研 究 題 目 三陸沿岸 に生息す る海 藻 由来 の疾病 の予防や治療 に有効 な物質 の探索 研究代表者 氏 名 (所属 ・職名 )
研 究 者
(所 属 ・職 )
木村 賢 共同研 究者 氏 名 難波 信 宮川 都 越 野 広
一由吉雪
(岩 手大学農 学部 ・准教授) (所属 ・職名 )
(北里大学海洋生命科学部 ・准教授) (広 島大学 ・名誉教授)
(理化学研 究所 ・チー ム‑ ツ ド) 電 話 :
01 9‑621 ‑61 24 FAX :01 9‑621 ‑61 24
メール :ki murak@i wate ‑u. ac. jp
URL
:研究 目的 三陸治産 に生息す る、特 に未利用 の海 藻類 か ら、人 間の各種疾病 に対 して予防や治療効 果 を有す る、構造や活性 において新 しい低分子機 能性物質 (バイオプ ローブ) を探索 し、そ の単離 精製 、構造決定、並びに作用 メカニズムの解析 を行 ない、特許 申請 の後企業 と共 に開発 の可能性 を 探 る。
研究結果の概要
1
背景及 び課題 ・ニーズ等世界 中の製薬企業 は、多 くの医薬 品の特許 が切れ る
201 0
年 間題 を抱 え、医薬 品の基 となるユニ ー クなシーズ を欲 してい る状況 にあ る。 また、漁業 関係者 において、 ウニ による海藻 の大量摂食 なども問題 となってい る。一方 、大船渡市 を含 む三陸沿岸 は海藻類 の宝庫 で あるが、多 くの食せ ない 海藻類 は名前 も知 られず に未利 用のままで ある。
2006
年〜2008
年度 の3
年 間に渡 る大船渡市 と岩手大学 との共 同研 究(
「循環型 沿岸地域社会 の 構築 に向けた大学 ・し地域連携促進事業」)において、本研 究代表者 は、 ミツデ ソゾ とい う海藻 にユニー クな
ca 2
+シグナル伝達 阻害活性 (資料(》 ・②) を見 出 し、平成21
年度 の本基金 に採択 され研 究 を行 ってい る。2
研究計画の実施状況本研 究 申請 時の研 究計画の以下の
1‑6
の項 目について、昨年10
月 に採択 が決定 され て研 究 を開 始 した割 には、全ての項 目の研 究が実施 で きた。1.
ミツデ ソゾの大量採取 とそれ以外 の海 藻 を収集す る項 目では、 ミツデ ソゾ約500g
の採 取 と、3
種類 の海 藻 (紅藻類 :G、褐藻類 :N、緑藻類 :o)を採取 した。2.収集 した海 藻 の凍結 乾燥 を行 ない、重量 を測定の後 メタノール抽 出を行 な う項 目で は、 ミツデ
ソゾは活性物質 の精製 のためのサ ンプル とし、3
種類 の海藻 はス ク リーニ ング用 のサ ンプル と して調整 した。3.調整 した 1 0mg/ml
のサ ンプル溶液 を、Ca2
+シグナル伝達系 の遺伝子変異酵母 を用 いたア ッセイ 系 を中心 に評価す る項 目では、大量 に採取 した ミツデ ソゾ と3
種 の海藻 の活性 を測定 した。4.ミツデ ソゾか ら活性物質 を単離精製す る とい う項 目では、HPLCで
4
成分 が単離精製 で きた。5.得 られた活性物質 の機器分析 を行 な う項 目では、4成分 の うち、量が多かった一成分の NMRと MS分析 を行 なった。
6.
ミツデ ソゾの養殖 の可能性 を検討す るでは、3回検討 し、3回 目に増殖が認 め られ た。三陸総合研究 第3
5
号事 業展 開の見通 し
実質 半年 余 りの期 間の研 究 にお いて、Ca
2 +
シ グナル伝 達 に関わ る遺伝 子変異酵母 (様 々な疾病 に 関わ る病気 の酵母) に対 して活性 を示す活性成 分 が少 な くとも4
成分 単離 で き、その機器 分析 にお いて大 まかな推 定構 造 が明 らか とな った こ とは大 きな進展 であ る。 これ に よ り、具体 的 な 目に見 え る物質 にお いて、Ca2
+シ グナル伝 達 阻害活性 とい う新 た な活性 を有す るこ とが示 唆 され た。 また、他 に調 べ た海 藻
( G
とN))
か らも同様 の活性 が見 出 され た こ とか ら、そ の成 分 が ミツデ ソゾの活悼 物質 と比較す る こ とで、 さ らに別 の成 分 の発 見‑ と繋 が ってい くこ とが予想 され る. また、,ミツデ ソゾの養殖 実験 を3
回行 ない 、最初 の2
回 は うま くい か なか った が、3回 目で成長 が認 め られ た こ とか ら、次年度 が楽 しみ で ある。 この よ うに今年 度 の研 究 は、信 じられ ない くらい の順調 な滑 り出 しで あったので、 あ と1
年 間 も同様 に推進 してい きたい。期待 され る効 果
食せ る海藻 由来 の機 能性物 質 の場合 は、それ を生 か した機 能性 を有す る食 品加 工や サ プ リメ ン ト として、食せ ない未利 用 の海 藻 由来 の機 能性 物質 の場 合 は、医薬 品や そ の母核 として利 用 で き る。
ミツデ ソゾの場合 は後者 であ るが、玄界灘 の方 で も現在 問題 にな ってい る、キタムラサ キ ウニ の摂 食 阻害物質 と しての可能性 もあ るので、そ の両面 か らの事 業化 を考 えてい きたい。
本研 究 によ り機 能性 物質 の構 造 と活性 が決 まれ ば、 ほぼ
1 00%特許 にな るた め、知 的財 産 と して
その もの 自体 の売却 も可能 で あ る し、製 品販売後 の ロイ ヤ リテ ィー契約 も可能 とな る。 しか し、医 薬 品の開発 には時 間 とお金 がか か り、 リス クが大 きい こ とか ら、Ca2
+シ グナル伝 琶 阻害活性 と摂食ヽ 阻害活性 とが結 びつ けば、そ ち らの利 用 が早期 に可能 で あ る と思 われ る。 さ らに、特許 とな る事実 や学会発 表 に よる全 国、並 び に海 外‑ の発信 に よ り、間接 的 に三 陸沿岸 の注 目度 が高ま り、従来 の 製 品の販 売量や観 光客 の増加 につ なが り地域 の活性化 ‑結 びつ くこ とが期待 で き る。研究成果の達成状況
研 究計画 の実施状況 で記載 した よ うに、平成
21
年 度 の研 究計画 の1‑6
項 目は、半年 とい う研 究 機 関 と1 00
万 円 とい う研 究資金 を鑑 み る とき、予想 以上 の達成 状況で あ る と客観 的 に判 断で き る。具体 的 には以 下 の通 りで あ る。
1. ミツデ ソゾ約
500gと、3
種類 の海 藻 (紅藻類:G
、褐 藻類:N
、緑藻類 :o)
を採 取 した。2.
ミツデ ソゾは活性 物 質精製 のた めのサ ンプル とす るた め、生 の ミツデ ソゾ( 568.3g)⇒凍結
乾燥( 55.55g)⇒ メ タ ノール抽 出 ( 20.08g)
を行 った。 また3
種類 の海 藻 は、少量 を上記 と 同 じ処理 に付 し、1 00mg/ml
の濃度 に調整 してス ク リー ニ ング用 のサ ンプル と した。3.大量 に採 取 した ミツデ ソゾ と 3
種 の海 藻 の活性 を測 定 した ところ、 ミツデ ソゾには活性 の再現 性 が認 め られ (資料③ )、新 た にGと Nに も活性 を見 出 した (
資料④ )04.
ミツデ ソゾか らの活性物質 を、 2.
のサ ンプル を用 い、 さ らに‑ キサ ン抽 出( 2.30g)⇒ 一部 ( 0.4g)を用い て条件 検討⇒TLC
分離 (‑ キサ ン :酢酸 エチル ‑3:1、Rf=0.62)(85.4mg)
⇒ HPLCでの分離⇒活性 を有す る 4成 分 を得 た (資料 ⑤ )05.得 られ た活性物質 の うち、量 が多 かった一成 分 のNMRとMS分析 を行 なった。
6.
ミツデ ソゾの養 殖 の可能性 を検討す るため3
回実験 を行 ない、3
回 目に増殖 が認 め られ たた め 現在 も継 続 して観 察 中で あ る (資料⑥)0民間企業で このよ うな探索研究 に携 わっていた者 として、実用化 が達成できれ ば、必ず利益率が 高い産業 となる。 しか し、何 が見出 され るかわか らない リスク と同時に夢 のある研究であるため、
収支や将来性 において、現時点では完全な計画や計算が立たない領域 の研 究 と言わ ざるを得 ない。
しか し、そのよ うな研 究か ら、現実的には 日本人が生み出 した医薬 品のプラバ スタチ ン (コレステ ロール合成阻害剤 :脂質異常症の薬)や
FK506
(カル シニュー リン阻害 :臓器移植 時の免疫抑制剤 、 ア トピー性皮膚炎の薬)が、 1000
億 円以上 を売 り上げるノーベル賞級 の世界的な製 品 (ブ ロックバ スター) となった。 また、食 品ではカル ピスのア ミールS
やサ ン トリーのセサ ミンな どが100
億 円 規模 の食 品 とな り、それ らの成功例 が本 申請研究の理想 的な結果 である。本研 究が成功 した結果、三陸地域 には、
1.これ まで捨て られていた海藻か ら医薬 品の種 な どを単離す る技術 を、三陸沿岸の会社 に技術移 転す ることによ り、大手製薬会社の委託養殖や委託製造が行 え、会社 の収益 向上 につながる。
2.これ まで採取 していた海藻 を、今回見 出 され た新 たな利用法 に応 じて計画栽培す ることで、三
陸沿岸 の漁業関係者 の収益 向上 につながる。3.特許 申請、学会発表、英語論文発表、マス コ ミな どによ り三陸地域 が有名 にな り、間接的に三
陸地域 の他 の商品の売 り上げ増加や観 光客の増加‑ と結びつ き、住民 も元気 になって くれ ると 思われ る。(3
か ら1
‑ と難易度が高 くなる)考 察
1.遺伝子変異酵母 の
Ca 2
+シグナル伝達阻害活性 で得 られた活性物質 の構造が、新規か既知か ?2.Ca 2
+シグナル伝達阻害活性 の どこが作用点で、その結果 どんな病気 に有効 な可能性 があるか ?3. Ca 2
+シグナル伝達阻害活性 とウニの摂食阻害活性 との関係 があるか ?4.単離 された物質 に、実際に ウニの摂食 阻害活性 があるか ?
5. Ca 2
+シグナル伝達阻害活性 が認 め られた他 の海藻 と、 ミツデ ソゾの活性物質 は同一か否か ?6.
養殖 によ り増殖 した ミツデ ソゾの活性や活性物質 は、天然 の もの と同一か否か ?これ らの具体的な疑問点を一つ一つ本研究 によ り解決 してい くことで、三陸地域の海藻類の新 た な利用‑ と結びつ くもの と考 えてい る。
備 考
特許 の可能性 、研究論文、並びに学会発表 な どは、平成
22
年度 の継続研究期 間に答 えを出 した い と考 えています。三陸総合研究 第
3 5
号(丑遺伝子変異酵母株 における
Ca 2 +
シグナル伝達経路と各種疾病との関係第3回農芸化学研究企画賞受賞
( 2 006
年)「
ca
2+シグナル伝達 に関わる遺 伝子変異酵母を用いたスクリーニングと活性物質の医薬 晶への活用」
<活性型 >
( J. Ant i bi ot . ,61:4961502( 2008) より引用)
酵母増殖
②遺伝子変異酵母を利用したCa
2+
シグナル伝達阻害物質のスクリーニング SocchoromycescerevisJ'o e
培地
c a
Z+千増殖停止
( G2 期停止 )
増殖能回復 ( M 期進行)
遺伝子変異酵母 (zdsIAerg3Apdrl/3A)
0. 3MCa
Cl2/YPD
培地1
天然資源メタノール抽 出物を 染み込ませたペーパーディス
28
℃、3
日間培養本スクリーニングにおける各種分子標的薬剤による増殖能の回復 (表現型)
① 〜
順番 に薬剤濃度1
/2
希釈( J. Anti bi ot.61:496‑502( 2008) より引用)
天然資源 :海藻
サンプル1 300mM CaC12
0 mMCa C1 2
〔
J Lg/ d m 〕 生育円【 mm
〕 阻止円〔J nm 〕生育円〔 mm〕阻止円〔 nm〕
1
800 165 11. 5
2
400 132 1 0. 9
3
200 1 22
4
1 0 0 115
5
50 1 03
6
25 98
1 2 . 5 1 04 l l . 2 99
7 ( .. . F i : 5 g O /
宝鑑,207
Ca 2 ' 依存的な活性が 2 5J L g / di s c まで確証できた。
④様 々な海藻類の遺伝子変異酵母に対する生育円活性
レiiZプンサ
O
Nー つ」 3 4 5 6 7 8 A B C D E F G H
FK506182
1 9 0 11 1 2 1 3 1 4 1 5
I J
KLMN0 76 3 1
一ー⁚0 8 一 3 . 一
zds I Aerq3
ADdr l/3
A、 YPDAqar + 03MCaC
L2、28oC、3 日間培
いずれも400L L g / di s c
三陸総合研究 第
3 5
号⑤ミツデソゾからの活性物質の性質とその単離精製
ミツデソゾ(2009.07.15、泊沖 )583.30g t 凍結乾燥
55.55g
I
メタ ノろ過、エバポレーションール抽
出 20.80g1
酢酸エチル抽出
2.30g(100mg/mHこ調 製 )
1
ミツデソゾメタノール抽出物の
3
次スクリーニングサンプル量
: 400〟g / d i s c
0.4g
の み 予 備 精 製
TLC (溶媒条件 ヘキサン:酢酸エチル‑3:1) Rf=0.62
85.4mg
J
HPLCで分析と分取 (70% MeOH)
単離 した‑ 成分 の
HPL C
分析 カラム: SHⅠ SEⅠ DOCAPSEL L PAKC1 8 4 . 6 mm) . D. ×1 5 0 mm
、溶媒: 7 0%Me OH
、⑥ミツデソゾの養殖試験
養殖実験3 材料および方法
*藻体は越薯来清見沢沖の養殖 ロープか ら採取 期 間 :2009年12月4日一一継続中 場 所 :越喜来湾鬼沢沖 (表層)
測定項 目 :藻体 (生残率,藻長,湿重量,比生長率)
養殖実験
3
結果 (継続中)藻 体
期間 生残率 藻長 藻長 の比生長率 藻体湿重量 (日)
( %)
(cm) (% 日‑1)( g)
0 6. 1士2. 0 ( 57) 0, 94
土0. 52( 57) 60 77. 2
士13. 2( 3) 7. 8
土4. 9 ( 44) 0
.4土0. 3 ( 3)
平均値 士標準偏差 (個数)で示す
生残 :高
生長 :わずかであるが生長