しずつできるようになってきていた。Xは自分をうまく表現できずトラブルになるこ ともあったが,そんなときの不満を下校後,園の指導員に話したりする場面もでてきた。

 Oは絵本『ぐるんぱのようちえん』(作・西内ミナミ,絵・堀内誠一,福音館書店)の十分 な読みとりと活動を展開していったあと,「だめって言われてもぐるんぱががんばれたのは,

ジャングルの仲間たちがいたから」と言ったXのことばに,他者の気持ちを受けとめるXの 成長をみた。

 またあるとき,友だちから「悪いのはX」と言われ,言い返せなかったときに,他の子が

「ちがうよ」と言ってくれたことが,自分のことをわかってくれる他者の存在をXが実感する ことになったと確信した。

 教材を選び,子どもどうしのやりとりやつぶやきに耳を傾け,Xが安心して過ごす場所と しての学級をめざした。

 じょじょに「変身」は減り, 2 年生では結局 1 学期当初の不安な時期に 1 回だけだった。

  3 年生では,『スイミー』(レオ・レオニ作)の読みとりと活動に取り組んだ。『スイミー』

を取り上げることについて,テーマが重すぎるかもしれないと思い,OはS園職員に相談し ている。職員からは園でも読んでいるので「大丈夫だと思う」という返事をもらい, 1 学期 をかけて授業を行った。この授業の最後に,みんなで感想を言いあった時,Xは主人公のス イミーに思いを寄せ,「ぼくはひとりぼっちだったんだ」と自分のことを言葉にした。自分の 気持ちを素直に出したXに対し,クラスの子どもたちは「ひとりぼっちはさみしいよ」「あか ちゃんは一人ではいられないよ」と共感の気持ちを表現した。

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 こうした学級の仲間のなかでのXの成長は,S園職員の学校に対する姿勢に変化をもたら した。保護者面談で来校した職員から初めてXの過去や現在の家族関係が語られ,Oはその 過酷さを知ることとなった。

  4 年生からOは担任を外れたが,園との信頼関係を築き,つぎの担任に引き継ぐことがで きた。

  3 )施設と園の関係

 行政では児童養護施設から通う児童のいる学校の教職員にたいして研修を実施しているが,

Oが在職した数年間には 1 回しかなかった。Xについては,通常学級に通う子どもの通学校 と特別支援学級設置校が異なることも情報を得ることを困難にした。S園と前者の懇談会は 実施されたが(これも継続されてはいない),後者との間には開かれていないのである。

 Oは限られた機会ではあったが,可能な限り,施設職員との話し合いをもった。Xの「過 去」についての情報はなかなか得られなかったが,懇談を重ねる中で,園でのXの生活を知 ることができた。

 園での生活は集団が大きいが,特別支援学級では発達的な共通項もあり小集団で子どもど うしの関わりができる。そんな集団の中でいきいきしたXの姿が成長につながっていると施 設職員から指摘された。また園の中では「園生みんながたいへんさを抱えているので,Xの ように年少で人との関わりに難しさをもっているといじめられる側になることもある」と施 設生活の難しい一面も知らされた。

 園で行っている心理療法の内容なども聞いた。懇談のさい,Oは学校から施設に対してア レコレをしてくださいではなく,学校は何をしたらよいかを聞くという姿勢で臨んできた。

 こうした懇談の中から,Oは児童養護施設で暮らす障害のある子どもにたいして,特別支 援学級で少人数のていねいな教育が行われることの意義を確信したという。だからこそ可能 であれば入学のさいにXの情報をもう少し詳しく知りたかったとOは思っている。しかし,

「施設としては,担任が代わるごとに子どもの説明をしていたのではどんどん広がってしまう という不安や学校への信頼の欠如があったのだと思う」とも言っている。

⑵ 中学校特別支援学級でのとりくみ

 Y児:中学校特別支援学級在籍。家庭の養育困難により入所した児童養護施設の所在地の 中学校に入学。卒業後,高等学校に進学。

 教師P:中学校の教師歴30年以上の中でそのほとんどが特別支援学級担任。Yの中 1 から 3 年まで担任。

  1 )中学校でのY

 近年,全国的に特別支援学級は学級数,生徒数ともに増加傾向にある。中学校特別支援学 級は,小学校時代に通常学級で過ごした子ども,特別支援学級で過ごしてきた子ども,途中 で変更した子どもなど,教育の面でもさまざまな背景をもつ多様な子どもたちがいる。Pの

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勤務校も同様の傾向にある。加えて児童養護施設を校区としているため,特別支援学級在籍 生徒30名ほどのうち, 3 分の 1 ほどが施設からの通学児である。

 Yは知能検査結果で IQ 値が高く,知的障害はないと判定されており,療育手帳は取得し ていない。もちろん言葉も巧みで,「この子がなぜ特別支援学級にいるのかと思わせる生徒」

(P)である。

 小学校からの申し送りによると,入学した 1 年(通常学級)の時から多動で,一時期,通 級指導も受け, 2 年生から特別支援学級に在籍してきた。特別支援学級ではていねいな教育 をつづけられたようだがYの行動がひきがねになって,学級を補助している介助員が何人も 交代するほどの激しい行動がつづいた。

 中学生になって施設生活を送るようになると,生活の安定もあって落ち着きはじめたが,

すぐに「キレる」Y。何かと友だちとトラブルを起こす日々が続いた。Pは「大人への信頼 感をもっていない」という印象をもったという。

 生徒数が増え,同じような学習課題をもつ集団編成での授業が困難な状況であったが,P は教材を工夫して,可能な限り子どもどうしのかかわりあいのある授業を心がけていった。

特に国語の授業では,絵本を読みとり,作品化したり,話し合いをしたりすることで,子ど もどうしの関係づくりに取り組む。Yは一見易しすぎる教材であったにもかかわらず,授業 に参加した。そうしたなかでPは,生活場面ではケンカをすることが目立つYが授業の中で 発する言葉の中に,たとえば,とてもいい関係とはいえない相手の意見に対して,「そうそ う,オレもそうなんだよ」と素直に言うなど,友だちへの共感のめばえを見てとった。

  2 )Yの変化

 Yの「大人への信頼」のきっかけになった出来事がある。

 ある日,いつものトラブルの相手の行動に「キレた」Yに対して,もう一人の担任が喧嘩 両成敗的に強く叱った。納得していない様子のYに対してPは事情を聞く。そこでPは,

ちょっかいを出されてもスルーしようとしたのに叱られたことに対して納得できないとのY の弁をこの担任に話し,担任はYに謝ることにした。Pは次のように語っている。

 「この時の『おとなが間違いを認めて,すぐに謝ってくれた』という事実は,彼にとって大 人を信頼する(ちょっと信頼してもいいかもくらいかもしれないが)一つのきっかけになっ たのではないかと思います。そして,少しずつですが,おとなに『相談』したり,ちゃんと

『聞き』に来たりすることが増えてきました。」

 そうした「大人への信頼」を確信する出来事は続いた。文化祭でやりたい役割ができず荒 れたYは,「(その役割をやることになった子の)気持ちもよくわかるし,折り合いがつかな いんだよ」とPに向かってつぶやいたという。自分の心の内側を言葉にして大人に伝えるこ とができはじめていた。

 こうした「相談する力」は,他者への信頼なしには形成されない。さらにいえば,他者を 受けとめる姿勢なしには信頼は生まれない。中学校特別支援学級での意図的な学習と生活は,

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他者を寄せつけなかったYを少しずつ変えていったといえるだろう。その力は, 3 年生の進 路選択において試されることになる。

  3 )進路選択

 「普通の偏差値の高い高校以外は,負け犬の行くところだ!」。 3 年生になり,進路をどう するか個人面談をしていたとき,Yに向かってPはこう言い放った。

 Yにとって,児童養護施設,特別支援学級でのそれぞれの同級生の進路が目の前にあり,

悩んでいたに違いない。

 Pは特別支援学校高等部も含めて,高等学校の情報を知らせる。公立高校,私立高校,定 時制,通信制,単位制など,通常の教育においても後期中等教育は多様である。学級の取り 組みとして,近隣の特別支援学校高等部や職業科のある高等部などを見学した。施設の側で も,職員とともにこうした学校の見学に出向いた。

 P自身は,特別支援学級卒業後の進路について,Yのような発達障害傾向のある子どもも,

生徒対教師の割合からみて手厚い教育が期待できる特別支援学校高等部へ進学することをす すめる場合も多い。その場合も,職業教育重視の高等部ではなく,普通科でしっかり学び,

自分づくりをしてほしいと思っている。しかし,この地域では発達障害(精神障害者保健福 祉手帳所持)だけでは高等部進学はできないしくみである。

 児童養護施設から通学する障害のある生徒の場合,保護者の意向や施設職員の意見も考慮 して進路決定をする必要がある。施設としては, 3 年後の卒業時点での確かな進路(就職)

と住居が見通せることが高校進学の重要なポイントとなる。Yについて,保護者から具体的 な意向が出されることはなく,Pは施設職員と話し合いを重ね,障害の状態からも本人の意 思からも特別支援学校高等部という選択はなかったので,普通高校という方向で検討した。

 PはYが「自分の将来」について考えることが二つの点で難しいことが気になった。それ は親の仕事や暮らしぶりを見る機会がなく,「大人になったら働く」ということを描くことが 難しいということと,いわゆる「普通の青年」のように高校へ行って大学に行くという道を 簡単に描いているということである。そうした課題は抱えつつも,高校の 3 年間に現実を認 識し,進路を考える力を身につけてほしいとねがい,いまのYの思いにを大事にして高校選 択の話し合いをした。

 特別支援学校高等部は自分の行く場ではないと考えていたYの考えを尊重し,発達障害の ある生徒を受け入れてくれる可能性のある高校選びとなった。その結果, 2 校の私立高校が 候補に上がり,Pとともに見学に行き,入学試験を経てYの希望する学校に決定した。

 卒業のあたって書いた文集には,つぎのように綴っている。

 「高校に行くにあたって,不安がないと言ったら他分ウソになると思うけど,何はともあれ 自分で決めた事なんだから,後悔はないようにしたい。中学校生活はとても楽しかった。迷っ たりとまどったりはしたけど,後悔することは無かった。だから,これから自分が行く高校 でも,楽しい毎日と,後悔しないような学校生活が送れるように頑張ります。」

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3 .特別支援学級での教育

 児童養護施設で生活している子どもの支援を考えるにあたって,小学校,中学校の特別支 援学級の担任からの聴き取りを行った。ある児童養護施設の施設長は,人との関係を結ぶこ とに困難を抱える発達障害傾向の子どもの場合,通常学級に措置されることも多く,「たぶ ん,授業中は外国語を聞いている感じかもしれません」と語っていた。施設では同じような 課題をもつ子ども集団での活動は難しく,「いじめ」にあったり,年齢が高じると「いじめる 側」になることもあるという。学校生活の中で,十分に自分を出せる時間が保障されること は大事なことだといえる。その点では,児童養護施設で生活している子どもたちにとって特 別支援学級での教育の意義を確認しておく必要があると思われる。

①学級集団づくりを基礎にした教育実践

 「Xの変身」に対してOは,問題行動の除去という狭いアプローチを選択せず,学級の子ど も集団,学級の学習と生活を通じてXの内から変化を待った。そのための教材選び,教育内 容の精選には,教師Oのきびしい目があった。また, 1 年生の時,施設職員はXの基本的生 活習慣が身についていないことを心配していた。しかし,そのスキルを取り出して教えると いうのではなく, 3 年, 6 年先を見通した学級生活の中で育つことを見通すことができるよ うな教育の力に,Oはある程度の確信をもっていたと思われる。

 すぐキレる中学生Yの対人関係への対応も,けっして形式的な反省を迫ったり(たとえば

「反省文」を書かせるなど),「ごめんなさい」と言わせたりはしない。信頼できる大人との関 係づくりを軸にすえ,Yのつぶやきの中に,自分との対話や他者理解の芽を読みとっていた。

 Yは卒業文集に,自分の思いをつぎのように綴っていた。

「もちろん嫌な事もあった。例をあげればきりがないが,多分二年生の中盤から後半ぐらい が一番荒れてたと思う。でも,そんな事が起きるたびにまわりの人達が支えてくれて何とか なったりした。だから,と言うわけでもないけど,いつも見守ってくれた,先生やまわりの 大人に感謝」

 年齢面,障害の特徴でも異なるXとYであるが,人と共感しあうことにおいて課題をもっ ていた。障害のみならず生育環境からくる課題でもあったのだが,これにたいして,「行動修 正」的な対応ではなく,学級の仲間と学ぶ生活に,子ども自身が課題を乗りこえる力を蓄え ていく磁場のようなものをつくっていくことに力が注がれていたように思う。二人の教師が

「ベテランであったからできたこと」ではなく,教育の本質に照らして学ぶことを含んだ実践 ではないだろうか。

②学校の役割

 児童養護施設も学校も,子どもにとっては24時間の生活の一部であり,どちらも大人の支 えがあって子どもが育つ環境である。Oはあるとき施設職員と話していて学校の役割を考え ることがあったと,次のように語っている。

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 「学校の役割と施設の役割はちがうんじゃないかっていうのもあって,学校ではやっぱり文 化を獲得しながら,『世の中ってこんなにおもしろいんだね。スイミーみたいに悲しいことが いっぱいあっても,世の中にはこんな楽しいことがある』って希望をもって仲間と一緒に生 きていくみたいなそういうふうな取り組みを学校ではやっていきたいんだって話したら,学 校の先生は,新しいことを教えてくれて,自分を高めてくれる人っていうような存在でいて ほしい,お母さんにはならないでくださいって言われたんです。」

 Oは,こうした学校の役割に応えるためには,「この子たちが生きていて楽しいと思える教 材や活動を用意して出会わせる必要があると思う」ともいう。「何をこの子たちと一緒に学ぶ のか,この子たちにとって質の高い教材とは何か」を追求することこそ,教師の仕事であり 専門性だと考えているのである。

 そうして教師が選び取った教材を工夫して子どもに届け,子どもが自分の内に取り込んだ とき,子どもの中から変化が生まれる。OもYも絵本は読み聞かせるだけの教材ではなく,

「読み取る」ことや登場人物の気持ちになることなどを大事にして,時間をかけて取り組むの である。

③子どもの理解

 児童養護施設で暮らす子どもたちの中には,特別支援学級に在籍することなく,通常学級 ですごす軽度の障害をもつ子どもも多いことはすでに述べた。そうした子どもも含めて,特 別支援教育の推進のもと,通常学校では校内委員会を設置して,困難を抱える子どもについ て協議する態勢をつくっている。障害の有無にかかわらず,生育環境に起因する行動障害の ある子どもも校内委員会の対象ではあるが,十分に機能している学校ばかりではない。

 Oが経験した施設からの情報の提供の問題も,こうした公式の場が整備されると,少しず つ解決していくことが期待される。

 同時にこうしたカンファレンスの場で伝えられる情報の中身も吟味が必要だ。その点につ いて,Pは近年,障害だけでなく貧困や不適切な養育などによって,困難を抱える子どもた ちが増え,「これまでの知識や経験」に頼っていたのでは子どもの状況を見誤ることがあると いう指摘をしている。「子どもを理解する」といって,検査結果を重視する傾向が強まってい ることには疑問も感じているという。

 「子どもをより深く理解するというのは,そういうことだけではないように思います。客観 的な検査結果なども参考にしつつ,その子の生きてきた人生や生活状況に思いをはせて,わ かりたい,理解したいと思い続けること。それを教員集団で話すことが大切なのだと思いま す」と述べている。

 同様のことをOは,先輩教師からの「子どもの悲しみに共感できる教師」という言葉を大 切にしてきたと表現している。虐待や育児放棄という環境の中で生きてきた子どもたちの強 烈な行動をどうとらえたらよいのか悩んでいたときに言われた言葉である。

 Oは,Xの生育歴や施設での生活課題などの情報は必要であったと繰り返していた。それ

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はXを理解する(問題行動の理由を読み解く)上で基礎的な情報であり,「子どもの悲しみに 共感する」ことにつながるはずであったからである。

④施設(福祉)と学校(教育)

 児童養護施設で暮らす子どもの問題を考える上で,子どもについて学校と施設が共通理解 をすることが重要だと一般には言われる。しかし,一般的な理解の段階としても,学校は施 設のことを,施設は学校のことを知る機会はほとんどない。たとえばよって立つ制度やそれ ぞれの機能さえ,相互に理解しあっているとは言いがたい。

 少なくとも学校と教師は,担任する子どもの施設を知る必要はあるだろう。施設職員の勤 務時間や施設での生活時間,生活空間などを,学校とはまったく異なるのであるから,電話 一つにしても配慮ある応対が望まれる。

 児童養護施設からの通学児が増加している今日,教員養成の教育内容に施設問題を入れる などの改善のほか,施設について知るための教員の研修の機会が求められていると思う。

おわりに

 児童養護施設で暮らす子どもの学校教育は,戦後の児童福祉法制定以来の蓄積があり,特 別なケアが必要であるという指摘もなされているが,学校制度においては特別な施策は講じ られていない。施設からの通学している子どもたちの中に,障害のある子どもが含まれてい ることは明らかであっても,日々の教室でこれに対応した実践を検討する機会は十分では ない。

 こうした問題は近年,軽度の障害のある子どもや発達障害のある子どもの教育が注目され たことと,子どもの貧困に焦点があてられたことなどから,関心が高まっていることはたし かなことである。しかし,教育実践の出発点である子どもを理解すること自体に困難がある。

そのようななか,子どもに対して,型通りの行動を「身につける」ことが求められたり,子 どもの行動を分析する尺度が安易に持ち込まれたりする現状もある。

 障害と育ちの双方の背景をもって,「人との関係をうまく結べない」「すぐにキレる」状態 にある子どもに対して,どの子にも効く統一した処方箋はない。子どもの声なき声を聞き,

思いに共感することも簡単なことではない。しかし,それが可能な学校と教師集団をつくる ことをめざしていかなければならないと思う。

 資料・参考文献・資料

厚生労働省雇用均等・児童家庭局(2015)児童養護施設入所児童等調査の結果(平成25年 2 月 1 日現在)

厚生労働省雇用均等・児童家庭局(2009)児童養護施設入所児童等調査結果(平成20年 2 月 1 日現在)

麦の会・品川文雄・越野和之(2009)学びあい・育ち合う子どもたち―明日の授業をつくる.

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全国障害者問題研究会出版部

中村尚子ほか(2013)社会的養護と特別支援教育の連携の可能性をさぐる.2009~2011年度 立正大学社会福祉研究所研究プロジェクト,立正大学社会福祉研究所年報,15, 5 -72 埼玉県教育局特別支援教育課(2011)埼玉の特別支援教育.

東京都教職員組合北支部2015年度教研レポート

参照

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