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論 文 内 容 の 要 旨
【研究目的】
新人看護師が患者をどのようにとらえ、個々の患者の状況に応じて援助を展開していくのかに着 目し、新人看護師の看護実践の変化を、体位変換場面を通して明らかにする。
【研究方法】
参加観察法と半構成的面接法による質的記述的研究である。調査場所は、外科・内科の混合病棟 と、内科病棟の2病棟である。同意を得た5名の新人看護師を研究参加者とし、2009 年4月から 2010年1月、並びに2010年4月から2010年11月までフィールドワークを行った。データ収集は、
新人看護師1名につき週1回の参加観察を行い、面接は、援助直後やその日の業務終了後、並びに 3ヶ月毎に行った。そこで得られたデータを研究目的に添って再構成し、経時的変化の段階ごとに 特徴を引き出し、各新人看護師のデータから共通して見出された点について検討した。
【倫理的配慮】
調査期間が長期にわたるため、3ヶ月毎に調査協力への同意を確認しながら継続した。就職直後 の看護師が対象であるため、精神面や業務状況を考慮し患者の安全確保に配慮した。なお、日本赤 十字看護大学研究倫理審査委員会、及び当該病院の研究倫理委員会の承認を得て実施した。
【結果】
就職直後から8ヶ月余りに及ぶ実践を、その変化に応じて5段階に区分したが、体位変換技術を 習得する過程で患者のとらえ方や援助の展開が変化していく様相を明らかにすることができた。
第Ⅰ期-患者に触れて驚きや怖さを感じる
4月から5月にかけて新人看護師たちは、初めて患者の身体に触れ、患者の身体の重さや拘縮、
麻痺などに気づき、驚いた。援助に参加する怖さを感じながらこれまでの練習と臨床実践の違いを
氏 名
:山口 みのり 学 位 の 種 類 :博士(看護学)
学 位 記 番 号 :甲 第44号
学位授与年月日:平成23年 3月16日 学位授与の要件:学位規則第4条第1項該当 論 文 題 目 :新人看護師の看護実践の変化
-体位変換場面を通して-
Changes in Nursing Practice of New Graduate Nurses
:Focused on Patient Positioning 論 文 審 査 委 員 :主査 川 嶋 みどり
副査 守 田 美奈子 副査 濱 田 悦 子 副査 河 口 てる子 副査 鶴 田 恵 子
- 2 - 知った。
第Ⅱ期-先輩看護師とともに援助しながら感覚を覚えて技術習得に励む
先輩看護師とともに援助したときの感覚を覚えながら技術習得に取り組んだ。しかし、最初のう ちは、先輩看護師の力で患者を動かしているように感じたり、焦りが先だってうまく援助ができな かった。
第Ⅲ期-患者の思いを汲み、患者に応じた援助をする
6月以降、援助方法がわかって来たとの手応えを感じ、一人ひとりの患者に触れて状況をとらえ ながら患者の思いを汲むようになった。皮膚を介して患者が暑がっているのではないかとか、患者 が身を委ねてくる重みから患者の身体状況を感じ取って援助を行うようになっていた。
第Ⅳ期-患者に目をむけられず落ち込む
就職後半年が経過した9月頃、業務内容が見渡せるようになった一方で業務をこなす焦りが先立 ち、新人看護師のうち4名は、体位変換時に患者に目が向かなくなり患者とのコミュニケーション が少なくなった。
第Ⅴ期-援助を見つめ直し、患者中心の援助をする
10月から11月になって新人看護師は、これまでの援助をふり返り、患者を中心的存在としてと らえ、患者の状況をより詳細に判断して援助方法を工夫していた。患者とのやりとりを通して患者 を理解し、自分の行った体位変換を患者がどう思っているか、辛い思いをしていないだろうかと考 えるようになった。
【考察】
以上の結果から、新人看護師の看護実践がどのように変化し、そのプロセスの中での身体を介し た知の段階的習得と看護実践の変化について考察する。
A.技術習得の土台となった身体感覚
新人看護師が初めて患者に触れた時、手に伝わってきた感覚は、患者の身体状況を把握するツー ルとして働いていた。拘縮や麻痺の患者にじかに手を触れて感じとった身体の重さや動きの不自由 さに対して、どうしたらいいのかわからないという不安と、技術の未熟からくる怖さを感じたが、
体位変換の手順や先輩看護師の助言により、自ら援助方法への探究につながったといえる。
B.先輩看護師との協働がもたらすリズム形成
1つ1つの動作を考えながら行うために、熟練した先輩看護師とのリズムが合わず、患者の状態 よりも先輩看護師の視線を気にかけながらうまくいかない経験を繰り返していた。先輩看護師は、
新人とともに患者を抱えた時の過度の重さを感じ、「力を入れてね」といった行為に結びつく方法 を指導していた。病棟配属から1ヶ月が経つ頃、力の入れ具合やリズムを先輩看護師の動きを通し て、自身の身体で理解するようになって行く。こうして、先輩看護師との呼吸が合うようになり、
体位変換に一定のリズムが見られるようになると、お互いが役割分担を告げるだけの短い言葉で意 志の疎通が図れ、双方の一体感のある動きが創出されていた。
C.身体を介した患者との関係形成
やがて、自分の働きかけに対して患者が反応したことから、お互いの存在をわかり合い気持ちが 通じ合う感触を得るようになった。研ぎ澄まされた身体感覚に患者の身体状況に関する判断を重ね て、患者の身体と対話する状況が生まれた。患者に触れた皮膚感覚を介して患者の身体状況を感じ 取るようになっていく。
- 3 - D.体位変換技術の身体化
だが、技術習得がすすむにつれて、体位変換の感覚が身体になじんで来ると、特に考えることな く手技自体を行い、技術習得当初のような身体感覚を感じない状態が生じて来た。この一種の慣れ は、患者に触れながら患者が見えず、新人自身が自己の行為を振り返らない状況を生んだ。これは、
日々の繁忙な業務を繰り返しているあいだに疑問を持たなくなるといった構造と共通の問題でも ある。
E.身体を介した知の形成
このように、患者へのまなざしを失いかけたことから生じた不全感を、新人同士が悩みとして話 し合う過程で、臨床に出たはじめの頃に先輩看護師に言われたことを思い出し、現在の実践場面と 照合しながら、身についた体位変換技術を見直していた。新人看護師は、この時点で獲得していた 身体知、つまり、パターン化していた体位変換をふり返り、体位変換においてとらえた自分に向け られた感覚を、患者と先輩看護師の三者の身体相互性をそなえた感覚へと質的に変化させていった のである。新人看護師の身体知は、身体感覚を土台に生み出され、先輩看護師や患者との関係性を 構築することによって、言葉による知識と身体知がらせん状の構造をなしていたといえる。こうし て、患者に触れ、患者を身体感覚でとらえることは、身体知の基盤形成として重要な役割を果たし ていたと考えられる。
論文審査の結果の要旨
新人看護師の臨床現場への適応を促すために、かれらが自信を持って実際の看護場面における看 護技術を実践できる能力を身につけさせる意義は極めて大きいといえる。本研究は、4月に入職し た新人たちが、現場でどのように技術を習得していくかを、日常的に頻度の高い体位変換技術を通 して明らかにしようとした。体位変換技術は、道具を用いず看護師の身体を介した技術の1つであ り、この看護行為に含まれる患者との身体接触は、非言語的コミュニケーションの手段ともなる。
研究者は、経験未熟な新人看護師が、自己の身体を介して患者を理解しながら、援助的人間関係を 創り上げていくのではないかとの問題意識を持って本研究に取り組んだ。研究参加に同意した5名 の新人看護師と、かれらを指導しながらともに体位変換を行う先輩看護師とのやりとり、ならびに 援助の対象となった患者との相互作用などを、特にそのためにしつらえた環境ではなく、ありのま まの現場で参加観察をした意義は大きいと評価された。
結果では、5人の新人看護師たちの入職当初から約8ヶ月間の看護実践の変化を5期に分けて記 述したが、新人看護師の目線と思いが行為にどのように連なるかをリアルに記述できた。
考察では、新人看護師が自らの身体を介して体位変換技術を習得していく過程での、対患者、対 先輩看護師との関係を通しての変化の様相から、最初の患者に触れて感じた驚きや不安と怖さが、
必ずしも看護実践の妨げになるというよりも技術習得の推進力につながったとしている。また、先 輩看護師の視線を意識しつつ自分で行っている感じが持てない経験から、やがて呼吸が合いリズム が形成されて両者の一体感を通じて「わかった」と言う身体感覚をつかみ、さらに、この身体感覚
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が患者を把握するツールになって、患者の身体から発せられたメッセージを受けとめることになる。
だが、技術習得過程は平坦ではない。身体化された技術に慣れて来ると、早く行うことへの焦りか ら、患者の身体状況や訴えに目が向かなくなる時期がある。新人看護師らはこの不全感を新人同士 で語り合い、自分中心に考えていた体位変換技術を患者と先輩看護師と自分の三者の関係によって 編み出される技術であると気づき理解していくのである。
この新人看護師の身体を介して得た知の形成と、患者、先輩看護師、そして新人看護師三者の関 係性構築によって創られていく体位変換技術習得のプロセスを明らかにしたことは、本研究のオリ ジナリティであると評価した。
博士学位論文審査専門委員会では、審査の結果、本論文を学位規程第3条により、博士(看護学)
の学位論文として相応しい水準にあると認め「合格」と判定した。