内モンゴル草原における 大規模炭田開発構造の特徴 *
―西ウジュムチン旗の白音華炭田開発を例として―
那 木 拉
【要旨】
本稿は,内モンゴル優良な草原牧畜地域である西ウジュムチン旗を例として,
2000
年代以降に展開した大規模炭田開発について考察した.内モンゴル草原にお ける大規模炭田開発は,経済成長期における中国エネルギー需要の急伸を背景に,国有重点炭鉱への生産集約化と大型石炭基地の建設が進められる中で展開した.
開発の主体は国家資本を背景にもつ大手国有企業であり,且つ大型機械を導入し た露天掘り方式によって開発が進められた.開発にあたって,対象となる草原の 牧草地は開発主体である炭鉱企業によって牧民に賠償金を支払う形で接収され,
また炭田の開発地の周囲に地元政府による禁牧区が設置された.牧草地を接収さ れた牧民は都市に移住されるものの,なお炭田周辺の草原に残って牧畜業を続け る牧民たちと家畜の受・委託,牧草地の貸借などの関係で結ばれている.他方,
炭田開発による草原環境の破壊は多面的であり,これに対して地元政府は一連の 鉱山環境対策を講じた.
【キーワード】 内モンゴル,草原,炭田,開発構造
* 本稿は筆者の博士学位論文「経済成長期中国・内モンゴル草原の開発構造の特徴に関す る研究―西ウジュムチン旗の大規模炭田開発を中心に」の一部を再構成したものであ る.
はじめに
内モンゴル草原では
2000
年代以降,地下資源開発,観光地開発,酪農村,発 電基地,道路,鉄道,開発区あるいは小都市の建設など産業化の動きはそれ以前 に増して活発になった.これに関して,最近では様々な視点での研究成果が蓄積 されつつある.例えば,「生態移民」政策による酪農経営の収益性に関する分析(達古拉, 2007 ),牧民の乳製品加工工場の設立運営及び周辺牧民の生産活動の変
化に関する検討(蘇徳斯琴, 2010 ),鉄道の建設が牧民の日常生活や伝統文化に与
えた影響の調査(那木拉, 2010 ),観光施設開発の実態と環境・景観保全に関する
調査報告(山口ら, 2011 ),観光行動が草原の植生に与える影響の評価 (曹ら,
2012 ),石炭開発と地元牧畜社会の対応に関する考察 (白, 2013 ),石炭開発地に
おける牧民の生産生活の実態と問題点の提示(司, 2013 ),鉱山開発の影響に関す
る社会経済的分析(蘇徳斯琴ら, 2014 )
などが挙げられる.これらの研究は内モンゴル草原の開発問題に関する最新の事例研究であり,研 究の視点は草原の自然環境と人文社会全般に及ぶ.しかし,開発の背景,開発の 主体と技法,政府の政策と対策,地域住民の対応,土地環境への影響など,開発 にかかわる諸要素の相互関連といった開発構造の特徴を解明した研究は少ない.
これを念頭におき,本稿では内モンゴルを代表する草原牧畜地域西ウジュムチン 旗1に展開した白音華炭田開発を事例に,草原における大規模炭田開発構造の特徴 を明らかにすることを目的とした.
研究方法は,
2012
年7
月20
日〜27
日,2013
年7
月16
日〜22
日と2
回,西 ウジュムチン旗における現地調査を実施した.2012
年の調査では,西ウジュムチ ン旗の発展改革委員会,国土資源局,統計局,都市建設局などの旗政府機関を訪 問し,当該地域の炭田開発を含む社会経済全般に関して,政府関係者へのインタ ビューと,統計,文献などの資料収集を行った.さらに牧草地の一部が白音華第3
号露天掘りに占められたウラントガ・ガチャーを訪問し,炭田開発における企1 内モンゴル牧畜地域における行政レベルは自治区,盟(市),旗,ソム(鎮),ガチャーと 縦順に分かれる.それぞれ中国他省の省,市,県,鎮(郷),行政村に等しい.
業,地元政府,ガチャー及び牧民など各関係者のやり取りと,牧民の牧畜経営の 実態を中心に,ガチャー長と炭田周辺に住む牧民への聞き取り調査を実施した.
2013
年の調査では白音華第3
号露天掘り,少し離れた白音華第4
号露天掘りに 行き,露天掘りの採掘現場とその周辺において写真撮影を行った.1. 中国の石炭産業の動向と大型石炭基地の建設概要
中国の経済は
1980
年代の経済改革を経て,2001
年のWTO
加盟以降,急速な 経済成長を遂げ今日に至っている(元木, 2013 ).こうした経済成長を裏付ける形
で中国のエネルギー消費量は,標準炭2に換算して図1
に示したように,1978
年 の5.7
億t
から2010
年の32.5
億t
にまで大幅に増加したが,とりわけWTO
加 盟後の2002
年以降の増加が著しい.エネルギー消費の構成は石炭,石油,天然ガスとその他のエネルギーがあり,
うち石炭と石油が主である.石炭の場合は埋蔵量が豊富で3
,値段的に安いことか
ら,中国のエネルギー消費量の7
割以上を占めてきた.石炭消費量は1978
年に4
億t
であったが,2010
年に5
倍あまりの22.1
億t
にまで増えた.特に2002
年 以降の中国エネルギー消費量の急増において,石炭消費量の増大は他のエネルギー 源と比べれば顕著であり,エネルギー消費量の2
割を占める石油の年間平均0.3
億t
の増加に対して,年間平均2
億t
も増えた.従って2000
年代における中国 のエネルギー需要の急増に主に対応したのは石炭と言える.一方,経済改革後の中国の石炭生産体制は国有重点炭鉱,地方国有炭鉱と,郷 鎮炭鉱4など
3
つのタイプによって支えられてきた.国有重点炭鉱と地方国有炭鉱 は国或いは地方政府の資金投資によって生産設備と安全対策が比較的充実してい る.これに対して郷鎮炭鉱の場合は,農村労働力による粗末な手堀作業が一般的 である.堀井( 2010 )
によれば,1980
年代から1990
年代半ばまでの中国の石炭2 標準炭:エネルギー量の単位である.
1 kg
標準炭=7000 kcal
3 地質調査によると
5
兆600
億t
の埋蔵量があると推測される(王恩涌ら,2000: 164
).4 郷鎮炭鉱は日本では町村にあたる行政レベルの政府や個人によって経営される炭鉱を指 す.
増産を支えたのは郷鎮炭鉱であるが,郷鎮炭鉱は低い資源回収率,多発する炭鉱 死亡事故,環境問題などの問題を抱えるほか,石炭需要の成長が鈍化した際に生 産量を抑制できない原因にもなることから,中国政府は
1990
年代末から郷鎮炭 鉱の数を強制的に減らし,国有重点炭鉱への生産集約化を進めた.2005
年に中国 国務院は「石炭産業の健全な発展を促進することに関する若干の意見(関于促進
煤炭産業健全発展的若干意見)」を発表し,国有重点炭鉱の生産規模拡大と合併・統合・連携による生産集約化,小型炭鉱
(主に郷鎮炭鉱)
の削減と国有重点炭鉱へ の併合などの動きをさらに強化した.このような国有重点炭鉱への生産集約化が進められる中で,
2003
年に中国国家 発展改革委員会は,既存の炭田を基礎として,石炭埋蔵量,開発の条件と潜在力,市場供給,および交通インフラなどの諸要素を考慮し,神東,晋東,晋中,晋北,
図 1 中国エネルギー消費量の推移
注:①エネルギー量の換算は電熱当量計算法(calorific value calculation)に基づいた.
②“その他”には水力発電,原発,風力・太陽能などの自然エネルギーが含まれる.
(中国統計年鑑2011に基づき作成)
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▴ἔ
▴⅛
蒙東,雲貴,河南,魯西,両淮,黄隴,翼中,寧東,陜北など
13
の大型石炭基 地の建設計画を発表した.さらに“ 12
次5
カ年計画”期( 2011 〜 2015
年)になる と,予備石炭基地であった新疆も加え,国家レベルの大型石炭基地は14
にまで 増えた(表 1 ).
この
14
の大型石炭基地は,既存炭鉱(旧国有重点炭鉱およびその周辺炭鉱)
の 統合と新規開発により建設が進められ,15
省(自治区)
の102
の主要炭田を含む.総面積は
38.33
万km
2であり,石炭保有埋蔵量は中国全体の70 %
以上を占める5.
各石炭基地の地理分布は,神東基地は内モンゴル南部と山西省に,晋東,晋中,晋北など
3
基地は山西省に,蒙東基地は内モンゴル東部と黒竜江省,吉林省に,雲貴基地は雲南省と貴州省に,河南基地は河南省に,魯西基地は山東省に,両淮 基地は安徽省に,黄隴基地は甘粛省と陜西省に,翼中基地は河北省に,寧東基地 は寧夏回族自治区に,陜北基地は陜西省に,新疆基地は新疆ウイグル族自治区に それぞれ分布している.
各基地の
2010
年時点での生産量は,神東基地は4.69
億t ,蒙東基地は 3.9
億t ,晋北基地は 2.95
億t ,雲貴基地は 2.55
億t ,陜北基地は 2.4
億t ,晋東基地は 2.35
億t ,河南基地は 2.07
億t ,魯西基地は 1.72
億t ,晋中基地は 1.35
億t ,両
淮基地は1.3
億t ,新疆基地は 1.1
億t ,黄隴基地は 0.95
億t ,翼中基地は 0.9
億t ,寧東基地は 0.6
億t
である.そして,各基地の主要炭田のうち,内モンゴルに分布するのは,神東基地の神 東炭田,万利炭田,准格尓炭田,包頭炭田,烏海炭田と,蒙東基地の扎賚諾尓炭 田,宝日希勒炭田,伊敏炭田,大雁炭田,霍林河炭田,白音華炭田,勝利炭田,
平庄炭田などである.特筆すべきは,うち白音華炭田は本研究の対象となる.
5 佐川(
2006
)によれば,2003
年時点で13
の大型石炭基地があり,石炭基地は14
の省・自治区に及び,総面積
10.34
万km
2,40
余りの主要炭田を含み,石炭保有埋蔵量は6908
億t
で,全国石炭総埋蔵量の70
%を占める.しかし宋らを代表とする中国科学院 地理科学与资源研究所陆地水循环与地表过程重点实验室(2012
)の研究報告によれば,“
12
次5
カ年計画”期(2011
〜2015
年)では大型石炭基地は14
にまで増えた.この14
の大型石炭基地は15
の省(自治区)に及び,総面積38.33
万km
2,102
の主要炭田を 含む.表 1 中国の 14 の大型石炭基地の一覧及び主要炭田 石炭基地の名称 生産量
(億
t
) 炭田の名称(内モンゴル,陜西)神東
4.96
神東,万利,准格尓,包頭,烏海,府谷(山西)晋北
2.95
大同,平朔,朔南,軒崗,嵐県,河保偏(山西)晋中
1.35
西山,東山,离柳,汾西,霍州,郷寧,霍東,石隰(山西)晋東
2.35
陽泉,武夏,潞安,晋城(内モンゴル,蒙東黒龍江,吉林)
3.9
扎賚諾尓,宝日希勒,伊敏,大雁,霍林河,白音華,勝利,平庄,阜新,瀋陽,鉄法,
扶順,鶏西,七台河,双鴨山,鶴崗
(雲南,貴州)雲貴
2.55
小龍潭,老厂,恩洪,昭通,鎮雄,盤県,普興,六枝,水城,織納,黔北,古叙,筠連
(河南)河南
2.07
鶴壁,焦作,義馬,登封–
鄭州,平頂山,永夏(山東)魯西
1.72
究州,済寧,新汶,棗騰,龍口,湽博,肥城,臨沂,巨野,黄河北
(安徽)両淮
1.3
淮北,淮南(甘粛,陜西)黄隴
0.95
彬長,黄陵,旬耀,銅川,蒲白,澄合,韓城,華亭(河北)翼中
0.9
峰峰,邯鄲,邢台,井径,開灤,蔚県,宣化下花園,張家口北部,平原大型炭田
(寧夏)寧東
0.6
石嘴山,石炭井,霊武,鴛鴦湖,石溝驛,横城,韋州,馬積萌
(陜西)陜北
2.4
楡神,楡横(新疆)新疆
1.1
准東,吐哈,伊犁,庫拜 注:①下線表示の炭田は内モンゴルに分布する炭田である.②表における生産量は2010年の石炭生産量である.
(中国科学院地理科学与资源研究所陆地水循环与地表过程重点实验室,2012: 48より作成)
2. 西ウジュムチン旗白音華炭田における大規模な開発 2‒1. 西ウジュムチン旗の概況
“ウジュムチン”
はモンゴルの一氏族(部落)
の名前であり,“葡萄を採取する人”という意味である.ゴ・ラファ
( Go ・ rahua ) ( 1998 )
によれば,ウジュムチンモ ンゴル人は昔モンゴル国のハンガイ地域6周辺に遊牧しながら野生の葡萄を採集し てモンゴルの皇族に奉納するワインを作っていた.1637
年,モンゴル高原におけ る社会と政治的変移により,ウジュムチンモンゴル人は現在の中国の内モンゴル 草原に移り住んだ.後に清朝のモンゴル地域における旗の設置によってウジュム チンモンゴル人の居住地は東ウジュムチン旗と西ウジュムチン旗に二分された.本研究の対象地はこのうちの西ウジュムチン旗である.
西ウジュムチン旗は内モンゴルのシリンゴル盟の東部に位置し,行政編成はバ ラガルゴル鎮,白音華鎮,ホールトゴル鎮,ジリンゴル鎮,ゴリハン鎮とバイン ホシュ ・ ソムなど
5
鎮,1
ソムに画される(図 2 ).これらの鎮・ソムの下にはさ
らに93
のガチャーが管轄され,旗全体の行政の中心地はバラガルゴル鎮に位置 する.西ウジュムチン旗の総土地面積は
22434.5 km
2であり,土地面積の98.65 %
は草 原である7.
草原の種類は草甸草原( meadow steppe )
8と典型草原( typical steppe )
9 に分かれるが,典型草原が大部分を占める.地域全体の海抜は835 〜 1957 m
であ り,地形的に南東から北西へと傾斜している.気候は大陸性半乾燥気候である.年間平均降水量は
350 mm
であり,旗南東から北西方向に向かって降水量が次第6 モンゴル国のアルハンガイ県とその周辺である.
7
2004
年から2012
年までの西ウジュムチン旗各年次の統計年鑑によれば,この間当地の草原面積は全く変化がない.しかし
2004
年以降当地では大規模炭田開発が進められ ており,実際に草原面積は減少していると思われる.8 草高
60
〜80 cm
,植皮率70
〜80
%,代表種はイネ科の貝加尓針茅(stipa baicalensis
),線葉菊(
filifolium sibiricum
)などである.9 草高
40
〜60 cm
,植皮率50
〜60
%,代表種はイネ科の大針茅(stipa grandis
),克氏針 茅(stipa krylovii
),本氏針茅(stipa bungeana
)などである.に減少する.年間平均気温は
1 ℃
であり,冬は最低 37 ℃,夏は最高 37 ℃
にま で達する.鉱物資源は石炭,鉛,亜鉛,銅などが豊富である.西ウジュムチン旗はモンゴル族を主とする草原牧畜地域である.過去の
100
年 間に西ウジュムチン旗に隣接するホルチン地域10は農耕の入植によって半農半牧 地域へと変貌したが,当地は牧畜地域として存続してきた11. 2011
年の総人口は78560
人であり,民族別人口構成は,モンゴル族は53530
人( 68.1 %),漢民族は
10 現在では興安盟,通遼市,赤峰市をまとめて指す.
11 多田(
1948
)によれば農牧境界線は1930
年代にすでに西ウジュムチン旗と赤峰市の林 西県の間を通っていたが,その後もそこにとどまり今日に至る.図 2 西ウジュムチン旗の地理位置と行政編成 ࢨࣛࣤࢥࣜ┍
けࢩ࣑ࣖࢲࣤ᪕ හ࣓ࣤࢥࣜ⮤༇
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࣭࣌ࣜࢹࢥࣜ㙘
Ⓣ㡚⳱⅛⏛
23918
人( 30.4 %),回族,満族などその他の民族は 1112
人( 1.4 %)
である.ま た都市と牧畜区別人口構成は,都市人口は34929
人( 44.5 %),
牧畜区人口は43631
人( 55.5 %)
である.家畜は牛,馬,ラクダ,羊,ヤギに分かれて,それぞれ136017
頭,20214
頭,690
頭,1549095
頭,135408
頭である.ところが,産業 別地域生産額は,牧畜業を代表する第1
次産業は10.01
億元( 11.3 %)
であり,こ れに対して第2
次産業は68.98
億元( 77.7 %),第 3
次産業は9.75
億元( 11 %)
で ある.特に第2
次産業における工業は61.28
億元であり,地域産業全体の7
割近 くを占める.2‒2. 白音華炭田の開発案
西ウジュムチン旗全域に
8
カ所の炭田があり,埋蔵量は合わせて500
億t
あま りと推測されている.うち埋蔵量と開発条件に優れるのは白音華鎮に分布する白 音華炭田である(図 2 ).白音華炭田は平均厚さ 16 m
の3
つの炭層に分かれ,南 西から北東方向へと分布している.炭田面積は510 km
2,埋蔵量は 140.7
億t
で ある.石炭の種類は主に工業燃料用の褐炭であり,平均発熱量は18.52 MJ
/kg
に 達する12.
2004
年10
月に西ウジュムチン旗政府が作成した「白音華炭田開発総企画」が 中国国家発展・改革委員会によって批准され,4
つの大型露天掘りによる白音華 炭田の開発案が決定された.この4
つの露天掘りは白音華第1
号露天掘り,白音 華第2
号露天掘り,白音華第3
号露天掘り,白音華第4
号露天掘りなどである.白音華第
1
号露天掘りは白音華炭田の最南西端に位置する.露天掘りの面積は17.82 km
2,採掘深度は 200 m ,採掘可能な石炭埋蔵量は 7.38
億t
である.白音華第
2
号露天掘りは白音華炭田の中南部,白音華第1
号露天掘りの北東に 位置する.露天掘りの面積は28.48 km
2,採掘深度は 200 m ,採掘可能な石炭埋
蔵量は9.9
億t
である.白音華第
3
号露天掘りは白音華炭田の中部,白音華第2
号露天掘りの北東に位 置する.露天掘りの面積は34.66 km
2,採掘深度は 220 m ,採掘可能な石炭埋蔵
12
J
(ジュール)は仕事・熱量・エネルギーのSI
単位.1 J
は0.24
カロリーに等しい.1 MJ
は100
万J
に等しい.量は
13.31
億t
である.白音華第
4
号露天掘りは白音華炭田の最北東部に位置する.露天掘りの面積は36.89 km
2,採掘深度は 430 m ,採掘可能な石炭埋蔵量は 10.4
億t
である.うち白音華第
1
号露天掘りは後述するように,その前身は旧白音華炭砿であり,白音華炭田全体の開発案に先んじて
2004
年2
月からすでに大規模開発が始まっ た.なお2006
年1
月に白音華炭田は中国国家発展・改革委員会と国土資源部に 国家企画炭田13に指定された.2‒3. 白音華炭田開発の主体
白音華第
1
号露天掘り;
白音華第1
号露天掘りの開発は1992
年に地方国有炭鉱 である旧白音華炭鉱の設立にまで遡るが,その開発の規模は小さく,年産15
万t
に留まっていた.2003
年11
月に内モンゴルの赤峰市に本社を置く大手国有石炭企 業平庄煤業集団公司は西ウジュムチン旗政府と正式に契約を交わし,翌年の2
月に 旧白音華炭鉱を買収し,年産700
万t
白音華第一号露天掘りに改造した.総投資 額は23
億元,採掘可能年数は70
年であり,2012
年の従業員数は246
人である.白音華第
2
号露天掘り; 2003
年12
月に大手国有エネルギー企業である中国電 力投資集団公司とその子会社である中国電力投資蒙東能源集団公司14両社がそれ ぞれ75 %, 25 %
の出資比率で30.05
億元を投じて白音華煤電有限責任公司を設 立した.白音華煤電有限責任公司は電力,石炭の生産・販売,鉄道の建設,電力 と石炭開発に関する技術的サービス提供などを業務とする会社であり,2007
年10
月から白音華第2
号露天掘りの建設・開発に取り掛かった.石炭生産能力は第1
期,第2
期と二つに分かれ15,第 1
期では年産500
万t ,第 2
期では年産1500
13 国家が定めた「鉱山建設企画」と「鉱山資源企画」に基づき,大型炭鉱の開発対象に劃 された炭田を言う.
14 前身は内モンゴル通遼市に本社を置く霍林河煤業集団公司であり,
2004
年9
月に中国 電力投資集団公司に併合され,中国電力投資霍林河煤電集団公司となる.2008
年1
月 に中国電力投資蒙東能源集団公司と改名され,中国電力投資集団公司に代わって内モン ゴル東部にある白音華煤電有限責任公司,元通発電公司,元宝山発電公司,大板発電公 司などを管理する.15 西ウジュムチン旗政府の資料では具体的な時期が記されていない.
万
t
に達すると計画されている.総投資額は69
億元,採掘可能年数は45
年であ り,2012
年の従業員数は681
人である.白音華第
3
号露天掘り; 2005
年4
月に大手国有エネルギー企業である中国電 力投資蒙東能源集団公司は西ウジュムチン旗政府と正式に契約を交わし,同年6
月から白音華第3
号露天掘りの建設・開発に取り掛かった.石炭生産能力は最終 的に年産1400
万t
に達すると計画されている.総投資額は60
億元,採掘可能な 年数は89
年であり,2012
年の従業員数は175
人である.白音華第
4
号露天掘り; 2006
年3
月に中国遼寧省に本社を置く大手国有鉱山 企業遼寧阜新鉱業集団公司は西ウジュムチン旗政府と正式に契約を交わし白音華 第4
号露天掘りの建設・開発に取り掛かった.石炭生産能力は3
期に分かれ,第1
期では年産500
万t ,第 2
期では年産1000
万t ,第 3
期では年産2400
万t
に 達すると計画されている.第1
期における投資額は22
億元,露天掘りの採掘可 能な年数は118
年であり,2012
年の従業員数は758
人である.2‒4. 炭田開発としての露天掘り
白音華炭田の
4
つ露天掘りは,それぞれの開発企業によって生産設備,開発技 術などにおいて多少異なる点はあるが,石炭生産の工程は基本的に土砂の剥離と 石炭採掘と二つに大別される.2013
年7
月20
に筆者は西ウジュムチン旗政府関 係者の協力を得て,白音華第3
号露天掘りの採掘現場を見ることができた(写真 1 ).
そこでの生産工程は,まずショベル型掘削機で炭層を覆っている土砂を剥離し,
剥離した土砂を半固定式クラッシャーで砕き,これをベルトコンベヤで露天掘り 外の排土場16まで運び,ダンプ機によって堆積させる.そして土砂の剥離工程が 終わると,ショベル型掘削機を用いて石炭を採掘し,採掘した石炭を半固定式ク ラッシャーで砕き,これをベルトコンベヤで露天掘り外の貯煤場17にまで運ぶ.
西ウジュムチン旗政府関係者の説明によれば,白音華第
3
号露天掘りは機械化16 露天掘りの開発過程で排出した土砂を堆積する場所のことを言う.
17 露天掘りから採掘した石炭を一時的に保管する場所.ここからトラック或るいは鉄道に よって他へ運ばれる.
レベルが比較的高い炭鉱であり,白音華第
1
号露天掘りの場合は,土砂の剥離と 石炭採掘工程何れもショベル型掘削機―トラックという開発方式を採用している.つまり,ショベル型掘削機によって土砂の剥離と石炭の採掘が行われ,剥離した 土砂と採掘した石炭をその場でトラックに積み,露天掘り外の排土場と貯煤場に 運ぶ.
3. 白音華炭田開発と牧畜社会の関係
白音華炭田のように草原牧畜地域を対象にした開発は,草原を転用することに よって,すでに草原に定着し,草原を生活と生産基盤とする牧畜社会と根本から 対立することは言うまでもない.従って草原における炭田開発はその展開の第一 歩として,開発主体である企業側の資金,設備・技術,労働力などの初期開発条 件を要する以外,開発の対象となる草原牧畜社会の譲歩も不可欠である.
写真 1 白音華第 3 号露天掘りの採掘現場(2013 年 7 月 20 日に撮影)
ここでは土地の一部が白音華第
3
号露天掘りの開発対象となったウラントガ・ガチャーを事例に,炭田開発と牧畜社会の関係を見てみよう.この際,現在内モ ンゴルの牧畜社会の基礎組織であるガチャーについて紹介する必要がある.ガ チャーは
1980
年代初頭に人民公社の解体に伴って誕生した.一つのガチャーに 一般何十戸から百何十戸の牧戸が所属しており,これらの牧戸は農耕地域の村の ように住民が集住するのではなく,各自の鉄網で囲まれた牧草地の中に家屋,畜 舎,井戸などを整備して互いに離れて住む18.ガチャーの日常的政務はガチャー
委員会によって行われるが,ガチャー長,ガチャーの共産党書記を含む委員会の メンバー全員はガチャーの牧民の中から選挙によって選出される.なお選挙は3
年ごとに一度行われる.ガチャー委員会の役割は国家或いは各級地方政府が発表 した政策・方針の牧民への伝達,また政策の執行,牧民たちの意見,生産,生活 の状況,自然災害などの突発的な出来事の上級機関への報告などとして,各級行 政政府と牧民を連結している.3‒1. ウラントガ・ガチャーにおける土地の接収
ウラントガ ・ ガチャーは
1985
年に成立した.2012
年の戸籍上人口は574
人( 145
戸)である19.土地面積は 459213.7
ムー20であり,うち439568
ムー( 95.7 %)
はガチャーの個人が請け負っている.
2005
年に白音華第3
号露天掘りの開発が始 まり,ウラントガ・ガチャーの土地の一部は開発の対象となった.中国では土地 と鉱物資源の権利は国家所有であるため,国家資本による鉱山開発は土地の接収 を前提に進められる.ウラントガ・ガチャーでは2005
年から2012
年(現在)
ま でに延べ53
牧戸の43958.4
ムー土地が炭田開発用に接収された21.
牧民は土地を接収される際に,土地の権利
(利用権)
22に対する「草原補償金」と,土地を失った後の生活を保証する意味での「安置補償金」などが支払われた.
18 ここでは
1990
年代草地分割利用制度導入後のガチャーの住環境を指す.19 炭田開発や禁牧政策などによって都市に移住した人口を含む.
20
1
ムー≒0.667 ha
21 土地の一部が接収される牧戸を含む.
22 中国では集団あるいは個人の土地の権利は土地の利用権,或いは経営権を指す.
うち「草原補償金」は,
70 %
が土地を接収された牧民に支払われ,残りの30 %
がガチャーの共同資金となった.これは,土地の権利に関してガチャーは請け負 う主体からである23. 2005 〜 2012
年までにウラントガ・ガチャーに計42106778
元の「草原補償金」が支払われた.「草原補償金」と「安置補償金」の補償金額は国によって定められるが,物価,
土地の価額などの原因で接収された時期によって異なる.ウラントガ・ガチャー では,
2005 〜 2008
年の間に「草原補償金」は783.3
元/ムー,「安置補償金」は939.96
元/ムー,2008 〜 2010
年の間に「草原補償金」は856.8
元/ムー,「安置 補償金」は1071
元/ムー,2010 〜 2012
年(現在)
までに「草原補償金」は1150
元/ムー,「安置補償金」は2300
元/ムーである.なお上記2
項目の補償金は,国と各級地方政府が「安置補償金」の
30 %
を負担し24,開発の主体である炭鉱企
業が残りを負担している.3‒2. 禁牧区の設置
後述するように,草原における炭田開発は直接的に草原を破壊するだけではな く,炭田開発の過程に剥離された土砂,石炭を運搬するトラック,地下水脈の変 化などによって炭鉱周辺の草原にも影響を及ぼす.内モンゴルフルンボイル市の 伊敏河露天掘り周辺の草原では,炭田開発以前に牧草生産量は
1
ムーあたり100 kg
であったが,開発後に85
㎏ にまで減少したという調査報告がメディアによって 報道されている25.こうした炭田開発による周りの草原への影響において,最も
被害を受けるのはそこに暮らす牧民たちである.従って炭鉱企業と炭鉱周辺の牧 民の間に矛盾が生じる.実際に2011
年5
月11
日に,西ウジュムチン旗では牧草 地の破壊に抗議した牧民が石炭を運ぶトラックに轢き殺される事件が発生した.これを機に牧民及びその子女
(学生)
たちによる抗議活動がシリンゴル盟各地に広23 内モンゴルの牧畜地域では,ガチャーが国から土地の権利を請負って,それをまた牧民 個人に請け負わせるという構図になっている.
24 炭鉱企業が国と各級地方政府に納付する探鉱権使用費,採鉱権使用費,鉱業権代金,鉱 物資源補償金などから捻出されている.
25
2010
年7
月18
日付けの人民日報電子版による.まり,最終的に政府による厳戒令が出される事態にまで発展した.
こうした問題に対処する方法として西ウジュムチン旗政府は,旗内のすべての 炭鉱
(外郭)
より1 km
以内の草原を禁牧区とし,禁牧区に家屋や畜舎などの基礎 施設をもつ牧民を強制的に都市に移住させた.移住先としては,旗政府所在地で あるバラガルゴル鎮と白音華鎮が指定された.これによって炭田開発の対象とな る草原地帯は図3
のように,炭鉱,禁牧区,牧畜区と3
つに分かれ,炭鉱と牧民 の間に,両者の関係を緩和する緩衝帯が作られた.禁牧区の牧草地は国が実施している「禁牧政策」の適合対象となり,
1
ムーあ たりに毎年6.36
元が支給される.禁牧区に家をもつ牧民は都市に移住される際 に,家族員1
人に付き8
万元の移住費用が西ウジュムチン旗政府によって支給さ れた.さらに牧民は都市に移住しても,牧草地に対する権利は保留される.しか し,禁牧区は文字通り牧畜業を営むことが禁じられているため,実際に禁牧区の図 3 炭田開発の対象となる草原地帯の概念図
⚏∶༇ ∶⏾༇
⅛㖌
牧草地は秋の草刈にしか利用できない.
2012
年時点でウラントガ・ガチャーの30
牧戸の53728
ムー土地は炭鉱外縁の禁牧区に指定された26.
3‒3. ウラントガ・ガチャーの対応
前述したようにウラントガ・ガチャーは,土地の一部が白音華第
3
号露天掘り に占用されたものの,「草原補償金」42106778
元のうち,30 %
がガチャーの共同 資金となった.ウラントガ・ガチャー委員会はこの資金を頼りに,家畜の品種改 良,若い牧民の職業訓練,牧民の福祉向上などにつとめた.例えば,①ウラントガ・ガチャーは,当ガチャーの牧民が肉と乳の産出が良い ホルスタイン牛の飼育を奨励し,ホルスタイン牛一頭に付き輸入金額の
60 %
を 補助した.2006
年から2012
年の間に当ガチャーの40
牧戸は吉林省から519
頭 のホルスタイン牛を輸入し,これにガチャーの共同資金から137
万元の補助金を 出した.②若い牧民の職業訓練及び起業をバックアップする基金を設立した.当 基金によってウラントガ・ガチャーの若者40
名にトラックの運転など実用技術 の職業訓練を受けさせた.またガチャーの牧民は都市に移住して起業する場合,当基金から起業資金の
60 %
を無利子で借りることができる.③60
歳以上の牧民 の社会保険はガチャーの共同資金によって納められている.3‒4. 牧民の対応
ウラントガ・ガチャーにおける聞き取り調査では炭田開発に土地を接収された 牧民と禁牧区に家をもつ牧民は都市に移住する際に,所有家畜の一部を仲買人に 売り,残りをガチャーの牧畜業を営む親戚や知人に委託しているケースが多いこ とが分かった.これは強制的移住によって家畜を処分しなければならないことが 仲買人につき込まれ,家畜が安売りされるのを避けるためであり,また都市移住 後のリスクを軽減するためでもある.他方,炭鉱を囲む禁牧区の牧草地はほぼガ チャーに残る牧民によって秋の草刈り用に利用されている.つまり都市に移住さ れた牧民とガチャーに残った牧民は,家畜の受・委託と牧草地の賃借関係によっ
26 土地の一部が禁牧区に指定される牧戸を含む.
て結ばれている.ここではいくつかの具体的事例を見てみよう.
家畜を受託した事例
;
牧戸A
はA
夫婦,A
の長男夫婦,A
の次女,A
の末子 と,A
の孫娘(長男の子供)
などからなる7
人家族である.うち都市に働いてい る末子と学校に通っている孫娘を除けば,ほかは牧畜業に従事している.A
の請 け負う牧草地面積は7106
ムーである.牧草地面積は家族員数,牧草地の位置と 質量などに基づき,ガチャーによって決められた.現地調査時点でA
の飼育家畜 数は羊と牛に分かれて,それぞれ521
頭,76
頭である.うち羊53
頭と牛2
頭は,2005
年に白音華第3
号露天掘りの開発によって牧草地を接収された親戚から受託 した.A
は家畜を受託する代わりに,家畜の羊毛刈と牛の乳搾り権利を取得して いる.牧草地を借用した事例
;
牧戸B
は,B
夫婦と20
代の息子からなる3
人家族で あり,家族全員が牧畜業に従事している.B
の請け負う牧草地面積は2430
ムー である.現地調査時点でB
は,羊236
頭,ヤギ46
頭,牛13
頭を飼っていた.B
は今年( 2012
年)から畜舎を増築し,牛の飼育規模を拡大させる計画を立ててい る.経営規模拡大による家畜飼料の需要増大を見越して,去年( 2011
年)B
は,牧草地の一部が白音華第
3
号露天掘りの開発によって接収された牧戸の禁牧区に ある牧草地200
ムーを借りた.賃料は1
ムーあたり毎年2.6
元である.家畜の受託と牧草地の借用が並行した事例
;
牧戸C
は,C
夫婦と小学に通う一 人の娘からなる3
人家族である.C
の請け負う牧草地面積は615
ムーである.現 地調査時点で羊336
頭を飼育しているが,うち220
頭は白音華第3
号露天掘りの 開発によって土地の一部が接収された当ガチャーの牧民から受託したものである.家畜を受託する代わりに,依頼主の禁牧区にある牧草地
1100
ムーを無料で借り ている.以上のように,草原をベースとした牧畜地域における炭田開発に伴い,牧民の 社会にさまざまな形の,牧草地の貸借,あるいは家畜の受委託などの変化があら われた.いずれにせよ,炭田開発が影響を及ぼしてきたことを窺うことができよ う.
4. 炭田開発による草原環境の破壊と対策 4‒1. 草原環境の破壊
既述したように白音華炭田開発はすべて露天掘りによる開発であり,その工程 は土砂の剥離と石炭採掘と二つに分かれる.土砂の剥離工程では地上の植生,土 壌層などが剥離されるため,露天掘りの面積と同等の面積の草原が破壊される.
また各露天掘りの採掘深度は
200 m
以上であり,炭田開発によって草原の地下水 脈も破壊される.実際に宋らを代表とする中国科学院地理科学与資源研究所( 2012 )
の研究報告においても,露天掘りによる地下水脈破壊の事例が報告されて いる.露天掘りから排出された土砂は露天掘りに隣接する草原
(排土場)
に堆積され る.写真2–1 , 2–2
に撮したのは,白音華第3
号露天掘りから排出された土砂の 山である.この土砂の山によって一部の草原が埋没された.さらに写真2–2
では 土砂の山は風や水によって浸食が進んでいることが分かる.こうした浸食によっ て土砂は周辺の草原に運ばれ,そこでも草原の埋没が発生する.露天掘りから石炭と土砂を運び出すトラックは,露天掘り周辺の草原を行き来
写真 2 白音華第 3 号露天掘りから排出された土砂の山(2013 年 7 月 20 日撮影)
注:①写真2–1は白音華第3号露天掘りから排出された土砂の山である.
②写真2–2は白音華第3号露天掘り周辺の浸食が進んでいる古い土砂の山である.
2
1
して,そこにタイヤの跡による道を作った.写真
3–1 , 3–2
に撮したのは白音華 第3
号露天掘り周辺にできたタイヤの跡による道である.こうした道は風と雨の 作用によって浸食が進み,時間が経つにつれて道両側の裸地化が拡大する.さら に道に雨水が溜まったり,窪みができたりとすれば,トラックはその隣を走り,新たなタイヤの跡による道を作る.こうしてトラックのタイヤによる草原の破壊 は広がっていく.
写真 3 白音華第 3 号露天掘り周辺の草原にできたタイヤの跡(2013 年 7 月 20 日撮影)
注:①写真3–1は白音華第3号露天掘り周辺のトラックのタイヤによる道である.
②写真3–2は白音華第3号露天掘り周辺の使われなくなった古い道である.
2 1
2 1
写真 4 白音華第 3 号露天掘りから排出された土砂(2013 年 7 月 20 日撮影)
注:①写真4–1は白音華第4号露天掘り周辺の地盤沈下によってできた湖である.
②写真4–2は湖に水没した森と湖周辺の草原にできた地割れの様子である.
写真
4–1 , 4–2
に撮したのは白音華第4
号露天掘り周辺の様子である.地元の 案内人の紹介によれば,白音華第4
号露天掘りより北東側に500
ムーほどの森林 があり,その周辺は平らな草原であった.2013
年5
月中旬ごろに露天掘りより北東約
100 m
と200 m
離れた草原では地面の陥没が起こり,そこに地下水が溜まりこんで二つの湖が出現した.写真
4–1
は露天掘りより100 m
離れたところの湖 である.写真4–2
では,湖周辺の草原に数多くの地割れが現れ,上述した500
ムー森林の一部が水没して枯れている様子が確認できる.4‒2. シリンゴル盟政府の鉱山環境政策
西ウジュムチン旗を管轄するシリンゴル盟政府が
2008
年に発布した「シリン ゴル盟鉱物資源総合企画(錫林郭勒盟鉱産資源総体規画)」によれば,当盟は炭鉱
を含む地域内にある鉱山を,鉱山環境重点保護区,鉱山環境重点予防区,鉱山環 境重点修復区,鉱山環境一般修復区と4
レベルに分類して対処している.鉱山環境重点保護区は,開発によって生態環境が著しく破壊される地域,都市 近郊,国道・省道・鉄道より
500 m
以内,重要な湖沼と河川より300 m
以内,ダ ム付近,自然保護区,歴史あるいは地質遺跡など国によって開発が禁じられてい る地域などを指す.ここでは鉱物探査,採掘などの行為が禁止されている.鉱山環境重点予防区は,開発によって生態環境あるいは地域住民の生産・生活 に重大な危害を及ぼす地域を指す.ここでは鉱物探査と採掘は厳しく制限されて いる.
鉱山環境重点修復区は,計画経済期に建設された旧国有鉱山,閉山後に責任者 が見つからない鉱山,開発による環境破壊が非常に深刻で,且地域住民の生命と 財産をひどく脅かしている鉱山などを指す.ここでは主に廃棄鉱山の穴埋め,地 面陥没と地割れの補填,廃棄鉱山及び排土所の復墾,植皮回復などの措置が取ら れている.シリンゴル盟では,鉱山環境重点修復区に画された鉱山は
3
か所あり,それぞれ西ウジュムチン旗の白音華炭田,哈達図炭鉱と,シリンホト市の勝利炭 田である.
鉱山環境一般修復区は開発によって環境破壊が進んでいる地域を指す.ここで も上記のような廃棄鉱山の穴埋め,地面陥没と地割れの補填,廃棄鉱山及び廃土
所の復墾,植皮回復などの措置が取られている.シリンゴル盟では沙麦タングス テン鉱山,烏尼特炭田,西大倉炭田,朱日和貴金属鉱山などが一般環境修復区に 画された.
さらに鉱山の環境修復に関しては,シリンゴル盟政府は表
2
に示したように短 期( 2010
年),中期( 2015
年),長期( 2020
年)と3
期に分かれた目標を立てた.短期の目標では,鉱山環境総合修復率を
35 %
に,新規,現役,廃棄鉱山の環境 修復率をそれぞれ100 %, 70 %, 50 %
に,新規・建設中鉱山の土地復墾率を75 %
に,1999
年以前の廃棄鉱山の復墾率を30 %
に,などと設定した.中期の目標で は,新規鉱山環境回復率を100 %
に維持したまま,鉱山環境総合修復率を40 %
に,現役,廃棄鉱山の環境修復率を85 %, 80 %
に,新規・建設中鉱山の土地復 墾率を80 %
に,1999
年以前に閉山された鉱山の復墾率を40 %
にと,それぞれ 引き上げる.長期の目標では,新規,現役,廃棄鉱山の環境修復率を一律100 %
に設定し,鉱山環境総合修復率を50 %
に,新規・建設中鉱山の土地復墾率を85 %
に,1999
年以前に閉山された鉱山の復墾率を50 %
にと,それぞれ引き上げる.このような目標達成にあたって,シリンゴル盟政府は,新規参入の鉱山企業に 対して,一定の環境保全基準を設けると同時に,環境誓約書を交わし,環境保全・
修復保証金を抵当に預かっている.建設中,あるいは生産を行っている鉱山企業 に対して,環境保全・修復状況に関する審査を
3
年ごとに1
回実施し,不合格な 企業に対して改善命令を出す,罰金を科す,生産を中止させるなどの措置を取っ表 2 シリンゴル盟政府が発表した鉱山環境修復と土地復墾目標
内容
2010
年2015
年2020
年 鉱山環境総合修復率35
%40
%50
% 新規鉱山環境修復率100
%100
%100
% 現役鉱山環境修復率70
%85
%100
% 廃棄鉱山環境修復率50
%80
%100
% 新規・建設中鉱山の土地復墾率75
%80
%85
% 廃棄鉱山(1999
年以前)の土地復墾率30
%40
%50
%(シリンゴル盟鉱物資源総企画,2008年より作成)
ている.また閉山した鉱山企業に対して,閉山後の鉱山の環境保全・修復状況を 検査し,不合格な場合はやり直しを命じる,保証金から一部を環境修復費用にあ てるなどとしている.
結論
本稿は,
2000
年代以降内モンゴル草原に展開した,大規模炭田開発構造の特徴 について考察した.その結果を次のようにまとめることができる.第
1
は,内モンゴル草原における大規模炭田開発は,経済の急成長に伴う中国 全体のエネルギー需要の急伸を背景に,中国政府による国有重点炭鉱への生産集 約化と大型石炭基地の建設が進められる中で展開した.第
2
は,国家資本を背景にもつ大手国有企業が開発の主体となり,大型機械を 導入した露天掘り方式によって開発が進められた.第
3
は,炭鉱企業と地元政府が一体となって牧畜民の世界であった草原の開発 がすすめられ,その方式は炭田の開発地の周囲に禁牧区,その周囲を牧畜区に分 ける形で開発に伴う影響を軽減する対策をとり,一方草地や家畜を失うことになっ た牧民に対しては賠償金を支払う形で対処するというものであった.これに対し て当地に生活してきた牧民たちは家畜の受・委託,牧草地の貸借などの方法でお 互いに連携を取りながら対応している.第
4
は,炭田開発は草原の植生,土壌層,地下水脈を直接的に破壊するだけで はなく,炭田開発の過程に剥離された土砂,石炭を運搬するトラック,地下水脈 の変化などによって炭鉱周辺の草原にも影響を及ぼしている.こうした炭鉱を含 む鉱山企業全般に対して,シリンゴル盟政府は,域内にある鉱山を,鉱山環境重 点保護区,鉱山環境重点予防区,鉱山環境重点修復区,鉱山環境一般修復区と4
レベルに分類し,探鉱,採鉱の禁止,廃棄鉱山の穴埋め,地面陥没と地割れの補 填,廃棄鉱山及び排土所の復墾,植皮回復などの措置を取っている.さらに鉱山 企業に対して,環境保全基準を設けると同時に,環境誓約書を交わし,環境保全・修復保証金を抵当に預かっている.
なお本稿は草原における大規模炭田開発を事例としたが,炭田開発に関してよ
り正確な議論を展開するためには,炭田の石炭をほかへ運搬するに使われる鉄道,
道路,石炭を原料とする火力発電所と工業団地,また上記の産業施設に働く労働 者或いは開発によって牧草地を追われた牧民を収容する新しい都市などについて も検討する必要がある.これを今後の課題とする.
謝辞
本稿をまとめるにあたって,立正大学経済学研究科の元木靖名誉教授には,終始ご 指導をいただいた.記して心よりお礼を申し上げます.
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